下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<Blood Blood>It is ill jesting with edged tools.(刃物をもてあそぶのはよくない)

●It is ill jesting with edged tools.
 (刃物をもてあそぶのはよくない)
 ――アメリカのことわざ

●エッジ・イズ・インコグニション
「おうおうおう……随分とヤル気になった連中が雁首揃えてよう集まったもんだ」
 俺は嗜虐性を具現化したような目で凶暴そうな笑みを浮かべ、自分の周囲に立つ連中を見ながら狂気の笑みを浮かべた。
 連中は油断なく各々の武器を構えて俺を包囲する。本当ならこんな連中、肩慣らしにもならないから無視する所だが、今の俺はすこぶる機嫌が良い。だから、ちょっくらブチ殺してやることにした。
 ジャックとか言うネジの飛んだイカレ野郎。あのイカレ野郎は何を勘違いしたか、自分が強いと思ってやがる――とにかく気に食わねぇ、どこまでも不快だ。……だが、そんな勘違い野郎をブッ殺せる。そんな素敵なことが出来ると思うだけでとにかく気持ちが高ぶる。そう! どこまでも爽快だ!
 だから、俺は俺を取り囲み、あまつさえ俺を倒せると信じて疑わない目をしてる、あのイカレ野郎と同じく勘違いも甚だしい連中をブッ殺すべく、布に包まれていた状態で手に持っていた棒状の物――刀から布をはがす。
 布の下から現れたのは、刀身は勿論、柄から鍔、更には鞘まで全てが銀一色の日本刀だ。
 ――『クルーエル・フルーレ』。斬りてぇとかそう言うトチ狂った意志や血が好き過ぎる奴、或いはブッ飛んだサド野郎とかの思念にあてられちまって変質した刃物。まぁ、殆どが刀剣類らしいが、そうしたアーティファクトの数々をそう呼ぶらしい。
 所謂、『妖刀』や『魔剣』って呼ばれてた物の中には、これに属する奴がいくつかあるらしいが、詳しいことは知らねぇ。俺にとって重要なのは、この刀がとんでもなく面白い機能を持ってるって事だけなんだからよ。
 俺は再び凶暴な笑みを浮かべると、ほんのわずかに刀の鯉口を切った。すると、次の瞬間に起こった現象に周囲の連中が目を丸くする。
 刀を完全に抜き放つと同時にまるで、ほつれてほどけたように少しずつ刀の姿が消えていく。最初は切っ先が消え、次いで峰が消えていく。ついには鍔から柄まで全てが、まるで鉛筆で描いた絵を消しゴムで消していくかのように消えていく。
 そのビックリな光景に驚く連中の姿をなぞるように、俺は手を振るった。すると、突然連中の身体がひとりでに裂け、血を吹き出して真っ赤に染まっていく。
 勿論、ひとりでに裂けているなんてことはねぇよ。俺の『刀』が見えない刃になって連中をブッタ斬ってるってワケだ。前に同じフィクサードの奴にこれを見せたことがあるが、その時は「まるで指揮者のような動きだ」とか何とか言ってたっけな。
 俺が幾度か手を振り終えると、周囲に立っていた連中は既に全員がめった斬りにされてブッ倒れていた。
 この武器、扱いは難しいが、俺が異世界に触れて得た能力を使えば、難なく使いこなせる。おかげで、今回も敵はこの武器の正体も解らずに一方的に倒されたんだからいいもんだ。
 さぁて、肩慣らしも済んだことだ――ちょっくら、あのジャックとかいう勘違い野郎をブッ殺しに行ってくるか!
  
