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<シンヤ逆撃>シンデレラ、不在


「恐山会からの情報を受けて、カレイド・システムを集中運用した結果――」
 小さく告げ、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がリベリスタたちに説明を始める。
「シンヤのアジトが見つかった。
 そして、その近くに――車庫が見つかった」
「車庫?」
 聞き返したリベリスタに、イヴはひとつ頷く。
「取り逃がした、七海というフィクサード――彼女はジャックたちの親衛隊を自称している。
 でも、彼女は後衛型。一人では、決して強くないから、その車庫に新しい相棒を準備していた。
 前回と同様、エリューションを使役している」
 イヴのため息に、リベリスタたちは静かに次の言葉を待つ。
「そのE・ゴーレムは、電車の形。これも、以前アークが逃がしてしまったもの。
 ただ――元がそうだっただけだと考えたほうが、いいと思う。
 あの時破壊されたところを修復した結果、外観は大きく様変わりしている」
 そう言ってモニターに映しだされた「電車」は、黒く大きな、かぼちゃの馬車にも似ていた。
「フェーズは2。今はまだ、ね」
 蔦のようにも、血管のようにも見える何かで覆われた馬車は、ゆっくり脈動しているように見える。
「電車の中には二人。
 モトマチ・ケンタロウ、ハトのビーストハーフ。
 そして、七海。クモのビーストハーフ。二人の間に協力関係はない」
 モトマチ・ケンタロウはフィクサードと一言で切って捨てるにはあまりにも害意がない。
 しかし、七海は別だ。
「七海はモトマチ・ケンタロウを縛り上げて、運転席を掌握した。
 前の犬と同じ、どういうわけかわからないけど七海の指示に従っている」
 イヴが小さく首を振った。
「電車がもし走りだしても、車でできる限り並走するから追いつけなくなることはないよ。
 でも、それが限界。みんなの襲撃を知ればすぐに走り出すだろうし、七海はビーストハーフ。
 みんなには、電車に乗り込むところから頑張ってもらうことになると思う――
 どうか、頑張って」

 真剣な顔で頭を下げたイブに、リベリスタたちはひとつ頷き返した。


 倉庫街の片隅。暗い中に、男女の声だけが響く。
「なあ、ねえさん。もうワシほどいてもらえへんか?」
 すっかり様相の変わった、しかし座席は未だ生きている車内。
 縛られて転がされたケンタロウが、じたばたと呻く。
「ごめんね、ぽっぽやのおじさん。
 あなたのことはどうでもいいんだけど――運転士がいないと、この子、走れないみたいなの」
 艷めいた笑顔を浮かべ、まるで玉座のように形が変わった運転席に腰を下ろす七海。
「帰り道にこの子を見つけたのは、僥倖でした。
 取ってこい、と言われたのに――何の手土産もなしに帰るなんて、狗らしくないでしょう?」
 ゆっくりと運転席を撫でる七海の手。あの犬に代わる、新しい相棒。
 口の端に浮かんだのは自虐の色。

「これで、私も伝説になるのかしら?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月28日(金)00:14
ももんがです。
七海については拙作『<Blood Blood>モーニングスクープつるみ屋』を
電車・ケンタロウについてもやはり拙作『エリューション鉄道の夜』を参照下さい。
以下詳細。

●成功条件
電車・七海の撃破

●電車
以下の攻撃方法が増えています。

つたA(近・単・物/BS呪縛)
つたB(遠・範・物/BS出血)

●七海
運転席にこもっており、ケンタロウを盾にしてきます。
また、今回は物質透過を使用せず、そのかわり暗視を使用します。

●ケンタロウ
フォーチュナです。戦闘能力はありません。

●倉庫街
 今は使われていない倉庫街です。
 人通りもなく、灯りもありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
深町・由利子(BNE000103)
インヤンマスター
アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
スターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
デュランダル
宵咲 美散(BNE002324)
インヤンマスター
駒井・淳(BNE002912)
■サポート参加者 2人■
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
クリミナルスタア
関 狄龍(BNE002760)

