●絶対零度の申し子 ――暑い、暑い。此処はまだ暑い。 ――冷たい場所は無いだろうか? 我が溶けてしまうでは無いか。 10月が終わろうとしているこの時期。場所によっては既に雪が降っている所もあるだろう。 だが、此処は本州の最南端。 雪が降るにはまだ遠い……はずだったんだが。 「寒い!! なんかすごい寒い!!」 それもそうだ、何故だか雪が大量に降っている。それも極々僅かな場所で。 雪雲がある訳でも無い。 空中から突然雪が出現しているような感じだ。 「寒い! 寒い! さむ……うわ!?」 その雪は時間と共に勢いを増す。 増して。 増して。 吹雪よりも、強烈な氷の乱舞。 気が付けば……いや、気がついた頃にはもう遅い。 身体は動かず、永遠の眠りへと誘われる。 真っ白な煙の塊が、少女の形を表す。白装束を装い、真っ白な髪を流した真っ白な少女の姿。 目や口等そういうものは無いが、形はまさしく人のもの。 冷気の塊か、彼女の周辺の空気はとても冷たい。 人の氷像を作り終えたそれは、その氷像にへばりつく。 ――暑い、暑い。まだ暑い。 ――ならば、この街を全て凍らせてしまおう。 彼女のフェーズはまだ2だが。 そのフェーズがひとつ上にあがるのは時間の問題だ。 ● 「皆さんこんにちは! 今回のお相手はE・エレメントです」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)が資料を配りながら口を開く。 「万華鏡が数日後にE・エレメントの発生を捕らえたのですが……」 冷気の塊がエリューション化して、能力により無差別に吹雪やら氷柱やら氷像やらを作り、体温を保とうとしているのである。 「そして、大変なことにフェーズ3に移行仕掛けているので、すぐに討伐して欲しいのです」 フェーズ2といえども、3に近ければその力は厄介。早めに片付けたい所だ。 「攻撃はだいたい、凍結や氷結のBSが付きます。それと大きな技を広範囲に出す時もあるので、その時は注意してくださいね」 流石冷気の塊。 だが、冷気の逆のものを当てればどうなるだろうか。 「涼しい場所を探している様なので、リベリスタが攻撃を止めてしまうと逃げてしまうかもしれないので注意してください」 眼中にあるのは飽くまでも、己の存在が保てる場所探し。 少しでも手が空くと逃走してしまう。 「E・エレメントの発生した場所は夜の大通りの真ん中なので、人気は無いのですが、一応注意してくださいね。因みに! エリューションの名前は雪子さんと名付けてみました!」 名前があったほうがいいと思ったらしい。 「それでは、お気をつけて」 杏里はリベリスタのを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月02日(水)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●その日、冷気に会う 昼の活気とは裏腹に、人通りも乏しく、光りも乏しい。大通りは、ただひたすらに夜明けを待つばかり。 だが、夜明けまではまだ遠い。夜明け前が、一番暗いのだ。 そんな闇の中に、懐中電灯やランプの明かりが灯り、結界が施された。 しばらく待っていると、白い冷気を纏った少女――雪子が静かに静かに現れた。彼女の周囲の空気は冷たく、寒い。 その足で歩いている訳では無く、冷気のE・エレメントである彼女は、地面を滑るように前進する。 冷たい場所を探して。 冷たい世界を求めて。 「メルヘンチックですけど、迷惑な雪ん子ね」 『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)が鉄球をその手に握り言った。 冷たい冷気が、握るその手を滑った。冷えたその手を自らの吐息で温める。 「ふふっ……どのような顔で溶けていくのかしら」 ティアリアの両目は綺麗な格好とは裏腹に、厳しく、雪子にも負けないほどに冷たい目線。 「……命として、失敗作」 『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)は過去を思い返していた。思えば自らと同じような境遇の彼女。それままるで鏡であり、虚像。 けれど、クリスティーナはリベリスタとして、同情を薙ぎ払う。