●『寄生血液』 技術は模倣から始まる。 完全なゼロから何かを生み出すことは難しい。それを成すのが天才なのだろうが、凡人は技術を模倣する。積み重ねること。取り入れること。これを物真似だと恥じてしまえば、何も生み出せない。 水原静香は今まで自分が模倣される天才の立場だと思っていた。 しかしその自信は『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアに出合った時に崩れ去る。世界は広い。その事実に悔やみ、そしてそれを認めて魔女の技術を取り入れようとする。 シンヤがジャックの伝説に惹かれるように、彼女もアシュレイの技術に惹かれていた。 魔術という術は彼女にはない。代替手段として科学で彼女は『塔の魔女』を模倣しようとする。法を犯し、倫理を犯し、あらゆる手段を用いて彼女は模倣する。今は背中を追いかけて。しかしいつかはそれを追い越そうと。狂気に真摯に彼女は科学者だった。 「……水原さん、この子は一体なんなんですか?」 「魔女の技術にある『寄生するエリューション』をフォーチュナに寄生させたのよ。 『戦闘能力を持つフォーチュナ』を目指したつもりなんだけど。うまくいかないわね」 「そんな理由でフォーチュナを潰されたらたまりませんよ! 『万華鏡』に比べると劣りますけど、未来予知は情報戦の要なんですから!」 水原静香にフィクサードの一人が食って掛かる。二人の視界の先には、鎖でつながれた一人の少女。着ているのはぼろぼろの服。やせこけた体。そして荒い呼吸。時折あげる悲鳴。まるで自分の体の中にある何かに怯える様に。何かが暴れその感触に身もだえするように。 「また捕まえてくればいいじゃない。シンヤはまだやる気なんでしょう? それともまだ聖女さんとあそんでるのかしら」 「や、やめてくださいよ。誰かに聞かれたらナイフで刺されますよ!」 「ならナイフでも切れない皮膚を持つエリューションを『魔女』から教えてもらおうかしら」 怯えるフィクサードに苦笑する水原。そして鎖につながれたフォーチュナを見る。 「気分はどうかしら? あまり気持ちがいいものじゃないと思うけど。 エリューション化した血液が体の中に流れてるって言うのは、どんな感覚かしら?」 「うああああ、あああああ」 鎖につながれたフォーチュナから帰ってくるのは、理性のない言葉。たとえるなら血管内を虫が駆け巡っているような感覚。異物が駆け巡る感覚が神経を刺激し、脳を不快感が襲う。そして何より恐ろしいことは、 「脳内物質の放出も促進しているはずだから、未来予知の精度も上がっているはずよ。 もっとも、負荷をかける分寿命は短くなるけど」 わかる。今までよりも鮮明に未来予知ができる。見たくない未来までも。 このまま自分が狂って死んでしまう未来。それが鮮明に見える。体内のエリューションに神経を削られ、狂ってしまう自分。それを見てしまう。 「それで、シンヤからの命令は?」 「しばらくは待機だそうで。兵隊を集めるとか」 「いいわ。こっちもエリューションの強化といきましょう。次は『複数のEエレメントを複合させた概念体』とかどうかしら? 相反するエレメント同士を融合させて――」 白衣を翻し、水原は言う。彼女にとって善悪や世情などどうでもよかった。ただおのれの技術。彼女にあるのはそれだけであった。 ●アーク 「イチハチサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見た。その顔のは疲労の色が濃く、しかしそれでも気丈に彼女は『オペレーター』であろうと背筋を張った。 「フィクサード『千堂 遼一』からの情報をベースに『万華鏡』を集中運用し、後宮シンヤのアジトの一つを発見しました」 おお、集まったリベリスタから驚きの声が上がる。和泉の疲労は『万華鏡』をフル稼働した結果だろう。 「場所は山中にある廃工場。