●模擬戦でもしましょうか 「本日はみなさんに、模擬戦をして頂きます」 一般的な「模擬戦」に駆り出されるには些か多いリベリスタ達を前にして、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)はにっこりと笑った。誘いを受けたのか、徐々に増えつつあるリベリスタ達を等配分すれば、それこそ相当な長丁場になる可能性も否めないだろう。実力の拮抗も望めないかもしれない。その点はどうするのか、と一人が問おうとしたところへ、彼は軽く手を上げてそれを制す。 「模擬戦と言いましても、従来の集団戦や単一対象との戦闘ではありません。原則、一対一で行ってもらいます。 ルールは、一撃決着型……一太刀浴びせた方の勝利とします。 理由は簡単。何れ激化する戦闘に於いて、一撃の重みが互いの勝敗や戦闘の趨勢を大きく左右することを考えるなら、単純な消耗戦を強いるより、ぎりぎりの状況下で『一撃の重み』を体感していただきたいからです。 既に知っているという方も居るでしょう。貴方がたの放った、または受けた状態異常ひとつで戦場ががらりと変わる恐怖を刻んだ方も居るでしょう。 ――そう、威力も大事ですが、当たらなければ意味が無い。刃を向けないひとかどの癒し手であれ、一瞬の隙を作る役目を背負う可能性もある。 ですから、今回はもうひとつ。『ドローマッチ』という条件を追加します」 一気にそこまでまくしたて、一息ついた夜倉は手元のペットボトルを掴み、一瞬の躊躇の後にそれをそのまま下ろす。 「無論、経験の値ではありません。命中力と回避力を主体として判断し、極力近い実力の方と当たって頂く。それだけです。望むのでしたら二度、三度の機会も設けましょう。その際は、同程度の中で更に勝敗を加味させて頂きます。ただ」 小さく、人差し指が立てられる。 「皆さんが切望するマッチングでしたら、叶えて差し上げるのは吝かではありません。よい模擬戦を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月06日(木)22:21 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 0人■ |
■サポート参加者 36人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●ちょっと待て導入編 アーク・模擬戦フロアエントランス。 時折模擬戦会場として貸し出され、様々な趣の戦闘を見てきたそのフロアの中央に集まったのは、36人にも及ぶリベリスタ達だった。皆、これから各々が挑むべき戦いに身を固く、緊張しているように…… 「全リベリスタ入場! 全リベリスタ入場ッッ!」 ……は、全く思えなかった。 アンデッタの唐突なマイクパフォーマンスにより、リベリスタ達の紹介が始まるような、そうでないような。 何故か実況席ポジションに居る三千も、些か困り顔だ。 「黄金の翼を持つ優勝候補! 今日も炸裂するか最強無害な必殺拳! 閑古鳥比翼子! 狸が出るか兎が出るか! 平和主義な荒事師! 犬束うさぎ! 文武両道社長令嬢! バランス型戦闘で生き残れるか! 大御堂彩花! 戦場が私の舞台! 剣を手にして舞い踊る! アイリ・クレンス! 分の悪い賭けは嫌いじゃない! 義を知るばくち打ち! 結城宗一! 一撃に全てを賭ける! 勇者を目指す女の子! 真雁光! 人より一発でも多く殴りたい! 香港黒社会からやって来た乱射魔! 関狄龍! 速さならこの人を忘れてはいけない! 俺様最速伝説! アッシュ・ザ・ライトニング! ヨーロッパ出身の正義の代行者! 