● 特徴的な大きな襟。白いラインは1本?否、2本も悪くない。 大きなスカーフは鮮やかな朱色。意表をついて黒なんて選択肢もあるだろうか。 丈は短く。膝上3cmを守ったスカートのプリーツは、丁寧にアイロンをかけておかねばなるまい。 靴下は勿論紺色。ハイソックス。 冬は大きめのセーターでも、カーディガンでも。僅かに覗く指すら可憐だ。 手を伸ばす度ちらつく脇腹。慎ましく顔を見せる白い膝。 清楚さとエロティシズムの同居。俺達の夢の形。そんな、神の作りし衣装。その名は。 ――セーラー服。 全体は定番の紺。黒やグレーもまた乙だ。 清楚な白。大人びた水色。乙女のピンク。中のシャツは個性を表現出来る。 リボンやネクタイは緩めに。シャツのボタンは第2まで。 スカートはチェック。無地でも大人びて悪くない。 靴下は着る人間の個性だ。ハイソックスは勿論、ルーズだって悪くない。 合わせるのはカーディガンがいいだろう。袖と裾から覗く余ったそれさえ、アクセントだ。 見えそうで見えないスカート丈。緩めシルエットに守られた華奢な身体。 多彩さと伝統。如何様にも表情を変える、俺達の夢の形。そんな、神の作りし衣装。その名は。 ――ブレザー。 ● 「萌えって言うのも、行き過ぎるとある意味狂気だと思うんだけど」 皆はどう思う? 常の如き無表情、否、若干引きつった表情で、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は問う。 一瞬の、沈黙。あまりに不意打ち過ぎる一言に凍り付く一同をちらりと、一瞥して。微かな疲れの浮かべたフォーチュナは再度口を開き直した。 「今回の依頼は、とあるアイドルをフィクサードの魔の手から守ること。詳しいことは資料参照」 モニターに浮かぶ、よく居そうなアイドルと、複数人のフィクサードの写真。 どんな悪事を働く輩なのか。固唾を呑んでフォーチュナの言葉を待つ彼らに応えるように、モニターは次の画面に移り変わる。 ――制服、だ。 それが第一の感想だった。いや寧ろ、それ以外の感想は恐らく出てこない。強いて言うなら、制服と変態とでも言うべきか。 オーソドックスなセーラー服とブレザー。そして、それを抱きしめるフィクサードが、そこには映し出されていた。 「……、……セーラー服萌えのフィクサードと、ブレザー萌えのフィクサードが、同じアイドルを好きになったのが事の始まり。彼らは気の合う友人同士だったの。――萌えの差異のせいで、仲違いしたけれど」 萌えを除けば、よく有る話だった。萌えを除けば。仲が良く、好きなアイドルも同じになった彼らは、いつもの様に語り合う。 あのアイドルにはきっとセーラー服が似合うと思うんだ! いや、ブレザーだろう。 セーラーだ! いいや、ブレザーだ! こんなやり取りが行われたかは定かではないが、彼らはその日から敵同士となった。 彼らの対立は他のファンにも伝播し、今では二人とも、小さな団体のリーダーのような立場であるようだ。 「……彼らは、実際にアイドル本人に着て貰うことで決着をつけようと思ったみたい。今度の握手会の時に、互いが一番だと信じているコーディネートを着せるつもり」 普通のファンなら不可能だ。ただのファンに、そんなことが出来るはずがない。だが。 「彼らの内、数人がフィクサードだった。いや、フィクサード予備軍かな。しかも、ちょっと変なアーティファクトを持ってる」 その名を『織女の縦糸』。モニターに示される古びた糸巻きは、持主が思うが侭に他者の衣服を変えることが出来るようだった。便利なような怖いような。 「方法は問わない。何でもいいから、彼らを止めて。ついでに仲直りとか改心とかさせてくれるともっと良い」 何とも形容し難い表情を浮かべるリベリスタ達。それをあえて無視して、その他、必要であろう資料が並べられていく。 場所、時間、敵特徴。これが普通の情報だったならどんなにいいか。 