●月の光が僕を狂わす 最初にやろうと言ったのは誰だっただろうか。ひとしきりの笑いがこみあげる。思い出せない。Aに聞けばAだと言い、Bに聞けばBだと言うかも知れない。記憶があいまいな僕だって、もしかしたら言い出しっぺは僕かもしれないと思っている。 だから……リーダーは僕かもしれないし、別の奴かもしれない。けど、きっとみんな心の中で思ってる。自分が一番ってね。 そう、僕達は仲間じゃない。たまたま同じヴィジョンを見て……そいつはジャックとかいうイラつく奴で、そんな奴を好き勝手させるのは面白くない。おもしろおかしく遊ぶのは僕達だっていい筈だ。 月の光が世界を照らす中、狂気は増幅し破壊と血が新しい物語を刻む。夜空にそびえる瀟洒なビル。ショッピング階はもう閉鎖しているけれど、最上階3フロアの飲食店はまだあと2時間は営業している筈だ。 「……始めようか」 夜のニュース番組は始まりだす21時。これは僕が言った。タイミングを見計らった絶妙な台詞。一陣の夜風が吹き抜けて、僕達の髪を揺らしていく。なんか格好いい。ゲームやドラマのシーンの様だとこっそり思う。「ビデオの準備はいいかい? 誰がどれだけ素敵にやってのけるのか……それぞれの芸術性が問われる行為だからね」 A……じゃなくて、相沢翔也が言った。B、ではない月島悟が走り出す。 「俺は先に行かせて貰うぜ! 貴様等の度肝を抜いてやるから覚悟しな!」 その場に集まっていた者達も一斉に走り出す。 「じゃ、配信始めるよ」 僕、見崎健太は微笑んだ。 ●月下の塔 アーク本部のブリーフィングルームの中で『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は不機嫌そうに言った。 「派手にキメる……その気持ちはわかる。だが、こういうのはいけ好かない。しょせん、ジャックに感化されてるだけだからな。まぁガキって事か」 しかも自分達が感化された二番煎じであることを本人達はわかっていない。それこそが野暮の極みだと伸暁は思う。だが、どれ程不愉快で野暮なガキどもでも、人にはない力を得て凶行に及ぶのなら野放しにするわけにはいかない。 「駅前の一等地にあるビルが狙われている。奴らは営業している飲食店を片っ端から狙って犯行の一部始終をネット配信するつもりだ。よほど人に注目されたい寂しがり屋なんだろう」 伸暁はほんの少し肩をすくめる。犯行に及ぶのは6人の少年達で最近ネットの闇サイトで知り合った者同士だ。それぞれがカメラを携帯し撮影しつつ犯行に及ぶ。 「残念な事に運命は奴らに微笑みを向けなかった。全員がノーフェイスだ。強力な物理攻撃力、防御力を持っていて、弱いテレパシー程度の勘の良さもある」 最強クラスとはいえないが、侮れる戦力でもない。 「幸い、奴らはそれぞれに単独で行動する。まぁ、互いに仲間ってわけじゃないからな。そこがこっちとしちゃ狙い目かもしれない。出来るだけ被害は最小に、戦果は最大を期待しているぜ」 伸暁は片頬にだけ笑みを刻んだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:深紅蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●月の魔光 「……始めようか」 見崎健太は言った。ありふれた容姿のどこにでもいそうな少年は夜風に髪をゆらしながら、心地よさそうに言う。他の者達はそんな健太は眼中にない様子で粛々と準備を進めている。彼らもまた、自分の事にしか興味がないのだろう。相沢翔也が上から目線で機材や撮影の注意を言い、月島悟が抜け駆けとばかりに走り出し、他の者達も一斉に標的のビルへと向かって駆ける。 「じゃ、配信を始めるよ」 健太は赤いRECのボタンを押した。 「お、来たかしら?」 ほとんど超能力と言っても良いような勘の鋭さを発揮したのは『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090)であった。 「先に行ってくれ。俺は見届けてから向かう」 ラストオーダーが終わった事を告知した立て看板を設置していた『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)が言う。今夜のアウラールは近寄りがたい雰囲気を発散できそうな服装をしている。千歳が目で人を誘導するのなら、アウラールは雰囲気で人を寄せ付けないつもりだ。 