●陰陽さん 麗らかな昼下がり。 ほのぼのとした陽光。 鳥の囀りが聞こえる。 「ふわ~ぁ……、ねっむぅー……働きたくねーわァ……」 寝っ転がって空を見て、その異形はまた欠伸を一つ。 ●マスター・オブ…… 「……インヤンマスター。 インヤンマスターは多彩な支援能力と変則的なスキル、高い命中回避を持つ後衛術士です。 パーティ全体を強化する支援スキルを持ち、全体攻撃も得手とします。 東洋で独自の進化を遂げたその技は変則的であり敵を見事に幻惑します。抜群の対応力がある事も強みです。 書類に書かれた文字を口にして――『マスター・オブ・韮崎』シャーク ではなくこう見えて37歳なメカニカル系男子メルクリィですぞ。フフフ。」 事務椅子をくるんと回し、リベリスタ達へと向き直ったのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)。いつものニヤニヤ笑いで一同を見渡す。 「はいそんなこんなでこんにちは皆々様、ちゃちゃっと本題に入りますんで耳かっぽじってお聴き下さいね」 自ボケをスルーした彼がリベリスタ達に見せた書類には『ノーフェイス:インヤンマスターモドキ』という文字とその画像、更にその説明が記載されていた。 「御覧の通り、我らが地元愛の戦士・韮崎様でお馴染のインヤンマスターに酷似した能力を持つノーフェイスが現れましたぞ。その名も『YN』……”イ”ンヤンマスターモドキ”ノ”ーフェイスの略ですな。」 資料を卓上に、機械の腕を伸ばしたメルクリィがモニターを慣れた手つきで操作する。映し出されたのは朽ちた屋根の上で昼寝をしている三面六臂の異形――平安貴族の様な古典的衣服を身に纏っている。顔は無く、そのかわりに不気味な魔法陣。そばに六本の錫杖が置かれているが、これが『YN』の武器なのだろうか。 「皆々様の中にもインヤンマスターの方がいらっしゃる筈ですから良く分かるかと思いますが、『YN』は変則的なスキルと高い命中回避を持つ後衛術士ですぞ。 そうそう! 状態異常を攻撃の要とする皆々様に朗報ですぞ。これまでのモドキ達には状態異常系が一切効かなかったのですが、なんと今回の『YN』には効くんですよね! ……しかーし! その分向こうもイヤラシ~い状態異常でイヤラシ~く攻めてきますぞ。そして状態異常無効が無い代わりなのかどうなのかは知りませんが、『YN』は常時リジェネレート状態ですぞ。長期戦になるかもしれませんな。 『YN』の攻撃方法はインヤンマスターのそれとほぼ一緒+α強力な独自技を持っているようですぞ。 なんでも極意の一撃だとか……ビームを放つようですな。ノーダメージなんですが、呪い、不吉、不運、致命、ブレイクを伴うおっそろしい一撃です。 ですが『YN』はこの技を使った後、しばらくファンブル値が倍増するようですぞ。この時間を上手くチャンスに繋げて下さいね」 言い終わると、一応渡しておきますぞと新たな書類を卓上に置いた。インヤンマスターのスキル説明が記載されている――後でしっかり読むとしよう、必要があれば仲間のインヤンマスターに色々訊いてみるのも良いかもしれない。リベリスタ達は顔をあげてフォーチュナへ意識を向けた。 「次に場所についての説明です、しっかり聴いて下さいね」 リベリスタ達の顔が自分の方を向いた所で、メルクリィが説明を再開した。モニターには木々に囲まれたボロボロの廃神社が映し出されている――其処彼処に雑草やコケが自由に生え、階段や鳥居、狛犬像や灯篭は悉く古びて朽ち果てている。 「今回の戦場となる場所はこの廃神社ですぞ。いやー、ボロッボロですな。 時間帯はまもなく夕方を迎える昼下がりです。明るいんで光源とかは要らないでしょーな。それに多分誰も来ないと思いますぞ。 ――説明は以上です。それでは皆々様」 メルクリィのクマが酷い機械眼球がリベリスタ達に向けられる。そして一間の後に、ニコヤカな声がブリーフィングルームに響いた。 「頑張って下さいね。くれぐれもお気を付けて! 