● 「それにしてもシンヤさんからの指示はまだっすかねー、とっとと暴れたいのに足りないっすよ」 ボロボロの壁紙、変色した畳。一見して廃屋とわかるその小さな部屋の中に集まっているのは6人の男女。 特に共通点の身受けられぬ彼らの中で一人不満そうに口をとがらせるのは最年少らしき少年だ。スッと手を顔にやれば、少年のマスクがチンピラ風の青年のそれへと変わる。 「君達の力が是非必要なんですよ、なーんて言ってたっすのにね」 「近藤。いい加減にしておけ。作戦の無い間はリーダーだけに化けるようにしておけ。有事に備えてな」 シンヤの口真似をしておどける少年。それに釘を刺すのはスキンヘッドの巨漢。 「はいはい、わかったっすよ島田のおっちゃん。影武者は影武者らしくやっとくっす……でも、ここに敵なんてこないっすよね? リーダー」 「敵に察知される可能性は薄いと聞いている。が、念には念を入れておけ」 少年に指令を下すのは、サングラスをかけた黒髪で背の高いのスーツの男。リーダーである彼の言葉に少年は渋々頷き、その顔をリーダーと同じ物へと変化させる。 「まぁ、一階ではミリアさんが一応警戒してくれてますし、何かあったら通信機で連絡してもらえますよ。今はゆっくりと気を休めましょう……これからきっと楽しくって気の抜けない日々になると思いますし」 そこへ笑顔で言葉を駆けるのは三つ編みの髪に眼鏡が特徴的な素朴な風貌の女性。だが、彼女の纏う雰囲気は常人には纏えぬ修羅の物。その言葉に、そこに集った一同は笑みを浮かべる。 「恵理子の言うとおりだな。ちょっとはいい狩り場を貰えるのかね……今から腕が鳴るぜ」 「大した事無い奴ばっかりだったからねー、今まで殺してきたのって」 「アークという邪魔をする組織もあるそうですが、そこは強いのでしょうか?」 「さぁ? しらねぇっす」 口々に喋り出すフィクサード達。それを見て、リーダーらしき男は話を切り上げるころ合いだと判断したのか声を張り上げる。 「どこの下につこうとも、誰が敵だろうと、やる事は変わらない。情報を解析しながら恵理子が指揮に、島田が支援に徹する。後は俺と近藤、相田が前で、残りが後ろで暴れる。それだけだ」 それだけで、どんな敵だろうと潰す事が出来る、そう言いたげな自信がその口調からは感じられる。 「もうすぐ、俺達も舞台に上がる。ド派手な舞台にだ。その時は暴風を巻き起こしてやろう、旋風を造ってやろう。俺達の力でだ」 鳥特有のカギ爪のような腕で刀を握って笑みを浮かべるサングラスの男。その姿に、周囲が向けるのは期待の籠った眼差しだ。 彼は周りに集った仲間達をぐるりと見回し……肩をすくめるのであった。 「だから、その時まではゆっくり待とうじゃないか。シンヤからの連絡が来るのをな。きっとまともに休める最後の休憩だ。好きな部屋でゆっくりしておけ……最も、どの部屋もボロボロだがな」 ● 「あぁ、集まったな。今回集まってもらったのはほかでもない。後宮シンヤに関しての話だ」 ブリーフィングルームに集ったリベリスタ達に向けて放たれた『戦略司令室長』時村沙織(nBNE000500)の言葉、それに多くの者が驚きの表情を浮かべる。 『Ripper's Edge』後宮シンヤ。武闘派フィクサード組織『剣林』からジャック・ザ・リッパーへと転向した厄介な男である。 先日の事件で『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)を誘拐して以降、行方をくらましていた彼。アシュレイの力によって『万華鏡』の情報網から逃れていた彼の情報が今手に入ったという事は……。 「蛇の道は蛇、とはいうがまさにその通りだな。千堂からの情報がさっそく役に立った」 そう、彼の足取りを掴むきっかけとなった情報はフィクサードからの物。討議を終えてからまだ時間はさほど経ってはいないにも関わらず、状況は劇的に動き出した。 「情報源の大本は『剣林』、つまりアイツの古巣からのリークというわけさ。いくら伝説に心酔しようとも、その行動原理は変わりないようだ。