●赤い世界からコンニチハ トランプ達は作業中。 女王の為に作業中。 我らが愛しき『彼女』は赤がお好き。 だから何でも赤く染めよう。 全ては我らが愛しき『彼女』の為に。 ――なんて、作業中。赤ペンキ手にそんな作業中。 彼らは『赤くない世界』に出会した。 「……ちょっ 先輩」 「んダヨー俺ァ今花占いでスゲく忙しい」 「花占いどころじゃないっすよ先輩ッ! ちょっと前見て下さい顔上げて下さいっす!」 「何だッてンダそんなウサギがギロチン処刑されたみてーな顔面しゃーがッテ………、 おぉう……」 確か女王の薔薇園にいた筈だった。 そこでこれから咲く薔薇が赤くなるよう、蕾を赤く染めていた筈だった。 なのにトランプの姿をした兵士二人の視界に映ったのは―― 「薔薇……白くネ?」 「白っすね」 「しかも超雑草まみれジャネ?」 「雑草まみれっすね」 「ヤバくネ?」 「ヤバいっすね」 「つかここドコ? 庭にこんなトコあったっケ?」 「知らんす」 「……とりま、アレだわ」 「アレすね。……って、なに人の後ろに隠れてるんすか」 「イヤ。………前」 「はい?」 返事の同時、ポタリと顔に垂れる粘着いた液。何だこりゃ。涎?生温かく生臭い風が上から吹きかけられる。 そう言えば何だか自分達の周りだけ暗い、まるで―― ――まるでデカい何かが上から自分達を覗き込んでいるような。 「………。」 そぉっ、と前を見た。 そして、愕然とした。 巨大な白薔薇の化け物が、牙の並んだ大きな口を開けて―― 「ギャーーーーーーー!!」 ●ボトルチャンネルです 「――という訳でして、皆々様」 モニターの映像を停止して、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は事務椅子をくるんと回しリベリスタへと向き直った。 薄笑むその顔の前に掲げられたのは二枚のトランプ。ダイヤのAと、ハートの7。そのまま徐に説明を始める。 「先程の私が視た運命を御覧頂いた通り、アザーバイドとE・ビーストが現れましたぞ。 皆々様にはアザーバイドの護衛、E・ビーストの討伐をして頂きます」 それじゃまずはアザーバイドの方から、とメルクリィは二枚のトランプを卓上の資料脇に置いた。 「上位チャンネル『赤の世界』――『赤の女王』と呼ばれる存在が絶対的な権力を持っているという、全てが赤に彩られた摩訶不思議なチャンネルですぞ。 今回我々のチャンネルに迷い込んでしまったのはこの女王様の配下であるトランプの兵隊さん達です。どこぞの童話で見た事あるよーな方々ですな。 その名も『ダイヤのA』と『ハートの7』。ちなみにAさんが先輩で7さんが後輩なんだとか。 彼ら、肩書きこそトランプの『兵隊』ですが戦闘力は皆無と言っても良いです。トランプな見た目通り『紙装甲』ですしビビリですし。 結構平和で気ままな性格してますし、話し合えば分かり合えますぞ。くれぐれもイジメちゃ駄目ですぞー? しばらくしたら『女王』が異空間を渡って二人を迎えに来てくれるんですが……」 メルクリィが静止したままのモニターをチラと見遣った。食虫植物じみた薔薇の化け物――E・ビースト。 その姿は巨大でおぞましい。見た上では大量のツタが絡まってできた脚部的な触手で移動をしているらしい。 ツタにビッシリ生えた棘は何とも不気味に尖っていた。 「E・ビースト『ゲテモノローズ』。白薔薇のエリューションです。 フェーズは2で配下エリューションは居ません。が、その分能力値が高い、そしてデカい。棘に触ってしまうとダメージ入ります。 一撃一撃が結構強烈でしてねー。その上リーチが近接から遠距離までで範囲も広い。 ツタで殴られると出血する上にぶっ飛ばされますし、消化液吐いたりしますし、締め付けられたら麻痺状態になる上に……ウン、まぁ、この見るからに痛そ~なトゲを見たら分かるでしょーが毎ターンダメージ受けちゃいますぞ。 ですが! なーんとアザーバイド達が超便利ィな回復技を持っとります。