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彼の正義


「バカは死ななきゃ治らないって、あれホントにそうだよね」
 どこにでもある、黒のランドセル。健やかに伸びた四肢には、やや窮屈そうにも見えるそれを背負った少年は、手元の携帯端末を眺めながら無感動に言い放つ。
「なんだぁ、お前?」
 不意に自分の進路に現れた子供の姿に、だらしなく制服を着崩した青年は眉根を寄せた。
 秋の日は釣瓶落とし。
 ほんの少し前まで青みの残っていた空は、今は頼りなくもうら寂しい茜色に染まり、人通りの少ない裏路地に二人分の長い影を産み落とす。
「お仲間がどんどんいなくなって。それで、今度は自分の番かな~? なんて警戒して帰り道を変えるのは、ちょっと賢かったけど。結局ソレを呟いたりしちゃうんだから、頭悪過ぎ」
 音もなく、携帯端末のディスプレイの上を少年の指が走る。
「なっ――まさかお前が!?」
 青年が、目を見開く。
 まさか、そんな。
 疑いよりも先に恐怖心が先立つのは、思い至ることがあるからだ。ここ数日で、同じ高校の生徒が二人、謎の死を遂げた。男と女、性別は違えど、学友たちが裏で慄く存在。
「いじめ、とか最悪だよね。まぁ、バカだから最悪なことやるんだろうけど」
 少年が、顔を上げた。
 年齢に見合わぬ理知の光を宿す瞳が、ずりずりと後ずさる年長者を射抜く。
「ひっ、ひぃ――だ、誰かっ!」
「助けを求めても無駄。小学生にいじめられる高校生なんて、誰も信じない。それに――」
 そこで初めて、少年の面に感情が浮かぶ。
 嘲り。
 高慢な視線で、弱者を見下ろす。
 他者を虐げる愚者に、容赦はしない。
「あんたの行動なんてお見通しなんだってば」
「――っ!」
 少年に背を向け駆け出した青年の視界に、紅蓮が弾けた。
 ドンッ、ドンッ、ドンッと心臓を揺るがす激音が見る間に青年を囲い、逃げ場を奪う。
「待って、待って、待ってく――」
「ばいばい」
 断罪は冷酷無比に。
 けれどその声が、青年へと届いたかは誰も知らない。

 ミッションコンプリート。
 そろそろ、ボクを狙う秘密結社が動き始める頃、かな?


「ただの頭でっかちな子供」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、語った事件のあらすじを無感動に切って捨てた。
 伊井咲賢志、12歳、小学6年生。両親は共働きで、鍵っ子。閑静な住宅街にある、庭付き車庫付きの立派な二階建てな自宅は最近購入したもので、庭には血統書付きのダルメシアンの仔犬が一頭。家犬の予定が、賢志に犬アレルギーが出たので外犬になった。
 集団登下校は今のご時世、お約束。帰り着けば、用がない限り外出はしないインドア派。
 性格は極めて一般的。クラスでも、目立たず、沈まず。成績は優秀。
「この目立たず、沈まずってのが嘘くさい。そうなるよう演じるのが、カッコいいって思ってるみたいだわ」
 この年齢の子供には、よくあることだ。冷めた視線を気取り、世界を斜めに見て『大人』の皮を被り。その上で、自分は人と違うのだ、という満足を得る。
「気の早い中二病。しかも末期の」
 それがただの子供であったのなら、無害であったはずだ。少なくとも、あといくらか齢を重ねるうちに、ありきたりの人間になっていたはずだから。
 しかし、賢志は、そのレールから外れてしまった――そう、革醒してしまったのだ。
「最初の標的は、クラスメート。教師の目の届かない範囲でいじめを主導していた女の子」
 彼女を皮切りに、賢志は『いじめっ子』と呼ばれる類の人間を『始末』し始める。最初は自分に近しい範囲。だが、やがてそれだけでは物足りなくなったのか、ネット社会の情報網を駆使し『獲物』の裾野は広がった。
「一見すれば、彼は『正しいこと』をしているかのようにも見える。だけど、一方的な暴力に真の『正義』はない。ただの私利私欲」
 だから、犠牲者が増える前に片付けて来て欲しいの、と色違いの一対を持つ少女は言う。
「彼はフェイとを得ていない――つまり、向かう未来は破滅だけ」
 分かるよね?
 真の類稀なる能力を持つイヴの声に、リべリスタたちは無言の頷きを返す。