「アイドルと、……みんなの無事を、祈ってる。――武運を」 いろんな意味でね。既に諦めさえ見えるフォーチュナの、疲れきった声がそっと、リベリスタの背を押した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月21日(金)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 早朝。静けさに満ちた空気の中、会場裏口にあたる其処は、妙な熱気と緊張感に満たされていた。 二手に分かれた集団の右側。運動部らしいしっかりとした体付きに、黒い短髪の少年、藤原・和人は固い決意を胸に仇敵を睨み付けていた。 憎きセーラー派。今日こそ決着の時! 古びた糸巻きをきつく握り締める和人の視線に気付いたのだろうか。左側の集団の中心、柔らかな茶髪の少年、英・光輝は余裕の笑みを浮かべ首を傾ける。 「嫌だな、余裕がない男は嫌われるよ? ……どうせ勝つのは俺達だし」 着崩したブレザーに、程よく細い身体。いかにも優男と言った様子の光輝も、余裕の中に微かな緊張が伺えた。 和人の眉が跳ね上がり、両者の視線がぶつかり合う。 一触即発。剣呑な空気を漂わせる二人と共に、お供の少年達も睨み合うこの状況は、さながらドラマのワンシーンの様だった。見た目だけなら。 「……音楽性の違いみたいなもんやろか」 火花を散らす両者から、少し離れた位置。彼らを見つめながら、『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928) は小さく呟く。 例え好みが異なっていようと、友人は友人だろうに。何故こんな争いをしているのだろうか。 争いの結果、大好きなアイドルを泣かせてしまうのは嫌だろうに。周囲が見えていないのだろう。 理解し切れないながらも思案し、結界を巡らせる珠緒の後ろでは、仲間達が説得の為の準備を進めていた。 丸く大きな目を演出する付け睫毛とアイシャドウ、リップもチークも柔らかピンク。 そして標的となるアイドルと同系統のファッションに身を包み、『メタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)は思う。 働き学ぶ女性を守る制服は、どれも好きだ。けれど特に好きなのは、作業着だった。 とことん実用的ながらも、個性や活発さを出し易い。そしてそれを身に纏い、汗やオイルに汚れながらも真摯に仕事に取り組む姿が、彼女は好きだ。 だから、制服萌えはわからない訳ではない。でも。 こんな争い、アイドルにとっては只の大迷惑に過ぎないのだ。 セーラーとブレザー。名実共に、制服の二大政党。 どちらかが特別いい、なんて事を決めるのは無理。無理なのだ。だって、どちらもこんなに可愛いのに! 豊かな黒髪をリボンで留め、フリルに彩られたエプロンドレスを身に纏う『中身はアレな』羽柴 壱也(BNE002639)はそんな事を思いながら口を開く。 「さあ、みんな! 頑張っていこうじゃないの!! ……んー、違うな。頑張ってくださいね、ご主人様!」 ひらり、風に揺れるフリルとレース。足元は勿論、ニーハイで絶対領域。 今日だけのメイドプレイ。少年達の気を引こうと楽しげに待機するその姿は非常に愛らしい。 「ミラクルなバディを白衣に包んだナースエンジェル! こりゃあめろめろキュンッスね!」 ぱちんっ、音が聞こえてきそうなウィンクと共に壱也の隣に立つのは、華奢で可憐な白衣の天使。 純白のスカートからすらりと伸びる足を白タイツで覆い、頭には代名詞とも言うべきナースキャップを添えて。 禁欲的な雰囲気を持ちながらも、隠し切れないエロスを帯びる天使の衣装、ナース服。 それを『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)はそつなく着こなす。唯一、精一杯寄せて集めて盛った胸のみが弱点だろうか。 