● 曲がりくねったオブジェや、色とりどりの絵画。 静寂に包まれた美術館は、ひっそりと佇んでいた。 一階は三次元的な美術品が所狭しと並んでいたが、目的はそれじゃない。 しなやかな女性の身体を晒す銅像も、不規則に曲がったオブジェも興味は無い。 それらをスルーして、さっさと二階へと上がる。 コロネード風に吹き抜けたその先にある、お目当ての品。 小綺麗な台の上に乗り、正方形のショーケースの中に飾られたブレスレット。 古の王族が使っていた呪われたブレスレットだとか云う説明なんてどうでもいい。 あったあった、と言わんばかりに口元が緩む。 ふと、後ろから肩を叩かれた。 「少年! そのブレスレットがお気に入りか?」 突然、中年の男性に声をかけられた。 鬱陶しく感じて眉間にしわを寄せたが、まあ社交辞令。振り向いて笑顔を見せる。 「……ええ。このブレスレットにあるガーネットがとても綺麗でして」 「なるほどな! だが、このブレスレットは色々あってな?」 「知ってますよ」 叩かれた肩を埃でも払うように払いながら、ガーネットへ再び目を向ける。 そのガーネット付きのブレスレットは、行くとこ行くとこで不思議な事が起こるらしい。 寄贈された美術館が荒らされたり、酷いときには美術館自体が修理不能までに損壊したり。 「にしても少年、学生か? 美術館に一人で見に来るたぁなかなか稀というか稀少というか!」 男は天然記念物でも見るような目で、黒い学ランに身を包んだ少年を見た。 目立つ金髪に、綺麗に整った顔。 見るからに中学か高校くらいの歳に見えたが、話す口調はとても落ち着いている。 「まあ、ゆっくり見ていきなさい!」 男が再び少年の肩を叩こうとしたが、少年に伸ばした手を叩かれて阻止される。 「俺、おじさんより歳上ですよ?」 そう言って、再び小さく微笑む。 その笑みはどこか、優しさの中に黒いものが渦巻いているような。 言葉の意味は分からなかったが、男の中で本能的な何かがその場からの退避を叫んでいた。 少年は二度と男へ目線を向けず、ガーネットを見る。 「随分探したんだよ?」 赤色のマニキュアで指先を染めた手が、ショーケースをなぞった。 暗い夜、月明かりの下、華やかな金髪が夜空を彩る。 「寄贈された美術館が荒らされるのは魔法のアイテム欲しさにフィクサードが近づくから、だよ。おじさん。奪い合って戦闘が起きれば損壊くらい余裕だよね」 黒い学ランの少年――いや、少年ではなく男と言った方が合っているだろう。 手に持つのは、赤色のシルクハット。 それを頭にかぶれば、ほら、メタモルフォーゼ。 赤色の燕尾服。その姿はいつかの――Crimson Magician(以下クリムゾン)。 「人前に出るといつも良いこと無いんだよね」 だるそうに巨大な鎌を取り出して、足を地面に埋める。 そのまま地面を突き抜けて、美術館の二階に侵入。 待っていたのはやっぱり、リベリスタ。 「見つけたぞCrimson Magician! 今日こそおまえをぶっ倒す!」 「超しつこいね君。殺しはしない系フィクサードの俺も、そろそろキレちゃいそうだよ。えーとネパル?」 刀を持ったネパル構成員がクリムゾンを指差し怒鳴った。 呆れたように、頭を抑えたクリムゾン。 「お前の目的はわかってる! 『魅惑のガーネット』が欲しいんだろう? だがな!」 ネパル構成員が刀の切っ先をショーケース内のガーネットへ向けた。 「こいつを今此処で破壊すりゃあ、お前の目的も終わる! どーだ悔しだろう!?」 そう言いながら、ショーケース諸共ガーネットを斬ろうとするネパル。 「君ほんとにリベリスタ? ああ、それ斬んない方がいいよ」 すかさず、クリムゾンが忠告をしたが、止まる訳も無く。 斬る寸前で、クリムゾンの腕に飾られた、ルビーのブレスレットが光り輝く。 その瞬間、鎌を持ったクリムゾンが猛スピードでネパル構成員をまっぷたつに裂いた。 綺麗な大理石の床が、赤く染まる。 「あーあ、だから言ったのに。話のできるアークをちょっとは見習いなよって、聞こえてないか」 分裂した胴体を通り抜け、ショーケースを叩き割ってブレスレットを盗る。 「『幻惑のルビー』は俺が持ってるんだよね。はい、俺の目的終わり」 そう言って再び、壁の中へと姿を消した。 ● 「初めまして。