「じゃーん♪ どうですか?」 アトリエを覗いたキミは「いらっしゃいませー」と出迎えるあるとの格好がまったく違うのに気がついた。 竜胆色の深みある和布には透かしの蝶。襟元にはお嬢様フリル。黒の帯で引き締めて、紅葉を象った飾りは瞳と同じ色――いわゆる『和ゴス』って奴だ。 丈はいつものショートパンツと同じぐらい、更に今日は黒のニーソで絶対領域。 ちょこなんと履いた下駄は、歩くたびにりん鈴が鳴く。 トドメは橙カボチャの不気味可愛い帽子とポシェット。それが辛うじて『ハロウィン』だと現わしている。 「えへへー。ハロウィンが近いせいか『ステラ』にくるお客さんがお洒落で羨ましくって……僕も頑張ってみました!」 でもでも、と頭の帽子を両手でおろし彼は続ける。 「これはお客さんからいただいたんですよ。キモカワっていうんですか? いいですよねー」 よくよく見るとこれ手作りだ。縫い目も粗くそれが不気味さを加速させている。 ――しかし手作りの品をもらうとは隅に置けませんな。 そうキミがからかったら、こんな台詞が返ってきた。 「お写真撮ってる時に『わー、不気味でハロウィンにぴったりですねー』って言ったら……」 ハロウィンはざっくり言ったらお化けの日、まぁ正しい……のか? 「なんか黙り込んだあと、押しつけるようにくれたんですよ」 どうやら天然のいらんこといいが発動してゲットしたらしいぞ、ロクでもないな。そのお客さんが涙目じゃなかったかが心配だ。 「ま、そんなことは脇によけて」 よけた。 「パーティしましょうよ、はろうぃんぱーてぃ♪ 皆さんだって、せっかくのハロウィンのお洒落、見せびらかしたいでしょー?」 と、見せびらかしたい盛りの少年は、キミに1枚の紙を手渡す。 ぶさかわクレヨンタッチの南瓜ランタンが示すは、三高平市の郊外で催される夜会のお誘い。 ・ドレスコード:ハロウィンの仮装 ・内容:ご自由にご歓談下さい ・食べ物飲み物持ち込み自由です。ただし未成年の飲酒喫煙は絶対ダメ! 仲良しさんと固まってでもこれを機会に知らない人と交流もご自由にどうぞ。 トリックオアトリート! とか、思う様おどかしてまわるもよし、驚きつつお菓子を握らせても良し。 「僕は色んなテーブルを廻ってお菓子を配ろうかなって思ってます♪ 手作りです、頑張りますよ?」 お味は当日のお楽しみ。 息するように余計なことも言いはするが、基本沢山の人と話すのが好きなあるとである。 もちろん、大切な時間を過ごす人達に割り入って邪魔する気は毛頭無い。好むままに過ごして欲しいとも添えた。 「当日は、これが皆さんを照らします」 あるとは入り口に飾ってあったカボチャのジャック・オ・ランタンを抱えあげた。 街の灯りも届かない森の中、ほんわり揺れる蝋燭の明かりはさぞや幻想的だろう。 ……もしかしたら普段口ずさめない言葉も、ついつい零れ落ちるかもしれない。 ……もしかしたら、いつも通りの掛け替えのない時間かも、しれない。 そんな時間を共に過ごせたらと彼は小さく小首を傾げ、八重歯をのぞかせ微笑んだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:一縷野望 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月11日(金)22:41 |
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■メイン参加者 0人■ |