「気を付けて。中二病末期患者は対仮想敵イメトレを日課にしてると思うから」




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月04日(金)23:09
初めまして。
この依頼よりBNEの世界の紡ぎ手の一端を担わせて頂くこととなりました臣と申します。
以後、どうぞ宜しくお願い致します――の、前に。
さっそくではありますが、エリューションの討伐をお願いします。

■成功条件
エリューションの撃破

■敵
ノーフェイス(フェーズ2):伊井咲賢志
・不可視の炎を操ります(何らかの対象にぶつかった際に爆音&発火)。
 神/遠/複、範、全
 (効果範囲はバリエーションあり。範囲が狭いほど、攻撃力大。全を「1」とすれば、範が「1.5」、複で「2.5」)
 [ノックB][弱点][火炎]効果あり(効果範囲:複の場合は[火炎]ではなく[業炎])
・ランドセルで殴る
 物/近/単
 [HP回復]効果あり
・基本スキル【リーディング】【熱感知】と同等の能力を有します。
・本性は勝気で強気。自分は無敵だと思い込んでいる節あり。用意周到。

■その他
戦場は、賢志の自宅OR「いじめっ子退治」に向かう道中になるかと思われます。
自宅は居間ならば20畳ほどあり戦闘可能。ただ家具があるので障害物多。
自宅近所には小さな児童公園や、裏路地等も存在。

作戦も大事ですが、感情描写もやや厚めで行きたいと思っています。
シビアな結末になる事が予想されますが、『想い』次第で雰囲気は随分変わってくるかと。

皆様のご参加、心よりお待ちしております。
宜しくお願い致します。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ソードミラージュ
葛葉・颯(BNE000843)
インヤンマスター
門真 螢衣(BNE001036)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
ナイトクリーク
レン・カークランド(BNE002194)
プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
マグメイガス
霧里 まがや(BNE002983)


「特にこれと言ったものはありませんか……」
 男とも、女とも見分けのつかぬ容貌に存在を主張するのは色違いの双眸。それに生真面目な光を浮かべ、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は古びた黒の長衣の裾を払う。
 膝をついて覗き込んでいたのは公園の生垣。目ぼしい収穫はなく、転がってた空き缶をゴミ箱へと放り投げれば、秋の空にカァンと高い音が響く。
 今回の標的の名は伊井咲賢志。彼の自宅から、戦場と定めた児童公園までは子供の足でも5分とかからないであろう距離。
 ふと、見上げれば一羽のカラス。電線の上で羽を休める姿は、そこらにいるカラスと何ら変わりはない。けれど、その宝石のような黒い瞳に宿るのは確固たる意志。
「まだ帰宅していないようです」
 ゆらゆらとブランコに遊ぶ足元は、遊具に不釣り合いなピンヒール。それを地面に突き立て揺れを止めた『下策士』 門真 螢衣(BNE001036)は、意識を同調させたカラスの翼をはためかせる。
 速やかな飛翔。
 天から眺める街は絵に描いたような閑静さで。その身の内に殺人者――しかも小学生の――を内包しているとはとても思えない。
 革醒したがゆえの、いじめへの反撃。ただ大切な人を守っていただけなのに、ノーフェイスだからというだけで手にかけたこともある。
 思い出す記憶は枚挙にいとまがない。
 慣れてしまえば心が上げる悲鳴にも耳を塞いで対処出来るようになるのかもしれないけれど、決して慣れてしまいたくはないと螢衣の意識は上空を羽ばたく。