そこを研究施設に改造して、人体実験をしている科学者がいます。 水原静香。後宮シンヤの部下の一人です」 モニターに映し出される地図。そして白衣を着た水原静香の姿。周りに民家はなく、大きな音を立てても事件にはならないだろう。 「工場には水原とその部下であるフィクサードが三人。そして血液のEエレメントがいます」 「血液の……エリューション?」 「はい。フィクサードが誘拐したフォーチュナにその血液を輸血したようです。 いわば、エリューションに寄生されている状態です」 「なんだそりゃ!?」 「戦闘になればフォーチュナの傷口からそのエリューションが出て来ます。わずかながら未来予知能力を持っているらしく、皆さんの先を読んで行動するため、命中能力と回避能力に優れます。 ……そのフォーチュナを殺害すればその能力はなくなるでしょう」 「逆に、フォーチュナを殺さずそのエリューションだけを殺せばそのフォーチュナは助かるのか?」 「寄生されているフォーチュナの疲労が激しいので確実とはいえませんが、可能性はあります。 相手の数は少ないですが、それでも実力は折り紙つきです。個人の戦闘能力ではあなたたちよりも上でしょう」 「それでも、皆が掴んできた情報だ。尻込みする理由はない」 誰かが呟く。そしてそれに同意できない人間は、初めからここにはいない。 「水原静香にとって、自らの研究成果を溜め込んでいるこの施設を放棄する選択肢はありません。死に物狂いで抵抗するでしょう。 皆さん、気をつけてください」 和泉は疲労を見せずに、笑顔でリベリスタたちを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月28日(金)00:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 山奥の工場跡に響く音は静か。自分達の声以外の雑音があれば注意すれば聞き取れる。 「うっす久しぶり、また今回もそんなごきげんなクソみてぇな研究してんの? 進歩ってのがないね」 「久しぶりね。進歩がないのは認めるわ。粋のいいリベリスタが八人いれば、それを素体にして進歩できるかしら」 だからだろうか。突如自らのアジトに現れた『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の来訪に、水原静香は冷静に答えることができた。 「……リベリスタ! どうしてここが!?」 水原の部下であるフィクサードはその事実に驚くが、それでも浮き足立つことはない。ポケットに手を突っ込み、フィンガーバレットを装着する。 リベリスタたちの準備は万端だ。事前の付与も、精神的な集中も充分。 だがフィクサードはそれを知りつつも臆することはない。個人戦闘力ではまだこちらが勝っている。数の不利は否めないが戦い方次第では勝てる。リベリスタ同様、フィクサードも修羅場をくぐってきた猛者だ。 山奥の工場跡に響く音は静か。 リベリスタは水原静香の狂気を止める為。 フィクサードは自らの陣地を守るため。 まるで決められていたかのように、覚醒者たちは動き出した。 ● 「コード6。『The blood is the root of the life』」 懐からリボルバーを取り出し、水原が告げる。鎖に縛られ、床に転がされたフォーチュナの皮膚が歪み、血液が流れ出す。それはひと塊の球体となって宙に浮かんだ。血液のエリューション。宿主の力を利用し、狂わせるエリューション。 『万華鏡』を通じて知ってはいたが、実際に見ると嫌悪感がさらに沸き立つ。『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)は寄生血液により苦しむフォーチュナを見ながら舌打ちする。 「やっぱこうなるかよ」 先の戦いで水原を逃がした結果、このフォーチュナが苦しむことになる。