●ただいま構築中 すり、すり、すり。 成程、この者のこれはこの様な感触なのか。 ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。 成程、この者のこれはこの程度の硬度なのか。 もぐ、もぐ、もぐ。 成程、この者のこれはこういう構成なのか。 もぐ、もぐ、もぐ、ごくり。 情報を集積中。 情報を解析中。 情報を整理中。 …………。 完了。 …………。 目標の情報サンプル数まであと2。 もう少し。 もう少しだ。 もう少しで、私はこれを手に入れられる。 ● 無機質な音と共に、ブリーフィングルームに繋がる扉が滑らかに開く。その先に居たのは何時もの可愛らしいマジエンジェルではなく、『無為』堺屋 無楽(nBNE000207)だった。 つるりと剃りあげられたスキンヘッドに右目を覆う貼るタイプのアイパッチ、首から上だけでも分かる傷痕の多さ――平時であればあまりお近付きになりたくない雰囲気の漂う姿を前に、居並ぶリベリスタ達は一様にげんなりとした。 そんな彼等に、無楽は凶相を顰めた。 「……おい、あの白い嬢ちゃんじゃねーからってテンション下がり過ぎだろお前等」 電子タバコを咥えながら黒い革張りの椅子の背にもたれる様にしてふんぞり返る姿は、まさにヤのつく自由業のソレである。 盛大に溜息を吐くと、彼は電子タバコを仕舞いこんだ。 「まあ良い、仕事の話すんぞ。今回の標的は脳やら目玉やら手やら、全部で4体のアザーバイドだ」 非常にざっくりとした説明に眉を寄せながら、リベリスタ達は職員達によって配られた資料に目を落とした。 資料の2枚目には、今回の目標らしきアザーバイドの姿を映した画像。普通自動車程の大きさはあるらしい脳、まるでバランスボールの様な大きさの眼球が2つ、そしてそれよりも一回りほど大きいだろう手首までの一対の手。成程これは脳やら目玉やら手やらのアザーバイドだ。その容姿のグロテスクさに僅かに顔を顰めながらそう考えるリベリスタ達へと、無楽は口を開いた。 「どうやら、どこぞの世界からやってきたそいつは人間に擬態しようとしている最中らしい。で、どういうメカニズムか分からんが、今はそういう形ってな訳だ」 それにしては、えらく不完全な形ではないか。無楽は、リベリスタ達の脳裏に湧いたその疑問を察したかの様に頷いた。 「まあ、今の造形は置いておくとしてだな。奴の最終目標は完全なる擬態だ。その為に一般人を攫ってはばらし、ひとつひとつコピーしていってるという訳だ。既に何人かが、そんな感じで奴に喰われちまってる」 「成程。つまりそれをここで止めろと言うんだな?」 「お、さっすが物分かりいーじゃねーの。その通り、こいつ等を叩きのめすのが今回の仕事だ」 からからと笑うと、無楽は机に資料を伏せた。 「ま、勿論一筋縄ではいかねーけどな。それぞれがそれぞれに役割を持ってて、互いに連携を取りながら動く。詳細は資料を読んで貰うとして、単純に突っ込むだけじゃ苦戦するぜ。やり方は任せる事になるが、やるならきっちりやってくれよ」 そして、リベリスタ達を左の瞳でゆっくりと見回す。 「擬態にどういう狙いがあるにせよ、犠牲が出ちまってる以上ほっとく訳にゃいかん。どうだ、力を貸しちゃくれねぇか?」 凶相の割に人懐こさの滲む笑みに、リベリスタ達は―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:高峰ユズハ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月01日(火)23:44 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
