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渡し守は憎悪の川を遡る

●鳴らせ鳴らせ葬送曲。
 死者が歩く。
 群れをなして道を緩やかに緩やかに進んで行く。
 列をなして一歩一歩確実に足を進めて行く。

 最初にそれを見付けたのは、ランドセルを背負った少年らだった。
 見慣れぬ光景に目を瞬かせて、だがすぐに興奮で輝かせる。
「すっげー! ゾンビだゾンビ!」
「お前ちょっと触ってこいよ!」
「えー、やだよきもちわりいー!」
 ぎゃあぎゃあと騒ぐ子供らに気付いたのだろう。
 列を歩く一人が、少年らを手招く。
 その裂けて白いものが露出している頬が、微かに笑みの形に歪んだ気がした。
 少年らは顔を見合わせ、ひそひそと囁きあう。
「おい、呼んでんぞ」
「えー、きもちわりいってば」
「弱虫ー」
「ちげえよ!」
「俺行って触っちゃうもんねー!」
「あっ、抜け駆けなしだぞ!」
 だが、躊躇いもほんの一瞬。
 好奇心が勝った少年らは一斉に列に向けて駆けて行き―― 一気に列の中に引っ張り込まれた。
 ゴキリという音以外、悲鳴さえも響かせずに。
 
 死者が歩く。
 群れをなして道を緩やかに緩やかに進んで行く。
 列をなして一歩一歩確実に足を進めて行く。
「すっごい何アレ!」
「ハロウィンの仮装かなあ。ちょっと早くない?」
「でもすっごいねー。皆凝ってる。写メっていいかなあ」
「アンタ好きだねああいうの」
 女子高生が遠目に囁き合う。
 そんな様子を認め、列の中心辺りにいた老年の男が笑って手招いた。
 やはり顔を見合わせて、少女らは言葉を交わす。
「あ、でもほら、手招きしてるよ」
「近寄っていいのかな。あ、すいませーん、撮ってもい」
 少女が手にした携帯が落ちた。
 目の前から消えた友人の行き先が分からず、呆気に取られ振り返った少女の背後からもまた手が迫り――引き込まれた彼女の、あれ、という声だけが、間抜けに中空に残された。


 死者が歩く。
 群れをなして道を緩やかに緩やかに進んで行く。
 列をなして一歩一歩確実に足を進めて行く。
 動きはバラバラなのに何処か規則正しく。
 統一性などないのに一つのものの如く。
 まるで賑やかなパレードでもあるかの様に、段々と、段々と数が増えて行く。

 中心に立つのは一人の男。 
『さあさあさあ、死せよ、ふえよ。葬列の参加人数は多ければ多い程に宜しいでしょう!』
 ケラケラケラと、男は笑う。
 額の中心に穿たれた穴を開け、衝撃で破裂した後頭部から脳を覗かせて。
 喪服のような黒いスーツを着こなした、落ち着いた物腰の老年紳士はにいいと笑った。

 かつて渡し守を名乗り、彼岸と此岸を偽りの船で渡した男は自ら川を乗り越えた。
 彼の好きな曲。
 ベルリオーズ幻想交響曲、第五楽章。
 壊れた筈の携帯電話から鳴り響くそれが、彼らの行進音楽。

●崩せ崩せ死者の墓。
「Do you remember?」
 ぱさり。
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が机の上に投げたチラシは、白黒一枚の簡素なもの。
 書かれた文句も簡単かつ単純。
『貴方の大事な人、生き返らせます』
 荒唐無稽な、鼻で笑っても不思議ではないチラシ。
「前に『カロン』って名前のフィクサードが配っていたチラシだ。ヤツは死体をアンデッド化する能力を持っていてね、死体を『生き返らせる』ふりをして金を稼いでいたんだ」
 致命傷であったはずの傷も塞ぎ、外見を整えて綺麗な『生ける死体』となす業。
 だがそれも過去の事。
 リベリスタによって彼は命を絶たれたはずであった。
「そう。ヤツは死んだのさ。渡し守は自分が船に乗る側になるはずだった、けれどね」
 伸暁は笑う。皮肉げに。
「カロンは自分の体にも何らかの能力を使用していたらしい。その場ですぐに『蘇って』は不都合があるかも知れないから、数ヶ月をかけて発動する『蘇生』の能力。……賢いお前らならそれが『蘇生』なんかじゃない事は分かるだろう?」
 含みを込めた目で見やる伸暁に、リベリスタの数名が面倒臭そうな表情を浮かべる。

