「今回確認されたエリューションは、蜘蛛を素体とするE・ビーストのようです」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が、作戦司令室に集まったリベリスタ達へと資料を渡す。 数日前に三高平市郊外で発見されたそいつは、8本の脚を持つ人間大のサイズを持った蜘蛛……だったのだが、ここ数日の内に大きく変化を遂げた。 「体全体が鎧のような甲殻で覆われた他……2本の脚で立ち、残り6本の脚が腕のように変化し、その先端は武器へと変わっています」 武器と変わった腕のうち、2本が剣、2本は銃。残る2本は宝珠が嵌った杖のような形状をしている。 ただし、その顔と体を覆った鎧で、糸を吐いたり、牙で噛み付くといった蜘蛛らしい身体武器は使えなくなってしまっているようだ。 この急激な変化は、フェーズの進行があったと見るべきだろう。 「現在、調査班からの報告と万華鏡から掬い上げた情報から判明しているのは、蜘蛛型エリューションは攻撃に反応するということです」 普段はフェーズを進行させるためのエネルギーの蓄積のためか、それとも全く別の理由かはわからないが、微動だにせず市郊外の森林の中で佇む敵。 だが、一度攻撃行動を感知すると俊敏に反応を返し、活動を開始する。 「敵の主な行動は向けられた攻撃へのカウンター。皆さんの攻撃と同時に反撃が放たれるカウンターは、回避も防御も困難だと推測されます」 また、敵の防御力も、その鎧甲殻で相応の硬さがあるのも判明している。 攻撃をしなれけば? その場合は修羅蜘蛛は2本の足で近づき、カウンターに使わなかった、残った腕で攻撃をしかけてくる。 「肉を斬らせて骨を断つ。実現の難しいその戦術を遣って退けるだけの攻防に優れた能力を持ったE・ビーストです」 リベリスタ達が資料を見終り、顔を上げるのを待って、和泉は指令の言葉を伝える。 「ですが、皆さんならきっと勝利できると信じています……当該神秘、至急の撃滅を要請します」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:仁科ゆう | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月07日(金)23:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●邂逅 「蜘蛛が相手とは聊か心苦しい。蟻や油虫なら遠慮なく潰せるんですが」 『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(ID:BNE002556)が、どこか心苦しそうにうーんと唸る。 こだわりがあるのか因縁があるのか、他の者にはその理由は窺い知れない。」 「クモかぁ、今、アメリカじゃ蜘蛛男がヒーローのシネマが人気なんだっけ? クモって確か蛇と対をなす人間に生理的嫌悪を催させる生き物って動物好きな先生が言ってたけど解らないもんだね」 答えて返すのは『R.I.P』バーン・ウィンクル(ID:BNE003001) 「ま、無駄話はおいといて世界を歪める存在はさっさと舞台から降りてもらおうかな」 資料に付帯していた地図を頼りに夕暮れ時の薄闇に染まる森の中を歩くこと、10分ほど。 さらさらと木の葉を風が撫ぜて通る。静かな森の中で、リベリスタ達は”蜘蛛”を発見する。 6本の腕で身体を抱く像のように佇む、鈍色の甲冑。 「アレのどこがどう蜘蛛なのか、誰か私に教えて下さい……まるきり特撮の怪人じゃないですか!」 セルマが誰へともなく抗議の声を上げる。 その言葉どおり、蜘蛛とは余りにもかけ離れたその姿を見た、『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(ID:BNE002998)は呟く。 「蜘蛛というより、阿修羅ですね……顔が2つ足りないのが残念ですが。長期戦になりそうですが、こう見えても泥仕合は得意なんですよね」 修羅蜘蛛は応えず、ただ佇んでいた。 ●初手 全員がジリジリと距離を詰めていく。 凡そ20m、と少し。通常であれば攻撃の届かない範囲に立ち、先ずは敵の動向を探るように、来栖 奏音(ID:BNE002598)が魔力の増強も兼ねてマナブーストを発動する。 緊張を孕みながら全員が注視する中、修羅は……動かず。 ほっと安堵の吐息をつきながら、 リベリスタ達は各々に自己強化と最初の一撃を最高の一撃にすべく集中を開始する。 「随分と硬そうな敵ですけど、私の弾丸で撃ち貫いて見せますよ」 大見得を切って、集中をはじめる『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(ID:BNE002939) 『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(ID:BNE002878) は武器の意匠された修羅の6本の腕のどれでも狙えるように集中を開始する。 