彼らに頼んでみたら宜しいかと。でも脅したら逃げますぞ多分。愛と優しさと笑顔を忘れずに! サテそんじゃ場所の説明しますぞ。耳かっぽじってお聴き下さい」 そう言ってメルクリィはモニターを操作して一つの画像を映し出した。既に廃墟となった洋館の広い庭園だ――荒れ果てているが、それでも白いバラがポツポツと茂みから顔を覗かせている。 ツタが絡みついたボロボロの像(元がどんな像だったのか分からないぐらい朽ちている)も散在しており、主がいた頃は美しい庭だっただろう事が容易に想像できた。 「ハイ、今回の戦場はこの庭園オブ廃墟ですぞ。奇麗ですな。昔の姿も奇麗だったんでしょうが、これはこれで美しいと思うそんな私は廃墟好き。フフ。 おっと話がズレましたな。隙があったらまたズラします――嘘です。真面目にやりますんで冷たい目で見ないで下さい。 この庭園は雑草茂りまくりですが足が取られるとか武器に絡まるとかはないでしょーな。広いですし一般人も来ないと思いますし、思いっ切り戦えますぞ。 時間帯は夕方です。空が真っ赤で幻想的です。明るいんで光源とかは要らないでしょーな。 ――以上で説明はお終いですが、宜しいでしょうか? 念の為にもう一回聴いときますか? ん、結構? 了解ですぞー」 お調子者の機械男はニタッと微笑んだ。それから、ブリーフィングルームにその低い声を響かせる。 「ではでは皆々様! くれぐれもお気を付けて頑張って下さい。 私は皆々様をいつも応援しとりますぞ。いってらっしゃい!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月03日(土)23:26 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●悠久の赤 沈み落ちる夕日は其処彼処を照らし渡す。赤く、赤く赤く。 吹き抜ける夕方の冷えた風は忘れ去られた庭園にシンと響いた。 「えーと薔薇の怪物をどうにかこうにかして花札星人をおもてなしするんじゃよな。覚えとる覚えとる」 客人は丁重にもてなし良い気分で帰すのが和の心というもの。『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)の吹かす煙管の紫煙は夕焼け空に赤く蕩けて有耶無耶に、着込んだ真っ赤な雨合羽を掠めて行く。 全身赤。これから出会うであろうアザーバイドの親近感を得る為に、8人のリベリスタ達の出で立ちは悉く赤い。 「親近感を得るためとはいえ、少々派手だな」 赤いコート・マフラー・手袋・帽子――赤一色の服装で露出部位を極力減らした『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は自らとそして仲間達を見て一つ溜息。しかし、と続ける。 「あいつ等も運が無いな? 態々辺鄙なところに迷い込むとは。 それに女王自ら迎えに来るとは、マメなことだ」 慕われる一因かな。目に痛い色ばかりなのはどうかと思うが。 そんな事を思う彼女の卓越した聴覚は知らせている。『何か巨大なモノがズルズルと地面を這いずっている』のを。 視線を送る。頷いたのは『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)。 「トランプの兵隊に赤色が好きな女王様。まるで御伽噺みたいな世界ね。 アリスは居ないけれど女の子が6人もいるなら充分じゃないかしら」 言った『女の子6人』に当然自分は含まれていない。自分は男だ、自意識も肉体も。振る舞いこそ少女のそれだけれども。 言葉の後に鉄格子模様のアタッシュケースTyur'ma dlya zhizniの持ち手を裏側に取り付け楯とし、瀟洒なペーパーナイフNeposlushnyĭ landyshaを何処からともなく手に握る。その服は当然赤、お気に入りにペンキの染みがついたらやだもん。 「赤い国に赤の女王か。