● もし、彼女がそれを己の正義のためとして使っていて 彼が正義のためとそれを壊したとしよう 己の正義を貫けなくなってしまった彼女は、彼へ一体どうするのだろうか その時、彼は一体どうするのだろうか ――同じ選ばれし者として、私と仲良くしましょう? ――い、いやだ……! 公園に吹き荒れる風は重く冷たく、揺れる木々の葉音さえその耳に聞こえる。 今宵もまたリベリスタを殺すのは、フィクサード御金 朔。 逃げ惑う羊は美味しそうに腰を振り、少しでも生きる時間を伸ばそうともがいていた。 「なーによう、もう戦う気ゼロ? まあ、いいのよその身体を私に切らしてくれればねぇー」 血の着いた赤黒い刀を愛おしそうに舐めた朔をみたリベリスタは、押し寄せる恐怖に足が縺れて転ぶ。 頭上を見上げれば、逃がすまいと朔がヒールの高い靴で胴を踏もうとしていて。 「下から少しずつ切っていきましょうか」 それはまるで机の上に止まっていたハエを、シャーペンで解体していく様。 ● 「例えばゲームのボスまで、勇者様がたどり着きました」 ブリーフィングルームの椅子へと腰を掛けている『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は両手でコントローラを握っているような形をしてみせた。親指の動く様は、コントローラーのボタンを押しているようだ。 「けれども、ボスには勇者からの攻撃を防ぐ盾がありました」 杏里はすぐに手の形を辞めて、椅子から立ち上がった。その瞳はリベリスタ達の方向へ向く。 「貴方達はどうしますか?」 なんてね、と最後に付け加えた杏里は手元の資料を配り始める。 「こんにちは、皆さん! 今回の敵はフィクサードです」 1度は万華鏡で捕えた事もあるフィクサードが、再びその姿を万華鏡に映した。以前も以前で風変わりに狂ってはいたが、それは度を増しており、リベリスタもフィクサードも見分けがつかないほどになっている様だ。 「アーティファクト、迷夢の爪の依存性は強いです。それをもう数週間は握っているのでしょう。言うなれば、依存症を通り越して身体の一部か、はたまた己自身か……」 今回もそれの破壊が今回の目的。 「場所は映像にもあったように、夜の公園です。残念ながら彼等を救う事は叶いません」 彼がそこで時間を稼いでくれていなければ、アークのリベリスタは到着しても御金朔はまた別の場所へ消えてしまう。 「ひとつの悪を倒すのには必要な犠牲も。恨むなら発見の遅れた杏里を恨んでくださいませ」 杏里の顔はこの上なく強ばっていて、身体は震えていた。 来るべき運命に時間は待ってはくれない。急いで準備を始めたリベリスタが出口へと向かう。 「それでは皆様、救い無き彼女へ正義の鉄槌を」 杏里はリベリスタ達へ深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月02日(金)23:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ひとつの悲劇で最後にしよう 「あはっ、なーに? もう壊れちゃったの?」 フィクサード、御金朔が目の前の獲物にアーティファクトを突き刺せば、それは二度と動くことは無くなった。 用の無くなった彼女はその場から去ろうと足を動かすのが見える。だが逃がす訳には行かない。 素早く現場に着いたリベリスタ達が朔を包囲する。 囲いの中心にいる朔は回りを一周見回した。覚えている顔もいれば、そうでないのも居る。アークのリベリスタが来たという事は一瞬にして悟った。 「まったく死体の処理をする身になってもらいたいわ」 「大丈夫よ。処理される側になるんだから」 『回復狂』メアリ・ラングストン(BNE000075)が今しがた作れられた死体を見た。切り刻まれ、未だにその血が流れ続けては、公園の砂の中へと吸い込まれていく。全くもって野蛮なフィクサードだ。しかし、それも此処までで終わらせてみせる。 朔の逃げられない包囲を作ったリベリスタ達が、各々の武器を取り出していく。その間にも朔からは目を離さず。 『薄明』東雲 未明(BNE000340)が続いて朔へと話しかける。 「こんばんは。初対面だけど貴女の話は聞いてるわ、今夜も例の問答から始める?」 「ふふ、いいわよ?」 もう話している暇さえ惜しい。 1度顔を合わせた組織のリベリスタ。問うたとしても答えなんて分かりきっている。ならば朔はその場から去り、再び新しい獲物を探しに他の場所へと向いたい。 