新任フォーチュナの牧野杏里です!」 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は、精一杯の笑顔を作ってみせた、が―― 「今回の依頼ですが……うっ」 突然、胃の中身を吐き出しそうになったが、寸前で止める。 最初の仕事で『まっぷたつ』と『トラウマ』を見るだなんて、予想はしていなかった。 齢はまだ十四。やはりきつかった様子。 「無理すんな」 集まったリベリスタの一人が気を使う。 「……大丈夫です! 今回の依頼はアーティファクトの破壊をお願いしたいのです!」 大きさはこれくらい。と手で表現しながら言う。 それは腕を飾る、小さなブレスレット。 「アーティファクトはふたつです。ひとつは『魅惑のガーネット』。もうひとつは『幻惑のルビー』です。これはふたつで、ひとつのアーティファクトなのです。これを巡って戦闘が絶えないので、いっそ破壊してしまいましょう」 一人の持ち主が二つを持って意味を成す。 その効果は持ち主の身体的基礎能力の爆発的向上。 だがデメリットも複数ある。 「まず、どちらか片方だけをその身に着けたら、どんな力でも取れなくなるのです。外すには、ふたつ着けるか、持ち主の死亡、またはアーティファクトの破壊の三択です」 今回、その魅惑のガーネットが美術館に。幻惑のルビーがクリムゾンの腕にある。 「知っておいて欲しいのが、アーティファクトを破壊しようとすると、片方を身に付けている人が瞬間的にアーティファクトに操られて阻止しようとする様です」 それが先程、モニターで流れた可能性の未来の中で死んだネパルの最大の過失である。 「破壊するには、両方が誰にも着けられていない状態で壊すしか無いのです」 その片方着けている相手が、まさかのCrimson Magician。 「道は複数あります。皆さんで力を合わせれて、危険なアーティファクトを壊してください」 杏里は戦士達へ深々とおじぎした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月14日(金)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●侵食の赤 急ぎ足、その場を後にして、リベリスタ達がブリーフィングルームを後にした。 だが、彼だけは、少し足を止めて後ろを振り向く。 「――頑張り給え」 『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)がそう言った。 フォーチュナは心配から泣きそうになるが微笑んで、貴方達も、と言い返す。 彼女が最初に見た夢が因縁の相手、Crimson Magician(以下クリムゾン)。 それはヴァルテッラにとっても運命の交差点であった。 それじゃあいくぞ、と『angel's knight』ヴァージニア・ガウェイン(BNE002682)がAFを握れば、あっという間に歳に合った制服姿から一変。汚れなき白を基調とした騎士へと成る。 その手に握る剣を高く振り上げて、リベリスタ八人へ翼を送る。 ふわっと足が地から離れ、宙を思いのまま動く。そして、いざ、美術館の中へ。 障害物など、なんのその。美術品を避け、柱を避け、目指すは二階。 「ネパルがもうガーネットに攻撃を仕掛けそうだ、急ぐぞ」 『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)が、普段は隠している己の獣耳をたてて聞いた声からそう判断する。 玄関扉はネパルの仕業だろう。開いていたためそこから侵入した。残念ながら二階の窓という窓は開いてはいない。 侵入するとしたら、玄関扉か――はたまた、壁から直接か。 二階へ飛べば、視界にすぐさま入ったのは目立つ赤だ。 「なかなかいい趣味してますネ」 御子柴 若芽(BNE001964)がそっと感情をもらすが、その横を風を纏って女性が通り過ぎていった。 天井の壁を抜け出てきたクリムゾンが、今まさに。 「ああ、それ斬んない方がいいよ」 ネパルに忠告をする、どこかで見たあのシーンの真っ最中。 ネパルの刀の刃は吸い込まれるように魅惑のガーネットへと向かう。だがそれは攻撃してはいけない。 