● 「ねぇ……兄さんはどうして僕をこんな風にしておくんだろ?」 頑強な手枷と足枷、足の腱を斬られた少年は問うた。 「あなたの本当の願いはなんですか?」 綺麗な笑顔の女は――昔『逆さタナトス』を兄へ渡し人生を狂わせた女は、仕立ての良いスーツ姿そのままの折り目正しい所作で手枷へ指を伸ばす。 「僕ね……本当は一杯殺したい。でないと僕と兄さんは幸せになれないから」 でも兄さんはここにいて欲しいと言うから、僕我慢してるんだよ。 15ぐらいの見目から10歳引いたぐらいが丁度よい、そんな子供じみた感じで唇を尖らせる。 「我慢は良くありませんよ」 「でも兄さんが哀しむ」 「大丈夫。あなたが『喜んでくれるお兄様』を作り直せばよいのです」 女が枷に触れるとそれはカチャリと音を立てて外れた。 ● 激動に呑まれた世界の片隅で、取り残されたようにそこにいる兄弟――。 狂い壊れた弟を、兄は隠れ家に閉じ込めた。 確かに自分は選択した。 弟と共にいる、そんな選択を。 けれど無為に無辜の人達を手にかけようとする弟のメンタリティには、ついていけなくなっていた。 だから。 兄は夜ごと力に煽られ殺戮に酔うフィクサードを誘い込み、弟に手をかけさせるコトでその欲求を満たしてやっていた。 (正義の味方ごっこですか、本当に因果なモノですね) 人は自分の欲望に基づいて行動するモノ。 だから「誰かの為」とか、ましてや「世界の平和のためとか」……そんな綺麗事を吐くことは、反吐が出る程に忌み嫌っていた。 (本当に中途半端です。幸の領域まで至った方が却ってすっきりしますよ) さすれば狩られるだろうから。 もちろん兄弟死ぬ気で抵抗はするけれど。 こうやつて笑顔で苦を隠すのはいつものこと。 自分は本当には笑えない。 だから幼い弟・幸の笑顔を愛し護った、けれど――いつからだろう、その笑顔を求めなくなっていたのは。 でも。 もう戻れない。 戻る気も、ない。 だから今宵も獲物を一人籠の中に解き放つ。 「幸――灼きなさい」 けれど一向に炎はあがらない。 やがて兄は知る。 枷つけ閉じ込めた鳥が逃げ、己の衝動を噴出させる場所を求めて飛び立っていったのを。 ● 「一番簡単な方法は、今回のフィクサード幸が、兄である高羽を殺した後に襲いかかるコトだよ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、一番安全な策をまず提示する。 フィクサード高羽幸は、不夜城の繁華街にあるショッピングモールに降り立ち、無差別な殺戮を楽しむ気だ。 兄である高羽はそれを身をもって止めようとしている。 「――ジャックの騒動で幸が覚醒した時は、弟側についたのにね。本当にゆらゆらだよ」 軽い侮蔑を滲ませて怜悧な万華鏡の姫は言い放つ。 「高羽はアーティファクト『逆さタナトス』を持ってるよ」 逆さタナトスは、死者を『E・アンデッド』にして使役することができるようになるアーティファクトだ。 ……高羽は幸を殺して使うつもりなのか? その問いにイヴはきっかりと首を横に振った。 「その気はないと思うよ。だって高羽は逆さタナトスを呑み込んでるから。そもそも幸の力は高羽を大きく上回る、万に一つも勝てないよ」 ……じゃあ幸は高羽を殺して使うつもりなのか? 「うん」 つまり。 つまりだ。 幸が高羽の躰をさぐり、やがて腹の中に『逆さタナトス』があると悟った時点で腸を斬り裂き引きずり出す作業に没頭するというコトだ。 そして、自分が望む兄を作り直すのだ。 「――高羽は至る結果なんて全てわかってるよ。自分の命をチップに賭けて、その賭けは負けなんだって、ね。でも……」 イヴは瞳を瞼に隠すと肩を竦めた。 「ひとりでなんとかしようと足掻くつもり。それはとっても無責任だね」 だから。 「あなた達が介入してこの兄弟にエンドマークをつけて」 一番あってはならないのは、無辜の人々が狂気のフィクサード幸の手に掛るコト。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:一縷野望 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月15日(日)22:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●Dead END ――幸が立ち去った部屋を見て、高羽の脳裏に浮かんだのはそんな終焉だった。 