● 机にいくつか並んでいたのは、手のりサイズのオレンジ色が鮮やかな、装飾用に栽培された南瓜。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、その1つを手に取り、リベリスタに振り返った。 「エリューションが誕生しようとしているの」 児童館で、橋田 友香(小学3年生)が作ったハロウィン用のジャック・オ・ランタンがエリューション化する未来が見えた。 彼女の手で完成させたランタンがエリューション化するため、何とかして完成させないようにするか、変わりに作ってあげるなどして、エリューションの誕生を阻止して欲しい。 万が一、エリューションが生まれてしまった場合は、勿論撃退して欲しい。その場合、友香の安全を第一優先とすること。 「作らせてしまって撃退の方法はお勧めしない。友香とエリューションの距離が近すぎるの。あなた達の攻撃より、たぶん――早い」 何がとは言わなくても分かる。初撃が入ってしまったら、友香の安全は確保し難いだろうということ。 「方法は、任せるわ」 ジャック・オ・ランタンのエリューションを、生む前に阻止するか。 リスクを承知で、生まれてしまってから倒すか―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:紺藤 碧 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月01日(火)23:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 児童館でそれぞれ思い思いに時間をつぶしていた子供たちの前に、館長先生が見覚えのない女性を連れてプレイルームに入ってきた。 「今日はボランティアの人たちが来てくれているの。仲良くしてあげてね」 館長先生の後ろから、エプロンをつけた『優しき白』雛月 雪菜(BNE002865)と李 腕鍛(BNE002775)が一歩前に進み出る。 「雛月 雪菜です。今日1日だけど、よろしくね」 「李 腕鍛でござる。仲良くしてほしいでござるよ!」 優しそうな雰囲気の雪菜はすぐさま年少組の少女たちに取り囲まれ、色鉛筆やらおままごとセットが置いてある一角へと引っ張られて、腕鍛は「ござるへーん!」と明らかに雪菜とは違い、ちょっとやんちゃそうな子供らに服やら髪やら引っ張られる。 「いた! やめるでござるよー!」 できれば女の子と仲良くなりたい腕鍛であったが、世はちょっと無常である。 その様子をただ遠巻きに見つめ、ぎゅっと南瓜を握りしめた少女。 (あの子が――) 子供たちに囲まれたり、いいように遊ばれながらも、一人ポツンと離れて座る橋田友香に2人とも気が付く。 ボランティアの2人が子供たちにすぐに溶け込んでいる様子を館長先生は嬉しそうに見つめながら、あっと思い出したように手を叩いた。 「元宇宙飛行士の方もお話にみえるって聞いていたわね。聞いたことない名前だったけれど」 もちろんその人も、雪菜や腕鍛と同じリベリスタ、『地球・ビューティフル』キャプテン・ガガーリン(BNE002315)なのだが、偽名のため館長先生も半信半疑といった感じなのだろう。 それにしても今日はお客が多い日だと思いながら、館長先生は他の先生やボランティアにその場を任せ、職員室へと戻っていった。 さっそく子供たちに囲まれた雪菜は、児童館に元から置いてあるぬいぐるみを渡され、「おねえちゃんはおかあさんやくね!」と、おままごとに付き合い始める。 慣れてきたところで、ハイテレパスを併用し、腹話術のようにしてみせると、「すごーい」という感性があがる。そのたびに、友香がちらちらとこちらを気にしているような感じがしたが、結局その場から彼女は動かなかった。 「ねえ皆、あの子とは遊ばないの?」 「友香ちゃんのこと?」 同年か少し下くらいの少女が逆に問いかける。 「うん。一人じゃ寂しいんじゃないかな?」 「そんなことないよ。