クリムゾンの意識が遠のき、無意識に幻惑のルビーがその身体を操っては大鎌を握らせた。 だが――。 「死亡フラグクラッシュー!」 『断罪の神翼』東雲 聖(BNE000826)が自前の翼を駆使して全速力で二階に上がった、その勢い。その勢いで、巽に突進。 どこか線路の上で会ったような……あの女性に突進されるだなんて夢にも思わなかった巽。その身体は、勢いよく飛んでいって壁にぶつかった。 幻惑のルビーの効果が途中で切れたため、突然意識が元に戻ったクリムゾンの目の前は小さな惨劇が起きていた。 「……大丈夫ですか、ネパル」 呆れついでに心配したクリムゾンだが、ネパルはかなりそれどころじゃない。 壁に背をついた巽が見上げれば『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)が立つ。 「悪いな。このままお前さん放っとくとクリムゾンに殺されちまうんでな」 「うっせー! んなわけねえだろ!!」 話を一寸とも聞いていない巽が魅惑のガーネットへ歩き出そうとしたが、さり気無く若芽が足を引っ掛けて顔面から転倒。 若芽が巽の背中へと話しかける。 「その行動力は高く評価します。ですが、アーティファクトを壊すにはクリムゾンをどうにかしなければいけなくてですね」 地面にキスした巽の横に聖が立って、伝える。 「手順踏まないと壊せないアーティファクトだよアレ」 聖の指の先に見えたのは魅惑のガーネット。 「そして、その片割れは貴方が持っているのだろう?」 クリムゾンが背後を見れば、嗚呼、いつかお気に入りの人形を持っていったヴァルテッラが。 「おや、アーク。今日は金髪のお嬢ちゃんや、クールな黒髪の少年はいないのですね」 少し残念そうに首を傾げたが、すぐにまあいいと、目を閉じる。 リベリスタがここにいるということは、用件はだいたい分かっている。大鎌を持ち上げて、いつでも戦闘できる体勢に入った。 その頃、巽は未だに暴れていたので、龍治が持ち前のロープで縛り上げて拘束した。放置しててもクリムゾンは殺生しないので大丈夫だろう。 「ああ、お待ちください」 『リジェネーター』ベルベット・ロールシャッハがアークとクリムゾンの間に歩を進める。 「美を知るものならば、この場にあるものの価値もわかるでしょう」 そりゃもう、一大美術館なれば、その場にある物の価値は高いだろう。 なるべく被害を出さずに済ませたいところだが、正直な所だとベルベットにとってそんな事はどうでも良かった。 それは勿論、クリムゾンも同じだ。大鎌を柱にかかる絵画へ一閃し、ベルベットに振り返り笑顔を向ける。 運が良かったのは柱ごと切り裂かなかった事だが、その行動がどんな意味を表しているか言うまでもない。 すると、物陰から光線が飛ぶ。 それはクリムゾンの幻惑のルビーがある方の腕を見事に当てた。 腕はちぎれはしなかったものの、集中を重ねて撃った光線は十分な威力を持っていた。 「外したかー」 死角から『へたれ』坂東・仁太(BNE002354)が苦笑しながらその姿を覗かせる。 狙ったのは確実に当てた腕だが、幻惑のルビー狙いだとクリムゾンに悟らせる。 仁太の1$シュートにより穴のあいた服の綻びを引きちぎり、幻惑のルビーを露出させたクリムゾン。 「これが欲しいのでしょう? 俺を殺せたら差し上げます」 戦う気のクリムゾンに飛び出したのは、ヴァージニアだ。 ●Vice of Crimson リミットオフも終わり、すぐに飛び出して誰かを斬りつける。 二十秒もあればその場の誰かを戦闘不能にして、おつりがくるくらいクリムゾンには容易いことだった。 目の前には完全に十年とちょっとしか生きていないようなヴァージニアがいる。 少女が血で染まる姿が、何より好きだ。迷わず攻撃の手を彼女へ。振り切った鎌が真空を生み、そして向かうその刃先。 「美術館にはちょっと詳しくて」 「ごめん! 俺そういうの興味無いんだよね」 会話を試みたがバッサリ止められ、ヴァージニアの鎧ごと真空波が叩き斬る。 ヴァージニアの身体から出血が伴い、白き鎧が赤で染まる。体力が半分、ごっそり削れた。 舞った血を見つめてクリムゾンが、満足気に嘲笑っている。 ヴァージニアの負傷には一歩遅かったが、若芽が印を結んでは守護結界を展開し、仲間を護る。 