「こっちは準備おっけ~よぉ~」 開きっぱなしのエレベーターから『メタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)が転がり出る。 「こっちです」 隣のエレベーター内部から『ひよこ饅頭』甲 木鶏(BNE002995)が顔だけ出し、続いて左手が手招きをする。 「やっかいな一般人ももういないし、こっちも早く上にあがりましょう」 「りょうか~いぃ」 千歳とステイシーが乗り込み木鶏が『閉』のボタンを押す。その数秒後に少年達がどかどかと靴音をたてて走り込んできた。ビルの1F、エレベーターホールに誰もいないことは拍子抜けだったらしいが、勢いそのままに力任せに『▲』ボタンを押すと、メキッと音がしてヒビがはいる。明るいぽーんという音とともに扉が開き少年達がなだれ込み、最上感のボタンを押した。 「よう! 俺も混ぜてくれないか?」 閉まる扉をすり抜けるようにして入ってきた男がニヤリと笑いながら言う。それは勿論、わざと狂気の光を目に浮かべて笑うアウラールであった。 「……行ったか」 業務終了の立て看板をエレベーターホールの中央に改めて置くと、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)はAFを手にする。現状を上で待機する仲間達に伝えなくてはならなかった。 「……来るか」 ワイヤーとバス停の仕掛けを施した『七教授の弟子』ツヴァイフロント・V・シュリーフェン(BNE000883)の右手には業務用の大きな掃除機があった。左手には強力そうな粘着テープの切れ端がある。ビルの階を示す数字は下から上へと点灯と消灯を繰り返し、徐々に最上階へと向かっている。あと3、2……ツヴァイフロントは掃除機の電源を入れてホースを放り投げ、エレベーターの『▼』ボタンへと走る。扉が開くと当時にボタンを押しっぱなしになるようテープで留める。 「張り紙した奴はどこだ!」 「ひっつかまえてぶち殺せよ!」 「え、なんだ これ!」 「で、出られねぇじゃねぇかよ!」 最後の悟の怒号が一際大きく聞こえてくる。 「……素直だね、君達。ちゃんと全員乗ってるんだね。よかった」 忽然と姿を現したかのように、気配のなかった場所に若い女性がたっていた。エレベーター内の少年達はきょとんとする。 「いらっしゃーい」 一足先に上がってきた千歳が両手を広げる。 「もしバラバラになってたら、手間がかかって面倒だもの。ありがとう」 人当たりの良さそうなお姉さん、『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)の微笑みの理由が少年達には理解できない。そして、自分達が予想していたのとは全く違う展開に頭もついていっていないようだ。呆然としてエレベーターから出ようとする行動もない。 「うぃーんうぃーん。面白い画がとれそうですわね」 逆に『マギカ・マキナ』トビオ・アルティメット(BNE002841)は小型のハンディビデオのカメラを少年達へと向け、ピントも構図も決めず無造作に撮影し始める格好をする。 「やめろ! 撮るんじゃねぇよ!」 「報復だ。こちらからも彼らを撮影してやるといい」 悟を制した翔也が健太へと指示をする。 「そ、そうだ! 僕達だって……あれ?」 だが、その健太の身体に装着したはずのカメラはなかった。いや、健太だけではない。6人の少年達からビデオカメラが無くなっている。 「これは処分させて貰うぜ」 ワイヤーをくぐりぬけエレベーターを脱出していたアウラールは、少年達の目の前で奪ったビデオカメラを握りつぶす。 「念のために彼らが持つ残りの機材も破壊したほうがよろしいかと思います。差し支えなければわたくしめがそちらを引き受けさせていただきますが……」 皆の無言を了承と解し、『Pohorony』ロマネ・エレギナ(BNE002717)は一礼する。 「や、やっと追いついた。せっかく待機していたのに素通りするなんて、お兄ちゃん達独創性がなさ過ぎるよ」 非常階段とトイレがある方角から現れた『黄道大火の幼き伴星』小崎・岬(BNE002119)が漆黒のハルバード『アンタレス』を手に颯爽と現れる。 「少年達の激情が場当たり的で無秩序な行動を生むのではないかと懸念していたけど、その様な心配りは全く必要なかった様だね……少し拍子抜けだよ」 失笑をこらえるように優雅な様子で口元に手を置く『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)が岬の後から姿を見せる。