●取り壊されない病院 知ってる? あの病院。 ううん、新しくなった方じゃなくて古い方。 あそこ、何でまだ取り壊されないか知ってる? そうそう、『出る』んだってさ。 だから今までずっと残ってるんだよ。 もう移転してから何年になる? うん、本当だよ。 だから今更慌てて工事始めたんだよ。 でもさ、大丈夫なのかな。 ほら、『出る』場所って壊そうとすると祟りとかあるって言うじゃない。 怒っちゃうんじゃないかな。 ●取り壊せない病院 「どうもこんにちは、そして初めまして。皆さんのお口の恋人、断頭台・ギロチンと申します。ああ冗談じゃないですよどうぞお気軽にギロチンとお呼び下さい。ほらギロさんの愛称みたいで良くないですかギロチンって?」 ブリーフィングルームで男――『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は開口一番一気に喋り切り、リベリスタを見回した。 「ギロチンからお話しするのは首を刎ねてくれとかそんなお話ではなくて依頼です。ここに集まって下さった皆さんならば分かり切っている事でしたね、失礼。 それでは一応聞いておきますが、病院は得意ですか? いえ、苦手でも向かって頂く他にないのですけれど。『出る廃病院』というイメージから形成された思念が革醒しましたので倒して下さい」 かくりと首を傾げ、様子を窺ってまた口を開く。 「分かり難かったでしょうか。具体的に言うと皆さんに倒して頂きたいのは看護婦です。E・フォース。実はさっきも同じ説明をしたんですが、あちらは医者でした。こちらは看護婦です。 革醒した思念は、そのままでは非常に曖昧な形態なんです。だから何らかの形を取らせた方がこちらは戦いやすい。そういう事で看護婦です。この思念の元となった噂話で、『大量に現れる医者と看護婦』というものがあるんです。病院に出るなら患者な気がするんですけれどね、噂話にあまり根拠や理由を求めたらいけませんよ。ああ、で、何でしたっけ」 ゆるゆると宙を泳ぐ視線。 十秒ほど考えて、ようやく思い出したのかギロチンは地図を出した。 「そうです。病院。この病院には西棟と東棟がありましてね、西棟には看護婦、東棟には医者が出ます。先程言った通り、皆さんに受け持って貰うのは西の看護婦です。東には別のチームに向かって貰いますのでご心配なく。失敗した時の心配などしなくて構いません。どちらかが失敗したら逃げて頂くだけですから」 事態としてはそこまで緊急ではないから、人員を集め直してもう一度削りに向かうだけだ、とギロチンは目を細めた。 「無理の必要はありません。頑張って頂くのはありがたいですが、皆さんの命の方が大事ですからね。大事ですよ。死んだらやり直しは聞きません。無理して帰って来ない人とかが出てきたら、録画した番組を見る前にうっかり消してしまった時以上にぼくが絶望してしまいますので止めて下さいね。はい。西です」 取り出したペンでぐるぐると該当場所に円を描く。 ね、と同意を求め、ギロチンは数度ペン先でカツカツと地図を叩いた。 「最初は本当に、他愛もない噂でした。あの病院、もう使われてないんだよね。何か出そうだよね。それが時間の経過を経て尾びれを付けて泳ぎ始めた。あの病院、いつまで経っても壊されないよね。何か出るんじゃない? 正確には立地や売買条件の折り合いが付かずに放置されていただけなのが、『出る』から取り壊せないのだと、周囲に住む人の噂の中ではそれが『真実』になってしまいました」 嘘から出た真、もしくは卵と鶏。 順序を逆にした発生と結果。 視点がいまいち不確定なぼんやりとした青い目で、ギロチンはリベリスタを見る。 「故に。このE・フォースは姿が不確定です。曖昧な思いが積み重なり曖昧な思念となった。だから、内部に入り込んだ人のイメージ、経験、想像力、そういったものを大まかに汲み取って形を成します。ですから、ある意味では『御しやすい』敵です。