●全てを焼きつくすもの 「ぅぇぇぇ……ぱぱ……ままぁ……」 「な、泣かないの……グス……」 しがみついた幼い男の子をぎゅっと抱きしめながら、女の子が涙をこらえる。 部屋の中にはふたり以外、誰もいなかった。 辺りからはごうごうという聞いた事のない不気味で激しい音が響き、夏の暑さとは違う熱気が伝わってくる。 天井近くにはもうもうと煙が立ちこめ、ガラス戸によって遮られたいつも空が見えるベランダには……黒い煙に混じるようにしてオレンジ色の炎が見え隠れしていた。 出入り口である玄関、金属製の扉の外もおそらく今は似たような状態になっているに違いない。 女の子が外を確認しようとした時には既に廊下には煙が立ち込め、階段もエレベーターも見えなくなってしまっていた。 「……ぅ……お母さん……お父」 耐え切れなくなりそうになった時だった。 何かが燃える音にまじって、声のようなものが微かに女の子の耳に届いた。 ハッとして弟を見れば、男の子も姉の瞳を見つめ返していた。 「……」 耳をすます……間違いない。 できる限りの大きな声で叫べば、すぐに今度はハッキリと返事が聞こえて……玄関の扉が音をたてて開くと、銀色の防火服に身を包んだ男性が姿を現した。 テレビなどでは見た事はあっても、実際に見るのは初めてな消防士の姿。 「大丈夫かっ!?」 その声に緊張が切れたのか、安堵したのか。素早く扉をしめ緊張した様子で駆けよってきた消防士に、ふたりは大声で泣きながらすがりついた。 「よし、大丈夫だ。大丈夫だよ? よくがんばったっ! 偉いぞ?」 大きな声で泣くふたりの様子を見て、怪我もなく体力も残っていると感じたのか、消防士は表情をやわらげて子供達の頭を優しく撫でながら声をかけた。 「すぐにお父さんとお母さんに会わせてあげるからね? だからもうちょっとだけ、いっしょに頑張ろう?」 無線が全く通じない事に違和感を感じながらも、できるだけ子供達を安心させられるように。 できるだけ落ち着いて、彼が言った時だった。 ガスバーナーか何かでも急に噴かしたような音と共に、金属製の玄関の扉が融かされ、そこから炎の球が現れる。 「っ!? 何だ……一体……?」 ゆらゆらと焚火のように揺れるそれは、中空に浮かんだ状態のまま、3人にゆっくりと近付いてきて……次の瞬間、その火の玉から突然炎が放射された。 とっさに子供達を突き飛ばした消防士を、炎が一瞬で包み込む。 「に、逃げ……」 子供達に向かって叫ぼうとした消防士は、それ以上は口にできなかった。 室内にひびいた絶叫は、すぐに消えた。 ふたりの子供達は、何もできなかった。 ゆらゆらと近づいてくる炎を、驚いたような、怯えたような……ほうけたような表情で見つめ…… そして再び、火の球から炎が……ふたりの子供達に向かって、放たれた。 ●生命(いのち)を守る、知られざる戦い 「危険度は低いかもしれないけど、すごく急ぎの仕事」 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)はそう言って集まったリベリスタ達を見回してから、コンソールを操作した。 どこにでもありそうな建物がひとつ、ディスプレイに表示される。 どちらかというとアパートと呼んだ方が似合いそうな建物は、100人に満たない人々が住む郊外に位置する過疎マンション。 不況のあおりを受けたのか、半分以上が空き部屋となっている……寂しげな居住地。 「この建物で火災が発生する。炎のE・エレメントの出現によって」 そう言ってイヴが端末を操作すると、画像は建物の階ごとのマップへと変化した。 「建物は全5階+屋上。地下階はなしで、2~5階は全て同じつくり。E・エレメント達は3階に現れる」 数は全部で5体。現れる場所は全員同じだが、そこから全員が分かれてそれぞれ勝手に動きながら炎を生みだし建物を燃やしていく。 「最初は通路や階段の壁を燃やしていくけど、しばらくして扉とかを溶かして中のものを燃やそうとする」 その前に、エリューション達を倒して欲しいとイヴは言った。 「今から急いでも火災の発生を防ぐことはできない。