夜の路を独り歩く、足早に。 幸が革醒してからどれぐらいの時が経ったのかもう憶えてない。 足の腱を切って枷に嵌められながら、それでも幸は笑った。 (本当に、私はなにが欲しかったのでしょうね) 吐き気のように沸き上がる嗤い声を辛うじて呑み込み、片時も手放さなかった指輪を胸元から取り出す。 鈍色の指輪、逆立ちする神様。 口元にあてて唇を開き、閉じる――また決断ができない自分に呆れる。 「……私なら、少しはお前を満たしてあげられるかな」 幸。 ●不夜城 或る日、或る夜――若者達で賑わう某ショッピングセンターは、一瞬人々の認識からその存在を、消した。 それを為した明神 暖之介(BNE003353)は、24を頭に愛する妻とはぐくみ育てた兄妹を脳裏に描く。 (兄は弟妹を護ろうとするものなのですよね……) 「……ガキの癇癪我が儘に付き合ってられねーっすね、まったく」 そのガキとさほど年が変わらぬ『LowGear』フラウ・リード(BNE000050)は、ポケットに手をつっこみ肩を竦める。 「うちは細かい事情を知らないっすけど、ホント面倒くさい兄弟っすね」 くるり、ツインテールの翡翠を挿した金糸を指に絡め、 ――本当に、面倒くさい。 繰り返す。 けれど、心は相反するようにその面倒くさい兄弟に最後まで関わる気満々だ。 面倒くさい。 同じ言葉を抱え隣でぼんやりと紅を彷徨わせるのは『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)、一般人は割とどうでもいい。 外からどう思われようが何処吹く風の歓楽をかきわけて、数名が屋上へと至る。 庇われて生き続けるのが赦せない。そんな自分は人知れず影ながら一般人を庇う――『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は、その矛盾に身を委ねる。 ところで庇われ続ける人間の悔しさは? 大切な人が手を汚し躰を苛み、それでもなお「大丈夫」と笑い目の前に居る……そこからくるストレスは如何ほどか? 執着。 『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)は、秋晴れの中で幸に「死に損ない」と投げつけた直後の高羽の激高を、その後の豹変を想い出す。 (ああ、俺だって妹が生きてりゃそうしたろうさ) 亡くした自分と、未だ亡くしていない『彼』――そう、軋みぐちゃぐちゃでも、彼は『未だ』亡くしていない。 仲間達が屋上に到達したタイミングで『名無し』氏名 姓(BNE002967)は、トイレに発煙筒を投げ込んだ。 「小火ですって」 いきなり現れた印象不確かな青年が指さす先、もくもくと立ち上る白煙。 『おちついてひなんしてください』 『だいじょうぶです』 ほぼ同時に方々で警備員達の避難誘導がはじまる、深夜の浮かれきったテンションは一気に醒めた。 どやどやと非常階段に押しやられていく若者達、警備員はどこかぼんやりとした瞳だったけれどそれに気づく客はいない。 『葛葉・楓』葛葉・颯(BNE000843)は、ようやく全ての階の警備員を動かせたと、こっそり煙草を咥えた、さすがに火はつけない。 (……一般人を害する相手と言うだけで気がめいるネ) だからその一般人を逃がすことを最優先に手を打った。 火災報知器を鳴らし回っていた『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は、泣きじゃくる少女の目線にしゃがみ手招いた。 (誰一人、死んでほしくありません) それはあの兄弟も含めて。 ●邂逅 唇に咥えれば、食物ではない違和の感触。 タナトスを飲み込もうとしたところで、高羽の横っ面は勢いよく張り飛ばされた。 「なあ、あんたの望みは弟を殺すことじゃないんだろ」 殴った拳を握り締めて『銀の盾』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)は静かに静かに言葉をぶつけはじめる。 「さぁ、どうなのでしょうか?」 ぱたぱたと埃を払い立ち上がった男は曖昧な笑み。 (――私の思考はあの日から止ったまんま。望みなんてわかりやしない) 「あんたが考えなしに無茶な賭けに出るとは思えないんだ。弟にタナトス使わせて望む兄になってやるつもりか?」 