●If wishes were horses, beggars would ride. (願いが馬なら乞食が乗り回している) ――アメリカのことわざ ●ダンス・ウィズ・プラント 某日某所。とある建物の中にはキュレーターズギルドの構成員たちが何人か集まっていた。 「急な話のクセして、これだけ集まるたァな」 集まった構成員の一人である青年――三宅令児が口を開くと、それを合図としたかのように、すぐ近くにいた別の構成員がノートブックPCを立ち上げ、一枚の画像を表示させる。 そこに映っていたのは、一つの手首だった。この画像を見る限り、この手首の持ち主はどんな生き物なのかは判然としない。大方、この世界の存在ではないのだろう。 ノートブックPCを立ち上げた構成員がこの『手首』に関する概要を説明し終えると、集まった構成員の間で三々五々の会話が交わされる。 ややあって、その会話の流れを止めるように、中性的な声がその場に、はっきりと響き渡った。 「アザーバイド絡みか。だったら、ボクの領分だね。そのアザーバイド絡みのアーティファクト――ボクが奪ってきてあげようか?」 その声に構成員たちの視線が集中する。視線を集めたのは、中性的な顔立ちと、一本の三つ編みにした腰までの髪が印象的な青年だ。 「ミドリ……なァるほど、確かにお前はこの手のモンが好きそうだよなァ。好きにすればいいんじゃねェの? 俺は別に止めねェよ」 令児が賛成の意を発したのを皮切りに、次々と賛成の意が上がる。どうやら、誰もこの青年が行くことに異存は無いらしい。 「ありがと。それに、この子たちにもそろそろ栄養をつけさせてあげないといけないからね」 中性的な顔立ちの青年――ミドリは微笑みを浮かべると、自らの左手の親指の皮を歯で噛み切った。すると、裂け目からは血液ではなく、細いツタが飛び出し、まるで意志を持っているかのようにうねる。 そのツタを右手で愛おしそうに撫でながら、ミドリはその場を後にした。 ●『誇大なる願望マノ』 「今回は特殊で厄介なアーティファクトに関する任務です」 アーク本部のブリーフィングルーム。そこで『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はクールな声音で告げた。 「今回、皆さんに回収してもらうのは、アーティファクトとアザーバイドの中間のような存在です」 感情を込めず、事務的な口調で語り続けながら、和泉はモニターに画像を呼び出した。彼女の細い指がコンソール上を走った直後に、画面へ表示されたのは手首だった。何の生物のものかは判然としないが、かろうじてそれが手であるということはわかる。 「これがそのアーティファクト――『誇大なる願望マノ』」 和泉が静かな声で名前を口にすると同時に画像が動き、謎の手首がアップになる。 「詳細は不明ですが、様々なチャンネルを放浪していたとあるアザーバイドの手首であるということは判明しています」 極力感情を動かすまいと努めていることが伺える和泉の顔と声。だが、それでもわかるほどに大きな動揺を必死に押し殺しながら、彼女は一度深呼吸すると、続く言葉を唇に乗せる。 「このアザーバイドは各チャンネルを放浪し、その先々で遭遇した生物の願いを叶えるという行動を繰り返していたようです。」 前置きしてから和泉は、集まったリベリスタたちを見回し、二の句を告いだ。 「しかし、何らかの要因により、そのアザーバイドは手首を欠損し、結果として手首だけがこの世界にて発見されたというわけです」 ここまで説明して、和泉は画像を切り替えた。手首に次いで画面に映ったのは、一人の少女だ。年齢は十歳前後かそこらで、見るからに鈍くさそうな印象がある。 「そして、この子が例の『手首』を偶然にも手に入れた少女――頼村望美(よりむら・のぞみ)。彼女の持っていた強い願望に反応し、『手首』は現れたようです」 画面に映る少女を気遣うように見やると、和泉はぽつりぽつりと語り始める。 「望美ちゃんは、運動が大の苦手なんです。だから、今週にある運動会が中止になるように手首に願いました。