もしあそこで水原を倒しておけば。火車の心に後悔の炎が湧き上がる。頭の傷が疼く。あの女に傷つけられた頭の傷が、ズキズキと。全ての鬱憤をこめて拳を握る。 「オレ等は未来予知なんざ幾つも粉砕してきた! だから今! 踏ん張ってみせろ!」 不規則な呼吸のフォーチュナに檄を飛ばし、拳に宿った炎を水原に叩きつける。それを止めようとしたフィクサードは、他のリベリスタたちにブロックされた。唯真っ直ぐに突っ込み、火薬庫のように激しく拳を振るう。 <意識をしっかり。――運命は切り開くもの。生きる意志あれば、それも叶いましょう> 『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)は倒れているフォーチュナに向けて思念を送る。『女教皇』のアクセスファンタズムを手に、悠月は稲妻を生む。それはフィクサードと血液のエリューションに迫り―― 「避けられた……!?」 フィクサードの四人の肌を焦がした稲妻は、しかし寄生血液には避けられる。未来を見る。フォーチュナの未来予知を利用している為か。 「へぇ。失敗と思っていたけど思ったよりは役立つのね。 感謝するわ、リベリスタ。次のフォーチュナにも試してみようかしら」 「『次』言う事は元々協力していたフォーチュナでなく、無理やり巻き込まれたのでしょうか?」 「いいえ、協力者よ。難病に苦しむ家族の治療費と引き換えに、彼女は自らを差し出した。美談でしょう? もっとも、家族の病気は私たちの仕業。彼女はそういう運命だったのよ」 「戦う力の無い人が力ずくで巻き込まれて命を失う運命なんて……そんな運命は認めないのですよ」 口調は柔らかく。しかし魔力は鋭く。来栖 奏音(BNE002598)は手のひらに四色の魔力を集める。赤、青、緑、黄。相反する四つの属性が入り混じり、螺旋となって血液の固まりに向かって放たれる。研ぎ澄まされた魔力は寄生血液を穿ち、四つの魔力が蝕んでいく。 「気をしっかり保て。お前の見た悪夢は今消してやる」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)はテコの原理を利用してボウガンの弦を巻き上げる。乙女座の名を冠したヘビーボウガン。鋼の矢を射るための杏樹の相棒。フォーチュナを寄生血液から救うために、魔力で研ぎ澄まされた矢が放たれる。悪夢を貫く鋼の矢。それは狙い外さず血液の羽根を貫いた。 「そのフォーチュナを救うつもり? あいも変わらずね。前は『穴熊』を救うために躍起になり私たちを逃したんじゃないかしら? 『万華鏡』で察しているんでしょう。そのフォーチュナを殺せば――」 「理不尽に死ぬ者があるなら、僕はそんなの許さない!」 人参のような剣を振るい『素兎』天月・光(BNE000490)は叫ぶ。縦に振るった刃は返すように右に払い、三角形を描くように真上に跳ね上がる。一撃の強さではなく、速度で寄生血液を追い詰めていく。 「理不尽じゃないわ。その子は私の実験の糧となる。いずれあの『塔の魔女』に追いつくための、犠牲になるのよ」 「科学の犠牲だと山戯るな! 犠牲を嘲る人間を許すかよ!」 「理不尽に死ぬのは許さない。嘲る人間は許さない。大変ね、リベリスタ。 理想をかなえるには力が要るわ。あなたたちにそれがあるのかしら?」 水原の挑発に、視線で応じるリベリスタたち。 「力ならある。殺す力が」 飾り気のない使い古しの大剣を振り回し、『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)は挑発に答えた。彼女の眼前には水原の部下のフィクサード。間合いを計り拳を振るう男相手に、稲妻で自らを傷つけながら剣を振るう。 目の前の男ではなく。フォーチュナと繋がった血の悪魔に。 