 元より彼の能力は『生き返らせる』のではなく『死体をエリューションへと変化させる』だけの事。
 本当に生き返らせられるのならば、それを使わないはずもなく――即ち、彼自身も結局は生き返ったのではなく『アンデッドと化した』に過ぎないのだ。
「遺体は一時保管の後、火葬されて埋められた。その矢先だよ。周囲の墓の死体も引き連れて、アンデッド・パレードのファンファーレ」
 偽物の蘇生。
 死亡した事で能力が幾段か劣化したのか、外見すらも繕えなくなった様だ、と伸暁は言う。
 だからさながらゾンビ映画のように、半端に肉を取り戻した集団は出来損ないの『不死者』に導かれて緩やかに進軍を始まるのだと。
「ヤツが『蘇った』墓場は少しばかり郊外にあるんだが……悪い事にその辺りには学校が多くてね。ハロウィンも近いし、『何かのイベント』だと思った子供らが寄っていった上で『パレード』に加えられる未来が見えた」
 何かの目的を持っているのか、とリベリスタが問う。
 生前はひたすら身を隠して行動し保身を図っていたフィクサードが、蘇った上でそんな派手な事をしでかす理由があるのかと。
 だが、伸暁は首を横に振った。
「さて、分からない。ただ知能が落ちた分、根底の欲に従いやすくなっているんじゃないか。……カロンじゃなくて、ハデスにでも成りたかったのかもね」
 嘯く言葉が真実かどうかなど分からない。
 ただ、死者を連れた紛い物の王に、パレードを続けさせ、軍勢を増やさせてやる必要など何もない。
 伸暁は、リベリスタにうっすらと笑ってみせる。
「Ash to Ash,Dust to Dust.……もう一度あいつを殺してきてくれ。そうすれば、今度は灰も残さず燃やし尽くしてやるから、さ」
 ま、俺が燃やすのはソウルだけだけどな。
 いつもの通りの軽い言葉で、彼はリベリスタをブリーフィングルームから見送った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月04日(金)23:06
 外道ロマンスグレーより、愛を込めてハッピーハロウィーン。黒歌鳥です。

●目標
 E・アンデッド『カロン』とその他アンデッドによる『パレード』の殲滅。
 カロンを討伐したとしても、三分の一以上アンデッドが残存した状態で撤退を余儀なくされた場合は失敗となります。
 一般人の犠牲はない方が良いですが、最優先は『パレード』を止める事です。

●状況
 夕暮れ。
 墓場から街場へと続く道。
 舗装されている道も砂利道も存在します。
 住宅はやや控えめです。人通りは少なめ。
 ただ、下校時刻に当たっている為、放っておくと帰宅途中の小中高生が現れます。
 あまりそちらの対策に人数を割くと戦力不足に陥るかもしれません。
 準備の時間はほとんどありません。

●敵
 ・E・アンデッド『カロン』
 過去依頼『貴方の大事な人~』にて死亡したフィクサードです。
 白髪の紳士然とした男です。生前はヴァンパイアでした。
 今回は逃亡を試みません。『パレード』の中心付近にいます。
 死体をエリューション化する能力は保持したままであり、彼が存在する間に一般人が『パレード』に殺されれば自動的に仲間入りします。
 ・ブラッディ・アンサンブル(遠単/出血)
 ・アンデッド・ウォーキング(遠全/ブレイク・毒)

 ・E・アンデッド×60
 カロンの『パレード』を成すアンデッド集団です。
 さして強くはありませんが数が多いです。
 単なる死体を操っている訳ではなく、既に革醒済みのアンデッドなのでカロンを倒しても止まりません。彼らは『パレードを巨大にする』のを第一目標としています。
 なのでリベリスタに拘らず、一般人が存在すればそちらを狙うでしょう。
 近接単体攻撃のみです。

