●時間無制限の宝探し 「死ねよ」 「……。さくらちゃん集合して初っ端からみぞおちに蹴り繰り出されるとさすがの俺でも一瞬黙って座り込んじゃう程度の威力はあるんだけどそんなに逢いたかったんだと思えばこの痛みもきっと快感に変わるって信じてるああいい天気だねマイラヴァー」 屈み込みながら尚も寝言を繰り出す男をもう一発蹴り飛ばすのは何とか堪えた。 「阿呆言ってんじゃねぇよ変態。……だから何でまたこういうのを……」 「だって別の近場のがさあ博物館の剣だよ博物館、そりゃ怪盗系で売ってる人なら何てことないのかも知れないけど俺ら潜入得意って訳でもないし力押しで行くにしてもあんま数多いとそっちも俺ら向かないじゃん全員殺す殲滅ルートなら別だけどさあ警備員さん可哀想じゃん夜中に真面目にお仕事してただけで殺されるとかほら死亡フラグ的な」 「お前が捕まって警察に突き出されるまでの間に私が探し出すんでいいじゃねぇか」 「えっ捕まったらさくらちゃん助けに来てくれるって!?」 「何で?」 「ああ素の返答が痛くて癖になるわ」 胸を押さえる相手に冷めた目を向けると、男は先程蹴られた痛みを忘れたかの如くサングラスを直しながら流れるように言葉を紡ぐ。 「ほら世間様では今なんか物騒な人たち暴れてるじゃんだからこういう小物の回収って結構楽になると思うんだよね競争しなくてもいいしほら皆でお手手繋いでゴールって平和っしょ?」 「世情に関わらずこんな回収に来る連中は少ねぇだろうが」 「そこはそれで何があるか分からないじゃん世界。TVで啖呵切っちゃう怖い人が出る時勢だもんああほらそれこそこないだなんだっけアークの人とかも探しに来てたし今回もないとは限らないしー何があるか分からないんだから早めに回収しなきゃ生き馬の目を抜く世の中なんだぜ?」 「お前さっきと言ってる事違うぞ……」 「細かい事は気にしないのがいいってきっと昔の偉い人も言ってくれるからさ大丈夫だよ、で、回収は最後で良いかじゃあ何処から回る?」 「回収に来たんだろうが土産物探すぞ」 「うんそう来ると思ってたですよねー」 「それこそ何があるか分からないんだから早めに回収しなきゃ、だろ」 「俺の言葉を覚えていてくれるなんてさくらちゃんの愛を感じる」 「……じゃ、私手前から回るからお前奥行け」 「ええええカップルっぽく一緒に回ろうと思ってたのに!?」 「…………」 「さくらちゃんさくらちゃん幾ら人が少ないからって人前で武器構えるのはよくないと思うんだオーケイ奥から探します俺が見つけたら一緒に観覧車乗ってねそういう事で約束だよアイプロミスそれじゃあ!」 「あっ、良いなんて言ってねぇ――」 言いかけたさくらの話を聞いているのかいないのか、或いは意図的に聞かないふりをしたか。 確実に後者であるのは分かり切っていて、さくらは深くため息を吐きつつ目線を横に向ける。 そこには巨大なドヤ顔うさぎが、名前に違わぬドヤ顔で佇んでいた。 ●期間限定のうさぎの群れ 「ドヤ顔うさぎランド」 本日の『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉は、どこかの黒猫の青年の如く唐突であった。 「つまり遊園地」 え。ゆるキャラブーム便乗のマイナーキャラがそこまで成長したんですか。 「期間限定のタイアップ的なもの。だから正確な名前は違うけど、今の期間はドヤ顔うさぎランド」 全国に知られている遊園地ではなく、地元密着系の遊園地。 なので誰もが知る有名キャラクターとのタイアップではなく、知名度がなきにしもあらずなキャラクターを起用して意外性を演出してみたらしいとの事。 「この遊園地の中のドヤ顔うさぎのぬいぐるみっぽい何かが革醒したみたい。なんかもふもふしている感じの見た目以外はよく分からなかった。だからそれっぽいものを虱潰しに探して貰う」 それは何か害があるのか。 疑問を浮かべたリベリスタに、イヴはふるふる首を振った。 「今の所、ない」 害も起こさず、ただ覚醒しただけで与える影響も極めて微少。 