「セクシー路線ってことで、今日はいやぁ~んマスターでもおっけーッスかね?」 「どん引きだ……」 試しにとセクシーポーズをとってみせる計都に、『最弱者』七院 凍(BNE003030)の心の底からの一言が向けられる。 ヒラヒラフリルのスカート、純白のエプロン 絶対領域、神ですら計測出来なかった人類の知恵、ハイソックス コスプレの定番、愛しきボクの女神 もう説明不要、そんなボクの夢の形、人類の作り出した神を超えた衣装。その名は ――メイド服。 セーラーもブレザーも、凍にとってはアウト・オブ・眼中。全く興味など無かった。 メイド服が一番、異論なんて認めない。本当ならそう言ってやりたいところだが、少年達を和解させる為には認めざるを得ない。 不本意だが、仕方が無い。何とか決意を固める。メイド服が一番なのは揺るがないが。 そんな決意を固める横で、トリストラム・D・ライリー(BNE003053) は非常に複雑な表情で少年達を見据える。 萌え。正直に言えば、自分には全く理解出来ない分野である。 しかしそうは言っても、これも仕事。 「……仕方あるまいな。準備が出来たなら、そろそろ行こうじゃないか」 しっかりと割り切ってから、鮮やかな水色の瞳を細めて仕事の開始を促す。 用意は完了。リベリスタと少年達の、戦いが、始まろうとしていた。 ● 「貴方達、馬鹿な真似はやめるのー!」 声を張り、まずは『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)が裏口前へと駆け込む。 他のリベリスタ達も続けば、未だ睨み合いを続けていた少年達が驚いた様に此方を振り返った。 沈黙。どう出るか、身構えるリベリスタと、動き出さない少年達。 そんな奇妙な静寂を破ったのは、土を踏み締めた光輝の靴音だった。 よろめくように前に出る。他の人間等目に入らないのか、迷わずルーメリアに歩み寄る。 さっと膝を地面につき、顔を上げる。そして。 「これは三高平の制服ですね、お嬢さん。この町は制服と言うものを良く分かっている……!」 爽やかで落ち着いた配色と、高いデザイン性。 特にスカートが珍しい。只のプリーツでは飽き足らず、白を挟む3段フリル。 光輝が芝居がかった調子で三高平大付属の制服を賞賛する声と共に、お供の少年達の歓声が上がる。 その様子を、和人が相手を射殺せるのではないかと言うくらいの目で睨み付けていた。 何なのこの視線。この人達、怖い。 若干、否かなり怯えた表情を浮かべながら、ルーメリアは心身共に2、3歩後ずさる。 こいつら中々に、危ない奴らかもしれない。 「あー……少しばかり、君達が至高と考える物に関して理解し切れない者が居るのだが……良ければ、ご教授願えるかな?」 ――嗚呼、それと俺は聖徳太子ではないのでね。順番にお願いする。 一気に何とも言えない空気になった状況を打開しようと、トリストラムが至って冷静に口を開いた。 否、冷静ではあるが、その表情はやはり何処か引きつっている。この状況では、当然と言えば当然かもしれないが。 彼の丁寧な質問に気を良くしたのか、二人は機嫌良く自身の思う衣装の良さを語り出す。 湯水の如く溢れてくる賞賛の台詞を一頻り言い切ってから、不意に和人が嘲笑を浮かべた。 「ふん、肌見せなど故意に行わず偶然に起きるからいいんだ。お前はそんな事もわからないのか?」 「馬鹿だな、惜しげも無く晒された太腿の魅力も分からないなんて……これだから堅物は話にならないね」 明らかに挑発と取れる台詞に、光輝も切り返す。即座に険悪な空気に戻る二人を仲裁しようと、今度は凍が口を開いた。 「ま、まぁ、セーラー、ブレザー、それぞれ良いと思うよ」 但し二次元に限る。心の中でしっかりその言葉を付け加える。 どんな衣装で有ろうと三次元なんて認めない。二次元が至高。彼女達は何時だって優しい俺の嫁だ。 だがしかしメイド服は別だとも凍は思う。 