キリエの外見は秀でて美しいのだが、どことなくとらえどころがなく得体が知れない感じがある。 「素直で責められては彼らも立つ瀬がないと思うけど……」 やはり下から上がってきた『怪力乱神』霧島・神那(BNE000009)が容赦ない岬とキリエに肩をすくめる。 「そろそろ始めようか。もう人の感情を失っているからには君達は人ではないし……」 「悪い事しちゃう前にボクがちゃんと葬ってあげるよ」 神妙な様子でキリエが言い、岬はニコッと屈託のない笑いを浮かべ武器を構え直す。 「や、やってやる! 僕達は、力を得たんだ。選ばれた者なんだ!」 叫びながら健太がワイヤーを越え、突進してきた。 ●刹那の魔法 「それじゃあ面倒だけど機材込みで『壊し』ていこうか」 気負うことなくキリエは言い、気糸を繰って飛び出してきた健太の側頭部を狙い撃つ。派手な音と共に機材が砕け、動きが止まったところにリベリスタ側からの次の攻撃が迫る。 「大丈夫。一緒に逝く仲間もいるし寂しくないわぁ~」 光り輝くオーラの加護をまとったステイシーが全身の力を拳に込め、甘ったるい言葉で囁きながら健太を殴りつけた。 「ぎゃっあっ!」 悲鳴と共に転がった健太が無骨な掃除機に頭をぶつける。 「んふっ、それも見逃さないわよ」 増幅された魔力で描く陣から放った千歳の弾丸が健太の後から出てきたばかりの悟を撃つ。出鼻をくじかれた悟は前のめりにすっころび、顔面からフロアにぶち当たる。 「別に出てこなくても構わない」 ワイヤー同士の隙間を縫って、高速で低く跳んだツヴァイフロントの攻撃が翔也を強襲する。 「わああっ」 びっくりするほど大きな悲鳴をあげて翔也は手にした武器を取り落とす。同じくエレベーターボックス内に留まっている少年3人もここへきて初めて慌てはじめ、我先にと外で出ようとするが、ワイヤーと他の少年達が障害となって出られない。 「慌てる事はないぜ。そのまま箱ごと逝かせてやる!」 笑顔で放つアウラールの攻撃は強い十字の光を放ち、名もなき少年の腹をえぐるように貫いていく。 「ごふっ……がああっ」 悲鳴は泡まじりの血とともに口を染め、身体を染めてエレベーターボックスの床に落ちる。 「自分のことはちゃんとわかってるほうがいいよ。テレビに影響されて犯行とかどんな情弱だよー」 闘気に包まれた岬がエネルギーのこもった武器アンタレスで一閃すると、その先にいた少年が袈裟切りになる。だが、少年達もただやられているだけの存在ではない。運命の微笑みを見る事のなかった彼らだが、決して無力な存在ではない。世界を破滅させる可能性を秘めた恐るべき力は6人の中に今も備わっている。頭から血を流したまま健太はステイシーに突進し、全ての感情を爆発させたかのように拳を振う。獣のようなうなり声を発しながら悟が千歳に、そしてワイヤーを引きちぎった翔也の脇から名も無き少年3人が我先にエレベーターボックスを出る。 「そいつをやれ!」 翔也の指令に3人がアウラールへと攻撃を集める。作戦も連携もない散発の攻撃だが、それでもリベリスタ達の回避行動を阻止して命中し、したたかな傷を刻みつける。 「そんなに怒って仕返しするなんて、やっぱりまだまだ子供なのね」 レナーテは集中攻撃に晒されたアウラールの前に出て、半分泣きながら攻撃をしてきた少年に力を叩きつける。悲鳴もなく吹っ飛んだが、それだけで倒せるほど心はともかく身体は柔くはない。 「いくら望んだとしても、あなた方にゲージュツは無理ですの。無様ですわ。私が素晴らしき科学と芸術の融合をお見せしますわ」 言葉の終わりとともに召喚された猛火が乱舞し、エレベーターホールは一瞬で炎に埋め尽くされる。勿論、そこにいたノーフェイスの少年達をも荒れ狂う炎は等しく飲み込んでいく。 「どうやらここに集中していて他にバラけてはいないようだ。よろしく頼むよ」 キリエは拓真や木鶏、神那にも攻撃を要請しつつも攻撃を緩めない。何者をも見通すかのような目は既に少年達の行動を正確に把握し、それに見合った最も回避しにくい攻撃を放っていく。更に追撃するかのようにオーラをまとった拓真と神那の連続攻撃、木鶏の炎の拳、そしてロマネが少年の頭部を不可視の狙撃で狙い撃つ。 戦闘が長く続くにつれて次第に優劣の差がはっきりとしてくる。運もなく、強固な意志もなく、殺人という衝動……そして売名という快楽に蝕まれた少年達は最後に残った命さえ失おうとしている。 