「今楽にしてやる」 望まぬままに血液に寄生され、苦しむフォーチュナを思っての発言。マリーは目の前の敵ではなく、目の前で苦しむ存在の為に剣を振るう。その力は殺す力だが、その意思は守る意思。 「はっ! 俺たちを無視してるんじゃねぇよ!」 「無視しているわけではなく、こちらもこちらの目的の為に最善を尽くしているんですよ。 それはそれとして投降しません?」 いきり立つフィクサードの怒りを流すように、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が交渉を仕掛ける。うさぎも敵意を寄生血液にむけている。 「投降だと?」 「こんな狂人についてけないでしょ? 挙句その上は更に狂ってますし。後宮さんが懸想相手に逃げられて大わらわな今、足抜けするには最高のチャンスですよ?」 「酷いわね。でも正鵠を得てるわ。どうするの?」 うさぎの言葉に、むしろ同意するように水原が答えを促す。 フィクサードは答えを示すようにその拳でうさぎの肩を殴りつけた。うさぎ自身もこの場での交渉がうまくいくとは思ってなかったのだろう。あっさりと引き下がる。 「ま、この人がくたばったらで良いんで考えてみて下さい」 「思わぬところで忠誠心が計れそうね。実験体がまだ増えそうかしら?」 「やめてくださいよ、水原さん! 俺たちしっかりやりますから!」 ふざけているように見えるが、水原はリベリスタに勝つこと前提で話をしている。言葉には余裕すら感じられた。 ● リベリスタはその意識を寄生血液に向けている。 うさぎ、光、マリーが接近し、夏栖斗、悠月、杏樹、奏音が遠距離から血液のエリューションを攻める。 それぞれが戦いを潜り抜けた覚醒者で、相応の実力もある。寄生血液が未来を読んでも攻撃をかすらせることはできるし、杏樹にいたってはかなりの精度で矢を当てることができる。奏音のあたえる魔毒も、じわりじわりとその命を削っていく。 問題はむしろ、予知能力による命中精度の高さだ。高い命中精度の攻撃はリベリスタたちの傷を深くする。血液が棘の様になり、エリューションに接近しているものたちを襲う。避けられると思った棘が目を逸らす為のダミーで、別の方向から棘が飛んできてわき腹を赤く染める。 「くっそ!」 光が絆創膏を張って止血をしようとするが、傷口は思ったよりも鋭い。絆創膏で防げるものではなかった。相手は的確に刃を設置し、致命傷を与えてくる。 そして寄生血液が血の槍を形成する。魔力をエネルギー変換し、うさぎと杏樹を射線に捕らえて解き放つ。一瞬の後、槍は二人を貫き工場の壁に突き刺さった。魔力はそこで切れ、血霧となって霧散する。 「静香の技術と探究心も、方向性が違ったなら多くの人を救えただろうに」 傷口を押さえながら杏樹が水原を睨む。だが彼女は一線を踏み越えた。超えてはならない倫理という一線。容赦をする必要はない。 「魔道の徒の端くれとして、徒に外法を成さんとする行いを見過ごす事はできません」 悠月も技を極める道が奇麗事だけでは有り得ない事は理解している。技術を極めるということは、時に苦しみ、時に黒い思いに身をそめ、涙を流しながら地面に打ちひしがれることもある。 だからといって超えてはいけない一線はある。やってはいけないことがある。 「水原静香……あなたの『逸脱』は、ここで終わりにさせていただきます」 「怖いわね。だから、全力で抵抗させてもらうわ」 言う水原は火車に格闘戦を仕掛けられている。彼女も罪人の星。並の相手ならいなせる程度の動きはできる。だが、火車の格闘センスと執念は並以上であった。避けきれず、時にまともに炎の拳を食らい、少しずつ削られている。 「余所見すんなよ! ゴミみたいな研究資料燃やさねーようによ!」 「余所見じゃないわ。全体を見てるのよ。 相田、後退。池上と宇津保はそのまま前に」 リベリスタが寄生血液に集中している間は、当然フィクサードはフリーになる。