私はいつも皆々様を応援しとりますぞ。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月30日(日)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●麗らか殺伐昼下がり 早朝、夜半は冷え込むけれど、麗らかな日差しが差し込むそこはポカポカと心地良い空間であった。 静かな一帯。穏やかな空気。 けれど――リベリスタの表情に油断は無い。 「インヤンモドキの力を存分に振るう相手。命中、回避とも高いとなれば、尚のことやっかいよね」 グリモアールを開く『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)の靡く髪が紙面の淡光に青く輝く。 でも、と不敵に口角を擡げる。 「わたしだって搦め手には多少の自信があるのよ?」 特に当てることに関してはそう簡単に後れを取る訳にはいかない。 相手はのんびりお昼寝中?降りてきてはくれないのだろうか。 尤も、降りて来なければ社の屋根を壊してでも叩き落とすだけだけれど。 「しかしモドキ、とか聞くとオリジナルより弱い量産型がワラワラと居る様に感じますね。 まぁ、目標の様な強さのものがワラワラと出てこられても困りますが……」 ショットガンを一回し、『ガンランナー』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は「さて」と呟く。 「兎も角、恨みなど有りませんが運命に愛されなかったのが運の尽きです。 アークの依頼通り消えてもらいましょう」 すべき事を、歯車のように。凛と見据える青い瞳。 「自分も普段から状態異常攻撃を主に扱う身、今回の相手の厄介さは十二分に理解して御座る。 一見やる気がなさそうに見えても、油断は禁物で御座るね」 見上げる先には昼寝の異形。しかし外見だけで全てを判断するなど愚の骨頂ともいえよう。ともあれ自分はいつも通り、自分の忍務に徹するのみ――『ニューエイジニンジャ』黒部 幸成(BNE002032)はいつでも影の従者を呼び出せるように気を研ぎ澄ませておく。 そしてリベリスタの視線が集まるそこ。朽ちた社のすぐ近く。 敷かれたお布団。ふかふかお布団。 遮蔽物として活用できるよう辺りに軽自動車やスクーターを用意した『右手に聖書、左手に剣』マイスター・バーゼル・ツヴィングリ(BNE001979)の作戦である。 降りて肩を出さずに寝るように提案するつもりなのだ。 (勿論、襲いますけど♪) 日が暮れない程度にのんびりしたい本音だが、そうもいかないのだ。 最中、みにくいアヒルの子の絵本を胸に抱いた『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が一歩出る、YNを見上げる。 またしてもモドキとの対面――なんだか得の高そうな外見だけれど、その三面六臂の姿は不気味だ。能力も厄介で、だけれども…… (だれかに被害が及ぶ前に……倒されてもらう、からね……っ) ぎゅ、と絵本を握り締めて。 「ねえ、おやすみの所、申し訳ないんけど……降りてきて、ちょうだい。あひるたちと、戦いましょ」 「……んぁ? あー……」 生返事。どうしたものか、どうにかしないと、どうしよう。くわくわ困惑するあひるだったが、彼女の横に立ち並んだ桜田 京子(BNE003066)が続きを受け持った。 「出不精ですか、適当ですか、気持ちはわかりますよ。私も体育の授業とか憂鬱でしたし。 でもお互い、戦わないといけないなら戦いましょ? 投降するなら歓迎ですけど」 握り締める運命喰い。心の中で生き続ける姉の勇気。 YNがのっそりと上体を起こした。 「何だってんだ、リベリスタさん方よこんな日に……ふわ~ぁ」 「こんにちは。お名前は? 私はツヴィングリ」 マイスターがにこやかに話しかける。後頭部をボリボリ掻くYNはあーん?と彼女の方を向いた。 