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二羽の凶鳥

●Start
(こんにちは)
 今思えば、頭に響く声だという時点で警戒しておくべきだった。
「こんにちは、お嬢さん。でも此処は」
 気が付いたのはこの瞬間。我ながら飲み過ぎた次の日は鈍くて困る。
 此処は神秘錠を施した一室だ。普通の人間なら入って来られない。それ以上の解は限られる。
「お嬢さんの来る所、じゃ……」

 つ、と。圧迫感。背筋が冷える。
 鋭く伸びた爪が一点、背に食い込む。貫かれたら、その先は心臓。
 出しかけのナイフが床でカランと涼やかな音を立てる。

(妾はうつくしい者が欲しい。案内せよ)
 床に転がる刃物を一瞥、青灰の目で小さな淑女に向き直った。
 恭しくエスコートの手を差し出す――後ろ手に連絡端末の電源を入れながら。
 一階までの歓談で最低限、察しの良い仲間は店を離れる。残りは仕方ない。
「それではご案内しましょう、お嬢さん」


●Knell
(こっちは髪質が気に入らぬ)
(なんと脆い。遊ぶことも出来ぬとは)

 赤い噴水が照明を、壁を、染め上げる。
 血溜まりを飛び越えて残りの人間を物色。怯えた人々の顔を覗いてあれやこれやと理由を語って、また噴水を増やす。
 噴水作りの主は、黒い翼を生やした異世界の少女。
 赤いベロアに黒白の豪奢なフリルをあしらったゴシックドレス。
 黒髪の映える白磁の肌、人形めいた小さな顔、大きな双眸を縁取る長い睫毛。
 不満げな表情の少女の足元には死体が転がる。

 やがて、最後の女性が絶命。
(こんな場所しかないのか)
 深紅のテーブルクロスをくしゃくしゃにして青年に投げ付ける。
 布が鉄臭い香りを振り撒いた。ただ、それを嫌悪する者はもういない。
「申し訳ない。『美しい者』は見つかりませんでしたか」
 客だった物を一瞥もせず、隣に立った青年、『外れ者』モズは嘯き嗤う。
「では、次の場所へご案内しましょう」
 自身の縄張りを荒らされるのはやはり不愉快だ。
 まして次の場所など考えてはいないが、自らの命も惜しい。
 ならばこのまま縄張りの外へ連れ出し、適当なおもちゃを探してやれば済むはず。過程でおこぼれを頂くとしても、自分の手では無いためおよそ損は無い。

 それとも、それより先に運命を変える者が来るか。
 その時はさっさと身を晦まそうと心に秘め、異世界のお嬢様に膝つき頭を垂れた。


●Ark
「レストランバーに、行って来て下さい」
 血の気の失せた顔の『灯心の視』西木 敦(nBNE000213)からの言葉は、気楽な頼み事ではないと容易に察された。席に着くリベリスタ達の気配がぴりりと引き締まる。
「討伐対象のアザーバイド『レイディ』、一般人を惨殺します。男女合わせて15名」

「それで件のレストランバー、ですけど。
 以前アークのリベリスタとやり合った、フィクサードグループの根城の一つです。
 もっとも今回、あちら側から積極的な敵対行動は無いでしょう……たぶん。
 ほぼフリーランサーみたいですし、戦ったところでフィクサード側に得はありませんから」
 浅からぬ縁がある彼は苦々しげに言葉を紡ぎ、過去の経験と未来から視えた可能性を告ぐ。
「それに『レイディ』とフィクサードが確たる協力関係にあるわけでは、ないみたいです」
 だから彼は逃げ出すか、傾いた天秤に少しの置き土産をするか。きっとその程度。

「飛行能力もあると考えて臨んだ方が良いと思います」
 時間が惜しいと話は改められ、アザーバイドの話に展開された。
 予知されたものを見る限り、少女の形をしたアザーバイドは翼を飛ぶことに使っていなかった。
 翼を用いたと言えば羽根で首を撫で斬るか、ダーツのように放ち壁に人を縫い付ける、本来の用途以外。全てに見通しが利かない能力に、敦が歯痒く眉を顰める。
「会話はテレパスみたいなものを声として使ってます。遮断は出来なくて……勝手に入り込んでくる変な感じで、不吉な印象でした」
 ふとリベリスタの脳裏に、フィクサードの青年とアザーバイドの少女のやり取りが甦る。
 敦が映像に説明を入れながら進めていた理由は会話――異世界の不吉を呼ぶ声にあったようである。