でも、その結果……」 そこで一旦言葉を切った和泉は小さく息を呑むと、モニターに今度は画像ではなく映像を映し出した。薄ぼんやりした背景であることからも、その映像はフォーチュナの予知した光景であるようだ。 映像の中では、いくつもの竜巻が一斉にどこかの学校へと集まり、大洪水のような豪雨が濁流となって自動車をも押し流している。「でも、『手首』だけになったことで、アザーバイドが本来有する願いを叶えるという能力は限定的にしか発揮されず、しかも著しく制御性を欠いたものとなってしまいました。しかし、限定的とはいえ、それでもその能力は強大です」 努めて淡々と、和泉は語り続ける。 「その結果、この『手首』は使用者の願望を曲解して叶える危険なアーティファクトとなってしまいました」 堪らなくなったのか、和泉は些か乱暴にモニターのスイッチを押した。スクリーンセーバーになったモニターを見る和泉の唇は噛み締められている。 「そのせいで手首』は望美ちゃんの願望を曲解し、学校に局地的な暴風雨を巻き起こしてしまいます」 事務的な声で告げた和泉はそこで一度黙り込むと、一度深呼吸してから、ゆっくりと言い放った。 「このままでは多くの犠牲者が出てしまいます。その前に、『手首』を回収してください」 和泉は一度メガネを直すと、リベリスタたちに再度向き直る。 「なお、今回もアーティファクト絡みの事案とあって、キュレーターズギルドの構成員が奪取に現れることが予測されます。これが、予想される構成員――葛木ミドリ(かつらぎ・みどり)」 その名前を告げると共に和泉はモニターにポートレートを表示する。画面に映っているのは中世的な顔立ちと、一本の三つ編みにした腰までの髪が印象的な青年だ。 「彼は種々雑多な植物が支配する異世界からやって来たアザーバイドを身体に共生させています。変異植物を武器として使う厄介な相手ですが、彼の行動を阻止し、『手首』を無事に回収してください」 ミドリがアザーバイドと共生していることを和泉が告げると、ミドリの画像が切り替わる。切り替わった画像では、ミドリの手首や指先の裂け目から、まるで血液の代わりにツタを出ていた。 「それと、『手首』は望美ちゃんが願いを取り消さない限り、彼女の願望に反応して何度でも現れます。だから、葛木ミドリから彼女と『手首』を守りつつ、彼女を説得してくださいませんか?」 そこまで説明すると、和泉はリベリスタたちに向き直る。そして、真剣な面持ちでリベリスタたちを見つめると、こう告げた。 「危険で厄介な任務であることは間違いありません。ですが、罪の無い人々を危険に晒さない為にも、どうか出動をお願いします」 そして和泉はヘッドセットマイクを外して卓上に置くと、深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月05日(土)22:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●スロウリィ・ガール 「わたし……? 頼村……望美」 通学路として使われている住宅街の一角にある公園で、『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)はランドセルを背負った一人の少女――頼村望美へと声をかけていた。引っ越してきたばかりの子供を装って彼女に接触する――リィンの考えた作戦だ。 その作戦のこともあり、予め知っていた望美の名前を、さも始めて聞いた風を装ってリィンは言った。 「望美ちゃんか。僕はリィン、よろしく。それで、望美ちゃんはどこの学校なの?」 その問いかけに対し、望美はまたも口の中でごにょごにょと繰り返した後、小さな声で学校の名前を告げる。 「あ! その学校……僕が編入する予定の学校と同じだよ!」 これも初めて聞いた風を装い、リィンは大げさに驚いてみせる。 「確か、今週は運動会があるって聞いたんだけど……?」 リィンが水を向けると、望美は静かに頷いた。 「楽しみだよね~。君もそう思でしょ?」 どんな返答が来るかは明らかだが、あえてリィンは問いかけた。