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Zarathustra

●超人思想の果て
「葛ヶ谷様、先ほどの会話は、一体……」
「先方の『勝利宣言』だ。これで我々は既にアークという組織に四戦全敗、戦力の八割を喪ったということになる。これが何を意味するか、聡明なお前なら分かるだろう?」
 認めたくは無いがな、と自嘲の笑みを零すのは、自らの主人であり盟主であり現身。今まで笑み一つ見せたことのなかった彼が、この期に及んで笑う、という意味が、倉敷史子には分からなかった。ここまで追い詰められたことの何処に面白みがあったのか。敵対するフィクサードを一蹴したときですら、にこりともしなかった彼が、どうして。
 だが、同時に理解しても居る。ここまで追い詰められたということは、彼は既に自らを過ちであると規定している。
 その過ちをどこに置くかが、一般的な革醒者である我々と、彼の違いなのだろう。
 そう、結論はとうに出ている。次の言葉も理解している。だからこそ口にも出来ず、それ故に互いの意思が伝わっていた。
 読心術など無くとも。意思疎通能力など無くとも。それだけの月日を共にした相手である。

「フミコ。私を殺してくれ。運命が尽きるまで何度でもだ」
 立ち上がり、彼は宣言する。その表情を彼女は死ぬまで忘れない。忘れられるはずがあろうか。
 ――その死は喜悦に満ちている――。

●人であり神でなく、希望であり夢でなく

「今まで、フィクサード組織『ツァラトゥストラ』の方との交戦は四度にわたり、現状においての当該組織の被害は捕縛九名、自死一名。残存人員が多いと踏んでも、個々の頭を抑えた以上、事態は私達に有効に推移し、また、彼らも捕縛されたことを受け入れ、一定量の情報提供を受けられました」
 ブリーフィングルームに集まった面々へ向け、『運命オペレーター』』天原和泉(nBNE000024)は今までの経緯を話し始めた。交戦時にああも抵抗が強かった相手が情報の開示を積極的に行う、というのも些か疑わしいが、現状では支障はない、と彼女は言う。
「あちら側にとって、都合四名の統括幹部が喪われた事態は流石にコトが大きすぎたようです。残された首魁――『葛ヶ谷 啓』が何を行うか、一部の人間は予想していたようですね」
「……一斉攻勢にでも出る気だったのか? 数に任せれば或いは、という考えはあるだろうが」
 どうにも要領を得ない言葉に痺れを切らしたように、リベリスタの一人が応じる。しかし、彼女は静かに首を振る。

「これは『御咲 静江』が僅かながら持っていた情報ですが。彼は、自らフェイトを使い果たすことで『真たる超人』、つまりは現状の能力を度外視したノーフェイスと化すことも検討していたそうです。尤も、部下が優秀だったこともあり、『ジーニアスこそが絶対たる超人である』という矜持は曲げていなかったようですが」
 未来を捨ててまで超越に執着する。人としての高みを求めた末に人を捨てる。それはまるで、空を求めたが故に地に堕ちたイカロスのようではないか。

「『ツァラトゥストラ』の本拠地は割り出せています。そして、葛ヶ谷氏は――既にノーフェイスになった後でしょう。だからこそ、皆さんにお願いします」
「夢を終わらせてあげてください」、と。今まで敵として身を削りあった相手ですらも気遣う和泉に、リベリスタ達は言葉を失った。

●超越の代価
「はハ、ははハHa、いい、これはとてもイい、可笑しくてたまらない! 今までの私は、俺は、僕ハ何だ、ナンダ!?」
 砲身と化した右腕から光が閃き、夜を貫く。
 獣の如く、巨木の如き足が床を踏み抜き宙に舞う。
 機械じみた翼が月と業火を反射して、生物的な翼が小刻みに震える。
 その身の体積は既に数倍し、その破壊は既に数十倍を数え、胸の中心から突き出した異形の器官は、最愛の、否、最愛「だった」モノを貫いて自らとしていた。
 これを異形と言わず何をば異形というべきか。
 これを超越者と呼ぶことの何と愚かしきか。
 彼は、人を超えたのではなく、人を踏み外したのだ。
 全ての思想は無に帰した。
 ツァラトゥストラの名のもとに、業火へくべる薪の如く。彼は信仰そのものとなり果てた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:風見鶏  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月27日(木)23:18
『ツァラトゥストラ』最終シナリオ。
 敵は単一。思想に迷って夢に狂った化物です。今までで一番SANチェックが入りそうな。