● お化けカボチャが魔法をかけてくれるから、お菓子もおしゃべりも気配も誰かも……全部全部とってもトクベツ☆ ささ、重たく歪んだ世界(げんじつ)はちょっと脇へ、今宵は愉快なお祭りに身を浸しませう♪ 「――うわあああああん!」 そんなバーティの幕開けを飾ったのは子供の泣き声だった。どうやらパーティ参加中のアーク職員の子供らしい。 「む……」 刃紅郎は獅子の仮面の影で苦悩していた。 威風堂々。 子供には、怖い。 王者の風格。 子供には、すっごく怖い。 「ヒャッハー!!」 びゅんびびゅん! 「危ない」 ど派手なモヒカンでアレ的な風斗が振り回したのは玩具のトマホーク。モヒカンは今の内に行けと言っているようだ! 「じゃーん!」 ひゅひゅと如意棒。 「本場モノが遊びに来たぜー。うっきー!」 モヒカンから庇うように現われた狄龍は、景気よく笑うと棒キャンディーをさしだした。 「代わりに俺にもお菓子をおくれー」 おどけた狄龍に泣き止むどころか笑う少年。でもあげられるお菓子がないとしょんぼり。 「カボチャクッキーあげるよー。食べたいひとはどこー?」 黒いマントと黄金のツインテールにジャックをあしらったカボチャ少女・凪沙は少年と狄龍、ついでに風斗にクッキーをプレゼント。 誤魔化しのきかないシンプルなクッキーは、料理人としての矜持が籠もる。 さく。 「おいしい」 笑顔は最高の返事! ……その瞬間を切り取るフラッシュに目が眩む。目が慣れればそこには宙に浮くジャック・オーランタン?! 「トリック&トリート! お菓子をくれたら撮影しちゃうぞ!」 その正体は漆黒の魔女エーデルワイス。ジャックの頭を外せば翡翠色の髪が顔をだした。 どうぞと渡す写真には甘いクッキーが作り出した幸せが写る。 「……という事があり困った」 「ふふ、刃紅郎の仮装は少し力が入りすぎていたようだな」 切り株で膝を揺らしながら、事の顛末に月夜の魔女クリスは思わず吹き出した。 手にしているのは刃紅郎が持ち込んだお菓子のほんの一部、キャンディ。 「トリックオアトリート」 通りすがりの魔女マリスは、歓談中の二人に艶然と笑いかける。 「良い夜を」 こんな不可思議な空間では、幾夜も越えた『自分』が顔をだすのか? 高揚に上気した頬でもう一度笑いかけると去ってゆく。 「お供にロシアンティをどうぞ☆」 入れ代わり現われたのはうさみみシルクハット。苺ジャムで甘さを添えた紅茶を注ぐと、終もまた何処へと旅立っていく。 「本当に賑やかだ」 挨拶代わりの『トリックオアトリート』と共に行き交う人々に、クリスは唇の端をもちあげる。 そんな中、掛け替えのない相棒と過ごす時間は悪くない。尽きることのない話題は、やがてクリスの故郷イギリスの話へと移りゆく。 「ハロウィンはイギリスが発祥だと聞く……正確にはケルトの祝祭か」 「ああ。たくさんの家を回って、このカボチャバケツにお菓子を入れてもらうんだ」 トリック・オア・トリート? カシャ! 「うむ、良い絵がとれた」 エーデルワイスの切り取った女神とネズミ、輝く女神は何故だろう哀愁を纏っている気がする。 「祈ることも讃えることも許可するよ! 許し尽くすよ!」 後光(仮装アイテムです)を背負うギリシャ神・明奈の隣で美月は檻一杯の菓子を抱え小首を傾げた。 カップル誕生を片っ端から祝う女神にネズミさんはとてとて付き従い。 (ネズミ連れてる神様って言うとガネーシャ位だけど……) 姿は乙女じゃなくて象だ。だから美月は黙っておくことにした。だって今日は白石部員輝いてるし、笑顔も歯もなにもかも! 「ワタシを讃えよ! 三高平の女神様をたたえよー!」 「ところで白石部員、カップルを祝福して回ってるけどさ、君は男の人とデートとかしなくて良かったの?」 「え? ワタシ? いやほら、みんなのアイドルだから」 カシャーン。 罠が、発動、したぞ。 「それに部長の前でイチャイチャしたら部長が死んじゃうじゃないか!」 笑顔にドス黒い影がさす。 「僕死ぬの!? 