「それもいいですね」 勝つ気のない賭け。 見えた終焉はDead END。 ……それが今の自分の希望なのか。なら、と指輪を呑み込むのを止めることにする。幸が取り出しやすい方が、いい。 「それで弟の領域にでもいくつもりかよ」 悩みを放棄すれば楽だと指摘され「そうですね」と肯定する。 「高羽、幸はもうお前の愛した弟ではない」 歩みは止めぬようにと因縁相手の腕を引き『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は続けた。 「それでもあれはお前の弟だ、終わりにしてやれ。家族だろう?」 「ハルトマンさんは本当にお強い。それができる強さを持つ人はそうそういないものですよ」 繰り返し繰り返し、最初から変わらぬ印象を紡ぎながら足早に進む。 「でもあなたはあなたのままでいて下さい」 まるで老人のように枯れた台詞に、ユーニアが切り結んだ唇から短く叱咤をはじき出す。 「死に逃げるな」 「おや、最愛の弟を手にかけた兄がそれを悔いての自死も禁止、ですか?」 混ぜっ返すような話調を固く首を縦に振り突き返した。 「あんた達を弄んだ奴はどっかで高笑いしてるぜ、弟がこれからそいつにどうされるか考えたか?」 小走りに高羽の前に回り込み、両手を広げ畳みかける。 「あんたもう弟を護れなくなるんだぜ」 「……そうですね」 奮起せぬ濁った瞳。 それでもユーニアは続ける、願うように。 「最後まであんたが守れ、弟は俺達が止めてやるから協力しろ」 「…………」 一瞬足を止め、男はぽつり。 「では、あなたが手を汚してくれますか?」 ●気持ちの在処 -弟- リベリスタ達のAFに『幸は正面玄関に現れる』の報が届いたのは、粗方の一般人が立ち去った後だった。 戦いの有利不利など考えず、でたらめな力で一般人を自分に屠り見せつける……弟がやりたいことはそれだと兄は言った。 その考えをもらしたと言うことは、ユーニア達の想いの幾ばくかは高羽の心に響いたのだ。 ――果たしてその通りに幸は正面玄関に現れた。 「お前ら……」 『兄さんの知り合いか?! 僕の居ない所でどんな話をした、兄さんはどんな顔をした……』 にいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさんにいさん。 執着が爆ぜ歪みきった妄執が業炎となり少年を取り巻く、その前にフラウが背後に回り込み両手のナイフを掲げた。 「え?」 遥か高みにある動き、這い寄る殺気に炎を湛えているというのに背筋が冷えた。 「お前ら殺して別のところに行くからいいよっ」 痛みは来ない。 ならばと怯みをかき消すように煉獄を解き放つ。 「ッ」 「店内や屋上の皆さんがもうすぐ到着します、持ちこたえましょう」 どこかのんびりとした声で炎に消えた仲間達の安否を気遣い支えるように、暖之介。 その台詞は嘘ではない、幸の到来を探るべく研ぎ澄ました聴覚には仲間達が駆けつける気配が届いている。 「うふ、うふふふ……」 この狂気が心地よいと、真名は己が身は灼かれるままに嗤う。 暖之介が影に意思を付与するのを尻目に、フラウは両刀ナイフで幸の背中の羽根を斬り落とすように突き立てた。 「ギャン!」 散った翼は獣のモノ。 幸との間に割り入る翼犬に、もはや止らぬ剣戟をそのまま見舞いチッと舌打ち。 (ホント面倒くさいワンコロ) 辿り着いた仲間が目にしたのは、真名が膝を祈る瞬間だった。消炭になったボロ屑を身に纏い、狂女はなおも口元に笑みを貼り付けたまま。 「よぉ、クソガキ」 覚えてるか? その声を響かせる凍夜は、既に幸の後ろに、いた。 「僕を死に損ないって言……ッ」 「仕置きの時間だ」 凍夜は邪鬼なき妖精が宿る小太刀を無造作に振るった。 (これでこちらの手が増えた、今度こそ犬を剥がします) 同時に暖之介のサーヴァントが翼犬の足に黒を絡め尽かせる、つんのめったところで彼の糸がその動きを完全に奪い去った。 「自分に都合のいい誰かなんて、そんな者はいちゃいけない」 今は口寂しさはないと咥え煙草をはずし、楓は兄の意思を思うが儘にしようとねだる少年を見据える。 「いちゃいけないんだョ」 未だ残る翼犬を含め、刻む。 「ッ、でもそうしないといてくれない」 あのひとはいつかぼくをおいていきそうだから、 えいえんにそばにいてもらうために、 ほかのそんざいをけす、 えいえんにそばにいてもらうために、 「僕は逆さタナトスを使うッ! 