……ゴージャスな美人なのかなー。 いじめられてるトランプを助けたらお礼に赤の国にご招待されてご馳走と歌や踊りでおもてなししてくれるとか?」 いや、でも国中赤いのは疲れそうだな。赤いTシャツに臙脂のズボン、『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)は虎的獠牙剣を構えて仲間と共に迅速に行動し始める。 ともかく、きっちりゲテモノローズを倒してトランプ達を助けなくては。 「赤の女王とその者が収める国を見てみたいな」 紅の服、赤の騎士。折れた大剣を夕日に翳す『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)の黄金の髪が凛と靡く。 「まぁ、女王だけは見れるかも知れん」 だがそれも自分達の手に掛かっている。来訪者が力尽きてしまえば――更なる来訪者には会えないのだ。 「かわいい、トランプ兵の、危機……!! 向こうの世界で、52枚、しっかり揃うように……ちゃんと守って、あげるから……っ!」 皆とお揃い真っ赤な服。ケープにブラウス、スカートに靴で真っ赤っ赤。お揃いって、なんだかワクワクしちゃう。『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は赤いスカートを摘まみ、これでアザーバイド達を少しでも安心させれたらいいな、と思う。 顔を上げれば仲間達の背中。あひるもみにくいアヒルの子の絵本を抱きしめ、深呼吸の後に体内魔力を活性化させ歩を進める。 さて、急がねばならない。手に武器を、目に闘志を、8人は暮れ泥む庭園を進撃する。 ●クレナイバトル 薔薇。薔薇。忘れられた庭園に咲く薔薇。 (ひっそりと咲く分には何の問題もなかったのですけれど……もしかして、咲いた姿を誰かに見て欲しかったのでしょうか) 何はともあれ、今は異世界からの稀人を助けないと。赤装束の『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は思う。学校の制服以外で着る事の無い赤、新鮮な気持ち。アザーバイド達が親しみを持ってくれると良いのだが。そして赤ペンキが目立たなくて済むと良いのだが。 薔薇。薔薇。巨大な薔薇。巨大な口。巨大な牙。 トランプ二枚を覗き込み。 ――白薔薇。 「好きよ」 でも、派手で大きいだけの花は好きじゃないわ。 「花は、繊細であるべきよ」 真っ赤なドレス、真っ赤なブーツ、真っ赤な帽子。『soupir d'ange』シュプリメ・フィクツィオーン(BNE002750)が身に纏うのはいつもの黒ではなく、赤。 普段は着ないから少し楽しいかも。なんて、射手の感覚を研ぎ澄ませながら白薔薇指輪の幻想纏いよりフィンガーバレットを呼び出し装着、足は遅いけど精一杯駆ける――来訪者に怪我をして欲しくないから。 「下がって」 言葉と共に弾丸を発射する。振り返る白薔薇、トランプ兵達。 「大丈夫。危害を加えたりなんか、しない。私はただ花を採りにきただけ」 「え、え、あの、貴方達は」 うろたえるトランプ兵、その最中、全速力、一閃の残像がゲテモノローズとトランプ兵の間に飛び出した。 「ごきげんよう兵隊さん。女王様のお迎えが来るから――」 エレオノーラの紺瞳が二人に振り返る。次の瞬間には飛び上がる。見上げる薔薇のその花弁へ、重力自由落下、全体重と全速度を乗せて、澱み無き鈴蘭の超速連撃。 「――それまであたし達が守るわ」 着地、微笑み、呻く薔薇は動けない。更にそれをユーヌの呪印が厳しく拘束する。 「愚鈍だな? 大層な見かけは虚仮威しか?」 その間にゲテモノローズへ一気に間合いを詰めたのは迷子、拳に炎を、蠢く蔦を殴り飛ばす。棘が拳を傷つけたが怯んでいる暇は無い。 燃える蔦を背に、血の滴る拳を手に、咥え煙管の迷子は白髪を靡かせ振り返った。 「わしらから見ればお主らはお客様のようなものじゃ。 