●エネミー
『偽装の超人』葛ヶ谷 啓―ノーフェイス:フェーズ2。フィクサード時はジーニアス×クロスイージスでした。
 体格は2m30ほど、体重は機械化部分があるため論外です。
 左腕は砲身に、右腕と両足、口元はオオカミに、翼は機械と生物型の非対称型。
 胸の中央から巨大な牙らしき追加器官が生えており、根元に人間一人を突き刺した状態。
(刺さっているのは『倉敷 史子』と思われる。死亡済み・救出不可。遺体回収可能)
 飛行(常時低空飛行)・落下制御を保有。WP値高め。
・サウザンドハウンド(神近範・ショック・ダメージ0)
・ファントム(神遠単・麻痺・致命)
・兇突(神遠複・流血・H/E回復60)
・エアリアル・バインド・コンボ(物近範・命中大・[連])

●戦場
『ツァラトゥストラ』拠点。既に葛ヶ谷の暴挙で炎上中であり、実質の戦場はその外です。
 炎上により光源は十分。フィールドは30×30(m)程度の広さですが、奥側10×30の範囲(炎上区画)に侵入した場合、毎ターン40点のダメージを被ります。

 色々とフラグを拾っては潰しの最終戦。お付き合い頂ければ幸いです。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
デュランダル
神楽坂・斬乃(BNE000072)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
★MVP
天月・光(BNE000490)
マグメイガス
百舌鳥 付喪(BNE002443)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
マグメイガス
バーン・ウィンクル(BNE003001)
スターサジタリー
トリストラム・D・ライリー(BNE003053)

●醜悪を愛でよ
 爆炎が背を炙る。高々と掲げた左腕から放たれた光が、次々と地面へと突き立てられ、抉り飛ばす。翼の震えは、さながら歓喜を顕すそれで、獣の因子は敵の――もうリベリスタかフィクサードかも分からない――到来を静かに告げる。
 胸元へ、静かに右手を添える。熱は無い。想いもない。無感動に撫で付ける女の髪は、何時かと同じ色のまま。狂気などというものを今の自分に当て嵌めるのなら、それは違うと断言しよう。
「来るなら来い。狂気など、とうの昔に飲み干した」
 運命こそが狂気なら。それを磨り潰した果てに生まれた自分は既に、そんなものの枠から逸脱して久しいのだ。

「哀れなものね」
 戦場となる場から閃く爆光が、来栖・小夜香(BNE000038)の顔を照らす。全てを捨てて選択したそれが、革醒者としてどれほどに愚かで哀れだったか、など言葉にするまでもない。それでも、それらの引き金を引いたのがリベリスタだというのなら、それに決着を付けるのもリベリスタの役目だと、彼女は正しく認識していた。
「例え運命からの恩恵を得られようと所詮人は人だ。肉体的な強さを得ようとも、精神はそれについては来ない」
『超人』、人を超えた人。どこまで行った所で、それは人の枠組みを外れることはない。小夜香の前を進むトリストラム・D・ライリー(BNE003053)にとっても、葛ヶ谷は唾棄すべき選択をした敗北者にしか見えていない。

「悲しいねえ。何とも悲しい姿じゃあないかい」
 着込んだ鎧の感触を今一度確かめ、『イエローナイト』百舌鳥 付喪(BNE002443)はその光景を傍観していた。ツァラトゥストラとの戦闘を経験した者としては、その首魁が採った選択に思うところがあるだろう。フィクサードであれば、彼を受け容れる構えもあったろうが――アレは既にノーフェイスだ。付喪にとって、形状し難い意思を向けるに値する『敵』だ。
「ノーフェイスになるべきじゃなかった……なぜなら世界の敵にリベリスタは躊躇しないからな!」
 同じく、ツァラトゥストラについての予備知識を持つ『素兎』天月・光(BNE000490)にとっても、この結末は余りに哀れに映ったことだろう。『リベリスタの敵』ではない。『世界の敵』に堕した相手など、既に彼女にとっては物の数ではない敵のひとつと堕した。『堕してしまった』。ならば、それは倒すべき存在でしか無い。