「名前ェー? じゃあ超イケメンで」 「ふふっ、では超イケメン様。残る仲間はその顔の数と同じですか?」 「俺ちゃんがやられても第二第三の俺が湧いて出るぜ 多分 多分な多分」 「……働くとは誰かのプロレタリアという事?」 「働かざる者食うべからず。でも俺ちゃんには食べる為の口ないからね、だから働かなーい」 「BSが効くのはどうして?」 「アンタらも効くじゃん。それは何でどしてよWHY?」 「さぁ。主の思し召しでしょう」 「じゃあ俺ちゃんのもそーゆー事でシクヨロりん」 「もう一つ訊きますが、狙撃手の方と同じく手が多いのは親戚か何かですか?」 「狙撃手? あーSNの事? あ~……アイツの買って来たプリンよく喰ってやったっけ……。 でも、確かもう死んじゃったんだっけ? あーらまー、可哀想に……ふわぁ~」 ほのぼのーっと、欠伸交じりにへらへら紡がれるその言葉は本当か嘘か紛らわしい。これ以上の質問は時間の無駄か……マイスターは口角を緩やかに持ち上げて、敷かれた布団を掌で示した。 「よろしかったら、お布団ありますけど?」 「マジでか 気ィ効くねアンタ~」 相変わらずの調子、だが上機嫌の鼻歌交じりでYNが立ち上がった。その瞬間にリベリスタ達へ駆け抜けた緊張を余所に軽々と地面へ着地するや、そのままのっそり――「はぁ~どっこいしょ」と、寝た。お布団で寝た。ノーフェイスがお布団で寝た。 ニヤリ。残酷に笑うのは二人。『背任者』駒井・淳(BNE002912)と『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)だ。 「インヤンマスターか。しかもその進化系をうかがわせる戦いぶりだ。 実に興味深い。参考にさせてもらおう」 いや、それよりも……フードの奥で笑う淳が足音も無くYNの傍へ。 「味に興味があるな。何って、血の味だ。……ほら、吸わせてみろ。ちょっとでいいから、ほら」 「働きたくない、動きたくない、何もしたくない。なら息もしなくて良い様にしてあげるのが、罪姫さんの愛情なのよ。 さあさ一緒に遊びましょ、沢山沢山愛情を注いであげる」 病める時も健やかなる時も、死が2人を分かつまで。チェーンソー剣を両手に、罪姫は爆砕闘気を漲らせ。 今がチャンス、と二人が攻撃を仕掛けようとした瞬間――幸成が声を張り上げた。 「下がるで御座る、二人共!!」 「!」 飛び退いた。瞬間、道力で作り出された剣が二人のいた場所に突き刺さる。 陰陽・刀儀――布団の中で印を結んでいたらしい。 「ウケケケケ、ウケケのケ」 布団を撥ね退け、立ち上がる異形。 「へへへへへ。じゃっ、そんなこんなで始めようかいね?」 印を結ぶ。結界を纏う。 同時、リベリスタも強く地を蹴った。 ●呪われた昼下がり 手筈通りに前、中、後衛、回復と四段構えの隊列。範囲攻撃を警戒して散開したリベリスタ達。 「もう2度と働かなくても良いのよ? 貴方はこれから無に還るのだから」 超頭脳演算――光速で駆け抜ける電気信号、ニューロン。 沙由理の卓越した頭脳は超集中状態に達した。組み上がる可能性、演算、戦略。 派手にとはいかないが、相手に本領を発揮させないで確実に削らせてもらう。 (それがわたしの戦い方だから) 掌を向ける。向ける眼差しに含むのは厳然たる意志、刹那に放つ聖なる光。 「あちちっ」 腕で直撃を免れるYN。そして結界に跳ね返された光は沙由理の身をも焼いた。呻き声、彼女を援護すべくリーゼロットはショットガンの銃口を真っ直ぐに向け狙った。 「まずは長所を殺しにかかりましょう」 銃声。弾丸。正確無比な揺るぎ無き軌跡。 YNの脚を掠める。そして、リーゼロットの体も傷つく。 「じゃ、次は俺ちゃんの番ね」 さっきから変わらぬ口調、それと共に戦場全体へ降り注ぐのはぞっとするほど冷たい呪いの雨。それはリベリスタ達を襲い、その動きを凍り付かせてしまう。 更に動けぬ彼等に道力の剣が襲いかかる――だがそれは唯一攻撃を回避した幸成のシャドウサーヴァントが絡み付く事で動きを封じられた。 