● 「見渡す限り海ばっかりだね、パパ! 明日までこの船に乗るの?」 「そうだな、明日の朝には港に着くから、それまではだね」 やや不規則に揺れる船の甲板。 どこを見ても海しか見えない景色にはしゃぐ子供に、父親は軽く笑みを浮かべながらそう答えた。 港を往来するフェリーは、様々な人を乗せて今日も大海原を走る。 ――その中に、望まれない客が混じっていたとしても。 「良いか、夜まで潜んでから動くぞ」 「それは良いんですが、どうして車の中にいなきゃならないんです?」 「二等船室でまったりしていたら、動く時に怪しまれるかもしれないでしょ? 念のためよ、念のため」 車両甲板に止まっている1台の車の中で、どう聞いても怪しい会話をしながら息を潜めている4人の男女。 最近のフェリーとしては珍しく、この車の止まっている車両甲板は船内へ入る入り口がある側以外の三方向は吹き抜けになっており、外の景色(ほとんど海ばかりだが)を見る事が出来る。 しかし代わりとして車が潮を被ってしまうため、人気の無さから周囲に他に車の影は無い。 「まぁ続けよう。寝静まった頃合に外に出るとは言ったな。一等船室と特等船室の場所はこの見取り図の通りだ。船内ショップの場所はわかるな?」 「あたしはピッキングでドアを開けてから金目の物を頂くのよね。後は念のために、バラバラのルートから侵入する、と」 「そういう事だな。バラバラに動くことになるから、行動時の会話はトランシーバーを使用するぞ。絶対に大きな声は出すなよ」 どうやらこの会話を聞く限り、彼等はフィクサードのようだ。 「……そして誰かに見つかったら、記憶を消す」 「頼むぜ、こういう事はあまり好きじゃないようだが、お前を拾った恩は返してもらわないとな」 こくこくと頷く少女は、どうやらあまり喋ろうとはしないタイプらしい。『わかっている』と頷く少女にリーダー格の男は軽い笑みを漏らすと、仲間達を見渡しさらに続けていく。 「そしてもし何らかのトラブルが発生したら、場合によっては海に逃げる。陸地まで距離は相当あるだろうが、歩いていけないことはないはずだ」 「いや、それどんだけ歩かなきゃならないんですか」 しかも水上歩行の技能まで有しているらしく、逃げる準備も相当に整っているらしい。 「手近な陸地が見つかれば、そこに上陸すれば良い。幸いフライエンジェが2人いるんだ、視界は良好といえるだろ?」 「まぁここまで来たらやるしかないっすね。わかりました、じゃあ夜まで待ちましょう」 「ええ、夜までは、静かに様子を見ながら……ね」 誰にも気付かれる事なく、静かに、そして鮮やかに盗みを働かんがため、彼等は静かに夜を待つ。 静かな泥棒――『silent burglar』という呼称が、彼等には似合っているかもしれない。 ● 「内部に入られると、恐らく捕縛は相当難しいでしょう。やり方次第だとは思いますけどね」 説明を終えた『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がいきなりそう結論付けたのも、無理のない話だと言えよう。 広い船内で、4人ものフィクサードがその目的のためにバラバラに侵入したならば、見つけるだけでも相当苦労する可能性は高い。 そして合流したところを抑えても、客室で騒ぎを起こせば、寝静まっている客達が一斉に起きてくるだろう事も容易に想像できる。 しかしバラバラに侵入するフィクサード達をそれぞれが静かに、そして速やかに抑えることが出来れば――といった所だろうか。 「盗みを終えるまで何もせず、待ち構える手もありとは思いますが……」 言いかけた和泉は、『これも難しい』と言わんばかりに首を左右に振った。 「水上歩行と飛行で逃げる事が出来るようですから、相手は戦闘よりも逃走に全力を傾けると見て間違いないです」 フィクサード達は船の中だけではなく、外にでも歩いて行くことが出来る。それは即ち、彼等の逃走ルートは無限に広がっている事を指している。 「となると、やはり車両甲板で叩くのが一番かもしれませんね。ただ――」 戦場となる車両甲板は、幾層もある車両甲板の一番上に存在する。これは良い。 だが、この場所はフェリーが古い型であるせいかはわからないが、三方が吹き抜けになって開けている。 そしておあつらえ向きに、 「彼等はメガクラッシュやJ・エクスプロージョンと、相手を吹き飛ばす技を用いるんですよね」 と和泉は続ける。 即ち『運が悪ければ、吹き飛ばされて海に落ちますよ』という事なのだ。 そうなれば、戦闘に復帰することはほぼ不可能。