●A disease known is half cured. (病名がわかれば半分治ったも同然) ――アメリカのことわざ ●イッツ・コールド・バイオハザード ――ウイルスは良い。僕は喧騒に満ちた市街地の雑踏に立ちながら、そんなことを考えていた。 人間の肉眼では到底視認不可能なほどのサイズながら、その何倍もの大きさを持つ動植物――そして、人間を殺すことができる。 人間の肉体とは到底比較不可能なほど単純構造ながら、その何倍もの複雑構造を持つ動植物――更には、人間の遺伝子すら変化させ、その構造すらも変質させる可能性を秘めている。 まさに強さの象徴、そして力の象徴だ。そして、それを手に入れた僕と言う存在は――。 先日、テレビ番組に乱入したジャック・ザ・リッパー。刃物などという下品で非効率で低性能な手段でしか力や強さを表現できない奴。彼は強さや力というものの象徴がどんなものであるか、『本物』を全く知らない。そんな彼の顔を思い出したことで僕は強い怒りを覚えた。 僕はポケットから、指先で一つまみ程の大きさをしたガラス玉――ビー玉ほどの大きさの球体を取り出した。それを手の中に握りしめた僕は、一向に収まらない怒りをぶつけるように、その球体をアスファルトの路面へと叩きつける。 そして、変化は唐突に訪れた。僕の周囲を歩いていた無数の人間が次々と糸の切れた人形のように倒れていく。その光景を見て、胸がすくような思いと共に怒りが収まり、代わって歓喜と恍惚に心が満たされた僕は、再び取り出した球体を落としながら歩いていく。 ――僕が歩いていくだけで、何人もの人間が倒れていく。 ――僕が通り過ぎていくだけで、何人もの人間が死んでいく。 その光景と、僕自身が手にした力を実感しながら、僕はふとあることを思い立つ。 ジャック・ザ・リッパー。『本物』を全く知らない彼に強さ、そして力の象徴というものがどんなものであるか、教えてやるのも悪くない。そう思い立った僕は、彼が滞在しているという都市に向けて歩き出した。 ●エマージェンシー・コール 「リベリスタ各員、緊急事態です」 アーク本部のブリーフィングルーム。そこで『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はクールな声音で告げた。そう告げながら、既に手はコンソール上を走り、映像をモニターに再生している。 輪郭がぶれている所があるあたり、これはフォーチュナの見ている予知の光景のようだ。その映像の中では、華奢な身体をした青年が雑踏の中を歩く度、周囲の人間が次々と倒れていく光景が繰り広げられていた。 「今から数時間後、無所属のフィクサード――鳥野保(とりの・たもつ)による無差別殺戮行為が行われる模様です」 やはり事務的な声で告げながら、和泉は次に何らかのルートが線として引かれたマップを画面に呼び出す。 「彼の予想進路です。予知の映像と併せ、アークは彼が高確率で殺戮行為終了後にジャック・ザ・リッパーに対して攻撃行為を行うと予測しています」 そこまで説明すると、和泉はリベリスタたちに向き直った。 心なしか、その一言を告げる時の和泉の面持ちは恐怖にひきつっているようにすら感じられた。だが、和泉はすぐにクールな顔と声に戻ると、再びコンソールを操作する。 「鳥野の能力自体は、自分の周囲の空間を少しばかり圧縮した球体を生成する能力。それだけでは大した危険性も無く、それほどの協力でもないものです。ただ……」 和泉は一旦言葉を切ると、クールな表情の中に、一抹の怯えを垣間見せながら続きを告げる。 「……細菌や毒素で汚染された異世界――『黒死無双なる鬼病(こくしむそうなるきびょう)パンデミア』の影響を受け、危険な殺人ウイルスとなったウイルス――言わば、ウイルスのアーティファクトを空間圧縮能力により採取し、保有しているようです」 和泉は再び保の姿をモニターに映すと、説明を続ける。 「発症した場合、体組織が黒く変色し、高熱や意識混濁、筋弛緩などの症状が現れるものと思われます。なお、詳細は不明ですが、これらの疾患はエリューション化と類似した現象の可能性があり、フェイトを得ているリベリスタの皆さんならば、症状を発症させずに抑制することが可能です」 和泉はモニターのスイッチを切ると、ヘッドセットマイクを外して卓上に置き、そしてリベリスタたちに頭を下げた。 