『思ったように』出て来てくれる可能性が高いですから」 強さまで御することができれば楽だったんですけどね。 乾かした藁のごとく軽い言葉。 あくまで出現場所やその方法を汲み取るだけであり、弱い敵を念じてもそううまくはいかないだろう、というのがこのフォーチュナの言い分だ。 「この医者と看護婦を完膚なきまでに倒してしまえば、弱体化したE・フォースは人に害をなすことはできなくなります。そして業者の方が解体を済ませれば拠り所をなくして存在する為の力を消失。噂も嘘になります。ぼくが見た溢れんばかりの医者と看護婦も嘘になります。ぼくが見た本当を皆さんは嘘にしてくれますよね。嘘にして下さいね。信じてますよ。ああ、でもぼくが嘘吐きでも首は刎ねないで下さいね。ぼくがギロチンですから」 表情の変化に乏しい顔をうっすらと笑みに変えて、男は指先で首を切る真似をした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月07日(月)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●開始前の其々の弁をダイジェストでお送りいたします 「なんでわざわざこんなとこに行かないといけないんだ……」 視線を彷徨わせつつ、『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)が泣きそうな顔で言う。 「怪談が事実になるとはのぅ……季節外れじゃないかぇ?」 身も蓋もない突込みをしつつ、『緋月の幻影』瀬伊庭 玲(BNE000094)が腕を組み、 「ですよねー。でも桜ちゃんホラーは嫌いじゃないですし、折角なので目一杯楽しませて貰おうと思うです!」 愛嬌のある顔をにこりと微笑みに変え、『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)が拳を握る。 「こわくないこわくないこわくないこわくないこわくないこわくないこわくないこわくない」 もはや呪文の如く坂東・仁太(BNE002354)が唱え続ける横、 「が、がんばるよ……!」 翼を震わせながら、『七つ歌』桃谷 七瀬(BNE003125) は力強く頷いた。 「E・フォースじゃ肥やしにもできませんね」 おっとり微笑んだ『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)がさらりと怖い事を述べ、 「ええ。でも、エリューションなら平気ですけど、万一本物がいたら……」 無表情で内心涙目の謎生物『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が男性陣の恐怖を煽る。 「依頼ですから」 『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)は――普段と特に変わらなかった。 ●初っ端からフラグを踏む大会始まるよ 照らし出された病院内は埃っぽい。恐らく、もう片方の棟も同じ。 東棟と繋がっていると思わしきガラス戸は、今は大量の板で打ち付けてあった。 真っ先に足を踏み出したのは、視線をうろうろと彷徨わせていた悠里。 怖いならさっさと済ませてしまえ、という算段か。 行って来ます、というか細い声を残して歩き出す彼に、桜が並ぶ。 がらんとした待合室。 以前は多数の人で賑わっていたであろうそこには、もはや誰もいない。いや、誰かいたか、今過ぎった白い影は単なる見間違いか。 震える手を隠すように、悠里はポケットに片手を突っ込んで辺りを照らし出す。 その腕を桜が取った。 「きゃー、悠里君、桜ちゃんこわーい」 「幽霊なんているわけねーだろー」 そう、彼らはカップル、調子に乗った粗暴な若者。 崩れたソファを踏み、廊下の奥へ、奥へ。 ナースステーションだろうか、少し広い部屋。残されているはずのない書類が、棚に束のまま残っている。 「きったねーなー」 笑いながら悠里はその棚を蹴り、書類を散乱させた。 