「譬え喜劇であっても笑えませんよ」
 源 カイ(BNE000446)は、対峙する相手について、ひいては組織について、対峙したことのある人物より聞き及んでいる。それらの葛藤がどうあったかも、知り得るに足る立場にあった。だからこそ、その選択肢を笑えない。許せない。これまでの道程を全て否定する選択肢を、許してはならないと考える。

「炎上の勢いは一段落した、といったところだが……その分、何処が崩落してもおかしくなさそうだな。勢いが落ち着いただけで、炎上は続いている。葛ヶ谷は――語るまでも無いな」
 炎上する拠点を背にその身を広げたシルエットは、葛ヶ谷に相違無いだろう。なれば、あれこそが敵で、倒すべき相手である。『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)は、それ以上は無用だと言わんばかりに言葉を切った。

 そうだ。
 倒すべき相手についての感慨など、一人ひとりが心に留める必要は何一つとして存在しない。
 培った因縁があり、怨敵があり、憤る我があり、十分な戦場がある。
 最後の舞台は整った。想いを叩きつける相手は、既に状況に存在している――

●愛あればこそ
「来たか、愚かしくも馬鹿正直に正面か、ら……」
「野望の果てとはそういうことなのか?」
 余裕を隠さず、砲口を向ける啓の視界から消える程の速度で放たれた光の斬撃は、狙い通り相手の胸部の拡張器官を打ち据え、貫かれた死体を僅かに揺らがせた。だが、彼女の剣をして揺るがないその器官の強度は、つまるところ啓自身の強度に比例するだろう。絶対の信頼か、只の無関心か。彼の表情が揺らいだ気配は無い。
「ご自分が間違っていることくらい、理解しているんでしょう――ッ!」
「間違いを何処に定義するかにも拠るんだ、少年。願望とはそういうものだ!」
 頭部目掛けて放たれた一撃を正面から受け止めて、しかし啓の動きは止まらなかった。砲口を引き、右腕をすくい上げるようにして放った一撃が、続けざまに二人の身を掠める。高度を下げ、蹴りで両者のバランスを崩し、空中へ向けて次々と連撃を放っていく。空中戦用の打撃の驟雨は、しかし二人を確実に捉えるにはやや浅い。僅かに足元が浮きつつも、タイミングさえ予測できていれば――芯をずらすことなど難しくはない。

「もう、終わってしまってるんだね……でも哀れとは思ってあげないよ!」
 乱舞の死角から飛び込んできたのは、『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)が手にしたチェーンソーのモーター音。獣化の腕を狙って叩きこまれた一撃は、鉄の如き爪と打ち合い、けたたましい音と火花を散らして鬩ぎ合う。
「哀れ? その定義は私が決める。その帰結は――死地に塗れて思い知れ!」
 爪の何本かを叩き折り、その指先を抉った一撃は隙を作るには十分すぎる破壊力を持ち、続くリベリスタへの鏑矢として機能する。
「牙の強度は厄介だが、獣化部分はそうでもないらしいな――右半身に攻撃を集中させれば或いは、いけるぞ!」
「砲塔は見るからに硬そうだけど、壊し方はあるってね……その先は考えて欲しいけど」
 小夜香の前へ立ち塞がるトリストラムと、魔力を練り上げる付喪が口々にその数合の交錯を分析し、メンバーへと伝えていく。力を揮うだけが戦いではなく、相手を凌ぐだけが強さではない。状況を勝利に導く為に、出来ることを全て選択しようとするその意思は、リベリスタとして必要とされる才の一つ。そこに経験の差など、関係ない。

「気分はどうだ、『超越者』。随分とご機嫌な様じゃないか」
 火縄銃を静かに構え、龍治は啓の激しい動作に照準を合わせていく。狙うは、光同様拡張器官である胸部のそれだ。威力を全く失わぬままに拡張器官を撃ちぬいたその一撃は、明確に啓の感覚器を刺激し――
「貴、様ァ……!」
 その憎悪を身に受け止め、しかしその感触に恐怖よりも先に、自らへの快哉を叫ばずには居られない。破壊には程遠い威力ながら、それでも彼の意思の中心はあの拡張器官に行っている。とすれば、ヘイトコントロールは相当に容易であることもまた、事実。
「人を超越した存在になったんじゃなかったのか? ――まあ、所詮はそんなもんか」
 挑発を交えることも、彼にとっては策の一つであり。確実な道を踏みしめた感触は、その手を占めて離さない。