「危険なミッションですが……このまま鳥野を放っておけば、いずれ一般市民にも被害が出るかもしれません。彼を阻止するため、出動してください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ガンショット・メイクス・ピープル・ハリー 「通り魔が出たわ! 逃げなさい!」 交戦予定地区である市街地にて『愛煙家』アシュリー・アディ (ID BNE002834)は、無関係な一般市民を避難させるべく声を張り上げた。更には一般市民をより急がせるべく、空に向けて空砲を撃つ。 「あっちの方で通り魔が出たぞ!」 「殺人者だー!にげろー!」 アシュリーの作戦に『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)と『』戊 シンゲン(ID BNE002848)も協力し、同じく大声を張り上げて一般市民の恐怖を煽る。 「これから出動する私達の担当は……人間化学兵器かっ!? 厄介なウィルスとフィクサードの能力が合わさって、一見強そうに見えるけど負けてらんないわね。私たちリベリスタの本気が発揮される時だぜぇ……!」 さながら濁流の如く逃げていく人々の流れを見ながら、『怪力乱神』霧島・神那(IDBNE000009)は自らに言い聞かせるように決意を込める。 「殺人ウィルスの球体を武器にするフィクサードとは、細菌兵器や化学兵器を相手にするみたいに、胸糞が悪くなるような相手ですわね、何にしろ、犠牲者など出させませんわ!」 神那の言葉に同調し、『ヴォーパル・バニーメイド』ミルフィ・リア・ラヴィット(IDBNE000132)も憤懣をあらわにする。 「神秘に関わる者が己の理由で戦い合う、これ自体には思うところはありません。ですが関係の無い方を巻き込む事は看過できませんね。必ずここで食い止めます」 穏やかな声音ながらも、二人と同じく強い決意を秘めた声で言うのは『シスター』カルナ・ラレンティーナ (ID BNE000562)。 「ウイルスだなんて……大変なことになっちゃう。絶対ここでとめなきゃ」 三人に続き、決意を口にしたのは『ひよこ饅頭』甲 木鶏 (ID BNE002995)だ。その声には恐怖を払うかのような力強さがある。 「何に強さを見出すかは、人それぞれだけど。何も人をたくさん殺すことばかりが強さという訳でもないだろうに。その盲信、今ここで焼き尽くしてやるよ」 彼女たち四人の決意を聞きながら、『イエローナイト』百舌鳥 付喪 (ID BNE002443)も静かに呟く。 アシュリーたちの作戦が功を奏し、通りに溢れていた通行人は我先にと逃げ出し、気がつけば閑散とした有様になった通りに立っているのは、彼女たち八人のリベリスタだけとなった。 「人類史上、最も多くの命を奪った武器は毒だ、なんて話もあるらしいね」 快が呟いたのをきっかけに、リベリスタたちの表情が更に引き締まったものへと変わる。 それに合わせたかのように、閑散とした通りに一つの人影が現れた。その人影が近付いてくるに従って、詳細な風体がはっきりしていく。華奢な体格の青年――鳥野保に間違いない。 やがて自分たちのすぐ前までやってきた保をしっかりと見据え、リベリスタたちは一斉に武器を構えた。 「なんのつもり?」 自らに突きつけられた武器の数々を見ながら、保はリベリスタたちに問いかける。 「キミをここで止めるつもりよ。キミを放置したら過去の感染症どころの騒ぎじゃすまないもの」 「だから俺たちはあんたを危険視しているし、ここで止める。被害も防ぐ。絶対に」 保の問いに答えたのはアシュリーと快だ。二人は保に泰然と言い放つ。 「なるほど。この一帯に人がまったくいないのは、君たちのせいなんだね」 事情を理解したのか、保は得心のいった顔で呟くと、ポケットに右手を突っ込んだ。その動作に、アシュリーたちの表情が強張る。 ほどなくして保がポケットから右手を引き出すと、指と指の間にビー玉サイズの球体が三つはさまれているのが見て取れた。 「まずは三つ……生きてられるか、試してみるかい?」 特に感慨も含まずに問いかけると、保は大仰な動作で右手を振るって球体を放り投げた。 ●キャッチ・ゼム・イフ・ユー・キャン 空中を舞う三個の球体はそれぞれがバラバラの軌道を描いて飛んで行く。 