●エマージェンシー・コール
「リベリスタ各員、戦闘任務です」
 アーク本部のブリーフィングルーム。そこで『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はクールな声音で告げた。
「先日、ジャック・ザ・リッパーが放送にて行った声明に感化された無所属のフィクサードが能力を用い無差別に犯罪行為を行うものと見られる為、それを阻止してください」
 感情を込めず、事務的な口調で語りながら、和泉はモニターに画像を呼び出した。彼女の細い指がコンソール上を走った直後、画面に表示されたのは嗜虐性を具現化したような目で凶暴そうな笑みを浮かべる青年と、周囲に倒れた無数の人間と血の海だ。
「彼がそのフィクサード――糸泉鋼(いとみ・こう)。これまでに、アーク部外のリベリスタが迎撃に向かいましたが、それを退け、彼は現在も移動中です」
 やはり事務的な声で告げながら、和泉は次に何らかのルートが線として引かれたマップを画面に呼び出す。
「糸泉はジャック・ザ・リッパーが滞在中とされる都市に向かい、彼を殺害することを目的としているようです」
 そこまで説明すると、和泉はリベリスタたちに向き直った。
 鋼の周囲に立つアーク部外のリベリスタが突如として何かに切り刻まれ、血を噴き出して次々と倒れていく映像がモニターに映し出される。和泉は手でその画像を示しながら、なおも語り続けた。
「アーク部外のリベリスタは彼の能力の正体を解明できず、有効な反撃を行えないまま撤退を余儀なくされました。彼の能力の正体を解明しないことには、彼を撃破することは難しいでしょう」
 クールな表情の中に沈痛な面持ちを垣間見せながら、和泉は続けた。
「彼の能力は複雑なる理論や術式で構成される異世界――『運算武昇する脳夢(うんさんむしょうするのうむ)カルコロ』に触れて得た処理能力。端的に言えば機械並みの計算や、それを応用した精密作業が可能となる能力です。これ単体ではさほど危険ではありません」
 そして、和泉はコンソールを操作して鋼の画像の手元をズームアップする。
「ですが、見えない刃を操る強力なアーティファクトと目される刀剣を所持しており、それが彼を危険な能力者としています」
 和泉はモニターのスイッチを切ると、ヘッドセットマイクを外して卓上に置き、そしてリベリスタたちに頭を下げた。
「危険なミッションですが……このまま糸泉を放っておけば、いずれ一般市民にも被害が出るかもしれません。彼を阻止するため、出動してください」
 そして、和泉は真剣な面持ちでリベリスタたちを見つめると、こう告げた。
「それと、アークの諜報部が、糸泉と交戦して重症を負った部外のリベリスタ一名と、軽傷のリベリスタ一名との接触に成功しました」
 一拍置いてから、和泉はなおも語り続ける。
「重症のリベリスタは、うわ言のように連呼していたようです。『……細……たった……数ミクロンの……糸……奴……の……周囲に……張り……』――と」
 何かを考え込むような顔で、和泉は二の句を継ぐ。
「そして、軽傷のリベリスタは『あれは刀じゃない。刀の形に見える、何か別の武器だ』――そう話していたそうです。何かお役に……立ちますか……?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常盤イツキ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月03日(月)22:19
 こんにちは。STの常盤イツキです。
 皆様に楽しんでいただけますよう、力一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。

●情報まとめ
 舞台は糸泉鋼がジャックのいる都市に向かうまでの市街地。
 敵として登場するフィクサード――糸泉鋼の能力は現在の時点では部分的にしか解明されておらず、参加者の皆さんがオープニングに隠されたヒントを基に推理する必要があります。
 
 彼の能力は以下の通りです。
 
『見えない刃(物理)』
 物遠範
 見えない刃のような謎の攻撃で自分の周囲にいる敵を斬り裂きます。

『見えない刃(神秘)』
 神遠範
 見えない刃のような謎の攻撃で自分の周囲にいる敵を斬り裂きます。
 神秘の力を刃に流し込んでいるので、神秘属性の攻撃となっています。

●シナリオ解説
 能力の正体が解った方はプレイングにてご解答をお願いします。
 仮に、能力の正体が解らなくても、『危険な胸騒ぎを感じてがむしゃらに動きまわる』等の方法で致命傷を避けることは可能ですが、鋼を倒すには、彼の能力の正体を解明する必要があります。
 能力の正体が解らないまま、とにかく避けた戦闘では、『自分達は生存したものの、鋼は取り逃がしたという』結果になります。
 今回のシナリオも、クリア条件を満たす方法は一つではありません。
 リプレイを面白くしてくれるアイディアは大歓迎ですので、積極的に採用する方針ですから、何か良いアイディアがあれば、積極的に出してください。一緒にリプレイを面白くしましょう!
 今回は特に『危険で厄介』な任務ですが、ガンバってみてください。
 皆様に楽しんでいただけるよう、私も力一杯頑張ります。
 それでは、プレイングにてお会いしましょう。
 