けれど彼女の譲れないセオリーとしてその答えを求める。 「問うわ。同じものに愛された者同士、仲良くしましょう?」 2回目のその問いを耳に聞いた『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)がハイスピードを発動させた。 じりじりと朔へと近づく。 身の丈よりも大きいかもしれない彼女の剣。取り出したバスターソードの剣先は地面の砂を分けては軌跡を描く。 「答えなんて……わかりきっているはず……そうでしょう?」 「ふふ、悲しいわね。心変わりしてもいいくらいよ。期待してないけどね!?」 朔の迷夢の爪が唸る。 リンシードの身体へと死の刻印が刻まれ、猛毒が前進を走った。 「一切の容赦も優しさもありません。此処でその命、散らせます」 『粉砕メイド』三島・五月(BNE002662)が拳を前に、朔の胴を狙う。 ひと言仲良くしようと朔に言えば何が起きるというのか。嘘であろうと、同族と思われるのは虫酸が走る。 完全で完璧で還付無きまでに悪は潰す。 その意思は拳に伝わり、リンシードを襲い終わった朔の背を擦る。 「……ァはあっ!!」 普通ならば多少眉が動くだけでも、感覚に反応する。だが朔は違った。 例え小さな傷であろうと、その顔は笑顔に歪む。 「それそれぇ! いいね、いーっねえ!! それよそれええ!!」 迷夢の爪が赤黒く光り、朔へ加護を送る。それに依存し、のめり込み、手放せない大切なアーティファクトの持つ手が一層強まる。 「報告書通りの、気持ち悪い奴じゃのぅ……」 思わずメアリがそう口から零す。死体を後ろへと下げ、戦闘の邪魔にならないように。 「間に合わへんくてごめんな……今、自分らの仇討ったるからな」 その姿を目に入れながら『イエローシグナル』依代 椿(BNE000728)が呟く。 煙草を口へと持っていく。喫煙することは彼女にとって戦闘のオンオフのスイッチなのだろう。 それに火を点け、扇を広げ、コンセントレーションを発動した。 確かに人それぞれ思うことや考えていることは違うだろう。しかしそれがかみ合わないことだって。 だから今回だって―― 「……いや、議論しに来たんやあらへん。今は目の前の敵を止めるために此処にいるんや」 煙は天へと消える。 これ以上、彼女の手による犠牲者を増やさないためにも、立ち止まる訳にはいかない。 「前回は不覚を取ったが今回は対策を立てさせてもらった。2度目はない。覚悟しろ」 「ふん、また地面につっ伏すのがお似合いよぉ」 『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)がコンセントレーションを発動させながら言う。 彼は彼なりの譲れない所を持っている。それを証明しに此処へ来た。 「リベンジじゃない、リトライッ! 今に見てなさい! 今度こそ終わらせてあげるから!」 『断罪の神翼』東雲 聖(BNE000826)が辺りに結界を貼りながら、朔へと元気にビシッと指をさした。 そしてお馴染みのオートマチックをその手に。 「そう、今度こそ……!!」 聖の手前に立っている『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)は爆砕戦気を発動させる。 無言であっても迸る戦気は爆風となり、辺りの砂を飛ばす。 頭にちらつくのは、ブリーフィングルームに残った1人の少女。いつも泣きそうな顔でリベリスタを送り出す彼女。 ――大丈夫だ、杏里は悪くねえよ。 そう言って頭を撫でたその手は、AFから解放されたGazaniaを空中で掴む。 ●溢れて落ちて飛び散って 達哉がすぐに行動し出す。鳴り響く音達の中心で達哉がショルダーキーボードへ指を躍らせる。 今日この日のために調整したキーボードの音。それによって構成された無数の光りの塊から気糸が飛び出す。 「とっておきの演奏だ。最後まで楽しむと良い」 ――選ばれた者同士仲良くしましょう? 達哉の頭の中でその質問が響いた。だがそれよりも強く頭にちらつくのは娘の笑顔。 朔の崩壊と娘の安全への第1歩は、朔の身体を打ち抜く。 それは何本も何本も連なり、本来複数を攻撃するそれが、朔1人へと雨の様に降り注いだ。 何本はか朔の身体を貫き、何本かはアーティファクト自体を貫く。 「あははぁっ! いいねえ、貴方はほんっとにイイわあぁ!!」 貫き、快感に悶える朔。その姿に達哉の右目の下がピクリと動く。なんとしてでも、彼女は止める。 