すると、やはり予想通りに望美は首を横に振る。 「どうして?」 そう問いかけたリィンのことを見ては目を逸らすのを繰り返しながら、望美は少しずつ理由を答えていく。 自分は運動が苦手であること。そのせいで、いつも嫌な思いをしていること。そうした理由の数々を望美が答えた後で、彼女は瞳に涙を浮かべる。 涙ぐんだ望美が嗚咽してしまいそうな雰囲気を感じ取ったリィンは、そっと望美へと持ちかけた。 「あのさ、もし良かったら、運動が少しでも苦手でなくなるように練習しない? 僕の知り合いに運動が得意な人がいるから」 望美は相変わらず涙をこらえたまま黙っている。自分の申し出を即座に拒否しないのを了承の意ととったリィンは早速、アクセス・ファンタズムで仲間へと連絡をとる。 それからリィンが望美をなだめていると、付近で待機していた仲間がすぐに到着する。 「キミが望美ちゃん? ルカルカ・アンダーテイカーだよ。よろしく」 最初に声をかけたのは『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)だ。 「私は足は早くないですが、体はそれなりに鍛えている心算です──こう見えて案外頑丈なんですよ、私。だから、私からも何かアドバイスできることがあると思って来ました。よろしくお願いしますね。望美さん」 次に声をかけたのは『不屈』神谷 要(BNE002861)。そして、最後に『』来栖 奏音(BNE002598)が望美へと切り出した。 「こんにちは~望美さん。来栖 奏音です。それで、運動が少しでも苦手でなくなるようお手伝いするのの他に~もう一つ望美さんに御用があって今日は来たんです~」 その問いかけに、望美は瞳にうっすらと浮かんでいた涙を服の袖で拭いて、奏音を見る。 「望美さんが手に入れられた不思議な『手』。それを奪おうと悪い人たちが襲ってくるんです~。そして、奏音たちはそれを防ごうとして来たんですよ~」 その言葉に望美は驚いた顔を見せて、奏音へと問いかける。 「どうして……!? お姉ちゃん……これを持ってること……知ってるの!?」 望美はランドセルを下ろすと、蓋を開けて中から何かを取り出した。 ●ウィアード・ハンド 望美は取り出したのは奇妙な形をした『手』だった。色は黒一色で、爪にあたる部分が鋭く尖っている特徴的な外見は、およそ地球上のどんな生物にも似ていない。 強いて似ているものを挙げるとするならば、戯画化された悪魔の手だろうか。『手』というのも、指と思しき器官が五本あるから、かろうじてそうだと判るだけだ。そんな奇妙な生物の手首から先が、今は望美の手の中にあった。 実物を見て一瞬息を呑んだ奏音が、我に返って口を開こうとした時だった。 「上手い具合に言いくるめてくれてありがと。おかげで探す手間が省けたよ」 中性的な声が聞こえたかと思うと、突如としてどこからか飛んできた蔦が望美へと殺到する。蔦が望美に襲い掛かる瞬間、ルカルカは持ち味である俊敏さを活かし、望美を抱えて素早く飛び退いた。 凄まじい速度で振るわれた蔦が、一瞬前まで望美が立っていた所を叩き、まるで掘り起こしたように深々と抉るよりも一瞬早く、ルカルカは安全圏に着地すると、望美をそっと下ろして、蔦の伸びてきた方向に向き直る。 「こんにちは、素敵に理不尽ね、その蔦」 ルカルカの言葉に応えたのは先程の声の主であり、中性的な顔立ちに腰までの三つ編が印象的な青年――ミドリだ。彼は右手首から蔦を出しながら、からからと笑う。 「ありがと。褒め言葉として受け取っておくよ」 そう言いながらミドリは右手首から伸びた蔦の先端を左手で掴んでみせる、するとそこには、蔦に巻き取られた『手』があった。 「それじゃ、もう用は済んだから」 ミドリが踵を返そうとした時だった。手首に蔦がぐるぐると巻きつき、指の間にも幾重に蔦が絡まるようにして、がんじがらめにされていた筈の『手』が一瞬で消えると、再び望美の手の中へと出現する。 「なるほど。やっぱり、そのコを殺さないとダメみたいだね」 苦笑の表情に見えたのも一瞬、ミドリが一転して凶暴な笑みを浮かべると同時、彼の身体中に一瞬で花が咲き乱れる。