戦うと、決めたから。 「こんばんは哀しい雪女さん。殲滅砲台がお相手するわ」 クリスティーナの両目には光りが灯る。 『悪夢<不幸な現実>』稲野辺 雪(BNE002906)は雪子を見ながら眉にしわを寄せ、不機嫌な顔をしていた。 脳を過ぎるのは赤い雪、冷たい雪。彼にとっての不幸の前兆。偶然では無く、必然に近いジンクス。 だが、いつまでも引きずって生きていく訳にはいかない。吹っ切りのついた雪はオートマチックとナイフをその手に戦う。 「……寒いです」 「全くだな」 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)と、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は寒さ対策のため着込み、暖をとっていた。 まだ完全な冬では無いが、その格好は寒中期間のそのもの。 「雪女、ですか」 『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が妖しくも小さく笑う。 雪女という名の悲劇のような、ひとつの神秘の終わりを紡ぐ。 全てはこの世に溢れて零れる知識のため。そのためなら彼は前へと進む事を止めないのだろう。 ――さあ、神秘探求を始めよう。 その姿を愚者のアルカナが静かに見つめた。 「あれを倒せば、冬もちったぁ暖かくなるかねぇ……なんつってな」 『赤錆烏』岩境 小烏(BNE002782)も、きっと寒さが嫌いなのだろう。マフラーに顔を埋めた。 「寒い……寒いけどよぉ……」 『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)がその身体を震わせた。それは寒さからではなく、内なる闘争心の表れである武者震い。 「盛大な炎や熱砂なんかで歓迎してやんねえとなぁ?」 彼の望む退屈な日常を侵す雪子に、火車は容赦の無い熱烈な歓迎が迸るだろう。 「生まれたばっかで悪いが、この世界で生きるにゃアンタはちょいとクール過ぎるぜ」 フェーズ3に近い雪子へと大剣を向けた影継。強敵を前にその片頬が吊り上がった。 各々が雪子を二重で囲む位置に着けば、準備は完了。 ――暑い。暑い。冷たい場所作る、造る、創る。 冷気を纏い、従わせ、目の前の障害物を氷と成し、糧と成す。 それまで道路を滑っていた雪子が停止し、リベリスタを餌と感知した。 ●冬に咲く花 「俺の熱いHeartでお前をHeatにしてやるぜ……ってトコか」 影継のTrickが雪子をTreatにさせる。 最初に飛び出した影継が雪子の背中にメガクラッシュを仕掛けた。 吸い込まれるように雪子へと当たった刃は、雪子を直線上にいた火車の下へと強制移動させる。 「ったくよぉ……郷に入りては郷に従えって言うだろうが」 飛び出した火車が、その腕に業火を従わせ、吹っ飛んできた雪子を殴りつけた見事な連携バッティング。 突然身体を包んだ熱に、声なき絶叫で雪子が悶える。確かで、強力な一撃。 その反撃と言わんばかりに、超範囲的に凍てつく吹雪を降らせ、彼女の前方にいたリベリスタを襲った。巻き込む空気が、その温度を更に下げる。 「ったく、生きたまんま氷づけにされるんじゃ、寝たら死ぬぞとからかう暇もねぇな」 雪子の攻撃が終わり、すかさず小烏が仲間へブレイクフィアーを。戦線を支える重要な一柱。 「ぼくは弱い。だからこそ足を引っ張らないように考えて行動しないといけないんです」 最後に雪がその拳で、雪子の胴を殴り飛ばした。 弱くとも、強敵へと向かうその姿はとても強気で本気。 雪子が雪へ接近する。 近づいたと共に、その雪子の身体が少女の形から霧へと一変。 一気に雪を飲み込んだ白い冷気の霧。雪は包まれ、その身体を氷漬けにされた。 雪女のような、その氷の抱擁。一般人なら完全に氷像と化していただだろうが、リベリスタの身体は強い。氷はするものの、動けないものの、命はある。 人型に戻った雪子が、凍らない……? と疑問に思ったように顔を斜めに向けた。 そして少し遅れて、彼女が動く。 「私ができる限りのサポートをするだけです」 『初代大雪崩落』鈴宮・慧架(BNE000666)が雪子との間合いを一気に詰めると同時に、威力を集中させた拳で雪子の脇腹へと殴り落とした。 