●シアワセ 「――脆弱なこの世界を生まれ変われせる為! この世界を無力な芋虫から優美なる蝶へ進化させる為! さァ! 今日も!! 『私達はシアワセ』!!!」 『私達はシアワセ』『私達はシアワセ』『私達はシアワセ』 『私達はシアワセ』『私達はシアワセ』『私達はシアワセ』 『私達はシアワセ』『私達はシアワセ』『私達はシアワセ』 わぁ、わぁ、湧く、沸く。 シュプレヒコール。プロパガンダ。アジテーション。 狂気を孕んで。 ●ファインド 「……――さァて、と。こんにちは皆々様、メタルフレームフォーチュナのメルクリィですぞ、いつもお疲れ様です」 いつもの事務椅子をくるんと回し、リベリスタへ振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)の顔は――ニッコリ笑っているものの、何となくいつもよりクマが酷いように思えた。 「ジャック・ザ・リッパー様の下へ転向なさったシンヤ様が、ジャック様の舞台の演者として本格的な活動をおっ始めた――ってのはもう御存知ですよね。 数多の殺戮、カルナ様の拉致、戦力の拡大……このままシンヤ様を放っておけば、その組織化と戦力増強を実現させてしまうのは必至。 ――そんな訳でして、シンヤ様の元上司の当たる『剣林』から情報を仕入れたっていう千堂様――恐山会の情報を基にカレイド・システムをフル活用致しましたぞ。そりゃーもう、フルマキシマムに、フレキシブルに。フフ」 集中運用。このフォーチュナはどうやら相当頑張ったようだ。ヘラヘラしながら普段は見受けられない無精髭がある顎を掻くメルクリィを見遣る。目が合う――瞬間に「サテ」の一言、表情を真剣そのものに引き締めフォーチュナは説明を始めた。 「そんな訳でしてシンヤ様の戦力たるフィクサード団体を発見しましたぞ。今から説明しますんで、耳かっぽじってしっかりお聴き下さいね」 そう言うメルクリィの背後モニターには既に画像が展開されている。荘厳とした立派な建物と、頭に『幸』と書かれた覆面に白いローブで全身をスッポリ被った謎の人物達、などなど。 これが『戦場』で『敵』である事はすぐに分かった。 「シアワセ塾――『破壊を以て理想たる世界へ作り替える』なんて過激な思想を有する、シンヤ様の息がかかったフィクサードの宗教団体です。 彼等はとにかく数が多い。全国に十ばかしの支部が散らばってるもんですから。 しかし! 数が多い故に繋がりは弱い。つまり……」 メルクリィが機械の人差し指を立てた。一間の後、ブリーフィングルームにその低い声を響かせる。 「ヘッドを潰せばこの組織は瓦解、無力化するでしょうな。間違い無く。 ――そして! こっからが本番ですぞ皆々様。実は近々、彼らの上層部が今後の方針に付いて語り合う為にシアワセ塾の本部に大集合するんですよ。当然、最トップたる存在もいる訳です。 ……もうお分かりですな? そう、今回の皆々様の任務は――『一網打尽』!! 脳味噌も筋肉もフル活用して下さいね。 ですが戦場は相手の本部、敵の数がとーっても多いです。下っ端一人一人を相手にしてたら超絶に効率悪いですぞ。精神力切れにもご注意、必要でない戦闘は避ける事をお勧め致しますぞ! ではシアワセ塾の戦力について説明してゆきますぞ。一応そこの資料にも纏めておきましたがキチッとお聴き下さいね」 言いながら機械仕掛けの男は組んだ足の上で金属色の指を組んだ。その背後では狂信者達が『私達はシアワセ』『私達はシアワセ』延々とシュプレヒコールを繰り返している。 「シアワセ塾本部にいるのは四つのグループに分けられます。 先ず『シアワセ塾信者』――身体能力はフィクサードらしいものですが、ロクにスキルも使えない様な……まぁ、言っちゃぁ悪いですが雑魚ですな、雑魚。皆々様の敵じゃないです。 しかしその数はメチャクチャ多いですぞ。あっちこっちに警備としてうろついとります。