●long long ago あるフィクサードの話。 彼は殺し屋だった。その力を使い、裏社会で暗躍していたのだ。 多数の人を殺し、多数のリベリスタも殺した。 だから彼はリベリスタによって殺された。そんなよくある出来事。 『クリッククラック』。そう呼ばれた男の昔話。 ●Rainyblue 雨が降る。 しとしとと路面を濡らし、町を濡らし、彼女を濡らす。 多少の飾り気のある白いブラウス。動きやすい黒のレギンス。 スニーカーは履き慣れた癖を作り、若干クセのある髪は水を吸ってしっとりと。 こざっぱりとした服装に、ちょっとアクセントに唸りをあげるチェーンソー。 足元に広がる赤い色はこの雨が流してくれる。 力なく地面に転がる人物。おかげで彼女は上機嫌。 「まるで私の気持ちみたい」 自らを濡らす雨を仰ぎ、誰が聞いてるわけでもないが彼女は呟く。 たった今両断した人物はアーク所属のリベリスタ。彼女にとっての一方的な仇敵。 彼女の恩人を殺害した組織の人物。 十年ほど前、孤児だった彼女を育ててくれた男はフィクサードだった。 沢山の人を殺害し、汚い金を稼ぎ。彼女を始めとするたくさんの子達を育ててくれた。 彼が温かい人物だった覚えはない。むしろ育ててくれたのが不思議なぐらい、情のない人物だった。 けれども、彼女にとってはその男はたった一人の恩人で。大切な人だった。 気まぐれだったのかもしれないけれど、おかげで彼女は生きていられた。 そんな彼が死に、残された遺産で彼女達は生き続けた。 庇護者を失いながらも、寄り添い続けて今日まで生きたのだ。 いつか時は経ち、皆もそれぞれ一人立ち。年長だった彼女は後顧の憂いもなくなって。 ――そして復讐が始まった。 一人、二人、たくさん。次々とリベリスタ達をあの人の所に送ろう。 しぶといリベリスタ達だって、死ぬまで殺せばちゃんと死ぬ。 そしてあの世でもう一度そいつらをあの人に殺してもらおう。きっと退屈しないはず。 ――あの人の残したこの武器で。私の思いのようなこの涙雨に紛れて。 ●ブリーフィングルーム 「いやぁ皆さん遅くなりました。あ、コーヒー飲みます? 買ってきますよ、お金預けてくだされば」 『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)はブリーフィングルームに来るやいなや、待ちぼうけをくらっていたリベリスタ達にそう切り出した。 呼び出されたはずが何故か後からやってくる。そして奢らない。馳辺四郎はそういう男である。 「あ、いりませんか? それではお話のほうと行きましょう。 皆さんに来てもらったのは他でもない。リベリスタ狩りを何とかしていただきたいのですよ」 本来エリューションを狩る側であるリベリスタ。逆に襲撃されることも決して少なくはない。 つい先日、フィクサード達と大規模な戦闘が行われたのは記憶に新しいがどうやら四郎の様子を見る限りそれとは関係がないようだ。 「相手は紗村 ユイ。フィクサードですが、どうやら目的はリベリスタに対する復讐のようです」 資料をテーブルに広げつつ四郎は説明を続ける。 そこには雨に濡れた一人の少女が写っており、手にしたチェーンソーとの不釣合いさがなんともいえぬ禍々しさを醸し出していた。 「彼女は自らの恩人であるフィクサードをリベリスタに倒されたことを恨みに思っています。 かれこれそれは十年近く前の話なのですけどね。いやぁ、恩を忘れない。涙ぐましいですねえ」 へらへらと四郎は笑う。行動も動機も関係ない、いや、それらの行動と動機だからこそ愉快だと言わんばかりに。 「しかしこう、放っておくわけにはいかないでしょう? そもそも仇討ちは日本国憲法で禁止されていますからねえ。法は遵守して頂かないとこちらとしてもほら、実力行使することになりますし?」 まさにその実力行使の為に集められたリベリスタ達の前で彼の調子は平常運転。どこまでも他人事、適当、そして無情。 「そんなわけで彼女の事情も恩義も知ったことではありません。 リベリスタの皆さん、きっちりと彼女の復讐心も、最悪命も。圧し折ってきてくださいね?」 そう言い残すと四郎は席を立ち去っていく。 