昔のお仲間にバレバレな程度にはな」 その情報を元に『万華鏡』を集中運用した結果、アシュレイの隠蔽能力を突破していくつかのシンヤの拠点ともいうべき場所を発見できたのだという。 「シンヤは部下を各拠点で集めつつある。その戦力をまずは削ぐ必要がある。お前等には今回は廃屋で潜伏中の『ヴァーユ』というフィクサード集団を潰してもらうよ」 シンヤの呼びかけに応じて現れた風神の名を関する集団の目的は、闘争。もともと野良のフィクサード集団だった彼らは互いの弱点を補い合うような連携を身につけている。 「少々自信過剰の気はあるが……整えられた舞台の上なら、それなりに厄介な敵だっただろう。といってもまぁ、わざわざ相手の土俵に上がる必要はない。今求められているのは騎士道精神でもバランスでもなく、結果だからな」 シンヤからの命令は未だなく、『ヴァーユ』のメンバーの警戒心は薄い。今がまさに彼らを最も楽に倒せるチャンスだと、合理主義者の男は嘯く。つまりは、強襲せよという事だ。 「メンバーのほとんどの力量はこちらと同程度。特殊なアーティファクトも無い。リーダーは幾分か骨があるようだが、仲間の支援が無ければそこまで恐れる相手でもないはずだ。だからまぁ、適当に頑張って結果を出してくれ……その結果が、『次』へ繋がるように、な」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:商館獣 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月28日(金)00:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「あー、アホくさ」 ミリアの溜息は本日何度目であろうか。 アパートの北側、自分の選んだ部屋の前で彼女は伸びを一つ。 シンヤという男からここはアークの連中にばれる事は絶対にないぞ、というお墨付きをもらっている。そんな所で何故見張らなければならないのか。それも、こんな昼間から。 「もうサイッテ―よね。ちょっとくらい休憩しても……」 何気なく西側を見たミリア。その表情が思わずこわばる。そこには崩れた塀を乗り越えて敷地内に現れた女性達の姿があったのだ。 「……っ!?」 咄嗟に通信機に向け叫ぼうとするミリア。だが、通信機を持つ手に少女が放った不可視の糸が突き刺さり、痛みのあまり彼女は通信機を取り落とす。 だが、叫べない。 パスンという気の抜けるような軽い音と共に衝撃が走る。喉を撃ち抜かれたのだ。 咄嗟に銃を抜こうとするも、その指先が腰に届くよりも早く、その体を呪縛が包み込む。駆け寄ってきた女の漆黒の刃が、動けなくなった右腕を斬り飛ばす。刀身に描かれた焔に焼かれたかのように激しい痛みがミリアを襲う。 (冗談……でしょ) 彼女が最後に見た光景、それは自分へと振り下ろされるマンボウを象った剣の姿。 まるで悪夢のようなその光景を前に、彼女は愚痴を零す事さえも忘れ……そのまま絶命した。 『匂いからすると東側に女性がいるような気がします。一階ではないですね』 血の匂いが漂うアパート前。『蒼輝翠月』石瑛(BNE002528)はアパートの中から感じられる香りを分析し、東側階段を指差す。 作戦が成功した事と、これから始まる制圧の昂揚感で紅潮した瑛の言葉に応じて、八人の見目麗しきリベリスタ達は足音に気をつけて東側の階段を上っていく。彼女の目的は、このアパートの制圧、そして敵の全滅だ。 二階以上でも廊下から少し視線を下に向ければミリアの死体が目に入るこの状況。死体を部屋の中に動かしてもこの血痕は消せぬ以上隠蔽も無駄であろう。 立ち止まっている暇はない。 『おそらく三階の東から二番目の部屋ですね』 事前にアパートを遠目に観察してヴァーユのメンバーがいる部屋の当たりをつけていた雪白桐(BNE000185)はそう判断を下す。ちなみに、唯一の男子である彼は何故か愛らしい女子学生服姿で階段を上っている。 非常に鋭敏な彼の耳もそれを裏付けるかのように上から聞こえてくる女性の鼻歌を捕える。まず、間違いあるまい。 『三階か。他の敵の場所はどうなんだい? 雪白のニーサン』 『二階と三階の西側に『柳野』が一人づつ。