最も数で勝るリベリスタの前衛陣を突破できるわけではないが。後ろに下がることはできる。 「悪いけど、貴方の相手はコイツよ。炎の人」 相田と呼ばれたフィクサードは水原と火車の間に割って入り、その隙に水原は一歩下がる。火車の拳の範囲の外に。 「てめぇ! 逃げるのか!?」 「熱いのは苦手なのよ」 水原は銃を構え、銃口を悠月のほうに向ける。自らに逆らう存在に対する有罪の弾丸。自らを削り、火力を増す断罪の魔弾。おのれの傷がその弾丸に絡みつき、火力を増していく。 「……ぐっ!」 一撃で倒れるほどではないが、それでも悠月はかなりの体力を削られた。 まずい。焦燥がリベリスタたちを襲う。最大火力を持つ水原がフリーになれば、その分被害が増える。水原を守るためにフィクサードがかばいに行く展開は予想していたが、実際にそれをやられると、その恐ろしさに皮膚が粟立つ。 だが。 「問題ありません。――永石さん救出を早く」 傷口を押さえながら悠月は言う。早くフォーチュナを救うのだ、と。 「当たり前だ。そのために僕たちはここにいるんだ。フォーチュナのお嬢さん、大丈夫だ。その未来は変えてやんよ」 夏栖斗は軽く跳躍して横薙ぎに足を振るう。生まれる真空の刃が空を切り、血液のエリューションを傷つける。その真芯を捕らえることは難しいが、それでも少しずつ傷を与えていく。 「その優しさがお前たちの弱点だ。前もそれで俺たちを逃がしたんだろうが」 夏栖斗に肉薄しているフィクサードが拳を振るう。振るわれた拳を振り返ってガードし、腕の痛みをこらえながら夏栖斗は叫んだ。 「わかってるさ。それで不利になることも。簡単じゃないことも。 だからどうした? そんなことはわかっていて助けるって言っているんだよ」 困難が足を止める理由にはならない。リベリスタたちの真の強さは折れぬ心。勝算は低い。でもまだ希望は繋がっている。 寄生血液に対する回復抜きの攻撃作戦。それゆえにダメージの蓄積が激しい。 「まだだ、まだ死んでない」 最初に倒れたのは、自らを傷つけながら戦うマリーだった。自らの剣を杖にして運命を削り戦場に留まる。乱れる息をどうにか整えて、少ない体力を削りそれでもなお稲妻をその身にまとう。最大効率最大火力。その身を一本の刃と化し、ただ敵を倒す為に自らを犠牲にする。破滅の未来を潰す為に。 そして水原の弾丸で杏樹も膝を折る。力の向けた杏樹から視線を外し、次の目標を探そうと視線を動かした水原の耳に、響き渡るボウガンの射出音。 「まだ未熟だけど、これでも狙撃手。予知された程度で外す心算はない」 膝をついたままの形で運命を燃やし意識を留まらせ、ボウガンを射出した杏樹。その矢は寄生血液を貫き、その活動を止める。血液のエリューションは赤い霧となって消え、まるで巻き戻しを見るようにフォーチュナの肉体に戻っていく。 「な、助けるって言っただろ?」 夏栖斗がフォーチュナに笑顔を見せる。安堵の表情を浮かべ、フォーチュナは気を失った。 (でも、ま。ここからが正念場だな) 夏栖斗の視線の先には水原静香。命を命と思わないクレイジーな科学者。 寄生血液を倒し、フォーチュナの命を救ったリベリスタ。 だがその疲労は大きい。 ● 「疲れたろ、休んでろ」 ぐったりと横たわるフォーチュナに息絶え絶えにマリーが言う。まだ終わっていない。自分を攻撃していたフィクサードに剣を向ける。自分はただ殺すことしかできないのだから。 フィクサードの三人を夏栖斗、マリー、火車が押さえ、寄生血液を押さえていたうさぎと光が水原に迫る。このとき明らかに水原の顔に動揺が走り、足が一歩退いていた。 焦りは一瞬。水原は自らを傷つけながらの最大火力である断罪の弾丸を撃ち放ち、うさぎの腹部を穿つ。そのまま倒れたか、と思っていた彼女の目には運命を削って起き上がるうさぎの姿があった。 