花弁が一杯に広がるとともに、中心部がぱっくりと裂けた瞬間だった。 「危ないっ!」 待機していた付近の植え込みから、咄嗟に飛び出した『』七布施・三千(BNE000346)は仲間たちに十字の加護を与える。胸騒ぎに従った咄嗟の判断だったが、それが結果として功を奏した。 それと同時に動いたのは要だ。一瞬の判断で、ミドリに背を向けることもいとわずに、望美を抱きしめるようにして庇う。 衝撃が襲ってきたのはそれからごく僅かに後のことだった。ミドリの身体中から咲いた花が一斉に種を飛ばしてきたのだ。円錐形の形をした種の飛行速度たるや、銃弾にすら勝るとも劣らない。 膨大な量が発射されるのと相まって、まるでアサルトライフルの掃射のような攻撃が要たちへと襲い掛かる。 ルカルカは俊敏さを活かした足捌きで、機銃掃射のような種を回避していくが、要は望美を庇っていることもあって背中で無数の種の直撃を受け続けていた。 種の機銃掃射がしばらく続いた後、ふいにそれが止む。その隙に要は、腕の中で不安そうな顔をしている望美へと微笑みかけた。 「大丈夫。ほら、言ったとおり案外頑丈でしょう、私」 それに苛立ったのか、ミドリは再び右手首から出した蔦を振るい、要の背中を打つ。 「邪魔しないでよ。キミが邪魔してたら、『手』が奪えないだろう!」 呻きを噛み殺し、歯を食いしばってじっと耐える要に、蔦による更なる追撃が襲うまさにその瞬間。要の前へと飛び出した『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)が腕を交差させた状態で蔦の強打を受け止める。 「あはは、痛いなぁもう……でもまだいける!」 突然の闖入者に阻まれたものの、ミドリは再び蔦を激しく振り下ろす。しかし、その蔦は要も影時も打ち据えることはなかった。 「それぐらいにしておけ、そちらが痛い目を見たくなかったらな」 横合いから飛来した気糸を蔦へと絡め、要たちを打ち据える寸前で蔦を引っ張りながら、『』廬原 碧衣(BNE002820)は冷静な声でミドリへと告げる。そして、気糸を引っ張ったまま振り返ると、今度は望美に向けて語りかける。 「既に聞いていると思うが、アイツがお前を狙っているのは、お前が持っている物を狙っての事だ。それを私達に譲ってくれないか?」 怯えて声も出ないのか、望美からの返事は来ない。だが、碧衣は望美に自分の声が聞こえていることを信じてなおも語りかける。 「勿論タダでとは言わない。そうだな……運動会の時にお前の応援に行く、というのならどうだ? 頑張るお前の姿を応援させて貰えると嬉しいな」 しかし、ミドリも黙って見てはいない。気糸を絡めたまま蔦を動かし、強引に碧衣の身体を投げ飛ばす。碧衣が凄まじい勢いで空中へと持ち上げられ、地面へと叩きつけられる瞬間、素早く走る一つの人影が碧衣の身体を抱きとめた。 「観樂! 助かった!」 抱きとめた碧衣をそっと立たせると、人影――『理想と現実の狭間』玖珂峰 観樂(BNE001583)はミドリの正面に立ち、彼と正対する。 「てめぇの相手はオレだ。オレが貴様をぶっ潰す」 ●フェローシャス・プラント 観樂の威勢の良い口上に対し、ミドリはくつくつと笑い、彼へと向き直る。 「ぶっ潰す? いいよ? やってみれば?」 そしてミドリは標的の変更を教えるかのようにこれ見よがしな動作で、蔦の向きを観樂の方へと変える。 間髪入れずに襲い掛かってきた蔦を、観樂は真空の刃を放つほどの高速の蹴りで迎え撃つ。 「植物なんてオレの蹴りで切り離してやんよ!」 彼の蹴りによって発生した真空の刃が蔦を切り裂くかと思われたその瞬間、ミドリの顔が笑みに歪む。なんと、蔦は真空の刃の直撃を正面から受けても傷一つかない。 「残念。この蔦の強度は鉄と同じ。その程度の攻撃じゃ、切り離すなんてムリだよ」 今度は右手に炎を纏って、観樂は蔦を殴りつける。 「切り離せないなら……焼き払ってやんよ!」 必死に叫びながら殴りつけ続ける観樂。