●全ての異形を従えて 排他し、淘汰し、人はただ安心する。 怯え、恐れ、怒り、或いは責め、人々は目を逸らす。 「そうさ、『あいつら』なんて最悪じゃねえか。俺たちを一木一草残らず殺そうと気張って襲ってくるあの連中。ああいうタイプだけはダメだ。あいつらもこの『騒ぎ』でいい気になってると思うと癪に障るぜ」 黒い、漆黒と形容すべきフードで頭を覆う男が底冷えのする声を漏らす。ポケットにぞんざいに突っ込んだその手には、大ぶりのナイフが入っていることは誰も知らない。 「あらン、重久ちゃんたらノリノリじゃなァい? 普段はそんなに喋らないじゃない」 傍らにたつ、如何にもなオカマがしなを作り、フード男に声をかける。このオカマはオカマがしなを作る度、小さいモーター音が響くのは、耳ざといものなら気づいたろうか。 「はん、お前さんも同じだ九重。昨今の騒ぎにアてられた連中同様、儂らも踊らされてるんだろうよ……しかし」 着流しを着た老人男性が、くつくつと二人を笑う。その口元に宿す歯が、糸切り歯と呼ぶには余りに大振りであることは、神秘の入り口に立つ者たちからすれば脅威のひとつでしかなく。 「『あやつら』に虐げられ殺された同胞の恨み、革醒した身を迫害した小童共……今宵殺さずいつ殺す!? きっかけなど何でもええ、ただ今殺せれば――」 「一番猛ってるのはジイさん、あんたじゃねえか……いいさ。俺達は俺達のやり方で、世界に一花咲かせておこうぜ?」 大きく腕を広げる老人と、ケタケタと笑うフード男――重久は、夜の街へと歩き出す。少し後ろを付いていくオカマのつま先が、チリと僅かな電流を纏った気がした。 ●不適合異形共同体 「人は、異分子を嫌い、時に憎みます。さて、憎まれ役になる側は常に雌伏に堪えるでしょうか?」 『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)がコンソールを叩き、映像を切り替える。そこには、フード男――重久といったか――のバストショットが鮮明に映し出されていた。顔の右半分をぬめりのある質感で覆われた彼は、間違いなくビーストハーフであるのだろう。 「『ハーフデザイア』充井 重久(みつい しげひさ)。かつて、殺人請け負い、又は自主的殺人嗜好を主体とするとある組織のナンバー2でした。しかし、組織は壊滅。現在は僅かな残存要員を伴って放浪していましたが……今回の一連のアピールに便乗する形でタガが外れたのか、大規模犯罪に手を染める可能性があります」 続き、残る二人のデータも表示される。 「充井はご覧の通りビーストハーフ。ソードミラージュであり、三人の中で最も手強いでしょう。速度と一撃の威力を重視したようです。以前は切り込み役として、自分の手で殺人を行っていました。『ボーダーメイデン』九重 次月(ここのえ しずき)はメタルフレームのホーリーメイガスですが、クロスイージスの能力にも覚えがあるようですね。彼は、他人の弱みを利用した手を汚さない殺人が得意だったようです。最後に、この老人が『百毒千死』黒塚 光葉(くろつか みつは)。ヴァンパイアのインヤンマスターで、野放しにすれば長期戦では苦労もあるでしょう。毒による虐殺が趣味の、変質者です。……三者とも、一介のフィクサードとしては平均以上と考えてください」 僅かに、沈黙が降りる。だが、それを肯定と捉え、夜倉はなおも続ける。 「彼らの目標は夕暮れのビジネス街。君たちが到着したときには、既に民衆を射程に捉えていると思って頂ければ幸いです。ゼロにしろ、とは申しません。……被害の極減を。君たちなら問題ないでしょう」 ゼロにしろ、と言い切れない自分が憎く、それでも成し遂げるだろうと強く推し。リベリスタとフォーチュナ、双方の視線がきつくきつく交錯した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●狼煙 街路を濡らす紅は、果たして夕陽か――人の血か。 「キャー! 人殺しー!!」 如何にもヒステリックに響き渡る単純明快な声と、異様な雰囲気を醸し出す二人組の存在は、否応無しに人々の恐怖感を励起する。 「ジャックだ! テレビのあいつだー!!」 更に上乗せして、ジャックの名前も出されればその場は混乱の坩堝と化す。地に伏す男性のことなど構っている暇などなしに、人々は三々五々に散っていく。