今日も正義のためにやってやる! アルティ・グラント! 笑顔が自慢の喫茶店店長! 燃える闘志は本物だ! 源カイ! アーク屈指のお腐れ様! その実態はスナイパー! 立花英美! 褐色肌のクール眼鏡! そのネコミミが眩しいぞ! レイチェル・ガーネット! アークきってのトリックスター! 相手の三手裏をかく! 歪ぐるぐ! 何処にでも居る普通の少女! 隠した羽根は伊達じゃない! ユーヌ・プロメース! 既にぴよこと一心同体! フィンランドが擁するイケメンリベリスタ! アウラール・オーバル! 我道を行く無頼漢! 拳と体がすべての武器だ! 古賀源一郎! 今日も今日とて彷徨う乙女! ナイフの冴えは神風を呼ぶか! 桐咲翠華! ドイツが誇る重戦車! 勝鬨はビールのあとで! ディートリッヒ・ファーレンハイト! 地獄の沙汰も金次第! 今日も早打ちが冴え渡る! 坂本瀬恋! がっしりともふもふの共演! 見た目によらない頭脳派戦士! 武蔵吾郎! 一撃必殺問答無用! 何はともあれ限界排除! マリー・ゴールド! 手にした得物はSAN値直葬! 一撃必滅のアンタレス! 小崎岬! 元気が取り柄のわんこキャラ! しかし闘志は人一倍! 桜小路静! ……これ以上は、尺的に無理!」 というわけで、アンデッタさんはお疲れ様です。 まだまだ紹介が足りないけど、そこは実際の戦いで魅せてもらうということで。 「皆さんの傷は僕が治します。安心して戦ってくださいねっ」 うお、解説役かと思われた三千、まさかのメディック要員。その笑顔が眩しいです。 返して言えば、「遠慮無く戦ってこい」ということになるわけだが……まあ、アリだろう。 こうして、リベリスタ達は各々相手を見つけ、ないし選定された上で模擬戦フロアへと散っていく。 軽く、長い十秒の宴はこうして始まりを告げたのである。 ● 「一仕合い、宜しく頼む」 「こちらこそ、宜しく。優希さん、全力全開でいくよ」 静かに一礼を向けてきた優希に、凪沙は相変わらずの笑顔で応じた。 二人は、共に覇界闘士であり、年齢的にも近く、加えて実力の程も同程度である。現在の実力の程を知るには最も適切な相手であると言えた。 僅かな距離を置いて、二人が対峙する。互いの緊張が振り切れたその一瞬、踏み出したのは凪沙の方が幾分か早かった。 前傾姿勢から、一気に踏み込んでのアッパーカット。その体格を利用した体重移動は、優希にとって一瞬姿が掻き消えたに等しかっただろう。両腕で何とか受け止めた優希だったが、返す刀の足払い――それに乗せた真空刃は、跳び上がっていた凪沙へは僅かに届かない。 本当に、紙一重だった。靴先の皮一枚といってもいいその刹那は、互いの実力の伯仲を示すに相応しく。今日この日に於いて、凪沙がその僅かを掴みとったが為の勝利だった。 「ありがとう、優希さん。凄く勉強になったよ」 「負けてしまったか……飯でも奢ろう。何がいい?」 勝利の快哉を声高に叫ばず、感謝の言葉が先に出る彼女を前にして、優希はやれやれと首を振った。 まだまだ、あらゆる意味で修練が必要らしい、と。そんな思いが頭の隅で浮かんでいた。 「一撃必殺! と聞いて来てみたら見事にボクいじめのルールだったでござるー」 ぶぅ、と頬を膨らませる岬を前にして、しかし対峙した狄龍にとってしてみれば些細な問題であった。相手がどうあれ、自分の一撃を磨くには丁度いい機会であることに変わりはない。乱射魔扱いされてはいても、今回その手に持った得物はナックルブレード。 「じゃあ、そろそろ始めようぜ」 「ところで、ルールにないけど引き分け続いたら5回行く前に殴り倒しても勝ちでいいのかなー?」 