「そう来ると思っていたよ」 まず右斜めの軌道で飛んだ一個に素早く反応した快が、盾を敢えて持たず野球のミットを装備した左手でカプセルのキャッチを試みる。 既に準備ができていた状態からの全力疾走ということもあり、快は余裕で落下地点に先回りすると、球体を難なく捕獲する。 「こっちの準備は完了だよ。戦闘予定地にお布団をしいてとは……何とも奇妙な光景だね」 付喪が苦笑して合図を送る。彼女はアクセス・ファンタズムに収納していた布団をすぐ近くに素早く敷いていた。頷き、付喪を振り返った快はグラブトスで布団の上に球体を割らないように置く。 「進路クリア、オールオッケーですわ」 ミルフィも頭上から落ちてくるカプセルに先回りすると、尋常ならざるスピードとバランス感覚を活かし、コンビニの外壁を蹴って跳び上がり、厚手の手袋をはめた片手で球体を空中キャッチする。 「破損などさせません」 カルナは羽をはばたかせて飛翔し、残る一個――ほぼ直線に近い軌道で真上へと飛んだ一個に空中で追い付くと、羽で受け止めて勢いを殺し、そっと球体をキャッチする。 平然した表情の保。だが、直後の付喪の行動が平然としていた保の表情を一変させた。シンゲンと木鶏が保と睨み合いをしている間に、付喪は球体の乗せられた布団を、召喚した魔炎で焼き払っていたのだ。 「な……!」 その光景を見て保は我を忘れるほどに驚きをあらわにする。 「こっちは、そっちの武器がウイルスだってことも分かってるのよ! 当然、その対策もバッチリだぜぇ!」 半ば呆然とする保に追い打ちをかけるように、小気味の良い神那の声が響き渡る。 「ウイルスが……ウイルスがあっ!」 完全に焼き払われて塵すらも殆ど残っていない燃え跡を見ながら、保は悲哀と憤怒が混じり合った声を張り上げた。 「ウイルスは熱に弱い。これも例外じゃなかったようだね」 俯き加減で呟いた保は不意に顔を上げると、両手をポケットに突っ込んだ。すぐに引き出された手には掴みきれないほどの球体が握られている。両手を合わせれば、その数たるや二十を下らないだろう。 「教えてあげるよ。ウイルスがいかに強く、いかに素晴らしいかをね!」 途端に悲哀から恍惚の表情に変わると、保は両手に握った大量の球体を一斉に放り投げる。 「上空は私が!」 「低めの球は任せろ!」 「わたくしもお手伝い致しますわ!」 素早く反応したカルナが上空へとはばたき、低めに飛んだ球体には快とミルフィが反応し、卓越した身体能力と反応で果敢に球体を幾つもキャッチしていく。更には彼女たちが漏らした分は残る仲間たちが一斉に反応し、一つも破損させまいと必死にキャッチする。 それでもキャッチできない数個が空中を舞うが、その前に素早く付喪が陣取って声を上げる。 「ここは任せなよ!」 彼女は再び魔炎を召喚すると、それを空中に向けて放つ。それにより、空中を舞う数個の球体は一瞬にして全てが焼き尽くされる。 だが、さしもの彼等といえども、全てに対処することはできず、二個の球体が路面へと落下してしまう。 「いけない……!」 気付いたカルナが声を上げると同時、球体が澄んだ音をたてて破損する。 その様子を見ながら保は笑い声を響かせ、リベリスタたちに語りかけた。 「ははは。どれだけ漏れたかな?」 わざとらしく拍手をしながら、すっかり余裕を取り戻した保が言う。 「でも……あれだけの数を殆ど何とかしてしまうとは――どうやら、戦い方を変える必要がありそうだ」 余裕の中に油断の無い表情を垣間見せながら呟くと、保は踵を返して一目散に走り出した。 「待――」 追いかけようとしてアシュリーは、人が倒れる音を聞いて口を噤み、咄嗟に振り返る。 「……ッ! 大丈夫!?」 なんと、シンゲンと木鶏が倒れ、苦しげに喘いでいたのだ。それを見て、素早く駆け寄ろうとしたアシュリーの肩を快が掴む。 「君も感染するかもしれない。二人は僕とミルフィで治すから」 互いに頷き合うと、快とミルフィは邪気を退ける神々しい光で二人を癒していった。 ●ユー・シュド・キャッチ・ア・キッド・ソフトリィ 「……まったく、こんな所に逃げ込んで、どういうつもりかしら?」 通り魔が出たと騒いだおかげで、殆ど人のいなくなった街を移動しながらアシュリーはぼやいた。 先程キャッチした球体を一つ残らず焼却処分し、二人を治療しなければならなかった間に、保はリベリスタたちをまいて街のどこかへと姿を消していた。 