「あとは一般人対応ですよね。
 でも道を塞ぐにも繁華街の一角で、しかも店の外にビラ配りのフィクサードがいる」
 よって店の表でどうこうするのは悪目立ち、裏口も神秘が掛った鍵で閉じられているとぼやく。諜報班が調べでも、裏口の鍵を所持する者は特定されていなかった。
「でも外見が18歳……いえ、俺くらいからなら店に入り込むことは可能です。ざるな確認ですし、証明する小物も俺が準備しますんで」
 そう言い放った彼は16歳、外見も相応。
 元田舎学生らしからぬことをさらりと言ったが、どうやら証明小物で押しこむ心算らしい。
 外見が幼いなら入口から入るか、また他の手段を講じるか。リベリスタの反応に一拍遅れ、手書きの図面らしい画像が幻想纏いに転送された。六角形状の太枠の中に入口、階段、テーブル――店内の見取り図らしい。障害物は多いが戦うのに困る広さではなさそうである。
「一般人はカウンター、テーブル、ソファに散らばって座っています。予約はないようですから彼らより先に行けば、取りたい席に座れますね」
 少しの食事なら少しばかり楽しむ時間もあるかもしれないと肩を竦め、おもむろに立ちあがると同席者達に向かって礼をする。
「これより先は皆さんにお任せすることになります。
 アザーバイド討伐を、そしてなるべく多くの人の命を、よろしくお願いします」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:彦葉 庵  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月06日(日)22:34
 こんにちは、彦葉です。
 凶兆、凶鳥こと、アザーバイド討伐フィクサード付き。
 お店を壊しても平気なお話をお届けに参りました。

●任務
 ・アザーバイド討伐
 ・一般人の半数以上の救出

●舞台
 開店直後の夜間限定レストランバー。出入り口は正面の一カ所。狭いドア型。
 二階が神秘錠のかかった部屋。入れません。
 一階に客と従業員合わせた一般人が15名。フィクサード従業員数名は舞台が整う頃には外。
 一階にバーカウンター、中央に丸いテーブル席×3、壁際に区切られたソファ席×5。
 階の移動はカウンター席奥の階段を使用。

●アザーバイド『レイディ』 
 外見・スキルはOP参照の程。虫食い穴はレイディが来た時に閉じました。
 彼女の『美しい者』は特徴に言い換えると『美形』。

 Ex.凶鳥のダンス(神遠全/弱点/出血/流血/致命)

●フィクサード『外れ者』モズ
 本名不詳、種族不明×クリミナルスタアの優男。『レイディ』の案内役。
 当方の過去シナリオ<相模の蝮>にて登場しましたが、未読でも問題ありません。
 今回の戦闘に積極的ではなく自分の命第一。遊びと驚きを好む。
 場合あるいは手段によって、レイディかリベリスタに何か手伝いをする可能性あり。

●その他
 ●Startの後、一階に二人が下りてきます。
 先んじて店に入る場合、プレイングで外見年齢をご記入ください。

 これより先の運命は皆様の掌中に。
 お目に留まりましたら、どうぞよろしくお願いいたします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
クロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
ソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
★MVP
デュランダル
マリー・ゴールド(BNE002518)
ナイトクリーク
クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)
ナイトクリーク
逢乃 雫(BNE002602)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
■サポート参加者 2人■
クロスイージス
ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)

● of Coins
「ま、お堅いこと言わずによろしく」
「ちょっ」
 入口に立つ従業員と肩を組み、一瞬の後に解放した『カボパン王子』結城 竜一(BNE000210)は店内に消える。
 竜一が従業員の懐に忍ばせたのは心づけ。
 多少、未成年に見えても入れるように。周到に用意されたそれは、少女の前で閉じかけた店の扉を開く。
 返す間もなく残された従業員――金髪のフィクサードが暫しの沈黙の後、身分証明書と男の影に腰を折った。
「いらっしゃいませ、ごゆっくりどうぞ」