メイドさんとは即ち、天使である。 可憐なエプロンドレス、計算尽くの絶対領域。何より、その聖母の如く慈愛に満ちた微笑。 現実に打ちのめされる俺達ヲタクを優しく包み込むその心、まさにプライスレス。 隠そうとも滲むメイドへの愛を漂わせる凍のぎこちない説得は、白熱する彼等にとっては火に油の様だった。 「いいやセーラーの方が良いに決まっている! そして彼女に似合うのもセーラーだ!」 「いいや、ブレザーの方が良いに決まってるだろ? そして彼女に似合うのもブレザーだよ」 息ぴったり。ほぼ同時に同じ様な台詞を口にした二人は忌々しげに睨み合い、顔を背ける。 決着の見えない争いに、それまで黙っていた『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)がゆっくり、口を開いた。 「まあ待て! 制服はそれだけでブランドだ! 両方に良い所がある」 セーラー服は極稀に拝める谷間とか、腹チラとか。 ブレザーはぱつんぱつんの胸の子のはちきれそうなボタンの隙間とか、経験は無いが脱がしやすそうなブラウスとか。 「どちらもそれぞれ良さがある、両方いいものじゃないか!」 ――それを片方に限定してしまうなんて勿体ないと思わないか? 言い切った瞬間、和人も光輝も思わず口を噤む。確かにそうだ。 こんな風に挙げられれば、違う衣装も少しは、否、かなり萌えるかもしれない。 二人の表情に僅かな困惑が浮かんでいた。見事なまでに決まった台詞に、仄かに解決の糸口が見えた気がする。しかし。 「因みに僕はミニスカナース服派だ! タイツは絶対に白だ」 ぴくり、和人と光輝の身体が震える。もしかしたらこいつら全員、違う派閥の奴らなのか? だって、メイド居るし。ナースも居るし。 そう思考が巡り終えた時には、二人の戸惑いは既に怒りと決意に変わっていた。 「光輝、休戦だ。俺達は俺達の夢を護らなきゃいけない」 「奇遇だね和人、丁度俺もそう思ってたよ」 おk、こいつらは、敵だ。 そんな共通認識が生まれたのだろう。隣に並ぶ和人と光輝が、互いをフォロー出来る様立ち位置を変える。 空気が、変わった。即座に構え直すリベリスタ達に、熱く萌える、否、燃える瞳が向けられる。 「……学生服の良さ、お前達に解らせてやろう」 和人の地を這う様に低い声が、仁義無き争いの開始を告げた。 ● 最初に駆け出したのは夏栖斗だった。 「お前ら、人の話は最後まで聞けよ……!」 素早く和人の進路を遮る。その勢いの侭、凄まじい速度で振り抜かれた脚が生み出す、真空の鎌。 目の前の和人を通り越し、その刃は後方の回復手の少年を正確に切り裂いていた。 その横では同じく、メイド服のリボンを揺らし駆け寄った壱也が前衛の少年を抑える。 「貴方が今日のご主人様ですね、わたしと遊んでくださいっ」 少女とも女性とも言い難い面差しに、可憐な笑みが浮かぶ。 しかし、彼女が纏うのは、その姿には不似合いな程に強烈な、闘気。 僅かに後ずさる少年に笑みを向けてから、壱也は少々声を張った。 「ご主人様達は、元は同じアイドルが好きなんじゃないんですかー!」 自分に好きなものが有るのは、勿論大事な事だ。けれど。 他を受け入れる事で広がる萌えもまた、素晴らしいものではないのだろうか。 そんな疑問を投げかけながら、壱也は再び口を開く。 「わたし、何でも着ちゃいます。そのアーティファクト、わたしに試してみませんか?」 そう言って、小首を傾げる姿は凍でなくとも確かに天使に見える気がする。 その脇でやはり同じ様にもう片方の前衛を抑えに向かったステイシーは、耐久重視と煌く護りのオーラを纏う。 「どれもわるないけど……制服って言ったらこれやろー!」 即座に後ろに下がった珠緒は不意に声を上げ、自身の幻想纏いから取り出したそれに身を包む。 胸元を強調するデザイン、脚を魅せるミニスカ。 何処かのウェイトレス制服を完璧に着こなし、誇らしげに胸を張る。まさに眼福。 