「今日はここはボク達が使うんだよー」
 エラそうに胸を張り、口に出すのは理不尽そのもの。だが、これぞリアル小学生の特権だと『黄道大火の幼き伴星』小崎・岬(BNE002119)は可愛らしい唇を尖らせ駄々を貫く。
 見知らぬ新顔。
 厄介者に関わっては面倒そうだ、と子供たちの姿が公園内からそそくさと消えて行くのを眺め、「見事なものだネ」と『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)が、岬の頭をぽふりと撫でる。
 年長者からの労いに、厄介ごとを引き受けた岬は、今度こそ本当の意味で胸を張った。
「ま、ここは戦場にも適してそうだヨ」
 盆栽にするには育ち過ぎてるケドと付け加え、颯は公園を囲う緑に目を細める。常緑のそれは、近隣の住宅からの視界を遮るカーテンの役割を果たしてくれそうだ。
「結界は張り終えたよ」
「こっちも首尾は上々です」
 人気のなくなった公園をぐるりと巡った『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)の声を、ジャングルジムの天辺に座った雪白 桐(BNE000185)の声が追いかける。
 桐の手の中には複数の携帯端末。釣りだ、自演だと警戒されぬようにと注意を払い、ネット世界に流したのは「この公園で起きている」いじめの情報。
「得た力で勝手な正義感を振りかざして、何も出来ない相手を狩ってるだけ」
 結局は同じ穴の貉なのだと厳しく言う桐の言葉に、『霧の人』 霧里 まがや(BNE002983)は鷹揚な応えを返して欠伸を一つ。
 イヴからこの話を聞かされた時、まがやは賢志に対する同情票が集まる可能性を考えていた。けれど忙しなく開戦の準備に勤しむ面々からは、その気配は全く感じられない。
(「ま、わたしは結果はどうでもいいし。適当に暴れられればそれで十分」)
 中二が高じてリべリスタとなった男の気怠い胸の内は、吹く風に気儘に髪を遊ばせる態度に滲み出る。けれど全く匂わせない心根というものもある。

 力を得た者が正義か? 悪を退治する者が正義か?
 何が正義で、何が悪だなんて、俺にはわからない――少なくとも、俺は正義ではない。
 渦巻く想いをひた隠し、『まめつぶヴァンプ』レン・カークランド(BNE002194)はランドセルを背負った少年の眼前に立ち塞がった。


 情報源の一つは、いわゆる『学校の裏サイト』。
 新たに書き込まれた内容は、ごくごく近所での話。降って湧いた話に疑問を感じつつ、それでも足早に家を出た。定めていたターゲットは後日にまわせば良い。
 駆け付けた児童公園、確かに人が倒れている。
 が、その前に。
「伊井咲賢志。秘密結社の者だ。お前を倒しにきた」
 背の低い、子供みたいな青年が現れた。悪そうに、煽るような口ぶりが、泣きぼくろが印象的な顔立ちを裏切っていると思った。
「ここでは力のない者も巻き込んでしまう。公園に移動する」
「うん、いいよ」
 変に笑っていないだろうか? そんな事を気にしながら、賢志は青年の導きに従う。
 これで良し。
 そう思ったのは、賢志か、レンか。