●Climb Ev'ry Mountain
 がらがしゃん、ばりばりばりっ!
 豪快な音を立てて、古い倉庫街の、錆びかけたシャッターが突き破られる。
 七海は驚愕の顔でその様を見た。
 ――二台のトラックと一台のバンが、彼女の乗る「電車」を包囲していた。
 片方のトラックの荷台から、人がばらばらと降りて電車を取り囲む。
 何人かはランプを揺らしているのも、すぐにわかった。
 怪訝そうな表情を浮かべて、七海は呟く。
「どうしてここがわかったのかしら」
 それがリベリスタたちの襲撃だと理解するのに、時間は必要なかった。
 アークの切り札、カレイドシステムについて七海の知識はその名と大雑把な機能にとどまる。
 アジトなどを隠せているのも、それを塔の魔女が何らかの方法で撹乱しているから、程度の認識。
 ――よもや情報を流されたなどと、思い至るわけがなかった。
 電車を動かし、トラックを押しのけようとした所で――既に回りこんだリベリスタを追い払えるわけではない。彼らはひとところに攻撃を集め、馬車の黒い壁を突き破る心算のようだった。

「お互いの行動がどこまで読めてるかの心理戦ってとこかな、今回は」
『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)が、攻撃のシードを活性化させたブロードソードを提げて目を細める。暗闇を意に介さずその電車の大きさを把握しようとし――それが一両だけだと知った。以前の報告書に比べて車両が減っているのは、己の補修に費やしたのか、それともそれだけ変異が進みつつあるということなのか。
 その横では『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が電車の核がどこにあるかをさっと確認している。――混乱を避けるためにも、しばらくは彼を桐月院と呼ぶこととする。
『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)はケンタロウが見えないかと車内に目を向けた。以前七海の起こそうとする事件をアークが妨害したことがあったが――その時の被害は、決して小さいものではなかった。彼女をまた逃してしまったら、きっともっとたくさんの血が流れる。
「今度こそ絶対に逃がさない。もうあんな悲しく悔しい思いはしたくないのです」
 強く自分に言い聞かせるニニギアの横で、彼女の用意してきたトラックで運転手を務めた『錆天大聖』
関 狄龍(BNE002760)が、ライターでタバコに火をつけ、ニヤリと笑う。――文字通り『体を張った』仕事に徹する心算でいるのだ、狄龍は。
「廃線の電車、か。君もお墓に入るべき存在だね。ちゃんと眠らせてあげよう」
『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)の目から見れば、それは黒い南瓜よりも棺に近い。
「クモ女か。さて、どんな味かな?」
 期待すら滲むような声でひとりごちたのは『背任者』駒井・淳(BNE002912)。
「どんな伝説になろうとしているんだ、あの女は」
「桐月院さんじゃない七海だねー、前は顔も見てないんだよねー。
 あの時は別のエリューション相手に人情紙風船やってたからねー」
 それを聞いて各々口にしたのは『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)と、『黄道大火の幼き伴星』小崎・岬(BNE002119)だ。彼ら二人もまた、以前の事件に関わっている。
「ハッハー! トリックorトリート! ってかー!」
 バック音ブザーの配線を切ったトラックに全員を載せて、バックでの突撃をしてみせたたツァイン・ウォーレス(BNE001520)が、突入時テンションのままに快哉をあげ、強結界を張り巡らせた。
「今度は南瓜の馬車ねぇ……七海さん……貴女のセンス、本当に見てて辛いわ」
 ランプを腰に結わえた『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)が、ため息混じりにそう告げる。

 決戦は、目前。

●Maria
 最初に車内に足を踏み入れた淳を迎えたのは、一発の銃声。
「くっ!」
 防御結界と、刀儀陣による二重の守りが功を奏した物の、決して浅くない傷を受けた淳は顔をゆがめて射手を探す。見えたのは僅かに開かれた運転席への扉、そこから覗く散弾銃の銃口。
 七海は射撃を主とした戦い方をする女である。彼女は己の直感に従い、撃ち手の定石に従ったまで。
 ――すなわち、篭城。
「出てこないか……なら!」
 それを予期していた翔太が、切り替えたギアに任せた勢いを緩めることなく扉へと跳びかかり、ブロードソードを振るう。ガラスの窓が砕け、ところどころに金属の名残を残しただけの黒い扉も大きく歪む。
 隙間こそ狭く、遮蔽物にはまだ辛うじてなるが――もはや壁となり得ぬことは明白だった。
 その間に淳の傷をニニギアが喚んだ癒しの微風がなぞる。魔力を循環させたフライエンジェの癒しは、ヴァンパイアの傷を充分に癒した。