 従業員の陰、ピンと一本立った金髪が路地角から奥へ引っ込む。
「……ん。皆、潜入」
「あとは待機だな」
 エリス・トワイニング(BNE002382)の言に、『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)は赤い帽子のつばを持ち、深くかぶり直す。
 アザーバイド討伐と一般人救出の作戦にあたり、エリス、マリー、逢乃 雫(BNE002602)の三人は外で待ち、他の七人が先行して店内に入って行った。
 待機班の一人、マリーがビル壁に凭れ小さく息を吐く。
(化粧など出来るか)
 化粧とシックな衣装、そして香りに身を包み、店内へ進んだ『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)。
 ――脳裏に浮かぶクローチェの姿と対照的に、マリー自身の影は重ならない。
 頭を引っ込めたエリスに代わり、雫はじっと入口のフィクサード店員に視線を注ぐ。
 指令の妨げになるならば策を講じ、障害を除かなければならない。
(ただ、指令を実行するのみ……)
 少女の思いは一つ。感情を深く、奥底に秘めた紫の瞳が時を待つ。

「カレーを」
「……お時間がかかりますが」
「そう、じゃあ適当に」
 フォーマルな服に身を包む女は言葉少なに従業員の怜悧な眼差しを受け流す。言葉が少ないのは饒舌でない方が大人っぽいだろう、と『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)の判断だ。
 隣の席のやり取りを聞きながら、『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)がメニューを持ち上げた。メニューから横目に視線を外し、潜入班の配置を確かめる。
(俺達、奥側に二人、カウンターに三人、出入り口近くに二人か)
 配置は良い。順調だ。あとは敵の登場を待つばかり。
 宗一の場所からは階段の裾が見える。一瞥の後、怪しまれる前にと宗一は従業員を呼んだ。


● Lead on
 入口の従業員が呆気にとられた為に席の心づけ効果は薄かったが、まだ開店直後。
 空席の目立つ各々が目的の席へ腰を落ち着ける。

 カウンター席の端にオールバックに眼鏡、スーツとの青年、竜一がネクタイを指先で緩めると「お疲れ様です」とカウンター奥の従業員が労わる。
(凶鳥と合間見えるとは奇妙な縁が繋がりましたね)
 竜一と空席を挟んで中央、ネイビーのスーツを着こなす青年はこっそりと息を吐く。
 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は脳裏に刻まれた凶鳥の姿に、人知れず青い双眸を眇める。
(彼女が不幸を届けるなら、自分はその運命を変え幸運を届けてみせますよ)
 その青い鳥の傍ら、階段に近いカウンター席にリベリスタはもう一人。
(フィクサードの縄張りを守る事になるとは)
 心中で零す『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)の思考に挟まれる入店客の足音。ドアへ目を向けたゲルトの手首で十字が揺れた。

 出入口近くのソファ席では『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)、『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)が向かい合う。
「相席ですまんな」
「いえ、ありがとうございます」
 幼さ残る顔立ちに入り口で引き留められた彼女だが、入店に協力した形になったのは竜一と鉅だった。
 竜一の心づけに乗じ、集った中で最年長であった鉅がクローチェに遅れた風を装っての後押し。自然、相席になるが望まれた席位置はほぼ同一であったことが幸いし厄介はなさそうである。
 途切れた会話の合間に従業員の手で鉅の前には豊かに香る珈琲が、クローチェの前にはハニートーストが並び。
「少し食事を楽しみましょう」
 時計の針音を聞きながら、互い互いに苦味と甘味に手を伸ばす。

 最後の客が席につくと、二羽の凶鳥は静かに訪れた。
 竜一が指先で眼鏡をくいと動かす。正念場だ。
 リベリスタに走る緊張に反し、オーナーと黒翼の少女に店内が静かに沸く。
 よく出来た非日常のサプライズ・ショーを楽しむように。

●Blood
(煩いのう)
 レイディの声が響く。
「伏せて下さい!」
 レイディよりも亘の方が速く。瞬間、亘が椅子を足場にカウンターの従業員の前に飛び出した。
 従業員の首へ飛んだ羽根が掌を貫き、一斉にリベリスタが動く。
 クローチェは扉へ駆け、幻想纏い越しの待機班に鉅のコール。
 マリーは雫に自身とオートキュアーの加護を分け、エリスは強結界を張り。それぞれに待機していた少女たちは、ワンコールが終わるより先に店の扉へ駆け出した。