「どうして! どうして倒れない!」 健太は攻撃しても平然と表情さえ変えないトビオに足を踏みならして怒りを訴える。 「驚かれることはありませんわ。私は機械ですもの」 優雅に服の埃を払い立ち上がるトビオの外見からはいささかのダメージさえも見て取れない。 「どうだ……退くならば追わない。信じられないなら理屈で考えたまえ。裏切りるのはいつも味方であって敵ではない。逆に裏切りに断固として立ち向かう強者には、戦うより逃がそうと考えるのだ」 姿勢を正しいかにもそれが真理であるかのように断固とした様子でツヴァイフロントは言う。その言葉の真偽はどうでもいい。今まさに絶体絶命を体験している少年達がどう判断するかということだ。 「嘘だ! 僕達は誰にも騙されてなんかいない。僕達の行動は僕達が選んだんだ!」 血まみれの健太が激高する。闇雲に繰り出された拳はリベリスタの誰をも捕らえる事が出来ず、ビルの壁を殴打する。その瞬間、激しい振動と衝撃が壁を伝い深い亀裂が破片をまき散らしながら進んでいく。健太以外にも投降、逃亡を企てる者はない。このとき、少年達の末路は決まった。 「犯す罪の重さと同等の罰が与えられるのはわかっている筈だぜ」 言い放ったアウラールの心にこそ痛みがある。けれどこの痛みから目を背けない事もリベリスタの責務だとアウラールは思う。力任せに掴みかかり叩きつけた手に肉体が壊れる感触が伝わる。割れた頭を真っ赤に染め断末魔の悲鳴さえなく月島悟は絶命した。 「あわわっ」 腰を抜かし後ずさる名も無き少年に岬が迫る。 「小学生から逃げるなんてこと、ないよね。おにーちゃん!」 アンタレスと岬の全身を返り血が赤く染める。別の少年はレナーテが引導を渡し、別の少年は頭部を目に見えない弾丸に貫かれ、血と脳と脳漿をまき散らして煤けて黒くなった床に沈む。 「これが正しき科学の力ですわ」 「もうこれで……終わりにしようか。それとももう少しあがいてみるかい?」 穏やかな笑みを浮かべたキリエはわざと攻撃の力は使わずに、清らかなる風を喚びトビオの傷を治していく。 「おばかハイエナ君達はぁ、誰にも、運命にも力にも見放されていてぇ……あまりに汚らわしく可哀想だからぁ、せめて自分が愛を届けるわよぉん」 「ヒッ……」 翔也の悲鳴が喉を振るわせるよりも、ステイシーの腕が血まみれの身体を砕く方が速い。残る健太も命運も翔也との誤差はごく僅かだった。千歳が描く魔方陣から放たれた弾丸は狙いを違えることなく標的に当たり……そして全てのノーフェイスが沈黙し、死に絶えた。 「結局、結末が変わる事はなかったか」 説得が不首尾に終わったことをツヴァイフロントの表情は変わらないが、幾分残念に感じているのかもしれない。 「最近この手の依頼が多くてだめね」 武器を握る手を緩め千歳が言う。 「……ある意味で、この子達も被害者よね」 もう動く者とてない躯達を見下ろしてそっとレナーテはつぶやいた。もし、ジャックという強烈な個性を垣間見る事がなかったら……彼らの未来は違っていたかも知れない。 「ジャックに感化されるなんてね」 それもこれも彼らの不運なのだろうか。千歳は小さくため息をつく。 「それでも……痛いな」 アウラールはポケットの温もりをそっと確かめる。 「バイバイ、ハイエナ君達」 短い黙祷を捧げた後ステイシーはきびすを返し、エレベーターボックスに仕掛けた挑発的なチラシを回収に向かう。 「……それにしても、この後始末をどうしたら良いものか」 キリエはため息をついた。床も壁も見る影もなくボロボロで、更に広大な血の海に6人の少年が沈んでいる。どこからどう見ても凄惨な殺人現場だ。 「すみやかに撤収いたしましょう。後の始末はアークの方にお任せしますの。何事も専門の方にお願いするのが良策ですわ」 トビオは助力してくれた木鶏や神那、ロマネ……そして拓真達にも帰り支度を勧める。 「じゃ、まったどこかでねー」 無傷のエレベーターに一番に乗り込んだ岬が大きく手を振る。 その夜、とあるビルでエレベーターの故障がありやや大きな振動がビルを襲った。幸い怪我人はなく、客や従業員達は非常階段を使って避難したというニュースはあまりにも小さくて、どのニュース番組でも取り上げる事はなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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