だが、またしても蔦は観樂の攻撃を平然と受け止めていく。 「ムダムダ。この蔦の構成要素は実に90パーセント以上が水分。そんな炎じゃ焼き払うなんてムリムリ」 まるで諭すように観樂へと言いながら、ミドリは更に左手首からも蔦を出すと、観樂の手足を縛り上げていく。そして、完全に捕縛した観樂を持ち上げ、視界を遮る者をどけると、ミドリは再び笑みを浮かべた。 「撃ち抜け、機関銃の如く――!」 再び種の掃射が行われ、仲間たちが種の掃射で次々と傷ついていくのを見せつけられた観樂は悲痛な声を上げる。 「よそ見しない!」 観樂を眼前の地面に叩きつけると、ミドリはほぼ零距離からの掃射を観樂に叩き込む。もはや立っていることもできずに倒れた観樂を無視し、ミドリは歩き出す。 観樂は何とかミドリを止めようとするも、身体が動かない。それを嘆こうとした時だった。 「まだ……終わってはいません……!」 同じく種の掃射を受けて傷つきながらも必死に立ち上がった三千が、高らかな詠唱で清らかなる存在へと呼びかけ、それによって呼び寄せた福音で仲間たちの傷を癒していく。 それのおかげで何とか立ち上がると、観樂は仲間たちに向けて問いかけた。 「みんな……俺に力を貸してくれ! イチかバチかだが、ヤツの蔦を……ありったけ出させれば……勝てる!」 先程倒れ、仰向けに空を仰いだ時に見えた一筋の勝機。それを信じて観樂は心からの叫びを上げる。 「勝てる? 何を言っているんだい? 明らかに格上の相手であるこのボクに? 分の悪い賭けはよしなよ」 一笑に付すミドリ。これが分の悪い賭けであることは観樂自身も解っている。だから、突拍子も無い賭けをするのは自分一人でいい。そう思ってさえいた。しかし――。 「わかった。蔦を出させればいいんだな?」 直後、力を振り絞って立ち上がった碧衣の声が響いた。 ●フェイタル・トラップ 驚いた顔で問いかける観樂に碧衣はさも当然とばかりに言った。 「信じるさ、観樂」 その言葉とともに碧衣はありったけの気糸を紡ぎ上げ、一斉にミドリへと放つ。 「また同じ攻撃だね!」 無数の気糸をミドリは先程から出していた二本の蔦を絡ませ、空中で受け止める。 「この程度で止められたと思ってるのかなっ!」 ミドリは更にもう一本の蔦を右の二の腕から生やすと、その蔦を動かして要を再び打ち据えにかかる。呻きを上げながらも、決して倒れない要に苛立ち、ミドリは更に背中から奇妙な蔦を生やした。 「いい加減にしなよ……邪魔だって言ってるだろっ!」 奇妙な蔦の先端に生えた牙のような突起を要の背中に突きたてるミドリ。すると、次の瞬間から蔦が脈動し始める。 「このまま意地張って立ち続けたら、この吸血植物に干からびるまで血を吸われて失血死だよ?」 しかし、その言葉にも要は怯まない。ただひたすらに望美を抱きしめ、守り続ける。だがそれでも、要の身体が限界に達しようとした時だった。突如として、彼女の身体に活力が戻ってくる。 「頑張って! 要さんっ!」 三千が自らの能力で要の身体を癒したのだ。それに気付いたミドリは更に蔦を増やし、吸血と並行して要を打ち据える。だが、幾度ミドリが要を傷つけても、その度に三千がその傷を癒していくのだ。 「随分と粘るねっ! でも、これで終わりだよっ!」 苛立ちもあらわにミドリは身体から球根を飛ばす。小さな球根が無数に三千の背中へと張り付くと、まるで突き刺さるように一瞬で彼の身体へと根を張った。 「その球根はこの蔦と同じ吸血植物――自分のことを何とかしないと、キミのが先に失血死するよ!」 だが、その脅し文句にも三千は臆さなかった。失血により霞む意識の中、もはや気合だけで必死に要を癒し続ける。三千のその奮闘に苛立ったのか、ミドリはなおも蔦を増やして要を叩く。 「大丈夫。望美さんは、私たちが守るから……!」 腕の中で震える望美に微笑みかけながら、要も必死に耐える。どうやら、また蔦が増えたらしい。今となっては何本もの蔦に叩かれながら、要は必死に痛みに耐えていた。 しかし、失血のダメージと、能力を使い続けたことが重なり、要を癒し続けていた三千が遂に倒れる。 