「何て言うか、面倒くさい相手よね。まあ、けどどんなカウンターが来てもやる事は一緒よ。私の前に立ち塞がる物は、等しく纏めて焼き尽くすだけ」 (罪姫さん蜘蛛さんはね、あまり好きではないの。面白くないから。でもね、武器を使う位賢ければ、別なのよ) 『積木崩し』館霧 罪姫(ID:BNE003007)が集中をしていく。一撃への集中と言うよりも、これから遊ぶ相手を鑑賞するようにじっくりと睨め付ける。 (あなたはどんな声で鳴くのかな、どんな苦痛を見せてくれるの? 少し楽しみ。この蜘蛛さんは、恐怖も理解出来るかな……) 考えるのは解体のその時。相手はどんな反応を返してくれるのか。5節の集中を経て、瞳に静かな狂気を口元に笑みを浮かべ、さらに罪姫は全身に破壊的な闘気を漲らせる。 「ね、罪姫さんと一緒に、遊びましょ」 「もっとだ、もっと研ぎ澄ませ……確実に当てる……」 集中で鋭敏になっていく感覚を『BlackBlackFist』付喪 モノマ(ID:BNE001658)はさらに鋭利に研ぎ澄ませていく。 それぞれが集中していたのは、時間にして一分足らず。だが、戦闘を前に昂る神経にとっては遥に長く感じられる密度の濃い時間を経て、それぞれの準備が完了する。 先陣を切って飛び出したのは、一行の中で一番俊敏さに優れていたモノマだった。 モノマは前傾姿勢で一気に間合いを詰めると、剣を備えた修羅の腕に掌打を打ち込み、さらに気を徹すべく集中する。 「突き抜けろおぉぉぉ!!」 だが、同時に掌打で勢いを殺されることなく、修羅の剣が真一文字にモノマの腹を薙ぐ。 ●連撃 手に残る、気が徹った確かな感触。 深く身体を切り裂かれながらも、モノマがニヤリと笑みを浮かべる。 「いいねぇ、悪くない、相手にとって不足はねぇ! 存分に楽しめそうだぜっ!」 喉を塞ぐ血の塊を吐出し、口元を腕で拭うと構えなおす。 「ははっ、肉を斬って骨を断たれ様がぶっ潰す! 修羅だろうが何だろうがぶち抜いて往くだけだぁっ!」 修羅の剣腕は、気の内部破壊によって麻痺させられたのか、振り切った形のまま動きを止めている。 さらに、自己強化で速度を引き上げたエーデルワイスが続く。 彼女の指がトリガーを引き1射。さらに集中力に裏打ちされた早業は連続してもう一発の早撃ちを可能にする。 「ターゲットロック……バウンティ、フルファイア!!」 修羅の剣腕に精確に2発。着弾点を結ぶように、剣腕に大きくヒビが走る。 続くセルマは、修羅を後衛に向かえないように位置を取り、大上段にスタッフを振り上げる。 「害虫は叩いて潰す主義です。畑に沸いたものでも、世界に沸いたものでも」 インパクトの瞬間には歯は食い縛って。 修羅が全身麻痺に陥っているのかが判別できない以上、カウンターが来るものとして覚悟を決めての攻撃。 果たして彼女の鉄槌のような一撃には、修羅からの反撃は無く、会心の手応えだけが返る。 さらに衝撃に修羅が平衡を崩したのか一瞬動きが鈍るのを、ルカが見逃さない。 仲間の回復のために行動を遅らせていた、彼の観察眼。 「ショックを受けているようです。回復は私が引き受けますので、存分に攻撃してください」 ルカの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、大剣を振り上げる罪姫。 オーラの燐光を曳いて振り下ろされた大剣が、修羅の腕のヒビを大きく広げ、真っ黒な血飛沫があがる。 「まだまだ終わらないのよ、終わりに何てしてあげないの」 クルリと踊るような動きで大剣を振り回し、返す刃でさらに修羅の腕を斬り上げる。 この追撃が、修羅の腕を半ばから両断した。 糸の切れた凧のように宙を飛び地に落ちる甲冑に包まれた腕と、舞う血飛沫。 「1本、2本。少し楽しいわね。あなたはあと何本もいだら壊れるかしら」 虚ろな瞳に愛おしさを、口元に笑みを。浮かべて罪姫はそれを見つめる。 バーンの振るった鎌から、4色の魔術が同時に解き放たれる。 本来であれば当てることすら難しい空中を移動しながらの攻撃も、集中とセルマの一撃によって、回避を許さないレベルの精確さで4柱全ての魔術が修羅の身体に命中する。 「修羅の鏡? そんな物、枠組みごと殲滅してあげる」 同様に、空を疾しったクリスティーナが放った一条の雷光が修羅の身体に降り注ぐ。 「奏音も続きますのです♪」 右手と左手に構えた大小のアルカナを交差し、修羅の残ったもう一本の剣腕に向けて奏音が魔力弾を放つ。 動かない身体に繋がった剣腕が衝撃に大きく跳ねる。 ●鏡反照 朗々と響くルカの歌うような詠唱が、モノマの傷を癒していくが、防御も出来ずに受けたその傷は一度の回復では全快とは行かなかった。 さらにリベリスタ達が次の一撃のために体勢を立て直すその一瞬に、修羅の身体を蝕んでいた毒の黒点が消え、出血はピタリと止まる。 そして、最初に遭遇した時のような阿修羅像然とした体勢へと戻る。 これが基本にして万全な修羅の構えなのだろう。