朔のダンシングリッパーには一歩遅かったが、椿が仲間へと守護結界を張った。そして次から攻撃へと体勢を変える。 つい今、ピンポイント・スペシャリティによって再び迷夢の爪が赤い光を帯びた。 「あれで身体の硬さが上がったみたいやな」 「みたいじゃのう、めんどくさい奴じゃて」 椿がそれを確認し、それにメアリが頷いた。 ついでにメアリがダンシングリッパーで傷ついた仲間達へ天使の歌を奏でる。 「さっさと片付ければ問題無しじゃ。治して欲しい奴は前へ出ろォ! 反撃じゃて!!」 メアリのひと言がトリガーか。 次からリベリスタの猛攻撃が始まる。 「……言われなくとも。準備は整いました」 やはり最初にはリンシードが動く。それを目にした朔が呟いた。 「ふふ、憎たらしい程の速さよね」 「ありがとうございます。前回は遅れを取りましたが、今回は……覚悟してください」 ハイスピードで強化された足で朔へと飛び込む。幻影をその身体に纏わせて朔の目を惑わし……集中を重ね、頭の中でイメージした通りに動き、剣は見事に朔の防御を貫通し射貫く。 朔とリンシードは間近。視線と共に言葉が飛び交う。 「何故、先日私達を殺さなかったのですか?」 「ふふ、考え直して、恐怖と畏怖に私の下へ寝返るかと期待したんだけど……駄目だったみたいねぇ」 すぐに朔はリンシードを離れ、迷夢の爪を振り上げる。 再びのダンシングリッパー。ここまでは先と同じだが、それに加えてギャロッププレイが飛び出す。 「貴方、ちょっと厄介よねぇ?」 飛び出した気糸が伸び、絡まり縛り上げたのは五月。 「なっ!? ……くっ」 気糸が身体の自由を奪う。バランスを崩した五月はそのまま地面へと倒れた。 「ふふ、それはなかなかいい眺めねぇ。顔の綺麗な男子は好みよ」 確かに五月も厄介。だが朔の本当の狙いはその後ろに居る――メアリ。目と目が合った瞬間、メアリが少しだけ後ろへ引いた。 「まあセオリーよね。この戦い方は、さ」 「させる訳あらへんやろ?」 すぐに椿が魔弾を放つ。 放たれたそれは光りを帯びて軌跡を描きつつも、朔の首を掠った。 「厄介やなあ」 「ふふ、飽くまでも貴方達よりは経験を重ねてるもの」 椿が少し不機嫌な顔をしながらも言った。その椿の後ろから達哉のピンポイントスペシャリティが飛ぶ。それに続いていく様に聖の1$シュート。 幾重の気糸の中に紛れつつも、聖の光弾は確実に迷夢の爪を射貫く。迷夢の爪が、何か音をたてた。 それとは逆に朔は余裕を持っていた。迷夢の爪の効果による絶大な勝利への確信。 だからこそか、その横からジースの攻撃が飛んでくることに気付かなかった。 「それが……なんだッ!!」 武器を握り締める手からミシミシと音が鳴った。 「For the way――」 その言葉と共に半身を後ろへと引き、同時に武器を背中へと隠すように横に振りかぶる。 ジースの精神力がスキルへと変換される。その溢れる闘士が足元から風となって周囲に吹き渡った。 「Burning!!!」 振りかぶった斧槍を野球の如く振り切れば、そこから真空波が生まれ朔へと飛んでいく。 「なっ!?」 ジースの声に振り向いた朔が焦りながらも、飛んできたカマイタチから身を捻らせて回避した。 だがそれは朔を狙ったものでは、無い。確実に切り裂いたのはアーティファクト、迷夢の爪の方。その耐久を確実にすり減らしていく。 朔の気糸から抜け出した五月が、今一度走り始める。 彼女にとって彼は脅威の存在だった。迷夢の爪の加護さえ通り抜けては、攻撃の威力を貫通させてくる。 貰ったダンシングリッパーにより、身体から血が流れ続けるものの、その足は止まらない。 「迷夢の爪……確かに凶悪なアーティファクトです」 だが、五月はそんなことどうでも良かった。一番譲れないのは、外道なフィクサードが蔓延っている事。 一度後ろへ振り上げたその拳を前へと放ち、朔の胴を狙い、集中を重ねた拳はその胴を見事に当てた。 「ガッは!? あ、ああはっ、すごぉいい!!」 「すぐに昇天させてあげます」 それは朔にとって一番愉快な快楽となって全身に響いたが、ダメージは確実にその身体に蓄積されていく。 その後に未明が続いた。 「さっきの質問の答えだけど」 跳躍した未明が、朔を頭上から攻める。 朔が先程言っていた質問の答え。それは朔はきっと分かりきっているが再び言葉として素直に伝える。 朔の身体には未明から流れる血が降り注ぎつつも、同時にソードエアリアルが放たれた。 「貴女と私じゃ見解が違いすぎて、駄目ね」 振り落とされるバスターソードが朔へと迸った。 