焼却処分の最中にも、何人かは保を追いかけたが、彼は逃走中にも度々球体を投げつけてきたため、それをキャッチせざるを得なかったリベリスタたちは否応なしに振り切られてしまったのだ。 ウイルスに感染した二人は死亡という最悪の事態は避けられたものの、大事を取って安全な所で待機ということとなり、保を追うのは残るリベリスタたち。 警察官としての経験や超越的な直感を持つアシュリーのおかげで保の姿を見つけたリベリスタたちは、保が裏通りを抜けて大通りに走っていくのを見つけていた。 「アシュリー様のお手並み、さすがですわ」 咄嗟に追跡の指揮を執ったのもアシュリーだ。その手際の良さにミルフィが感嘆の声を上げる。 「ありがと。昔の仕事が警官だったからかしら」 冷静な表情の中にどこか照れたような顔を垣間見せ、アシュリーは応えた。 「これだけ広い通りなら、多少は保を吹っ飛ばしても大丈夫だよね?」 周囲を油断なく見回しながら、神那が仲間たちへと問いかける。 「ええ。これだけの広さがあ――」 神那の問いにアシュリーが答えようとした時だった。彼女の返答を遮るように、小さな子供のものと思しき泣き声が曲がり角の向こうから響いてくる。 「アシュリー!」 驚愕の声を張り上げる神那にアシュリーは頷くと、続いて周囲の仲間たちにも目配せする。そして、アシュリーと神那を先頭に、リベリスタたちは全力疾走で裏通りを抜けて、大通りへと飛び出した。 「鳥野ッ! なんてことをッ!」 裏通りを抜けて、目に飛び込んできた光景に最初に叫びを上げたのは神那だった。彼女の顔は凄まじい怒りとともに凄まじい焦りの色に染まっている。 「なんてことも何も、効率的な戦法を選んだだけさ」 まるでごく普通の事のように言う保。だが、彼の左手は若い女性の首を締め付けるようにして押さえており、右手は若い女性の前で球体を摘んでいる。そして、二人を取り巻くように四人の幼児が泣きながら立っていた。 若い女性はエプロン姿で、幼児たちは制服姿なのを見るに、幼稚園児たちを引率する保育士というところだろう。 保育士の女性がいるのは歩道橋の前で、しかも彼女の足が些か無理な方向に曲がっていること、そして、拘束されている彼女が痛みに顔を歪めているあたり、大勢の通行人が一斉に逃げた際のパニックに巻き込まれて歩道橋から落ち、どうやらその怪我のせいで逃げ遅れたようだ。 「さ、みんな逃げていいよ」 穏やかとすら言える声で保は園児たちに告げる。言葉の意味を理解したのか、園児たちは泣きながら一斉に走り出した。 「どういう風の吹きまわし? 私たちが来た途端に人質を解放するなんて?」 油断なく保を見据えながら、アシュリーが怪訝な顔で問いかける。その問いに対し、保はやはり平然とした表情で答えた。 「人質を解放するなんて一言も言ってないよ」 その言葉に怖気を覚えたアシュリーは、間髪入れずに聞き返した。 「どういうこと?」 すると保は平然としていた表情を恍惚のそれに変え、さも楽しそうに笑いながらアシュリーへと語り出す。 「あの子たちの制服のポケットには、君たちが御執心の球体を既に一個ずつ入れてあるんだ。あのウイルスは発症した人間やその死体も媒介にして空気感染する。つまり、感染源が自動で動き回るというわけさ!」 その言葉を聞いて快とミルフィが絶句し、その後に憤懣を滾らせる。 「な……! 人間のすることじゃ……」 「……正気の沙汰ではありませんわ!」 園児たちも人質であるという事実に快たちが戦慄している間にも、園児たちは泣きながら一目散に三々五々、駆けだして行く。その足取りはがむしゃらで、行き先もめちゃくちゃだ。 「急がなくていいのかい? もし、誰か一人でも転べばその瞬間に球体が割れて、動く感染源のできあがりだよ」 まず動いたのはカルナだ。即座に飛翔し、一番遠くへと一直線に逃げた園児に頭上から追い付く。 「あっ!」 しかし、彼女の眼下で園児は歩道の段差につまずいて前のめりに転ぶ。咄嗟に空を切って急降下したカルナは、地面に激突する危険もかえりみずに急加速し、間一髪で園児の身体を抱きとめる。 「もう大丈夫ですよ」 腕の中で泣きじゃくる園児の頭を優しく撫でながら、カルナは安心させるように言った。 一方、泣きながら走っていたせいで壁に激突しかけた園児の身体を付喪はそっと掴み、間一髪で激突を防ぐ。 「大丈夫だ。