二階の東側に誰か一人。あと、二階の中央辺りの部屋で誰か二人がなにやらお話し中』 本来ならば階下から順に制圧していくべきだと考えていた『ザミエルの弾丸』坂本瀬恋(BNE002749)の問いに、桐は丁寧に情報を答えていく。 『なるほど。それならそこからで問題なさそうですわね』 集中しながら最後尾を歩む『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)は微笑を零す。 反対に意気揚々と先頭を行く『勇者を目指す少女』真雁光(BNE002532)は既に三階に到達。恵理子がいると思われる部屋ではなく、階段の前にある端の部屋へと侵入する。 『さ、すにーきんぐみっしょんなのですよ』 理由は見つかりやすい通路ではなく、ベランダからの移動を行うためだ。 彼女達は部屋を通り抜け、ベランダから隣の部屋を覗きこむ。そこにはイヤホンで音楽を聴きながら携帯電話を弄る三つ編みの女性の姿があった。 『ビンゴーっ! あ、ちなみにここまでの会話はぐるぐさんを中継してのハイテレパスでお送りしてまーす』 『……誰に説明してるの、歪のネーサン?』 上手く狙った敵に近づけた事に喜びの心の声をあげる『Trompe-l'Sil』歪ぐるぐ(BNE000001)に、思わずツッコミを入れる瀬恋。 『さ、油断しているうちに潰してしまうかのぅ』 その様子に苦笑しつつ、『黄道大火の幼き伴星』小崎・岬(BNE002119)と『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)はベランダのガラス戸を開き突入する。 喉を狙う瀬恋の弾丸が紙一重でそれをかわし、驚きに目を見開く恵理子。 「……っ!? 何者!?」 「瀬恋さんいわくカチコミっていうんだって―」 気の抜けるような岬の答え。だが、それと共に振り下ろされたオーラを纏いし漆黒のハルバードは一切の容赦なく恵理子を焔の如き刃で切り裂き傷を負わせる。それと同時に放たれたぐるぐの気糸は今度は狙い違わず喉へと突き刺さる。 「かはっ……」 『悲鳴が上がらないのは残念ですわ』 ティアリアの魔法の矢は喉を潰された恵理子の胴を穿つ。痛みに悶える女。それを見てティアリアは思わず恍惚に頬を緩ませる。 『あ、でもこれはこれで……ぽっ』 『やめてー、清純派ぐるぐさんに心の声が聞こえちゃうー』 だが、それを女も一方的にやられているだけではない。 (伝えなくてはリーダーに。敵は前衛が三人、射手が二人、前後衛スイッチ可能な斬り込み型が二人……) 敵をスキャンしてその構成を読み取り、逃げるために最も有効な算段を頭の中で組み立てる恵理子。彼女は思考の本流で爆発を巻き起こし、リベリスタ達を吹き飛ばそうとする。 だが……。 (あの子は……何?) その思考は冴えわたらない。その身に負った傷のせいか、物理攻撃も魔術も回復支援もこなすというスキャン結果から光のタイプを読み切る事が出来なかったせいか、その爆発は隙を生み出す事が出来ない。 (爆発シーンなんて演りなれてますからねっ) 逆にその爆発をかいくぐって瑛の呪印が恵理子を捉える。それが決め手となった。 動きを封じられた術師は次の行動をする前に打ち倒される。 『ふふっ、これで二人ですね』 優雅に笑むティアリア。しかし、その笑みは一瞬で凍りつく。 「み、ミリアっ!?」 その原因は、外から聞えた最初の被害者に気付いた誰かの声。リベリスタ達は顔を見合わせ……。 「ここからが本番じゃな。纏めて叩き伏せてくれようぞ」 そして、声の元へと駆けだしていった。 ● 廊下へと飛び出したリベリスタ達は三階の西側、下を覗き込んでいるサングラスの男の姿に即座に気付いた。 「何者だ……」 姿に気付いたのは敵も同じ。低い声で問いながら彼は刀を構える。 「はい、こんにちは。カチコミだよ」 ここで戦えば他の敵が来るのは時間の問題。ならば、今までの戦法ではなく、多くの敵と同時に切り結ぶための準備を整えた方が良い。そう考えて瀬恋は胸を張って宣言する。運命の流れを引き寄せるために。 彼女だけではない。岬と桐も先手を取らず、戦いの為に自らの闘気を昂ぶらせる。 