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ウィークリー・ラヴァーズ

●どうして。こんなに愛しているのに
 十月の月が、薄ら寒い湿気を纏って都会の夜を照らす。
 この街には色がない。
 立ち並ぶ巨大なビル群は、夜の侵入と共に少しづつ影を潜めていく。
 ビルから追い出された人々は、出来合いのくすんだ衣服を身に纏い、大きな駅へと溶けていくのだ。
 そんな夜。こんな街にも人は住んでいるものらしい。
 雑居ビルと見まごうような、みすぼらしいマンションの一室で、誰かが呟いた。
 闇にたちまち溶けるその声は、何人にも聞き取ることは出来ないだろう。
 すらりと背の高い、一人の男を除いて。

 男を視界に、女が目に涙を湛えて呟いた。彼女は己が状態を、そのように自覚していた。
 自覚が極めて主観的な空想に過ぎないことは、彼女だけが知らない。
 干からびた口元から零れる嘆願らしき呻きは、壊れた笛のように唯々風を切っている。

 僅かに動く女の指は、枯れ枝のように弱々しい。
 そんな姿に背を向けて、巻き毛の男が一本の矢を壁から引き抜いた。
 鼻が捻じ曲がるような異臭と共に、床に落ちたのは拳大の赤黒い塊だ。
 壁に縫いとめられていたのは肉のようなもの――何者かの心臓である。
 それが床を転がると同時に、女はゆっくりと口を開閉させて静かに崩れる。

 男はハンカチで鏃を几帳面に拭取り、その場に放る。
「俺達は、これでお仕舞いだ」
 彼は口元をゆがめて、女の肩に手をかける。
 ――ずるり。白い肩がめくれ上がった。
 赤と黒の油絵の具の中に、カスタードを中途半端に混ぜ合わせたような染みが、男の白い手の平にこびりつく。
 彼は奇声を上げて死体を蹴り付け、腕を滅茶苦茶に振るった。

 やがて肩で息をする男は、よろめくように薄暗い部屋を後にした。
「次はもっと素敵な出会いがあるといいな」
 その瞳に虚ろな光を湛えて。

●クピドの矢
「男女の別れってのは、色々な意味があるもんだ」
 モニタを横目に飄々と述べるのは、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)だ。
 いつも通りの素っ頓狂な言い回しが、静かなブリーフィングルームに響いた。
 リベリスタ達は押し黙り、映像から目を背ける者も居る。
 少なくとも、見ていて気持ちのいいものではない。
 もう動かない女だったモノは、どこをどう見ても、死後一週間は経過している死体であったのだから。

「でも、動いてたよね」
 リベリスタが素朴な疑問を呈す。倒れた女――死体の胸には、ぽっかりと大穴さえ開いていたのだ。
「あの矢には二つの効果があるのさ」
 頷くリベリスタ達に、伸暁は続ける。
「一つ。あの矢に心臓を刺された人間は、強い恋愛感情を抱くのさ」
 なるほど。
「もう一つは、あの矢で死んだ人間は、ああして動けるんだ」
「生きている?」
「心臓に矢が刺さっている限り。そう、あんな風に心臓を切り抜かれても」
 人を生き返らせる道具などというものが、あるものだろうか。
「生きているというより、ただ単に動いてるって感じだけどね」
 つまり効果を足せば、自分に惚れた木偶人形の出来上がりというわけか。
「原理は良く分からない。まさに神秘の力ってやつだね」
 まあ、そんなものか。ここで深く考えても仕方が無い。

「男は『クピド』黒川聡。フィクサードだ。データはこれさ」
 伸暁は例によって、くしゃくしゃの紙をデスクに放った。
「被害者は既に三人、か」
 皆、髪の長い二十代前半の女性だ。生前の写真を見る限り、なかなかの美人揃いだった。
「依頼は二つ。一つはフィクサード黒川の排除」
 当然だろう。
「もう一つは、あの矢――ウィークリー・ラヴァーズの破壊か回収」
 予想通り、極めてスタンダードな要望である。
「あんなものに頼らなくても、モテるとは思うけどね」
 確かに、どこか中性的で彫りの深い男の顔は、いかにも今風の若者だったのだが。
「あんなもの、どこで手に入れたんだろうね」
 ひどく場違いな感想を背に、リベリスタ達はブリーフィングルームを後にした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:pipi  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月19日(水)22:46
 ちょっとお久しぶりです。pipiです。
 単純な戦闘依頼になります。