だから大人しくしていてくれ」 付喪が優しく言い聞かせると、園児は涙を拭いて彼女に頷いた。 ミルフィも園児を追い掛けていたが、彼女の眼前でその園児は足をもつれさせ、その場に転びかける。 「あぶないっ!」 素早くかけよったミルフィが園児を支え、間一髪で転倒を防ぐも、ポケットから飛び出した球体が空中を舞う。園児を支えたせいで両手が塞がっているミルフィの付近を舞う球体。その瞬間、彼女は咄嗟に身体を前に出した。 「奥の手、発動ですわっ!」 なんと彼女はその豊満な胸で間一髪、球体を安全に受け止めたのだ。 「ふっ、わたくしのこの胸は『災厄』すら受け止め、包み込むのですわ」 園児の頭を撫でて安心させながら、ミルフィは誇らしげに呟いた。 その頃、神那が追いかけていた園児は車道に飛び出していた。通行人が軒並み逃げたせいで閑散としているのは道路も例外ではない。 しかし、ガラ空きになった道路をこの時とばかりに飛ばしてくる車もいるようで、園児が丁度飛び出した時に重なるタイミングで猛スピードの車が突っ込んでくる。 「リベリスタの本気を見せる時だぜぇ……!」 一瞬で決意すると、神那は車道に飛び出し、園児を抱えて素早く飛びのいた。紙一重で通り過ぎていく車を見ながら、神那は安堵の息を吐き、園児へと語りかける。 「大丈夫? もう安心よ」 ●フィルス・マスト・ビー・ディスインフェクテッド 「キミの目論見は外れたようね」 仲間たちが園児を救出したのを確認し、アシュリーは保へと語りかける。 「まだ人質が全ていなくなったわけじゃない」 その言葉を強調するように、保は女性を締め付ける腕の力をより一層強めた。だが、アシュリーは冷静さを崩すことなく保を見据えると、銃を保へと突きつけた。 「いいのかい……? そんなことをすれば、どうなるか分かっ――」 「分かっているわ」 うろたえる保の言葉を遮ってはっきりと言い切ると、アシュリーは銃の狙いをつける。 「もし僕だけを撃ち抜けたとしても、その瞬間に球体は落ちる。すると、どうなるか――」 「だから言っているでしょう。分かっているわ。それに、私は市民を犠牲にしたりなどしない……絶対に!」 信念に裏打ちされた強固な決意を声に乗せ再び保の声を遮り、高らかに宣言すると、アシュリーはトリガーにかけた指に力を入れた。そして、銃声が響き渡る。 「ぐぁっ!」 保の呻き声とともに、彼の肩に赤い染みが浮く。そして、被弾の衝撃で球体は彼の手を離れて跳び上がる。 「うおおおっ!」 そのチャンスを逃すまいと、全身全霊を込めて快が走る。受け身も何も考えず、捨て身でのジャンプで距離を詰めるも、あと一歩の所で届かない。 「落として……たまるかぁぁぁっっ!」 なんと、快はその状態から必死のスライディングで更に距離を詰め、全力で伸ばした左手のミットで球体をキャッチする。 それと同時に銃撃のダメージで人質から腕を離した保へと、神那が一気に距離を詰めた。 『汚いウィルスなんぞに頼ってんじゃねぇ!』 神那はエネルギーを込めた武器を全力で叩きつけて彼を吹っ飛ばす。そして、保が転がって行った先は、ガソリンスタンドだ。 「球体が! 球体がッ!」 転がったショックでポケットから転がり出た球体を慌てて拾い集める保を見ながら、付喪は魔炎を召喚していく。 「派手に燃えな! 汚物は消毒だーってね」 そう呟き、彼女は保に向けて魔炎を放つ。 「汚物と言ったなッ! 汚物と――」 すっかり錯乱し、逃げるのも忘れて言い返す保。だが、その言葉を遮り、付喪は言った。 「汚物だろう、自己顕示欲に塗れた」 その言葉とともに魔炎が引火したガソリンが爆破炎上し、『汚物』はあとかたもなく消毒されたのだった。 「ウィルス? 細菌?そのようなものが『力』である筈がありませんわ。大切なものを『護る』事ができるもの……それこそが確かな『力』ですわ!」 戦いを終え、ミルフィが憤慨の声を漏らす。そして、その隣で燃え上がるガソリンスタンドを見ながら、アシュリーは頭を抱えていた。保の被害を防ぐためとはいえ、派手にやらかしてアークなどへの報告書の山に悩まされる自分を想像しながら、彼女は最初の一文を考えることにしたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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