到着した時にはもう、炎は2階~4階の通路や階段を所々でふさぐくらいまで燃え広がっていると思う」 そして、火災の通報を受けて消防士達が到着し救助や消火活動を開始している。 イヴはそう言って、銀色の防火服を人数分テーブルの上へと置いた。 「何らかの見つからない能力や手段がある人以外は、そのまま建物に入ろうとすると呼びとめられると思う」 そこまで人数もいないので隙を見て建物内に入る事は可能だろうが、変に心配され追いかけられでもすれば面倒な事になるかもしれない。 幾つかの地区からの消防団が集まってきているようなので、それらしい格好さえしていればハッキリと顔を合わせたりしない限り大丈夫だろう。 もちろん、何らかの気付かれない手段を持っているのなら変装等をする必要はない。 ただ、建物内には逃げ遅れた人を探している消防士達も少数だがいるので、それらに発見されるとやはり面倒な事になるかもしれない。 とはいえ中にいたり外に出る場合は最悪逃げおくれた住民を装うこともできるだろうから、一番の問題はやはり侵入時といえるだろう。 「ハッキリと確認されない限りは勘違いですませられるかも知れないけど、とにかく出来るだけ気づかれない様に注意して」 その上で、火事を引き起こしたエリューションを倒して欲しい。 イヴがそう言って端末を操作すると、ディスプレイに鬼火とか人魂とか呼ばれそうな、炎の塊が表示された。 「これが今回の敵、炎のエリューションエレメント。攻撃方法は体当たりと炎の放射のみだけど、そこそこ強い。耐久力もそれなり」 ただ、総合的な戦闘力という面で見ればそれほど強くはないらしい。 「1体に2~3人のリベリスタが当たれれば勝てると思う」 ある程度の修練を積んだリベリスタなら、1対1でも何とかなるかも知れない。 「もちろん油断は禁物だけど、ただ今回は逆に慎重になり過ぎて時間がかかってしまう事の方が被害が大きくなりそうだから……」 できるだけ急いで倒して欲しい。もちろん、一般人達にできるだけ気づかれない様に。 そう言って説明を終えてから……少しだけ迷うような表情を浮かべて、イヴは付け足した。 「エリューション達を倒すのが任務だけど……」 倒し終えたら……できる限り、で良いから……避難を手伝ってあげてほしい。 イヴはそう言って、プリントアウトされたマンションの見取り図をさしだした。 「消防士達も懸命の救助活動を行うけど……エリューションをすべて倒したとしても、この火事で何人か……犠牲者が出てしまう」 見取り図には一行が到着した時点でマンション内にいるであろう、逃げおくれる人々の人数や位置等のデータが丁寧に記されている。 親の帰りを待つ幼い姉弟。赤ん坊と母親。たまたま風邪で寝込んでいた中学生。老夫婦……紙の上に記された、幾つかの命。 「それは、私たちの仕事じゃないのかも知れないけど……」 もし、良かったら……そんな人は、すこしでも少ない方が良いから。 お願い。 オッドアイの少女はそう言って、集まったリベリスタ達を見回した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月24日(月)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●リベリスタ マンションの近くに到着したリベリスタ達は、用意した防火服や幻視の能力で外見の偽装を行うとすぐに行動を開始した。 6人はそのままマンションの1階から入り、上を目指す。 「超常の存在から人類文明を護る事こそ我が務めである!」 自分に言い聞かせるように口にしながら『エリミネート・デバイス』石川 ブリリアント(BNE000479)は初めての任務に挑む。 「冗談じゃねえ、何が何でも全員助けて見せる」 『血に目覚めた者』陽渡・守夜(BNE001348)が駆けながら口にすれば、同意するように風見 七花(BNE003013)も頷いた。 「救える命があるなら救出をしない理由はないです」 2人もマンションへと突入し担当の2階を目指す。 「おい、待て! 