●身の丈 「おい……俺達どうするんだよ?」 とある港の貸し倉庫。そこには複数の男達がたむろしており、誰が見てるわけでもないというのに声を潜めて話をしていた。 彼らに共通しているのは戸惑い、躊躇、そして微かな恐怖。それらが自然に彼らの言葉を潜めさせ話す要因となっていた。 「シンヤさんがよりビッグになる人だってのはわかるぜ? 実際伝説と言われるジャック・ザ・リッパーに認められたしよ」 ぼそぼそと話す男達はシンヤの部下であるフィクサード達だ。 彼らは等しくシンヤの呼びかけに応え、参加についたチンピラである。利益を追求し、シンヤに付くことが利益となると判断したが上の決断であった。 だが、彼らの心を乱すのは。その肝心のリーダーであるシンヤその人。 「でもよ、さすがについていけねえよ。あのシスター捕まえてからのシンヤさん、無茶苦茶だぜ? 正直恐ろしいわ気味悪いわで、この先が怖くて仕方ねえ」 そう。結局彼らはただのチンピラに過ぎず、一線を越えることなど出来はしない。 荒事で生きてきた彼らはそれなりに恐怖に免疫はある。伝説に触れ境界の向こう側へ行ってしまった男と彼らの間には決定的な隔たりがあったのだ。 彼らが今こうやってシンヤからの連絡があるまで潜伏している時も、シンヤは先へ先へと進んでいく。深淵の彼方へと。 正直手を引きたい。彼らは力と利益は欲しいが、間違っても人を辞める気など毛頭ないのだ。 ならば彼らが未だにシンヤに従属しているか。 「……だけど今更手を引くのも怖いからな。あのシンヤさんにバックレるなんて言ったら」 結局の所、シンヤに対する恐怖である。 最早彼らは後に引くことの出来ない所まで来てしまっていたのだ。 一時の利益に引かれた結果大局を見失った男達の現状であった。 ●ブリーフィングルーム 「さあ皆さん皆さんどうもどうも。張り切ってください、大きい仕事ですよ」 今日も今日とて賑々しく胡散臭く。『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)は揉み手交じりにリベリスタ達へと宣言する。 「いやあ、皆さん後手後手というのは辛いですねえ。ですが今回は違います、ストライクバック。反撃ですよ、いやあ楽しみですねえ」 反撃。今回は攻撃の目処が立ったというわけだ。 そこに至るにはいくつかの理由があった。フィクサード千堂の協力によって手に入った情報。そしてそれを利用することによって行われたカレイドシステムの集中運用。それらがシンヤのアジトの絞込みを成功させたのだ。 だが、直接戦うわけでもない四郎が何故こんなに乗り気なのか。それを察することは出来はしないが、資料は彼の感情に関係なく配られ、データを伝える。 「今回はシンヤのアジトと目されるいくつかの場所がありましてね。これはその一箇所なんですけれど」 うきうきとしながら資料を机に広げ、四郎は説明を続ける。その資料に記載された場所は湾岸の貸し倉庫。裏社会の人間がしばしば拠点に使うと言われる場所である。 「ここには彼の配下である構成員達がいますよ。なのでさっくりと成敗してきてくださいね、容赦なく」 そう。例え直接の関わりが無くてもシンヤに関わる場所ならば、その全てを叩いておかないと後の禍根となるかもしれない。 それ故に放置するわけにもいかないのだ、彼らを。 「さあ善は急げ。つまり正義の味方は急がなくてはいけないというわけですよ。皆さん期待してますよ?」 四郎はリベリスタ達へと激励する。その顔に明らかに楽しくて仕方ない、興味本位を称えた笑顔を浮かべながら。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月28日(金)00:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●潮騒届く箱の中 潮騒。それは母なる海から聞こえる安らぎの音。 湾岸という場所には常にそれが響いている。その音は時に人の悲しみを洗い流し、喜びを共にする。それは有史より続いてきた、人と海の関係。 そのような音が響くこの港湾地帯に、そういった情緒とはまるで無縁の集団がいた。 港に無数にある倉庫。そのうち使われてないと思われていた一つに、彼らは存在していた。 「なあ、いい加減俺達も身の振り方を考えようぜ?」 そこにいる集団は到底堅気には見えない。