 常盤イツキ
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
鬼琉 馨(BNE001277)
デュランダル
桔梗・エルム・十文字(BNE001542)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
ナイトクリーク
黒部 幸成(BNE002032)
★MVP
ソードミラージュ
立花・花子(BNE002215)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
インヤンマスター
石 瑛(BNE002528)
クロスイージス
ヘクス・ピヨン(BNE002689)

●カモン・リッパー!
『血まみれ姫』立花・花子(BNE002215)は鋼の進路上に立ちはだかるように足を止めると、鋼に笑いかける。
「ん? 何だ?」
 あからさまに道を塞ぐように立つ花子を怪訝に感じたのか、鋼は訝しげな顔で彼女を見る。それに対し、花子は更に笑いかけると、鋼に言い放った。
「自分を強いと思ってる勘違い君の顔を見に来たよぉ~? 武器が強いだけだしそれだってたいしたことないのにね~。でもせっかくだし~『本当なら肩慣らしにもならないから無視するけど今の花子はすこぶる機嫌が良いから……ちょっと遊んであげるよぉ~?』……あはっ♪」
 その瞬間、まるで鋼の顔が凍りついたように固まる。そして、次の瞬間には、常人ならばそれにあてられただけで死にかけてしまうほどの強烈な殺気が鋼の身体中から発せられ、通りに満ちていく。
「お前……今、何つった?」
 だが、当の花子は鋼から叩きつけられる殺気を平然と受け流しながら、なおも笑いかけた。
「あはっ♪ だからぁ~言った通りだよぉ~。たいしたことない勘違い君と遊んであげるよぉ~。ってことぉ」
 濃密な殺気に満ちた空間とは思えないほどゆったりとした花子の声。だが、それが逆に鋼の勘に触ったのだろう。彼は右手に持っていた棒状の物に巻いた布を荒々しく取る。
 布が取られてあらわになったのは、鞘から柄、鍔に至るまでが銀一色の日本刀だった。それを手に鋼は花子を見据える。眼前の花子の見た目は少女のそれだが、鋼は容赦する素振りを全く見せず、柄に手をかけた。
「抜いたねぇ~。それじゃ、ここでやるのも何だし、こっちに来てよ。あはっ♪」
 ニヤニヤと笑いながら鋼と刀を見比べると、花子は踵を返して路地裏へと一目散に駆け込む。
「予定変更だ……まずはあのアマをブッ殺してやらぁナ……!」
 凶暴な笑みを浮かべ、剣呑な雰囲気をまといながら呟くと、鋼は花子を追った。