或いは、休日の繁華街での状況であれば、それらの声は混乱に混雑を上乗せするだけで、加害者の完全有利を作り出していたことだろう――物陰から姿を表した『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)にとっては不幸中の幸いであった。 「さぁ、あなたたちが目障りだと思っているアークが相手をしましょう!」 その言葉と共に、式符を撃ち放ったのは『第14代目』涼羽・ライコウ(BNE002867)。光葉目掛けて放たれたそれは、しかし悠然と躱す彼とて、同じ術師として苛立たしいものがあったことだろう。何にか、は言うまでもあるまい。 「……チ。もう少し手際よく殺れると聞いておったが、邪魔者は予想以上に手が早いの、九重」 「あらン、ジャックちゃんの演説ほど無能の集まりでもなさそうねェ。目障りどころか目にも入れてなかったけれど――『騙し絵』もアークも伊達ではないのかしら?」 「理解して頂けて光栄ですね……おや?」 憎々しげに人々が去っていく方向を眺めつつも、光葉と次月の思考の切り替えは素早かった。ぐるぐに続いて現れたリベリスタ達、総勢八人を相手取ってそれ以上の被害者を得ようとするのはかなり難しい。 だが、それを差し置いても現状は自分たちに利がある。ぐるぐの思案するような表情が、その証拠だ。 「フフ、誰をお探しかしらン? 余り気を散らすと背中から切られるだけよ?」 「……っ」 「儂らを差し置いてかくれんぼなぞ、暇は与えんが……構わんかの?」 次月、光葉の挑発するような言葉を前に、浅倉 貴志(BNE002656)と『不屈』神谷 要(BNE002861)は揃って息を呑む。 ――被害者の『極減』を。自分たちを送り出したフォーチュナの言葉通り、想定できる被害は極限まで抑えた。しかし救われぬ命もあった。責められる謂れがなくとも、彼らに落ちる影は余りに深い。 「じゃあ、お前がやめれば終わりだろう充井。……悪いが丸見えだぜ?」 街灯の影へ向け、『うめももの為なら死ねる』セリオ・ヴァイスハイト(BNE002266)が不敵に声をかける。向けられた刃は夕焼けを反射して紅に光り、何時でもその紅を朱に変えて見せると言わんばかりの迫力があった。 「ッハ、ンだよ少しは騙されてくれれば楽しかったのによォ……儚くか弱い一般人を喜んで殺しに行った奴を追いかけるぞ! とかンな熱い奴は居ねえのか。悲しいなァ」 ずぶりと、影が蠢く。街灯とは違う影が現れ、実体が現れ、フード姿の男――重久が姿を表す。手の内で弄んでいるナイフは、厚身のコンバットナイフ。 「なるほど、民間人を盾にすれば止まると? 確かに、正義のリベリスタであればそうかもしれませんねえ」 「一切気にしねぇってのは、成程、話半分に聞いてたが手前ェも中々狂ってやがるか、えェ、蛇」 「姿見が蛇の方が言うと説得力に欠けますねぇ……貴方では力不足も甚だしい」 正義の味方。そうあらねばという矜持。そんなものは元より幻想であると切って捨てたのは、『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)だ。多少の覚えのあるかのように語りかける重久に、彼が重ねた姿は一体何時の自分であったか。どれほどを契機としたかは定かではないが、見栄えの良いものではなかろう。少なくとも、彼には。 「……復讐、ですか。では、此処で私達を下して次に、そしてさらに次に……ですか? 死ぬのも覚悟の上……なのでしょうね」 「面白い考えね、お嬢ちゃん? アタシ達が死んじゃったらソレこそ本末転倒、只の奇人変人で終わっちゃうじゃなァい? ソレじゃ駄目。駄目駄目よ。ジャックちゃんみたいに『殺したいから殺す』だなんてつまらないわ。ちゃんと意思表示はしておかないと。尤も――清廉潔白、人の姿のままのアナタには一生分からないでしょうけれど」 『優しき白』雛月 雪菜(BNE002865)の理解を求めた言葉は、次月によって棘として投げ返された。毒々しいその瞳、その薄墨のように浸透した狂気。一生わからない、などと。彼女にとっては最大の侮辱であろうとわかって居るからこその言葉は、しかし踏み込んできた影によって断ち切られた。 「復讐上等! アタシもフィクサードに復讐する為に今ここにいるんだ!」 ナイフを振り下ろし、次月の盾越しに意思を叩きつけたのは『がさつな復讐者』早瀬 莉那(BNE000598)だった。