何でさ!?」 罠に掛ったからだ、きっと。 ● (あるとくんの!) 「ゼターイリョウイキー」 (あるとくんの!) 「ゼターイリョウイキー」 …………。 「出鼻を挫かれるとゆーのは、こーゆーことなのですね」 やんややんや。 苦笑するあるとを前にはしゃぐは、塔の魔女(胸なしバージョン)舞姫と妖精テテロ。後ろから「こんばんは~」とチーターさんの京子も顔をだす。 「とりっくあおとりーとぉ!」 「えっと、トリートですよ」 あるとが籠いっぱいのモンブランタルトをつまみあげ、ひとつずつ3人の手におとした。 「え、あると君の手作りお菓子ですか?」 「はい。あ、これ沙織さんですよね。なら、割りますね」 ぱっきり。 舞姫の『(沙*・ω・)』なクッキーを『(沙*・』の部分で割ってもぐもぐ。残酷描写じゃありませんよ、クッキーですってば。 「いけますね」 「今度一緒にお菓子作りませんか?」 モンブラン美味しいですとの京子に「ぜひぜひー(≧▽≦)」とあると。日程あわせに話が弾む。 「このあとは……?」 妖精さんはこの後どうするかアシュレイっぽい舞姫を伺ってみる。 くんかくんか。 「はぁぁ……あると君の匂いと味がするぅ……」 「え? ちゃんと手は洗ってから作りましたよ?」 危機感ゼロ。 「ああん、黒タイツに包まれた少年の脚線美……」 「ゼターイリョウイキー」 「絶対領域ぃぃぃいい!!」 ……だめだふたりともあまりに通常運行だ。 じりじりとあるとを追い詰める舞姫とテテロ。あうあうと焦る京子。 「あるとの絶対領域ぃぃいいいいいい!!!」 く、熊がでたぞーー! 後ずさるあるとの背後にレイチェルががばーっと! 「おさわりOK? おさわりOK?」 わきわきわきわき。 熊のにくきゅうを器用に動かしながら、ピンクリボンの熊が迫る! 「悪戯はだめですー! お菓子あげますからー!><」 カシャ! カシャカシャカシャ! いつの間にか混ざっていたエーデルワイス、カメラの接写力は的確だ! 「け、けしからん」 じぃーーーーー。 にくきゅうとカメラをギリギリで躱すあるとを物陰から伺う視線。 「スカートからニーソックスまでナマ足出しおって」 ギリリ。 瞑は歯がみしつつ、ずいっとずずいっと前へ。気がついたらカオスにまざってた。 「はっ!? これが絶対領域というヤツか!」 だったら堂々と粘着することにする事にしようじゃないか。じぃーーーー。 「やだなー、これは和ゴスですよー。スカートじゃないですよー」 「Yes! ミニ和装Yes!」 拳握って頷く舞姫、大事らしい。 「スカートだろ!! ちょっと調べるからお姉さんにちょっと見せてみなさい。」 「お姉さんが優しくしてあげる。1個下だけど。じゅるり」 前門の瞑、後門のレイチェル。左右は舞姫とテテロが固める。あれ、四面楚歌? どうしよう。 ――お客様の中に、救いの神はいらっしゃいませんかー? 「ヒャッハーーーーー! ショクリョウハココカー!」 救いの神に一番に粛正されそうなザコっぽい人が来てくれたよ! 助けにならねぇ。 「トリックアンドデストロイ」 にーっこり。 絶対領域の叫びを辿り、マリスも推参。 「デストロイオアダイ」 至る所で響く「あると君の絶対領域ぃいいいいい」は黒い魔女を起こしたっぽい。 「あ、あると先輩は他の方の所へ」 その隙をのがさず京子はぐいっと舞姫を羽交い締め。 「はい、食料ですね? カボチャモンブランでよければありますけど……」 ……って、移動してないし。 風斗に「たまに外れがありますけどね、悪戯ですし」と落としたモンブランはオレンジよりむしろ赤い。 「腹黒くないですよ?」 「嘘だ! ……って言っとくとこですよね、ココ」 マリスはうっそりと微笑み、あるとは赤いモンブランを差し出した。 