●モンスターアップル 秋は実りの季節である。 信州にあるとあるリンゴ農家の家では、今年も赤く熟したリンゴが枝を揺らしていた。 「……なんだ、これは」 農家で働く青年は呆然として呟く。 彼が精魂込めて世話していた果樹園に……異様な木が生えていたのだ。 他の木になっている普通のリンゴ以上にそれは赤かった。まるで、毒々しいほどに。 いや、問題は色などではない。 まずは大きさ。スイカほどもある。 そして、無数になっているリンゴのすべてが、歯をむいて笑っていた。 「化け物……?」 言葉を聞きつけたかのように、真っ赤な果実が1個落ちた。 赤いものの中にいくつか黄金に輝くリンゴが混ざっていたが、青年に気づく余裕はない。 青年が後ずさりする。 リンゴが転がってくる。 近くまで来たリンゴが牙をむいた。 悲鳴が響き、まるで猛獣に食いちぎられたかのような青年の死体が後に残された。 ●ブリーフィング アークのブリーフィングルームでは『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)がリベリスタたちを待っていた。 「リンゴ……それは聖書でいう知恵の木の実。甘い果実は背徳の味を秘めている」 伸暁は手にしていた赤いリンゴを一口かじる。 「しかし、リンゴに食われてしまうんじゃ、あべこべもいいところだな」 「なにを気取った台詞を吐いておるか」 彼の隣では真っ先にブリーフィングルームに来ていた『マスター・オブ・韮崎』シャーク・韮崎(nBNE000015)が一気にリンゴを芯だけにする。 「ようするに、リンゴ型のエリューションが現れたってことじゃな」 登場するのはフェーズ1のエリューション・ビーストだ。 基本的にさして強くはない……が、数が多い。なにせりんごの木1本分まるまるエリューションになっているのだ。 とはいえエリューション化した果実が巨大化するために栄養を奪ったので、9割はまともな形になることなく落ちてしまっている。それでも、今回は40個ほどの敵が登場する。 リンゴたちは噛み付いて攻撃してくる。そして、その牙には毒がある。 「気をつけねばならんのは、リンゴのうち4個だけ、黄金に光るリンゴが混ざっていることじゃ」 その輝きは周囲にいる敵に不吉な運命と動きが鈍る衝撃をもたらすらしい。 なお、農家のほうには、リンゴが発症する新種の病気の可能性があるということで調査と駆除をすでに承知させているということだ。 「うまく駆除できれば、とれたてのリンゴで作ったスイーツをご馳走してくれるそうじゃ。……まあ、あんまり派手に暴れて果樹園に被害が出たりすればなかったことになるじゃろうが」 甘いものが好きならば楽しみにしてみるといいだろう。 作り手は犠牲になるはずだった青年の奥さんらしい。……フォーチュナである伸暁の予見では、駆除に失敗した場合、青年の次の犠牲者は彼女になるということだ。 「敵も多いことじゃし、今回は儂もつきあおう。弱い敵と侮らず、全力で行くぞ!」 シャークはリベリスタたちに力強く言った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月29日(土)23:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●狩りの時間 眼下に果樹園を見下ろして、『重金属姫』雲野杏(BNE000582)が弓を構えた。 弦楽器を模した形状の弓を引き絞る。 「まったく、わらわらしちゃって……群れる奴ほど、数に物を言わせたがるのよね」 目に入るのは仲間のリベリスタたち。 そして、無数のリンゴ型エリューションだ。 「まあ、いいわ、存分に群れなさい! まとめて、痺れさせてやるんだから!」 雷鳴を矢の如く撃ち放つ。リンゴの群れへと落ちた雷鳴が荒れ狂う。 