服装は様々だが、それぞれの眼光は鋭く、それなりの修羅場を潜ってきている雰囲気を漂わせる。 だが、彼らが口を開けば飛び出すのは路頭に迷う言葉ばかり。彼らの持つ雰囲気も台無しなほどに、それは小さい光景だった。 シンヤ配下、ここにいるのは二十名。その誰もが現状に不安を感じ、沈んでいたのだ。 「シンヤさんにこのままついていくか、バックレるか。いい加減決め時だと思うんだよ」 最早状況は差し迫っている。彼らにとって決断する時間はあと僅か。 ――その時、みしりと軋む音がした。 「……?」 建物の軋む……否。倉庫の入り口のシャッターが軋む音。それは彼らの決断する時間の終了を告げる音だった。 めきりと音を立てて入り口のシャッターが吹き飛び、数名の人物が雪崩れ込んできたのだ。 「みなのもの、アークの超淑女系マダム・マリアムよ! 大人しく縛につけーい!」 先頭に立ち突入してきたのは、赤錆び自らの威力と危険さを主張する斧『狂恋ラブリュス』を手に見栄を切る淑女、『優しい屍食鬼』マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)。 同様に突入し、次々とフィクサード達に対して布陣していく人々。リベリスタである。 「リベリスタ相手なら倒れておけば殺されはしない」 自らの武器『流鏑馬』の砲身をフィクサード達に突きつけつつ語るは『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)。 「そんな甘党も逃げ出す甘い考えを持った子が居るならば、今の内に降伏なさい」 彼女はフィクサード達へと宣告する。この先の戦いは容赦はない、音を上げるまで潰しあうのみだと。 「アークの連中か!?」 「ここがバレただと!? 万華鏡ってのはそこまでの性能なのかよ!」 突然の闖入者に色めき立つフィクサード。 当然である。彼らは自らの命運をどこに託すか悩んでいた矢先、先手を打って討伐が来るなど思ってもいなかったのだ。 されど彼らも訓練されたチンピラである。即座に臨戦態勢へと移りながら、怒鳴るように返答した。 「こちとら素人じゃねえんだ! 降伏しろって言われて素直にハイって言えるかよ!」 戦う覚悟を決めた彼らの動きは早い。コンテナで遮蔽を取る者、キャットウォークへと駆け出す者、フォーメーションを組み直す者。 だが、リベリスタ達もそれを黙って見てはいない。 「あはははっ、さあさあ罪姫さんと遊びましょ?」 『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)が駆け出し、両手に持った一対のチェーンソーが獰猛な唸りを上げ、獲物と定めた者へと迫る。 「彼らもまた、理不尽に苦しむ『人』だけど……」 『さくらのゆめ』桜田 京子(BNE003066)は彼らの立場を思い、躊躇する。 彼らもまた被害者である、だが同時に加害者でもある。それを思い、彼女は悩む。 だがその技は決して迷いに左右されはしない。手にした拳銃『運命喰い』を構え……撃鉄を起こす。 それが実質的開戦の合図。撃鉄が倒れる度に銃弾が飛び出し、即座に撃鉄が起こされる。 京子の放つ銃弾の雨がフィクサード達へと降り注ぎ、彼らの動きを縫いとめ、被害を与える。 「散開だ、散開しろ! あいつらを包囲して潰すんだ!」 さすがに一撃で倒れるほどの弱者はいない。人数では勝っているフィクサード達はその数を生かして包囲、撃滅しようと展開していく。 「あんなのと手を組んでたんだ、こういう事もありえるって当然考えてたよな? ――ほらよ!」 散る直前、密集した状態のフィクサード達へと雪白 音羽(BNE000194)が腕を一閃する。 練り上げられた魔力が炎の塊となる。それはフィクサード達を飲み込み、爆裂。炎の海を作り上げた。 「ぐああっ!?」 「な、なんて破壊力だ!」 その凄まじい火力に色めき立つフィクサード。機先を完全に制された彼らは致命的な失敗をここで犯していた。 「まずはあなたかしら? さあ遊びましょう!」 攻撃の騒乱に縫いとめられていた一人のフィクサード。彼へと罪姫が疾風のように駆け寄り、唸りを上げる機械を振り下ろす。 そのフィクサードこそ彼らの継戦の要。ホーリーメイガスだった。 「うわあぁ!? く、来るなぁ!」 咄嗟に周囲を巻き込む閃光を放つ男。その瞬間的に放たれたにリベリスタ達の目は惑わされ、怯んだがそれは罪姫の一撃を押し留めるには至らなかった。 