上への階段は……」 「上の階にまだ残っている人がいる! 話している時間はない!」 幻視で姿を誤魔化している『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)は、ばれないようにと短く、らしく口にして、階段へと踏み出した。 炎を無視するようにして駆けあがっていく『最弱者』七院 凍(BNE003030)の後を追いかけ登っていく。 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は逃げ遅れた者の情報が入ったとフォローを入れ、ブリちゃんの後を追った。 「分かった、だが無茶はするんじゃないぞ!」 掛けられた声に頷き、終は消火器を使いながら担当である4階を目指す。 一行を心配げに見送った消防士達は、ふと思い出したように隣の同僚に質問した。 「……今の奴らってどこの所属だっけ?」 「いえ、私はちょっと。ですが、それよりも」 「そうだな、そのうち思い出すだろ。それよりも今は」 我に返ったように消防士達も活動を再開する。 炎の勢いは強く、黒い噴煙はマンションの周囲を覆うように広がっている。 それらに視界を妨害されながらも、雪白 万葉(BNE000195)は透視の能力を使用して外からの確認を行っていた。 (今回はまだ起こりうる不幸を止めれるのですね) 「それでこそリベリスタですよね」 勿論それは『成功したら』の事である。 (力を尽くしましょう) マンションの床等、見上げるという視角などの問題で4階以上の確認は難しそうだった。 広がる煙やゆれる炎に視界を妨げられながらも何とか3階を確認し、人らしきものを発見するとAF(アクセスファンタズム)で仲間達へと連絡する。 そのすぐ後、2階を確認しはじめた時だった。 AFから響いてきた声は,3階で2体のE・エレメントが発見されたと告げていた。 迷子が一般人を保護し、凍が一人で喰い止めている状態なのだと。 時間はなかった。 仲間達に連絡すると、万葉は3階に向かって駆けだす。 その連絡は、屋上からの侵入を試みていた『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)にも当然入っていた。 ワイヤーや他の建物も利用して急ぎ屋上に到着し、鍵を壊して5階に侵入した彼の目に炎を噴きながら階段近くで動いている火の玉が映る。 (エリューション事件に巻き込まれた奴らが不幸なら、このE・エレメント達も随分とツイてねぇな) 静かに流水の構えを取ると、モノマはエリューション向かって駆けだした。 「気にいらねぇんだよ、俺の目の前で理不尽に死ぬ奴を出させてたまるかっ!」 ●知られざる者達の戦い 2階に到着した七花は素早く周囲を確認した。 とにかく全体を、できるだけ多くを。 ざっと見渡すような動きだったが、彼女の瞳はその中で、見逃すことなく正確にそれを捉える事に成功した。 燃えさかる炎の、そして立ちこめる黒煙の先で燃える、明らかに火災のものとは違う炎。 間違いない。宙に浮かぶ炎の球はふたりの探すエリューションエレメントである。 ふたりは迷わなかった。燃える廊下の先の敵目指して駆ける。 「おい、待てっ!?」 背負式の放水ポンプを装備して上ってきた消防士達が大声で警告したが、ふたりは勿論立ち止まらず炎の廊下を駆け抜けた。 「どうしますか!?」 「少しでも火の勢いを弱めるしかないだろっ! このままじゃ要救助者がいても避難させられん!!」 消防士達は背負った手動式のジェットシューターで水をまき、火勢を少しでも弱めようとする。 守夜と七花にとっては、それがタイムリミットだった。 消防士達が自分達の側に抜けてくる前にエリューションを撃破しなければならない。 詠唱によって七花は体内の魔力を活性化させ増幅させた。 その動きに呼応するようにエレメントはその体から炎を噴射する。 その炎をものともせず、守夜は凍てつく冷気を拳に纏わせ殴りつけた。 火の玉は直撃を避けるように動くと、そのまま彼に体当たりする。 