後に残されたのはリベリスタ達と、四郎の飲んでいたコーヒーのカップのみ。 ――当然それを片付けるのは残されたリベリスタ達、ということになるわけだが。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月04日(金)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●~序章~ 「クリック? (聞きたい?)」 「クラック! (聞きたい!)」 これはいつもの合言葉だった。 彼は仕事の後、私達のいる所へといつも帰ってくる。 土産話が欲しいか? と彼が問えば、私達は欲しいと答えた。 そして彼は私達が知らない話を沢山してくれた。 世界にある秘密のこと。とても不思議な世界のこと。そして自分の仕事のこと。 その全ては荒唐無稽で信じられず、また血生臭いことも多く。 でも私達にとってその不思議な話はいつも楽しみだったのだ。例え彼がそれを義務のように淡々と語っていたとしても。 そんな彼がある時言った。 「お前は一番歳が上なのだから、下の子の面倒を見なくてはいけない」 その言葉を私はそのまま受け取った。それはとても正しいことだし、私も望むことだった。 彼は面倒だったのか、義務だったのかもわからないけれど。それは私の心をより強く固めた。 だから私は強くあろうとした。実際強くもなっていった。 ――やがて、彼が帰ってこなくなった。 風の噂ではリベリスタという連中に殺されたらしい。 彼が今までやってきた行いはきっとそういう報いを受けるものだったのだろう。 だけど、私が報いを与えることもまた当然と言いたい。 報いが返ればそれでおしまい、なわけがないのだ。 私もその矛盾へと足を突っ込むことになるけれど、構わない。 ――私はあの人の為に、何かをしてあげたいのだ。 ●RainyBlue ――しとしとと。 雨雲が都市を多い、アスファルトへと雨を降らす。 三高平の市内、季節外れの雨が穏やかに降り注ぐ。 雑踏は雨を避けまばら、人々は早足に家路へと向かう。 そんな赤くもならぬ曇天の町の路地裏、人も寄り付かぬビルの狭間に――彼らは存在した。 「おかしいな? 私は確かにリベリスタを狙いにきたつもりだけど、単独のはずだったんだけどな」 雨に濡れつつ少女が小首を傾げる。 彼女は雨に濡れるのも構うことなく、自然体に立っている。 肌に張り付いた服も髪も関係なく。その手に凶悪な様相をした機械――一本のチェーンソーをぶら提げて。 紗村 ユイ。リベリスタに最も敬愛する人物を殺され。復讐という道……恐らく復讐だろう。その道に踏み込んだ少女である。 その得物は本来は工具。だが柄を延長し、刃をより硬度の高いものへ変え。取り回しをよくされたそれは、すでに工具ではなく武器である。 人をより効率よく殺すための機械。それが彼女の手にしたパーソナリティ。現在はその命、エンジンの回転を抑えて。ドッドッとアイドリングの音を響かせて、その時を待っている。 「アークだ。要件はわかるな」 ぶっきらぼうに声を掛けたのは『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)。任務であり、彼女はリベリスタを狙う刺客。それ故の素っ気無さ。戦う相手に礼儀は多くの場合、重要ではない。 リベリスタ達は、ユイとは対照的に雨への対策をそれぞれ行っている。視界を確保する者、足元を固める者、雨そのものを避ける者。 それはまるで、双方の立場の違いを明確に表すように、対照的だった。 「なるほど、バレてたか。そういうことが出来る人もいたんだっけ」 あの人が教えてくれた。ユイの言葉にはそういう意味が込められている。 「私は……ユイの気持ち、わかるかも」 『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)は呟く。彼女も本来は仇を討つ為にその力を振るうことを決意した身。 だが、様々な人生が彼女にも訪れていた。それらの出来事は復讐心を溶かし、正し。『今を守る生き方』へと変えていった。 そんな彼女だからこそ、共感する所もあるのだろう。