「やあ七海さん! またお会いできました。
 足の傷は大丈夫ですか? 貴女のことを思うと夜も寝むれず寂しい時を過ごしていました」

 車内に底知らぬ熱気を孕んだ声が、消えると同時にひゅうと矢羽が風を切る音が響く。
 桐月院だ。
 名前、戦闘スタイルの共通性。
 それらから始まり、前回の邂逅により一層進んだ彼の七海への執着は、深い。
 熱病にさえ近い感情を凝縮した呪いの矢は、しかし冷徹な殺意を持って正確に歪んだ扉の裏にあった七海の身体を射抜いた。
「七海! 今度は逃がさんぞ!」
 彼女を取り逃がした雪辱を晴らそうとしているのは、桐月院だけではない。
 美散もまた、確固たる決意と意思を篭めて叫ぶと運転席へと突貫する。

「あら。これがモテ期、というやつなのね」

 冗談めかしてそう笑う七海は縛り上げたケンタロウを己の前に転がし、盾にしている。
「ちょ、冗談きついわあ!?」
 ケンタロウが半泣きで長い喉をぐーぐーと雑音まじりに振るわせる。
 しかしそれは、カレイドシステムが予知していたことでもある。
 美散は躊躇することなく、ケンタロウごと七海にタックルを仕掛けた。
「――あら、本当に情熱的なのね」
 精悍な男の突撃に、華奢な見た目に相応の力しかない七海は姿勢を崩し眉をひそめる。
 ずがん!
 そこに鈍い音を立てて扉が倒れ込んできて、七海、ケンタロウ、美散のバランスは更に狂った。
 手甲型アタッチメントの指先から硝煙を立ち上らせた、狄龍の仕業だ。その早撃ちによって扉の蝶番は完全に役立たずになっていた。
「貴女の魔法、解かせてもらうわよ。十二時の時計を待たずにね」
 大きく開いた運転席への道、そこを狙い由利子が十字の光を放つ。
「それは困るわね、まだシンデレラをお迎えできていないのに」
 まともに直撃すれば怒りを呼びケンタロウの安全を確保することもできただろうが、七海もまた一筋縄ではいかない。体勢を崩していたために避ける事こそなかったが、その光は細い脇腹をいくらか焦がすにとどまり、狗は微笑を崩さない。
 意識を集中させつつその様を観察したアンデッタは、険しい表情を浮かべた。運転士の無事を確保できるかどうかは際どく、場合によっては次善の策――例えば人質を奮起させたり――が必要になるだろう。
「危ない、危ないて!」
 そのケンタロウが悲鳴を上げる。
 岬がその鼻先スレスレを通る軌跡で凶悪な形状のハルバードを振るったからだ。
 全身のエネルギーを集めた斧槍は七海を弾き飛ばし、ケンタロウと七海の間に確かな距離を作る。
「OK、ナイス連携!」
 その七海を2撃目の十字が襲う。
 ツァインの放った光の一撃は今度こそ七海の身体の真芯を捉え、その精神を怒りで蝕んだ。
「痛いわね」
 七海の信仰に基づく一方的な有罪判決(ギルティ)。その断罪の力が篭った散弾は、防御に優れるツァインでさえ危うく膝を付きそうになるほどの威力を叩き出したうえに呪詛を絡みつかせ――しかし、ケンタロウと七海の距離は開いたままである。そこに機が生まれた。

「暴れろ! 車掌!」

 淳はケンタロウに呼びかけながら、七海に組み付こうと飛びかかり、同時に封縛の符を構えた。
 七海の身を、己と呪印、二つの方法で縛る作戦に賭けたのだ。

●Sixteen Going on Seventeen
 成功すれば確かに、フィクサードの脅威は消えただろう。
 ――しかし、時には二手、三手を同時に打てたと思えることのあるリベリスタといえど、狙ってその現象を引き起こせるわけではない。技も体術も、同時にこなすには不完全で、七海は呪印と淳を諸共に振り払ってしまった。
 一瞬だけ勝ち誇ったような顔をした七海は、しかしケンタロウの方を向いて顔をしかめた。
 翔太がケンタロウを運転席から連れ出していたからだ。
 淳の言葉に従ったのだろうケンタロウはぴょんぴょんと飛び跳ねて逃げつつも必死に身を捩って己を縛る縄を解こうとしているのだが、流石にそう上手くはいかないらしい。
 だが翔太がその前に立ちはだかる以上、もはや七海はケンタロウを生きた盾としては使えない。
 ニニギアの癒しがツァインの深手を緩和させるのを見て、七海ははぁ、と溜息を吐いた。
「邪魔しないではもらえないのね……。
 ねえ、これからシンデレラを迎えに行かなくちゃいけないの」
 彼女が再び告げた架空の姫君の名に、リベリスタたちは眉を潜める。