「カ、カラクナンカナインダカラナー!」 (偶には解き放つと宜しい。色々と) 風斗の激走を暖かく見守るのは、彼を誘った十姉妹・うさぎである。 「ヒャッハーーー」 あ、知り合いにエンカウントしたから、速効逃げた。 「ニホンアマガエル、ですか?」 確かに名札にはそう書いてある。 「見ての通りのヘラクレスオオカブトです」 もちろんニャーンと鳴く。 「……え?」 「そしてこれは私の卵です」 「…………え? 卵って、鳥は卵生……で、すよね?」 うん、猫以外は卵生であってる。 マジ顔で固まる周囲にうさぎは笑ってみせた。 「……や、冗談ですよ。嘘に決まってるじゃないですか」 表向きは。 「………………え? 今、表む……」 「たーまごーのなーかーかーらー」 ぱりぱり、しゃきーん。 ピクリともしな……じゃなくて、ぬいぐるみのモルが産まれました♪ 「まま、これでも飲んで落ち着いて」 微妙な空気をぶったぎり、うさみみシルクハットの給仕・終が顔をだした。 「とりっくあんどとりーと!」 がおー。 ジャムの甘い香りを嗅ぎつけてやってきたのは赤鬼さんのブリリアントと、 「ふむ、洋風の茶も悪くなさそうじゃのう」 艶やか黒髪、ナマハゲさんの式鬼だ。 ブリリアントは升に入れた豆を投げる……素振りで、皆のてのひらに降らした。 「ふむ」 ぽりぽりぽりぽり。 「甘いんですねー」 「砂糖コーティング済み。つまり、立派なお菓子なわ……」 「でも、豆に鬼って言うと、投げたくなりますね」 鬼はーそとー。 福はーうちー。 ……投げたよこいつ。 「いたいよーいたいよー」 そりゃ素肌に当たれば痛かろうて。 「大げさですよー」 鬼はーそとー。 福はーうちー。 その場の全員が流されるように豆を投げ出した! 「ええい、もったいない! こうなったらすべておいしくいただいてくれるわー!」 あかおに、は『かもん、スタッフ!』の呪文を、唱えた。 ばらまかれた豆は、全ておいしくいただかれた! 「菓子……というか豆ばかりでは喉が詰まるじゃろ」 小柄な体にゴテゴテとぶら下げた水筒を、式鬼は「自由に取ると良い」と示す。 「んっ、気が効くなっ」 ブリリアントは灰色の水筒に手を伸ばし一気に煽った。 「…………!」 「中にはハズレも混じっておるぞ。ハロウィンじゃからな」 しれっと。 「うえ……うーっ」 雑巾の味がするーとまた泣きだしたあかおにを背景に、あるとは終に声をかけた。 「こんばんは~」 ところで終も絶対領域である、頑張りすぎだ。 「男物のソックスの確保は困難を極めたよ……」 漢の遠い瞳にあるとはきょとんと小首を傾げた。 「入りませんか? 女物」 ギブミーチョコレート、そんな風情でせがむ魔女・香夏子に紅茶を注ぐ終は、ちょっとだけ手を止めた、ちょっとだけ、な? 「あるときゅんも一杯いかが?」 終は爽やかな笑顔であるとの手にティーソーサーを、のせた。 ……ロシアンティ、実はロシアンルーレットの意味もあるらしいんたぜ。 ● 魔女。 カボチャ王子。 動物さん達。 おめかし少女。 給仕。 王様。 帽子屋。 「いろんなカッコの人がいるんだねぇぃ」 巫女服から巨大な龍の尻尾をはみ出させて、御龍はくくっと喉を鳴らす。一通り見て回り、ちょっと喫煙所にて一服。 「あ、御龍さん。こんばんは」 ロシアンティの口直しに飲み物を調達しに来たあるとは、見知った顔に足を止める。 「デコトラがあーだからもっと派手かと思ったんですが……」 左角のリボンを眺める鴇色の瞳はおとなしめですねと物語る。 「一本どうぅ? あ、煙草じゃないから、ココア味のスティックだよぉ♪」 「あ、この間、デコトラの中にありましたよねー」 受け取りぺきっと折ればチープで甘く懐かしい味がする。 