一人一人を相手にしてるとキリがないですぞ! その辺りしっかり考えといて下さいね。 さて次、『シアワセ塾各支部長』。十人おりまして、種族ジョブは様々ですぞ。ですがそんなに強くなくって、各ジョブのスキルを辛うじて一個使える程度です。そんなに苦戦はしませんでしょうな。 次――こっからが本番ですな。『シアワセ塾大幹部』……二人います。メタルフレーム×ソードミラージュの『ヤマト』、蛇のビーストハーフ×覇界闘士の『ナデシコ』。 彼等は各ジョブの初級スキルをマスターしとります。非戦スキルも幾つか所有しており、戦闘力は『シアワセ塾各支部長』とは段違いですぞ。くれぐれも油断なさらぬように。 最後に。シアワセ塾塾長『イワクツキ』――言わずともがなシアワセ塾のヘッド、フライエンジェ×マグメイガスの男です。 彼は『ヤマト』『ナデシコ』よりも強いです。マグメイガスの初~中級スキルまでを幾つか活性化している上に所持非戦スキルも豊富。更にアーティファクトまで所有しとるんですよ。 その名も『脳味噌喰らい』――小型の弓で殺傷力は高くないのですが、何と言ってもその恐ろしさは攻撃の主眼が『体力を削る事』ではなく『精神力を削る事』、つまりMアタックがメインなのです。 精神力切れにはくれぐれもお気を付け下さい。皆々様の任務は『シアワセ塾の制圧』、スキルを使うべき所をしっかり見極めて下さいね」 皆々様全員で協力し合えばきっと大丈夫ですぞ。ニッコリ笑ってリベリスタを見渡すも一寸、場所などの説明を始めるべくモニターを操作する。 かくして映し出されたのは一際厳かな広間――仄明るい照明でミステリアスに照らされて、祭壇や壁の装飾が浮かび上がっている。 「『シアワセ塾信者』は本部中にいますが、彼らがいない部屋があります。地下の秘密広間――ここでこそ、『シアワセ塾各支部長』『シアワセ塾大幹部』『シアワセ塾塾長』は会議をしているのですよ。扉が内側からロックされていますが、皆々様の攻撃で簡単に破れます。 中は光源があって明るいですし、広いですし、特に障害物もありません。当然一般人は来ませんし、戦闘は思いっ切りできますぞ。 それと。シアワセ教本部の間取り地図については皆々様にお配り致します、ご活用下さいませ。 ――以上で私からの説明はお終いです。宜しいですか、皆々様?」 メルクリィがリベリスタ達を見渡した。 後宮シンヤ。もう彼の好きな様にはさせない――リベリスタの目に浮かぶ決意に揺らぎは無い。それを読み取ったのか、フォーチュナは満足気に微笑むと彼らへ真っ直ぐ向いた。 「それでは皆々様――お気を付けて! 私はいつもリベリスタの皆々様を応援しとりますぞ。 ……どうか、ご無事で!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月28日(金)00:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●潜入、強襲 ――緊急事態発生! 緊急事態発生! 不審人物が八名侵入! 繰り返す、緊急事態発生! 数は八、武装している――緊急事態、至急迎撃を―― まさか。アークか!? 何故ここが―― 迎撃! 迎撃! 本部を護れ! 「ほんっと、疲れちゃう」 厳かな建物の中。鳴りやまないサイレン。 放たれた聖なる光が現れた信者達を一網打尽に焼き圧した――『素敵な夢を見ましょう』ナハト・オルクス(BNE000031)はひっきりなしに脳を震わせる警報に嘔吐感すら覚えてきて重々しく息を吐く。 「脆弱な世界を生まれ変わらせる、か。碌に力も使いこなせん連中の台詞とは思えんな」 ランスを構える『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)は念の為と隠し通路等が無いか辺りを見渡しつつ、仲間と共に駆けていた。 目指すは地下の秘密広間。 時は少し遡る。 