友香ちゃんさそってものってこないもん」 少女は別の少女と「ね」と頷きあう。 「それに、何言ってるかぜんぜん分かんないし」 口下手だとは聞いていたが、相手が何を言っているか理解できないほど口下手とは。 「あ、お姉さん少し先生とお話あるので、ちょっと行ってきますね」 「えー!」 不満そうな声を上げる少女たちに、もっと小さい子たちに物理的に遊ばれている腕鍛が声をかける。 「拙者とお話しでもどうでござるか!」 服を引っ張られ、必死に笑う腕鍛も、小さくても女である少女たちは、何らかを感じて散って行った。 ● 数十分後。 「学校でここ、聞いてきたんだけど」 『呪印彫刻士』志賀倉 はぜり(BNE002609)が対応に出た先生にそう告げて、児童館の説明を受けながらプレイルームに入ってきた。 実年齢二十歳越えのはぜりだが、見た目は中学生。違和感は持たれていないようで、ほっと息を吐く。 その横を黒髪の少女が、茶髪の少女の手を引いて走り抜けていく。 「ハッピーハロウィンなのじゃー!」 魔女っ娘に変装した『白面黒毛』神喰 しぐれ(BNE001394)は、プレイルームに足を踏み入れるやばっとお菓子が入ったカゴを持ち上げる。 中で遊んでいた子供たちが、わぁあ! と、お菓子の登場に顔を輝かせるのを満足そうに見つめ、 「トリックオアトリート! お菓子をあげるから、イイコたちはイタズラしちゃダメなのじゃよー?」 集まってきた子供たちにお菓子を配りながら、しぐれはきゃっきゃと笑う。 「こら! あなたたち!」 はぜりを連れた先生はそんなしぐれを止めようと駆け足でプレイルームに入ってきたところで、神代 凪(BNE001401)は「すいません」と頭を下げられ、だめ押しのように、 「ここの児童館って楽しいんだね」 といった、はぜりの言葉と、子供たちの様子に、仕方がないと言葉を飲み込む。 そんなお菓子を配るしぐれの周りに人知れず来栖 奏音(BNE002598)と『最弱者』七院 凍(BNE003030)の式神シノも混ざっていたのだが、特に誰も気にしていないようだ。 「あ」 凪はしぐれのカゴのお菓子をいくつかつまみ、その様子もまた遠巻きに一度だけ見つめ、南瓜へと視線を戻した友香へと走る。 「トリックオアトリート!」 目の前のお菓子を差し出された友香はびくっとして顔を上げる。 「っ……」 が、すぐさま南瓜へと視線を落とし、俯いてしまう。 「南瓜だから、ジャックオランタン?」 凪の言葉に、友香は小さく頷く。 「私も一緒に作っていいかな?」 友香の隣に陣取った凪がそう問いかければ、半歩ほど友香は距離を開けて自分の前の南瓜を一つ凪の方へよける。 避けられているような態度ではあるが、拒否されてはいないことに、凪は「ありがとう」と南瓜を受け取り、 「私、神代 凪って言うの。君は?」 「……は…だ、…もか」 もごもごと消えてしまいそうな声音だったが、最初から名前は知っていたし、3人が来るまでの間に雪菜が先生たちから聞いた友香の話し方などもAFを通じて伝わっていたため、凪はにっこりと笑って答える。 「友香ちゃんだね」 案の定、友香は驚いたように顔を上げて瞳を大きくした。 しぐれに周りに群がっていた子供たちも、数人はしぐれと一緒にお菓子をもごもごと頬張り、数人はお菓子を持って雪菜と腕鍛の元へ駆けて行く――と、見せかけて、みんな雪菜の周りに集まっていく。 「ユキナおねえちゃんもおかしたべよー」 「ありがとう」 「雪菜殿にはお菓子を上げるのに、拙者には無いでござるか!」 「わんたのぶんのおかしはないもんねー!」 “わんたん”だから“わんた”というあだ名らしい。 「皆、意地悪しちゃだめですよ~」 「雪菜殿~~」 感動のまなざしでキラキラと瞳を輝かせる腕鍛。いじれそうな相手には容赦はしない。子供って残酷である。 なんだかんだと言いつつ、雪菜と腕鍛は子供たちに受け入れられ、溶け込んでいるようだ。 ● ガリガリガリと、危なっかしい手つきで南瓜の底に小刀を入れ始めた友香に近づいたはぜりは、小刀を持つ手にそっと自分の手を添える。 「あぁ、ンな持ち方したら危ないよ。刃の進む向きに絶対手は置かず、持ち方は……こう」 あまりに唐突なことで成すがままになっていた友香は、はぜりが手を止めると、ぱっと自分の手を引っ込めてしまった。 「にひひ、いきなりごめんね。うち、はぜりっての。おばさん家の用事でこっちの街に遊びに来ててさ。だーれも知り合いいないの。一緒に遊ぼ?」 友香は困ったように眉根を寄せて俯いてしまう。 「それに、そんな危なっかしい手付き、ほっとけないよ」 はぜりはまだ何も加工されていない南瓜を手に、一応の了解を取って小刀でガリガリと加工を施し始める。 ある程度の細工が出来たところで友香の前に置く。 「凄いね友香ちゃん」 凪が単純に感心したように南瓜を見つめ、友香も小さく頷く。 「まあね」 はぜりの本職は木彫り細工職人であるため、これくらいのことはできるのだが、それを言ってしまうわけにもいかない。 同じように友香も真似してみるが、やっぱりはぜりが作ったようにはできなくて、ションボリ肩を落としたようにも見える。 「教えてあげるよ」 友香は何かを言いかけて、引っ込めると、小さく頷いた。 真剣にガリガリと南瓜を加工している友香から、凪はしぐれへと視線を向ける。 しぐれはお菓子によって集まった小さい子たちと、残りのお菓子を一緒に食べたり、魔女ごっこをしたりと楽しそうだ。 「しぐれちゃん。こっちこっちー」 凪に呼ばれたしぐれは、そんな小さい子たち(その中には凍の式神シノを加えて)を連れて友香たちの方へと歩み寄ってくる。たくさんの人が近づいて来たことで、少しだけ萎縮したような友香に、しぐれを紹介する。 「なにをしてるのじゃー? ジャックオランタン作りなのじゃー?」 こくんと頷いた友香に、しぐれはキラキラと瞳を輝かせる。 「ほほう! わらわにも作り方を教えてほしいのじゃー!」 ノリノリのしぐれと対照的に、一緒に加わった子たちは、顔を見合わせ不安そうだ。 「ねね、皆は南瓜作らないの?」 一生に作ろうと誘う凪に、はぜりは他に加工に使えそうな物が回りにないか探してみる。 「流石にみんなだと小刀は危ないね」 しぐれと一緒に友香に合流した子たちの年齢層は、幼稚園・保育園と言ったところ。 小学生ならば良かったが、幼児の小さい手に刃物を持たせるわけにはいかない。 「スプーンやフォークならばどうじゃろう」 「いいね。貰ってくる」 しぐれの提案に凪はたったと駆けて、先生に幾つか貸してもらえないか尋ね、その場に戻ってきた。 「貸してくれるって」 「よし、お姉ちゃん達が底をくりぬくから、皆は中の種を採る係りだ」 はぜりは幼児たちにそれぞれ役割を与え、もっと小さい子なら大丈夫かな? と、友香を見遣るも、何か余り変わってない。 ガリガリガリ。 「しぐれも、うちと変わらないのに、危なっかしいね」 「むぅううう」 勿論変わらないのは見た目で、小刀の扱いを指摘されたしぐれは口を尖らせる。 「……こう」 さっきはぜりに教わったばかりの持ち方を、友香はしぐれに教える。 「ふむふむー、こうかえ?」 その光景に、はぜりは一歩前進かな。と微笑む。 「奏音も一緒にやっていいかなぁ?」 お菓子を貰う輪に一緒に居た奏音が友香に尋ねる。 視線を受けた奏音は小首を傾げ返事を待つが、やっぱり言葉の返事はなく、友香は頷いただけだった。 「皆楽しそうでござるな」 スプーンとフォークを手に、輪に加わったのはわんた……じゃなくて腕鍛だ。 和気藹々といった雰囲気の中、 「時期柄ではござるが、こんなにたくさんの南瓜、1人でランタンにするつもりだったのでござるか?」 凄いなぁと感心するように友香に話しかけた腕鍛は、ナチュラルに近くに腰を下ろすと、自分も南瓜を手にする。 「友香ちゃんのこと知りたいでござる」 ポカン。と、友香の目が見開かれた。 「小学生をナンパとか犯罪~!」 「やや、違うでござるよ! 