●ストリングス・ヴァーサス・ストリングス
「早かったねぇ~」
 裏路地で待ち構えていた花子に追い付いた鋼は、その不可思議な光景に首を傾げた。
「何だ? この棒っきれは?」
 花子が鋼をおびき寄せた裏路地には大量の鉄の棒が立てられ、更にはその鉄の棒同士が鎖で繋がれている。加えて、そこかしこに水溜りが作られていたのだ。その意図を理解しかねている鋼だったが、さして考えることでもないと判断したのか、花子を睨み据えつつ銀一色の刀の柄に手をかけた。
 鋼が柄に手をかけたのに呼応するようにして、少しずつ銀一色の刀の姿が消えていく。そして、次の瞬間に風を切る無数の音が聞こえたかと思えば、また次の瞬間には金属同士がぶつかる甲高く澄んだ音が幾度も響き渡った。
「やはり、これだけ遮蔽物があっては鋼糸を振りまわしづらいようで御座るな」
 その声にはっとなって鋼が振り返ると、裏路地よりも更に奥の細い路地から『ニューエイジニンジャ』黒部 幸成(BNE002032)が歩み出てくる姿が見える。
「あ? お前もこの女の仲間か? なら――死ねやァッ!」
 一瞬の躊躇も無く鋼は幸成の姿をなぞるように手を振る。対する幸成も、弾かれたように自らの気糸を繰り、それを前方へと放つ。
 再び響き渡る無数の風切音と金属同士の打ち合う音。それらの音が残響する中、幸成の頬に一筋の傷が刻まれ、そこから血の雫が浮き出す。
「ほぉう……! 俺の『クルーエル・フルーレ』を受け止めるたァ、ちっとは楽しめそうじゃねェか!」
 怒りの形相一色だった鋼の表情が俄かに喜色を含んだものとなる。それに対し、幸成は事も無げに応えた。
「受け止めただけでは御座らんよ」
 その言葉の意味をはかりかねた鋼が難しい顔をした瞬間、彼の頬にも同じく傷が刻まれる。ただし、幸成の時とは違って数も二筋ならば、深さも違うようで、雫ではなく、筋となって流れ落ちるほどの血がこぼれていた。
「お前……この刃が見えたのか?」
 底冷えのするような声で問いかける鋼。幸成はそれに対して静かな声で答える。
「否。見えてはござらんよ。得物自体の動きは目で追えるものではないで御座ろうし、手元の動きを特に注視して軌道を予測し、弾くことを心がけると致したまで」
 その答えを聞き、鋼はどこか楽しげに呟く。
「やっぱ、ちっとだけだが楽しめそうじゃねェか」
 その呟きを聞き逃さず、幸成はなおも鋼に語りかけた。
「自分も時折似た得物を使うゆえ、精密動作を得意とする者が使う時の恐ろしさは良くわかるで御座るよ」
 頬を乱暴に拭って流れる血を払うと、鋼は凶暴な笑みを浮かべて幸成を見据える。
「随分と知った風な口をきくじゃねェかよ。ええ?」
 だが、その凶暴な笑みとともに自分へと向けられる強烈な殺気にも動じず、幸成はなおも言い続けた。
「その程度の腕でジャックに挑んでも返り討ちが関の山で御座るよ? ここで大人しくお縄につくのが利口だと思うんで御座るがね」
 予想に反して、幸成の忠告に鋼は激昂することなく、代わりに歓喜の表情を浮かべながら叫んだ。
「ハッ! あの勘違い野郎に俺が返り討ちだァ? 違うね! 俺の手にかかりゃア、あんな勘違い野郎なんざ一瞬で細切れよ! そうしてやれるかと思うとウズウズするねェ!」
 だが、意気揚々と語る鋼の言葉は『蒼輝翠月』石 瑛の冷静な指摘によって遮られた。
「ジャックが勘違い野郎ならあなたはなんなんですか。剣がなかったらそれこそイチコロなんじゃないですか? ていうか剣じゃなくて、鋼鉄製の細い糸なんでしょ」
 鋼が素早く振り返ると、その先には何かを手に持った瑛の姿がある。意気揚々と語っていたのを邪魔されたのがよほど気に障ったのか、鋼は微塵の迷いも無く手を瑛に向けて振るい、見えない刃で彼女に斬りかかる。
「水溜りに波紋……今ッ!」
 ちらりと足元の水溜りに目をやった瑛は、水溜りにさざ波が立ったのを瞬時に確認するや否や、反射的に飛び退いた。予め用意しておいた水溜りを利用して、見えない刃の軌道を見切る――瑛の立案した作戦だ。
 勿論、水溜りの波紋で軌道に見当をつけられたからと言って、それだけで避けられるわけではない。瑛が持つ獣特有の反射神経と勘があってこそ可能な芸当である。
 何とか無事に見えない刃を避けきった瑛は鋼に向き直り、鋼も瑛に第二撃を加えようと再び手を振るおうとする。だが、それよりも早く、新たに歩み出た『鬼神(自称)』鬼琉 馨(BNE001277)が言葉で割って入り、鋼の注意を引きつけた。
「さぁお手並み拝見と行こうかのぉ」
 馨の言葉に再び歓喜の色を表情に浮かべた鋼は標的をあっさりと瑛から馨に変え、例によって例の如く、馨の姿をなぞるように手を振るう。
 だが、馨も負けてはいない。瑛と同じく獣特有の反射神経や勘を総動員し、空を切って迫る見えない刃の位置を感じ取ると、見事な足捌きでそれらを寸前の所で避け続けていく。
「武器の力に頼り過ぎじゃ! そんなんでは打倒ジャックなんぞ千年早い!」
 その言葉が鋼の逆鱗に触れたのか、歓喜の色に染まっていた表情は一瞬にして憤怒のそれに逆戻りする。だが、それこそが馨の狙いであり、仲間たちの狙いだった。