「ええ、緑の髪のシンデレラよ。
 連れ戻さなきゃ。だって、舞踏会で王子様が待っているのですもの。
 言う事を聞かないカボチャの馬車も、魔女様が従順にしてくれた事だし、ね?」

 幾人かが、表情を強ばらせる。
 その表情を引き出せたことに満足したのか、七海は薄っぺらく微笑んで見せる。
「さながら私は馬車を引くハツカネズミ――それとも、御者かしら?」
 笑う女は、この期に及んでも己は端役だと言う。
 徹底した被虐と従属。その薄っぺらい表情が、彼女の矜持であり、全て。
 己の欲に忠実な、という一点においては誰にも引けを取らぬほどの、フィクサード。
「本当に、あの人達がお好きなんですね。そう……」
 桐月院の声に篭もる感情――他者に窺い知ることのできのないそれは『唯一無二』の一言に集約する。
 それは丸で地獄の底から溢れ出るかのようで。
 七海が初めて、僅かにたじろいだ。

「だからこそ! 貴女を認めたうえで、アナタの全てを否定する!!」

 叫びと共に放たれた矢は今度こそ七海の真芯を捉え、想念の篭った呪いが女の身体に侵食して行く。
 その隙に美散がケンタロウをつれて後ろに下がる。
 無事を確保できそうな運転士の姿を見てほんの僅かに流れる安堵の空気。
 それを一瞬で台無しにしたのは、今まで動かなかった電車――あるいは南瓜の馬車だ。
 突然の襲撃に驚いていたのだ。
『七海を守れ』と言う命令の元、集中しながら突然の襲撃者たちが敵かどうかを慎重に確認していた。
 ――そして、今。運転士を連れていこうとしたことで、馬車は確信を持ったのだ。
 だから、つたを振るった。
 七海を囲う者たちに向け、恐ろしく鋭い南瓜のつたを。
 ツァインの傷は浅かったが、先の傷が治り切っていない所へのダメ押しになり、その男らしい容貌が苦痛にゆがむ。翔太は反射的に防御用のマントをひるがえしたが、ケンタロウへの被害を恐れたのかそこまでは蔦は訪れなかった。何かあればケンタロウをかばうつもりでいたニニギアや岬、狄龍も同様だ。
 致命傷を受けたのは、淳。完治していない最初の一撃の傷に加えその身に殺到するつたの群の斬撃は決して丈夫でも硬くも無いその身体を打ち倒すには充分すぎた。
「ガァァァッッ!!」
 それでも辛うじて踏み止まったのは、捧げた運命の恩恵に他ならない。

