● 秋の日は釣瓶落とし。 ついこの間まで明るかったはずの夕方の空は、今日はもう暗く肌寒い。 三高平を少し離れた町で、雑貨屋巡りをする『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)の表情は少し真剣だった。 「あそこの店のも可愛かったけど、あとに残るものも気恥ずかしいわね。 ……かといってさっきのは安っぽい気がしたのよね。 ちゃちいものはダメなのよ! そんなんじゃ姉のイゲンもカタナシなのだわ!」 何やらブツブツ言いながら歩く彼女の翼は幻視で隠されつつも不機嫌そうにばたばたと広げては折りたたまれ、時々通りすがる人にぶつかったりもする。それを厭って人の少ない方へ少ない方へと彼女は歩みを進めていき、結果として。 「――迷った!」 髪をかきむしらんばかりに不機嫌そうにも、心細さに泣きそうにも見える彼女の迷い込んだのは、かつての商店街にして現在のシャッター街。 ――アクセスファンタズムで地図確認しろよ、などといっても彼女には届かない。 ほら、焦ってる時ってパニックになったり変な見落とししたりするよね、ね。 見回せど人通りなく、見上げれどただ薄汚れたアーケード。 そこで初めて、梅子は異常に気が付いたのだ。 「……なに、あれ?」 もう涼しいというのに、嫌な汗が頬を伝う。 見上げたアーケードにあったのは――巨大な、巣。 「ガアー」 背後からばさばさ、と羽音がする。 振り返った梅子が見たものは、大きな、カラス。 思わず身構えたが、カラスは梅子に興味を示すことなく――もしかしたら、黒い羽を見て仲間だと思ったのかも知れない。ともかく、梅子の横を抜けて、商店街の路地へと入ろうとする。 嫌な予感にその路地へと駆け込んだ彼女の前には、カラスが3羽いた。 ――シェパードくらいの大きさのカラスを、カラスと呼ぶのなら、だが。 3羽は、そこに放置されていた真新しいダンボールを突き破り、中を覗き込んでいた。 中からは小さな声がした。 ――にー。 考えるより早く梅子は呪文を詠唱し始めた。 牽制して、自分に意識を向けさせるつもりで、魔方陣から魔力の矢を召還し、放つ。 「ちょっと、何よ、今の……」 カラスたちは無傷のまま、現れた邪魔者を凝視している。 梅子は驚愕の表情を浮かべている。 ――当然だ。 魔力の矢はカラスに届いた。たしかに当たるはずだった。 その羽に当たると同時、揺らめくように、水に火の粉が落ちるように、消えてしまっただけで。 「くっ、なめるんじゃないわよ!」 次々と放たれる梅子の魔術はやはり掻き消え、カラスたちは彼女が脅威ではないと判断する。 ダンボールの中でうにうにと動く、恐らく生後間もない子猫たち。 ――なんとも美味しそうじゃないか。 かじりつこうとしたところで、横からの衝撃に転がされる。 走りこんできて物理的にカラスをはねとばした梅子が、肩で息をしてそこに立っていた。 ● 「太陽の中にカラスがいる。そう言われてることもある」 2時間後に起こる事件があるからと、急に集められたリベリスタたちを前に映像を停止させて『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう口を開いた。 「……もしかして、黒点のこと?」 聞き返したリベリスタに対し、イヴはこくりとうなづく。 「昔の人は太陽を水鏡に映して観察し、黒点を見つけた。 月にうさぎがいる、というのと同じようなことかもしれない。 ――だから、このカラスたちの能力をミカガミ、と名付けた」 言いながら、イヴは映像をもう一度再生し、途中、魔力の矢が消えたところで停止する。 「遠距離攻撃……銃で撃つのもそうね。 離れた位置からカラスたちを攻撃しても、それはこうして消えてしまう」 それはつまり、梅子たち後衛系マグメイガスにとっては天敵にさえなりうるということ。 