彼らの足音以外に無音であった病院に、金属が倒れる音と紙が撒き散らされる音が響いた。 「なんもデねーしツマンネー。さっさと帰っていいことしようぜ~」 極力軽薄を装って、それらしい顔を作り桜へと向き直る。 と、その瞬間、桜が彼を自分の背後へ引き込んで不敵に笑った。 振り返った悠里が見たのは、歪な笑いを浮かべる無数の看護婦。 手に赤錆びたメスを巨大な注射器を鉄パイプをひしゃげた点滴スタンドを持った、看護婦が。 「セオリー通りやられる程、今時の女子高生は甘くないですよっ!」 桜の手の中で小さな刃物が回り、投げられたそれは無数の刃を伴って看護婦に穴を開ける。 そこにあるのは闇。暗いくらい闇。 血すらも流さず半端な笑みを浮かべ手招く看護婦に、悠里は唇を噛み締めながら真空の刃を打ち出した。 転換。 二階にて、他の仲間は足手纏いだと一方的に宣言し、うさぎを伴い歩き出した恵梨香。 「このネット時代に幽霊とか非科学的だわ」 「そうそう、何も出る訳無いじゃないですかー。噂ですよ噂」 呆れた調子で呟く恵梨香に、うさぎが取ってつけたような台詞で肯定する。 覗き込んだ病室の先に残るベッド。 何故かマットも枕も、掛布さえそのままに、取り残された寝台が一つ。 何かが見えた、と呟く恵梨香に二つ返事で頷いてついてきたうさぎは、次の瞬間視界が反転した。 背中の感触は、ベッドか。 少し埃っぽい以外に何も異常のない、それこそが異常なベッドの上で、恵梨香の顔が近付いてくる。 「前から気になってたんだけど、犬束さんって男性なんですか? 女性なんですか?」 揃って感情表現に乏しい顔。硬質な無表情。意識的に無意識的に作られたそれ。 引き締まったうさぎの腕に、恵梨香の指先が這わされる。 子供から大人へ、まだ分離し切らない体。 大人の男が鍛えたような筋肉は付かず、大人の女のような体全体を覆う柔らかな曲線もなく、子供の域を出ず、だが幼い子供ではありえない中途の体。それが寄り添い漂う背徳感云々。 「もっとも……そんなことは些細な事に過ぎないんですけど」 耳元で囁く恵梨香に、うさぎは無表情のままちょっとだけ視線を逸らした。 演技だ。それは分かっている。けれど性別云々はさておいてそりゃ押し倒されればドギマギはする。スカート短いし。どこ見てんだ。 だが、カーテンの先に蠢く影を見付けてそんな思いも霧散する。 「出ました!」 受身を取ると信じ恵梨香を跳ね除け、掛布の下に隠した右手で握った『11人の鬼』でカーテンごと影を掠め、切り傷そのものを刻印として死の接吻を。 カーテンが落ちた先にいたのは、数名の看護婦。 目配せの必要すらなく、目前を焼く炎。 振り返れば、恵梨香がやはり何でもないような顔で立っていた。 炎に焼かれて踊る看護婦は、尚も笑っている。 転換。 震える翼。びくびくと、頼りなげに揺れる翼。 上も下も見えない階段。闇に閉ざされている。懐中電灯などでは照らしきれない闇が。 それでも行かねばなるまい、自分はその為に来たのだから。 ぐっ、と力を込めて頷いた七瀬は、ふと上を見上げ、 「出たーーー!!」 微笑む看護婦を見つけ、ばっさあああと、孔雀の求婚アピール並みに派手に翼を広げた。 いけない、だめだ、仲間のところに戻ろう。 「あ、あれ、セルマさ、セルマさーん!?」 実年齢で言えば親子ほど年上ではあるが、それでも女性の前ではと気張っていた七瀬が誰もいない背後に絶叫する。なんだ。最低でもペアは崩さないはずだったのにどういう事だ。神隠しか。大丈夫、これもフラグになるから。 逃げる、いや逃げるんじゃない、戦略的撤退というやつだ。 手すりに置いた掌に何かが触れる。 怖気立つ。それは酷く酷く冷たい。 強張った体で恐る恐る覗き込めば、まるでヤモリの如く狭い階段横の壁に張り付いた看護婦が、笑いながら注射器をぶっ刺そうとしている所だった。 大きく息を吸い込み、七瀬は叫ぶ。 「僕が放つ矢は、穿つ。悪しき存在を根源から破壊する。聖性の光歌。