 アンデッドはカロンも含め麻痺及び毒系列のバッドステータスが無効となります。

●備考
 レッツゾンビパレード。
 相談期間は五日間となっております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
ナイトクリーク
佐々木・悠子(BNE002677)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
マグメイガス
風見 七花(BNE003013)
デュランダル
飛鳥 零児(BNE003014)
■サポート参加者 4人■
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
スターサジタリー
立花・英美(BNE002207)
ホーリーメイガス
ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)

●生と死を読み替える
 死が香る。
 人はそれを死臭と呼ぶのか。
 濃密な『死』が隊列を組んでやってくる。
 昼と夜の切り替わり、魔と逢う時刻にやってくる。
 わたしはだあれ、あなたはだあれ、隣の貴方は死んでいる。
 自我も記憶も尊厳もなく、一つの目的で構成された歯車の集まりが全で一の機能となる。
 それが『パレード』であり、生ける死者による葬列。

「死して尚、生者に迷惑を掛けるとはね」
「まったくぅ、迷惑な行列だよぉ、仲間は増えるし道は通れなくなるしぃ、運送業が滞っちゃうぅ」
 凛とした目で先を見つめる『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)に、間延びした調子で『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)が同意する。
 人心の隙間に付け入り命を弄び金を稼いだフィクサード。蘇ってもまだ手を煩わせる。大体の人間は死ねば五割は美化して貰えるものだが、この相手に関してはそうもいかない。所詮は死者であり愚者。ならば送り返そう、冥府まで。
 義憤を覚えるミュゼーヌとは異なり、御龍は多少の楽しみを向けている。多数の敵。居並ぶ敵。戦闘を愛する彼女にとって、殴って蹴って切り倒す敵の数は多ければ多い程に爽快感が増す。まとめて切って川の辺へ。笑い声は喉の奥で消え、秘めた感情が瞳の奥で冷たい炎を燃やす。
「お仲間を増やそうとしているみたいで執念深いです。おっかないです」
 小柄な少女が首を振る。風見 七花(BNE003013)は己の手に嵌められた手袋を撫で、意識を集中させる。人払い。神秘に耐性のない人間の意識をこの場から遠ざけ、寒風の中のパレードが通る道を整える。
 実際のハロウィンであれば平和であった。だがこれは違う。出来損ないの葬列だ。

 途中で別れた『半人前』飛鳥 零児(BNE003014)は姿も作業員を装い、手早くコーンとロープを設置していく。途中で訪れた人間には迂回路を教え、『高嶺の鋼鉄令嬢』大御堂 彩花(BNE000609)と共に手分けして人払いの結界を張る。
「はい、はい、じゃあもし生徒さんを見かけたらこちらで声を掛けます、ええ」
 彩花の掛けたガス漏れ工事を装う電話も、概ねは深く疑われずに済んだ。しかし既に授業を終え、帰路についている子供にまでは説明できないと言う。その子供らはこちらで捌くしかあるまい。とはいえ結界を、工事用看板を乗り越えて入ってくる子供はそうそういないだろう。
 だとしたら後は結界でカバーし切れなかった場所。少女は忙しくぱたぱたと駆けて行く。