ならば何故この時期に、と再び疑問を浮かべたリベリスタに、イヴはモニターを指す。 現れたのは、不機嫌そうな顔をした黒髪の少女と、やたら派手な蛍光緑の髪をした男。 「この間、牧場の羊の耳標が革醒したから遊びついでに探してきて、じゃなかった、探すついでに遊んできて、って依頼を出したのだけど。その時にいた一座木・さくらと蜂巣・ハルトがやっぱりそこでアーティファクトを探している」 彼らは特別に凶暴な悪事を働く訳ではないが、アーティファクトの回収を主にする――世界の為ではなく、自分の為に力を使うフィクサードだ。 彼らがアーティファクトを集めて回る理由は分からないのだけれど、とイヴは前置きをしてから話を続ける。 「前回の回収依頼の報告において、彼らは『ボーナス』等の言葉を口にしてたと聞いた。それに、アーク人員の事も知っていた。けれど、基本的に事を荒立てない主義の彼らが積極的に新興リベリスタ組織の事を深く調べるとは思えない」 彼らが単独で行動しているならば、リベリスタの事を必要以上に気にする必要はないのだ。 一般人に派手な被害を与える訳でもない、フェイトを得ているから世界を壊す心配もない。 リベリスタに積極的に喧嘩を売る気のない、比較的『穏健派』フィクサードの彼らが自力で情報を得たというより、彼らにはアークの事を知る組織的な『雇い主』がいて、それが注意を促すために情報を流していたと考えるのが妥当だ、と予知の少女は言う。 何か危険性はあるのか、と問うリベリスタに、イヴは首を振った。 「さあ。でも、どういった相手がバックにいるか分からない以上、あまり数多くのアーティファクトを集めさせるのも得策じゃない。例え良い目的に使おうとしているのだとしても、能力が伴わなければ暴走させる危険性もある」 本人達に聞いても素直に答えるかどうかは怪しく、そもそもバックの存在をどこまで知っているかも分からない。 事を荒立てる気もなく然したる害もない以上、無闇に喧嘩を売るのも憚られるし、と少女は肩を竦める。 「……でも本当の所、今はそれはどうでもいい。アーティファクトを見付けたら、後は楽しんできて」 イヴは遊園地のパンフレットをを渡しながら、そう告げた。 三度首を傾げるリベリスタの目を、異なる色の目が見詰める。 「異常事態に簡単に溺れてしまう人間もいる。けれど、不安に思う大事な人の心を和ませる為、遊園地に来る人もいる。それを笑顔で迎える人もいる。――あんな『殺人鬼』一人に、私達の世界は壊されたりしないわ」 そうでしょう、と淡々と、だが信頼を以ってイヴはリベリスタを見た。 「だから、楽しんできて。皆で暗い顔してても、仕方ない」 お土産話、よろしくね。 無数の悲劇と惨劇を見続け尚、普段と変わらぬ様子を貫く少女は――そう、チケットを差し出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月09日(日)22:23 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 誰かが手放した風船が、青い青い空に吸い込まれていく。 天気は快晴。 眩いばかりの太陽に暖められた肌を、秋の気配を帯びた風が心地よく冷やしていく。 最高の遠足日和であった。 「もふもふしたアーティファクトとか、他の誰にも渡してなるものか!」 一人気合を入れる『リ(※不具合)』結城 竜一(BNE000210)は、入り口に佇むドヤ顔うさぎの頭をぺふぺふ叩きつつ頷いた。 もふもふぬいぐるみを求めてやってきたのだが、思いがけずにデートという形になったとほくそ笑む。ああなんてリ(※不具合)だろう。 どこぞの室長に認められたアーク公式不具合だがその恋人は非実在少女かというとそんな事はない。 「完全に浮かれるのは見つけた後だぞ?」 竜一の腕にするりと抱きつく普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。 