もちろん、些細な防御強化でも無いよりはマシである。 「できたらガーネットと一緒にルビーも譲ってほしいな! そんでそのまま死んでほしいな!」 「元気なお嬢さん、最後の言葉さえ無ければちょっと揺らぎました。なんてね」 聖がオートマチックを両手に構え、その直線上にクリムゾンを捕える。 魅惑のガーネットさえ、こちらの手に入れば良い。そう思い援護するはずだが、動ける仲間がいなかった。 臨機応変に魔弾を放ち、避けようと体勢をずらしたそのクリムゾンの行動さえ読み切り、支配して、胴体に命中させる。 それに続いて、ベルベットが攻撃を仕掛ける。 「聞けば血に染まるのが好きとか。では、自身の血で染まってもらいましょうか」 アームキャノンから放たれた弾丸はクリムゾンの身体を貫通させ、リミットオフの庇護させ吹き飛ばす。 赤い燕尾服が綻び、そこから血が流れる。 「お手厳しいお嬢さん、気に入りました!」 クリムゾンの返答にも耳をかさず、着飾ったメイド服を揺らして身軽に後方へと飛んだベルベット。 「話ができても敵対者には割と厳しめの私です」 その表情はいたって真剣。 「是非、拘束して痛覚に泣きわめく人形にしてあげたいところですね!」 趣味のぶっ飛んだクリムゾンに火を点けたベルベットの前方で、ヴァルテッラがチェーンソー剣をクリムゾンへ叩き下ろす。 「君と会うのはまだ先だと思っていてね」 「ええ、俺も貴方とは縁を感じます」 交わす言葉は柔らかいものだが、行動は別。 重いチェーンソー剣を数センチのところでかわしたクリムゾン。 厳しい目線と、言葉だけが行き交った。 目線を切り、ヴァルテッラから離れ、再びヴァージニアの方向を向くクリムゾン。 「お嬢さん! 赤く紅い鮮血色はお好きですか?」 身軽に飛んだクリムゾンは走り、ヴァージニアの眼前まで移動する。 髪と髪が触れ合うほどの近さ。ヴァージニアの目には綺麗に笑うクリムゾンの顔ではなく、鋭い牙が見える。 大鎌などいらない。己の身体が武器となる。 その牙は、柔らかい首を狙った。が、ヴァルテッラが寸前でヴァージニアの身体を突き飛ばし、その牙を己の身体に受ける。 噛み付かれた部位から血が流れる。 望んだ的を噛めなかったのが悔しそうに、ヴァルテッラに視線を飛ばす。 また、貴方ですか――と。 「その腕、もらおうか」 けしてクリムゾンには聞こえない、小さな声。 その声の主。狼の鋭い目線がクリムゾンを捕らえていた。ライフルが、弾を放つ音が響く。 龍治が魔弾を放てば、それは吸い込まれるようにクリムゾンの腕輪のある腕を貫通させる。傷口から流れる血に目もくれず龍治を赤い目が見た。 ヴァルテッラの大きな背中の後ろで、ヴァージニアは完全とはいかないが、己の傷を塞ぐ。その手助けとなるように、若芽がヴァージニアの身体へ癒やしの符を張る。 聖が再びオートマチックを構えれば、二弾がクリムゾンへと向かうが、それは綺麗によけられてしまった。 だが、その流れるような回避の途中で、クリムゾンの頭が大きく弾かれる。 ベルベットがクリムゾンの頭を狙い、殺意篭もりの銃弾がその頭を当てた。 吹っ飛んだ帽子が宙に舞い、華やかな金髪が露出した。 赤い目がベルベットを見る。 「ああ、やっぱり貴方達は良い」 龍治が作った腕の傷口を舐め、アラベスクに染まった口先が吊り上がった。 ●終わりの赤 本日この依頼に足を運んだのは八人。 その中の数人は、クリムゾンの腕を飛ばすタイミングをじっと待っていた。勿論それは仲間を信じての行動だろう。 ヴァルテッラが己の身を呈して仲間も守り続けている。 ヴァージニアがその傷口を塞ぎ、聖やベルベット、龍治が攻撃の手を止めない。 だが、クリムゾン自身にも回復の手段はある。消耗戦というよりかは、どちらの回復が先に無くなるか、だろうか。 クリムゾンが何度目かのヴァルテッラの庇いに呆れ始めていた頃、物陰で戦闘を終わらせる鍵が完成し始めていた。 「うし、これなら……!」 宗一が未だひと振りもしていないグレートソードを持ち上げる。力のリミッターを外し、普段以上に力を練り上げたその剣。 美術館の柱の影から飛び出し、向かうはクリムゾン。 可能性に賭けたその迷うことの無い意思は、十分の威力を引き出す。 