厄介な相手に出会ってしまった彼女に少しだけ同情したリベリスタが、あれ?と首をかしげた。 「……そもそも、なんで梅子がそんなとこに行ってるんだ? 買い物みたいだけど」 「プライベートで何をしているのかまで、報告する必要はないんじゃないかな」 イヴは、特に興味無さそうに――あるいは当たり前のことだとでも言いたげに、言葉を切る。 「このE・ビーストだけど、フェーズ2になりたてでこの能力なの。 時間が経過したら、ミカガミが強化されて、もっと倒しにくくなる可能性があるわ。 今のカラス程度なら――倒すのも、まだ、難しくない。 梅子のは放っておいても勝手に帰ってくるからいいけど、子猫を助けてあげて」 ――どうやら、そっちが本音らしかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月18日(火)22:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「アンタたちは運が良いのよ。何てったってこの最強プラムちゃんに守って貰えるんだから。 大きくなったら友達に自慢すると良いのだわ」 にーにー。 不安そうなその鳴き声に、梅子は唇を噛む。 ダンボールの中に居る子猫たちに、カラスの姿は見えない。 見えていても、それが一体何なのか、きっとわからない。 だから――この子たちはE・ビーストが怖くて鳴いているんじゃない。 「まだ子供だから知らないのも無理はないけど、あたしはちょー凄いの。 カラスなんかに負けたりしないし、アンタ達を守るのなんてラクショーなのだわ」 だから、そんな悲しそうに鳴かないで。 そう続けようとした筈の口から出たのは堪え切れない苦痛の呻き。 背を向けダンボールを抱いている梅子の背からは、随分と血が流れている。 3羽のカラスは先ほどから、様子を見るように代わる代わる彼女の背を襲っていた。 ――子猫たちは、梅子が漏らす苦痛の声を聞いて怯えているのだ。 「ジリ貧、なのだわ……!」 こちらの攻撃は何故か一切利かず、援軍を呼ぼうにもちょっとでも目を離せば子猫たちの命はない。 どんなに強がってみても、状況が絶望的だと言う事を誰よりも痛感しているのは梅子だった。 雫を零しそうな己の目を叱咤しつつせめてカラスどもを睨んでやろうと振り返った時。 見えたのは、背中。 「そこの黒い羽っこはお前らじゃなくって僕らの仲間だからな」 カラス達に宣言し、続けて梅子に背中越しにイケメンが助けに来たぜ? と、冗談めかした『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の背中。 「攻防一体、水の如し、ってね」 流水の如く滑らかな構えを取る、神代 凪(BNE001401)のふわふわした縞柄の尻尾。 「プラムちゃんの危機と聞いて オレ 参 上 !」 何か一際熱量の高い背。内容とは無関係に美しい『プラムLove!』カルナス・レインフォード(BNE000181)のその声音には何となく聞き覚えがある――プロムで誰かに踏まれてたよね確か。 「よう、嬢ちゃん。ちょいと自分達も混ぜてくんねぇか。」 最も至近で守るように立つ背。『錆色の赤烏』岩境 小烏(BNE002782)の幼いようで老成した声。 「……!」 無言の気合と共に服越しにでも分かる隆々とした筋肉を光り輝かせる『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の背。うわあなにこれちょうたのもしい。 「大丈夫?梅子」 その隣で『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)の、金色のサイドポニーが揺れている。