背の高い恋人と背の低いユーヌではうまく手を繋げないが、それならこうして歩けばいい。 控えめに言っても控えめな胸を押し当てて、終わったらゆっくり回ろうな、と囁いた。 「ふっふーん、先に見つけてとらはカフェで優雅にモンブランパフェを堪能するのよ!」 くるりと回って秋風にスカートを舞わせ、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が何処か勝ち誇った表情をする。 元より先に渡す気などないが、仮に先に見付けられたとしても問題ない。 とらの女優魂的なアレソレと穏便な交渉術があればばっちりである。そうばっちり。多分ばっちり。 多分周囲の目に居た堪れなくなるのはフィクサードが先だ。 先に持ち帰るという目的の為には、ちょっとばかし手段を選ばないとらに勝算があるに違いない。きっと。 「期間限定、ね。……アークの財力で三高平市内に造れば良いのに」 呟いたのは日傘の内に夜空を戴く『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)だ。 パンフレットを共に見ながらイヴにさりげなく囁いてみたものの、三高平市内に作ると外部の一般人が殆ど来られない為に娯楽施設として採算が合わないとか。残念。 しかし土産の好みは聞き出した。全て巡って探し尽くそう。 「ルカ、まえはさくらと仲良くできなかったから こんどはなかよくしたいな」 パーカーのフードを被った『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)が、ゲートの上に鎮座するドヤ顔うさぎと見詰め合いながら口にする。 一座木・さくら。牧場で出会った時は些か刺々しい対応が目立ったが、ルカルカはその程度でめげたりはしない。 「現状は不明な点が多いからな。可能な程度に探りも入れられれば良いんだが」 入り口付近、お土産人気ランキングを眺めながら『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662)が首肯した。 日夜アーク本部でフォーチュナとしての役目をこなす少女と、余り年の変わらぬ娘を思いながらどのぬいぐるみが良いか真剣に悩みつつ、フィクサードと遭遇した場合にどんな言葉を掛けるかの思考も止めない。 「まあ、フィクサードも気になりますが、今回は手早く見付けてのんびりさせて貰いましょう」 パンフレットを片手に源 カイ(BNE000446)がその柔和な顔に微笑を浮かべた。 平和的に済むならそれに越した事はないし、遊んで良いと言われたものを断る必要もない。 「しかし、手掛かりは『ドヤ顔うさぎのぬいぐるみっぽい何か』と言う事だけか」 どうやって回れば効率的かを考えながら、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)はパンフレットと睨めっこ。どこから遊ぼうか考えてるんじゃないよ。本当だよ。真面目に探すんだよ。 と、考える事は人それぞれだが、相変わらずの人は相変わらずである。 相変わらずのひよこ頭はひよこ頭というべきかも知れない。つまりは『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)の事だ。 「羊をモフモフしてタグを探してフィクサード蹴っとばしてソフトクリームを売店で買って食べるんだろう! 完璧だよ!」 デジャヴ。うん、完璧だよ。一ヶ月前なら。まだモフり合戦したいのか。どこにいるんだ羊。ルカルカか。 「遊園地などに興味はない。一刻も早く回収するぞ」 相変わらずなのは『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)も同じく。 イヴの言葉もどこへやら、彼のメインはあくまでアーティファクト確保に向いていた。 ここには彼を誘惑するもふもふが着ぐるみ程度しかないのが残念といえば残念である。 あ、着ぐるみがいた。手振ってる。可愛いよほら。 