●ペイント・イット・ピンク
「作戦決行、今」
「了解です」
「打ち合わせ通りにいこうねぇ~」
 『インフィ二ティ・ビート』桔梗・エルム・十文字(BNE001542)は静かな声で告げると、手にした缶を握りしめた。そして、彼女の言葉に呼応するように瑛も先程から握りしめていた何か――缶をしっかりと保持すると、身体を弛ませて激しい動きに備える。更には花子も蛍光色をしたボールを手に持ち、ゆったりと鋼を見据える。
 一方、鋼は怒りに衝き動かされるまま眼前の馨に対して見えない刃を振るい続けていた。
「クソッ! クソッ! クソッ! 勘違い野郎だけじゃなくて、勘違いのアマまで出てきやがるたァ……ドイツもコイツもナメやがってッ!」
 感情に任せ、見えない刃がひときわ大きく振るわれたその瞬間を、桔梗たち三人は見逃さなかった。桔梗と瑛の二人は手に持った缶――スプレー缶から塗料を噴射し、花子は蛍光色のボール――カラーボールを投げつける。
 やたらと目立つピンク色の霧が吹き抜けていくのと同時、何も無い筈の空中で同じくピンク色のカラーボールが止まり、次いで何か刃のようなものに触れたかのように真っ二つになる。
 すると空中にピンク色をした極細の線が次々と現れる。鋼の周囲に張り巡らされたそれは、目立つ色で着色されたために、おぼろげであるが視認可能な状態となり、そのおかげで馨も見えない刃だった攻撃を難なく回避する。
「やはり、鋼糸」
 冷静な声で淡々と告げる桔梗。それとは対照的に鋼は更なる激情を迸らせて叫びを上げた。
「お前等ァッ! 俺の愛刀になんてことしやがるッ! バラバラに刻んで肉片を海にバラ撒いて魚の餌にして……どれだけナメた真似をしてくれたかをその身体に教え込んでやらァ!」
 しかし、その凄まじい怒気も平常心を保てている桔梗たちを震わせるには至らない。鋼が一通り叫び終えるのを待って、瑛は再び冷静な声で、一言一句はっきりと発音し、鋼の言葉に指摘する。
「だから、それは剣じゃなくて、鋼鉄製の細い糸なんでしょ。なのに愛刀って言うのは変ですよ。それに、マジックの種もわかっちゃったし、あとはあなたを倒すのみですね」
 瑛の言葉が余程怒りを誘ったのだろう。鋼は瑛に向けて着色された無数の線――鋼糸を振るう。しかし、見えない刃だった先刻までとは違い、瑛は危なげなく避けていく。
 その攻撃はすぐ近くにいた桔梗にも及ぶが、やはり桔梗も迫りくる鋼糸の悉くを避けきっていく。更には鋼糸をかいくぐって、エネルギーを込めた武器の乱れ打ちを叩き込んでいく。無限機関を利用したこのラッシュこそ、彼女の真骨頂だ。
「ぐ……はっ」
 間一髪、鋼糸を集めてガードしたことで切断は免れたものの、腹部にバスタードソードの直撃を受け、凄まじい衝撃で肺の酸素を全て押し出されて喘ぐ鋼に桔梗は言い放った。
「細さたった数ミクロンの鋼糸。その刃は見えないことこそがアドバンテージだった。見切れるようになった今、戦力は半減」
 しかし、桔梗に武器の弱体化という事実を突きつけられながらも鋼の勢いは些かも衰えない。
「ハッ! なら見えてても避けきれねェやり方でバラバラにしてブチ撒いてやりゃアいいだけの話だろうがよォ!」
 鋼はより今までよりも一層大きなモーションで両手を振るう。それに伴って周囲に張り巡らされていた鋼糸が一旦、鋼の元へと引き戻され、次いで無数の鋼糸が桔梗へと前後左右、ほぼ360度の全方位から一斉に襲いかかる。まさしく正真正銘の総攻撃だ。
 到達までの僅かな時間差を寸前で見出し、桔梗は何とか初撃と第二撃を避けることには成功するものの、続いて襲い来る追撃までは避けきれない。だが、鋼糸が桔梗を斬り裂く直前、『ぜんまい仕掛けの盾』ヘクス・ピヨン(BNE002689)が桔梗と鋼糸の間に割り込んだ。
「避けられないなら防ぐまでです」
 冷静に盾、そして予め用意しておいた鉄の棒を構えると、ヘクスは残る鋼糸を全て受け止めていく。彼女に庇われて無事だった桔梗を凶暴な笑みを浮かべて見据えながら、鋼は鋼糸を引き戻そうと手を引いた。
 次の瞬間、鋼の表情は凶暴な笑みから困惑の色に変わっていた。いくら手を引こうとも、桔梗やヘクスに向けて放った鋼糸が引き戻されないのだ。
 空中にぴんと張った鋼糸の先を凝視した鋼はその理由を目の当たりにする。なんと、ヘクスの持つ鉄の棒に触れた無数の鋼糸がまるで張り付いてしまったかのように固定され、動かないのだ。
「まさかこれで引っ掛かるとは思いませんでしたが」
 平坦な声の中に些かの驚き声音を込め、ヘクスは呟いた。鉄の棒に絡みついた鋼糸は、鋼がいかに手を動かそうともほどける様子は無い。
「ビン底メガネ……お前、何しやがったッ!」
 その問いにヘクスはやはり平坦な声で答える。
「とりもちです」