そしてそれ故に、これを許してはいけないという思いも。 「お前さんの想いも分かる。……だが、お前さんは考えたことはあるのかい?」 訥々と言葉を紡ぐのは『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)。 「お前さんの恩人が殺したことにより、お前さん同様に辛い想いを抱き。――お前さん程力が無い故にただ泣くままだった存在を」 お前と同じ立場で。力がないが故に復讐を挑むことすら出来ない。そのような人間を、この復讐は作り出していると。 そんなことも考えたことがないのか? と。ディードリッヒは彼女へと投げかける。 「分かってるよ。分かった上で私はこの復讐をやり遂げる」 ゴールなんてないけれど、と彼女は嘯く。 相手すら定かではない伝聞。そして彼女が取った手段は復讐。彼女が満足行くまでリベリスタを切り続ける。何故ならば。 「でも私は力があった。それだけでしょ?」 何よりもシンプルな理屈。復讐するは我にあり。振るえるならばその力を存分に振るおう。それだけなのだ。 「血も繋がってないのに手を下してくれた存在だ。どんなロクデナシでもその影響はでけえに決まってる」 呻くように『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)が呟く。 親を殺されれば子は憎む。血が繋がっていない親子ならば、それもまた強いと彼女は感じる。 だが、それでも。 「判らなくもねえが……やっぱ間違ってんぜ」 因果は巡り、続ける限りは終わらない。ましてや的外れな復讐ならば。 「いいわねえ。アタシ、こういうコダイスキ♪」 『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(BNE000382)は蛇のように舌なめずりをする。様々な意味で好みであるのだろう、そしてその覚悟そのものも。 でも、絶対死なせない。決意を知った上で、死の覚悟も知った上で。おろちは死なせないと誓う。 「ねえ、いい加減始めない? せっかくの雨が止んじゃうから」 雨を惜しんで命を惜しまず。彼女の代わりに天が泣く。それ故に復讐心はさらに燃えると。 トリガーに力が入り、エンジンが唸りを増す。それは咆哮となってリベリスタを威嚇し、場の緊張を高め、戦場へと塗り替えていく。 「そうですね。そろそろ始めて――終わりにしても、良い頃でしょう?」 この場、この戦場において誰よりも彼女の心を理解しているのは『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)、彼女だろう。 復讐の是非等は重要ではないのだ。行う、行わないなどということではない。やると決めたからには行って、果たして。それから自らに是非を問えばいいのだと。 悠月は彼女を肯定する。復讐を否定せず――また、その結果の誰かの死も。そういった事象であると、肯定する。 その上で、ユイを叩く。そういった決意をその穏やかな眼光の奥に潜ませて。 「じゃあ始めよう、精一杯の復讐を! 精一杯の抵抗を!」 引き絞られたトリガーの意志を受け取り、一気に動力が回転を増し轟音を上げる。 空間を引き裂くエンジン音が雨音と混ざり合い、独特の不協和音を作り出す。 「負の連鎖が。いつまでも続かないよう……これで、断ち切る」 エリス・トワイニング(BNE002382)が身構え、油断なく彼女の様子を見る。その挙動の一つたりとも余すことなく見抜き、仲間へと伝えようと。 彼女に起きた不幸は悲しいけれど、それを断たなければ悲劇はまだ続くから。ここで断ち切らんとして、彼女は観る。 復讐は当然の事。だがそれを見過ごして、死人を増やすほどに世間を冷めて見てもいない。ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は宣言する。戦いの始まりを、言葉として。 「そんじゃあ始めるかい、フィクサード!」 空が泣き、雨音が哭く。 戦いの幕は開かれ、復讐劇が演じられる。 それを彩るは、季節外れの雨。――復讐と決意のRainyBlue。 ●Radical Engine 開戦と同時に飛び込んだのはリベリスタ達だった。 彼らはユイの手札を識っている。それがアークである彼らの持つ、リソース。 「倒すべき相手と戦う今も、俺には守るべき仲間がいる。……やらせはしない」 「まずは守りから、ってね」 ゲルトが肉薄し、盾を構え、守りを固める。自ら肉壁となり、彼女の移動を遮らんとする。 また、ツァインが放った光が味方を包み、守りと不屈の力を与えた。 「いいね、いいよ。それでこそ守る人って感じだよね!」 ユイは満足げに頷き――一切の躊躇いなく、その手にした機械を振るった。 その重量感溢れる道具は動力の助けを借り、凄まじい回転を起こす。シールドとぶつかったソレは火花を散らし、金属片を撒き散らし削り取っていく。 致命的な一撃とは言えないが、その圧力、破壊力は凄まじい。長くこのせめぎ合いを続ければ、盾ごと両断されてもおかしくない……そんな重みをもった一撃だった。 「あらぁ、素直に止めにきた相手を狙いに行くなんてイイコねえ。でも相手は一人じゃないのよん?」 ぬらりとした動きで迫り、おろちが手にした長剣を突き込む。ユイはその一撃を身を捻り、致命の傷を避け、浅くする。 だが、彼女の言ったとおりリベリスタは一人ではないし二人でもない。八人の相手、数に勝るリベリスタの手は決して止まらない。 「――もう、一発!」 羽音がすかさず飛び込み、その大剣を振り下ろす。おろちの剣をかわし、体勢の乱れた所への一撃。並の相手ならばかわすことも適わない絶妙のタイミング。 ――それをユイは、ぐにゃりとよけた。 人の限界を超える柔軟性を見せ、そこから体勢を崩すこともなくかわし、飛びのく。 「あははっ、さすが! いい動きしてる!」 復讐というには楽しげなユイの様子。恨みというだけにしては、あまりにも歪な――いや、真っ直ぐな反応。 「――より強い相手、楽しめる相手のほうが彼へ捧げるには相応しいよね!」 親愛――いや、違う。 愛情――? それも相応しくない。 彼女の態度に相応しいものは、そう。信仰。 ――彼女は、自分達を救った『クリッククラック』という男を、信仰している。 それ故に戦いを楽しみ、獲物を彼の元へと送ることに喜びを感じ、上質な供物を喜ぶ。 歪んだ愛情に育てられた歪んだ子供達。『クリッククラック』の子供なのだ。 「ならば、それに相応しい一撃を」 悠月が涼やかに呟くと、空間が裂けた。魔力の刃が空間を切り裂き、ユイを刻もうと襲い掛かる。 ユイはそれらの魔力の刃をチェーンソーで弾き、切り払い、防いでいく。だが全ては防ぐこと叶わず、刻まれ、命を吸われていく。 「凄い凄い! じゃあこっちも……凄いところ見せちゃおうか!」 「――いけない、来る!」 ユイが叫び、エリスが警告する。 咄嗟に散開したリベリスタ達。同時にその空間に――剣気の篭められた烈風が吹き荒れた。 ●Finale 「皆、しっかり……!」 「気合入れ直せよ、お前ら!」 エリスと美峰の声が戦場へと響く。 絶妙なタイミングでのカウンターヒット。咄嗟の警告で致命的な一撃とは言えなかったが、その烈風は肉薄していたリベリスタ達の纏った魔力や闘気といったものを根こそぎ引き剥がした。 即座にエリスの癒しと、美峰の結界が展開されたことでそこから戦線が崩れるということは免れた。だがその一撃の被害は決して小さくない。 「さっすが大手のリベリスタは違うってことかな。並の相手ならあれで終わってたと思うんだけど」 楽しげにユイがチェーンソーを構えなおす。それだけ自信のあった一撃ということだったのだろう。 「ああ。だから……油断はしないほうがいい」 ――そこに余裕を打ち払う声が響いた。 間合いの外にいたディーテリッヒが何時の間にかユイの隣へと立っていたのだ。 「――!?」 咄嗟に迎撃せんと得物を振るおうとするユイ。だがその挙動は間に合わず―― 振り下ろされた大剣の一撃が、ユイの纏った闘気を打ち砕いた。 「ディートリッヒ、よくやったぜ!」 美峰が畳み込むように、印を切り涙雨に混ぜ、氷雨を降らす。 それに合わせ、悠月の魔力の刃や前衛達の剣戟が雨霰とユイへ襲い掛かった。 