守夜はそのまま拳を振るい、エリューションを攻撃し続けた。 七花も増幅させた魔力を利用して魔方陣を描き、魔力弾でエリューションを狙い撃つ。 火球はそのまま守夜に体当たりを繰り返したが、守夜は吸血鬼の力を利用して力を吸い取り消耗や負傷を軽減させながら戦い続けた。 まもなく、ふたりの攻撃を受けたE・エレメントはもがくように揺らいだ後、飛び散るように消滅した。 さして間をおかず後方から呼びかけがあり、火勢の少し弱まった廊下を2人の消防士が駆けてくる。 「いったい何があったんだっ?」 その問いにふたりが何か口にしようとした時、近くから声のようなものが聞こえてきた。 消防士達は驚いて顔を見合わせたが、守夜と七花はすぐに状況を察知した。 呼びかければ今度はしっかりと……涙声のような子供の声が、返ってくる。 「ふたりとも、今のが聞こえたのか?」 納得した様子の消防士に短く肯定を返し、念のためにと共に捜索すれば、すぐに子供達のいる部屋を特定できた。 幼い幼女とその弟らしい、さらに幼い男の子。 しがみ付いて泣きじゃくるふたりは興奮しているようだが元気で、体に怪我なども無いように見える。 水分を、喉や肺を痛めぬようにと濡らした布を含ませ、炎から守るようにして、消防士達が火の勢いを弱めている間に七花と守夜は姉弟を階段近くまで避難させた。 そして、子供たちを消防士達に託すと階段を駆け上がる。 AFからの連絡で、ふたりは全ての敵が発見された事を確認していた。 ならば、2階にもう敵はいない。消防士達は大丈夫だろう。 上の階で戦っている仲間達の為に。 ふたりは所々で燃えさかる炎をものともせず階段を駆け上がっていった。 ●何が為に 「誰が死のうが、どーでもいいし」 そんな事を考える、ボクはそんな奴なんだろう。 (でもそんなボクが誰よりも頑張ってしまうとしたら、一体何がそうさせるのだろう?) 一足先に3階に辿り着いた凍は、階段から先を確認しながらそんな事を考えていた。 炎は彼の身を包みはしなかったが、空気を焼き、息を詰まらせる。 煙は視界を悪くし目にしみり、涙が滲みそうにもなる。それでも自分は、此処にいる。 (仲間? 道徳?) 「よくわからないけど、今回はボクらしく萌えということにしておこう」 迷子たんかわいいよ迷子たん、合法ロリ万歳。 その思考や発言に対する評価は後世の歴史家等の他者達に任せる事としよう。 この場においての事実は、ひとつだけだ。 彼は逃げもサボりもしなかった。 一部が燃え始めた通路で、炎の球が宙に浮かんで揺れている。 融けた扉が2つほどある事も確認しながら、凍は敵の動きに意識を集中した。 そして……万葉からの連絡を受けた迷子が、救助の為に目的の部屋へと向かう途中で融けた扉の奥を、先の突き当りの部屋を眺めた時だった。 炎に包まれ始めた部屋の中に、廊下にいるものと同じ鬼火のような姿を発見したのは。 「3階、もう一体発見じゃ!」 AFで連絡しながら迷子は声らしきものを確認した。 万葉から聞いた辺りの部屋で間違いない。 「誰かいるか!?」 できるだけ短く、消防士風を装って声をかけながら扉を開ける。 赤ん坊の泣き声らしきものに視線を動かせば、目に移ったのはキッチンで赤ん坊を抱えた母親らしき者の姿だった。 炎に怯えながら、赤子の口元を濡らしたハンカチで湿らせながら震えている。 「大丈夫か?」 短くたずねると、怯えながらも母親は大丈夫と口にした。 「私は大丈夫です、でも……真、こ、この子が苦しそうで!」 取り乱しそうになる母にすぐに一緒に避難するようにと告げ、迷子は備えつけの消火器を貰うと母子と共に廊下へ出た。 もう1体の火の玉が廊下へと出てくるが、無視して階段へと急ぐ。 戦闘距離に近づくまでは少し時間は掛かりそうだが、現時点で凍は既に傷ついていた。 充分に狙いを定め、一撃で敵の動きを封じ、武器へと付与した効果で敵を害する。 彼の攻撃によって異常な状態にされたエリューションは、動きを鈍らされ、それから復帰しては凍に体当たりし、狙いすました攻撃で再び動きを封じられ……そんな状態を繰り返されかなりの消耗状態にあった。 