「……お前、ナース萌えなんだろ? だったら望み通り、お前もナースにしてやる!」 一瞬、珠緒の衣装に目を惹かれながらも慌てて首を振り、和人が糸巻きを振り上げる。 軽い、破裂音。戦場が一瞬静まり返る。和人がその糸巻きの力を向けた対象は、無論。 「え、ちょっ、……僕お嫁にいけない!」 頭から爪先まで、完璧な白タイツナースに変えられた夏栖斗が頭を抱えていた。 男なのにミニスカ。あまりの辱めに涙が出てくる。 それを目の端に捕らえながらも、あえてスルーし計都は素早く印を結ぶ。 「あたし、ケンカは苦手なんスよねー」 ゆらり、リベリスタ達全員を包む様に広がる、見えない守護の壁を張り終えると、計都は挑発を含む笑みを浮かべた。 「ナース服には、ナイチンゲールの時代から続く愛が詰まってるッス」 学生服には、この献身と抱擁の愛の力が足りないのだ。そう、はっきりと言い放つ。 「なっ……そんな事はない! 制服だって、甘酸っぱい恋の魅力に満ちているじゃないか!」 怒りに満ちた声で、光輝が返す。許せない。俺達の制服を否定するだなんて。 その怒りは即座に攻撃と言う形で計都に向けられる。弱点を見抜く正確な一撃が、ボウガンから放たれ計都を撃ち抜いた。 痛みに、計都の表情が歪む。しかし、それを見逃さなかったルーメリアが、素早く清らな風を呼び寄せその傷を癒していった。 同様に、少年達の回復手も癒しの風を呼び寄せる。それに続いて光輝の前に立つ凍が集中を高め、トリストラムもまた、射手の感覚を研ぎ澄ませていく。 少年の一人が、霰のような弾丸をリベリスタ達に浴びせかける。 それにも怯まず、夏栖斗はもう一発、脚を振り抜いた。鋭い一撃は辛うじて持ち直していた回復手を容赦なく切り裂き、その場に崩れさせる。 「っ……大丈夫か!」 和人の不安げな声が響く。最早、派閥など頭には無い様だった。続いて壱也も、全力を注いだ剣で目の前の少年を一閃する。 「見えるか見えないかギリギリのミニスカート、たまらない……ですか?」 可憐な笑みも、恐らく今は恐怖の対象でしか無いのだろう。膝をついた少年が、怯えた様に後ずさった。 和人が、煌くオーラを纏って夏栖斗に切りかかる。それを火炎躍るトンファーで受け流して、夏栖斗は声を張り上げた。 「お前ら、こうやって一緒に戦える仲間なんだろ? 大事にしろよ! てか、好きなアイドルビビらせんな!」 真っ直ぐに、二人を見据える。一瞬たじろぐ二人に、夏栖斗は大真面目に言葉を続ける。 「……後、僕は君達に一石投じたいと思う」 ──女子が男子の学ランとか羽織るの、マジ萌えねぇ? 瞬間。 電流が走ったように、彼らの動きが止まる。 サイズの合わない制服を羽織って、照れ臭そうに微笑む俺の嫁。 これに萌えないなんて、男じゃない。 和人も光輝も、不意に目の前に開けた新たな萌えの道に、動揺を示していた。 そして。折角決めた台詞を台無しにはしたものの、夏栖斗の言葉の前半も、間違いなく事実であった。 どれだけ諍いを続けていたとしても元は親友。 だからこそ、思考の差違を受け入れきれなかった、と言うのもまた真実だろうが、仲違いした今でも彼らの心はしっかりと繋がっていた。 「ほらぁ、その糸巻き、自分に使ってよぉん♪」 強い力を込めた十字の閃光を目の前の少年に放ちながら、ステイシーは注目を集める様に熱視線を彼らに送る。 彼らの押し付け愛。アイドルにとっては大迷惑だ。 けれど、ステイシーはそんな彼らを愛しく思っていた。鋼の薔薇の花束が、豊かな胸元を示す。 「その愛、全身全霊で受け止めてあげるわぁん♪ 遠慮は要らないわぁん、的はココよぉん?」 そんな彼女の後ろから、珠緒はギターを掻き鳴らす。組上げた魔術が、4色の異なる煌きとなって後方の少年を襲った。 追い討ちをかけるように、計都が鴉の式を飛ばしその身体を射抜く。力尽きた少年がまた一人、地面に膝をつく。 そんな中不意に、和人が自身の握っていた糸巻きを放り投げる。 