鮮血が飛び散り、男が力なく崩れる。 「お、落ち着け! 相手は少数だ、数で攻めれば負けはしない!」 フィクサードの一人が叫ぶ。現段階における戦力差は約三倍。数の優位は彼らの士気を否応なしに高める。 だが、世の中そんなに甘くはない。 この倉庫にはもう一つの入り口がある。裏から回り込む小規模な入り口。正面から突入してきたリベリスタ達に気を取られていたフィクサード達は、その存在をすっかり忘れていたのだ。 「――さて、大掃除といくか」 裏口からの侵入者、『深闇に舞う白翼』天城・櫻霞(BNE000469)を始めとする別働隊。彼らの登場により、フィクサードの数的優位は実に些細なものと成り果てた。 「ここは誰も通さない!」 『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が扉の前で仁王立ちになり、その手をかざした。 ――再び倉庫を閃光が満たす。 やるかやられるか。リベリスタとフィクサード。長い時の始まりである。 ●命と利益と 戦いは凄まじい弾幕戦となった。 京子を始めとして『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)に『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)らが次々と銃を乱射し、敵の陣形を刻んでいく。 三名による銃弾の雨がフィクサード達の中でも体力に劣る者から順に脱落させていった。 一方フィクサード側もキャットウォークより銃弾をリベリスタ達へと雨霰と弾丸をばら撒いていく。 リベリスタ達は実力的に言えば決して劣りはしない。むしろ勝っていると言える。 だが、遠距離からの弾幕は容赦なくリベリスタ達の体力を削り取っていく。 アリステアや『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)らの癒し手がいることで、戦線を辛うじて支えている状態だ。 「皆、支え続けるから! 頑張って!」 「さおりんに精神的に苦痛を与えたシンヤグループの皆さんはあたしが許さないのです!」 やや支援というには私怨が前に出ている様子もあるようだが。 銃弾だけではない。お互いの白兵戦もそこら中で行われている。 「何ぃ!? どこから上がってきた!?」 壁を走り、キャットウォークへと駆け上がった『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)が油断した相手へと強襲を掛ける。 「今の貴方達を動かしてるのは恐怖心だけ」 握り込んだ短剣、『愚者の聖釘』が容赦なくフィクサードへと突き立てられる。 「なら解放してあげる。……その命と引き換えに」 貫いた刃はフィクサードへと無数の苦痛を与え続ける。やがてそのフィクサードは動きを止め、倒れた。 「このリベリスタ達を倒せば俺がエースだ!」 「――どのみち足掻いても待っているのは最悪の結果だ」 武器を振りかざし迫るフィクサード。彼らに対し櫻霞は一対の戦輪『冰月』『紅牙』を投げつけていく。集中力を研ぎ澄ませたその攻撃は確実にフィクサード達の急所を抉っていった。 彼の場にたどり着くことなくフィクサードは倒れる。そんな彼に対しぼそり、と櫻霞は呟いた。 「大人しく捕まったほうが長生きも出来ると思うがな」 それらの混戦の最中、それは行われる。 「ぎゃああぁぁ!」 断末魔が倉庫に響く。乱戦中といえど、その声は絶望を持って戦場へと響いた。 地に伏したフィクサード。その肉体を踏みにじり、止めの一撃を数発叩き込んだのはこじりだった。 絶命。最早確認もいらないほどに、確実な死がそこにあった。 「――これで分かった?『殺せる』のは貴方達だけではないのよ」 じろりと周りを見回し、フィクサード達へと睨みを利かせる。 「最後通牒よ。降伏してアークの保護下に入るなら、後宮くんも簡単には手が出せないでしょう。否なら――続けましょう? 殺し合いを」 相手を殺し、心を殺し。敵の戦意を挫こうとする。 ここで自らの手を汚すことで相手の道を正すことが出来る、そう願い。 「ひとかけら、ふたかけら。さあさあ、次は誰? 武器を捨てて投降するなら許してあげる。でも、そうでないなら――」 罪姫もまた、命をもぎ取り心を折ろうとパフォーマンスを展開する。 倒れた相手の腕を切り取り足を刻み、首をバラして出来上がり。