―――閃光聖矢!!」 周囲に展開した魔方陣。平面から顕現した立体の矢は、濁った瞳に突き立った。 更なる転換。 「怪談じゃと!? ふんっ、くだらない! 何、バカなことを言ってるんのじゃ?」 「そ、そうぜよ、お化けなんておるわけないぜよ」 小さな体を目一杯張って言い放つ玲に、少々及び腰な仁太が頷いた。 そうだ、ここにいるのは幽霊ではない、玲にカッコ悪いところを見せる訳にもいかない。 が、そこにナースコールが鳴り響き、一気に尻尾がぶわっと膨れる。 「なんじゃ、煩いのぅ」 「な、何で誰もおらんのにナースコールが鳴るんや……その部屋は調べといた方がよさそうぜよ」 「だのぅ。……おっと、物をおとした様じゃ、先に行ってくれぬかえ?」 恐る恐る歩み寄った仁太が部屋番号を確認して振り向けば、玲はなにやらポケットを叩き首を傾げ、否を言う間もなく来た道を戻り始める。 今だ姿の見えない相手に怯えながら歩く仁太が進んだ先は、四二七号室。 扉から挙動不審気味に向けた光の先には、誰もいない。 ただ、ナースコールのボタンだけが、今までそこに誰かがいたように揺れていた。 踏み出した仁太の耳に、電話の音が聞こえる。 存在するはずのない電話、通じるはずのない電話、手を伸ばし、仁太はそれを取る。 「……え、今、後ろにいる?」 振り返るよりも早く、彼の毛並みの間に埋まる針。 ドアップで見た濁った目、歪な笑み、注射器に入った液体は見る間に量を減らしていく。 それが行く場所はどこだ、分かっている、自分の中に流れ込んで、 「あ、あへ、あへへへへへ」 何かガクガクしててリアルにちょっとやばそうですが、単なる毒と混乱なのでご安心下さい。 と、看護婦の腕が何かに吊られたかの如く上がった。 扉の入り口には、舞い戻ってきた玲が立っている。 己の放った気糸で吊られてた看護婦を見ながら、玲は低い声で呟く。 「貴様ら……許さん……」 しかし次の瞬間、彼女ははっ、と気付いたように押さえた。己の目を。 「っは……し、静まれ……妾の眼よ……怒りを静めろ!!」 それ違うフラグな。 ●間に差し挟む親切な状況説明 ペアが囮になり、他のメンバーが救助に来るという作戦自体は堅実だった。大変堅実だった。 フラグを踏みつつフォローができる良い作戦だった。 が、この手の噂のお約束として、『襲われるのは常に一箇所だけとは限らない』のだ。 ――六人の側が同時並行して襲われたりしないと良いですね! 桜の危惧だか期待だかは、この場においては現実となる。 結果として溢れかえる看護婦相手に、リベリスタのサバイバルが始まった。 ●安全圏なんて存在しませんよ フォーチュナは言った。無理はするなと。軽い言葉と軽い口調で以って告げた。 そう、いつだって発端は軽いのだ。 軽い気持ちで、何となく、流されて、この手の恐怖譚は幕を開ける。 ナースステーションから看護婦が出てくる。出てくる。 明らかに部屋の容量をオーバーし、尚も彼女らは湧いてくる。 無理するなどころの話ではない。無理をしないと突破できない。 「僕の奏でる歌は守りの調べ、この場に集う聖なる者よ僕の歌を聞いて欲しい。どうか、仲間に祝福の守りを――神護聖歌!!」 七瀬が唱えた守護により、味方は加護を得た。 彼の呼ぶ風は、癒しとなった。響く歌声は、確かに力となった。 だが、それでも数は味方を圧倒する。餌に群がる蟻の如く、看護婦はリベリスタに向かってくる。 「この程度の数で良かっ」 た、とうさぎが言い切る前に扉で看護婦が微笑んだ。 エリューションだ、彼女らは本来性別すらも伴わないE・フォースに過ぎない。 だが、彼女らの後ろに今何か過ぎらなかっただろうか。あれも看護婦だったろうか。 それとも仲間、……パジャマを着た仲間などいただろうか。 「はは、ま、まさか幽霊なんていましぇんって」 幻覚だ。単なる幻覚だ。噛みながらも言い聞かせるべく言い放った言葉。 振られた腕と共に、『戦闘用緑布』がぎいんと看護婦の点滴スタンドを弾き返した。 