●攻略目標
『クピド』黒川聡の排除。
 クソ野郎です。好きにして頂いて構いません。

 アーティファクト『ウィークリー・ラヴァーズ』の破壊か回収。

●状況
 黒川は夜半の手前に、都心のマンションから、駅前の繁華街へと向かいます。
 そこで好みの女性を見つける算段なのでしょう。
 十五分ほどの道中には、明かりの消えたオフィスビルや、薄暗いショッピングビル等が立ち並んでいます。
 終電間際の時間で人影は少ないものの、未だちらほらと見かけます。

 状況が許す限り、リベリスタのお好きなタイミングで遭遇可能です。

●敵
『クピド』黒川聡:ジーニアス×スターサジタリー
 どこか神経質そうな、二十代後半の男です。
 スキル相応の能力を持っています。

●スキル
・アーリースナイプ
・プロストライカー
・カースブリット
・インドラの矢
・精密射撃
・3つのPスキル
・簡易飛行
・センスフラグ

 ひやおろしが美味しい季節ですね。
 秋風と死体を肴に、一杯やって頂ければ幸いです。pipiでした。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
プロアデプト
ジョン・ドー(BNE002836)
マグメイガス
クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)
インヤンマスター
駒井・淳(BNE002912)
マグメイガス
オルト メイガス(BNE003057)

●女の子を。人間を。なんだと思ってるんだろうね。
 薄ら寒く湿った夜に包まれて、『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)は、僅かに首を傾けて懐中時計に視線を落とす。
 月明かりに照らされる片眼鏡の奥で、赤い瞳が読み取った時間は十一時十七分だった。
 伸暁の予言によれば、ターゲットは四分後に、この通りを通過する。
 彼の耳に聞こえるのは、アクセスファンタズム越しの息遣いと、時折の通信と、そして微かな風の音だけだった。
 ビジネスとショッピングを目的とした街構造であるから、この時間ともなればそれほど人数は多くない。
 とはいえ、平素であればちらほらとは見かけるのが常ではある。
 人影のなさには理由があった。それはツァイン・ウォーレス(BNE001520)の神秘による、強固な人払い所以だった。

 そうした中で、リベリスタ達は迂回路や柱陰等に隠れて相手を待っていた。
 ターゲットは『クピド』黒川聡を自称している。フィクサードである。
(救いようがないクソ野郎だ)
『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が、逞しい拳を握り締める。
 黒川はどこからか手に入れたアーティファクト『ウィークリー・ラヴァーズ』を使い、数名の女性の心を操り、惨殺した。
 こんな相手に対して、難しいことは考えるまでもない。この拳を真正面から叩き込んでやるだけだ。
「見えたわ――予定通りね」
 リベリスタ達に聞こえてきた通信は、『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)からのものだった。
 手近で監視に適したビルの上で、双眼鏡を操っていた彼女が、相手をいち早く発見したのだ。

 黒川が首を上げた。酷薄な笑みを浮かべて瞳を泳がせる。
 男の視線が、ふいにクリスティーナと交差した。
 刹那の緊張が走る。
 だが、その視線はすぐに彼女の銀色の髪を滑り抜け、摩天楼に切り取られた狭い空に移動した。
 月だ。灰色の世界の中で、男を見張る少女に気づくこともなく、男は歩みを進める。
 胸など撫で下ろすまでもない。この高度では、そうそう見えるものではない。文句なしの外道の分際で、笑わせるものだ。
 リベリスタ達が動き始める。
 さあ、自分自身の恋愛さえ道具に頼る情けない男に――クピドを僭称する穢れた天使に、神罰を下してやろう。

●今、私の前を通過した。
 影が囁く。
 リベリスタ達が冷たく冴えた声を聞くや否や、夜闇の中に金髪が揺れた。
「黒川聡だな?」
 すらりと背が高い男の前に立ちふさがったのは、やはり背の高い精悍な男――ツァインだった。
「覚悟してもらおうか……」
 相手は正真正銘の下衆である。
「――リベリスタッ」
 僅かに唇を震わせて黒川が唸る。かける言葉すら見出せずに、ツァインは聖戦の力を仲間達に展開した。
 黒川はすぐさま身を翻すものの、突如開いた車のドアから飛び出した影に退路を塞がれる。
「弓兵にこれがかわせるか?」
『背任者』駒井・淳(BNE002912)の白い指先が夜空に閃き、一枚の呪符が黒川の胸を打ちつけた。描かれた文様は呪縛である。
 黒川は完全な不意打ちを振り払うこと適わず、身を捩る。その姿は能動を封じられて、ぎこちない。