「ふん。我等風神に刃向った分の報い、受けてもらおうか」 無論、敵が待ってくれるはずもない。サングラスの男はその刃にオーラを纏って一番近くにいた陣兵衛へ切りつける。一太刀目はその身を深く切りつけ、二太刀目の返す刀は首を狙って振るわれる。 「チンピラ風情が息巻くな。その真似事も似通っておらんぞ? 先の仲間の死体を見て上げた情けない声の方が稚児にはお似合いよ」 「なっ……うるせぇっす!」 だが、その刃は寸前で受け止められる。技から一瞬でその正体を見抜いた陣兵衛に影武者の少年は驚きに目を見開く。 「ま、身長でもわかりやすいですからねー」 陣兵衛と同じ程度しかない彼の身長を指摘しつつ、瑛は振り向きざまに呪印を放つ。それは音を殺して東階段から現れ、奇襲しようとしていたスキンヘッドの男、島田の体を絡めとる。 「ちっ、見つかったか!」 「きゃっ!?」 島田を放置して、東階段から現れた二人の男がその身を躍らせる。眼鏡の男の放った真空の刃はティアリアの体に吸い込まれ、血の華を咲かせる。 「畳み掛けるぞ……っておい!」 「おにさんこーちらー」 苦しげに顔を歪めるティアリアへ向けて、もう一人の角刈りの男が拳を振りかぶる……が、怒りに支配されたその拳は別方向を向く。 舌を出したまま華麗な動きでそれを回避するぐるぐ。 「二正面か。厄介だね」 「ほんとだねー。大変だし、勝ったらお寿司でも食いにいこっかー」 口ではそう言いつつも瀬恋の表情は変わらない。岬に至っては口調すら。ぐるぐが抑えている角刈りの男の両脇をすり抜けた彼女達は時間差でその得物を振るう。 生命体かアパートの一部かを問わず瀬恋の金属製の指先は破壊を巻き起こし、その直後に飛び込んだ岬の漆黒の刃は闘気を纏って島田の体へと突き刺さる。 「できれば瀬恋さんの奢りでさー」 「それは勘弁してほしいね」 「このクソガキどもが、なめるなっ!」 無論、相手も敵陣へと乗り込んできた二人を見逃すはずもない。眼鏡の男の放った真空の刃が岬の体に深々と突き刺さる……が、その傷は光の起こした風によって癒されていく。 「勇者は遅れて活躍するのです! 回復は任せて!」 前衛は陣兵衛とぐるぐの足止めを受け、ティアリアの放った魔法の矢が、桐の刃が、島田の体を傷つけていく。もちろん、岬も瀬恋もその手を緩めることはない。 敵陣を崩す戦略に特化した圧倒的な猛攻。その前にフィクサード集団は総崩れとなっていた。 そして、司令塔を失った彼らは逆転の術を持っていなかった。 「逃げろ……リーダー」 崩れ落ちる島田の最期の言葉。それは彼らの完全な敗北を意味していた。 「あー、柳野は逃げちゃうのかー」 この場にただ一人姿を見せていない柳野、それを逃がさぬように立ち回れなかったことに気づき、岬は表情を曇らせる。廊下で挟まれる形で戦うことになった以上、相手の逃亡を許すのは仕方のないことであった。 ならば、今ここにいる人だけでも、と岬が得物を構えなおしたその時。 「……逃げるかよ。こんなのを乗り越えずに暴風なんて巻き起こせるか」 その男は現れた。三階西側の階段から。 「好き勝手やってくれたな……コイツがすでに言っていたと思うが改めて言わせてもらおうか」 サングラス越しに陣兵衛をねめつけ、柳野はその鳥の爪のようになっている手に刀を握り、抜刀する。 その刃は軽い一振りで廃アパートの壁を容赦なく抉る。 「我等風神に刃向った分の報い、受けてもらおう」 「影武者では歯ごたえがまるでなかったが……本物は些か歯ごたえがありそうだな」 とっさに身を転がして鋭い一撃を回避した陣兵衛。その目の前で、大小二人の柳野は同時に刀を構え……振り下ろした。 ● 「くっ……これで終わりです」 肩で息をしながらの桐の一撃。巨大な刃で体を壁に縫いとめられ、角刈りの男は事切れる。 なんとか東側の敵を全員討ち取ったことで彼、そして瀬恋と岬の表情に安堵が浮かぶ。 しかし、まだ西側の戦いは終わってはいない。 「砕けよ」 それは言うなれば暴風であった。刃が振るわれるたびに破壊の風が巻き起こる。 鈍重で、愚直で、圧倒的な破壊。己の鍛錬を全て力のみに注いだ一撃。 