●Do-Re-Mi
 戦いは激しい物となっていた。
 ケンタロウという盾を失った七海はどんどんその傷を深めていたが、それと引き換えにリベリスタ達がケンタロウを守ろうとしている事を把握し、利用するように動いていた。
 縛られた縄をほどけるような機会が得られず戦場から離れる事の叶わないケンタロウを、七海の銃弾が執拗に狙う。できれば死なせたくないと考えていたニニギアと、彼の早期の避難が難しいことを悟った由利子はその身でケンタロウをかばい続け、既に一度ずつ運命を燃やしていた。
 ツァインが仲間に振りまいた十字の加護を纏っていてもなお、断罪の魔弾の威力は脅威だった。
 七海の指示を受けるエリューション・ゴーレムもまた、的確にいやらしい攻撃を繰り返す。翔太が車内の壁を蹴り多角的な強襲で七海を襲えば、着地点につたが襲い掛かり、その身を縛るのだ。
 七海の限界が来るのが先か、リベリスタ達の戦線が瓦解するのが先か――
 一見、数に勝るリベリスタたちの優利にも見える戦いだったが、七海もまたフィクサードである。
 運命の恩寵は彼女にもまた存在しており、苦戦を強いられることとなったのだ。
「偶然手に入れた力と実力で従えた力ですものね、解りますよその気持ち」
 エリューションを操る七海に、桐月院が矢と共に皮肉を放つ。
「ええ、格の違いを思い知らされてゾクゾクするわね。
 最高の主人よ――彼らは私のことなんて、歯牙にもかけないの」
 あれだけ熱烈に語られたからか、複雑怪奇を描く彼の内心をある程度は察したのだろう。七海も桐月院の言葉にだけは、エリューションへの命令よりも優先して返事を返すようになっていた。
 そのせいで具体的な指示を与えられなかったエリューションは、七海に向けてランスを構える美散をさし当たっての危険と判断し、縛り上げようとする。
「お前さん、格闘戦の類は苦手だったよなァ?」
 戦闘狂の騎士槍はその程度では止まらない。鋭さが無い代わりに太く強力なつたに全身を打ち据えられながらも運命の加護を燃やし倒れることを拒否して七海に肉薄し、雷撃を纏った一撃を突き込む。
 その強力な一撃に壁に叩きつけられ、身を折って苦しむ七海の腕を狄龍の銃弾が撃ち抜く。
 それでもショットガンを離さない七海の意識を、由利子の放つ十字の光とアンデッタの打った式が怒りに染める。その隙にと、怪我の激しい者たちへニニギアが癒しを歌う。
 岬のハルバードが、ウォーレスの十字光が、それぞれ七海の身体を打つ。
「大人しくしろ、もう一度味をみてやる」
 疲労か、或いは興奮か。ハァハァと息を荒げる淳の放った幾重もの呪印が七海を囲んだ。
 動きを封じた七海に対し、彼は吸血を行うつもりなのだ。
 先にも何度か行っているが、彼が焼酎か葡萄ジュース、或いはその混成の様な味を想像していた筈の七海の血は、しかし予想を覆して恐ろしく泥臭い海砂の様な味がした。それをもう一度確かめようとし、しかし彼のその望みは叶わなかった。
 彼が呪印を刻むと全く同時、七海もまた、彼に銃弾を放っていたからだ。
「クソッ、まだ電車の味が……」
 無念の声も力なく、淳は崩れ落ちる。

「一気に畳み掛けるぞ!」
 淳の戦線離脱と引き換えに動きを封じられた七海に、チャンスと見た翔太が言葉通り突撃を仕掛ける。車内の天井を蹴り、落下の速度まで乗せたブロードソードの強撃は七海の腹部を刺し貫いた。
 仲間達もまたそれに続こうと身構え、だが、それを遮るように、七海が口を開く。

「私ごとやりなさい」

 ――冗談の様に、呆気なく、喜色さえ感じさせる声で、七海はそう告げた。

●Edelweiss
 彼女を中心に、刃の鋭さを持つ蔦が荒れ狂う。
 フィクサードの腹に刺さったままのブロードソードを握る手が緩み、翔太がそのまま倒れた。
 脇腹を貫かれたツァインが、親友と同様に力を使い果たして崩れ落ちる。
 背中を大きく切り裂かれた美散が、しかし辛うじて堪える。
 岬が、名も知らぬ悪人の遺品であるハルバードを杖に、己の運命を支えに、辛うじて意識を保つ。
 ――そして七海は、全身を切り刻まれ、明らかな致命傷だった。
 常人であれば放って置いても、程なく死ぬかもしれない。そう思わせるほどの深手。
 薄っぺらい笑顔を浮かべる七海の目前に立ったのは、同じ七海の名を持つ青年、桐月院。
「あなたのお陰で大切なものに気付けて、また強くなれました」
 しかし彼は、とどめにと武器を向けるでなく。
 呪縛に縛られ動けず、蝕む呪いと失血で真っ白なフィクサードの喉や顔を、翼と化した手で撫でて。
 彼女の、その少し青くなった唇を奪った。

「!?」
 七海が初めて見せる、毒気を抜かれたような、きょとんとした、驚きの顔。
「……ですよ、七海さん」
 大好き。そう言った様にも聞こえた。
 大嫌い。そう言った様にも聞こえた。
 困惑する七海の前、桐月院の横に、しかしもう悩む時間も与えぬとばかりに立ったのは由利子。
 彼女の武器、右腕の義手に接続して使っている、砲撃武器として使われていたはずのそれは、対近接機構へとカタチを変えていた。
 エーデルヴァイス――その名の花の持つ言葉は、大切な思い出、勇気。
「……今度こそ、御伽噺は終わり」
 救う為に殺める。それは矛盾だ。
 ケンタロウを救う為に七海を殺す。残酷な選別だ。
 彼女にとってそれは易々と受け入れれる物ではない。けれど。
 脳裏に浮かぶのは、以前に七海と関わった、あの事件。