●とある科学者の回想――1 長い時空孔の先にあったのは、私が元居た場所とは全く異質の世界であった。 そこには、全くの未知しか存在していなかった。――それは、初めての作業を長時間の『ローカライズ』に費やす事となった程だった。 『ローカライズ』が身体に与える負荷は膨大なものとなったが、しかし私はそれを苦痛には感じなかった。何故なら――その世界を満たす全てが、私の思考を刺激して余りあるものであったからだ。 その世界に放り込まれた事自体は、単なる運命のいたずらでしかないのだろう。 ――だが、確かにそこは、可能性に満ち溢れた素晴らしい世界だったのだ。 ●邂逅 風が、乾いた音を伴って廃墟を吹き抜けていく。 長期間誰の手にも守られる事無く風雨に晒された為だろう。かつては華やかであったはずの色は酷く褪せており――あちこちに転がる夢の骸のみが、そこがかつて遊園地であった事を主張していた。 地面に残る足跡。その中に比較的新しいものを見つけ、『まっどさいえんちすと?』エレアノール・エレミア・エイリアス(BNE000787)は笑んだ。 「探究心豊かな者にとっては、ここも宝の山なのかね」 廃墟に強く心惹かれる人種。廃墟マニアと呼ばれる者達。彼等の為にも、平穏を取り戻してやらねばなるまい。彼女の笑みが深まった。 時は夕刻。暖色に染まるその地を、リベリスタ達は歩んでいた。 「廃墟とはいえ、この遊園地の中で奴が隠れられそうなところと言ったら、お化け屋敷だろう」 あのルックスだしな。『蒼雷』司馬 鷲祐(BNE000288)の呟きに、『素兎』天月・光(BNE000490)が頷いた。 「いろいろアトラクションはあるけど――隠れられそうな場所と言うと、多くないからね」 彼女の手には、かつてここが遊園地であった頃の地図。同じものを手に、全身を黒に染めた雪白 桐(BNE000185)は辺りを見回した。 「ここを曲がって、真っ直ぐですね」 彼の指示に澱みは無い。景色は変貌しても、地図は道標としての役割を果たしていた。 「暗くなったら遊園地から出て行っちゃうかも知れないから、早めに何とかしないとね!」 懐中電灯を手に言うのは、アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)。 威勢の良いの声の裏に、彼女は鼓動の高鳴りを隠している。アザーバイドの姿を見つけても悲鳴を上げない様に――彼女はそう、何度も自分に言い聞かせていた。 一方その頃。 『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)は、観覧車の頂上に居た。 どの様な場も足場に出来る彼女には簡単な芸当である。感慨なく辺りを見渡した彼女は、一点に目を止めた。 アーティファクトに、着信。通信を終えた『背任者』駒井・淳(BNE002912)は、離れた場所を行く仲間達の下に駆けた。 「見つかりましたか」 その姿を目にし、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が足を止める。 「奥の広場の様な場所だそうだ」 淳の言葉を受けて、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)が唸る。 「そこは安全だと『学習』したのかも知れませんね」 人の姿を真似、目立たぬ様する術を学習した存在である。その位の事は可能かも知れない――と、彼女は頷いた。 「まあ、探す手間が省けて良かったでしょう。後は――」 『鉄腕メイド』三島・五月(BNE002662)が、その方向へと視線を投げる。端正な造りの口の端が僅かに釣り上がった。 「あの気味の悪い肉を、潰すだけです」 ●とある科学者の回想――2 それは、歓喜以外の何物でも無かった。 美しくも脆いモノで満ちていたと思っていたこの世界にも、我々に近しい力を持つ者が居たのか! 私と同じ異世界からの来訪者か、それとも変異を果たした者達なのか。 分からない。 分からない。 ならば、知りたい。 ……それこそが、彼等と対峙した時――彼等の意図に気付く前の私の思考にあったものだった。 ●疎通 リュミエールが導いた場――かつては休憩所であった場所に、そのアザーバイドは居た。 脳、一対の眼球、一対の手。耐性の無い者であれば卒倒するだろう姿を前に、エレアノールはむず痒さにも似た感覚が全身を走るのを感じた。 「うむ、実に興味深い。