ぱしんっ、軽い音を立ててそれを手に収めたのは、光輝。即座に、その手を振り上げる。 「っ……君達全員が、一番着たく無い衣装になるといい!」 再び、軽い破裂音が響く。次の瞬間、そこには。 「え、ちょ、な、何で俺が……!」 面積の少ない、ひらひらとした布地。女物の水着を纏った光輝が、呆然と立っていた。 暴発。時折調子を狂わせる糸巻きの、外れを引いてしまったのだった。悲鳴に似た声を上げる光輝に、慌てて和人が上着を投げかける。 その間に、残っていた前衛の一人へと、凍の鞭が正確に叩き込まれた。少年の身体が痺れ、行動不能に陥る。 殆どの少年が崩れ落ち、残るは半ば戦闘不能の光輝と和人のみ。 それを確認しつつ、鉄の雨を降り注がせてから。 それまで沈黙を守っていたトリストラムが、不意に口を開く。 「ふむ……君達は少々、冷静さを欠いていないかね? 彼女らは君達の玩具ではないのだよ」 ファンであろうと、してはいけない事が有る。 アイドルを、制服をどれだけ好きなのかと言う事実は伝わってきたが、彼らの言葉には配慮と冷静さが決定的に欠けていた。 そんな彼らを真っ直ぐに見据えて。彼は冷たく言葉を放った。 「今の貴様らは、大変格好悪い」 ● 「っ……もう止めてくれ!」 不意に、そんな声が上がる。攻撃を続けようとしたリベリスタの動きがぴたり、止まった。 光輝の肩を支えながら、和人が深く深く、頭を下げていた。 「……俺達が、間違っていた。お前達の言う通りだ。浅はかだった」 だからもう、これ以上仲間を傷付けないで欲しい。そう添えて、和人は真っ直ぐリベリスタ達を見つめる。 その瞳に、嘘は無いように思えた。 「もう許した。……ひ、人は着替えられるんだ。色んな状況を楽しめばいいんじゃないかな」 即座に、凍が攻撃の意思は無い事を伝えた。 その言葉に合わせ、全員が武装を解除し少年達を介助し始める。 一般の人に迷惑はかけないように。そう、珠緒が説教すれば、全員が素直に頷いた。 「……どんな服にもそれぞれに良さがあるッス」 自分の中の一番は、かけがえのないもの。それは大切なことだ。 けれど、その為に他の人の一番を踏み躙るのは、間違った事だ。 そう、真面目に告げて。しかし、そんな真面目さに耐え切れなかったのか、計都は直ぐに飄々とした笑みを浮かべた。 「あたしいま、凄い良い事言わなかったッスか? やばいマジパネェッス、あたしマジエンジェル!」 自身のシリアスさを力一杯台無しにする彼女に、脱力した表情を浮かべた光輝が糸巻きを放り投げる。 投げた先には、夏栖斗。 「……君達が持って帰ってくれ。俺達にはもう要らないものだ」 受け取った途端、二人の衣装が元に戻る。所有者を持たない糸巻きは、どうやら大人しくなったようだった。 「本当なら今すぐアークに連れて帰るんだけどぉ……握手会に出れないのも、可哀想よねぇん?」 連行用にと縄と手錠を持っていたステイシーが困った様に首を傾げる。 最もだと、全員の意見が一致していた事を確認してから、夏栖斗が笑みを浮かべて少年達を立たせる。 「ほら、行って来いよ握手会。お説教も今後の話もこれからだ」 但し、必ず戻ってくるように。そう付け加えれば、合わせて壱也も、楽しげにいってらっしゃいませ、と手を振ってみせる。 少年達は顔を見合わせて。直ぐに嬉しげに笑みを浮かべ歩き出した。 仲違いしていた筈の和人と光輝も、ぎこちないながら言葉を交わし、共に歩いて行く。 「仲直り、出来たなら良かったのかな……」 ルーメリアが呟く。少々疲れたが、あの様子を見ていると悪い仕事ではなかった。 少しの清々しさを覚えながら、リベリスタ達は高くなった太陽を見上げ、安堵の溜息を漏らしたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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