 ビリビリと、身を潜ませていた滑り台の下の空気まで細かく震える。
 轟いたのは爆音。
「な……っ?!」
 何が起きたと確認に顔を出したまがやの頬を、眼前で爆ぜた紅が激しく叩く。
 ドンッ、ドンッ、ドンッっと立て続けに上がった爆発音は、最初の変事に反応した公園に潜んでいた者たち全てを余さず飲み込み灼いた。
「な、ぜ?」
 いじめられっこ役として大地に伏していた桐が、よろりと立ち上がる。倒れていたのは演技だったはずなのに、今、桐の中にあるダメージは本物だ。お気に入りのミニスカートの裾が焦げているのが忌々しい。傍らを見れば、公園入口にいたはずのレンの姿。おそらく自分が喰らったのと同じ一撃で、ここまで吹き飛ばされてきたのだろう。
「何故って?」
 カラリ、賢志が哂う。
「家の前に見慣れないカラスがいるなぁって思ったのが最初」
 そしてタレこみ通り公園内に人が倒れているのに、秘密結社を名乗る男が誘いをかけて来た。
 分かりやすい罠。
「仲間がいるんじゃないかなって、そう考えるのは当り前。それなら燻りだせば良い」
 僕を倒しに来たんでしょ?
 告げる声はランドセルが似合わない程に悠然と、泰然と。
「なるほど。聞いていた通りですね」
 罠にかかったのは、彼か、それとも自分達か。膝をついて耐えた不意打ちの余韻を、ふるりと首を振って払い除けた螢衣は水色の瞳で賢志を見つめる。
 即座に追撃をかけて来ないのは、自分の優位性を信じて疑わないから? と思いつつ、細い指で印を結ぶ。編み上げるのは守護結界。
「ケンシ゛ィーって、あったまイイー! だけど、残念っ」
 これっくらい、平気なんだよーと体のバネを活かして岬が跳ねるように起き上がった。
「へぇ、やるじゃないか」
 叩きのめしたはずの人間たちが続々と立ち上がる。そのプレッシャーに、賢志は無意識に半歩、下がった。
「一体多数、確かに此方が悪めいている、だが少年、私達には私達の正義があるのだ」
 子供の根底にある怯えを敢えて指摘せず、アラストールは白と青の鞘から広刃の剣をすらりと抜いて切っ先を賢志へと差し向ける。
(「共働きの両親に、抱きしめる事さえ叶わぬ仔犬」)
 中二、と片付けられた子供。それはヒーローゆえの孤独?
 二十歳からほんの一歩だけ前に歩み出ただけとは思えぬ老成した眼差しで、キリエは賢志を見る。
 子供が孤独の中で育てたヒーローは、戦うべき相手を間違えた。
「間違えてなんかいない!」
 性別を悟らせぬ痩身の年長者を、賢志の苛烈に燃える瞳がねめつける。声には出さなかったキリエの想い、だからこそ真実だと分かる心を読んで感情を昂ぶらせたのだ。それが本音の尻尾になるとも知らずに。
「君が運命から愛されないのなら、私は大人としてそれを矯正する必要を感じない」
 早すぎる最期なら、せめて悔いが残らないように。
 じわり、ゆったりとした動きで子供を囲う輪を作る。
 間違った子供は、きっちり叱って止めるのが正しき道徳の道。
「賢志クン、悪いが悪は悪らしく、多勢に無勢でぼっこすョ」
 かっこつけ君、命を賭けた最後のかっこつけにしようか。声ではなく、心で颯は賢志にそう告げる。
「受けて立つよ」
 返答は明確に端的で、迷いなく。いっそ哀れな程に。