玲から破滅のオーラが伸びる。黒いオーラが伸びて、看護婦を潰していく。 「にゃっはっは! このドレッドノートの錆になりたいやつはだれじゃぁ!」 小さな身に似合わぬ大きな銃を片手に、彼女は高笑う。 体が軽い。満たされる幸福感で体が軽い。そう、これならば。 「もう、何も怖くない」 うん。もう片方でも聞いたなその台詞。さすが流行りもの。でもそれ死亡フラグね。 笑顔の看護婦が振りかぶった鉄パイプが玲の頭を問答無用で殴り倒した。 「やったわ」 看護婦を五人纏めて葬り去り、恵梨香が頷き一つ。 彼女の周囲にだけ訪れる一瞬の静寂。他の味方の回りにはまだ溢れている。 ならばそちらを助けに行かなければ、全部片付けなければいけないのだから、全部。 そんな彼女の肩を、誰かが叩く。 労りを込めるように叩かれた肩に向いた恵梨香の腕が、振り被られた松葉杖の衝撃に軋んだ。 咄嗟に腕を翳したお陰で大事には到っていないが、痺れが取れない。 彼女は味方の援護に回れる立ち位置を確保しながら、笑う看護婦と再び相対した。 「ゆ、幽霊じゃないし……!」 粗暴な青年の仮面はすっかり剥がれ、悠里は無心で敵の数を減らす事に専念する。 目にも留まらぬ速さで繰り出される蹴りは、周囲の空気さえも奪い真空の刃を紡ぎだした。 だが、それも長くは続かない。数に対して、彼の能力には限りがある。 牙を剥き出し、看護婦の闇さえも吸い取る彼の背を、錆びたメスが引っ掻いて行った。 悠里の背からは、闇ではなく赤い血が滴った。 「バ、バウンティ! バウンティショットーー!!」 最初の覚悟はどこへやら、正気づいた後は玲の背に隠れる駄目な男というか大人として駄目な具合を晒しながらも仁太は看護婦の頭を狙って一撃を放つ。 がうん、と音が弾け、看護婦の頭が闇と化した。 「ふ、ふふ、E・フォースなら見えてるから平気ぜよ……!」 少しばかり冷静さを取り戻した仁太の背に、何かが触れる。 冷たさに悲鳴を上げるよりも早く、押し込まれた針からまた液体が流れ込んできた。 鉄パイプが松葉杖が点滴スタンドがもぎ取ってきたベッドの一部が振り回される聴診器がリベリスタを打って打って打ち据える。 メスがナイフが鉈が斧がノコギリが包丁が、使い物にならない赤錆びた刃物が『切る』というよりは『潰す』為に振るわれる。 看護婦らが持っている注射器には、例外なく液体が詰まっていた。赤白青黒紫緑、黄色に桃色金に銀。やはり例外なく体に良さそうに思えない液体を押し込まれれば、多種多様の異常がリベリスタの体を襲った。 メスが肋骨の間を刺して内臓を狙ってくる。 鉈が肋骨ごと胸を叩き割る。 E・フォースは血を流さない。だから地面に流れる血は全て仲間のもの。 その血が冷えて固まって来る頃合に、ようやく戦局は決着を見ようとしていた。 「これで、最後ですっ」 ふらふらと歩み来る看護婦に向けて駆けた桜が、刃を手に踊る。 結ばれた髪を、床に置かれた懐中電灯の光の中で舞わせながら看護婦を切り刻んだ。 黒い霧と化して消滅した看護婦を横目に、彼女は息を潜めて気配を窺い続ける。 「……もうくたくたですよー」 刃を戻しながら呟いた一言。 立っている仲間が、神経を研ぎ澄ますのを感じる。 今の一言で、出てこないなら。 しん、とした空気。戦闘で温まった空気が、冷えていく。 元の廃病院の空気に、戻っていく。 五分、十分。 待機していた彼らは、ガラス戸から光が差し込む事に気付いて顔を上げた。 先に見える西棟から、仲間が出て来た事も。 そこでようやく、皆は息を吐く。 疲弊しきった者がソファに座り込み、あるいは倒れ伏す。 「もうぜっっっったい、やらないからねー……」 叫ぶ元気さえなくなった悠里が呟いた言葉は、それでもやり切った者の響きを帯びていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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