空中で機動行動を取りながらの攻撃すると狙いがどうしても甘くなるが、これだけ数がいれば何体かにはクリーンヒットするものだ。 「州って……要は長野県ですね。内陸地方で山や盆地が多く可住地となれる平地が少ない、こういうタイプの地方は神話や妖怪の土着話が盛んだったりします」 淡々と解説する『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)の腕に装着されているのは、大御堂重工製の4連ミサイルランチャー。 「要はエリューションの巣窟という事ですね。この街にもご当地守護神っているんでしょうか」 飛び交うミサイルが雷鳴に包まれたエリューションたちを爆発に巻き込んでいく。 今日の装備は、命中重視らしい。 のどかな果樹園にミサイルが降り注ぎ、爆炎を撒き散らす。地面が吹き飛び、枝葉が揺れる。 「……命中重視ですよ?」 誰にともなく言い訳するように、モニカは言った。 他に集まった仲間たちもそれぞれに自らの能力を強化していく。 「こちとら、長い間お預け食らってたのよ!」 杏の弓に再び雷鳴が集う。 「あたしの力を存分に発揮できるお仕事は久しぶりよ!!」 リンゴの群れに囲まれた仲間へと落ちる雷。 「思いっきり働かせてもらうからね!!!」 暴れまわる電光は、仲間を避けて敵だけを焼き払っていた。 『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)は高速で突っ込む。 「さっそくりんご狩りよ! チーちゃん、頑張ろうね」 花風をまとってひらめくルアの刃。透き通るような空色の刀身が、疾風のごとくスイカ大のリンゴを1個叩き切る。 そこに駆け込むのは、『中身はアレな』羽柴壱也(BNE002639)だ。男名前だが、ルアより3つ年上の、れっきとした女の子である。 壱也の目が金色をしたリンゴを捕らえる。 バスタードソードで邪魔なリンゴを吹き飛ばし、接近。 「りんごおいしそー!」 「待てい! 地面を転がったものを食べるとは何事か! 腹を壊したらどうする!」 かぶりつこうとした壱也を『マスター・オブ・韮崎』シャーク・韮崎(nBNE000015)が制止した。 「……食べられるの……?」 「煮ても焼いても食べられそうにないな」 メイド服のエリス・トワイニング(BNE002382)が首をかしげ、ゴシックパンクの廬原碧衣(BNE002820)が静かに応じる。 「甘酸っぱい……りんごは……好き。でも……それは……食べられるものだけ」 呟いたとき、エリスは気づいた。 食べられかけた黄金のリンゴの輝きが強まっている。 「……気をつけて、光が……!」 警告の効果があったのかなかったのか。 一瞬果樹園をおおった光から、リベリスタたちの何人かはとっさに身をかばった。 「空じゃかわせないわよね……ハンデだと思って的当てを楽しませてもらいましょう?」 杏が笑顔を浮かべる。 鮫のような笑みと共に、彼女はなおも弓を構えた。 光の中から飛び出してきた普通の巨大リンゴが、噛みついて来る。 攻撃を受けた者たちが飛びのき、あるいは防ぐ。 だが、1人あたり5、6体の敵から噛みつかれて、かわしきれるのはソードミラージュのルアくらいのものだ。シャークが張った結界の上から、牙が突きたてられる。 もっとも、前衛に『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)がまとわせた光の鎧に噛み付いて、逆に歯をかけさせてしまった敵もいたが。 「……実りの……季節。でも……エリューション……までも……たわわに……ならなくていい」 エリスは魔道書、セファー・ラジエルを開いて天使の福音を実り豊かな果樹園へと呼ぶ。 さらにレイチェルが放った光が、金色の光による変調やリンゴの牙に含まれた毒を癒していく。 