「全力で全速に仕留める、バケモノ退治のセオリーだね、シャカにセッポーだったかな?」
 大鎌を啓に向け、魔の響きを叩き込むのは『R.I.P』バーン・ウィンクル(BNE003001)。だが、乱戦の中にあって啓の狂気は驚くほどに冷静に冷徹に状況を見抜き、その呪いを避けきってみせる余裕をも見せ付ける。狂気と魔の侵食にあって、恐るべき対応力だ。

 だが、それは継続する戦線のほんの一瞬の交錯に過ぎず。
 慮外の耐久と悪意を備えた啓との戦闘に於いて、開戦の狼煙を上げたに過ぎなかった。
 戦場は変遷する。意思の蠕動と戦場の変化は、少しずつ、確実にリベリスタ達を追い詰めに蠢いていく――

●悪意尽きまじ
「――そんなもので、私を縛る気だったのか? 『超越者』の私を!?」
 左腕の砲塔が閃き、バーンの肩口を深々と抉り、その身を吹き飛ばす。本来の痛撃を遥かに超えた渾身のそれは、疲弊した戦線に於いて膝を衝かせるには十分すぎる火力と悪意、そして憎悪。啓の底を見抜くには、余りに無遠慮に踏み込み過ぎた意思の逆襲をモロに被った形で、その意思を根底から削り飛ばされた。
 崩れ落ちる彼を踏み留まらせるには、運命の加護が追いつくには遅すぎる。周囲の手が伸びる前に、その身は爆炎を反射して倒れ伏す。

「超越したにしては、随分と感情が不安定じゃないか。そんなものなのか、お前は!」
「愚弄するか、貴様!」
「ああ、哀れだと想うよお前は。醜悪なお前は、『超越者』には程遠い」
 現に、感情に揺さぶられて正常な判断力を欠いているではないか――口中でそう呟き、龍治の火縄銃が幾度か目の銃弾を吐き出す。装填動作の余りの速さに、それが彼の受け継いだ骨董品だとは思えまい。神秘に浸った武器の真髄は、そこにある。

「福音よ、響け!」
 小夜香の切羽詰まった声が神秘を導き、回復の律動で戦場を満たす。拡張器官が伸び上がり、後衛を貫いたことは既に数度。その度、彼のそれへ貫かれた遺体が小刻みに揺れ、疵口を広げ、裂けていく。余りに醜悪、余りに悲惨。意識の外に置こうと思えど、それは敵の本質そのもの。見ずに済ませる道理は無い。
「生憎と、自分自身を見限ったような奴には負けたくはないもんでね」
「全くです……これが、『あの人』を苦しめた集団の末路なら――僕はそれが尚更許せないッ!」
 カイの五指が、啓へ向けて開かれる。閉じたそれは数多の糸を携え、その動きを縛り上げ……その一瞬に、付喪の魔弾が飛来する。基礎を決定打に育て上げたその一撃が、痛打にならぬわけがない。軽易な逃げに走った報いを与えんとする意思、愛する者の戦いの道程を穢した悪意への怒りは、その一撃一撃に重みと確実性を与えんとし、戦局をじわじわと覆す。

「勝利や、敗北など。そんな物は──いざ戦ってから決まる結果だ!」
 血を吐き、盾を掲げてトリストラムは叫ぶ。未熟であればこそ、出来ることを成すと決めた。護るべきものを護ると決めた。喩えそれが絶望的であっても、彼に刻み込まれた意思は二の足を踏ませることも、倒れることも許そうとしない。許すわけが、無い。
 だからこそ彼は戦場に居る。戦場に『在る』。自らの選択を間違いとは言わせぬとばかりに。