竜一ととらが抱きついた。むしろもうタックルだ。 そんな微笑ましい風景を皮切りに、リベリスタ達は各々調査すると定めた位置に向かっていった。 ● 探す必要もなくフィクサードと遭遇したのは、遊園地に入ってすぐの位置にある店舗に入ったルカルカと疾風。 黒髪の少女が、並ぶ巨大なぬいぐるみをもふっとしてみたり抱き上げて後ろに陳列されているのを眺めたりしている。傍目にはすげえ真剣にぬいぐるみを選んでいる様にしか見えないのは多分本人にとっては不服であろうが、それはともかく。 ぴょこり、と跳ね上がったフードから零れたピンク髪に一瞬目を向け、さくらは面倒くさげな表情になる。 「お前……」 「こんにちは、羊ぶりだね、羊かわいいよね」 「いねぇだろ羊なんか」 「うさぎもすき?」 屈託なく近づいてさりげなくそれ以上の探索を妨害するルカルカの後ろで、何気ない振りをして疾風が棚を眺めていく。 陳列されているものだけではなく、意識を集中させ棚の奥、そして下部引き出しに入っている在庫まで見通す目。 「あ、これ可愛いねえ。お土産に買っていこうかなあ」 顔を上げた先にリボンを付けたドヤ顔うさぎ(小物着脱可能)を見付け、その表情が緩む。 思い浮かべるのは可愛らしい恋人。 今回は一緒ではないけれど、機会があれば腕を組んで遊園地を歩く事もあるだろう。 常日頃から共に過ごしては笑顔を見せてくれる彼女だけれど、このお土産を渡せば更に喜んでくれるだろうか。愛しい彼女の声を思い出しながら、疾風はそれを手に取った。 そんな疾風の横を過ぎ、ルカルカはさくらの後をちょろちょろと付いて回る。 さすがにうっとおしくなったのか口を開こうとしたさくらの頭に、ぽふりとドヤ顔ぬいぐるみ帽子(税込1290円)が乗る。 「おお、似合う。ルカとおそろ」 「羊なのかうさぎなのかよく分かんねぇ事になってんぞお前……じゃなくてうぜぇんだよ、どっか行けよ」 「ルカはルカだから大丈夫。ね、リベリスタ、どうして嫌いなの?」 教えてくれたら別のところに行くよ。 少女の囁きにさくらは目を眇め――知らねえ、と言い捨て歩き出した。 ちなみにその頃、ユーヌの頭には竜一の手によってうさ耳が生え、氷璃の腕には既に二つほどぬいぐるみが増えていた。 リベリスタは各所に配置され、その探索にも余念はない。 ルカルカの追求から逃げるようにドリンクスタンドを早々と切り上げたさくらは、ストラップが並ぶワゴンの向かい側にいる顔に露骨に嫌な顔をした。 「……またお前かよ」 「言った筈だ、どこまでも邪魔をすると」 幻視もエリューション能力を保持した者同士では意味がない。赤髪の少年を覚えていたさくらが忌々しげに吐き捨てれば、あくまでも淡々とした口調で優希は応じた。 「リベリスタじゃねぇなら排除しなきゃ気が済まないって?」 「そういう意味ではない。……お前がそこまでリベリスタを嫌うのは相応の理由がありそうだな」 過去に何かあったのか、と問う優希を、さくらはいつかの様に鼻で笑う。 「さっきの奴と同じ事言うな。で、理由がなければ殺すと」 「俺は別に人殺しをしたい訳ではない」 「どうだか」 「こういう事をしている内はまだいい。……だが、もし憎悪に囚われているようならば、何かの弾みで厄介なアーティファクトに精神を乗っ取られかねん」 優希に僅かだけ強く握り締められたドヤ顔うさぎがぴぎーと鳴いた。 内部に潰すと鳴るアレが仕込んであったらしい。 「傍に居て気にかけてくれる者がいるのだろう?」 なら、別の人生も探せるのではないか――続けようとした優希の目の前に、ストラップが投げられる。 ぴぎゃ、と衝撃で跳ねたそれを落ちる前にキャッチした優希の耳に、さくらの言葉が入る。 「……もう誰がいるっつうんだよ。くっだらねぇ」 ちなみにその頃、着ぐるみがアーティファクトかも知れないと恐る恐るホラーハウスに踏み込んだ竜一が音に驚いて、全く動じていないユーヌを抱き締めてたりした。ぎゅー。 双方共に可愛いなあ、とか思っていたりするのだが、それはそれとして置いとこう。 