拙者は単純に気になっただけでござる!! 誤解でござるよ~!!」 どっと笑いが起こる。 友香も少し、笑った気がした。 ● 幾分か時が流れ、友香の南瓜も中身が綺麗になり、あとは目と口をくりぬくだけというところまで来ていた。 館長先生に連れられて、本日2度目のお客様。親を待つ子供たちのため、ボランティアでやってきた宇宙飛行士が扉を開けた瞬間、ハイテンションで宣言した。 「少年少女達、ワタシがキャプテン・ガガーリンだ! ハッピーハロウィン! そしてハッピー・ジ・アース! 宇宙と地球の神秘を伝えにやってきたぞ!」 余りのハイテンションに、周りが静まり返るも、先生たちが本物の宇宙飛行士さんが着てくれたと子供たちに嬉しそうに話せば、思考回路がかみあった子供たちは「わああああ」とガガーリンにかけていった。 まだ力加減が分かっていない子供たちは、全力でガガーリンに激突していく。そんなパワフルな子供たちは主に腕鍛をいじっていたメンバーで、雪菜に群がっていたメンバーはそれを遠巻きから見つめているだけ。友香は、他の子供たちと一緒にジャックオランタン作りだ。 その中で一緒に作っている4人はリベリスタであり、根本的な孤立は解決していない。それでも誰かと一緒に作業をしていることは嬉しいのか、友香の雰囲気は穏やかそうに見えた。 「ねー! おじさんは宇宙で何してたの?」 テレビで見る宇宙飛行士の中継を思い出して、1人の子供が尋ねる。 「宇宙開発だ」 それを切欠に、他の子供たちからも、次々と質問をぶつけられ、ガガーリンはハイテンションで答えを返した。 ● 一同には混ざらず児童館の外で、ファミリアの五感共有でシノを通じて状況を見守る凍は、自分も似たような南瓜を手に、ナイフを握る。 誰かが最後の最後でいいところをかっさらうようなことをしたら、誰だっていい気はしない。 それに、友香に自分の手で完成させるという達成感を味あわせてあげたいような、でも、それだと友香を危険にさらしてしまう。どうしたものかと考え自分が作ったものと、友香が作ったものを入れ替える方法で行こうと結論づけた。 ただ、シノを通じて感じている光景を鑑みるに、友香は一緒にジャックオランタンを作るよう促した他のリベリスタの少女たちの働きかけで、それなりに楽しそうな雰囲気が漂っているように感じられるのだ。 お友達になった記念に、友情合作という名目で一緒に作業を行ったり、皆で完成させようという流れに、すりかえることはナンセンスのような気がしてくる。 1つ1つ順番に完成していくジャックオランタンも、上手く最後の一太刀を友香ではなく、他のメンバーが行うことが出来ているようで、凍は手にした南瓜に視線を落とし、どうするかと真剣に考える。 しかし、もしかしらと言うこともあるかもしれない。 凍はナイフを手にシノが見つめているジャックオランタンの情報を基にして、加工を始めた。 最後の南瓜の仕上げも上手くはぜりが行ったようで、凍のすりかえ用の南瓜の出番が訪れることはなかった。 ● 迎えに来た母親と手を繋いで児童館から帰ろうとしていた友香は、一度足を止めて振り返る。 児童館の入口では、今日一緒に作ってくれた、メンバーが手をふってくれている。 完成したジャックオランタンをぎゅっと握り締め、友香はもごもごと口を動かす。 「あ…ありが……」 かなり控えめに言われた言葉は最後まで声にならず風に消えていく。 こんなんじゃ聞こえない。明日も会えるから、明日にすればいいなんてこと、ない。 友香はすぅっと息を吸い込んだ。 「ありがとう、お姉ちゃんたち!」 自分でも予想外に大きな声に、友香は吃驚しつつ、ばっと踵を返して母親に駆け寄る。 母親もそんな様子に驚いたものの、優しそうに微笑んで、少しだけ振り返り頭を下げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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