自身も攻撃を受けたレイチェルだが、頑丈な彼女にとってはさしたる痛手ではない。 「どこかのゲームにあんなモンスター出てきたような……」 アクセス・ファンタズムをゲーム機の形にするほどゲーム好きな少女は、感想を漏らす。 リンゴたちの猛攻に、怒りに震える者もいた。 「手のひらサイズで、あかくて、まるくて、かわいいのがリンゴなのにスイカ並みにでかくて、しかも凶暴だなんてぇ! そんなの、リンゴだなんて認めませぇん!」 茨の鎖が絡まった鋼鉄のリンゴを握り締める『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)。 白雪姫の生まれ変わりだと信じている少女であったが、彼女は童話の姫のように毒リンゴによって倒れることなどなかった。 「偽者リンゴちゃんは、わたしが潰してリンゴジュースにしてやりますぅ!」 気糸の罠が金色の1体を捕らえる。 「碧衣様、シャーク様、お願いしますぅ」 「うん、わかってる。シャーク、金色を呪縛していって欲しいんだ」 「任せておけ!」 別の1体が碧衣の罠にはまったかと思うと、シャークが展開した呪印がさらにもう1体を縛る。 『臆病強靭』設楽悠里(BNE001610)は動きを止めた金色の1体に噛み付く。 隙のない構えから突き立てた牙は、数をそろえてようやくリベリスタと戦える程度の金色リンゴに回避できるものではない。 「だから食うなと言っておるに。真面目に戦わんか!」 「戦ってる。超戦ってるよ!」 誤解したシャークに悠里は必死に訂正する。 だが、血……もとい、果汁を吸い上げる悠里の姿は食いついているようにしか見えなかった。 金色の対処をしている間にも、広域攻撃能力を持つ者たちは赤いリンゴを攻撃している。 投擲用のナイフを手に、『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)が息を吐く。 横目でミサイル(命中重視)を撃ちまくるモニカを見る。 「あーもう、腕痛い! マジ銃火器羨ましいわー」 手首を軽く振る。ミサイルに負けず劣らぬ勢いでナイフを投げていると、さすがに腕が痛い。 「なら、銃を使えばいい」 構えた重火器から無数の光弾を放つのは『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)だ。 「そうしたいところだけどね」 サングラスの青年と、眼帯の女性が視線を交し合う。強化されたジルのナイフは、下手な銃火器に持ち替えるよりはるかに有効だった。 果樹園に雨が降る。『捻くれ巫女』土森美峰(BNE002404)が降らせた雨がリンゴを凍らせる。 氷の雨には、杏の投下する雷鳴が混ざっていた。 腕の痛みが取れたところで、ジルの手から無数のナイフが飛ぶ。 「……3分の1くらいは削れたかしらね」 スイカ大の赤いリンゴは、激しい攻撃にさらされてだんだん数を減らしていた。 ●掃除完了 呪印に捕らわれて4体目の金色が動きを止めたところで、碧衣は額の汗をぬぐう。 「暑くも無く寒くも無く、丁度良い時期だな。ご褒美にも期待できそうだし、捗りそうだ」 秋風に青いロングヘアがなびく。 「動けないリンゴなんて怖くないですぅ! あたれ~! プリンセス・ピンポイントォ!」 ロッテの気糸が動けない金色を貫く。 「それでは、リンゴ狩りを楽しむとしようか」 碧衣もさらに気糸を飛ばした。仲間たちの広域攻撃にいいだけ巻き込まれていた金色は、2本の気糸に貫かれて大きな悲鳴を上げた。 まだまだ残っているリンゴたちは仲間を失ってなお勢いを失わなかった。 星龍は押し寄せてくる敵に対し、エリスを背にかばう。 いくらか減ったとはいえまだまだ数は多く、突破を防ぐことなどできるはずもない。 見た目に反してレイチェルは強靭だが、メイド服のエリスは見た目どおり星龍以上に脆い。 