兄さんは僕に使ってくれないって言ってたけど……」 溶解の口づけを与えた少年の声は揺らぎ、まるで泣いているようだった。まるで置いて逝かれた刹那の自分のようとうさぎの胸が軋む。 ――ああやっぱりか。 姓は口元を片方だけ持ち上げ虚無の笑みを作る。 執着は、持っているからこその情念。 この子はまだ『持っている』 自分は数多を受け入れすぎて『無』 「あは♪ 君、護られてばかりの弱い自分が悔しかったんでしょ?」 「……だから強くなったんだ。だからだからだからそうやって兄さんを護……」 「護れてないじゃん」 辛い気持ちに嘘ついて笑っていた弟。 さすが兄弟。 全てを笑いで覆い隠してばかりの兄とそっくり。 「今だって犬に護られてばっか、みっともない」 姓が焔にまかれ、護りの翼犬も幸の怒りに応え男の元へ。 「誰一人、死んでほしくありません」 舞姫は何処か捨て鉢な姓へそう言い放ち、光を纏いし蹴りを翼犬へ加えた。 「作戦ですよ」 でもこれはとても危うい作戦だと、楓は髪をかきあげ飄々とした青年と金髪の戦姫に視線を向ける。 ――鍵が開かなければ、全員が倒れ伏す未来しか見えない。 ●死セシ心 ユーニアは高羽の問いには「違う、救いたいんだ」と言ったっきり。以後は言葉が作れず唇をへの字に曲げていた。 ハルトマンは眉を顰め大股にどんどん前に進む。 三人が辿り着いても敵は減っていない状態だった。 幸を狙う者、翼犬に集中攻撃をかける者、ばらつくのは「幸不殺」という意向故に。 楓が、いや、立ち意識保つリベリスタ達全てが判り始めていた――綱渡りのような作戦だと。 (非情に切り替えるタイミングを見誤るわけにはいかないっすね) キャスケットのつばを摘み肩で息をするフラウは、ナイフを握り直し躰を斜めに傾がせた。 死角からの薙ぎ払い、傷つく幸を見ても辿り着いた高羽の瞳はどこか冷めたままで。 「高羽」 自分と同じ『無』を見取り、姓は小さく唇を動かした。 「前、アークに手を抜いたってね。いい加減自分の本音を認めろよ。部下を殺され悲しんだ事を、幸が殺せば殺す程辛いのだと」 だからなんとか『有』を生みだそうと言葉を連ねる。 「……そうだったのかもしれません」 ちっとも嬉しそうじゃない笑みを貼り付けて、高羽は懐に指をさし入れる。けれど指はなにも連れ出さず、懐から出てこない。 「兄さん兄さん、どうしてその男といるの? 前にも親しげに話してたよねっ?!」 幸の嫉妬に狂った瞳はゲルトマンへと向いた。 「ねえねえ兄さん、やっぱり僕なんて僕なんて…………」 ヒステリックに牙を剥く炎の彼方、兄はうっすらとした笑みを浮かべたままで動かない。 肯定も否定もしてくれない。 「……」 陽炎、ゆらゆら。 存在、ゆらゆら。 「ッ、死なれてたまるかよ」 金髪の少年は髪を揺らして男をおし飛ばすように庇った。 例えば男が答えが出せないのだとしても護ると決めたのだと、ユーニアは立ち上がり弟を睨み据える。 「ちったぁ話しあえよ兄弟でっ。その機会は作ってやるって言ってるだろっ!」 相反するようにドライに、 「お兄ちゃんがどう思おうと、小生は広く、誰かのために頑張るんで……倒させて貰おう」 楓は幸に手を伸ばすとその命を啜り上げた。 苦しげにあがる悲鳴。 けれど俯き見もしない高羽に、幸を刻もうとした凍夜は手を止める。 「高羽……手前の執着は本物じゃなかったのかよっ?!」 妹を亡くした自分。 腸が引き摺られるほどに未だに灼く怒り、彼も弟を亡くせばそうなる類の人間だと思っていた――どこか、信じて、いた。 信じていた、のに……。 「疲れた」 そう唇が動くのを見て、他人任せな生き方に別の類の怒りが喚起する。 それを言えよ、ぶつけてくれよと姓は嘆く。 「時には正直に言うことも必要ですよ、お兄さん」 兄は望んで兄として産まれるわけではない、けれど兄だと暖之介は自分の長男を見てしみじみ思う。 だから長男が無意識に追い詰め過ぎて我慢しすぎていないか、親としてそう気にかけて見ていた。 この親ナシの兄に、父も母も……全ての代わりを務めて潰れた彼に、何を紡げば助けられるのか。 「高羽さん」 うさぎはおろした瞼をあげて、真っ直ぐに男を捉えた。 「あなたのお名前は?」 炎が滾る無残な戦場で、それはなんと澄んだ問いであることか。 余りに綺麗過ぎる声に、高羽は口元の笑みを消し小首を傾げる。 