 リベリスタ達の攻撃が開始された。
「どうぞお受け取り下さいませ」
 戦場に光が満ちる。
「――アガッ! 目、がッ!」
 ジョンがターゲットを視界に捉えてから、研ぎ澄ませ続けた神なる閃光は、黒川の目を強かに焼いた。
「心ばかりでは御座いますが」
 慇懃に腰を折る偽名の男に背を向けて、黒川は首を振って走るが、その退路もリベリスタ達に封鎖されている。
 宙を駆ける『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が引き絞る弓に、魔法陣が一気に広がった。
 直後に弓弦が奏でる魔曲は、四重の光を纏って黒川を襲う。
「この、箱舟の犬共ッ!」
 吐き捨てる敵もさる者、巻き毛を振り乱して素早く後方にステップを踏む。
 だが、ウェスティアがこの時まで編みこみ続けた強固な神秘は、全て見事に命中した。痛打である。
 彼女が誇る高い魔術の精度に加え、リベリスタ達が練り上げた周到な不意打ちと、ジョンに焼かれた目が祟っている。
 逆手で顔を覆う黒川の頬に、無骨な鉄の塊が暴風を伴って襲い掛かる。
 義弘の強烈な一撃に、唾液を飛ばしながら黒川がよろめく。
 憤怒の形相で義弘を睨みつけるが、未だ定まらぬ焦点は鍛え抜かれた鋼の肉体を射抜くこともままならない。

「クソォ! クソォ!!! なんだって俺がッ!」
「わざわざ命奪ってまでッ!」
 思わず叫んだ。
「自分に都合のいい女の子がほしいわけ!?」
 黒川には、この仕打ちを受ける自覚すらないらしい。
 信じられない。冗談じゃない。
『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が怒りに震える。
 人として、女性として、こいつには全力以上だって出せる気がする。
 だが、リベリスタが確実に押している状況とはいえ、アークが手練の八名を差し向ける相手である。
 並外れたな攻撃が予測される以上、バックアッパーである彼女が突出するわけにはいかない。
 押さえきれぬであろう激昂を撫でつけ、唇を噛み締めて戦場を観察する。
 そんな彼女の意思を代弁するかのように、天空から聖なる砲撃が降り注いだ。
「いッ、がッ!」
 幾度目かの閃光に彩られたアスファルトの上に、軽やかな音を立てて黒衣の少女が舞い降りる。
「痛い?」
 重力のままに、ふわりとまとまる銀髪の少女が、ほんの僅かに唇を綻ばせた。
「ええ、痛いでしょうね」
 冷たく言い放つクリスティーナの瞳は儚げで――しかし全く笑っていない。
「でもきっと貴方が弄んで来た人達はもっと痛かったわ」
「このメスブタがッ! 奴隷にしてやるッ!」
 怒り震える黒川は己を蝕む数多の災厄を振り払い、無造作に掴んだ矢を全て番えて、天空に放つ。
 直後に襲い来る神秘の烈火は、地獄の豪雨のようにクリスティーナ、淳、レイチェル、ジョンに降り注いだ。
 無作為とも思えるただの一撃で、二名に大きな打撃を与え、さらに二名の体力を過半以上も奪い去る桁外れの威力に、リベリスタ達は戦慄する。

●きっと生きる才能に欠けているんだろうな
「おいおい、死んだらこいつの彼女だぜ」
 灼熱に揺らめくアスファルトの上で、炎のような髪が揺らめく。
「よぉ。派手にやらかすじゃねえか」
 ぶっきらぼうな軽口を叩きながらも、横目で仲間達の無事を確認した『Alternate』オルト メイガス(BNE003057)は、治癒の術を手早く編み上げる。
 苛烈な炎を見せ付けられた以上は、お返しの火球でも叩き込んでやりたいところだが、このためにここまで控えていたのだ。
 オルトが放つ癒しに、レイチェルが更なる癒しの術を重ねる。
 二重の輝きがリベリスタ達を包み込み、再び反撃の力を与える。