「やはり『私達はシアワセ』ですね、合言葉は」 シアワセ塾本部の広い庭、その物陰に身を潜めた蘭堂・かるた(BNE001675)は集音装置によって拾った音を仲間達に告げる。それと並行して仲間達の音も記憶しつつ荘厳な建物を見遣った。 (新興宗教団体……大概は詐欺集団ですよね、偏見ですが。少なくとも今回、それで誤解はないでしょう) 速やかに本部を落とし、他の支部も壊滅できるよう繋げたいものだ。 かるたの言葉に「やっぱりか」と地図へ目を落としつつ答えたのは『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)。時折透視で辺りを見渡し進路の再確認を行っている。 それから程なく、外の警備に当たっていた信者達を気絶させてその装束を奪い取って来た仲間が戻って来た。因みに服を剥ぎ取った信者はロープで簀巻きにした上で物陰に転がしてある。 シアワセ塾信者に扮して侵入する。それがリベリスタの作戦であり、白い装束をすっかり着こむとルートの最終確認を行って――お互いの武運を祈り、頷き合った。 かくして侵入はスムーズに成功する。予め知っておいた合言葉のお陰で途中までは難なく進む事が出来たが、やはり異変に気付かれた様だ。 そして警報が本部中に鳴り響く今に至る――それでも半分以上は何事も無く進めた事は僥倖と言えよう。 更にキリエの透視やかるたの集音装置によって周囲の状況を確認し、必要であれば迂回する事で信者との戦闘は極力避けて行動するリベリスタ達の表情には疲労の気配さえ無い。 邪魔だしもう必要ないかと装束を捨て、身軽になったリベリスタはひたすら駆ける。 しかし『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)の表情は暗い。別依頼に当たった姉の事が気が気で無いのだ。途切れる集中――襲いかかって来る数多の敵影、刹那に彼の神経を揺るがせたのはキリエの声。 「ジース! 踊れッ」 「!」 反射的に動いたのは体、Gazaniaの厚い刃。踊る様な軽いステップで信者達を一掃する。 「気合い入れろよ?」 虎的獠牙剣を構えた『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)は獣の牙を覗かせジースへ笑いかけると彼を追い越し、生き残りと更に現れた信者達を鋭く見据えた。 「おのれ侵入者め! 私達はシアワセ!」 武器を構えて襲いかかって来る。 「自分は幸せだって声に出して言ってればホントに前向きになって、幸せになれるって聞いたことあるけど……」 これはどうかな。振り下ろされる武器を薙ぎ払い、峰打ちで次々と沈黙させて行きつつ思う。 (今はこっちの事を考えないと。あいつも頑張ってるだろうし、キリエにも心配をかけちまったみてえだし……) 的確な指示に感謝を抱きつつジースはGazaniaを構え直した。 一方、後方から吶喊して来た信者達は――雪白 音羽(BNE000194)がフレアバーストで文字通り焼き尽くす。 それでも尚と残り火の中から現れた信者が自動小銃を構えて音羽へ発砲した。撒き散らされる弾丸、しかし音羽は慌てる素振りを見せない――彼の目の前には『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)がダブルシールドを構えて立ちはだかっているからだ。 ぱららららっ。けたたましい銃声、火花、一弾漏らさず防ぎ切る。ニヤッと楯の合間から明奈の得意顔と白い歯、弾切れの銃を手に歯噛みする信者、その咽に突き刺さるナハトのAn die Freude。信者は例の合言葉と共に頽れる。 シアワセシアワセ、あーほんとに吐きそう、マナサイクルを自らに施しつつナハトが振り返ったそこには立ち止まった仲間達の背中と、荘厳で重厚そうな大扉があった。 目的地に到達したのだ。 「皆大丈夫か? 