それぞれの腕がリベリスタ達の2手目に反応して、確実にカウンターを打ち込んでくる。 次の一撃に集中をしたセルマとクリスティーナを除いた全員に。モノマの掌打に剣腕が、エーデルワイスの銃撃と罪姫の大剣に杖腕からの魔力波が、バーンと奏音の攻撃には銃腕がそれぞれ一撃で応えていく。 特に手痛い反撃を喰らったのはバーンだった。 空中から放たれた魔術を修羅は半歩身体を引いて避し、カウンターの銃撃が防御を取る事が難しい空中の彼の腹部を貫く。 数合の剣戟が交わされ、一撃ごとにリベリスタと修羅の双方が朱に染まっていく。 ルカの必死の歌声が戦場に響くが、カウンターを受けた全員のダメージは癒しきれない。 クリスティーナが全員に与えた自動治癒も働くが、それでも足りなかった。耐久力に富む前衛陣よりも、後衛組は確実にダメージが蓄積していた。 「脚を破壊出来れば楽になるはずので、それまで耐えて下さい」 「天使の歌で回復のお手伝いなのです♪」 ルカに加えて、奏音も戦線を支えるために回復の詠唱を響かせる。 ●終焉 今だ滴り落ちる血を止められず、それでもモノマは最前線を退かない。 「上等だ! カウンターが予め来るとわかってりゃ気合入れて耐えるだけだっ!」 修羅に一撃を加えた代償に、剣撃に大きく身体を斬り裂かれる。 エーデルワイスの銃撃に、先ほどまでと同じくカウンターで放たれる杖腕の魔力波。 違ったのは次の一撃。集中を込めたセルマのスタッフが修羅の身体を撃ち付ける。 杖腕の魔力波も同時にセルマの生命力を大きく削るが、スタッフから受けた衝撃に修羅の構えに乱れが生じる。 その修羅の首筋に素早く、しかしその所作は不可思議なくらいにゆったりとした自然な動きで、罪姫が顔を近づける。 銃腕を腹部に押し付けられるのにも構わず、罪姫は修羅に小さな牙を突きたて血を啜る。 銃撃の反動に身体が離れるが、甲冑の首筋には小さな2つの孔が穿たれ血が毀れている。 「どうせカウンターされるなら、一撃の重さを重視しないと勿体無いわ」 クリスティーナとバーンの魔術が空中から、次いで放たれた奏音の魔術が至近距離から修羅の身体を強く揺らした。 修羅の甲冑の腹部を魔術が打ち砕き、敵の生身の部分を露出させる。 「敵部位被害状況確認/……デストロイスタート!」 破壊痕を好機と見て取り、さらにテンションを加速させたエーデルワイスがピンポイントで銃撃を腹部に叩き込む。 「アハハハハハハハッハ!! シュートシュートファイアッ!!」 カウンターで自身に放たれた銃撃に身体を揺らされながら、彼女はスタッフを大きく後ろに引いたセルマの姿を見た。 大きなストライドで踏み込み、セルマは全力でスタッフを振り切る。 狙うは腹部。 ショックで動きが鈍くなった修羅の甲冑の割れ目に、渾身の一撃が入った。 衝撃に揺れる修羅の体躯。 直後に来るであろうカウンターに備え歯を食い縛っていた彼女の目に、修羅の銃弾が天へ向けて放たれるのが、修羅の身体が大きく傾いで行く光景が映った。 ●撃滅完了 「ミッションコンプリート。殲滅完了、って所ね」 クリスティーナが大きく息をつき、満足げに笑みを浮かべた。 修羅はその動きを完全に止め、少しずつその鎧が輪郭を崩していく。 「全部! 皆! 丸ごと! デストローーーーイ!!」 「正義は勝~つ!」 雄叫びを上げるエーデルワイスに同調するように、大きく勝利の叫びを上げたバーンは、ふと思い出したように頭を捻る。 「で、結局何がしたかったんだろうね? このクモは」 「さぁな? 天原がいってたように、フェーズを進行させようとしてたんじゃないか?」 「理由はもう誰にもわからないわね」 答えるモノマとセルマ。 彼女はやれやれと肩を竦めて安堵と少しだけ疲れが滲む表情を見せた。 「でも、こんなにエリューションが次から次へと……本当に困ったものだわ」 「蜘蛛さんの鎧は防御重視な奏音としては興味津々なのですよ~。有用そうなら持って帰って防具に仕立ててみたいかも~なのですよ~……ってあぁ!?」 奏音が武器をしまいこみ、意気揚々と倒れた修羅へ視線を向けるとそこでは…… 遊び終わった積み木はおかたづけ。全部全部全部おかたづけ ね、あなたも楽しんでくれたでしょ? 罪姫が鼻歌でも歌うように楽しげにバラしはじめていた。 「蜘蛛さん蜘蛛さん。これ、もうあなたは使わないわよね。罪姫さんが使ってあげるから、下さいな?」 返事はもちろん、ない。あるはずもない。 だが、その剣腕は甲冑や刀身を模っていた外骨格が割れ剥れ、もはや先端が鋭く細く伸びたただの蜘蛛の脚でしかなかった。 少し残念そうな罪姫、そして奏音の前で、修羅の遺骸はボロボロと灰に変わり風に乗って消えていった。 修羅の如き蜘蛛が存在していた痕跡すらなくなったことを確認し、リベリスタ達は森をあとにした。 ~END~ |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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