梅子じゃなくてプラムなのだわと主張している余裕は無い――後で言おう。 「可愛い子猫ちゃん達(+1)をカラスになんかやらせませんよー!」 柔らかい『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)の背と、声。 後、今確かにぷらすいちって聞こえた様な気がする。 「まずは子猫救出!」 最も遠い背中は、幾重にも展開した小剣の群と共に銀目のカラスに向け走り出そうとしている四条・理央 (BNE000319)。 梅子とカラスたちの間に立ち塞がった姿。 ――それは、仲間達の背中だった。 ● 「そっちは頼んだぜ!」 夏栖斗が梅子と猫たちをかばう仲間にそう声をかけ、黒いトンファーを激しく振るう。 炎の紋様が描かれたそれを文字通り炎の様に舞わせ――しかし最終的に叩き付けたのは掌打。 内側から暴れ出す気の本流に、カラスは金のくちばしを震わせて悲鳴を上げた。 「燃えちゃえ!」 そこに本物の炎が追撃する。ガントレットに業火を纏った凪の拳だ。 「オレのレイピアの錆にしてやるぜ」 更に幻影をまじえてのカルナスの剣技が閃いて、獣の本能かこれを翼一打ちの浮力でギリギリ回避した金鴉がガアと鳴く。それを気遣うように、銀眼のカラスと青い尾羽根のカラスもガアガアと鳴いた。 鳴き交わすカラス達の周囲をよく見れば、レンズの歪みに似た線が、螺旋を描くように存在している。 「あれがミカガミか……」 後の一撃の為、巌の如く動かず集中しカラス達の動きを追っていた義弘がそれに気付き、一言呟く。 「ミカガミ?」 それを聞きつけ詳しく聞こうと首を巡らせた梅子を、防御結界を展開するべく印を結ぶ小烏が制する。 「子猫は助けた嬢ちゃんが責任もって守ってやりな。嬢ちゃんの事は自分達が守ってやらぁ」 梅子はハッとして腕の中のダンボールを見下ろした。 戦いの音に怯えているのだろうか、鳴き声は更に大きく、不安げなものになっていた。 遠い前方から凪が心配そうな目をチラリと向けて来る。 下がるようにと後ろを指差す小烏に頷き、梅子は慎重に立ち上がって後退を始めた。 「出来るだけダンボールをカラスたちの視界に入れないようにね」 そんな梅子に指示を入れながら、レイチェルが守る。 先ほどカラス達に邪魔だとばかりに憤怒を呼び起こす鳴き声を浴びせかけられたのだが、彼女が動じることはない。我を喪う事無く冷静を保ち、受けた傷も浅い様だ。 「アンタたち安心するのだわ! この大天才プラム様は、助けに来る仲間も優秀なんだから!」 梅子の表情に、声に、見違えるような張りが戻って来た。 正にさっきまで泣いていたカラスが何とやら。けれど、それも当然だろう。 「カラス程度の攻撃なんて耐えきって見せますよ!」 青鴉に絞ってその動きを見張り、守りに徹しているきなこが力強く宣言する。 理央もまた、最初に彼女が突撃を仕掛けた銀鴉の目前に立ち塞がり、それ以上こちらに近づけさせるまいと杖を振るっている。 銀鴉はそれを難なくかわしているが、当然子猫たちを追う余裕も喪っている。 ――正に、鉄壁の守りといえた。 だが。 「……く、流石に集中されるときついな……」 暫く後、3羽から徹底して狙われ続けた理央がついに倒れた。 防御に秀で、回復を備える彼女であっても、次々と鳴き声を浴びせられては分が悪い。 最初の突撃もあって他のリベリスタたちとは少し離れた位置におり、その声は彼女にしか効果を及ぼさなかったが――怒りを付与されてしまえば彼女自身の回復は途切れる。レイチェルの回復もブレイクフィアーで手一杯になることもしばしばあった。 理央を集中して狙った原因は、懐中電灯。 エリューション達はその灯りが自分たちを狙いやすくしているのだと理解したのだ。 