怪我してもらってはお主らの女王に申し訳が立たぬし下がっていてくれぬか? ……怪我しない程度にちょっとなら手伝ってくれてもいいんじゃよ!」 トランプ兵はじりじり下がりながら互いの顔を見る。リベリスタ達を見る。皆の赤い服装や言動に味方だと認定してくれたようだ。 「ど、どうします見た事も無い生物がアレでソレでコレっすけどあばばばば」 「知るか落ち着けバカタレが。詳しい話は後で訊こうゼ」 「はわわわわ」 「落ち着けヨ! 味方だっつの多分!」 半ばパニックの7をAが小突く。その間にゲテモノローズが呪印を振り解き、耳障りな奇声を上げた。トランプ兵らも「ギャーーーー!」と震え上がった。 だが、その前に颯爽と現れる剣士が二人。 「援護する。下がっていろ……コイツを倒せば赤の女王が来るはずだ」 「マリーの言う通り、危ねぇから――まぁ、任せてくれよ」 牙緑とマリーが目配せし合う。頷き、剣を構える。うねる蔦を踏みつけ乗り越え地を蹴って、剣を大きく振りかぶり――折れた大剣はエネルギー球で、虎的獠牙剣は電撃でそれぞれ光った。 一閃、豪撃、巨大な異形をぶっ飛ばす! 「スッゲェー……」 7を引っ張り指示通り後退するA、その傍にあひるが駆け寄る。 「トランプさん! あひる達が、守るからね……後ろに、下がってて……!」 童話で見たような姿に胸がドキドキする。7は相変わらず慌てているが、Aは状況を理解したようだ。紳士的な一礼でそれに応える。 「いやァ、なんか、良く分かんない感じデスけど、感謝いたします可愛いお嬢サン。 サテ、アレを倒せば我らが女王がお見えになるそうデ」 Aの視線の先、ゲテモノローズに飛び掛かるマリーと牙緑、振り回される蔦を華麗に躱すエレオノーラ、破滅のカードを投げつける大和に射撃するシュプリメ。 答えたのは自在護符に包まれた指で守護結界の印を切るユーヌだった。 「手出し無用。ここは私たちの戦場だ。 客人らしく、ゆるりと待てばいいさ。生憎、茶の一つも出せはしないけどな?」 「成程、了解デス。大体分かって来ましタ。なら、我々は一生懸命応援サポートに徹しますネ!」 「ほどほどに頼む」 そうと決まれば――あとは全力で敵を倒すのみ。 展開されるユーヌの結界はトランプ兵にも。トランプ一枚程度だが、無いよりマシだろう。 火力は十分。自分は補助に徹するのみ。 「小細工は得意だからな」 視線の先には荒々しく仲間達に襲い掛かる幾つもの蔦。奇声。 大和は止水を構え、己が影より意思を持つ従者を呼び出した。あのアザーバイド達は紙装甲らしく、あの蔦が掠っただけでも大変な事になりそうだ。 (身を挺してでもしっかりと守らないと) 走り出す。振り下ろされる蔦は影を絡ませ防ぐ――が、力負けして真横に叩き付けられた。衝撃、飛び退き、棘の所為でザックリ裂けた頬と腕から鮮血。 「自己を守る為の棘であって、他者を襲うための棘ではないでしょうに」 血を拭う。気糸を放つ。締め上げる。 その蔦に牙緑は大剣を振り下ろした。切断の感触、奇声と薙ぎ払われる蔦、虎的獠牙剣で咄嗟に防ぎながら飛び下がる。 「バラってもっと可憐ではかないイメージだったのに!」 斬った蔦はまだウネウネと地面でのたうち回っている。グロイ。切断面からまた伸びないだけマシか。 「いたいの、ぴゅーって飛んでけ……!」 開いた絵本、放つ光、あひるのブレイクフィアーは仲間達の体から止め処無く溢れる血を止めた。ゲテモノローズの消化液に片膝を突きかけたマリーにユーヌが傷癒術を施す。 「ここからが本番だ」 頬を焼く消化液を拳で拭い、マリーは剣を構える。 制限解除。 命を燃やし、血が沸き立つ。全身の細胞が軋む。戦いの為に、捧げる。 「私色に染めてやろう」 打ち下ろされる蔦、マリーの姿がブレる――残像、高速の刃は彼女の周囲の蔦をバラバラに切り刻んだ。 攻める事火の如し。 削られる前に喰らい尽くしてやる。 振り上げる大剣。纏う雷。 落雷の一撃。 さあ、始めましょう? 