「おいおい、それは冗談になってな……ッとォ!?」 言葉を発したが速いか、打ち込むが早いか。岬は既に狄龍へ一撃を見舞っていた。大振りな斧槍・アンタレスをして振るわれたとは思えない一撃が狄龍を襲う。圧倒的な重さの一撃をして、しかし狄龍も、踏み込んだ勢いのまま一薙ぎに刃を振るう。一撃の入りは十分。互いに血を振りまきながら、狄龍が先手を奪い取った。 霞むような連撃。文字通り滝のような苛烈さ、速度をもって放たれた連続のバックスタブは、その一撃を見事に当て切り、二撃目は辛くも岬が避けきった。 「今のでキメたと思ったんだがな……!」 「致命傷にならないとこで受けとけば良いんだよー」 彼女の言い分もまた、尤もだ。現に、積極的に背後を狙わなかったとは言え、既に受けた二撃はどちらも、首筋だけは避けきっている。返し、放たれた一撃も狄龍を捉え、弾く。 一歩も退かず、互いに倒れず、避けず、三合目へと身を躍らせる。 三合目は、岬が一歩早かった。疾風を巻いて奔る一撃が、狄龍を薙ぐ。それでも、彼は止まらない。限界ギリギリの線で放たれたその刃は――僅かに、必中の軌道を外れ、そのまま膝から崩れ落ちた。 ダメージレベルからも、戦闘結果からも、岬が僅かに上回った。慌てて駆け寄る三千を視界に入れ、狄龍は深く息を吐いたのだった。 「おーいマリー、模擬戦やろうぜ!」 「よかろう、返り討ちにしてくれる」 そんな、どこの野球少年をイメージさせるのかよく分からない二人は、吾郎とマリー。 「誘いに乗ってくれてサンキュ。……んじゃあやるか」 互いの得物を構え、一歩。吾郎の全神経を集中させた一挙動は、マリーのそれを凌駕して肉薄する。幻影の影から彼女を切り裂いて去ろうとした吾郎だったが、その視線は、別の意味で釘付けになっていた。 「手加減はしないぞ」 ご、と空気が爆ぜ、地面が揺れる。体力を犠牲にしての肉体強化……って、あれ? 「ま、マリー! それじゃ結果もなにも無いぞ!?」 「ふム、違ったのか……?」 圧倒的な破壊力を身に纏ったまま、首を傾げるマリー。 流石にこれでは不味いということで、二分間のインターバルが置かれることになり……当然、リミットオフの反動は三千がきちんと治療していきました。 (まだ依頼でちょっと一緒になったりしたくらいだが、マリーは凄い。危うい、でも目が離せない。俺にとってそんな相手だ) 再度、互いの距離を合わせ、立ち会う。今までも、たった今も。彼女は自らを違えない。 それを意識し、もう一度立ち会う。 今度は、僅かにマリーが早い。だが、それは吾郎の思考の範疇。最速の前進を、ひたすらの剛撃を、自分は柔の刃で返す。 マリーの全力のメガクラッシュが、吾郎を中心から一閃する。だが、それは彼の姿を模した幻影。柔の一文字そのままに、吾郎の刃が彼女を裂いた。 「いつの間にか、俺より強くなりやがった。けど、まだまだ置いて行かせねえよ」 「ふム……足りないか」 吾郎は、勝利を奢らない。マリーは、敗北に諦めない。 彼らの在り方は、等しくストイックだといえた。 「痛いのは我慢しろよ?模擬戦とはいえ……手は抜かねぇかんな!」 「一撃当てれば勝ちだもんね、こっちも当てていくよ!」 気合を漲らせた宗一と、参加することに意義を見出し、経験を積もうとする悟。ベクトルが違えど、その戦いに貴賎は存在しない。 「最初から本気で行くぜ!」 一撃に全てを駆け、派手に叩きつける。宗一の意思をそのままに、雷光を纏った刃が悟へ迫る。しかし、悟もさるもの。相手の動きを見つつ足でかき回そうとした彼の戦略は、そのまま初撃の回避へと繋がった。