もっとも、凍の受けたダメージも軽いものではなかった。 負傷の蓄積が彼に重くのしかかっている。 だからといって、母子だけでそのまま避難させられる筈もない。 迷子は消火器を利用して少しでも火の勢いを弱め、急いで2階へと母子を後ろに庇いながら階段を下りる。 それを目の端に留めながら凍は鞭を振るい一体の動きを封じ込めた。 だが、動きを取り戻したもう一体の鬼火が彼に向かって体当たりする。 「お待たせしました」 限界が近づいてきた、その時だった。 階段の途中で迷子とすれ違うようにして駆けあがってきた万葉は、そのまま踏み出しながら意識を集中した。 紡ぎだした気の糸を放ち、エリューションの一体を狙い撃つ。 直撃を受けた火の玉は怒りでもしたかのように揺らぐと、万葉に向かって炎を放射した。 炎に身を焦がされながらも万葉は怯まず、更に前進するともう1体に向かって攻撃する。 動こうとした鬼火の先を読むようにして繰り出された一撃に鬼火は大きく揺らいだ。 それでも、消え失せはせず反撃とばかりに万葉に向かって突撃する。 攻撃の集中によって傷つきながらも万葉はエリューションの動きを的確に読み、精度の高い攻撃を着実に繰り出していった。 凍も敵の動きに充分に集中し、狙いすました一撃で火の玉の動きを鈍らせる。 母子を無事に2階の階段付近に残っていた消防士に託した迷子も、戦場へと到着すると流れる水のような構えを取った。 空気を切り裂くような蹴撃がカマイタチを発生させ、火の玉の一方を鋭く抉る。 万葉の攻撃で一体がついに燃え尽きるように揺らぎ、姿を消した。 これで、3階の戦いのすう勢は決した。 3人からの集中攻撃を受けたエレメントも、大きく揺らいだあと、消滅する。 迷子と2階から駆けつけた七花が、傷ついた凍と万葉に手を貸した。4人は階段を駆け上がる。 3階にいたエリューションは撃破した。一般人も救出した。 だが、辺りは炎に包まれている。 油断は決してできない状況だった。 ●絶対、に 「こ、こんな炎程度、熱くない! 熱くないんだぞ!」 ぐすっ…… 「な、泣かない! アークの戦士は泣かないのだ!」 燃えさかり、黒煙で建物内を満たし、熱で顔をあぶる炎に……ほんの少しだけ何かが滲みそうになるのをブリリアントはこらえ、慌てて否定した。 「助けに来ました! 返事をお願いします!」 炎の燃える音を裂くように、終の声が4階の廊下に響く。 (絶対みんな助ける!!) 炎の勢いが強い箇所や熱で溶解しかけている場所などに特に気をつけながら、彼はこの階にいる筈の逃げ遅れた3人の一般人を探し始めた。 意識を失っていて気づかない可能性もある。 その場合は必ず自分達が発見しなければ。記憶を頼りに向かおうとしたその時だった。 融けた扉からゆっくりと、床から1mほどの高さに浮いた火の玉がゆらゆらと揺れながら通路へと現れる。 迷いはなかった。 終は全身の反応速度を高める為に、身体のギアを上げた。 続くように動いたエレメントの火炎放射を、ギリギリで回避する。 「無限機関、アクティベート!」 ブリリアントはオーラを雷に変換し、巨大な太刀で激しい突きを放つ。 直撃は避けられたものの、それでも鬼火は傷に身をよじるように炎を揺らがせた。 彼女の身体も、奮われた過剰な力に悲鳴を上げる。 反撃とばかりにエリューションは、ブリリアントに体当たりを敢行した。 炎が彼女の身を焼き、負傷を蓄積させていく。 それを引きつけでもするかのように、終は動きを止めることなく圧倒的な速度で、鋭い連続攻撃を放った。 一撃一撃は決して破壊力は高くない。 だが、全部で何撃か分からぬほどの嵐のような斬撃である。 エリューションは揺らぎながらその攻撃を受けたものの、終に攻撃が当たり難いとでも感じたのか、ブリリアントの方へと体当たりを行い続ける。 負傷を蓄積させ、自身の強力な技の反動で傷つきながら、それでも彼女はそれを気にする様子もなく武器を振るい続けた。 終もそのまま動きを止めることなく高速で位置取りを行いながら、目にも止まらぬ斬撃を繰り出し続ける。 時間は短かった。 