「あなたを倒すまで倒れるわけにはいきません」 「てめぇは失敗した! ここにいる全員の逆鱗に触れた! 何よりぼくの怒りが兎頂天だ!」 光の刃が通り抜けざまに水原を切り裂く。リベリスタから受けた傷と、自らの攻撃の反動。それらが彼女を追い詰めていく。 「水原さん、今そっちにいきます!」 「まだだァ! フェイトなんざ幾らでも燃えろ!」 「お前らはここでぶっ潰すって決めてんだよ!」 目の前のリベリスタを倒したフィクサードが、そのまま水原のほうに向かおうとする。しかし火車と夏栖斗は共に激昂して運命を燃やす。 水原は冷静に戦局を見る。寄生血液を相手にしたリベリスタは満身創痍。一撃を加えれば押し返せる。その一撃を誰に加えるか? 「前狙った場所はココだろ? ちゃんと当てろよ?」 額の部分を指差して火車が挑発する。そうだ。まずは部下を一人フリーにして自分を守ってもらおう。自らの命を削り、弾丸を放つ。この一撃で火車を倒せば戦局は有利に―― ――歌が響く。声に魔力を乗せて傷を癒す優しい歌。 奏音が奏でる歌がリベリスタたちの傷を癒していく。今まで攻撃しかしなかったが故に気付かなかった回復役の存在。偶然か策略か。ともあれその癒しが、 「はん! 手前の下手な鉄砲じゃ無理かぁ!?」 火車の命を繋ぐ。血を流しながら笑みを浮かべる火車。 「これで決めさせてもらいますよ」 うさぎが虚をつくように水原との間合いを詰めると、涙滴型をした十一枚の刃を振るい水原の胸に死の刻印をつける。『11人の鬼』は彼女をズタズタに切り裂き、致命傷を与えた。だが、 「私は……『塔の魔女』を……!」 水原もまた覚醒者。運命を屈服させて立ち止まる。 「運命が君を立ち上がらせるというならば! 僕はその運命を螺旋伏せる!」 立ち上がる水原の顔面に光が自らの剣を振り下ろす。振り下ろす力。研ぎ澄まされた速度。そして光の怒り。運命を捻じ伏せる一撃が水原の額を割る。脳が揺れ、狙いを定める動きが鈍る。 「『穴熊』さんの件では大変お世話になりました」 悠月が魔力を集める。魔力は稲妻に変換され、意思を持って戦場を駆け巡った。悠月の手には銀の車輪の魔道書。それを魔力を誘導するように水原のほうに振り下ろす。。 「その借りは……返させていただきましょうか」 雷鳴が戦場の音を支配する。その雷鳴が鳴り止めば、静けさが場を支配した。 どさり。 水原静香が倒れ付す音が、全員の耳に響き渡った。 ● 「これ以上の戦闘は互いに不利益とは思わんか?」 マリーが剣を向けたまま目の前のフィクサードに語りかける。 「このまま潰し合いしても、お互いつまんねぇだろ?」 「どの道彼女を守り切れなかった貴方達に待ってるのは罰だけだ。それよりも此方に降って下さい」 倒れた水原に武器を向けながら夏栖斗とうさぎが追い討ちをかけた。他のリベリスタたちも満身創痍ながら武器を構えて返事を待つ。 水原の部下達は視線を合わせ黙考する。戦えば何人かは倒せるだろう。同数か、あるいはもう一人は。 だが、勝てない。フェイトを削ってまで死力を尽くすリベリスタ相手に勝ち目はない。それも理解できる。両手をあげて、降伏の意図を示した。 杏樹はもって来た血液パックでフォーチュナの輸血を行う。フォーチュナの見た未来はもう存在しない。その事実に安堵する。 「シンヤさんやバロックナイツの連中に関しては……水原さんが詳しい」 捕らえたフィクサードにシンヤのことを尋問すれば、そんな答えが帰ってきた。その水原本人は命があるかどうか怪しい状態だ。新しい情報は特に得られなかった。 『塔の魔女』を模倣し、ただ狂気に己の技術を高めるフィクサード、水原静香。 彼女の技術が誰かを苛むことは、もう二度とない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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