「今日の衣装似合ってるねぇ」 「ありがとうございます」 「可愛さもアップしたんじゃなぁぃ? 特に絶対領域ぃ」 「!」 姐さん、さっきの騒動を全部みてたっぽい。 「あるとが用意してくれたお祭りは、とてもきれい」 「えへへ、ありがとうございます」 「きれいで、たのしくて、うれしい」 戻ったところで吉野の真っ直ぐな賞賛に出迎えられて、嬉しいあるとは破顔一笑。 吉野の隣でジースは幸せいっぱいの姉・ルアを遠目に見つけ頬を緩めた。手には想いを込めて双子が作ったクッキーが沢山。 「ほう、おぬしの菓子は饅頭か。ならばこちらの焙じ茶があうぞ」 式鬼は吉野とジースにあたたかな焙じ茶を注いでやった。ナマハゲさんのポケットには、クッキーとおまんじゅうがin。 「楽しんでくださいねー」 彼らと別れ、ジースは改めて吉野にてのひらをさしだした。 「お手をどうぞ?」 傅くように、けれどちょっと戯けた感じも交えて。 「……」 うさぎを抱きしめていた両腕を解き左手を彼へ、伝わるぬくもりにほわんと頬がさくら色。嬉しい嬉しいと鼓動がとくんとくん。 赤い帽子に青のマントを翻し、二人は夜会を往く。 「綺麗だな。ランタンも、吉野も」 闇に溶ける藍色ドレス、ジャックの揺らぐ灯に吉野は柔らかくたれたうさみみを揺らす。 「ジースと一緒ならどんな事もたのしい……くしゅんっ」 「夜は冷えるからな、ほら」 上着をきゅっと握り「ハロウィンを知らない」と言えば「そうだな……」とジースが指さすのは――弾けるカボチャ王子がオレンジマカロンを景気よく配る姿。 「イィーーーヤフォーーー!! ハッピーハロウィン! トリックオアトリートゥ!」 「ハロウィンは人を驚かせるお祭り?」 しばし考え吉野はぽふっとジースの背中から抱きついてみた。愛らしい悪戯にジースが瞠目すれば、吉野も嬉しげに唇を綻ばせた。 一方、オレンジマカロンを配り歩く静の前に、さっと白の両てのひらが差し出される。 「お菓子が欲しいです」 香夏子は正直だ。 「トリートはお腹がすくのでノーセンキューです」 きっぱり言った。 「ほいほい、あげるよー」 「僕からもどうぞー」 静とあるとからもらい、香夏子ほくほく。 ぱく。 ごっくん。 「お菓子がなければカレーでもいいですよ?」 「え、今、お菓子あげたじゃないですかー」 ところで。 静は香夏子とあるとを前にしみじみしていた。 左右共に絶対領域。 「カレーは……あったかなぁ」 ずり落ちかけたカボチャ帽子を支え、あるとは料理のメニューを脳裏で手繰り寄せる。そんな仕草がこー。 (ずっと女の子だと思ってたんだよなー) ですよねー。 (んでも性別なんて関係ないよな!) 静は納得した! 「お菓子が欲しいです」 「はいはい」 腹ぺこ魔女さんにもクッキーを。凪沙はお土産用含め2袋を香夏子のてのひらに置く。 「凪沙さん、お料理のお手伝いありがとーでした!」 今回、料理の腕に覚えのあるリベリスタ幾人かに手伝ってもらったので、そのお礼を忘れないうちに言っておかないとね。 ● 喧噪から遠く、南瓜ランタン1つだけ――か細くも幻想的な灯りが魔王とサキュバスにはお似合いか。密会の内容は果たして? 「ハロウィンの雰囲気と恐ろしく合っていないわね」 未明が小首を傾げれば束ねた白茶の猫っ毛が同意するように揺れた。 きのこご飯、 南瓜のそぼろ煮、 秋刀魚の竜田揚げ……エトセトラ。 「うむ、美味しいのである」 手作りのぬくもりが滲む料理にオーウェンは舌鼓。薄化粧未明の笑みで更に美味となる。 「ミメイ、寒くはないかね?」 魔王がマントを広げれば、 「……ん、これで少しは温かい」 白磁の素肌が寄り添った。 「あーん、である」 ブラックチョコを纏った苺を口元に、ふわり上質なスポンジがとけた。 