この場所で戦う場合、その点に最も注意しなければならないだろう。 「そして、車の位置ですが……ここですね。周囲に車はないため、一目瞭然です」 車両甲板の見取り図を広げ指差した和泉によれば、フィクサード達の車は車両甲板の船内出入口から最も離れた場所に止まっているらしい。 攻撃を仕掛ける場合は接近する必要があり、さらには彼等は様々なルートを使って侵入を図るため、入り口で待ち構えているだけでは彼等の動きを止める事は出来ない。 「水際で叩く、船内で叩く、撤退際を叩くといくつか方法はありますが、どう動くかは皆さんにお任せしますね」 最終的にどう動くかは、現場に赴くリベリスタ次第だ。 だが大勢の人を乗せて大海原を走るフェリーの中での戦いならば、戦う時間も考える必要がある。 「では、これが船の見取り図と、二等客室の乗船チケットです。頑張ってくださいね」 シビアな戦いになる可能性は高い。それでも和泉はリベリスタ達の勝利を信じ、彼等の背を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月28日(金)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦場への乗船 潮の香りと、幾つものエンジンの音。 出航を目前に控えたフェリーは、貨物の搬入や客の乗船によって喧騒に包まれていた。 「あ~……、やっぱりだめぇ?」 そんな喧騒の中、デコトラの運転席から乗組員へ苦笑いを浮かべながら、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)は船員に『そこをなんとか』と希望の眼差しを向けている。 「だめだめ、大型車両は専用のところに停めてもらわないと!」 どうやらフィクサード達との戦闘を想定して、戦場となるであろう車両甲板へと愛車を停めようと考えていたようだ。 しかしデコトラを停車させられる場所など、フェリーの中では限られている。彼女の申し出が却下されたのは、当然の事と言えよう。 「ちぇ、しょうがないかぁ。洗車もだめぇ?」 「当たり前でしょ、そういうのは陸地でやって!」 ここで下手に食い下がって揉め事でも起こせば、フィクサードの感情探査に引っかかりかねない。 それだけは避けなければと考えた御龍は、船員に指示されるがままにハンドルを切っていく。 そして停車したトラックから彼女が降りる頃には、全ての車が乗り終わったのだろう。閉じていく車両搬入口を見届けた御龍が船室へと入ると、船はゆっくりと出航していくのだった。 「後は夜を待つだけだね! ……っと」 一方、船室では『angel's knight』ヴァージニア・ガウェイン(BNE002682)が勢いよくそう言った後、慌てて高ぶる気持ちを抑えにかかっていた。 フィクサードの1人は感情探査を持っている。感情のみの探査に限定されるが、半径200mものレーダーが船内を探っていると言っても過言ではない。 「気をつけろよ、船内全ての感情を相手は探査できると考えて良いんだからな」 フェリーの大きさを考えれば、トリストラム・D・ライリー(BNE003053)がそう注意するのも当然ではある。 「難儀な話だね……まぁ、とりあえずバードウォッチングには行くけど」 可能ならば相手に気付かれぬまま調査をしようと考えていた『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)ではあったが、相手の感情探査の範囲を考えれば、それは相当難易度が高い事だと改めて認識したらしい。 「あ、外いくなら俺もいくで!」 と『闇穿つ楔』椎名 影時(BNE003088)が元気いっぱいにそう言ったのは、彼にとってはカモフラージュと言う点では僥倖だと言えるだろうか。 当の影時は船に乗ってテンションが上がっているらしく、時間までは大人しくしていようと思っていた気持ちはどこへやら、素直に今は船旅を楽しもうと考えている様子だった。 「かの豊臣秀吉も、天王山を制すことで天下を制したと友人は言っていた。そっちが駄目でも私が見るから安心するがいい」 それに加えて、もしも智夫の調査が上手くいかなかったとしても、千里眼で相手を『見る』事が出来ると豪語する『NOBODY』後鳥羽 咲逢子(BNE002453)の存在もある。 船旅を楽しみながらの情報収集は、どうやら失敗する事はないようだ。 (それでも気をつけろよ、相手が警戒しては元も子もない) 念のためにとハイテレパスを駆使した『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)の注意に頷いた智夫と影時が走って船室を出て行く姿を見届けると、『13000GPの男(借金)』女木島 アキツヅ(BNE003054)はごろんとその場に寝転がり、残る仲間達に言う。 「夜まで時間はあるんだ、ゆっくりしようぜ」 ――と。 それぞれがそれぞれの思うがままに夜までの時間を過ごす間までは、フェリーの中は平和そのものだった。 「見渡す限り海ばっかりだね、パパ! 明日までこの船に乗るの?」 「そうだな、明日の朝には港に着くから、それまではだね」 盗みを働こうとするフィクサード達、そしてそれを止めようとするリベリスタ達。 夜になれば双方の戦いが人知れず始まる事。そんな事など知りもしないこの親子の会話が、外に出てきた智夫と影時の耳に届く。 「わ! 海広いわぁ、船おっきいわぁ!」 「だよね、一緒に見ようよ!」 そしてはしゃぐ影時に気付いた子供が彼女と共に甲板を駆けていく姿を見送ると、智夫は静かにオペラグラスで遠くを眺め始めた。 「良い景色は見えますか?」 「まぁ海ばかりだけど、海面を見ているだけでも楽しいものだよ」 可能ならば車両甲板の方を調べられればと思う智夫ではあったが、最上段の車両甲板とは言っても決して天井がむき出しになっているわけではない。 (こちらの望む景色は見えないようだけどね) どういう様子かを調べるには直接行って確認するか、千里眼で見通すしかないようである。 「のんびりとした船旅も良いものですね」 「本当にそう感じるよ……」 オペラグラスでは届かない景色は、船室にいる咲逢子が見ていてくれる事を信じて、智夫はしばし子連れの父親との会話を楽しむのだった。 ●深夜の船は戦場と化す 夜になり、就寝時間だと感じさせるように一斉に落とされる船内の照明。 だからと言って誰もがすぐに寝るはずもなく、この二等船室もしばらくの間はそこかしこから小さな話し声が聞こえるだろう。 それはもうしばらくの後に、フィクサード達が行動を開始する時間が近いことも示している。 (――そろそろいくか?) 時間的にはもう良い頃合のはずだとテレパシーで伝えた瞳に、全てのリベリスタは頷き立ち上がった。 フィクサードの犯行を阻止するため、彼等が潜んでいる車両甲板へと――。 「誰か来るわね?」 しかしリベリスタ達の接近は、フィクサード達にもしっかりと気付かれていた。 「船員じゃないのか?」 「足音は8つよ。船員ならそんな団体では動かないわ……喧嘩かとも思ったけど、会話も無いわね」 例え部下Bの感情探査に引っかからなかったとしても、サブリーダーの集音装置はリベリスタ達が接近する足音を聞き逃しはしない。 「お前のほうはどうだ?」 「……強い感情は感じられない」 それでも可能な限り平静を装おうとしているリベリスタの感情は、感情探査でも探りきれるものではなかった。 「面倒が起こりそうな気がするぜ、ったく……おい、出るぞ」 ならば何時でも動けるように出ておいた方が得策だと、リーダーは全員に車から出るように指示を出す。 どうやら少しでもおかしな動きを感じたら、すぐに動こうという算段のようだ。 「……悪い事、やめない?」 「バカヤロウ、お前は俺に受けた恩を返さないつもりか」 「……ごめんなさい」 犯罪をやめようと提案する部下Bを黙らせると、フィクサード達はリベリスタ達が突入するであろう扉に意識を集中し、様子を伺う。 対するリベリスタ達もわずかな時間に態勢を整えながら、フィクサードの出方を伺っていた。 「車外に出たよ、灯りがついてるから暗くはないね。でも……ここから車までは距離があるよ」 「迷っている時間はない、加護をつけるぞ」 敵の動きは扉越しに咲逢子の千里眼が見通せる行動でしかなかったが、外に出た以上は様子見で時間をかける暇などありはしない。 突入前に海に落ちる事がないようにと、瞳の翼の加護が仲間達の背に小さな羽を付与していくと、 「行くぞ!」 バァン!! トリストラムが音頭を取ると同時に、勢い良く開けられる車両甲板への扉。 (距離があっても……!) 先頭を駆けるヴァージニアは、車までの距離を少しでも詰めようと移動だけにその意識を傾けていた。 (見た目で誰が誰かの判断はつく、後は一気に撃ち込むだけだ) 彼女だけではない、続くリベリスタ達も同じように移動を重視しながら、さらにトリストラムは周囲の状況を自身の目で確認しにかかる。 