「――くっ、あ」 貫かれ、切られ、抉られ。蓄積する負傷に焦りが見え始めるユイ。それ故に彼女は、自らの持てる能力を振り絞る。その秘奥を。 「てい、やあああぁぁぁ!」 絶叫と共にエンジン音が高まる。最大の回転を叩き出したチェーンソーはユイの膂力、瞬発力、技術、全てを飲み込みリベリスタを食い千切ろうと暴れ出す。 「――させないわん」 負傷の蓄積したゲルトへと振り下ろされる刃を、おろちが咄嗟に間へと入り込み、受け止める。懇親の一撃というに相応しいその刃。受け止め、弾いた刃が……戻ってくる。 反動と慣性と重力と膂力と、それらが合わさり戻らないはずの重量級の一撃が次々と襲い掛かる。 一発、二発と跳ね返り、振り戻り、壁で反射し、刻む、刻む、刻む。 鮮血を撒き散らし、おろちが膝を付き、地に伏す。遠のく意識にエンジンの音が響き……彼女の『運命』が、意識を引き戻した。 咄嗟に飛び退いたおろち。そこに振り下ろされたのは、さらなる刃だった。 一切の躊躇いもなく、地に伏した相手に止めの一撃を入れようと振り下ろす。それが、ユイの覚悟で決意で、復讐。 「今のうちに立て直せぇ!」 即座にツァインが間に飛び込み、さらなる追撃を防ぐ。さらに乱打される刃がツァインの盾を、防具を、守りを削り、火花を散らし鮮血を撒き散らす。 防ぎ凌ぐは僅かな時間。だが、その僅かな時間で十分だった。追い詰められた彼女にとって、体勢を整えたリベリスタ達に抵抗しきることは出来ず――戦いは終結する。 ●EndRoll 「復讐ってのは――ただの自己満足かも知れない」 打ち果たしたユイの得物を拾い上げ、羽音は呟く。 彼女なりの復讐に対する思い。それを訥々と彼女は独白する。 「死んだ人が、それを望んでいるかなんて誰にもわからないから」 「そうだね。だから私は私が望む復讐を遂げていたよ。ここで途絶えちゃったけれど」 捕縛されたユイは悪びれもせず答える。抵抗をする様子はない。 彼女にとって重要だったのは、リベリスタを殺害することではない。 『クリッククラックのつかっていた武器でリベリスタを殺害すること』 これが彼女が望んだ復讐だったのだ。ならばその武器が手元にないならば、殺す理由もない。 「恩人のことを忘れろとは言わない。だが、囚われるのはやめろ。……誰かのためではなく、お前の人生を探すんだ。」 「そうだね、皆そう言うね。――でも、皆が皆そうしたら、それこそあの人が可哀想。私みたいなのが一人ぐらいいても、いいじゃない?」 彼女の信念は折れず、曲がらず。 「貴方の恩人の残したものは『それ』だけだったの?」 「違うからこそ、このようなことになったのかもね」 チェーンソーを指し、問うエリスの言葉にも。彼女の思いは変わらない。 「あなたにも、所縁のある人は居るでしょう。もしその方がリベリスタとなったら――あなたは、殺すのですか?」 悠月の問いかけに対してのみ、彼女は眉を顰め…… 「やるわけないじゃない。大切な家族だよ?」 その時は殺されてあげる、と。けろりと、笑顔で。天に涙を預けたかのような晴れやかな表情で答えた。 やがて連行される彼女を見送りつつ、ディートリッヒが呟いた。 「恩讐を超えることは難しいもんだぜ」 「まだ、やり直せるかもしれないけどな?」 ツァインは自らの抱えてきた傷、リベリスタとしての闘いの中に出来た、命を奪った痛みを数え。すぐにその行為を頭を振って振り払う。 数えられるほど、彼の抱えた傷は少なくはない。 「あとはあいつ次第だろ。あぁ、さっさと帰って風呂入りてえぜ……」 結局最後まで雨は止むことなく町を濡らし続けた。 彼女の涙はまだ途絶えていないのだろうか。それとも途絶えたからこそ彼女の代わりに泣いているのだろうか。 しとしとと降り続ける。季節外れのRainyBlue。 後に捕縛された紗村 ユイは毎日を祈りながら過ごしているとのことだ。 神にではなく、恩人に。 彼女の命を救った男(かみ)に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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