その威力により、雪子の身体は地面へと、受身も取れずに叩きつけられた。細い身体に見合わぬ強烈な一撃。 それを見逃さなかったレイチェルが雪子にヘビーボウを向ける。 「速やかに排除させていただきますね」 放たれた気糸が雪子の足を確実に貫いた。 雪子の顔が、レイチェルへと向く。その雪子の口元から白い冷気が漏れていた。まるで怒りに震える様に。 「……ふふっ、皆さん寒そうですわね。今暖めてあげますわ。残念ながら人肌ではありませんが」 ティアリアが傷ついた仲間へ歌を送る。鉄球を持たない方の手で魔力を制御すれば、完全とはいかないが傷を治していった。 雪子の攻撃範囲外で、静かに好機を待っていたイスカリオテ。 コンセントレーションにより、己の脳のリミッターを外し、集中し相手の行動を捕えた。 攻撃の当たるギリギリの位置まで歩を進め、静かに手を雪子へと向け、狙いを定める。 「この世界は暑いですか? だがそれは違う」 地が、揺らぐ。 アスファルトに散らばる砂という砂全てが、彼の武器となる。灼熱に熱せられた砂が嵐の様に雪子を包囲する。 「貴女が冷た過ぎるのですよ、貴女の存在は世界に拒まれている」 イスカリオテが開いていた手を握れば、同じように高温の砂が雪子を包んだ。 思わず雪子が人型の形状を保てず、霧となり、地面で悶える。 かつて狂気的なフィクサードが操っていた力は今は神父の手の内。その威力はまさに甚大。 「やれやれ、日本の妖怪『雪女』みたいな敵ですね」 ライフルを向けた『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)。 彼も彼のやるべきことをやるまでだ。放たれた魔弾が雪子を容赦無く貫通する。 「貴女の在り方、私嫌いじゃないわ。だから貴女は怒って良い、拒んで良い、貴女にはその権利がある」 かつての自分と重なるクリスティーナ。だがクリスティーナは同情している訳では無い。 魔導砲を向け、放たれた強い意思は光りの十字となって雪子を焼いた。願うは、雪子が早くその境遇から解放されること。 しかし、雪子の怒りは今、クリスティーナへと向けられた。 ――あついぃいいあづいいいあづいあづいあついあついあつい!! それまでしんと静かだった雪子が頭を両手で抑えて暴れだす。身体から溢れる冷気が勢いを増した。 のっぺらぼうの様に顔の無い、形だけの顔に口のようにぽっかり中心に穴が空く。 海老反りの様に曲がりながら聞き取れない何かの詠唱が始まると共に、氷柱が召喚される。 「雪花繚乱!?」 「いや、これはまだ、違う」 クリスティーナが警戒したが、星龍が直感で違うと悟った。 召喚された氷柱がクリスティーナと、その前に居た影継を巻き込んだ。 ●炎の一撃 包囲し、範囲攻撃に備えて距離を取っていたのが幸だったが、人数的な意味での被害は少ない。 だが雪子の冷気纏いにより、ティアリアの動きが制限されれば、回復が追いつかない者もしばしば。 小烏や慧架の様に自己回復できるものの体力はそこそこ残っているが、厳しい戦いが続いている。 口から息を荒々しく漏らす雪が、意地でその足で立っているが、限界も近い。 けれど、仲間を信じているからこそ、まだその拳を雪子へと向ける。 「ぼく1人で戦ってるわけじゃないです。ぼくが出来ない事でも仲間なら出来る。仲間を信頼して戦う、それだけです」 仲間を信じればこそ、敵へと向かうことができる。 再び振り上げた拳は、雪の全力。その意思に反映し、本来の威力以上の力で雪子を叩く。 疲労の蓄積により、人型を保てなくなってきた雪子がぶれる。リベリスタ達は確かに雪子の体力を削りつつあった。 「弱点じゃなかろうが、真っ向から通してやるぜ!」 その十分たる力で影継がギガクラッシュを放てば、同時に雪子が冷気纏いを影継へと飛ばした。 交差する剣と冷気。確かにギガクラッシュが雪子を両断したが、その反動と凍結のリスクを負う。 だが、そんなことも想定内である。最終的に勝ちへと繋がれば大いなる一撃、大いなる功績。 影継の一撃はとても重い。雪子の身体が更にぶれていく。熱く、痛く、その体力は削れていく。 本来ならば、小烏のブレイクフィアーがリベリスタを助けていたが……小烏の精神力も尽きた。 支援ができないのであれば、攻撃するのみ。 残った少ない力で鴉を符で呼び出し、雪子へと向かわせた。 