目には目を。高命中高回避には高命中高回避を。 疾風の如く駆け、一気に間合いを詰める。その手に纏うのは破滅のオーラ。 「参る!」 叩き付けるのはブラックジャック。伝わる鈍い衝撃、結界の跳ね返す威力に歯を食い縛りながらもYNを圧し遣る。 「ビリビリ……すぐに、治すから……! 痛いの、少しだけ……ガマンしててね……っ」 その間にあひるが前へ出た。それと同時に退邪の光を放ち、仲間達を束縛する呪いの氷を解いてゆく。 「がんばって、……っ!」 自分の役目は回復。倒れる訳にはいかない。YNの射程外へ飛び退きながら仲間達を励ました。 魔氷の呪縛が解けた京子は注意深く運命喰いを握り直す。リーゼロットはYNの守護結界を破壊すべくピアッシングシュートを放つが上手く直撃しない。その間にも仲間達は攻撃しているが、反射の結界にYN自身の攻撃――どんどん傷付いてゆく。 それでも退くものか、と京子は銃口を向けた。 「インヤンマスターだって強いとは思うけど、他のジョブにもそれぞれ凄い所があって負けてないんですよ。 そっちがBSなら私はDAと連撃での手数で勝負です!」 リジェネレートの暇は与えない。今度はこっちが戦場を弾幕で埋め尽くす番――けたたましい銃声、蜂の襲撃の如くありったけの弾丸をぶち込んで行く。 やるねぇ。反射の攻撃に顔を顰める京子へYNが笑いかける。 その瞬間、YNを横っ面にマイスターのピンポイントが直撃した! 「三面六臂ですか、なるほど、死角無し。……そうね。例えば。ある女の子がbit○ashEXを買うために青い背景にミルクの看板のコンビニへ行きました。しかし店頭端末は故障中でした……」 続けて攻撃すべく集中を高めてゆくマイスター。靡く白髪、攻撃を掠め赤が伝う頬。 「残念○ッピー」 それはともかく。YNの背後でクスクス、少女の含み笑いが響く。 「つーるとかーめがすーべった。後ろの正面だぁーれ?」 「さぁ誰だろうねぇ、可愛い子だと俺ちゃんが個人的に嬉しい」 「うふ。ふふ、ふふふふふ。」 罪姫の微笑む口元から覗く鋭い牙。血を欲する鬼の牙。 「ね、こんな所で1人は暇でしょ、暇よね? だったらね、罪姫さんと一緒に遊びましょ」 「いいよぉ~。じゃっ、たんとお遊び」 YNの言葉と共に罪姫へ襲いかかるのは三つの剣。罪姫はそれにチェーンソーで応戦する。 刃がぶつかる音、切り刻む音、しかし三つの刃は中々罪姫を前へ通してくれない。 だがお陰で今のYNは手薄だ――たっぷり集中を重ねた淳が印を結ぶ。 「これが本家の技だ。くらえ、変り種」 放つ呪印。幾重にも囲む呪い。 それはYNを厳しく拘束する。 そして、動けぬ異形を真っ直ぐ狙い定めるのはリーゼロットのショットガン! 「その構えごと吹き飛ばします」 今度こそ、と放つピアッシングシュート。 撃ち抜く一撃、結界をも貫き壊し、YNへ突き刺さる! 「うおっ結界が」 へらへら、呪印を振り解くYN。その手に呪力の鴉を止まらせるや、集中していた淳とリーゼロットへ鴉を飛ばした。猛毒と石化、蝕む凶悪な攻撃、あひるの元へは行かせないと飛び出す幸成。 六つの錫杖と漆黒の忍者刀・暗月がぶつかり合う。打ち下ろされる一撃を忍甲で受け流し、影の従者で手数を補い、破滅のオーラを叩き付ける。 その間にあひるがヒットアンドアウェイでブレイクフィアーを放つも――あひるの胸から不安が消えない。飛び退きながら思う、回復が間に合わない、と。 回復手は一人しかいない。一度に状態異常回復も体力回復も行えない。 状態異常を治せば仲間の傷は癒えず、逆に仲間を癒せばその状態異常が消えない。 「くわ……」 どうしよう。どうしたらいいの。自分の傍には絵本が一冊だけ。 でも、と首を振って気持ちを切り替える。 (みんなが、頑張ってくれているから……あひるに出来ること、精一杯、頑張るわ……!) 詠唱する。聖なる福音を鳴らすべく。 頑張らねばならないのだ。負けない。あひるの視線の先には満身創痍の沙由理が、攻撃をすべく神秘の力を構築してゆく。 