「一切合切、灰燼へ帰せ」
 まがやの声に賢志を取り囲んでいた仲間たちがその場を離脱する。直後、賢志を中心とした一帯に魔炎が踊った。
「……だから、ソコのあんた。さっきからそればっかでしつこいっ!」
 陽炎に揺れる瞳が、まがやを睨みつける。抱いた感情の激しさのまま放たれたのは、相応の力。一際眩しく輝いた熱の白がまがやの全身を灼き、まるで軽い木の葉のように男の体を公園の端まで吹き飛ばした。
 力尽きるに余りある衝撃。けれど、それでもまがやは土の地面に手をつき、身を起こす。
「なんでっ! なんで立ち上がれるんだよっ」
「持つべきものは、力ってことだ」
 己が存在権をすり減らし戦場に立ち続ける事を選んだまがやの言葉に、ヒーロー病患者は声の限りに叫んだ。
「結局、そうなんだっ! 力なんだ、力! 力があれば、守れる、負けない、やっつけられるっ!」
 子供の円らな瞳に狂気がちらつく。両足を踏ん張り、肩をいからせ両拳を固く握る賢志。
「散開ですっ」
 視えぬ炎の脅威が全体に及ぶことを察したアラストールが短く言う。逃れられないのは分かっている、けれど被るダメージを考えれば四方に散ることこそ肝要。
「いじめなんてバカのやる最悪のことなんだー」
 身の丈、そして可愛らしい外見にそぐわぬ巨大で邪悪な黒のハルバードを担いで戦場を足でかき乱しながら、岬が賢志へ問いを投げる。
「じゃあ、弱い者いじめして回ってるキミはバカで最悪なんだねー?」
「――なっ! そんなことっ!」
 賢志の否定があったのを確かめて、岬は走るのを止めた。正面切って見つめる先には、同年代のコドモ。
「ムジュン?……でも、そういうことになっちゃうよねー」
「弱い者いじめは楽しかったですか?」
 心の逃げを許さず、問いを重ねたのは桐。
「君のは正義は犠牲者がいるのが前提の理論。ヒーローなら、何故その場で止めないのですか」
「だって、アイツらは止めたって繰り返すし……それに、止めたって……止めたって……っ」
 甘えを赦さない追及に、賢志の視線が宙を彷徨う。
 戦況は、火を見るよりも明らかだった。どれほど力任せに暴れようと、連携をもって囲まれてしまえば行く先は一つ。駄々を捏ねる子供が、親のあやしにいずれ屈してしまうように。
「君はただ、助けたかっただけなのでしょう?」
 優しさの滲む螢衣の声に、賢志はコクコクと幾度も首を縦に振る。
「でも君は人を殺してしまった、そこが君の罪です」
 命を救う仕事をしていた父を持つ螢衣の断罪は重い。救いの手と縋った相手の冷たい目に、賢志は呂律の回らなくなった口で必死に持論を紡ぐ。
「だっ、だって。ア、アイツらはっ! 何度だっ、て、おなじ、ことするに決まってっ!」
「結局究極、殺しはいけないのサ、人のことはいえないけどネ」
「殺すなら殺される事をも覚悟せねばならない。少年、君はその幼い独善で人を殺し過ぎた」
 颯とアラストールの結論に、賢志の目から一筋の涙が伝う。それは理解されない悔しさか、芽生えた良心の呵責かは、本人にしか分からない。
「何度でも行くっ」
 まがやが放つ、幾度目かのフレアバースト。炎の中に立つ子供は、水滴に縁取られた睫毛を瞬かせ、キッと視線を上げた。
「足掻かず終わりにするべきだョ、君は間違っていた、それだけの話」
 スピードを活かし、颯が一気に賢志へ肉薄する。標的も標的だっただけに、ひねくれていても、とても純粋な少年だったのだと思う。可哀想に――でも、それでも。
「良くないことは、良くないことなのだョ」
 因果応報と割り切り、大地を蹴りつける。落下の加速を借りたナイフを突き立てる先は、少年の肩。まだ柔らかい肉に、ずぶりと白刃が沈む。
 桐が振るうのは大海を漂う巨躯の魚をそのまま薄くしたような大刃。オーラを弾ける電気の力に変えて纏わせたそれは、一切の手加減なく賢志の腕を薙ぐ。
「――っ」
「君の正義は終わりました」
 悲鳴を上げる隙さえ与えず、螢衣は神の名を借りた術式用手袋で覆われた指で素早く空に印を刻む。それは賢志の身を幾重にも戒める呪いの封縛。
「あっ、あっ、あ゛……っ!」
 全身の膂力を爆発させたアラストールの剣の閃きに、賢志が言葉にならない声で呻き獄炎の花を咲かせ、巻き込まれた颯と桐の身体が宙を滑る。
「結局、キミの背丈で見えるものだけで考えてもマトモな答えなんて出ないんだよー」
 空いたポジションにすかさず走り込んだ岬が、赤い瞳が輝く黒刃で畳み込む。
「君が力を得てしまったのは、君のせいじゃない。全てはバグホールのせい」
 今さら説いても意味のないだろう世界の真実を、猛攻にさらされる賢志へキリエは語った。
 もし、彼がこれほど歪む前に出会えていたら。架空のヒーローを育て上げるほど孤独な時間に一人おかず、もしくは「寂しい」と泣かせてあげることが出来ていたら。
「いくつかの間違いの前に霞んでしまったけれど……君はご両親が名付けたように、賢く、そして優しい子だよ」
 仮定は虚しい。その虚しさをかなぐり捨てるように、キリエは賢志の胸へと気糸を紡ぐ。
「君は死ななきゃ直らない、バカじゃなかっただろうに……」
「フェイトを得ていれば、更生させることも出来るのに、出来たのに」
 初めに賢志を見たレンは、口惜しさに未練を零す。彼は走っていたのだ。ただ力を振り翳したいのではない、助けたい、という意思が賢志に足を急かせたのだと思えば無念だけが募る。
「力を持った者は、それを使う覚悟と、使い道を間違ってはいけない」
 聞こえているだろうか? もしかしたらもう声は届いていないかもしれない。そう思いながらレンは賢志へ語りかけ続ける――同時に、手にした小さな魔術書の頁を繰る。
「俺が正義だとは言わない。けど、お前も正義ではない。この力は、救うためのもの……命を奪うものではない」
 命を奪う権利は誰にもない。
 もちろん、俺にも。分かっている、分かっていても成すべきことがあるのが、リベリスタ。
 破滅を予告する道化のカードが、レンの手元より放たれる。
「次、出会う時は友として――」
 スローモーションのように崩れ逝く子供の前で、ピエロがニタリと笑った気がした。