 死しても黄泉返り、群れを作り、数多の不幸を積み上げる。
 ふざけた在り様。許容できない人間性。
 どのような生き方を重ね、心を重ね、闇を重ねれば到る場所なのか。
『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は思考する。否、思考を止めた。知りたくもない。
 少女の外見に強い意志を秘め、アラストールは前を向く。
「事情は知らんが……まあ、蘇ったと言うなら再び沈めるだけだ」
 偶然に、アラストールの心の内と似た様な事を口にして『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)が古びた銃を肩に負う。近代では骨董品の域に達するであろうそれを、現役のものと変わらず扱うだけの経験は積んでいる。後必要なのは撃ち抜く的だ。
「……絶対に阻止しないといけませんね」
 瞳の奥に強い光を秘め、『熱血クールビューティー』佐々木・悠子(BNE002677)が口にする。許せるものか。死人が生者を引き込むなどとは酷すぎる。ならば止めて見せよう。
 墓を暴いて死者を引きずり出し、立ち上がった死人ごと。
「そうよ、ルカはアンダーテイカー。墓を荒らすものは許さないの」
 とん、と爪先がアスファルトを蹴った。走る前の準備運動、刈り取る備え、『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は目を眇める。
 交響曲が聞こえてくる。
 行進曲に変えられた、ちぐはぐな音がやってくる。
 さあ、パレードが始まる。無粋で無様で無用なパレードが。

●死者が蘇る
 溢れる死人。男も女も大人も子供も赤白黒も入り乱れ、リベリスタへと向かい来る。
 ミュゼーヌが熱でカロンの居場所を探ろうと試みるが、視線の先にいるのは誰も彼も死人ばかり。
 カロン自身も結局死人。火に焼かれ冷たい土の下、息を潜め続けた彼も今は出来損ない。熱のない死人。見分けはつかない。腐臭。溢れるそれから伸びてくる手に、少女は嫌悪感を示す。

 素早い獣。筆頭として上げるのは肉食獣。逃げる獲物を追う為に、脚力を上げた生粋の狩人。
 草食獣とて遅い訳ではありえない。生存の為に速度を上げる。逃げ切り明日を繋ぐ為に特化する。
 だが、狩る為に速度を上げる草食獣は?
「最速の羊って不条理なの」
 金槌が風を切る。
 痩躯の端に錘をつけて、遠心力を味方につけて、威力の為に速度を殺したはずのそれがブレる程に素早い一撃を近くの死人の脳天に。
 割れた、砕けた、ごぎゅりと音がした。
「冥府の渡し守が現世に帰って何とするつもりじゃ」
「もう一度、己が居場所に帰っていただきましょう」
 ミュゼーヌの隣で、『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)と『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481) が頷きあう。
 ゼルマの全身に魔力が行き渡る。多数に無勢、数だけで見ればそう評されるであろう皆を支えるのは彼女の細腕の役目だ。攻撃は任せた。だから存分に戦うがいい。
 薄っすら笑う彼女の言葉は、友へと届き力となる。
 星龍は七花と合わせ、カロンの居場所を探る。
 伝えられた場所、中心付近。
 アバウトに大雑把に、ただ分かり易く伝えられたそれを頼りに、尋常ではない意識の集中と動体視力を以ってパレードを見る。
 そこ、と指したのは二人同時。
 アークで見た彼の写真、息をしない物を言わぬ死体となった直後の彼を写した写真と寸分違わぬその姿。サングラスの奥の目でそれを見通して、星龍は獲物を構え直す。

「さあ、踊れ……!」
 二人が指した場所に向け、龍治の火縄銃から無数の星の光が零れ出る。瞬きはそのまま凶器となり、多くの死体を打ち据えた。
 笑う声がする。嗤う声がする。
 肉の壁の向こうで、渡し守が笑っている。
「その笑いごと、止めて見せよう」
 アラストールの剣先が十字を描き、生まれた光が死者の上空からカロンを狙い降り注ぐ。
 不浄を絶つ意志そのままに、光は死者を貫いた。
 けれど嗤いは消えはしない。
「ふん。雑魚どもが。他愛もないな」
 死体を前に御龍も嗤う。群れて叩いて数だけが頼りの烏合の衆。彼女の刃が振り下ろされて砕かれる肩。取り回しは豪快、けれども狙いは正確に。ああ愛しい愛しい戦いよ。
「暴虐を見逃す事などできません」
 悠子の紅死連が銀の軌跡を描いて一体を切る。本来ならば周囲のものごと刃と踊りたい所だが、突出を避け味方が集まる陣形上、味方を巻き込む行為は避けたい。故に今は叶わない。
 雷撃が散る。
 ほのかに青い稲光が、雷雲など存在しない地上付近で荒れ狂う。
 七花の呼んだ雷は問答無用の暴力となり、死者の群れを叩き伏せる。