しかし薄暗い路地裏の中で、安定した光源を消す訳にもいかず――そして限界が訪れたのだ。 「ガァアア!」 一声鳴いた銀鴉が、倒れた理央の腰にたばまれた懐中電灯を脚で一撃し、遠くへとはじき飛ばした。 灯りは消えなかったが、照らされるのが足元ばかりとなっては、少々心もとない。 ――子猫と梅子の守りは鉄壁だった。 だが、彼女たちを優先しすぎた結果、リベリスタたち自身の守りと攻撃が薄くなり過ぎたのだ。 結果として、一人倒れたリベリスタたちとは対照的に、カラスは未だ一羽も墜ちていない。 もう誰も、たかがカラスと侮れはしなかった。 「ちょっと休憩ー」 限界を悟った凪が攻撃の手を止め、周囲に偏在する森羅の気を取り込み傷を癒すことに専念する。 カルナスは変わらず幻想の武技を振るっているが、その表情には焦りが浮かんでいる。幻影剣を撃つだけの気力が、そろそろ尽きそうなのだ。 「……くっ」 小烏が歯噛みする。攻撃手段がミカガミの対象となる彼は攻勢に出れない。 ――それ以前に、彼が憤怒を癒す手を緩めることがそのまま戦線の崩壊につながりかねない。 その隣に立つレイチェルの詠唱が福音を呼び、仲間達の傷を癒すが――依然状況は厳しい。 「うっ……!」 やがて、青鴉と一騎打ちの形になっていたきなこが、胸と同様に立派な眉の根を寄せ崩れ落ちる。 「……みんな」 安全な位置まで離れた梅子が、手を出せない自分の無力に、歯噛みする。 状況の好転は、義弘の振るったメイスが金のクチバシをかち割ってからだ。 集中により狙い済まされた一撃は、そのまま金鴉の頭蓋骨を粉々に砕く。 「よっし! 待たせた! 次はそっちだな」 エリューションビーストが絶命した事を見て取った夏栖斗が力強く言い、銀鴉の方へと踏み込む。 彼のトンファー土砕掌に続いてカルナスのレイピアが閃き、凪の拳が燃える。 2羽に減ったカラスの攻撃の傷はレイチェルが癒し、麻痺と怒りは小烏が解く。 義弘に深い怪我を負わせるなど抵抗も激しかったものの、銀鴉は程無くその目を永遠に閉ざした。 一羽残された青鴉の翼の周りから、音も無く違和感が消えていく。 飛び道具の射線を捻り歪め、収束点で消滅させてしまうミカガミの加護がその力を失ったのだ。 焦ったのかも知れない。青鴉はガア! と一際鋭く鳴き、弾丸の様にカルナスに突撃する。 「ぐっ……、後は任せた……」 腹部を深く抉られたカルナスが膝を付く。だが、その表情には無念と共に必勝の確信が浮かんでいた。 何故なら、ミカガミが消えたと言う事はつまり。 彼のアイドルとも言うべき『大天才』の封印が解かれたも同じなのだ。 「梅子! いまなら攻撃できるぜ! せっかく猫守ったんだろ? おまえも一緒に戦おうぜ!」 夏栖斗の声が響いた。 梅子ががばりと顔を上げ、その拍子に目じりに浮いていた涙が飛び散る。 「良いの!?」 噛み締め過ぎ、血が滲みかけた唇を震わせて問う。 それだけ悔しかったのだ。何も出来ないことが。本当に。 「切り札の出番だよ! いっちゃえ!」 力強く凪が煽る。 戦いの中、何度か飛び出したそうにしている梅子に振り返っては無理はしないようにと釘を打っていた義弘も、今は頷いて見せている。 「うん! 汚名挽回なのだわ! 大天才の真骨頂を見せてあげるんだから!」 間違ってるよ、というツッコミも今は野暮。 歌うような詠唱に展開される魔方陣。 絶対の防御を失った青鴉がそれを見て、びくりと身を震わせる。 そしてもちろん、梅子だけではない。 夏栖斗がトンファーを、凪が拳を構え、小烏が懐より式符を取り出す。 「ガァアアア!」 路地裏に断末魔が響き、黒と青の羽が舞い散った。 ● 「大丈夫だから、安心してねー。悪いカラスはもういないよ」 動物と会話できるからと凪が名乗りでて、未だみーみーと不安がる子猫たちに声をかける。 