「あーぁ、負けちゃった」
 夕暮れ、街頭がチカチカと明滅する公園。レンに抱き締められた子供の目は、もうどこも見ていない。否、視れていない。
「君が守ろうとした弱い者達は私達が守っていくよ」
「それなら……あんしん……あ、りが――と……ごめ……」
 キリエの約束に、賢志から最期の力が抜け落ちる。その躰を抱き締める腕に、レンは力を込めた。
「……上から見えるのもいいモノだけじゃあない……」
 サヨナラ、と告げて岬が背を向ける。
「人と触れ合う度に何時か普通の特別を知り、幼子は人の環に連なる――外れてしまったのが哀れだ」
 剣を正面に掲げ、アラストールは騎士の礼で賢志の魂を見送れば、桐と螢衣もそれに倣い、公園を後にする。神秘は秘匿すべきもの、長居は出来ない。
「やっぱり、こういうのは悲しいネ」
 手折った常緑の小枝を子供の耳元に飾り、颯は弔いに瞳を閉じた。そして再び赤と緑の瞳で世界を捉えた時には、茜色に染まる空に感傷を切り捨てる。

「結局、狢の掘った穴は墓穴でしたって話なわけだ。やれやれだな」
 薄暗さが辺りを支配する頃、帰路を急ぐまがやはぽつりと呟いた。誰がどこでどうなろうと、まがやにとっては関係ない。
 ただ、何となく。
 正義とはなんぞや、と誰かに問うてみたい、そんな夜の入り。何処からか寂しげな仔犬の鳴き声が聞こえて来た。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お仕事、お疲れ様でした。
寄せられる『想い』に、思わず涙しそうになったことを告白してみます。
リベリスタは大変ですね……でも、皆さんこれからも頑張って下さいませ。

この度は私の初依頼にご参加下さいましてありがとうございました。
皆さまの今後のご活躍を祈っております!

===================
レアドロップ:『ヒーローメダル』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:レン・カークランド(BNE002194)
柚木 キリエ(BNE002649)