本当に復讐したい相手はただ一人。その言葉を喉元で飲み込んで、大きく飛びすさったその視界では、やれやれと次月が首を振っている。思い切りのよい一撃ではあったが、直撃までには及ばないか。 「……で、どうする充井の。有難ァいご高説の垂れ流しを続けさせるか?」 「冗談だろジイさん。番犬の一匹二匹、蹴り飛ばすくらいで丁度いいだろ。何しろ、先に手を出したのはあいつらだぜ? わかってもらわねェと」 「思い知るのはオマエ達の方だ……その命でな!」 フードを払い、重久が一歩歩み出る。莉那が銃を構える。触発されたように、否、元から高まっていた雰囲気を弾くように、か。 瞬間、激突。 オフィス街は、血風と火花と夕陽、三種の赤で染まる。 ●猛火 「遅ェぜ猫。威勢は一丁前だ、そこは評価してやるよ」 「っ、この……!?」 一瞬腰を落とした重久を視線で追おうとした莉那を襲ったのは、凡そナイフで繰り出すとは考えられない刺突の嵐だった。赤光が舞う。あらゆる方向からの止めどない刺突の奔流。アル・シャンパーニュと呼ばれるそれの正体を彼女が理解するより早く、その足は踵を返し、同じく重久を狙うイスカリオテへと一直線に向かう。 「成程、面白い技術です……ですが、私が学びたいのはそれではない。見せて頂けませんか? 貴方の技を」 莉那の技の冴えは、他のリベリスタと比肩しても高い次元にあった。それをそのまま味方へと向ける機会が来るとは想定外だったろうが……イスカリオテは、それで退く程甘くはない。彼の指先から放たれる気糸が、一直線に重久を捉える。突き刺さったそれは、確実な手応えを以て重久に根源的な怒りを植えつけた。怒りを認識した彼は、イスカリオテに、そして他のリベリスタに現れた羽根を凝視する。 「笑わせやがる……だったら殺る気でかかってこいよ、リベリスタ!」 「私は、私にできることをします。皆さんを……護る為に……!」 雪菜の視線が、戦場を、フィクサード三人を鋭く射抜く。彼らが行うすべての行為を逃さず、味方を支え癒すこと。状況判断を誤れば、自らが窮地に立たされかねない。それは不味い。 「殊勝な心がけだと思うけれど、私達もナメられてるのかしらねェ? そんなに簡単に戦わせてあげないわよ……っと! 危ないわねェ」 「ハァイMr.レディ。あーそびーましょ」 「お前たちが何をしたいか分からねぇが、仕事なんで全力で止めさせてもらうぜ」 「守りの要は、あなたですね。――油断はしません。全力で行かせて貰います」 「貴方がたはここで止める。止めて見せる……!」 雪菜へ向かって前進しようとした次月の歩を止めたのは、ぐるぐのピンポイント。スピードと命中に長ける彼女のそれが、次月の先手を打って感情を染め上げることなど、実に造作のない行為だ。 加えて、セリオ、貴史、ライコウが次月に向かえば、次月に自由という選択肢を喪わせたのは確かだ。こと、セリオに関しては、抜け目なく重久を視界に捉え、影に潜ませようとしない。回復手を封じる、という定石中の定石は、先ず彼らがこそ先手を取ったといえよう。 「――は、ハ」 その戦場に、笑い声が響く。静かに、だが徐々に調子が上がり、呵々大笑と言うべきものへと移っていく。復調の光を纏って要が前進しようとした直後、笑い声が尾を引いて雪菜へと襲いかかる。 「若いのぉ、幼いのぉ! それが死生の瀬戸際を見た者の戦いか!? 儂ら三人如きに盲点を作るなど、癒し手を野放しにするなど、愚の骨頂も甚だしい! 貴様等――毛程にも面白みが無い」 雪菜が戦況をコントロールするために取った距離と、光葉が彼女へと10秒で一撃を届け果せる距離とでは、余りに開きがあったといえる。ほんの五歩。だが、大きすぎる。彼女の胸元を深々と鴉が抉り、退る。致命傷には遠いとは言え、彼女の意思を上書きするには十分である。 「私――私は、」 「落ち着いて下さい、無理に戦う必要は無いんです!」 相手の射程圏から逃れなければという煩悶と、込み上げる怒りの感情。それを制御しきる前に、雪菜は要の放つ光を受け止めた。戦闘を免れる為に開けていた距離は既に光葉との射程圏。加えて要が彼女を庇おうにも、一足で近づける距離ではない。少なくとも、光葉の介入を許してしまう。 「……オマエ……!」 「つまんねえな、起きたのか。動きがちったぁマトモになったが、踊らされてるほうが良かったか?」 