で、氷璃の持つ袋は大袋になっていた。 「見付からないな、あ!」 疾風はジェットコースターの急下降に言葉を詰まらせたりしていた。 ● 一方、カフェ手前の時計台にて。 「はじめまして! きみは前に会った誰かと似ている気がするね!」 「あ、こんにちはやだなひよこさん俺ほんに」 「まぁ気のせいかな! この歳になると新しい出会いでさえ過去の出来事との共通線を探して、簡単な接し方を探ろうとしてしまうんだ……きみはきみであって他の誰にも似ていないことなんてみんな知っているのにね」 「いや普通に良い事言ってる気がするけど俺本人!」 「前に出会った1とか8とかいう名前の漫才コンビのことは今日忘れよう……おっと、独り言だよ」 「だから俺だから! 俺だよ俺蜂巣のハルト!」 「……どっかで聞いたような気がする……? まあいいか、あたしにはそこらのリベリスタが一撃でぶっと」 「えっマジ忘却なのひよこさんそれこないだ聞いた!」 「じゃあなかよくしようぜ!」 「そもそも戦うなんて俺いっこも言ってないじゃんね!?」 「あれ? そうだっけ?」 「でかい、顔でかい! すごみのドヤ顔!」 真面目に首を傾げた比翼子の後ろで、カフェ内のとらがもっしゃもっしゃとぬいぐるみをモフってたりする。あ、大きいぬいぐるみ抱き上げてくるるんとか回ってる。 割と本気で突っ込んで息切れしていたハルトが、ふと顔を上げてサングラス越しに比翼子を見た。 「っていうかさ俺もさくらちゃんもこないだは名前しか言ってなかった気がすんだけど何で苗字まで知ってんのひよこさん」 「あれ? そうだっけ?」 あれ、なんかきいたことあるこのせりふ。 若干遠い目をしたハルトが、ややして首を振る。 「……って、俺も分かってて言うのもアレか有名だよねアークの『目』は凄いって」 「よくご存知ですね。争う気がないのは僕らも同じですよ。一休みしませんか?」 横から現れた缶コーヒー。 ハルトが視線を移せば、カイがいつもの人好きのする穏やかな顔でそれを差し出している。 「あ、ありがとーでもこれ飲んだら『ふっ掛かったな実はそれには毒が仕込んであるのだよ精々あがく顔を見せてくれ!』とかいきなり眼鏡外して悪役チェンジしたりしないよなおにーさん」 「しませんよ。最近溢れてる殺人鬼じゃありませんし」 不安ならそちらでどうですか、と示されたカフェの中で手を上げた達哉を見て、ハルトが微かに苦笑いを浮かべた。 「あらままたおにーさんもいるのえーと如月だっけごめんね俺中々覚えられなくて」 「間違いない。久しぶり。惨殺ニュースの事件の混乱の中でも元気そうだな」 「まーねお陰様でっていうか何だよもうそれこそ殺人鬼騒ぎでリベリスタの人ら皆出払ってると思ったのにこんなにいるのずるくねもっとこう忙しくしてるもんかと思ったのにさあ」 「決して暇してる訳ではないけれどね。ある程度は気遣って貰えるという事だ」 労働条件は悪くないぞ、と勧誘を持ちかける達哉にハルトは胡乱気な顔を向ける。 「……アークって緩いの? いや例えばそうだねうんありがとう俺リベリスタになるよこれから新生ハルトくんを宜しくねって言って入ってさあそれがフェイクで内部状況とか流したらどうする訳?」 「その辺りは蛇の道は蛇……というか、アークの情報網を舐めないで貰おう、と言うしかないな」 「……ふうん」 訝る顔はそのままに、軽い頷きだけを返す。 探り合いはどちらも同じ。友好的な相手の友好的な誘いに警戒を示すのは、己も友好の裏に何かを抱く性質だからか。異なる色に染まる視界の奥で、視線が結ばれて離れる。 「まあお誘いだけはありがたく聞いとくけどでも俺早く探さないとさくらちゃんに怒られるから、」 「必要ないわ。もうこちらで見付けたから」 涼やかな声。響いた先には、ハロウィン仕様のドヤ顔うさぎを抱いた氷璃がいた。 嘘ではない証拠は、抱いたそのぬいぐるみが証明している。 そう、既に少しばかり前に発見は幻想纏いによって全員に通達されていたのである。 