 こうして二手が過ぎた。
 リベリスタ達は己が力を高める術を身に纏い、各々の強力な攻撃で戦闘を展開してゆく。
 だが、相手になかなか当たらない。
 淳の解析通り、相手は回避に劣るはずの弓手である。
 対するリベリスタは魔曲を操るウェスティアを始めとして、アークの中でもかなりの命中力を誇る集団だった。
 そんなものが半ば以上避けられたのでは、たまったものではない。
 黒川は陰湿な執拗さでクリスティーナを中心にインドラの矢を放つが、その一部は義弘の肉体に阻まれ、オルトとレイチェルの癒しがリベリスタ達に戦う力を与えている。
 敵の炎は、リベリスタ達が戦う力を容赦なく削る算段だったはずだろうが、ツァインの付与と、何重もの解除の術によって然程の意味も得ることが出来ない。
 少々の懸念は意外な相手の素早さの他に、大きく削がれて大きく癒すという風体の、背筋を冷やす状況である。
 今のところ安定はしている、しかし一瞬の油断は瓦解を招くだろう。。
 とはいえリベリスタ達による初撃の徹底的な先制攻撃は極めて正しい判断だった。
 最初の勢いの後は、少しづつといった風ではあるが、着実に相手を追い詰めていっているはずである。
 怒りに震える黒川の瞳は、クリスティーナを追い続けるが、その執着によって生まれる死角が攻撃のチャンスとなっている。
 二度三度と、淳にツァイン、ウェスティアの攻撃が黒川をかすめる。
 それは彼の小洒落た秋物のジャケットとシャツを切り裂くだけでなく、どす赤く染め始めていた。

「早く死ねったらッ!!」
 片頬を赤黒く腫らせたままに黒川が叫ぶ。
 次々に降り注ぐ業火の雨に、今度は六名が傷を負った。
 更に一手が経過した。
 長いようで短い時間の中で、ジョンは相手の最大火力攻撃に対して、防御を固めて耐え凌いでいる。
 推察通りの神秘攻撃ではあるが、そう何度も受けてはいられない。

 黒川の凶悪な抵抗に運命を削られなかったことは、リベリスタ達の修練と才の賜物だろう。
 だがリベリスタが倒れない要因は他にもある。
「これ以上の犠牲なんて、出させるわけないじゃない」
 ただの一人であってもだ。そんなものは許さない。絶対に。
 レイチェルの瑞々しい腕に振り上げられた杖が燦然と煌き、戦場を神なる光が覆い尽くす。
 白き曙光を纏う技も、その心も、この程度の逆境に朽ちるはずがない。
「ムカツクッ、女共がよ!」
 軽症とは言いがたい傷を負っても、瞬く間に癒されて行くリベリスタ達に黒川が叫ぶ。
「薄気味悪ぃ野郎だぜ」
 燃える髪を夜空になびかせて、オルトが吐き捨てる。
 この戦いの中で、最も『危ない目』にあっていたのは彼女だった。
 そんな彼女も、分厚い魔術書から放たれるはずの炎を、癒しの術に代えて戦場に立ち続けている。

「さて……」
 慇懃な物腰を崩さぬまま、手袋に覆われた繊細な指先から放たれる気糸の網が、黒川を縛り上げる。
「クソがッ!」
 これまでも幾度となく降り注いできた気糸の網を、再び振り払おうともがくものの、望み叶わず攻撃の手は奪われた。
 大きなチャンスが生まれた。
 炎の中で、赤々と照らされた鋼が駆け抜ける。
 ツァインの長剣が煌き、黒川の左肩に深々と突き刺さる。
 血と炎に彩られた赤い世界で、黒川はここでついに悲鳴をあげた。
「痛ぇのか? お前のやった事に比べればなんてことも無いけどな……!」
 斯様な所業に及んだ事を、リベリスタ達が許せるはずもない。
 いや、リベリスタでなくとも、断じて許容など出来まい。

「あんなんだよッ!」
 黒川が怒りと苦悶の罵声を上げる。
 そんな様子を俯瞰すれば、ある種の力を得た者の行動は、どこかしら似てくるものかとも思えてくる。
 大抵はそれまで出来なかった事を行うものだ。
 そしてコレは、そんなことを行いながらも、未だ満足一つできないらしい。
 だがそれは、あくまで彼個人の責に起因するものである。
 非道を行い制裁を受けるというだけの話だ。他者が犠牲になる謂れは無い。
「さて……吸い尽くしてやるぞ、若僧」
 淳が己が牙をむき出しにする。
「……グルァァァァァア!」
 闇が吼えた。
 血飛沫が飛び散り、淳の白く丹精な頬を鮮やかに染める。