「……この様な服装も、悪くはあるまい?」 マントでくるむ夢魔の髪を撫で――密会はつかの間に編まれた平穏なる幸い。 「とりっくおあとりーと」 艶やかカボチャパンツの王子の胸に抱かれたキョンシーは、行き交う人にクッキーを差し出す。 「お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ!」 「お菓子をあげるから、イタズラさせろ!」 ユーヌたんに! ユーヌたんに! 竜一から自分の名が零れる度に、ユーヌのフラットな顔立ちに本当に小さな揺らぎが灯る。 でも。 腕の中は暖かいし。 竜一は楽しそうだし。 ……嫌じゃ、ない。 「私より、お菓子食べたらどうだ?」 唇に甘露を。 口移しのクッキーが消える刹那遠ざかる唇に、カボパン王子はご機嫌斜め。 「くくっ、期待してたのか?」 「……カボパン王子的に、紳士であらねばならぬ」 と、絹の黒髪に顔を埋めれば、お菓子作りの残り香。甘い、けれど。 「もっと、甘いお菓子が欲しいから、貰うよ」 香りもクッキーよりも……キミの唇を。 綺羅の者行き交う中で、燃えるような真紅髪の海賊は茂みの前で人待ち顔。 「あれっ……大変だ」 「?」 愛らしくも困ったような声に俊介が振り返れば、貝飾りの桜と同じ照れた頬の羽音と目があった。 可憐な彼女は人魚姫。魔女の囁きにのらず地上に来たはいいが、いや故に足は魚のままで。 「よっしゃ!」 俊介はすぐに意を決したようで、壊れものを扱うように大切に羽音を抱き上げた。 「は、恥ずかしいっ……」 頬から零れた桜が首筋伝い彼の髪色まで染まった。その道筋を俊介は唇で伝い、不意に強く印を刻む。 「楽しい夜会にしような」 小さな薔薇が花咲くのを目に満足げな笑みの俊介。恥じらいで悔しげに瞳潤ます羽音。だが彼女も不意打ちの熱い口づけ返し。 ――今宵も海賊の心は人魚姫のもの。 「お揃いの悪魔衣装、ちょっと照れますねっ」 カボチャ色のリボンがふわり、レースの裾が壱也のゴシックにあどけない甘さを添える。 「ん、たまにゃ、おそろいでもいいんじゃねぇかな」 蝙蝠羽根のモノマはてのひらの中の指を握り闊達に笑う。 ハロウィン。 そこかしこで聞こえる台詞はもちろんモノマからも。 「トリックオアトリート!」 「はいっ! トリートです」 透明セロファンにて着飾ったクッキーが飛び出した。お菓子をどうぞ。 でもでも。 「せ、先輩なら、ト、トリックでもよかったんで……」 悪戯。 言葉の途中を掬い取るように長いくちづけを。 「そ、それ悪戯じゃないです……っ」 「不意打ちって所が悪戯なんだぜ」 立ち止まり、甘えるように髪をこすりつける恋人を、モノマは抱き寄せる。 「本当に、ハッピーハロウィン、です」 悪戯じゃない――不意打ちのキスなんて、ただただ嬉しいだけ。 煌びやかで時に扇情的で時に可憐な紳士淑女が行き会う中で、彼女はいつも通りの制服姿。 そんなこじりの背後へ、ふっくら尻尾を揺らし近づく狐が1匹。 「トリックオアトリー……」 ヒュッ! 躊躇いない蹴打が夜空を切り取った。 「って言い終わる前に攻撃しないでよ!」 狐の面を外し現われるの夏栖斗の焦り顔に、胸に満ちていた文句が鳴りを潜める……ほんの一瞬だけどね。 「ねえこじりさん、あーんしてよ」 「なんで一々言うのかしら」 ほらいつもの彼女、ちゃんとあーんしてくれるところも。 「……おいし」 宝石フルーツをふんだんにあしらったタルトをご満悦。 「んじゃ味見!」 香ばしいタルト生地を抜ければ待ち受けるは、フルーツより甘く瑞々しい唇。 「あ、おいしいね」 タルト味のちゅー、ごちそうさま……早口の彼に悪戯めいた笑みを向け煙り玉を宙に放る。 「ワン、トゥー、スリー!」 