 一瞬の非日常を捉えた者はごく少数。
 そう多くはない客の中、確証の無さに声を大に訴えることは出来ずにいた。
「何? どういうこと……」
「これ、ヤバくねぇ?」
「でも店長は笑って……」
 全員の食事の手が止まる。硬直した従業員に命じる上司はいない。
 動揺のざわめきが広がり、察し始めた者が顔を見合わせた。
 その間にも小梢と宗一が席を立ち、ゲルトが奥への進路を塞いだ。
 竜一は口に頬張った肉を咀嚼しながらレイディをガン見だ。
(ふむ。真白い肌に艶やかな黒髪、可愛らしい小顔に、愛らしい目。それを縁取るしっかりした睫毛。
 鮮やかな赤色を基調に黒と白のコントラストが……)
 竜一はすらすらと純粋な興味と、恐らく精緻な算段で分析する。残念な者を見るレイディの瞳にもめげない。
 読まれる感覚はない、だが伝わっているのはその目のお蔭で顕著だった。
 ――先に避難を完了させるという目標を知られるわけにはいかないと、一心に興味を注ぐ。
(ゴスロリ少女可愛い! ぺろぺろ!)
 レイディがあからさまに引き、思念の筒抜け加減が判明する。

「巻き込まれないうちにさっさと出るぞ」
 一方で現実を痛感し頬を引き攣らせた客の腕を、鉅が引いて立たせ入口へ背を押す。
 ――あの血、本物?
 ざわめきに紛れた誰かの呟きは不吉な雫に代わり、波紋を広げる。
 従業員の制止を振り切ってクローチェが扉を開け放ち――それに、誰もが目を向けた。
 堰が切れれば、勢いを止めるのは至難。理解した者もしない者も、一斉に押し寄せる。
「落ち着いて下さい」
「退け!」
 クローチェと従業員が慌てて抑えに入る外で、転げ出た男と少女たちとがすれ違い。
 混乱した店内では、流れ込む雑音から煩わしげに目を逸らしたレイディの瞳が見つける。
 見つけたのは誘導に紛れて揺れた金の髪。軽くメイクも施された顔は『美しい』。
(のう、何処へ行く)
 響く不吉の声に宗一の目が見開かれた。
 誘導に回る前、確かに竜一に意識が向いていたのを宗一は確かめた。
 しかし、少女の抱く興味は一点だけではなかった不幸。
 駄々をこねてでも、美しい光物は手にして遊びたいと。従えたいと。
 黒翼が宙を打ち、強欲さと残酷さで扇状の悪意となって無作為に降り注ぐ。
「……っ」
 宗一自身も、光輝の鎧を纏った小梢、亘、鉅も、身を盾にして一般人を庇う。
 肌を裂く痛みに歯を食い縛って耐え――それでも、全ての命に手は回らない。
 従業員の一人は少女を、客の一人は連れを庇い心臓を貫かれた。
 押し退けられた従業員一人、客の二人。間隙を縫った羽根が人首を攫う。
 惨劇に殺到した客の足が一瞬竦んだ、奇しくも好機の隙にクローチェが待機班を中へ引き入れる・
 店に踏み入った瞬間に雫が加速し潜り込む死角。
「自分の世界に、好みの者は居なかったのか?」
 体内の魔力を循環させエリスに、まっすぐに大きく踏み込んだマリーにレイディが舞い上がり。
 瞬間、大剣がカウンターに残ったグラスを薙ぎ払った。

 合流によって、猛攻にレイディの手が塞がる。
 頭に直接ぶつくさ言う少女の声の度、ブレイクフィアーの光がフラッシュする。
「呆けるな」
 悲鳴とパニックをBGMに、鉅と小梢が腰を抜かした客をそれぞれ扉へ運ぶ。
 クローチェが一杯に扉を開いて順に、外へ導く。
 神経を研ぎ澄ましながら、怒涛の質問攻めをする竜一。
(どっからきたの? っていうか異世界の美少女とかいいよね!)
(知っているなら聞くではないわ!)
 無音のやり取りの中、レイディがキッと竜一を睨んだ刹那。
 避難を任せた宗一が反転し彼女の元へ大剣を携え、血溜まりを蹴る。目が、彼へ向く。
「こちらですよ!」
 亘のソニックエッジがレイディの腕を裂いた。
 彼女が背を打ち付けた衝撃で、飾られた酒瓶が落ちて割れる。
(趣味は? スリーサイズとか! 好みのタイプは? 好きな人いる?)
 飛び散る硝子とアルコールの乱反射はおよそ場違いにきらきらと煌めく。
 溢れる音と細やかな光の中。
「立ち止まるな!」
「扉の向こうへ、逃げて下さい!」
 誰かが、叫んだ。