フィクサード達までの距離は後10m。否、およそ5mといった所だろうか。 「は、俺達を狙ってきたか! おい、行け!」 しかしそれは、フィクサード達の射程に自ら飛び込んだのと同義でもある。 「了解っす!」 「……わかった」 リーダーの指示を受けた2人の部下は言われるがままに躍り出ると、最も前に進んでいたヴァージニアと智夫目掛け、それぞれが得意とする一撃を放ちにかかった。 「くっ!?」 「うわぁっ!!」 しかもその攻撃は、相手を海まで吹き飛ばす衝撃を伴った一撃。 船外へと吹き飛んでいったヴァージニアと智夫の姿を見たリーダーは、その光景に口元を歪めながら言う。 「邪魔するヤツぁ、海に叩き込むだけだ……ハハハハ!」 「いや、それはどうかな?」 「あ? どういうことだ!?」 反論したアキツヅが指差した先には、吹っ飛んでいった2人の姿があった。 「飛行も水上歩行も出来ないなら、羽根を足せば良いだけだ」 「なるほど、俺達の戦い方を織り込み済みってわけかい」 今ここで初めて戦う相手同士のはずなのに、瞳の口振りは相手の戦法をリベリスタ達が把握しているのだと判断出来る。その事実に先程まで口元に浮かんでいたリーダーの笑みが、すぐさまリベリスタを警戒するような表情へと変わっていく。 「どうするの?」 「こうなったら……やる事ぁ1つしかねぇだろ」 近くに立つサブリーダーからの問いかけに答えたリーダーの言葉は、最後尾にいた瞳にもしっかりと届いていた。 (何をするつもりだ? 強行突破か、散開か、合流か……逃げる選択肢もあるが) 彼女の脳裏によぎるのは、彼等が取れるであろういくつかの行動の選択。 「ヒデ、エリ! こいつ等を海に落とすのは無理だ、いったん下がれ!」 フィクサード達が取ったのはその中の1つ『合流』だった。どうせ海に落とせないのならば、固まって攻撃を集中させようと言う腹積もりなのだろうか。 そしてヒデとエリという名は、それが部下達の名前という事だろう。 「一度捕捉された以上……そう簡単に逃げられるとは思わん事だ……!」 かといって、リベリスタ達もそう簡単にフィクサードを思い通りに動かすつもりなどない。 さらに距離を詰めたトリストラムが放つハニーコムガトリングの弾丸が、全てのフィクサードの体を鋭く撃ち貫いていくと、息つく暇も与えない連続攻撃がフィクサード達に襲い掛かる。 「そういう事だ、さぁ我と遊ぼうではないか! くっくっく……」 普段の間延びした口調から豹変した御龍が巨大な斬馬刀にオーラを纏わせて連続でヒデへと斬り付ければ、 「悪事などやらせはしない、諦めろ!」 続いた咲逢子の業炎撃がすんでのところでその斬撃を防ぎきった隙を突いてヒデを炎に包んでいく。 「よう、ルームサービスだ、遠慮すんな」 「……痛いのは嫌かも」 一方ではアキツヅが、エリに対して全力を込めた強力な一撃を叩き込む姿がリーダーの目には映っていた。彼の攻撃によろめく少女の姿は、彼女がもう長くは立っていられないだろう事を感じさせる。 「ち、中々に状況は厳しいか?」 「そう思うなら大人しくしてくれると嬉しいんだけど、意外と冷静だね」 当のリーダーも、遠くまで吹っ飛びながらも再び距離を詰めてきたヴァージニアの攻撃を受けて、返しに反撃を仕掛けるものの、海に落とすことは出来ないために攻めあぐねている様子だ。 だが、彼は知らない。ヴァージニアが心の中では『脳筋っぽいのに』と続けていたことを――。 「まったく、面倒ったらありゃしないわね! どうして気付かれたのかし……らっ!?」 「それについては企業秘密だよっ!」 そしてヴァージニアと同じく再び接近して聖なる光で全てのフィクサードを焼き払った智夫は、明らかに敵に『戦法を知られている』という部分での動揺がある事を感じ取っていた。 決してその直感は外れてはいなかった。 「動かんと! 大人しくしろや!」 それは影時がリーダーの動きを止めようと放ったギャロップブレイが、見事にその動きを止めた事からも、その直感には確信を持てる。 否、それだけではない。 「一気に決めるぞ、早々にチェックメイトと行きたいところだからな」 再びトリストラムがハニーコムガトリングの弾丸をばら撒いてフィクサード達に手傷を負わせると、戦況は確実にリベリスタの優勢へと傾いていく。 「……そうしてもらえると嬉しい」 「じゃあ次はお前だな。深夜料金の分、少し負かってサービスしとくぜ」 フィクサード達の1人、部下Aことヒデがその弾丸を受けて倒れた直後、アキツヅが銃床で殴りつけたエリもその場に倒れこめば、勝敗は決したも同然だった。 ――しかしフィクサードには、最後の手段が残っている。 「くくく。運が悪かったな。皆殺しだ!」 「あいにくだが、それは遠慮しておくぜ。ったく、壁にもなりゃしねぇグズが! おい、逃げるぞ!」 2人の部下が倒れた事を確認した御龍が勢い良くそう言ったその時、体の痺れを振りほどいたリーダーは彼女の攻撃を防ぐと同時に海へと飛び込んでいったのだ。 「うふ、それじゃまたね!」 「待て! 逃がさへん! 悪さは駄目って解らせたる!!」 逃がすまいと影時が必死にその後を追うも、この戦闘中もフェリーは目的地へ向けて走り続けている。 「深追いするな、やられるぞ!」 先に海へと降り立ったリーダーに軽くあしらわれ、吹き飛ばされた彼女が再び追いすがろうとしたところで、背後からアキツヅからかかる『無理だ』の一言。 航海を続ける船をフィクサード達が選んだ事も、もしもの時の逃走を容易にする事を考えての事だった――という事なのだろう。 ●船の夜は静かに更ける フィクサード達の犯行を阻止することは出来た。 そう、阻止する事だけは。 「ちくしょう、俺達置いてきぼりっすか!」 「……これで良かったんだと思う」 捕縛できたのは2人の部下のみであり、リーダー格の2人はすでに船から遥か向こうへ離れてしまっている。 「俺、悔しいわ……」 その事実に悔しい思いを滲ませたのは、最後まで諦めずに追いすがった影時だ。 「泣くな、あいつ等は次に捕まえれば良い」 「泣いてなんか、ないわ」 ふんっとそっぽを向いた彼女の姿に、声をかけたトリストラムの顔に軽い笑みが浮かぶ。 取り逃がしてしまった事は確かに悔しいが、犯行を行わせはしなかった事は事実だ。 「次こそ捕まえてみせるさ。次こそはな」 逃げた2人はきっと何時かまた、何らかの罪を犯そうとするだろう。その時を、今はただ待つしかない。 「――だな」 それはトリストラムや影時だけではなく、アキツヅを始めとした仲間達も同じ気持ちだった。 「アジトの位置など、教えるつもりはないか?」 もしも今すぐにチャンスがあるとするならば、アジトを抑えて捕まえる事だと判断した瞳が、捕縛した2人に問う。 「俺達は見捨てられたみたいだし、そりゃ構わないっすけど……」 「……多分無駄、と思う」 が、2人の答は『今のアジトには帰らないはずだ』と一致していた。 「なるほど、君達が捕まった時点でアジトの位置は割れるって事は、向こうも理解してるだろうしね」 「……そういう事」 智夫の言葉にエリが素直に頷いた事は、その言葉が偽りではないと判断させるのに十分だった。ある意味では嘘であってほしかったと思う者もいるかもしれないが、それは贅沢なのかもしれない。 「じゃあ、どうするぅ?」 「船旅をこのまま楽しむっていうのは、どうかな!」 ならば今、出来る事はやり尽くしたはずだ。御龍の問いかけに、ヴァージニアは『やっぱりこれしかないよね!』という表情で提案する。 「それが良いだろうな……が、こいつ等はどうする?」 しかし楽しむためには、トリストラムが言うように捕まえた2人が逃げないようにしておく必要もあった。 「あぁ、俺達は大人しくしてるっすよ。逃げてもしょうがないっす」 当の2人にはもはや抵抗の意思もないため、その心配も杞憂に終わりそうなのが救いと言えるだろうか。 「という事らしいぞ。まあ、アレだ。私が居る時点で泥棒するのは諦めた方がいいぞ」 今ならば言えると判断した咲逢子の言葉に『……わかってる、ごめんなさい』と頷くエリは、やはり悪い事をするのは好きではなかったようだ。 しきりに『恩を返せ』と行動を強制されていた彼女には、逆らえない理由も存在したのだろう。 もし戦いの最中に彼女に何らかの説得を仕掛けていたならば、リーダーを止めるために動いていたかもしれない。 (今となっては考えても仕方はないがな) そうなっていたら結果は違った可能性もあると考えるアキツヅだったが、今となっては後の祭、考えるだけ無駄だと首を左右に振ってその考えを払拭した。 「じゃ……船旅を楽しもうか」 逃げようとしても千里眼が全てを見通している。捕縛した2人にそう告げた咲逢子を先頭に船内へ戻ったリベリスタ達は、夜の船旅をのんびりと楽しむのだった。 もうこの船旅を邪魔する、無粋な輩はいないのだから――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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