人間だったものは無数の肉の断片と、赤黒い床の水溜りへと早変わり。 残忍にして容赦はない。これが最後の引きどころ、そう告げている。 だがフィクサード達は荒事でいままで生きてきた存在。 例え現状が割りに合わなくとも、進路に迷いに迷っていても。舐められたまま終わるわけにはいかない、それが裏社会に生きてきた彼らの流儀。 「ここまできちまったら一人や二人死んだ所で引けるかよ! ナメんじゃねえぞ!」 「――逃げ出す機会はずっと前にもあった筈」 その様子にクローチェがキャットウォークより周りを、眼下を見下ろして朗々と語る。 「でもそれを失った以上逃げる事は赦されないし……逃さない」 それは一つの死刑宣告。この場にいるリベリスタ達のうち、覚悟を決めた者とそれでも慈悲を与えんとする者。前者の分水嶺は今、ここに決した。 そこからの戦いは泥沼であった。 血風が舞い、凶刃が振るわれる。斬り、斬られ、焼いて焼かれて打ち抜かれ。どこまでもどこまでも、残酷に凄惨に。 「そらそら! 逃げるなら今のうちだ!」 「逃げてもオレがいるけどね!」 音羽が追い立てるように爆炎を撒き散らし、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が退路を封じて。 銃弾の雨はさらに降り注ぎ、フィクサードはコンテナを駆使し、遮蔽を取って応戦するもマリアムの振り回す斧の一撃により遮蔽物は無残に砕ける。 逃げ場も隠れ場も失うフィクサードは死兵となりて、一手でも多くリベリスタへと報いを返さんと武器を振り回し、応戦する。 「くそぉ! やってやる!」 「気後れなどするものか!」 やや自棄気味の気合を入れ応戦する者がいる。 「パ、パワーが違いすぎる!」 「こ、このままでは!」 悲鳴と哀願を上げつつ応戦する者もいる。 質と数。正面からぶつかり合う二つの質の力は不思議な拮抗を生み、より大きな惨事を広げていく。 報復の戦いは血を持って償われるという。だが、それを良しとしないものもいる。 「シンヤは孤立している。どれだけ彼が危険かアナタ達もわかってるでしょ?」 相手に対しての狙いを外すことなく銃口を向け、京子は彼らへと訴えかけ続ける。 「アナタ達が生き残るにはアークに投降するしか無いのよ!」 彼女は諦めない。少しでも助けられるものがいるなら。降伏することにより無用な流血を防げるのならば。彼女はそれを望み、問い続ける。 「貴方達はまだ変われる。シンヤちゃんを見て恐ろしいと思えるのなら……まだ戻れる」 マリアムもまた、信じている。道を外し、道に迷った彼らがまだやり直せると。 「だからお願い、アークに投降して。罪を償って、もう一度普通の生き方をして欲しい」 訴え続ける。より良い結末を、より平和な終わりを求めて。 リベリスタとフィクサード。両者の戦いは長く長く続く。 血は捧げられ、苦痛と怨差は拡大する。希望と絶望、願いと殺意が入り乱れて。 一人、また一人。倒れ、地に伏し、時には命を落とし。 しかしそれも両者の思い。ぶつかり合うは意志と意地。 ●終劇 長引く戦いはやがて終わりを迎える。 数十分だったか、数時間だったか。結論から言えばリベリスタ達は勝利を納めることとなった。 応戦するフィクサード達ではあったが命運を分けたのは最初に失った癒し手の存在である。 お互いに倒し、倒され。立ち上がってはまた倒し。 そういった消耗戦において、数には勝るがバックアップを断たれた彼らに対し、挟撃から的確に相手を叩いていったリベリスタ達。過程はともかく、結果がこうなるのは確定的に明らかであったと言えるだろう。 自らの矜持の為に戦う者達もやがて投降する者が現われ、それを良しとする者に保護される。 戦力が減れば押し切られる。こうして雪崩式に戦闘は集束していく。 リベリスタ、フィクサード、両者に甚大な被害を出した戦闘はこうして終わりとなった。 フィクサード側の死者十三名、投降者七名。 ――この結果をどう思うかはわからない。 禍根を残したと見るか、希望が繋がったと見るか。それは戦った彼らそれぞれが決めることなのだろう。 どちらにしてもここが終着。凡人を越えつつも常人を越えれなかった彼らの限界が、ここであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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