子猫たちはまだ兄弟同士での意思疎通も曖昧なようだが、安心していいことはわかったのだろう。 一匹、くぁ、とあくびをした。 その様に、戦いの余韻に未だ張り詰めていた空気が緩む。 「サポートサンキュな! 子猫たちを任せれたお陰で戦いやすかった」 子猫たちを優しく撫でてやりながら、夏栖斗が梅子に言う。 それは無力に唇を噛み締めていた彼女への気遣いだったのだろう。 「身を挺してまで子猫を守るなんて流石はプラムちゃん! リベリスタの鑑だね!」 傷の深さもなんのその、カルナスもここぞとばかりに重ねて褒め称える。 彼にとって今回の依頼は彼女との親睦を深めるためのチャンスなのだ。これで掴みはばっちりOK! と心のなかでガッツポーズ。 ――確かに何時もの梅子なら、こんな事を言われたら光の速さで調子に乗る。 むしろドヤ顔で胸を張る。ドヤァ。 だがしかし、梅子はそっと目を逸らした。 あまつさえ少し背を丸めて悩むように恥じるように眉根を寄せ、頬を染め。 「いや……まあ、その今日は流石のプラムちゃんもピンチだったし……」 あげくの果てにこの言葉。その殊勝さを見たリベリスタ達に一斉に緊張が走る。 ――まさか梅子、カラスの攻撃を頭部に受け過ぎた? 「だから、むしろ助かったのはこっちで、だからその、感謝してやらないことも――」 だがそんなリベリスタたちの心配は無用だった。 視線をいそがしくさまよわせた大天才()は、ボソボソとそんなことを言いだしたのだ。 「にー」 そこに鳴き声一つ。落ち着かなかった梅子の視線が子猫に落ち――穏やかな微笑にかわる。 それから上げた顔は、いつもどおりの明るい笑顔。 「ありがとうなのだわ、みんな!」 ● 「よしよし……」 怪我を処置した義弘が、普段の男らしいほどの相好を崩して子猫の喉を撫でる。 ゴロゴロと喉を鳴らすその姿に、実は可愛い物が好きな彼の目尻がまた少し下がった。 正直、似合わない。 「分かってるわ、ほっとけ」 あ、はい、すいません。 「癒されますねえ~。みんな抱きしめてあげたいですっ」 きなこが別の一匹を優しく抱き上げ、幸せそうにそんな事を言う。 応急治療を施したとはいえ彼女の傷は深いのだが、子猫の魅力の前にはそんなものささいなことである。 「ハンバーガーとか洋菓子とか食べ……られなさそうだね」 凪の抱く子猫はハンバーガーの匂いをふんふんと嗅いだっきり、見向きもせずミルクを探している。 自前の翼の端に子猫をじゃれ付かせつつ、もう片方で梅子をからかって小烏が唸る。 「さて、猫をどうするかね」 「十分に堪能したらイヴちゃんの元へお届けですかね~」 小烏を見て羨ましくなったのか、何かじゃれつかせれるものを探して自分の服をまさぐりつつきなこはそう答えた。子猫達の未来を察知したのはイヴだし、彼女に渡ればそのままアークの対応を期待できる。 最も無難な判断だろう。 「それも悪くないが――誰かが飼う、里親探しの張り紙でも作る、という手もある」 小烏がそんな手段を提示する。 「梅子はどうする気だったの? ノープランなら、一旦アークに連れ帰った上で、私ももらってくれる人を探したいけど」 子猫たちの幼く拙い言葉に耳を傾け言葉を交わしていた凪が顔を上げ、最後に梅子に振った。 「そうね……。うむむむ…………はっ!?」 小烏の羽にムキになっていた梅子も、やおら真面目な顔になって少し考え込む仕草を見せた後、重要な事に気付いたとばかりに顔を上げた。 「ちょっと!? 私はプ! ラ! ム! プラムちゃんなのだわ!」 そっちかーい。 「え? プラム? 誰それ」 レイチェル、ばっさり。 「梅子でもいいだろ、横文字は苦手なんだよ」 続いて小烏がざっくり。 情け容赦なし。 「梅子は梅子って呼ぶ。