ぜひともアレのサンプルが欲しいところだ」 昂りのまま呟く彼女に、五月が溜息を吐く。 「……変わったご趣味で」 そして少女の様な美しい顔立ちを僅かに歪めた。 「全く、気持ちの悪い。どんな理由で人を目指していたのやら」 まあ、どうでも良いですが。冷えた声で切り捨てる彼の横で、桐はまんぼう君と名付けられた巨大な剣の柄を握り締めた。 「犠牲者が出ている以上、碌でもない事でしょう。少なくとも、私達にとっては」 「――捨て置けば、更なる被害が出るのは確実。もしその存在が世界――そして運命に受け容れられる事があったとしても、そのあり方を認める事は出来ませんね」 リセリアの言葉を継ぐ様に、鷲祐は頷いた。 「現実には許容も祝福も無い。あるのは崩界の進行のみだ。……とっととご退場願うとしよう」 ナイフを手にし、アザーバイドへと地を蹴る。それを追って、リベリスタ達は駆け出した。 「さて……少しは防御の足しになるだろう」 防御の加護を与える結界を張り終えて、淳が溜息を吐く。 光は自らの肉体をチューンアップさせた。体内のギアが切り替わり、速度に最適化される。鼓動に突き動かされる様に、彼女は風となった。 「援護は頼んだ!」 狙うは『右手』。それを同じくするエレアノールへと告げて、彼女は『右手』へと斬りかかった。 澱みなき動きに、半透明の組織が削ぎ落とされる。 オオオオオオ―――― 口を持たぬそれに代わる様に、風が唸った。 次の瞬間、『右手』は光へと中指を弾いた。しかしそれは、空気を裂くだけに終わる。 「さて、早々に大人しくして貰えると有難いのだがね」 不発の空白を縫って、エレアノールが気糸を放つ。拘束の力を持つそれは『右手』へと絡みついたが――しかし、すぐに破られた。エレアノールの眉が微かに寄る。 (やれやれ、無事に回収できると良いが) 願望滲む言葉を呑み込むと、彼女は再び気糸を繰った。 「何故、人の姿になろうとしているのか。――気になれど、それを知る術は無く」 リセリアが、灯を点けたままの懐中電灯を地に転がす。 「ただ分かっているのは、それは許容出来るものではない、と言う事。これ以上の犠牲が出る前に――招かれざる来訪者よ、貴方を……討ちます」 それが、『左手』との交戦開始の合図であった。 最初に狙うのは、癒しの力を持つ『左手』。回復の薄い彼等にとって、それを野放しにする事は危険と判断したのだ。 「さあ、ついてこい」 不敵な言葉と共に、集中状態に居た鷲祐がギアを上げた肉体で『左手』に迫る。 その動きは、まさに迅速。『左手』が反応を見せる前に、鋭く振るわれたナイフが半透明の組織を大きく刻み、散らした。 「人に化けて食い散らかす気でしたか? それとも世界を調べる気でしたか?」 冷静な声で語り掛けながら、桐が中性的な細身に似合わぬ得物を振るう。見た目は可愛らしいと言えなくもないその巨大剣は、電撃を纏って『左手』へと叩き付けられた。 「いずれにしろ、人に害をなした貴方を見過ごす訳には行きませんね」 体力を犠牲にしたその一撃は、凶悪なまでの威力を持って『左手』を深く抉った。 『左手』が『脳』を庇う様子は無い。それを見切って、五月が迫る。その拳に纏わりついた炎は、可憐と言える顔を薄く照らした後『左手』に注ぎ込まれた。 鈍い音と共に組織が凹み、炎が広がる。爆ぜる音と黒煙が上がり――立ち込めた臭いに、五月は顔を顰めた。 「気色悪い……!」 吐き捨てる様な言葉を、リセリアは背後で聞いた。唯一の他者回復手段を持つアーリィを守る様にして立ち回っていた彼女は、素早く駆け、地を蹴った。 「――参ります!」 高く跳躍し、『左手』へと襲い掛かる。多角的に攻める彼女に、『左手』は身を縮こまらせた。 そこに、呪印が幾重にも展開された。それに絡め取られ、『左手』が動きを止める。 「やれやれ、大人しくなったか。――しかし」 淳は、改めてアザーバイドの姿を見回した。 「……その脳の大きさで人間になるって事は、最終的なサイズはどうなるんだ?」 やり遂げたところで、擬態とは言い難いだろうに。しかし、そんな彼の疑問に答えは無かった。 動きを止めた『左手』に、リベリスタ達の攻撃が集中する。