「マドイ、です」 ぐらぐら軸のない自分 視界に写る彼らは、それぞれに自らの核を持ってこの場にて力を振るう――なんて眩しい輝きを放つのだろうか。 いつからだろう、強き者に選択を委ね始めたのは。 いつから? 「惑う、そのままの文字でマドイ」 それが偽名だとうさぎは気づくが、追求はしなかった。 「ホント、反吐がでる」 もはや口癖。 「反吐位幾らでも出しゃ良い、今更形振り構うな」 だから反応がくるとは思っていなかった。 そして、 更に続くうさぎの台詞は――。 「全てを利用して来たんなら、今ここで私達を利用しろ」 ――この男の核を想い出させる。 ●気持ちの在処 -兄- 「利用、ですか」 曖昧に笑うから細くなっていた瞳が見開かれ1回だけ瞬いた。銃に触れていた指を引き、口元にあて思索を廻らせる。 『利用』 そうだ、自分はずっとそうやって生きて来た。 時に強きに傅き、時に地べたに頭をこすりつけて、プライドなんざ犬に喰わせて……ただただ命を繋いできた。 ――何のため? 「私達の仕事は一般人の無事。そこさえ違えなければ利用位幾らでもされてやる」 だから、 諦めるな。 傷つきここに立つリベリスタから響く言葉は違えど、意味はほぼ同じ。 「何を、ですか? いえ……」 輝きを持つ者達に照らされて濁った頭がクリアになる。 ――クズはクズなりに、やりたいことがあったはずだ。 「……答えなくて結構です」 問い掛けを打ち消したところで、凍夜が翼犬に噛ませた腕を無造作に振り「じゃあ逆に聞く」と唇を動かした。 「手前言ったよな。笑ってて欲しいってよ」 泣きながら炎をまき散らし顔を覆う少年を示し問う。 「なあ高羽、今でも手前は幸の笑顔が見てえか」 「ええ」 ――私は唯それだけの為に、あらゆるモノを利用した人間ですから。 「嘘だっ! そうやって兄さんは自分を追い詰める……」 「幸、私はそんな大した兄ではありません。幸が人を殺して欲しくなかったから、足の腱を斬って枷にかけるような兄ですよ? あ、足が治って良かったです」 それは心からの兄の笑みで――なんだもう、領域なんてとっくに越えていたんだと『高羽祈』は自覚する。 「あんたは勝手だなあ。自分の幸せしか望まず笑顔を強いただけだ」 姓の揶揄にも、 「はい」 全くその通りと頷くだけで。 「罪を重ねた私は、罪を重ねた弟に傍に居て欲しいと望んでいい……アークの皆さんはそう仰るのですね」 狂ってしまった幸に終焉を望むハルトマンは唇を噛んだ。 「貴方も、弟さんも――誰一人として命を落として欲しくはないです」 でも、舞姫の率直な声に半ば呆れ諦めたように口元が揺るむ。 「そうですか」 腕をおろし、祈は幸へと足を向ける。 「おっと、逃がそうって腹はないっすよ」 「まさか」 抜け目なく回り込むフラウに、彼は喰えない笑みでひらりと手を振ってみせた。 懐へ指を入れ、銃を引きずり出す。 銃身を握り込む奇異な持ち方をする。 「幸」 そして祈は涼やかな笑顔を向けると、その後頭部を思い切り銃のグリップで殴り飛ばした。 つんのめり血反吐を吐く弟に、握る銃をもう一撃二撃、翼犬が消え去るまで振り下ろす。 「私は、大切な人を殺されてとても哀しかったです。更に無差別殺人はやってはいけません」 「だって……に、さんは……」 「でも……」 革醒してくれて、ありがとう。 「生きて永らえてくれて、ありがとう」 ……涙。 病で死を迎えるはずだった高羽幸という少年の運命は歪み、結果数多の命を奪った。 それでも――絶望に取り残さないでくれてありがとうと、ずっと伝えたかった台詞と共に兄は微笑んだ。 ハルトマンの誘いには、いつもの曖昧な笑みよりどこか鮮やかな笑みを返した。 「アークに投降します」 ぐったりとした弟を抱え逆さタナトスと銃を差し出すと、改めて高羽祈はアーク所属のリベリスタへ頭を下げる。 「コレがうち等なりのエンドマーク。あんた達兄弟は、満足っすか?」 「悪くはありませんね、神速のお嬢さん」 「神速にはまだまだっす」 フラウは肩を竦める。 「あんたの手で護ってやれよな」 素直じゃないふくれっ面のユーニアは、先程横っ面を張り飛ばした男の表情から答えを見出して口元を緩めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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