ジルも前に出て、1体でも多くの敵を引き受けようとしているようだった。 黒のスーツが噛み裂かれる。 猛攻を受けた彼は思わず膝をついてしまっていた。 「リンゴを食べることは有っても、食べられる趣味は無いので御免蒙りたい」 傷だらけの星龍はくわえている煙草を震える指先でつまむ。 煙と共に、彼は大きく息を吐いた。 「これを退治しきらないと、あの夫婦が犠牲になる……。きっちり倒すよ!」 果樹園の主人が死んだのは、万華システムによる予測の中である。だが、ここで倒しきらなければ、結局夫婦そろって死ぬことになるのだ。 レイチェルがロッドから星龍に光のオーラを放って、黒いスーツの上に鎧を纏わせる。 「黒ずくめが台無しだな。だが、礼を言う」 立ち上がった星龍が、重火器から光弾を放った。 美峰の赤い袴は、血と土でだいぶ汚れてしまっていた。 エリスをかばった星龍は特に大きなダメージを受けたようだが、前衛に立っている者たちの傷も浅くはない。 福音が鳴り響く。 巫女である美峰にとっては異教の音だが、癒しの効果に変わりはない。もっとも、彼女は妹にいろいろ押し付けていたなんちゃって巫女なのだが。 「報酬も出て、働き次第じゃスイーツも食えるとか良い仕事だぜ」 呪力を放って氷雨を降らせる。符術で生み出した小鬼たちが、リンゴへと雨を導く。 エリューションは凍りつき、数を減らしていった。 壱也は、先ほどから金色のリンゴに噛み付いている悠里を見た。 とりあえずエリューションに噛み付いてもお腹を壊す様子はない。 「黄金って言うぐらいなんだからきっと黄金の味でおいしいはず!」 爆発的な気を発しながら、彼女はリンゴにかぶりつく! 少なくとも、美味しくはなかった。 「……イマイチなの」 少し遅れて同じく噛み付いたルアも、感想は同じようだ。 「なんだ、つまんない」 敵を放り捨ててバスタードソードを叩きつける。吹っ飛んだエリューションは、悲しそうな声を上げて動きを止めた。 「美味しくないんですかぁ?」 「まあ、好きこのんで食べたいとは思わないね」 ロッテが気糸で貫いた金色を、悠里が吸い尽くして破壊する。 「シャーベットにでもなんなさい。なっても食べないけど」 最後の金色リンゴが、ジルのダガーに突き刺されて凍りついた。 金色が4体とも撃破されて、それでも敵はまだ10体近く残っている。もっとも、ほとんど死にかけの敵でしかない。 モニカは機械化した腕に装着したミサイルランチャーを、残った敵に向ける。 シャークが氷の雨を降らせた。 「結局、ワンサイドゲームだったわね?」 ひたすらに雷鳴を降らせていた杏は、最後まで雷を荒れ狂わせる。 そして、モニカも最後までひたすらに広域攻撃を続けた。 機械の目で敵を視界に納める。 少し移動して、向こうに他の樹木がない位置へ。長大な武器を身につけた身で機敏な動きはできないが、命中精度には関係ない。 「視界良好。エネルギー切れが気になるので、そろそろ終わって欲しいところですが」 発射したミサイルが敵中で爆発する。 飛び散ったリンゴの実の中にまだ動いているものが1体だけいたが、なにをする間もなくルアがその1体を断ち切っていた。 ●楽しい時間 「お手数をおかけしました。どうもありがとうございます」 果樹園の夫妻はリベリスタたちに丁寧に頭を下げた。 幼い少女も含んだメンバーに戸惑いもあったようだが、一仕事終えた後ではもう彼らはリベリスタたちを信用しているようだ。 「リンゴおばけ倒したのですぅ! わたし、ごほうびが貰えるって聞いたのですぅ! さっそく欲しいのですぅ! どこどこ?」 「おいおい、あまりがっつくのははしたないだろう。楽しみなのは否定しないがな」 ものすごい勢いで身を乗り出すロッテを、碧衣がいさめる。 夫妻は微笑ましげに笑って、見学客用の露天スペースに案内する。 