●ツールズ・シュド・メイク・ピープル・ハッピー
 その返答がかなりの衝撃だったのか鋼は一瞬、我を忘れて呆けるも、すぐに怒りをふつふつと滾らせる。
「ビン底メガネ……お前の俺の『クルーエル・フルーレ』に――」
 しかし、鋼のその怒りの言葉も、割って入った『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)の声に遮られる。
「それにしてもクルーエルは英語で、フルーレは仏語ではありませんか?英語にするならフォイルの筈です。貴方はそんなことに気づかず使っているのですか?」
 真顔で尋ねる星龍。その指摘に、鋼は激しく怒りを爆発させた。
「んなことは知ってんだよォッ! 語学の教師かこの野郎ォッ!」
 その激昂を平然と受け流し、星龍は静かに告げる。
「私には貴方のように素晴らしい頭脳はありませんが、どんなに凄い攻撃であってもねそれを操る攻撃は必ず私のようなものでも確実に見える腕の操作に従うものです。ですので私が狙うのは唯一つ――」
 そして、星龍は銃を構えると鋼糸を持つ鋼の腕を撃ち抜いた。
「――貴方の、腕です」
 腕を撃ち抜かれたダメージで鋼糸を手放す鋼。だが、それが怪我の功名となった。彼の手を離れたことで制御を離れた鋼糸はとりもちに絡まった何本かを切り捨てつつ、自動的に寄り集まって刀の姿を編み上げて待機状態となる。
 その好機を鋼は逃さなかった。痛む腕に鞭打って足元に転がった待機状態の鋼糸――刀を拾い上げると、星龍を攻撃しようとする。
「これでもくらえ!」 
 だが、それよりも早く『テクノパティシエ』如月・達哉によって『何か』が投じられた。咄嗟に飛んできたものを振り返った鋼は刀を鋼糸状態に変えることもせず、反射的にそれを斬り落とす。
「奇襲とはセコイ真似をしてくれるじゃねェかよ? ええ? まぁでもその奇襲も失敗だな」
 咄嗟の反射で奇襲に反応したのが誇らしいのか、鋼は上機嫌で刀の切っ先を達哉へと突きつける。しかし、達哉は落ち着き払った様子で鋼へと言い放った。
「失敗? 違うな。既に僕の攻撃は成功している。それにも気付かないような馬鹿とは」
 馬鹿という言葉を聞いた途端、一瞬で鋼の上機嫌な顔が怒りのそれに変わるが、達哉はなおも言い続けた。
「馬鹿とハサミは何とやら……だな。取り敢えず目の前の馬鹿に教えてやるか。刃物は如何にして使うかということを」
 その物言いに、遂に怒りが頂点に達したのだろう。鋼は刀を鋼糸に変えて達哉を斬り刻もうとする。
「なら教えてもらおうじゃねぇか! 死ねやァ……あ?」
 しかし、刀は刀の形のままで、鋼糸状に変化しない。その理由が判らないのか、鋼は呆けたような表情だ。
「言っただろう。既に僕の攻撃は成功している――と。自分が何を斬り落としたか、よく考えてみるんだな」