だって梅子だから」 レイチェルのれんげき! こうかは ばつぐんだ! 彼女いわく『別に、梅子で遊んでるわけじゃないよ?(笑)』とのこと。 ワナワナと震えながら口をパクパクさせる梅子の目に、ちょっと涙が浮かんでたりする。 「そもそも、梅子は何してたの? 迷ったのは知ってるんだけど……」 白々しいほどに梅子と連呼するレイチェルの言葉に、しかし当の梅子はぴたりと硬直。 「……あ! あーーーー!! 忘れてたのだわー!?」 かっと目を見開き両手で頬を挟んで絶叫し、その声に驚いたリベリスタ(と、子猫)たちをよそに、その場で駆け足足踏みをはじめた。 上半身はじたばたとせわしなく動き、身振り手振りを駆使して何かを訴え出す。 「あの子の! 安っぽくないの! 姉としてのソンゲンが! カタナシが! 喜んでくれるものを!!」 なるほど、わからん。 どう見ても焦りすぎで、半ば錯乱している様子である。 「買い物、かな? けが人で良ければボクもご一緒したいね」 ようやく己の傷の処置を終えた理央が言う。 驚くべきことに今の梅子の支離滅裂な発言でそこまで読み取れたらしい。 本来安静にする必要がある怪我なのだが、せっかくの縁を不意にするのも、もったいない話だ。 「……そういえば、そろそろ誕生日だっけ」 「だな、誕生日プレゼントでも選びにいってたん?」 それで納得が行ったとばかりレイチェルがアクセスファンタズムからGPSを立ち上げながら、そしてこちらは元々気付いていたらしい夏栖斗が、そう口にする。 「何か手伝うことある? たとえば、プレゼント選びとか」 「よかったら選びにいくの、付き合うよ」 「もしオレでよければご一緒させてもらえないかな。 美味しいスイーツの店や可愛いアンティークを置いてある店を知っているからエスコート出来るし、荷物の運び役としても活躍出来ると思うんだけど、どうかな?」 それぞれ、GPSで近隣の店を調べながらのレイチェル。 笑顔の夏栖斗。 そしてカルナス。きみは元気だな自分が重傷人だって事覚えてるのかな。 「え、え、えっ!? そりゃあ、もう時間が無いし手伝ってくれるのは嬉しいんだけどあの、でも子猫たちが……」 足踏みに加えて羽までばたつかせだした梅子は相当パニックに陥っているようだが、それでも子猫たちを放っていくことには抵抗があるらしく、うーうーと渋りだす。 「子猫は他の仲間があとは面倒をみてくれるはずさ心配ないよ」 本当に怪我人か怪しくなってきたカルナスがすかさず一声。 梅子が向けた視線の先、きなこ、小烏、凪、義弘の4人が頷いて見せる。 「えっと、じゃあ…… うん! お願いしてやっても良いのだわ!」 ● かくしてこの日、酷い苦難に見舞われた梅子だったが。 「それじゃ、出発なのだわ! アンタ達のアイデアを、この天才プラムちゃんのセンスが更に素晴らしいカタチにして、あの子が大喜びしてお姉ちゃん大好きとか言ってもらえなくなってもうズイブンになる台詞を言ってくれちゃうくらいすばらすぃープレゼントを……ってアンタ達なんでそんな『ふびんな』って顔してるのー!?」 それでもなお、この日の思い出は、彼女にとって忘れれない大切な1ページになった。 なお。 「あ、それと梅子にも! ちょっと早いけど、誕生日おめでとう!」 「へっ?」 妹へのプレゼントに悩む余り夏栖斗に言われるまで自分の誕生日でもあることを完全に忘れていた梅子だったが、そんな事実はないのだわ! とばかり数日間にわたって各方面に自分の誕生日を主張してまわっている梅子の姿を、リベリスタたちの多くは目撃したのだった。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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