●Skit
「失せろ。こいつは俺たちが仕留める」
 刃を振るうゲルトの声。それにモズは答えない。
「敵対するなら攻撃対象とみなすが……それでよろしいですか?」
 死角からの雫の声。
 どちらを言外に、欠片ほどの肯定でも、彼には都合が悪い。
 素知らぬ顔で半歩踵を返したモズに、最後は逆十字を下げた少女が声をかけた。
「食後のデザートがまだ来てないの。このメインディッシュが終わったら、用意してくれないかしら」
 凶鳥同士で視線を交え、去り際、影を身に従えたクローチェに小さく笑い。
「……そうしましょうか、『お嬢さん』」
 どちらとも言わず定めず、男はカウンター奥の階段へ姿を消した。

 避難の最後は足を引きずる男を押し出した。そのまま扉に自重を預け、一般人はこれで全部だと。
 鉅から低く絞り出された声に、二人のフィクサードが扉脇から彼を見る。
「俺達はお前さんらと敵対する気はない。これ以上の面倒事は御免なんでな」
 是、と。避難客を引き留め傍観していた彼らは背を浮かす。それに鉅の口角が微かに上がる。
 思った通り、敵対しないなら彼らが客をわざわざ攻撃する理由はない。客を利用する保身も必要なくなる。
「……先に心づけはいただきましたしね」
 扉は閉じられた。割と時間は食ったが、あとは。
「歓迎出来ん来訪者にお帰り願うのみだ」
 燻る煙草に代わり、スローイングダガーと溜息一つを共に、踵を返した。


● Hunt down
 避難に至るまで矢面となり立ち塞がったマリーや宗一らの傷は絶えず、エリスの天使の歌が生命を支えていた。
「うム。ではお眼鏡に適うよう奮起するとしようか」
(ほう、感謝した方が良いかの)
 リミットを解除したマリーにも怖じず、異界の少女はいっそ爛漫だった。
「報いは等しく受けるべき……。神の名に於いて、貴女の罪を裁きます」
 少女はあざとく小首を傾げ、腕に絡みついた気糸を爪で爪弾き振り解く。
「さあ! 遊ぼうか! 俺と一緒に!」
(妾はいやじゃ)
 にべもなく応えたレイディが、声の主の所在に視線を巡らせる。
 脳内会話から飛び出した『声』は意図せずレイディに一瞬の惑いを生み、さらに彼のステルスが功を奏す。
 レイディ自身が、死者と同じく無力だと侮っていた姿を見失った。
 それは少女の平静を崩すのに十分だった。不意に少女の視界を、黒い影が過る。
 平静でなく、咄嗟の判断に声の主と影は等式でレイディに刷り込まれた。
 この場に居たならば、影で助言したであろうモズの姿も今はいない。
「踊ろうか! ダンスマカブルを!」
(嗚呼、舞踏ならば)
 思いこんだ黒い影を追い、くるりと中空で身を回せば鋭い羽根が影を追う。
 倒れたテーブルに音をたてて突き刺さり、三つ目のテーブルの影から飛び出した時、肩を裂いた。
「誰だと……思ってた?」
 だが、その場に現れたのは小柄で人形のような少女。
 整理しきれない頭で繰り出されたチャクラムに身を捻り、次に迫った背面からの新たな影に反応が鈍る。
「ダンスの相手はこっちだぜ!」
 ひたすらに集中し一身の活力を込めて羽を狙う一撃。動揺に中空で傾いた体が揺らいだ。
 羽は折れないまでも深く傷が刻まれレイディは地に墜ちた。
「持ちうる最大の力をぶつけるのが礼儀ってもんだしな。この状況で反動なんざ気にしてられっかよ!」
 既に傷の多い宗一、マリーがさらに雷電を纏い大剣を振り下ろす。
 好機に、リベリスタ達は畳みかける。
 一気呵成の中で身を転がり起こし、逃げに羽を打てば、別の羽音が空気を揺らす。
「君の求める美しいもの。それに応えられないかもしれません」
 純粋な速さで勝る亘が先を塞ぐ。
「だからせめて、自分が最高に美しいものと信じる想いを形にして、君に魅せてあげますよ!」
 彼の強い思念がこもった攻撃こそ、一閃が胴を掠めるに留められた。
「貴女の望み通り、美しく終わらせてあげる。肉片の一片も残す事無く、この世界から消え去りなさい」
 だが、背から壁伝いに駆け回り込んだクローチェに阻まれ、逃れ体勢を整える道も断たれ――少女の顔は泣き出しそうに歪む。まるでそれは、癇癪そのもの。