『ああ、嗚呼、リベリスタの皆々様か。ああ、それでは貴方がたも共に! 共に!』

 声がした。此方へ来いと呼ぶ死者の声がした。
 一斉にリベリスタを眩暈が襲う。
 響く腐った足音が鼻から入る死臭がぞわりと溶けていく皮膚の触感が骨と化していく仲間の姿が、脳を冒し毒し呼び寄せた神秘の加護を取り払う。夕闇で生死の境が曖昧になる。わたしはだあれ、あなたはだあれ、隣の貴方は死んでいる。あなたもあなたもあなたも貴方も!
 死者が歩いてやってくる。
 引きずりこもうとやってくる。
 ほら、手が。
 死が。

「死に戻りし迷い人よ、破魔の矢にて消えなさい!」
 涼やかな声が怒りをもって場に響く。
 打ち込まれた無数の弾丸。死人の手足が手足が頭が頭が踊る、踊る、滑稽に。
 己を死に導いた『ミス・パーフェクト』立花・英美(BNE002207)の姿を認めたのか。
 カロンの笑い声が、一層大きくなった。

●死者は黄泉返る
 接近戦を行う者を前に、射撃を行う者を後ろに。
 群れに楔を打ち込む様な陣形を取ったリベリスタの作戦は、狙った効果を発揮していた。
 敵の数が多い以上、大人数戦を得手とする射手が多いのは幸運。
 しかし、敵の数が多い故に、前に立つ角の鋭さが削れて行く。
 射手がなるべく多くの敵を捉えようと位置取ると、隙間に死者が入り込み易くなった。
 実力だけで言えばリベリスタには届かぬ死者でも、四方八方囲まれれば中々の脅威となる。
 回復の要であるゼルマは近くの仲間がカバーし続け、前衛はなるべく背中合わせに密着する事で被害は極力減らせていたが、リベリスタに届かぬ死者がじわじわと半円から円へと輪を広げた上、狭め始めているのが分かった。

 カロンが笑う。嗤う。リベリスタを嗤う。
『殺して殺して殺す貴方がた、死を厭っても死しか運べぬ貴方がた』
 流れる。血が流れる。生きた者の血が流れる。
『個性をなくした死者の前では嘆きすらも見せぬ皆様が、私を外道と罵るか』
 死人の腐汁が流れ体液が流れ髄液が蕩け脳漿が散る。
『命を奪うのが罪だというならば、罪に問われるべきは貴方がたではなかろうか』
 仮初の生で仮初の死から、本当の死に戻っていく。
『否と言うなら私は問おう。誰も害していない私は何故に殺されたのか、と!』
 戯言に過ぎない。寝言に過ぎない。脈絡も熱もない芝居がかった演説。
 死が、死が、満ちていく。パレードから離脱したものが、死の匂いを色濃くして行く。