経験の差とか、そういうものではなく――偶然にして必然。魔力の矢は、一瞬の隙をついて宗一の体を貫いた。 「……ッチ、負けちまったか」 「勝てるとは思わなかったよ、ありがとう!」 敗北に苦いものを覚えた宗一だったが、悟の笑顔の前にその感情も霧散する。一瞬、一撃の価値は、等しく二人の肩に乗った。 ところで。 「対等な相手と戦う」という条件を、面白い方向に解釈した人間もまた存在する。アウラールである。 「それじゃ、自分にジャスティスキャノンを……」 待て。ちょっと待てアウラール。それは何だか、何だか色々違うと思うけど、間違ってないから否定できない。 しぱーん。自らに向けた得物から放たれた十字の閃光は、確かに彼に当たりはしたが……。 「なんで、こんなに入らないんだ……」 当の彼にとっては、自分に対する激しい怒りが発生しない時点で失敗であり。 自分に怒れないから敗北という、面白い結果を見出したのだった。 「胸を借りるつもりで……でも、本気で勝たせてもらうわよ?」 「ええ、僕も全力で行きます。宜しくお願いします」 手元のナイフを弄びながら、翠華の意思は至極冷静だった。経験の差はあろうが、それでも全力を出せるなら、と。 速度はほぼ、互角。翠華のナイフが一斉に舞い、それを縫って貴志が迫る。互いの一閃が交錯し、数秒。 「私の勝ち……みたいね?」 被弾の余韻を残すのは、貴志のみ。経験ではなく実践で、翠華は自身の勝利を招き寄せたのだった。 「よろーしくおねがいしまーす」 「まさかこう来るとはな。だが、自分の分際を知るには丁度いいかもしれない」 自らをトリックスターと標榜するぐるぐと、自らを普通と規定し、平常心を喪わないユーヌ。命中力と回避力からすれば、互いに互角。 (この緊張感、良いな。昂ぶる) 僅かなタイミングの差で、先手を取ったのはユーヌ。素早い構えから放たれた鴉の式符は、ぐるぐへと一直線に向かっていく。 だが、敵もさるもの。ラージシールドを囮に退いていた為か、式符の軌道から完全に姿を消していた。 ユーヌが驚嘆する間も惜しく振り向いたときには、既に彼女の気糸が宙を裂いてユーヌを貫いたところであり。 「にふふー。やーいやーい」 「うん、だが面白かった。またやってみたいな」 敗北をも糧として飲み込むユーヌにとってみれば、ぐるぐとの対戦は貴重な経験となったのではないだろうか。 「後衛が襲われるシチュエーションというのもよくありますので、こういう対戦もいいでしょう」 「まあ、やるだけやってみますわ……」 後衛としての戦いに望んだ星龍と、積極的な攻防を主とする彩花。そのスタンスは違えど、奇しくも両者は長距離戦に覚えがある者同士。こと星龍は、自らが襲撃を受けることも想定して、回避にもその鍛錬を割いている。 敵として十分。そう感じた彩花には、元より気の迷いなど存在しない。 「では、いきますわよ!」 お嬢様よろしく、鮮やかな足取りから鋭い蹴りが放たれる。風を巻いて突き進むが、星龍は慌てては居なかった。相手が集中、ないし強化スキルを使うと踏んでの待機。対策がないわけがない。 「避けられないのも問題ですから……ねっ」 紙一重、彩花の一撃をかわすか否かのタイミングで銃を持ち上げ、構える。一点集中の強烈な一撃は、彼女の風の軌道をそのまま返すようにして放たれ、その機動力を削ぎ落とす。 勝利のための戦略性。自らの成長が、順当なものであると自信を持つには十分な勝利だったのではないだろうか。 「もし、取り残されて前衛になってしまった時のこともありますし」 「よろしくお願いしますね」 自らが前に出る可能性。それを考える上で、螢衣は確かに不利な方であったと言えよう。