「三面六臂の異形さん、少しはハンディをもらってもいいわよね」 放つ神気閃光。命中する……も、『直撃』しなければショック状態を与えられない。 普通にダメージを与える事だけを考えたらこのままでもいいのかもしれないが、ショックやブレイクなどの付与を狙うのであれば話は別。確実に直撃を狙う為には集中を重ねるべきなのかもしれない。 芳しくない戦況に沙由理は歯噛みした。その脇を式符の鴉が掠めて行く――悲鳴、頽れる音、力尽きるリーゼロット。 不幸中の幸いは、バラけて布陣している事で複数攻撃や範囲攻撃を諸共に受けない事か。 舌打ちを一つ。 ●恐ろしい昼下がり 激戦は続く。 沙由理と淳も力尽き――それでも彼らの努力あってかなんとか戦線は維持できている。YNへ蓄積したダメージも零ではない。 「そろそろ決着、つけよっかい」 YNの不敵な声。不穏な気配。 幸成は予感した。仲間達へ警戒の視線を走らせる――刹那。 視界が七色、 そして、真っ白に。 六つの手から放たれたYNの奥義。戦場を埋め尽くす光線。 しかし喰らったのはたった二人。マイスターと幸成が罪姫と京子を庇ったのだ。 「プロアデプトにだって友情はあるのです。……この戦歌が眠り歌。ゆっくり休んで下さい!」 苛む呪い。それでも彼女は気糸を放った。 咄嗟にYNが打ち出す鴉と交差する。不吉不運の中でも直撃したのは奇跡か――代価として、マイスターは血の海に頽れる。 「いってぇ……」 破壊されたYNの一つの頭部、ふらつく足取り。 あと少し。飛び出す罪姫が剣をチェーンソーで薙ぎ払い、YNに喰らい付く。血を啜る。 「ね、痛い? ふふふ、痛い? 痛いの? だったら痛いって言ってくれると嬉しいの」 「じゃあ、痛くない」 YNが罪姫を蹴っ飛ばす。よろめくYN、前半にリーゼロットや沙由理が足へ攻撃した分が効いているのだ。最中にあひるのブレイクフィアーで立ち直った幸成が攻撃に参加し、その素早さを以て撹乱する。 かくして――YNは見た。攻防の合間、こちらを睨む運命喰いの銃口を。 「面倒だよね、大変だよね、怖いよね。戦いって。今回は戦う理由がアナタがノーフェイスだからってだけなんだ。正直乗り気じゃない」 訥々と、京子の声。 それでも自分は戦う。約束だから。誓ったから。運命をどれだけ焼き潰そうとも―― 「私の中のおねぇのフェイトとこの銃が私を守ってくれる。」 だから、おねぇ。力を貸して。 目を閉じて、 引き金を引いた。 ●静かな夕方 硝煙。 YNの眉間に空いた穴から立ち上る。 「……。」 ガラン。錫杖を手から落とす。 ふらつく。 血に染まる。 その顔でYNは半分まで減ってしまったリベリスタを見渡した。 そして、笑った。 「ハハ、負けたわ。おめでとうリベリスタさん」 なんて、最初と変わらぬ調子で。ふらふら歩く――マイスターが用意した布団の元へ。 「あー……行けると思ったんだがなぁ」 よっこらせ。布団に潜り込む。 深呼吸。掠れる呼吸音はYNの最期を表していた。もう戦えない事は明らかだ。 「それじゃ。……おやすみー」 満足そうな声で。それっきりだった。 それを見届け、あひるはYNの傍へ。しゃがみ込む。 「来世でも、力を得たら……こんどは、ノーフェイスじゃなくて、フェイトを得て…… できたら、お友達になれると、いいな……」 なんて。手を合わせて。 (天国にいけるよう、あひる祈ってる。) なむなむ……恋人の様にお経は唱えられないけれど、精一杯の気持ちを込めて。 罪姫さんは整頓上手、と罪姫はYNの死体を無慈悲に切断するつもりだった……が、あひるの小さな背を見ている内に興が逸れた。チェーンソーを収める。 収めた辛勝。京子と幸成は顔を合わせ、お互いを労い合った。 もうすぐ日が暮れる。 日が暮れる前に、帰ろう――自分達の場所へ。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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