『今は私を信じて……貴方達を護りたいの』

 与えられた任務は遂げた。だけどその約束は、果たしきれなかった。
 ――だから彼女は、覚悟を決めたのだ。
「貴女は、伝説になれずに夜へ消えるの」
 全身の膂力が爆発的に稼動する。
 全身全霊を持って撃ちだされた杭は、避け様も無く七海の胸の中心を、その心臓を貫いた。

●Lonely Goatherd
 己が主のため圧倒的戦力差の敵陣に特攻を仕掛け、主の想い人を攫って帰る。
 諸説ある七夕の中の一説にある、彦星のために己の身を賭し地と天の架け橋となった犬。
 己の命と引き換えに――そんな、彼女が憧れた、なれなかった伝説の忠犬。
 希望(ゆめ)が費えたその時、七海がどう考えたのかは誰にも知りえない。
 ただ、女は、最後に自分と同じ名の少年を一瞥してにこりと笑った。穏やかな表情で。
 そして狗は。
「有難う七海君。私も貴方の事、好きよ?」
 薄っぺらく、にたりと笑う。忠義に殉じる者の顔で。

 桐月院はゾクリとした。羽の先が熱い。七海の喉に触れた羽先。
 あの時どう考えたのだろう。前の戦いの時、この喉を潰して置けばよかったと後悔したのだったか、それとも今、この喉を潰せばと思ったのだったか。
 いずれにせよ、人の手ではないそれで首を絞めることは容易ではなく、それは一歩間に合わなかった。
 七海はあの時と同じ事をする。

「――あなたの中にいる者をミナゴロシになさい」

 美散の運命を歪めんばかりの強い願いもまた、同じように、届かない。
 かつて誰かが言った。『たかが十分の一』と。
 だが、されど十分の一。十分の一に未だ届かぬなら、それはさらに遠く。
 薄っぺらく、途方も無く醜い笑顔を最後に残し、フィクサードは崩れ落ちる。
 そしてそれと入れ替わるように、一斉に鎌首をもたげる、南瓜のつたの群、群、群。
 座席だったと思しき黒塊が一斉にリベリスタたちに狙いをつけ、警笛がけたたましく騒ぐ。

「あ、あかん! 逃げろ、逃げてくれ! 殺されてまうで!!」

 ケンタロウの――未来を見たフォーチュナの叫びが、リベリスタ達の鼓膜を手酷く打った。

●So Long, Farewell
 怪我の程度の軽い者が重症者を運ぶ形で逃走は成功するも、重症者多数。

 フィクサード、七海。撃破。
 その生死は未確認――ただし状況から鑑みて死亡は確実と思われる。

「誰が電車を魔改造したか覚えてる? 魔女みたいな人から何か渡されなかった?」

 フリーのフォーチュナ、元町・健太郎。生存。
 ただし運転士としての精神侵食が継続している模様。
 今後隔離の上検査と治療の為の研究を行う事となる。

「会うたけど、何ももろてないで。ちゅうか魔改造ってなんの話やのん?」

 E・ゴーレム「電車」。健在。
『運転士』を奪われた事による影響は低くないと思われるが、正確な所は不明。
 前述の元町氏との質疑応答の結果、南瓜への形態変化は塔の魔女によるものではなく、フィクサードによる強奪以前、エリューションが自己修復の際に選んだ形と判明。なお、アークによる確認当初から自己判断能力を有していた様だが、元町氏の主観によるとその精神性は10代前半の女性に相当との事。

「きっかけなあ……? 南瓜の煮物が食べたいて愚痴った位しか心当たり無いわ」

 便宜上、これをE・ゴーレム「南瓜の電車」と名称変更。
 以降は新しいデータに基づいた対策を改めて講じる事とする。

 以上で報告を終了する。



●The Sound of Music

── カエセ。カエセ。カエセ。カエセワタシノ運転士(オウジサマ)!!

<了>

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
このような結果となりました。お疲れ様でした。
熱いプレイングも多くいただけただけに、STとしてもこれがノーマルだったらと思わずにいられません。

===================
レアドロップ:「黒のチョーカー」
カテゴリ:アクセサリ
取得者:桐月院・七海(BNE001250)