対し、カイは柔和な印象こそあれ、その裡に秘める熱は他のリベリスタと比べても一切の遜色はない。強者との戦いも厭わない彼の気合は、十分以上。 「……必ず、当てる」 そして、その踏み込みも冷静そのものだった。速力を重視した螢衣をして先手を取り、力を抜いた踏み込みからの気糸の乱舞は、見事に彼女を縛り上げ、締め上げる。 決着は、それで全てだった。だが、これが単に「当てた」だけであり、螢衣の反撃の機会があれば、彼女にも或いは勝ちの目が存在したのは確かだ。何故なら、両者は最初から、相手の動きを奪い取ることを画策して動いていたのだから。 「腕試しに参加してみるのも一興かと思うのですよ」 「なかなか、こういう機会がなかったので助かりますぅ」 マグメイガス同士であり、狙われる者同士とも言える茉莉と奏音。両者の戦闘は、ある種必然とも言うべきマジックミサイルの打ち合いと相成った。 こうなれば、後は奏音の言葉通りの運否天賦が支配する状況下。互いの一撃を敢えて受け、加えて二撃目も互いに外さない。……だが、そこに存在したのは確かに運。茉莉の一撃は必中であり、奏音の一撃は命中であった、それだけの違いだったのだ。たった二十秒。たった四発のマジックミサイルの打ち合い。だがしかし、互いに刻まれたのは自らが持つ技能の底力であるということは、言うまでもないだろう。 「流れを左右する一撃……か。私も、いつかはそんな流れを生み出したいものだ」 感嘆したように呟くアイリに、対するはぼんやりとした雰囲気を持つエリスだ。然し、彼女は彼女で侮れる存在ではない。アイリとて、勝利ではなく学びを考え、ここにきた。 故に、その身に油断は無い。 エリスの挙動が、視界に入る。打ち込んでくる一撃が、軌道が読める。 観察することを是とし、フェイントからの一撃を目途とし。振り上げた刃は、見事にエリスの胴へと打ち込まれる。その一瞬の交錯をして、決着は成された。アイリの手に残る完全な一撃の感触は、暫く彼女を手放すことは無いだろう。 真琴とアンデッタの戦いもまた、熾烈なものとなっていた。 アンデッタが実況役? とんでもない。 術師でありながら、前衛である真琴に食らいついているのだ。 一合目、真琴のハイディフェンサーの隙を狙って放たれたアンデッタの一撃は、しかし巧妙にかわされる。 二合目、本来のスピードを越えて二度の攻撃へと踏み込んだ真琴を、しかしアンデッタは巧妙にかわす。 二撃目の隙は、大きい。合間を縫うようにして放たれたアンデッタの一撃は、見事真琴を捉え、一筋の糸から勝利を手繰り寄せる結果と相成った。 連撃をかわすという脅威が、結果として勝利を呼び寄せたと思えなくもない。 「誰からでもかかってこーい! 来ないならこっちからいくぜ?」 静、気合十分。対峙するは、重戦車の名をほしいままにする男、ディートリッヒだ。 ディートリッヒが一撃型なら、静は軽量のスピードタイプ。先手は、当然の如く彼が先だ。 ディートリッヒの周囲を駆け、一瞬の隙を狙い、一気にハルバードを振りぬく。それが全て。それが最も適した彼の戦い方。 「いっくぜー、当ったれー! 超必殺・アルティメットダイナミック静スペシャル!!」 ……すげぇかっこよかった。ネーミングが。 他方、まともにぶつかっていれば好勝負であったろうディートリッヒだが……爆砕戦気が効力を発揮する頃には、既に戦闘は終了していたのだった。まあ、仕方ないよね。 元気一杯、嬉しそうに飛び跳ねる静が何だかとてもかわいいとかそういうことで。 