 ビルのガラスを幾重にも彩るウェスティアの魔法陣が、再び四条の光弾を奏でた。
 炸裂する光の奔流の中で、黒川がよろめき――不意に目を閉じた。

●なんていうか、本人も破界器も気持ち悪いね……
「ごめんなさい」
 有り得ない一言だった。
 すねたような態度で放たれる声の意味を理解するのに、リベリスタ達は数瞬の時間を必要とした。
 ウェスティアが眉をしかめ、レイチェルは吊り上げる。
 片や金の、片や銀の高く結んだ髪を揺らせて、二人は二度づつ心中で反芻したが、やはり意味が分からない。
 強いて言うならば、これは挑発だろう。そうとしか思えない。
 その態度にも、これまでの行動にも、贖罪の心等あろうはずがないではないか。
 いじけたような声を上げて黒川が腰を折る。その表情は読み取れない。
「だから、もう一回言います。ごめんなさい」

 微かに頬を引きつらせたツァインと義弘が一歩近づく。
「馬鹿めッ!」
 黒川が突然拳を振り上げた。握られているのはハートを模した一本の鏃だ。
 鋭い一撃であったが、油断などしていようはずもない。
 不意打ちのつもりだったのだろうか。
 ウィークリー・ラヴァーズを使った一撃は逆手を振り上げた義弘の盾――侠気の鉄に難なく阻まれた。
「てめッ」
 黒川の獰猛な笑みが引きつる。
「ク、クソッ」
 たじろぐ黒川は後ずさりするが、その背に淳の腕が当たった。
「女が良かったのにな。特に――あの銀髪の」
 破界器を握り締めたまま、黒川の澱んだ視線がクリスティーナを這う。
「もういい黙れ、喋るな」
 冷気を孕んだツァインの声に、黒川が振り返る。
「ただボロクズの様に朽ちていけ……!」
 天を貫く長剣が月を照らし、一気にふりかぶられた。
「あがァッ!」
 咄嗟のステップは僅かに間に合わず、血花が夜空を彩った。
「人の心は意のままにならぬからこそ、興深きもの」
 ジョンが小さく呟いた。
「思うが侭に操るアーティファクトに頼るなど、無粋なものとは思いませんか?」
「るせぇッ!」
 最早正体を失って久しい黒川が、獣のように吼え猛る。

 無様で、無粋で、血だらけで、逃げ道すらも封じられ、三流の猿芝居を看破された黒川が戦慄いた。
 そんな姿に向けられた砲口(カルヴァリン)が紫電を纏う。
「偽りのクピドに審判を」
 手加減などするわけがない。クリスティーナは高らかに宣言した。
「私の判決は……死刑よ」

 膨れ上がる雷撃は、夜を劈き――

●恋愛絡みのゴタゴタはしたくねーもんだな
 しばしの沈黙の後に、オルトがフードをかぶりなおす。
「本当に、こんなものどこで手に入れたんだか……」
「出所がキナ臭いのよね」
 怒り冷め遣らぬレイチェルに、クリスティナが応じる。
 最大の厄介ごとは漸く片付いた。
 リベリスタ達の手元に残ったのはウィークリー・ラヴァーズと呼ばれるアーティファクトだ。
 これは誰が、何のために。そんな疑問は確かにある。
 義弘の逞しい腕に握り締められた矢が軋みをあげている。
「壊すのか?」
「勿論へし折ってやるさ」
 義弘の答えにツァインが笑う。
「いいね、ちっとは胸がスカっとするぜ」
 リベリスタ達は肯定の形に首を振る。
 出自は気になるが、アーティファクトとしての効果を失っても、調査に支障はあるまい。

「これはアークに持って行くことにしましょ」
 真っ二つに折られた矢をつまみ上げて、誰かが呟いた。
 こんな物の処遇は、こんな形で十分だろう。

 月が照らす薄闇の中で、一つの惨劇は幕を引いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 救いようのない下衆は、リベリスタ達によって見事ふるぼっこにされました。
 秋の夜長を爽快に楽しんで頂ければ幸いです。pipiでした。