既に倒れた己の影武者の躯を踏む事すら躊躇せず踏み込むと、暴風の主はその刃を煌かせる。 「ぐっ」 それを陣兵衛は己の大太刀で受け止める。受け止めてなおその一撃は重く、得物を持つ腕がミシリと嫌な悲鳴をあげる。 その体をなんとか支えるのは光、ティアリアの起こす風と瑛の癒しの呪符である。相手の力は圧倒的で、クリーンヒットすれば三人の力をもってしても癒しきれないほどの破壊力を持っている。 「でもぐるぐさんにはききませんよーだ。そろそろ降参したらどう?」 しかし破壊力は優れていても当たらなければ意味はない。彼の動きは鈍く、その攻撃は気ままに跳ね回り挑発する老獪なる幼女を捉えられない。 逆に叩き込まれた魔術は毒と化して彼の体を蝕む。彼の刃の精度を底上げする指揮官を奪ったことで、流れはリベリスタに大きく傾いていた。 (とはいえ、一瞬ヒヤッとさせられちゃいましたけどね) 笑顔で跳ねながらもその身に走るのは激痛。一度掠っただけでこれならば、次にあたれば命はまずないだろう。 「降参なんざできるかよ」 再び柳野が刀を振り上げたその時、その脚を疾風の刃が傷つける。サングラスを弾丸が砕く。東の敵を片づけた仲間からの支援攻撃。 それによって柳野の体が揺らぐ。だが、動きは止まらない。 「この程度の傷を負うのは慣れっこさ、戦場こそが俺達の生きる場所なんだよっ!」 破壊された黒の隙間から覗くのは血走った猛禽類の瞳。彼は疾風のように飛び出すと自らの命や体を一切気にせぬ渾身の一撃を放つ。 アパートの柵を粉砕しながらぐるぐと陣兵衛に向けて襲い掛かる刃。 それを模倣しようと目を見開いた瞬間、粉砕された柵の破片が彼女の目へ一直線に跳ね、ぐるぐは視界を失う。5%程度で起こりうる不運、避けきれぬ刃は彼女の体へ――。 突き立たない。 「ふふっ、勇者は仲間を見捨てないのですよ」 ぐるぐを救ったのは咄嗟に前に出て庇った光であった。今まで無傷であった彼女はその攻撃をその身に受け止めてなおなんとか立ち続ける。 その横では全力でその一撃を太刀によってなんとかいなしきった女が震える手で刃を構え直す。 「死に物狂いの一撃、実に見事……じゃが、矜持なき刃では重みが違う」 「矜持、だと……」 その彼に向けて……より強力なアザーバイドの太刀を手に入れてなお彼女が使い続けるその太刀を、かつて亡くした者の思いが篭められた彼女にとって矜持とも言うべきその刃を、陣兵衛は振り下ろす。 攻撃の反動で精も根も尽き果てたのか、柳野はその一撃でついに崩れ落ちる。 「俺達は戦場で……暴れたい、それだけだ」 「戦場こそが俺『達』の生きる場所……確かにその通りだよねっ」 そこへ声をかけたのはぐるぐ。 あの死に物狂いの一撃は、あの強烈な反動を受け止める肉体と、それを癒す仲間がいなければ連発することは当然不可能。 そして、その一撃を生かすためにはそれを命中させるための手助けが必要。元より彼『等』でなければ使いこなせぬ技。 彼一人では使いこなせないその技は、脆弱なぐるぐの一人では模倣しきれない。 「ちゃんとした戦場で終わらせてあげられなくてごめんね。それじゃっ」 口調こそ軽いものの己のみの技を仲間と共に磨きあげた戦士への敬意を篭めて、ぐるぐは短剣を振り下ろす。 「まだだ……俺達は……ぁ」 その刃は狙い違わず心臓を貫く。 「ミッションコンプリート」 シンヤの企みの一つは今、潰えた。 「さ、戦いが終わったら勇者のお約束ですよ! 次へ続く手がかりがないか調べるのです!」 「うーん、そんなに簡単に証拠を残すとは思えないけどね、光のネーサン」 さっそく室内を物色し始める少女に、思わず呆れ顔になる瀬恋。しかし、可能性はゼロではない。 「力に溺れなければ、良き剣士になれただろうに」 陣兵衛はそっとフィクサードの瞼を閉じると、立ち上がり背を向ける。 感傷に囚われている暇はない。 次の手を打つためにリベリスタ達は迷い無く動き出すのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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