「消化液なんて汚いもの吐いて、貴方食虫植物なの?」 驚異の一撃に暴れ回る薔薇、吐き散らす消化液をバックステップで躱し、飛び散る飛沫は両腕で防ぎながらシュプリメの緑睨がそれをじっと見据える。それに目は無いけれど。 それは魔の眼光、凶の睥睨が薔薇を射抜く。 ゲテモノローズの悲鳴――あひるの詠唱、聖なる歌。それを切り裂くが如く、歌うあひる目掛けて落ちてくる蔦。 「くわ……!」 見開く目。ぶつかる! その瞬間だった。 「あぁあ危なァいっすぅうう!」 7が咄嗟にあひるを突き飛ばす。飛び出したAが槍で蔦を受け止める。 「ご、無、事、デすかァ、あ!?」 ギリギリギリ。徐々に圧されながらAが振り返る。 「ごめんね、トランプさん……ありがと、ありがとっ……!」 あひるは絵本を拾い上げて素早く立ち上がるや、詠唱で魔矢の陣を構築した。 Aを圧す蔦をキッと睨み付ける。 「お花は、静かに咲いているのが、美しいのよ……?」 放つ矢。蔦を弾き飛ばす。更にそれをユーヌの鴉が穿った。 「一応は大事な客人だ。傷つける訳にはいかないな。 それにペラ紙を追うだけが能ではないだろう?」 「だだだ誰がペラ紙じゃい」 「おっと」 ぜぇはぁ息を上げたAのツッコミに苦笑、再び印を切る。 「薔薇は愛でられるものよ、貴方みたいに這いずり回るゲテモノじゃないわ」 暴れる蔦を素早く回避しながら――あるいは棘の切っ先に肌を裂かれながら身体のギアを高めたエレオノーラは間合いを詰める。それでも彼を狙う蔦、しかし大和の気糸がそれを阻み、迷子の斬風脚が別の蔦を撥ね飛ばした。 次の瞬間に高速で閃くNeposlushnyĭ landysha、瀟洒な鈴蘭、忍び込めばお転婆娘が毒を吐く。動いちゃ駄目よと窘める。 動けぬ間に、牙緑の剣が、マリーの剣が、シュプリメの早撃ちが蔦を刈る。 「邪魔な茨は剪定してしまいましょ――植物は植物らしくその場で咲くのがお似合いよ」 ふ、と指先から立ち上る硝煙を吹き。 蔦を重点的に攻撃しているお陰か、ゲテモノローズの動きは大分と鈍くなっていた。 傷付いてもあひるの歌が、ユーヌの術が立ち所に癒す。大和の気糸とエレオノーラの刃がそれを翻弄し、マリー・牙緑・シュプリメ・迷子がダメージを与えてゆく。 「通せんぼじゃ」 突進してきた異形の前に立ちはだかり、迷子は紫煙と共に鋭く脚を振るった。発生した真空刃がまた一つ蔦を撥ね飛ばす。怯ませる。その隙に大和とエレオノーラがゲテモノローズを麻痺に追い込んだ。それでも発する殺気、目玉の無い睥睨。 刹那、ユーヌの口角が薄く持ち上がる。 「おっと、もう枯れる時期か。なら、鈍い獲物を狙うのは仕方ないか」 広げた手、自在護符、彼女の周りに展開された八卦の陣。黒い爻に黒髪が靡く。 占いの結果――大凶。不運。不吉。終了。滅亡。破滅。ドンマイ。御愁傷様。 「運が無いな? いや、運が良いのか。よかったな、不運のせいに出来て?」 黒。 白薔薇を覆い尽くす黒。不吉な影。 圧倒する。ボロボロにする。 その時間は――シュプリメが集中に集中を重ねるには十分な時間だった。 充分に、たっぷりと狙いを定め、超速で異形の背後。鈍く輝く十の指。 掻ッ切る。 ――ボトン。 落ちた、白、巨大な薔薇。 「棘よりも牙の方が、ずっと深く突き刺さるのよ」 翼を広げて軽やかに着地、吹き抜けるのは赤い夕風。 ●ずっと赤 「女王様が来る前に、赤く塗って見たら喜ぶかもしれないわよ?」 花弁を落とされ動かなくなったゲテモノローズ。それからトランプ兵へ視線を移したエレオノーラが微笑む。 「そうだな、赤く塗って貰うのも良いかもな」 アークの玄関にでも飾るのも良いかもしれないと冗談か本気か分からない事をユーヌは呟き、 「女王の土産にするのか?」 牙緑は動かない花弁を覗き込む。 顔を見合わせるトランプ達へ、あひるは浮き浮きと言葉をかけた。 「白バラを、赤色にお化粧しましょ。 残りの赤いペンキを、白バラに塗って……女王様を迎える準備、しましょう」 トランプ兵の表情がぱぁっと輝いた。 ――そして、ゲテモノローズは見事なまでに真っ赤に染まる。 (それにしてもペンキを塗って体力を回復できるなんて、どんな素材なのかしらね) ペンキを塗り終わったトランプ兵らを見守りつつエレオノーラは思う。智親ちゃんに調べて貰えば分かるかしら? 「お迎え来るまで、一緒に待っていましょうね」 「はーい」 「ラジャーっす!」 あひると一緒に女王を待つアザーバイド達、一方の大和は庭園を用心深く見渡していた。ゲテモノローズの種があるかも、と思ったが……その心配はなさそうだ。ホッと息を吐く。 迷子はトランプ兵に声をかけた。 「そちら方の女王への贈り物ということでこれをお主らに持たせてもよいか?」 手渡すのは朱塗りの煙管。いいんですか、との声に彼女は悪戯っぽく微笑んだ。 「異世界土産を持って帰ればちょっとくらい迷惑かけたところで許してもらえよう」 「それもそーですネ!」 聴いた途端にAがそれを受け取った。7はどうもと頭を下げる。いやいや、ニコニコ顔の迷子はニコニコうふふと、 「じゃからわしも何かお主らの思い出になるもの欲しいなーとか思ったり、しておらんし別に。 その不思議ペンキちょっとだけでよいから欲しいとか思っておらんし!」 「エッ。ちょ、もっと早く言って下さったラ」 Aと7がペンキを入れていた容器を見せる。ゲテモノローズに使った所為か、空っぽだった。 「あ、でも」 7がポンと手を打つ。近くに咲いていた一輪の白薔薇を摘むや、容器の縁に着いていたペンキを掻き集めてその薔薇に塗った。赤い薔薇の出来上がり。 「これで宜しければ」 「ヒューッ、味なマネを」 「うむ、ありがたく受け取ろうぞ」 ただの薔薇だからいつかは萎れてしまうだろうが……それでも感謝の気持ちは本物、迷子は満足気に微笑んだ。 そんな直後だった。 空間が歪んだ、かと思いきや現れた真っ赤な巨大扉。 開いた華美なそれから姿を現したのは、美しい赤のドレスと装飾品を身に纏った巨躯の異形――人型に近いが、身体の作りは全て何処か人外めいている――赤いヴェールの奥から一同を見渡した。 間違いない、赤の女王。赤の世界の主にして、トランプ達の主。 「迎えが来たみたいだ」 マリーがトランプ達に目を遣るや、彼等は「女王様~」と女王に駆け寄って行った。大きなドレスにモフッと抱き付いた。 自らで向くとは良い奴ではないか……視線の先では「ボンヤリしているからですよ」と彼等を窘める女王の姿。 視線が合った。 「皆様がこの子達を助けて下さったのですね、礼を述べます」 「うム。気にするな」 マリーは片手をひらりと、あひるとエレオノーラとシュプリメはスカートの裾を少し摘んで、足を交差させて。奇麗にお辞儀。顔は見えないが、恐らく女王は笑顔で応えてくれた。 「もしまたお会いする事があれば、その時は楽しいお話を是非、したいものです」 「えぇ、こちらこそ。――えぇ、必ず、この礼は返しましょう。私達はこの御恩を忘れません」 エレオノーラの言葉に女王が微笑む。ふと――彼女の視界に巨大な赤薔薇が映った。 「あら、素敵な薔薇ですこと」 気に入って貰えたようだ、そして持って帰るようだ。不思議な力でひょいと持ち上げ、トランプ達に持たせる。重たそうだ。 マリーが薄く口元に笑みを浮かべる。 「私も赤は好きだ」 「うふふ、嬉しいわ。ありがとうね、素敵な赤騎士様」 「また、会えるといい」 「勿論」 そして彼等は帰って行く。 扉が閉じてゆく。 「トランプさん、お迎えよかったね……!」 あひるは手を振り、 「兵隊さんも、お仕事は真面目にね」 エレオノーラは微笑み、 「……トランプさん、じゃあね。」 シュプリメも小さく手を振った。 「ありがとうございましたっす!」 「またお会いしまショ~……重っ」 「さようなら、それではまた」 笑顔と共に、扉は閉まった。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|