本来ならば身体ごと斬るべきところだが、今回の目標はきちんと見失わずにクリムゾンの腕へ強烈な一撃が加わる。 その威力は言うまでも無く、武器の力を最大限以上に引き出していた。その変わりに自らにもダメージを負うが、そんなものには動じない。 身体に痺れを感じたクリムゾンは舌打ちをし、血走った目で宗一を見た。 「今のは、かなり響きました」 言動は冷静ながらも、いや、冷静だからこそ冷たい目線に殺意が篭っていた。 クリムゾンが大鎌を振り上げれば、足元から爆風が生じる――デットオアアライヴ。 その味を知っているヴァルテッラは咄嗟に宗一とクリムゾンの間に立ち、守る。 破滅、破壊、そんな言葉が何よりも似合うその一撃が、ヴァルテッラの装甲を打ち抜き、ヴァルテッラの身体から光が溢れた。 大きな攻撃の後の隙を見逃さなかった仁太がアームキャノンから光弾を放った。 集中に集中を重ね、先程と同じく狙うはその腕。 今度は外したとおどけたりはしない。真剣に、本気に、その腕を飛ばすための弾を放ち、当てた。 「動かないでくださいよ、良い所なんですから?」 それと同時に若芽が周囲に呪印を展開させた。 シルクハットと、ウェーブの効いた髪の間から覗く瞳は、クリムゾンを逃さない。 動きを封ずるその符の並びは、クリムゾンの動きを完全に止めた。 それが決めてだろう、動けないクリムゾンに追撃が走る。 龍治がクリムゾンの腕を目掛けて再び魔弾を放った。 ――光る軌跡を作りながら、その弾丸は腕を貫通させ、その腕を吹き飛ばした。 幻惑のルビーが宙を舞い、地面に落ちる。 幾度なくフィクサードを魅了したルビーに、大剣が振り落とされた。 「こんなもの、無い方がいいんだよ!」 ヴァージニアの剣は幻惑のルビーを両断し、アーティファクトとしてその存在を消滅させた。 いつもあるものが無くなると、途端に違和感が生じるものである。 力無く、物の様に地面に転がるのは自分の腕であることには変わりはない。 「あー、これは予期していない事態というか」 血が吹き出す無い腕を見れば、顔色悪く現実を受け止める。 お目当ての品も、もうその目にはくだらないガラクタ同然となっている。 「悪いな。後は俺と遊んでてもらおうか!」 宗一が再び剣をクリムゾンへと向ける。もちろんその仲間達もだ。 あくまで目の前の人物はフィクサードである。止められるならば止めなくてはいけないリベリスタ達の正しい行動だろう。 「俺はもう帰りたいんですけどねぇー」 片腕で大鎌を持ったクリムゾン。 ――リベリスタ達には、あともう一仕事残っている。 ●終始を見つめたガーネット 荒れ果ててしまった美術館にはクリムゾンの姿は無く、残ったのは巽とリベリスタ達だけだった。 物質透過で逃げ去ろうとするクリムゾンを逃すまいと仁太が壁や床に空けた穴は大きなものだ。 「ふっ……アークならきっと全額弁償してくれるでしょう」 ベルベットが小さく笑う。きっと室長が頭を抱えるんじゃないだろうか。 「お、お前等のせいでまた逃がしたじゃねーか!」 うるさいほど叫ぶネパル――巽の身体の拘束を解いた聖が、彼の前に仁王立ちする。 「復讐とか使命感からかもしんないけど、前回や今回みたいに死ぬために戦うの止めたら?」 「し、死んでねえし……」 イヴや杏里の見る夢の中ではいつも死ぬ巽。 聖の真っ直ぐな視線を直視することはできず、顔を外らす。彼等のお騒がせにはお世話になりそうだ。 それを横目に若目がショーケース内の魅惑のガーネットを見つめた。 彼曰く、身体が勝手に動くのは惨めであろうこと。 きっとクリムゾンもそのプライドを、物如きに蹂躙されていたのかもしれない。 ――なんせ、二つ無いと取れないんだから。 「『古のガーネットの呪いか!? 美術館が荒れ果てる』あはは、またセンスの無い記事だなぁー」 翌朝、太陽の下で学ランを着た金髪男子が新聞を広げる。 新聞を捲るのに片手で苦労していたが、それも面倒になり新聞をゴミ箱へ放り投げた。 「さて、この腕どうしてくれよう」 包帯で巻かれた無い腕を隠して、人波へと消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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