「もう、いらぬ」
 初めて声を発した膨れ面の少女は、無数の羽根を整然と宙に浮かびあがらせる。
 焦った小梢の大剣は少女の影を捉えない。
 不吉な黒が空間を覆う舞の寸前、ゲルトは砦となってエリスを庇う。 
「妾に楯突く僕(しもべ)は、いらぬ」
 そして逡巡の間もなく、鋼鉄の黒羽根が吹き荒れた。
 一方的な凶鳥のダンスは、血濡れた翼で鮮血を巻き上げる。
 人々を庇い続けた者が、彼女の前に立ち続けた者が、膝をつく。
 立つ者も天使の声ですら癒せぬ瀬に追い込まれ、ゲルトとエリスのブレイクフィアーが急ぎ災厄を振り払う。

 彼らの眩い光に、小梢の意識が表層に浮かんだ。辛うじて動く口で掠れた声で呟く。
「お互い、面倒でしょう」
 なんとしても打ち倒したい。いや、これでは本気のようだ。
 訂正。打ち倒せると良いんじゃないかと、そう思う凶鳥の姿を見つめながら。
 関わらない方が面倒じゃ、ないでしょう。――彼女なりのちょっとした牽制。
「面倒さ。でもそんな理由で面白いところを見逃すと後悔するだろう」
 紫の瞳が、青灰の眼差しを追った。

 瀬に追い込まれてなお、リベリスタは目元の血を拭い血を跳ねて、刃を翳す。
 そして青い鳥は己の幸運を代価に代え、血の海から再び翼を空に伸ばした。
「この理不尽な不幸は……自分が断ち切ります」
 血に濡れた少女は運命と、手にした剣をもってして立ちあがる。
「貴様の美意識もくだらん都合も、知ったことではない」
 夥しい血が滴る姿は鬼気を纏い、誰かが息を呑む。
(私が化粧をするとなれば、血に塗れた今がそうだろうな)
 自嘲混じりの声を知らぬ羽無しの凶鳥は綺麗だと口ずさめば、双方の内の声を聞いたレイディが睨む。
 瞬く間も無く交差する微笑と、責めの憤怒。殺意は音もなく互いに不可視の刃に、あるいは羽根に代わり、内の臓腑を食らう。
 レイディの顔が痛苦に歪んだ隙を逃さず、殺意の最中で亘が強く空を打ち迫った。
 続けざまに振るわれるナイフが壁際に追い詰める。
 ダガーがカウンターについた手を縫い付け、強く踏み込んだマリーの大剣が深くレイディの胸を貫いた。
「此処で終わりだ」
 鋭爪が大剣を掴んだ。掌から血が伝い、刃毀れした刀身の罅を侵していく。
 ぱきり。ぱきり。音をたてて。
 赤帽子の少女は尚も退かず、二羽の凶鳥は唇を歪めさせる。

 胸を貫いた鋼鉄が悲鳴を上げ――少女の肢体と諸共にくずおれた。


● of Swords
「……。私たちに対するなら、お前らも倒す」
「デザートを持ってきただけだよ。舞踏会お疲れ様」
 モズは眉を顰めるマリーに言いながら、ひょいと従業員だった遺体を跨ぐ。
 ――と、その直前でモズの首に刃が添った。
「……」
 戦いに息を整えないまま。竜一とゲルトの大剣が冒涜を遮る。
 全員の救出を目標に据えていた亘からは、痺れる腕で咄嗟に掴んだ凶鳥の黒羽根が放たれていた。

 今は意識のないクローチェの目にも映れば、断罪の沙汰だっただろうに。
 何故か、わざとらしく火種を起こす厄介者に、鉅は残り二本を残した煙草の箱でちょいちょいと扉を指す。
「お仲間もお待ちだ。早く行ってやれ」
「……ああ。そう。じゃあお先に」
 男は間を置いて、漸く両手を上げて後退し。
 モズはスナック菓子を辛甘問わず積んだだけの皿をカウンターに置いた。
 反動で零れた菓子も見ず、割れそびれたワインを土産に凶兆は肩越しに嘯く。
「箱舟の剣に、運命のご加護がありますように」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
『二羽の凶鳥』、お疲れさまでした。
被害者五名。全員救出は叶いませんでしたが、皆様の尽力により多くの命が助けられました。
レイディを外に出さなかったことで、彼女による被害も広がりません。

MVPは戦闘の面で力を尽くして頂いた、マリーさんに贈らせていただきます。
各所の機転と意気、素晴らしかったです。判定中、驚きました。
ご参加ありがとうございました!

===================
レアドロップ:「凶鳥の羽根」
カテゴリ:アクセサリー
取得者:天風・亘(BNE001105)