「こ……ッの……下郎が――!」
 残響すら起こす勢いで発せられた啓の怒声は、リベリスタ全員を縛り付けようとする怒りと怨嗟に満ちていた。悪意はどこまでも悪意であり、その叫びは醜悪ですらあった。
「戦闘中だ!みんなしっかりしろ!」
 しかし、か。だから、か。正面から立ち向かう光には、その響きはまやかしでしか無く、その響きは自らの心すらも揺さぶらない。
「その程度しか出来ないのに、『超越』だなんだって――甘いと思うな!」
 ギャイン、と鉄同士の悲鳴を残し、チェーンソーが砲塔を中央から真っ二つに両断する。返す刃で振り上げられたそれは、僅かに残った獣の爪と鍔迫り合いを繰り返す。
「知った風な口を利くな! 結論に至るまでの道程が! 絶望が! 願いが! 貴様等に分かるか、分かって堪るか!」
「分かるよ」
 斬乃へ向けて叫ぶ啓の耳に飛び込んだのは、静謐ながら蟠る感情を振り絞った光の声だった。だが、その姿は既に彼の視界から消えている。
「僕はジーニアスに憧憬を抱くこともある。それは戻れない昨日への憧憬だ」
 憧れるということは、過去に夢を抱くということ。ジーニアスの正当性を主張せんがために他を否定するその姿勢は、きっと「そうなれなかった」絶望の鏡写しか。であれば、彼と光はきっと――
「でもな、君とは違う! 僕は明日へ進む!!」
 否、一切が違うのだ。先へ進む強い意志と、過去へ帰結した脆弱な感情。愛する者を喪うことを躊躇わない悪意と、仲間を想い糧にする力の矛先。
「超人なんてもんは、道半ばで諦めた奴が口にする、言い訳さ。あいつは、自分は超人だってね」
 人を超えた存在なのだから、道を踏み外して然り。超人なのだから、超えられずして然り。そんな在り方が、許されるわけがない。許していい訳がない。付喪が、猛る。

「まだまだ……こんな所で、私はっ!」
「今の貴様には解らん代物かも知れんがね……こんな若造くらいにも貫き通す“意地”くらいはあるのさ……!」
 倒れることなど、有り得ない。あってはならない。その矜持を髄まで叩きこみ、小夜香とトリストラムは叫ぶ。嗚呼、その想いの在り方は革醒者が持ちうる最後の一線を護る決意の咆哮。その意思は嘗ての啓も手にしていたもの、そして手放したもの。

「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿――」
「葛ヶ谷! 自分を認めることができなかった! その結末がこれだ! 君の罪は僕が背負う! だから、君はここで終着だ!」
 光の速度が限界を越えて軋み、背の翼を切り刻む。
「だから、安心して派手に燃え散りな、葛ヶ谷 啓!」
「その選択が間違いだったって、僕が、僕達が証明してみせる!」
 啓の頭蓋を、付喪の魔弾が打ち抜き、カイの爆弾が打ち砕く。
「あんたは逃げ出した男の残滓に過ぎないよっ。その身を墓標に変えて、眠れっ!」
 顔を半ばまで喪ったその死海が最後に捉えたのは、大上段にチェーンソーを振り上げた斬乃の、言葉にならぬ刹那の表情。

 ――それが願いの原初であれば、と。
 戻れない日を想った、その逡巡こそが全ての間違いで敗北だったと、最後まで彼は気づかぬまま、果てた。

●そして明日の一歩を
 火の手の尽きた瓦礫の山、変異の激しい啓と、傍らに分けられた史子の遺骸。彼が最後まで手放さぬ理由は、最後まで彼らには分からなかった。分かるわけが、なかったのか。
「心こそ大事、と説いても無意味だったでしょうね……虚しい……とても虚しい気分です」
 顔を伏せ、カイが吐き捨てるようにそう告げる。心に重みを置いていれば、そんな過ちに踏み込むこともなかったのだろうか。陰惨な終焉は、彼らに横たわる為だけにあったのか。

「若い連中はなんでこう、生き急ぐのかねえ」
「きっと、憧れに目を焼かれて、隣も世界も見えなかったから」
 付喪の独り言に、声を添えたのは光だ。常の彼女らしからぬ神妙な言葉が、僅かな沈黙を作り、

「ぼくは誰にも憧れず、自分自身の道を行く! それがぼくの――兎道だから!」
 元気よく拳を突き上げた彼女の誓は、何処へ届き誰に触れるのか。
 最悪を踏み越えて、リベリスタは明日を目指す。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 スキルと数値は「これができる」「ここまでできる」の機械的指標です。
 それが高いことに越したことも、幅がひろいことに越したこともありません。ないよりは素敵です。
 ですが、それを実数として叩きつけるか、使わず腐らせるかはその意志の在り方が決めることです。
 それを踏まえれば、強敵ではありましたが葛ヶ谷には些かばかりそれが足らず、皆さんの意思の波濤に押し切られた、とでも表現しましょうか。

 MVPは、意思、行動原理、フレキシブルな対応等、総合的に評価して天月・光さんへ。
 
『ツァラトゥストラ』の因縁はこれにて閉幕。
 またの機会にお会いしましょう。