拘束を破られる事もあったが、淳による再度の足止めが功を奏し、消耗を少なく抑える事に成功した。 擬態の限界が近いのか、『左手』の組織の境界が曖昧になる。それを、リュミエールは色の違う瞳で見た。 「サッテ……ソロソロこいつヲ潰すトスルか」 抑揚のない声で告げて『左手』へと駆ける――が、その足はすぐに止まった。 『脳』が全力防御を解いたのを感じ取ったのだ。 「来ます――!」 同じく悟ったレイチェルの声を遮る様に、それは来た。 ――――――――……。 音にならぬ音。それの後を追って、走る波。 細胞のひとつひとつが揺さぶられる衝撃。 視界が白に染まり、足元から感覚が消える。 少しでも相殺出来ればと桐が投げた音叉は、焦げ、変形し、地に落ちた。 「皆……!」 防御の守護により軽減されたものの、リベリスタ達を貫いたダメージは強大であった。 仲間達が体勢を崩すのを、リセリアに庇われて難を逃れたアーリィは見た。昏倒した者は無かったが――数人の顔は、微かに強張っていた。 更に、自らを縛っていたエレアノールの気糸を引きちぎった『右手』が、衝撃を振り払った光へと迫った。 「そうはさせないうさ!」 痛みの残る身体を奮い立たせ、後方へと跳躍する。『右手』はその動きを正確に追い、素早い動きを生む足へと狙いを定め、指で弾いた。 短い悲鳴が上がる。高い実力を持つ彼女の姿に足を竦ませながらも、アーリィは癒しの力を持った風を呼んだ。 「大丈夫だよ、痛みがある間はまだまだいける!」 気力が漲るのを感じながら、光は立ち上がった。 リセリアは『左手』へと駆けた。高い跳躍からの多角的な攻め。それにより更に朧気になった境界が完全に消失させたのは、再び集中状態から放たれた鷲祐の澱みなき連続攻撃だった。 擬態が破れる。傷口より溢れた黒い霧は、元の姿を構成しているものか。それには目もくれず、鷲祐は口を開いた。 「……何故、人間になりたい?」 それは、その場に居る全てのリベリスタ達が抱いていた問いだった。 「たった一つの肉体を割り、自分の形を歪めてまで何故、人間――この世界の者に?」 答えは無い。言葉が届いているかも分からない。 それでも、彼は言葉を止めなかった。 「ただ静かに暮らしたかっただけなら、もっと先に知るべき事があった。命の意味を理解できなかった事――それが、最大の不幸だ」 「もし君がそれを理解出来ていたなら……こういう形にはならなかったはずだよ」 未だ軋む身体を奮い立たせて、光が言葉を継ぐ。 「人間を真似るなら体じゃなく心を!気持ちを!真似て欲しかった!」 答えは、無い。 冷えた風が、彼等の間を吹き抜けて行く。 ●とある科学者の回想――3 ――嗚呼。 当然の帰結だ。 どの様に姿を真似たところで、私はこの世界に相容れぬ者。 分かっていたはずなのに。 分かっていた、はずなのに。 もし彼等の言葉が聞けたなら。 もし彼等に言葉を届けられたなら。 ……違う未来は、あったのだろうか。 ●瓦解 (死ねばその場ですぐ崩壊、か――組織を手に入れるのは難しそうだな。残念な事だ) 仲間達により『眼球』に次いで『右手』が破壊されたのを眺めながら、エレアノールは溜息を吐いた。 回復手であった『左手』の崩壊により、戦況はリベリスタ側に傾こうとしていた。 だが、変わらずアザーバイドからの攻撃は苛烈。彼女自身も、更に一度放たれた衝撃波により既に『奇跡』を消費している。 そしてそれは、彼女だけではない。まるで綱渡りの様な戦況。にも拘らず、彼女の胸には微かな無念が過っている。研究者としての性の様なものであるそれを心中で撫で回しながら、彼女は唯一残る『脳』を見つめた。 (……もしかしたら、私とお前は似た者なのかも知れんな) くすり、と笑みが零れる。それを呑み込むと、彼女は『脳』へと気糸を放った。 「残念ですね、答えが聞けないのは」 呆れとも落胆ともつかぬ薄い表情で、桐が嘆息する。再び巨大剣に電撃を這わせて、彼は気糸に動きを絡め取られたままの『脳』へと躍りかかった。 体力と引き換えに強大な火力を誇る一撃。しかしその手応えは、これまでの個体に比べると鈍いものであった。 