「みんなでりんごパーティだね♪」 「うん、わたし、りんごパイ食べたいな~」 ルアと壱也が楽しげに言葉を交わす。 広いテーブルに並んでいるのは、奥さん手製のアップルパイとコンポート。つい先日取れたばかりのリンゴで作ったというスイーツの甘い香りが秋の空に漂う。 「やっぱ果物は新鮮なのに限るわねー……あら、いい匂い」 ジルが眼帯をしていないほうの目を閉じる。 「では、せっかくですので御馳走になります」 「あたし、甘いのは好きだよ~」 モニカやレイチェルも笑顔を浮かべて席についた。 ロッテは皆が席についた瞬間にフォークへと手を伸ばす。普段は眠たげで夢見がちな少女のはずだが、今日は食いしん坊キャラに変貌しているようだ。 「スイーツもいいですが、個人的にはカルヴァドスを飲みたいですね」 「うちの製品ではありませんが、アップルブランデーやシードルもありますよ。お飲みになりますか?」 酒とタバコを愛する星龍の言葉に、主人が酒瓶を持ってくる。 「ふむ、酒があるなら儂も飲んでみたいところじゃな」 「どうぞ、一緒に飲みましょう。これからもいろいろお世話になるでしょうし」 男2人が酒で親睦を深める横で、ロッテは真っ先に皿を空にしていた。 「んふ~リベリスタ最高ですぅ……お仕事がんばったら、リンゴがいっぱいですぅ。幸せ~!」 「大げさだが、確かに美味しいね。後で、レシピを教えてもらってもいいかい?」 「ええ、もちろん。こんなレシピでよろしければ、いくらでも」 意外と料理好きなジルに頼まれて、奥さんが快諾した。 「折角長野くんだりまで来たんですし、食べるだけでなくリンゴを土産に持って帰りたいですね。この前、韮崎で持ち帰ったリンゴも美味しかったですし」 「ほう、美味かったか。それはよかった。ここのリンゴもたいそう美味じゃが、韮崎のリンゴも負けてはおらんからな」 モニカの言葉を聞きつけて、シャークが口を挟んでくる。 「あ、私もリンゴ持って帰りたいですぅ」 ロッテも身を乗り出した。 夫妻は今日収穫した分からいくつかお土産にくれると言った。今回の事件、表向きはリンゴの病気と言うことになっている。 もし病気が広がれば死活問題となるため、2人は心からリベリスタたちに感謝しているようだった。 「疲れたわね。ノブ君にお給料弾んでもらわなくっちゃ♪」 「……こいつも給料の一部なんじゃねえの?」 杏の言葉に、口の中のパイを飲み込んで美峰が言った。 「あら、それはそれ、これはこれでしょ」 「ま、それもそうだな」 美峰はリンゴのコンポートに手を伸ばした。 エリスは果樹園の奥さんに近づいていく。 「……よかったら……これ、お持ち帰り……してもいい……?」 「余ったら持っていって食べてくれるとうれしいわ。ただ……余るかしら? こんなに女の子が来るなら、もっと作っておけばよかったわね」 彼女は笑顔で頷いたが、テーブルの上は空になりそうな勢いだ。 一箇所を除いて。 悠里は目の前にあるパイにもコンポートにも手をつけていなかった。 時折、夫妻が心配そうに彼を見ていた。 「こんな……! ……あってはならない! ……こんなことが!」 「……食べないの?」 「食べたいよ……食べたいけど……」 悠里が拳を硬く握る。 「吸血のしすぎで、おなかが一杯なんだ……!」 夫妻に聞こえないように声を落として悠里が告げた。 聞きつけたリベリスタたちの何人かが思わず吹き出す。 「……ま、そんな日もある。人生山あり谷ありじゃ。たぶん」 「食べないなら……もらって帰っても……いい……?」 シャークの投げやりな激励とエリスの言葉に、悠里は肩を落とす。 テーブルが、今度こそ笑いに包まれた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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