「――結論的に言えば、私は貴女のこと嫌いだから根本的に無理よ」 攻撃を浴びながらも、朔の舌打ちする音だけが未明と五月の耳には届いていた。 ●崩れちっては飛び散って 朔はあまり感じてはいないだろうが、攻撃が迷夢の爪を貫く度に内部から崩壊が始まっていた。外見的にはいたって普通の剣であり武器であることには変わりは無いのだが、それはアーティファクトである事もまた事実。 それと比例する様にだったが、リベリスタの体力もすり減っていく。 「もう少しじゃて、頑張るのじゃ!」 メアリが何度目かの天使の歌を奏でる。それは確実に仲間の傷を塞いでいった。 「なんだか……いたちごっこよね?」 そう思っていたのは朔だけであろうが、確かに戦況は同じ。メアリが倒れるのが早いか、それとも……。 飽きに飽きた朔はその場から離れたいが一心。 ――けれど、終わりへのカウントダウンは既に始まっていた。 朔が足を動かしたが、その道をリンシードが塞ぐ。 「それを持って逃げるのだけは……許しません」 「邪魔よ、めんどくさい子達よねぇ!?」 リンシードの幻影剣と、朔のギャロッププレイが交差した。 お互いがお互いの武器を身体で止めた瞬間、リンシードの身体からフェイトの加護が煌めいた。 「あと……少し……」 リンシードの身体はじりじりと後ろへ追いやられる。だが、食い込む迷夢の爪にを身体で止めながらも仲間へと言う。 「あと、少しです……早く、壊してあげてください!」 頷いた仲間達が走り出す。 「殺すつもりで、本気です」 五月が振り上げた拳を朔へと放つ。悪は絶対に許し難い存在。 その拳は朔には掠って外れてしまったが、その朔の逃げた方向で未明が構える。 「貴女の相手よりその武器の破壊の方が重要だって言いつかってるの」 「ハッ、これを壊す? ばっかじゃ……!?」 未明の集中を重ねたソードエアリアルが、迷夢の爪へと響いた。その瞬間にアーティファクトが音をたててヒビが入る。 「な、え!? そんな……!?」 快楽に酔っていたものの、それも覚める勢いだっただろうか。驚いた朔が素早くその場から逃げようとする。だが―― 「仇討ったるって、約束したんよね。だから、逃がさへん……!」 椿がラヴ&ピースメーカを構え、放たれた弾丸から呪印封縛が発動。それは呪いの如く朔を飲み込み、行動を完全に静止させた。 「さて、もう何処にも行けへんで?」 「こ、のぉおお!!!?」 呪縛の中で朔は暴れたが、どうする事もできず。依存から迷夢の爪を放すこともできない。 聖がオートマチックを構え、トリガーを引く。 「こちらの勝ち、という事だ!」 放つ最後の1$シュート。 向かう光弾は確実に迷夢の爪を貫く。迷夢の爪は朔の手から弾け飛び、空中で分解して壊れていった。 ●消えた何かは取り戻せず 「そんな、そんな、私は選ばれた、運命に……爪、迷夢の爪が、ぁぁあっ!?」 地面へと崩れ落ちた朔が、虚ろな目でリベリスタを見上げた。 それまで迷夢の爪の効果によって快感変換されていた痛みが、本来の意味と成して全身に電撃の様に走った。 「い、痛ッ!? そ、そんな!?」 「これが痛みじゃー!!」 メアリが追い打ちをかける様にエアガンで朔の身体に弾を放った。 「ま、まだ、まだあ……うあああ!!」 確実に近づく死の文字。それは迷夢の爪が破壊された時点で確定したか。恐怖に怯えて走り始める。 だが、無防備な彼女はジースに捕まった。 朔が走り出したと同時にジースも走り出し、その腕を掴んで引き寄せ、羽交い締めにする。 ジースもひとつの約束があった。フォーチュナの少女に倒してくるからと言い、笑顔で戦場へと赴いた。その約束は何としてでも守りたい。 帰って無事であることをいち早く伝えたい。 「もう、あの子に胸糞悪い光景、見せたくねーんだ!!」 無意識に強まる力は朔を高速し、逃がさない。 「頼みのアーティファクトはもう無いわよ、諦めなさい」 「これが背負う物の差だ。娘のために僕は未来を作る義務と責任がある」 最後に未明が剣を朔へと一閃し、達哉が放ったピンポイントスペシャリティがその命火を完全に穿つ――。 痛みの分からない彼女に、世界は運命の加護を許さなかった。 最後の犠牲者へ各々が追悼の意を表し、そして帰るべき場所へと帰っていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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