「要さん……これが最後です……後は、お任せ――」 ついぞ言い切ることなく、三千は倒れる。最後に一度癒してもらった活力で、何とか要は立っていた。その背に、更に数を増やしたミドリの蔦が襲い掛かる。 それに対し、影時とリィンが要の前へと立ちはだかり、捨て身の守りに入る。 「体にお友達かい?趣味は否定しないけど、少々滑稽だね」 不敵に笑ってみせた影時は、今度は望美へと語りかけた。 「あはは、怖い? 望美ちゃん次第ですぐ終わるよ」 望美がわかってくれることを信じ、影時はなおも語りかける。 「ねえ、知ってる? 願いはさ、叶えてもらえるもんじゃない。叶えるもんなんだよ」 その言葉が望美へと伝わったことを願いながら、影時はひときわ大振りな蔦の一撃を身体全体で受け止めた。 「僕のことも忘れてもらっちゃこまるよ」 隣で同じく蔦を受けていたリィンが、倒れそうになる影時をそっと支える。その光景にミドリは更なる苛立ちを募らせ、またも蔦を増やして襲い掛かる。 「本っ当に! いい加減にしろよっ!」 だが、ミドリの怒気にも全く怯まずに影時とリィンは互いに手を繋ぐと、自分たちの身体を壁にして蔦から要と望美を守る。 「横ががら空きですよ~」 ミドリの意識が影時とリィンに集中した隙を狙い、奏音が四色の魔光を放つ。完全な不意打ちだったが、ミドリは寸前でなんとかそれに気付くと、蔦を四本生やし、それをとぐろ状に巻いて円盤を作り、あたかも盾のようにして魔光をガードする。 蔦の円盤に防がれながらも、奏音はなおも魔光を撃ち続けた。力の使いすぎで意識が遠のきながらも、彼女はまだ撃ち続ける。ミドリもそれに対応するべく蔦を増やして円盤を作るが、さしものミドリにも焦りの色が浮かぶ。 「クソっ……もう、蔦がない……!」 その時を待っていたとばかりにルカルカは望美へと語りかける。 「ね、こわいね、この世界。それ、『手』持ってたら、同じ事繰り返されるよ。今日は守ってもらった、でも次は違うかもしれない 。願いを取り消せばいいの。いいよ、ルカたちが走りかた、教えてあげる」 そして、ミドリに向き直るとルカルカは走り出し、一気にトップスピードまで加速する。それを迎え撃とうとミドリが蔦を振るってくるも、そのことごとくを避けながらルカルカはミドリとの距離を詰めていく。 「ルカの最速についてこれる?」 そして、ミドリの懐に入ると、ルカは超加速の勢いを乗せて、渾身の体当たりを見舞った。中性的なほっそりとした体格のミドリは、それを受けて大きく吹っ飛ばされる。 そして、苛立ちとともにミドリが立ち上がったのと同時、観樂の声が響いた。 「そう! その位置だッ!」 会心の笑みを浮かべて蹴りを繰り出し、真空の刃を放つ観樂。しかし、ミドリも笑みを浮かべる。 「だからその程度じゃ切れないって言っただろっ!」 しかし、観樂の会心の笑みは揺るがない。そして、観樂はたった一言、ミドリに向けて呟いた。 「くたばれ、葉っぱ野郎」 その言葉とともに真空の刃が蔦――ではなく、ミドリの頭上にあった電線の列を切断する。一斉に落下した何本もの電線が、彼の身体から生えた無数の蔦へと余すことなく一斉に絡みついた。 「確か……90パーセント以上が水分だったよな? なら、電気もよく通るってもんだぜ」 蔦を導線として体内へとダイレクトに高圧電流を流されたミドリは凄まじい絶叫を上げる。 「あああああああああああ!」 そして、その直後にミドリは身体中から煙を噴き出しながら、その場に倒れたのだった。 戦いを終えた後、望美の涙を拭ってやっていた要に、望美は『手』を差し出した。 「いいのですか?」 問いかける要に望美ははっきりと応える。 「うん。お姉ちゃんたち、私を守ってくれた。だから、信じる」 その言葉に微笑みながら立ち上がると、三千は言った。 「ありがとうございます。それじゃあ、走る練習をしましょうか」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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