 そう言われて鋼は即座に足元に目を落とした。するとそこに転がっていたのはラベルが剥がされた容器の残骸だ。その残骸の周囲には粘り気のある液体がこぼれている。
「馬鹿には解らないだろうから教えてやる。耐衝撃、速乾仕様の強力接着剤――それが、お前の斬ったものの正体だ」
 強固に接着され、刀の形に固定された鋼糸。その事実を知って鋼は焦りの表情を浮かべるが、やがて焦燥よりも怒りの方が勝ったのだろう。鋼糸に変化させることなく、刀のまま武器を握ると、それを振りかぶる。
「上等じゃねェかよ! お前等なんぞ、鋼糸状態を使うまでもねェ! この待機状態で十分だ!」
 刀を振りあげ、銃創による腕の痛みも忘れるほどの怒りを込めて鋼は達哉へと斬りかかる。しかし、鋼が達哉に到達するより前に、今度は先程とは逆に星龍の声が割って入った。
「もう一つ、お聞きしたいことがありまして。なんとも貴方の名前からして出オチ感満々の気がしますが、貴方自身はどう思いますか?」
 その言葉に鋼が振り返った瞬間、星龍は再びトリガーを引き、鋼の腕を撃ち抜いた。鋼の手から吹っ飛ばされ、地面を転がる銀色の刀を確認して、星龍は言う。
「それと、一つ訂正を。私の身分は留学生。即ち、教師の逆ですよ」
 地面に転がった銀色の刀を遠くに蹴っ飛ばすと、桔梗は剣を振って汚れを払いながら呟いた。
「だれもわたしは砕けない。勘違い男は弱かった」
 転がった刀を拾いながら、達哉も吐き捨てるように言う。
「道具に振り回されている時点でお前の負けだ。道具とは人に幸せをもたらすために生み出されたもの。そんなお前が僕らはおろかジャックに勝てると思うか?」
 達哉の言葉を聞き終えた鋼は、痛みが限界に達した上に、緊張が途切れたこともあって気絶する。こうして、死闘は決着したのだ。
「この回収した武器、武器マニアには垂涎の逸品みたいですね。もう花子さん持って帰っちゃったらどうですか? わたしは何も見なかったことにしときますから」
 銀色の刀に向けた視線を輝かせている花子を見ながら瑛は問いかけた。
「されど、この男はどうするで御座るか?」
 ふと問いかけた幸成に、花子は笑顔を浮かべると、事も無げに答えたのだった。
「花子、蛇腹剣だったら超欲しいんだけど。男? 武器の1/100も価値が無い『モノ』なんてどうでもいいよぉ~? あはっ♪」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆様、ご参加ありがとうございました。
 お疲れ様でした。皆様のおかげで糸泉鋼は倒され、彼の暴走は阻止されました。
 今はゆっくりと休み、次の任務も頑張ってください。
 今回の囮に鉄棒や鎖による鋼糸の妨害、更には鋼糸の着色に至るまで様々な作戦で大活躍でした花子さんとさせていただきます。
 改めまして、今回はご参加ありがとうございました。

 2011.10.01 常盤イツキ