カフェに集まっていたのはハルトに無駄に人員を割いた訳ではなく、単に休憩場所として自然と集まっただけの事。そして氷璃の土産は大袋二つ目に入った時点で郵送に切り替えてある。万全だ。 一瞬だけ視線を走らせたハルトだが、リベリスタを周囲に置いて奪取に走る気力はないらしく、観覧車が、と呟いて深く溜息を吐く。 と、そこにルカルカがさくらの手を引いてやって来た。 すごく抵抗されたがルカルカの粘り勝ちというやつだ。 途中でえすぴーしーとかアーティファクトの情報入手先とかも聞いてみたが、それは知らないと一蹴された。 「おー、ハルトもひさしぶりだー。ルカ、ソミラ、羊。おまえもなのれー」 「えっ俺だから蜂巣ハルト蜂じゃなくてにんげ、って、言うか、さくらちゃ」 繋がれた手に言葉を止めたハルトを見やり、さくらはルカルカの手を振り切るとその襟首を引っ掴む。 「ああもう、和んでんじゃねぇよ馬鹿が!」 「いや和んでたんじゃなくてちょっと休憩をね!」 「似たようなもんじゃねぇか馬鹿!」 「さくらちゃんあんま馬鹿馬鹿って言われるとハルト目覚めちゃうかも」 「ああああああ何に目覚めるっつうんだよ変態が死ねよもう!」 目の前で一気に騒がしくなる二人に向け、氷璃が問う。 「貴方は何故、何の目的があってフィクサードをしているの?」 達哉が先程問い損ねた一言。 ハルトが口を開くより早く、さくらが舌打ちをした。 「どいつもこいつもうっせぇんだよ本当にさあ……帰んぞボケ」 「え、さくらちゃんせめてコーヒーカップとか」 まだしつこく粘るハルトを黙殺し、"ハバネロ&チョリソーのカレー風味タコス!" というもはやどこの国の料理だか不明なワゴンのスナックを手に見詰める優希の前をさくらは見もせずに歩いていく。 溜息をついたハルトが困った様に一度振り返った。 「……俺にはリベリスタになる方が目的とか理由とか必要だと思うんだけどねだって世界の為になんか生きられないじゃん?」 問いの形は取っているが、返答は聞かず。 派手な色の頭をした男も、既に人ごみに紛れかけていた少女を追った。 入れ違うように現れた疾風が、既に片手いっぱいのお土産を片手に笑う。 「や、お疲れ様です。ホラーハウスは結構怖かったですよ」 「――カートはどうでした?」 「思ったより迫力があるもんですね。お勧めです。ここのカフェは何かいいのありました?」 カイの問いに頷いた彼の言葉に、ルカルカがメニューを覗き込んだ。 「あ、ルカも何か食べる。何がいいかな」 「……ふむ。僕としてはこの柿のクリームが入ったシフォンが気になるかな」 「食べる! あたしも食べるぞ!」 隣からメニューを覗き込む少女に達哉が示せば、ぱたぱたと寄ってきた比翼子も翼を振る。 「私はもう少しそっちの店舗を見てくるわ」 「ポテトアップルパイも宜しくお願いしまぁす☆」 まだ見足りない氷璃が歩き出し、とらが紅茶を飲みながら手を上げた。 閉園までは、まだしばらく。 ● 観覧車。 竜一とユーヌは、誰にも邪魔されない空間でゆっくりと時間を過ごしていた。 ゆるゆると高度を増していく個室。 小さくなっていく人々と建物。 折角の光景だと言うのに人がなんちゃらの様だとかどこかで聞いたような台詞を吐きながら、竜一が紅に染まり始めた園内を眺める。 だが、恋人はそんな竜一を咎めない。いつもの事で、いつもの彼が好きだから。 「自分で飛ぶのとは違うな」 ユーヌは竜一の膝で頷きを返す。ただでさえ狭い密室だというのに更なる密着、鼓動が近い。 竜一の首にユーヌの細い腕が回り、柔らかい頬に頬が触れる。 可愛いな、と呟いた竜一の唇が閉じる前に、頬よりももっと柔らかい何かが掠めた。 ぱちり、と瞬く彼の前には、悪戯な恋人。 「驚いた顔も可愛いな」 ――告げられた言葉と微笑に、夕日とは違う赤で頬が染まるまで後数秒。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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