怪我は……無いみたいだな」 あったとしても掠り傷か、と仲間達を見渡した音羽は先ず息を吐き、首をコキリと鳴らしながらマナブーストの公式を唱えて体内の魔力を活性化させる。気付けばサイレンも止んでいた。 他の面々も自己強化を施してゆく最中、かるたは準備したICレコーダーの録音を作動させる。信者を食い物にする言葉が録音できれば、後日残りの支部への対応にとアークへ提出するつもりなのである。 「さて。準備はできたな」 ランスを構えた美散が言う。その後ろや周囲の仲間達は誰もが武器を構え、臨戦体勢であった。 刹那。裂帛の気と轟音と共に、大槍が扉を突き崩す。 ●私達は、 「良く来たね、アークのリベリスタ諸君」 リベリスタ一同を待ち受けていたのは揃いの装束を着た13人。皆が武器を構えている――自分達が来るのは連絡を受けてか分かっていた様だ。 奥に控えるシアワセ塾塾長のイワクツキが脳味噌喰らいを指先で撫でながら不敵に笑っている。その左右に控えているのは大幹部のヤマトとナデシコであった。 双方鋭く睨みあったまま、ふと音羽がイワクツキに言葉を掛ける。 「お迎えどうも。……で、どうして俺達がアークだと?」 「この『シアワセ塾』に喧嘩を吹っ掛ける様な派手な真似、アークぐらいしか出来まい……そう思わないかい、雪白 音羽君?」 「へぇ、俺の事知ってんのかね」 音羽の名声はイワクツキに認知されていたらしい。まぁねと答えたイワクツキが不気味な弓を引き絞った――一層の緊張感が駆け抜ける。 「まぁ、だからってどって事ないですさ、君達もアークも――滅びる運命にあるのですから!!」 私達は シアワセ!! シュプレヒコールと共に放たれる怪矢。襲いかかるフィクサード、迎え撃つリベリスタ。 リベリスタの狙いはイワクツキであったが――傍に大幹部と後衛の支部長を控えさせているので真っ先に狙うのは困難と見た。それ以前に、先ずは襲いかかって来る支部長達を制圧せねばならない。 「――嗚呼君達のシアワセが馬鹿らしいものなのはご存じだけど、幸せではなく『仕合わせ』だったりしない?」 自分には他人の幸せなんて分からないけれど。首を傾けたナハトの金眼が信者達を見渡す。 彼達もこの世界も蝶ではない。蛾。『蚕』。飼い慣らされた虫。人のために茹でられるのが仕事。 そんな風に使い捨てられるという事に気付けないのかしら――と、ナハトは掌を向ける。 「たっぷりの愛をあげる。おいで」 幸せは無理でも、愛なら差し上げられる。振り撒かれるのは愛、愛、Liebe。放たれる神気閃光は、放たれた蜂の襲撃のような連続射撃を信者諸共焼き払った。 キリエは透視によって隠し扉や通路が無い事を確認すると、唯一の出入り口である壊れドアの前に4WDを出して塞いでしまった。その背を破滅的な黒いオーラを振り上げた支部長が狙う。だがそれは割って入った明奈の楯に真正面から受け止められた。 「全ッ然、」 楯ごと潰そうとするブラックジャックを跳ね退けた明奈が両手の楯を振り上げる。 堅牢な楯に宿るのは神聖な力、敵を射抜く強気な瞳は勇気凛々。 「効かないよ!」 叩きのめす。叩き潰す。魔を落とす恐るべき一撃。 彼女に礼を述べ、キリエも気を引き締めスローイングダガーを構えた。 幾つもの武器が、技能が、ぶつかり合う。 かるたはオーララッシュ、美散は遠慮せずギガクラッシュを叩き込み支部長達を圧倒してゆく。 「攻撃の威力にはそこそこ自信があるんでな?」 切り開いて往く道。 「うらああああ!!」 ジースも相方である牙緑と共に誇りのハルバードを振るう。薙ぎ払う。 激戦。その最中、脳味噌喰らいの矢が牙緑の肩に突き刺さった。牙緑の表情が苦痛に歪むが、猛虎とその爪牙は止まらず。 私達はシアワセ 私達はシアワセ エンドレスの声。 「幸せになりたかったらこんなとこで叫んでないで、実際何をどうすれば幸せになれるのかちゃんと計算してみたらいいと思うぜ。 