「実践には劣りましょうが、安全に場数を踏めるのは有り難い」 「まだまだ未熟な僕としては格好の訓練ですね」 未熟とか何とか言いつつも、孝平・うさぎ両者の実力はリベリスタ内においても上位に遜色の無いそれであることは確かだった。 先手を打った孝平の刃が、うさぎへと迫る。しかし、直前に宙を舞ったうさぎの緑布がしなり、孝平の視界を塞ぐ。軸を僅かにずらされた一撃は確実なものには届かない。そのタイミングを逃すまいと、うさぎの刻印の一撃が迫る……が、孝平とてリベリスタである。僅かなタイミングのずらしから、何とかその一撃を避けてのけた。互いの特色を活かした戦闘は、十秒とは思えない濃密さをもって刷り込まれたかもしれない。 「一騎打ち。それは戦いの誉れ。戦場に咲く栄光のロード。 これ以上正義を示すに相応しい戦いは他になし! アルティ・グラント!正々堂々正義の名の下に誠心誠意ぶちのめします!」 「正義……! なんかカッコいいのです!」 アルティの堂々たる名乗り口上に、光はすっかり虜になっていた。まあ、わからないでもない。勇者志望少女だし。勢い余って未知スキル引き寄せちゃったし。 「向き不向きなどどうでもいいのです! 正義は拳に宿ります!」 ずんずんと前進するアルティは、何の因果か――光の必殺技を一切の前動作なしにかわしてみせた。いや、かわしてしまった。 このまま進めば、一撃が入る。だが、大一番における偶然か、圧倒的加速を得た光はそれを許さない。 「ボクの想い全てをこの一撃にのせて……!! ボクの必殺受けて見ろ!!」 発動、S・フィニッシャー。七夕三大スキルの一角は伊達じゃない。一撃二撃三撃、次々と攻撃がヒットしていく。中に浮いた。エアリアルコンボ入った。地面に落ちてフィニッシュだ。 「拳に、宿るのです!」 しかし、アルティも諦めない。精一杯の拳が光を叩き……しかし、乱打の影響か、ふらふらの足では威力は足りず。正義対決、ひとまずの決着。 「済まぬな、酔狂な決闘に付き合わせて」 「暇してるんでね。誘ってもらうのも悪くはないね」 瀬恋と源一郎の付き合いは、相応に長い。同じリベリスタとしての尺度を測る上では、彼らの関係は同志と呼ぶに相応しいだろう。切磋琢磨した関係には、阿吽の呼吸がつきものだ。 (アンタにだけは舐められたくない) (負けられぬ相手だ) 故に、互いを知り尽くしている。故に、対策は完全。 銃弾よりも速く、相手の技能よりも確実に。得意とする技同士の、一瞬の交錯。 攻め手は、源一郎が速い。距離をものともせずに詰め、瀬恋の背後から刃を振り下ろす。身を捩って決定打を避けた彼女の銃は、思いがけぬスピードと確実性を以て銃弾を吐き出す。しかも、二撃。 一瞬の交錯での手数の差は明らかであり。偶然を招き寄せた瀬恋の勝利、と呼べるだろう。 「短き時間ではあったが、充実した時間を得られた故、感謝を」 「楽しかったよニーサン。またやろうや」 全力を出し切った二人に、禍根も何もあろうはずがなく。その表情は、清々としたものであった。 さて。 「当たればいいと…たしかに言ったよね?」 これ以上ない勢いをオーラに載せて、比翼子は己を滾らせる。当てる。ヒットさせる。0ダメージ可。つまりは、絶対必中を約束された七夕スキルを所有する彼女には、「当てるだけなら」セバスチャンをも超えるという自負がある。 「“必殺技”ねえ、面白ぇじゃねぇか。てめぇの必殺と俺様の最速、どっちが優れてるか試そうぜ!」 それに対するは、速度に矜持を持つ男、アッシュ。無論、彼の策の首尾はただ一点、先手を取ったまま勝利を奪い取ることにある。 「じゃあ……行くぜ!」 是非もなく、アッシュが先手を打つ。一気に距離を開き、近接範囲外へ。少なくとも、初手から比翼子の一撃が当たって終わり、は無くなった。