「流石に硬い様ですね……まあ、私には関係のない事ですが」 まるで茶でも飲んでいるかの様な口調で、五月が言う。次の瞬間に放たれた掌打に、彼は気を注ぎ込んだ。良く練り込まれ破壊的な勢いを持ったその気は、『脳』に浸透し、中を掻き回した。 ぼこり。不快な音を立てて、『脳』の躯体が大きくたわむ。 「あと二撃。それまでに、その醜い姿を消して下さいね?」 冷えた声に、『脳』は未だ残る電流に身を震わせるのみだった。 その言葉に応える様に、リベリスタ達は攻勢に出た。 「動きが止まっている間に……!」 近接しながら、リセリアがバスタードソードを振るう。美しい剣技により生まれた幻影を纏った一撃は、『脳』の弱い部分を抉った。 (これ以上あの衝撃波を浴びるのは、拙いでしょうね……) 抉られて欠けた傷口を見つめながら、彼女は息を呑んだ。彼女もまた、既に『奇跡』を使い果たしていたのだ。 再びあの衝撃を受ければ、次は立ち上がれるか分からない。忍び寄る恐怖に震えそうになる手をぐっと押し留め、彼女は前を見据えた。 ――しかし、その恐怖は形となって現れた。 ダメージが蓄積されてきたのか、消滅した個体と同様に組織の境界が曖昧になりつつある『脳』。淳は、それがその身を縛っていた硬直から解き放たれるのを見た。 「ふん、往生際の悪い奴め……!」 吐き捨てる様に言いながら呪印を展開する。『脳』の動きを絡め取ったかの様に見えたそれは、しかしすぐに破られ、消滅した。 「なっ……!?」 淳が目を剥く。それでも、普段であれば全力防御に移るのみであっただろう。しかしこの時は、彼が言う通り往生際が悪かったらしく―――― 3度目の衝撃波を、放った。 身体中を滅茶苦茶に引き裂かれる様な衝撃。白に塗り潰される意識。耐えきれず、全員が地に伏せる。立ち上がったのは4人。その中に、回復手の姿は無い。 「――――――」 最早、次は、無い。立ち込める敗北の臭いに、一様に言葉を失った。 ……それでも。 「ここで倒れたら、殺された人達に顔向けできない!!」 自らを鼓舞する様に、光が叫ぶ。それに、残った者達ははっと目を見開いた。 「大丈夫、きっともう少しだ!」 「――ああ、そうだな」 鷲祐の口元に不敵な笑みが滲んだ。 数瞬の後、彼は『脳』へと迫った。素早く、鋭く、重い一撃。目にも止まらぬ速度で放たれた斬撃は、『脳』の組織を多く抉り飛ばした。 「本当に、残念です」 溜息と共に、桐が囁く。表情同様に色の薄い声色に、微かな揺れが覗いた。 残り少ない体力を燃やし、巨大剣に電撃を這わせながら駆ける。全力防御の構えを取ろうとする『脳』の動きを縫って、組織を切り刻んだ。 今にも飛んで行きそうな勝利の尾を掴む。その一心で、残るリベリスタ達は全力を賭して『脳』を削っていく。 それを一身に受け、もんどりうつ『脳』。辛うじて残る組織を守る為にか、それは全力防御の構えを取った。 身を守り、僅かな命を繋ぐ為の体勢。それを見つめながら、五月は掌へと気を集中させた。 「残り、一撃」 歌う様に告げる声に笑みが滲む。軽いステップと共に叩き込まれる掌打。そこから流入した気は『脳』を鋭く穿ち抜き、そして―――― 「さようなら。次はもう少し見るに耐える姿でお願いしますね?」 脳の形を成していた組織が破れ、黒い霧が溢れ零れていく。その全てが風に溶けて消えていくのを、五月は嘲笑で見送った。 ●残滓 静けさを取り戻した廃墟を、夜の寒さが滲む風が吹き抜ける。 「悲しいね。……解り合うのは簡単じゃないというのは、分かっていたけれど」 夜空を見上げながら、光がぽつりと呟いた。 残る痕跡を探していたエレアノールと五月も、その言葉に手を止めた。 分かっていたはずなのに。 分かっていた、はずなのに。 もし彼の言葉が聞けたなら。 もし彼に言葉を届けられたなら。 違う未来は、あったのだろうか。 「……帰ろう」 傷付いた身体を支えられながら、アーリィが仲間達に声を掛ける。無言で頷くと、リベリスタ達はその場を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|