 だが、死によって際立つのは生。
「――命を弄ぶ奴は許しておけない」
 声がする。生きる者の声がする。
 犠牲を出さぬ為に彩花と駆け回っていた零児の剣が、カロンに続く死者の一体を屠り去った。
 後は任せろと微笑んだ彩花を信じ、彼は姿の見え始めた渡し守に鋭い視線を送る。
 淵にて戻った死に損ない。川を越えた逝き損ない。大きな隔たり。
 九死に一生を得たからこそ、己の生の大事を自覚し命の重さを知る彼だからこそ、許しはしない。許せない。
「熱いですよ、気をつけて下さい」
 七花が注意を促し、カロンを中心に炎が舞う。燃えろ燃えろ。炎に焼かれ、死者が灰へと返って行く。安息の地へ帰って往く。
 悠子が死体と死者を蹴り、刃をカロンに埋めさせる。
 英美によって額に穴を穿たれた姿のまま、カロンは笑う。ケタケタと。
 殺意も憎悪も浮かばせず、滑稽なまでに出来損ないのパレードを続ける指揮者の役柄。
『私を『また』殺されますか、死神のお嬢さん!』
「再びあなたを殺す? 違いますね……あなたは生きてなどいない!」
「こんな馬鹿げた祭りは終わりよ」
 愛すべき武器を構えた乙女らが双璧を成し、魔力の矢が弾丸が、雨霰と降り注ぐ。
 ミュゼーヌの柔らかな茶髪が、英美の真っ直ぐな金髪が、消え掛けた陽光の赤に染まる。
「もっと我と遊ぼうではないか!」
 笑い声。笑い声。良識の域からは逸脱するかも知れない笑い声。肉を切り骨を断つ感触に、戦場の空気に御龍は笑う。好ましい。
「ほれ、亡者どもをさっさと片付けるがよい。妾が手伝ってやおうぞ」
 ゼルマの呼ぶ歌が、死者の拳に足に爪に歯に痛む仲間を癒していく。
「覚悟は良いか?」
 龍治の火縄銃が弾丸を吐き出す。偽りの生を食い千切らんと風を切る。
「冥土の河で本物が待っている、言い訳を考えておく事だ」
 死者の群れは数を減じ、減じ、減じ。声の通るほどとなったカロンに向けて、アラストールが宣告した。

『ああ、何故そうも死を厭うのか! いずれは貴方も私も朽ちる身に過ぎないのに!』
 死者の残りが取り囲む。
 カロンの大げさな嘆きに誘われて、死者がリベリスタを取り囲む。
 数は暴力。数の暴力。光を失い濁った目が何対も何対もリベリスタを見詰める。
 引きずり込む為に、数を減じた『パレード』を再構築する為に。
 何の為、と問うても答えは返らない。彼らはそういうものとなったから。
 抜けて駆けたのは、褐色の羊。
「そう。もう貴方はおわったの、墓に帰るの」
 さよなら。
 唇が紡いだ別れの言葉。世界からの今生の別れ。
 カロンの姿が見えてから集中を重ねていた彼女の槌は、細い右足軸の回転に従い側頭部を打ち。回転と共に次の手に渡されたそれが、今度こそ頭を砕いた。

●渡し守は黄泉帰る
 闇が迫ってきている。
 誰そ彼が終わっていく。
 気付けば死者に埋もれ、立っている人数は減っていた。
 星龍と龍治が負傷者を死者の布団から引きずり出し、ゼルマが癒しを施して行く。
 動くものはもう、生き続けている者だけだった。

「あ、はい、一応持ち帰りですね。分かりました」 
 用心の為、遺体はアークの目の届く所で再度処分するとの事。こちらで処分する前に、と確認を取った七花は伝えられた言葉に頷いた。
 頭蓋を砕かれた死体は直視するには惨く、時折視線を逸らしながらも確かに死んでいるのを確かめる。
 再び彼は焼かれるのだろう。今度こそ、彼女の炎にも劣らぬ程の業火にて。
「そう。じゃあ事後処理は職員に任せて離脱しましょうか」
 ミュゼーヌの言葉に仲間が頷く。パレードは消え去っても、死体までは消え去らない。
 後の事は、リベリスタの成功を信じて待機していた事後処理部隊がなんとかしてくれるはずだ。
 七花の傍、屈み込んだルカルカがカロンを見詰める。
「ね、ルカもベルリオーズ幻想交響曲は好きよ」
 死んで生きている間には届かなかった言葉を囁きながら、ルカルカが手にした携帯電話。胸ポケットから零れ出た、黒い携帯。
 先程から演奏を流し続けるそれ。魔女の夜宴をモチーフに織り上げられた章。彼自身の葬儀。数字ボタンに反応はなく、電源ボタンで再生と停止を繰り返すだけのそれ。
 しばし眺めて、電源をオフ。
 薄暗がりの中、音は止まった。音楽は止まった。行進は止まった。

 パレードの余韻さえ消え去って、後に残るは死者の夢だけ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 カロン、そして『パレード』の撃破成功となります。
 流石に三度目はありません。
 お疲れ様でした。

===================
レアドロップ:『魔女の饗宴の夢』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)