その教祖に依存しても、幸せにはなれないぞ!」 合言葉を薙ぎ払う様にまた一つ虎的獠牙剣を振るった。 その瞬間に巨大な火柱が後衛の支部長達を纏めて焼き払う。音羽が召還したフレアバーストだ。その間にナハトの天使の歌が仲間達の傷を癒し、キリエはインスタントチャージで技能使用や脳味噌喰らいの攻撃で削られた仲間の精神力を治していった。音羽は再度、魔炎の構築式を詠唱によって組み立ててゆく。 「……中々やるようですね」 すっかり全滅した支部長を見渡し、イワクツキは憂いの声と共に首を振る。 「貴方達の仇はきっととりましょう――『私達はシアワセ』」 「私達はシアワセ」 「私達はシアワセ」 一歩出たのは大幹部の二人。その瞬間、イワクツキを中心とする闇の世界が前衛陣ごと辺りを黒に閉ざしてしまった。 暗視を活性化させた面々には何ら問題は無い。しかしそうでない者は暗視スコープや光源で対応するものの完全とはいかない様だ。 リベリスタに緊張が走るその刹那、激しく荒れ狂う一条の雷が彼らを襲った。 「!」 全身を焼く痛みに怯んだそこへ大幹部達が襲いかかる。 ヤマトはジースをソニックエッジで追い詰め、ナデシコは明奈へ土砕掌を叩き込んだ。暗闇からの奇襲、膝を突く二人の体は麻痺してしまい動かない。 彼らが追撃しようとする。しかしヤマトはかるたと美散が、ナデシコは牙緑がメガクラッシュで彼方へ吹っ飛ばす。 しまった、ブレイクフィアー持ちが二人とも麻痺している。舌打つキリエだったが異変に気付き振り返った。塞いだ出入り口から聞こえてくるあのシュプレヒコール。緊急事態に信者達が集まって来たようだ。どうすべきか。 「俺に任せな」 そこへ、音羽が魔炎の詠唱をしながら一歩出る。その直後に4WDを破壊して信者達が雪崩れ込もうとして――フレアバーストに焼き潰された。 「適材適所、てな」 身体を張ってでも止めてみせる。詠唱を再開した。 後衛の面々はイワクツキ達へ意識を戻す。と、全身に傷を負ったヤマトが面接着を用い、壁伝いにクローを煌めかせて飛び掛かって来た。 ナハトを庇う様にキリエは前へ出るやダガーを投げつける。空を裂く刃は信者の足に刺さる。悲鳴、更にAn die Freudeがヤマトの目に突き刺さった。 「痛いなら痛いってきちんと言うの」 幸せじゃないなら幸せじゃないって言いなさい。ナハトの言葉、絶叫と共に壁から落ちた大幹部の背後には電撃を纏うランスを構えて立ちはだかる美散が。 「さぁ、唱えろ。お前達は今……『シアワセ』なんだろう?」 冷酷に研ぎ澄まされた戦闘狂の声にヤマトが振り返った瞬間。その体を穿ったのは落雷の一突、爆ぜる火花、堂に風穴を開け全身を真紅に染めたヤマトは言葉の代わりに血を吐いて……血潮に沈んだ。 一方の闇の中。 イワクツキが作り出した魔の黒鎖に呑み込まれ、ジースは致命的なダメージを受けてしまった。暗闇がヒーラーと自分達を分断している。血が大量に流れ滴る。赤い塊を吐き出す。激痛。霞んで逝く意識、揺らぐ体――しかし地面にGazaniaを突き立て『倒れる』運命を自らの運命を用いて捻じ曲げた。 「こんなところで、寝てられるかよ……俺には護るべき花が居るんだよ! キリエにも虎にも負けられねぇ。俺には負けられないライバルが、大切な仲間がいるんだよ! それは背中を預けるに値する最高の仲間なんだ! だからお前らなんかに絶対負ける事なんて出来ないんだよ!!」 こんなとこで立ち止まってられるか。 視界に映るのは牙緑と打ち合うナデシコ。それへ躍り掛かる――精神力は脳味噌喰らいに喰らわれ切ってしまったが構うものかと、 思っていた。 力が蘇る。キリエのインスタントチャージ。 そして牙緑がメガクラッシュでジースへとナデシコを吹っ飛ばした。 やっちまえという牙緑の声、キリエの視線、ジースの足は軽やかなステップを踏む。 花を護る竜、黄金の虎、相反する振り子時計の完全な連携の前に逃れる術は無い。 