続けざま、アッシュは神経を集中させる。圧倒的な速度が呼び込んだ連続行動は、それだけで勝利に近い。 「そっちがいかないならこっちから行くよ!」 無論、一撃を食らっても反撃で押し切ることを考える比翼子に後退はない。距離を詰め、踏み込むだけだ。 だが、次のアッシュの行動はその憶測を上回った。 速度を乗せた脅威の一撃。命中すれば、攻めると言う選択肢を奪い取るソードミラージュスキル・ソニックエッジ。 「え、あれ……!?」 「遅ぇ遅ぇ全然遅いぜ。ひよこのまんまで終わんなよ! 闘鶏になって出直して来やがれ!!」 既に技名乗りを上げようとしていた比翼子からすれば冷水を浴びせられたかのような衝撃。アッシュの勝鬨は、高々と掲げられた。 一方、「ある意味」面白い組み合わせが、もうひとつ。 「コーポの仲間でありアーク有数の弓の名手、相手にとって不足はありまs……」 「あくまで純粋な勝負、世界を護らんとボーダーラインに所属する者同士の腕試し……根に持ってるわけではないですからね? 私にないその猫耳であの人の好きな猫アピールとか全然怒ってないですからね?」 「……OK、どうやらそれどころでは無い様子ですね」 やれヤンデレだやれお腐れ様だと噂名高い英美だが、一方で彼女はアーク屈指の名射手である。だからレイチェルに向ける目はきっとほら、ちゃんと同士に向ける模擬戦らしい視線なんだよ、うん。 「その耳を千切って私につけたら生えるかなとか思ってませんからね? では耳狙いしますね? ああ大丈夫わかってますよ、これは模擬、本気で戦いますが本気で殺りにいってるわけではありませんからね?」 (何ですかあの人、妖怪耳おいてけとかそんな類ですか) 首おいてけは戦国時代だしね。 ともあれ、ボーダーラインの未来を担う二人の決闘がここに火蓋を切ったわけだが。 「これでも応援してるんですけどね……」 レイチェルの気糸が、英美の弓の弦を弾く。高々と音を上げるそれは、しかし千切れるには至らない。返す刀、というか弓を引く英美の表情は、しかし恐ろしいまでに黒い。 「いきます!……くたばれええええ!!」 殺る気満々であった。が、残念ながらこれは模擬戦。確実性の高い一撃にこそ勝利の女神とか微笑むのであって、殺意満ち満ちたそれには、流石に今宵の女神はそっぽを向いたようである。レイチェルに当たりはしたが、本来とは若干落ちるその威力。彼女自身も気付いたのであろうそれに、しかしもう一発打とうと既に構えている。パねぇ。 「モタモタしてごめん。俺は、エイミーが好きだ」 と、突如、錯乱していた英美の背後から抱き寄せる影ひとつ。ぴよ……じゃなかった、アウラールだ。 どうやら立ち直ってはいたらしく、しっかりとした声色で英美へと想いを伝えている。こころなしか、傍観者のレイチェルの耳の動きが激しい。 「あう……あう……」 ずるずると引きずられる英美。すげぇニヤケ顔のレイチェル。末永くお幸せに、である。 ● 「我が必殺の! ひよこ! デイブレェェェイク!」 「うわーやられたー」 比翼子、やっとの七夕スキル発動。ぺちりと当たっただけだが、ド派手にふっとんでいくうさぎ。 それに限ること無く――というか、組み合わせ的な関係上、既にレートはあってないようなものであった。 二度三度と言わずそれ以上を望むメンバーも多くはあったが、あらゆる関係上、ここでは伏せることにする。 多くの戦いがあり、一瞬を争う接戦があり。 彼らは、その戦いを胸に刻んで次へと進む。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|