消耗は大きかったものの、僅かの時でE・エレメントはふたりの攻撃の前に消え失せる。 終は疲労しただけだったが、ブリリアントは危険になるほど負傷していた。 火傷ももちろんだが、体の悲鳴を気にせず攻撃を行った結果である。 それでも、休んでいる暇はなかった。 見取り図を思い出し、炎に包まれた目の前の光景と苦労して組み合せながら、ふたりはこの階にいるであろう3人を探す。 終の呼びかけに炎に掻き消されそうな返事が聞こえたのはすぐの事だった。 熱気が少しでも入らぬようにと部屋に飛び込み素早く扉を閉めれば、パジャマの上に一枚羽織った少女が怯えた様子でふたりに視線を向ける。 ブリリアントがAFで仲間達へと1人を発見した事を連絡する間に、終はマスク等を渡しながら少女を安心させるように話しかけた。 緊張と恐怖で泣き出してしまっていた少女は、少しの時間でとりあえず会話ができそうなくらいには落ち着いた。 それでも体調を崩していたのは大きいのだろう。動けない事はないが、少なくとも手を貸したり支えたりした方がよさそうな状態である。 この子だけなら問題ないだろう。 だが、要救助者はこの階にあと2名いる筈だ。 しかし探すとしてもこの子はどうするのか? 仲間達の到着を待っていて間に合うだろうか? 迷っていたその時、だった。 聞き覚えのある声を聞いてふたりは短く安堵の息をもらした。 ●守りぬいたもの モノマの攻撃を受けたエレメントは反撃とばかりに炎を放射する。 流れるような動きで直撃を避けたモノマは、ふたたび掌打を放った。 命中と同時に、エリューションに向かって気を叩き込む。 「突き抜けろおぉぉぉ!!」 内側からの破壊の力に火の玉は揺らぎ、動きを鈍らせた。 モノマは手を緩めることなく続けて土砕掌を叩き込む。 動きを取り戻し直撃を避けた火の玉は、今度はモノマに向かって突撃した。 完全には回避し切れなかったものの、直撃ではないためダメージは大きくない。 そして彼はその程度の負傷は十二分に堪えるだけのタフネスも持っていた。 やがて火球は大きく揺らぎ、モノマの攻撃によって四散する。 そのまま彼は階段下へと急いだ。 戦っている最中に炎や何かが燃える音に混じって、下の階の者達の声が聞こえていたのだ。 駆け下り声をかければ、中学生を保護していた終とブリリアントが安堵の息を短くもらした。 ひとりが中学生の傍らに残り、ふたりが仲間達と連絡を取り合いながら捜索を開始する。 要救助者である老夫婦を発見したのはそれからすぐのことで、その直後、2階での任務を完了した守夜が駆け付けた。 3階で敵を撃破した4人も駆けつける。 飲料や酸素等を用意してきた守夜は体調等、老夫婦の様子を確認した。 「もう大丈夫です」 万葉はかならず無事に避難させると励まし、安心させるように表情を作る。 「すみません、宜しくお願いします」 老人はそう言って妻に頷いて見せ、彼女はありがとうございますと一行に頭を下げた。 全てのエリューションを倒しはしたが、マンションの炎はまだ衰える気配はない。 外の消防士達は懸命の消火活動を行っているのだろうが、まだ周囲への延焼を食い止めるので精一杯という事なのだろう。 それでも、燃えひろがっていない分、リベリスタ達はともかく一般人の避難にはありがたかった。 もっとも、しばらく時間が立てば消防士達の数は増え、消火活動も本格化するだろう。 できればその前に。 残っていた消火設備を利用して火勢を弱め、8人は中学生と老夫婦を庇うようにして階段を下りていく。 そして保護した者達を消防士や救命士達に託すと、機を見て現場を後にした。 翌日の新聞の隅に、マンションで起こった火災の記事が小さく載った。 建物内はほぼ全焼し負傷者は出たものの、死者は0名。 短く記されたその一文は、知られざる者達が戦い抜き、そして守り抜いた……確かな日常の、証だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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