レイチェルが弓を持たない方の手で雪子を指さし、白く輝く閃光を放つ。 「そろそろ、排除させて下さい」 防寒装備に肌を埋めながらも、確実に当てるレイチェル。雪子を貫く光りが辺りを一瞬照らした。 光りの余韻で暗さに目が慣れるその前に、すかさずイスカリオテがピンポイントを放つ。 何より確実な一撃が雪子の逆鱗に触れる。終わりは近いのかもしれない。 「これからが、本番ですのね」 歌が、響く。 氷結から脱出したティアリアが全体回復を行なった。まだ、希望はある。 だが、その時だった。 雪子が冷気を爆発的に拡散させ、それが陣を描いていった。それはまさに……。 「ああ、いけません。雪花繚乱ですか」 仲間へとイスカリオテが呼びかけた。各々が全体攻撃へと備えた。 レイチェルがピンポイントをその手から放つと同時に、後退する。 小烏、星龍、雪が範囲外へ後退し、クリスティーナがティアリアを庇う位置についた。 イスカリオテはその目を開き、集中し、攻撃の一部始終を脳へと焼き付けていく。それは知への執着。怪我を伴うリスクさえどうだっていい。その雪子とイスカリオテの間に慧架が入る。 ――ただ向かう者も中には居た。 「チャンス到来だろ!!!!」 走り出したのは火車。 動けない影継が静止を呼びかけたが、止まるだなんて有り得ない。 「良い燃料があるじゃねーか! そうだ、手前を燃やし尽くして暖まろう!! ってなぁ?」 炎を纏い、拳を当てる。 その瞬間、冷気の花びらが範囲内のリベリスタ達を包み込み、その身を凍て尽くす。 雪花繚乱が放たれた場所が、白い霧の様になっており中の状態が見えない。 しばらくすれば、風が霧を払い尽くした。 被害は甚大。 後衛へと下がった小烏が息を飲んだ。 元々から蓄積されていた消費も響き、前衛で立つものがいない。 雪子はその顔を斜めに傾け、リベリスタ達へ背を向けた。 ゆっくりと逃走――そしてフェーズ3への夜行。狂う冷気が、見知らぬ一般人を沢山殺すかもしれない。 それだけは、なんとしてでも止めなくてはいけない。 ――逃走? ざけんな!―― 声が聞こえた。雪子の動きがピクリと止まる。 振り向けば、横たわる火車が地面のアスファルトへ拳を叩き込んでいた。 響く激痛。悴む拳。 それでも火車はその足で立とうと、必死に抵抗する。 退屈な日常が、楽しい日常が良い。けれど、この世界はそれを許さない。 ならば非日常を拳で叩き割るまで。日常をその手で掴み取るまで。 そして何より――目の前の敵は粉砕するまで。 彼のその譲れない意地と意思に、運命と世界は味方をする。 ゆっくりと立ち上がりながら、赤い光りが彼の怪我を少しだが治し、少しの精神を回復させた。 立ち上がった頃には、火車は完全なる戦闘鬼。 「てめぇ如きに!」 そのまま休む暇無く走り出し、拳に纏いし業火は煉獄の炎の如く赤く燃え上がる。 「オレを!!」 跳躍し、向かうは雪子の、その冷たい冷たい顔面。 「凍え尽くせるかぁぁああ!!!」 本来の威力より増したその烈火の拳は、雪子の顔面を叩き潰し、燃え尽きた火車はそのまま流れるように地面へ倒れた。 「散々やってくれましたが……では、お返しの時間と行きましょう」 攻撃の範囲内へと走ったレイチェルが弓を引く。 微笑を浮かべるが、けして目は笑ってはいない。 「それでは、さようなら」 放たれたピンポイントが雪子の胴を居抜く。 その瞬間、エリューションとしての力を全て失った雪子は霧と化し、風と共に消え去っていった。 再び静まり帰った夜の大通り。 「そう。かくて雪女の物語は幕を閉じる。めでたしめでたし、と」 雪子の終始を見届けたイスカリオテがAFを閉じれば、非現実から現実へと戻る。 その横でクリスティーナが雪子へと祈りを捧げていた。 残骸も無い、完全なる消滅。ならばせめて彼女のために祈る。感傷であろうと構わない。 レイチェルが自らの悴んだ手を握ったり解いたりしていたが、どうも鈍い。 「感覚が麻痺しちゃってますね……早くお風呂でゆっくり温まりたいです」 寒い季節はまだ、始まったばかり。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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