ぽん☆ 現われたのは刺激的な衣服を纏った小悪魔彼女。 彼はとても『らしく』少し壊れた声で云いました。 「ボクと一緒に夜のお茶会でもどうだい?」 少女もとても『らしく』あどけなさいっぱいに返します。 「喜んでっ♪」 空色ドレスでランタン迷路に迷い込んだルアを、スケキヨは白手袋の指で導きます。帽子の上で道を示すようにネズミが「ちゅう」とでも鳴きそうです。 「ランタンは暖かいね」 トリートにはジースと作ったクッキーを。 「スケキヨさんみたい」 「ボクが暖かい? ……フフフ、なんだか照れちゃうな」 蜘蛛の形のコーラグミは本物そっくり! 「お菓子のような幸せ」をくれるルアに降らします。 「スケキヨさんも、ぎゅっとしたらすごく暖かいもの」 甘くて綺麗で可愛い少女をつまみ食い――人目を忍び短いキスを。 ● 宴もたけなわ。 まだまだ終らせないと言いたげなジャック・オ・ランタンに、蒼の主催は新たな炎をつぎ足し回る。 燃えろ燃えろお化けカボチャ。夜はまだまだこれからだ♪ 「Trick or Treat」 「ハッピーハロウィン」 聞き覚えある恵梨香と快の軽快な挨拶に振り返る。 「いらっしゃいませー♪ 毎度ご贔屓ありがとうですよー」 写真館馴染みのふたりに、ついついいつもの挨拶が口をつく。 「その衣装、手作りの風合いが温かみがあって素敵ね」 「ありがとうございます。お二人も……」 ここであるとの声が一旦止る。 塗り壁と血まみれ頭巾ちゃん――どうリアクションしようこれ。笑ってごまかす……。 「今日は写真館のベテラン店員あると君に、俺達の仮装を見てもらおうと思ってね」 ……のは無理なので素直に言う事にする。 「チャックが目立ちますね。えと……あと、その血は塗り壁さんに潰されたからですか?」 「まさか。悪い狼の返り血よ」 「食べたんですか?」 ――何故踏み込むそこに。 「よいハロウィンをー(≧▽≦)」 交換したランタン&ドリアンキャンディバーをふりふり見送るあるとは、 「ひゃあらぁああああ?!」 夜空にこれでもかと響く素っ頓狂な悲鳴をあげた。 「雪兎っぽいだろう?」 ふっふっふ。 透明グラスで揺れる氷を誇らしげに、光はぴこりと大きなうさみみを揺らす。 「うう、光さん、ひどいですよー。僕も悪戯しちゃいますよー……わふっ?!」 「トラックオアトリートー」 ほかほかじんわり。 シーサーの着ぐるみを着た桐のあったかカイロ攻撃だ。見事なり寒暖コンビ! 「次は悪戯しちゃいますよー。あ、おしゃべりならあちらでどーぞ」 示す先では、快と恵梨香を含め一休みの人達が談笑する。 「恵梨香ちゃん、付き合ってくれてありがとね。何だかんだで楽しかったよ」 「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」 黒のリボン帯を揺らし去るあるとを見送り、光と桐も歓談テーブルへ。 「ぼくも来年はいよいよ高校生になるのだ」 「もう高校生ですかー」 はしゃぐ雪兎に紅茶をついでやり、シーサーはカボチャ王子・静から先程もらったマカロンをつまむ。 「女子高生だぞ~。」 「感じてるより時間が経つのは早いものですね」 何気ない『楽しい』日々はそうやって紡がれるのか――光と桐はどちらからともなく微笑みあう。 『明日も明後日も、良い日になるといいね』 なんだかんだと大変な世界。 でもだけど今日はやっぱり幸せだから――未来を夢見ることが出来るのでしょう。 幸い編み出すために、今宵はたっぷりパーティを楽しんでくださいませ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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