誇りの刃は大幹部を完膚無きまでに切り刻み、血潮と共に打ち倒した。 かるたは音でナデシコが倒れた事を知った。その体はイワクツキの魔法に傷付き、精神は脳味噌喰らいに擦り減らされている。 (集中……集中して……) また一本、奇怪な矢に穿たれながらもかるたは聴覚を研ぎ澄ませる。 そして、走った。 指先に式符の鴉を止まらせて。 「その大層凝った装束……見るまでもなく追えますよ?」 羽ばたく鴉。穿った。イワクツキのくぐもった悲鳴と、消える闇。 すぐさまナハトとキリエは聖なる福音を響かせようと詠唱を始めたが、先に詠唱を終えたのはイワクツキであった。 その頭上に収穫の呪いの刻まれた魔力の大鎌が召還される。 だがその隙にイワクツキへ躍り掛かったのは全身血だらけの明奈、自己再生もあるので多少の無茶は通す意気で大楯を振り上げる。 「!」 結果として――無情な黒鎌が貫いたのは明奈の体。 「ぐッ……!」 激しい流血、焼ける様な苦痛、たちまち足下に血の海が広がる。 彼女の動きが止まる。 「……気に入らない全てを壊してシアワセだって……?」 それでも明奈は倒れない。ふざけんな、呟き身体を貫く魔鎌に手を遣るや――握り潰した! 「ふざけんな、ふざけんな! 自分で何一つ考えず誰かに縋って、楽がしたいだけじゃないか! ワタシは絶対に認めない。幸せは、自分の手で創り上げるものだろ!?」 ミサイルガールは止まらない。フェイトを消費し運命を変え、今度こそと大きく跳び出してゆく。楯を振り上げ、全ての力を込めて。 「だから、アンタらはここでぶっ潰す!!」 爆発させるのは全身の膂力。 叩き付けるのはどこまでも堅い大楯。 宣言通り、文字通り。 その奇ッ怪な弓ごと、 『ぶっ潰した』。 ●私達は。 「おい」 信者達を食い止めるべく魔炎公式の詠唱をしていた音羽がその詠唱を途中で止め、信者達へ声をかける。 擡げる口角と共に言い放つのは、 「お前らのトップ、やられちまったぜ?」 かくして信者達も戦意を喪失した。武器を次々と手放す信者達へナハトは一歩だけ歩み寄る。 お聞きしたい事があるの、と。 「今、どうなったら『しあわせ』だと思う? まだ同じ事を言えるかしら、かしら」 答えは無い。皆黙り込んで俯いている。 ホーリーとは疑い無く呼び難いその白魔術師は吐息を吐いた。吐きながら言った。 「――言えるならきっと貴方達は『しあわせ』よ。」 一方、かるたはICレコーダーが正常に働いていた事を確かめ、シアワセ塾に関する資料を回収していた。 だが彼女が思った様な――信者を食い物にする様なモノは何一つ無く、ただただ彼らが猟奇的で狂気的で純粋であったと知る事になり、ある種の狂気と不快感を覚えて眉根を顰める他に無かった。 それでも今は成果を喜ぼうと、仲間達に労いの言葉を掛ける。幸い重傷者もいない。明奈も明るく笑ってそれに応えた。 ジースと牙緑は互いに目を合わせるや、ハイタッチ――お疲れ、と、互いの無事と勝利の喜びを分かち合う。 「ふむ……」 美散は黙り込む。その手には砕け散った脳味噌喰らいの欠片。手早く回収したは良いが、禍々しいそれからはもう力を感じない。 二度と魔弓が誰かの精神を喰らう事は無いだろう。パッと手を離せば欠片はあっけなく落ちて転がった。 任務終了とアークへ連絡をしたキリエは仲間達と共に歩き出す。 佇む信者達を残して、通り過ぎる。 「今ある世界には、確かに失望させられるけれど」 通り過ぎる瞬間、白い装束を横目に。 「君達が望む新しい世界は……か弱い存在を受け入れないのだろう?」 私は君達を肯定しない。 全てを切り捨てるには、きっとまだ早い。 そう言い残して、キリエは歩き続ける。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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