同じく、要の光を受けて正気を取り戻した莉那にとって、重久の言葉がどれほど屈辱的だったかなど考えるまでもない。怒りが故か、その身が感知した逆境の匂い故か。莉那の技の冴えは増し、重久へと軽くはない一撃を見舞っていく。 「騙し上手にしては中々のスピードじゃなァい? 受けて立つわよ――」 「では、ここからはぐるぐさんの本気をお見せしましょうとも!」 怒りの指向性をねじ曲げられながらも、しかし既の差で正気を取り戻した次月は、その包囲を受けて立たんとして全力防御の姿勢に入る。だが、その一瞬にねじ込まれる一撃一撃は、防御の暇を与えない。向こう脛を叩き斬るように蹴り込み、鳩尾を貫き、顎を掠り人中へと至る、精密連撃。 それでも構えた次月の防御を、貴志の蹴りからの真空刃が薙ぎ払い、ライコウの符が奔る。だが、手応えはどちらも浅い。次月の体力を削ぐことに成功してはいるものの、まだ、余力は十分に思える。 「なかなかやってくれるじゃない? それに、『狙ってこない』なんて……何の冗談?」 「金的を狙わないのはレディへのマナーでしょう。それ以上の理由はありませんよ」 自らの攻めを凌がれて尚、ぐるぐは飄々と構えている。だが、次月が彼女の言葉を認識する頃には、既に次の挙動へと身を翻している。 「来たか……思い至るにはちと遅かったが、意気やよし、と言っておいてやろう」 「回復役は戦闘の要だからな。アンタこそ、放っておいていいのか? 大事な回復役なんだろう?」 「九重はあれで強かでな。あれではまだ堪えんよ……に、しては。何も分かってないではないか、のぅ?」 雪菜の前に立ち塞がるセリオと要に相対しても、光葉は全く動じた様子を見せていなかった。寧ろ、想定内だと言わんばかりに構え、瞬く間に印を切る。 瞬間、街路を濡らすのは神秘が招く氷の雨。戦場に散っていたリベリスタを尽く責め立て、疲弊を呼び込んだ。 だが、それだけでは彼らは退かない。氷を溶かすが如くに放たれた雪菜の癒しの波が、氷雨の猛威を瞬く間に癒し、それに限らない傷も癒していく。癒し手の存在と、人数の多寡。確かにそれは、恐るべき優位性だったと言わなければならない。 「この……クソがっ!」 「それで、終わりですか? では、私の技をお見せしましょう……!」 重久は、イスカリオテへと次々と斬撃を繰り出していく。彼独自のそれではないにせよ、十分な破壊力を持つそれらをして、イスカリオテは一歩も退かなかった。寧ろ、戦闘を楽しんでいるようにさえ見えるのだ。 一刻の雨に濡れた街路が、音を立てて乾いていく。爆発的な乾燥と吹き荒ぶ砂の猛威が吹き荒れる戦場は、フィクサード三者に例外なく襲いかかる。一部であれ直撃であれ、それを無事にやり過ごせる者など居る筈がない。 だが、それでも。 彼らにとて譲れないものがあり。 それを阻むことを第一義とするリベリスタが立ちふさがるならば、容易に歩を止める愚を犯しはしない。 自らの命も秤にかけて、激突は続く――。 ●焼け跡は濃く 「氷雨を使えば――とは考えなかったのか? 甘いんじゃないのか、アンタ達も」 「ハ、そう思うか? そんな面白みも美しさもない殺しなどとうの昔に飽いたわ。殺しはやはり、楽しくなくてはならん」 互いの牙を受け、或いは貫き、セリオと光葉は激突する。光葉が雪菜を狙っているのは間違い無いし、事実攻撃を通しもした。しかし、守りに入ったのは彼一人ではない。要もまた、雪菜を守らんと光葉へと向かっている。激化する戦況に於いて膝を付くことこそあれ、倒れることを選択する意思はなかったのだ。 (考える暇を与えない。いや、考えてくれたっていい。それが枷になるなら!) 「本当、憎たらしいまでに面白く動くわねェ……! 消耗戦もいいところよ」 ぐるぐの、奔放かつ自在な攻撃が次月を襲う。怒りを回避しても、思考をかき乱す連撃は次月の回復技術にすら一点の陰りを与えすらするだろう。貴志、ライコウを含めた攻撃の波は、彼女の余裕をじりじりと奪っていく。 ふう、と深く吐かれた息は誰のものだったか。重久、次月、光葉の三者の視線が一瞬だけ交錯し、離れる。光葉の口元に、深く深く笑みが刻まれたのは誰が気付いたろう。重久の一撃の気配に気付いたのは誰だったろうか。そして、次月の目に感情の色が灯らなくなったのは、一体誰が気付いたものか。 「悪ィが、見初めにして見納めだ。何も出来ずに死ぬ気はねぇんでな……!」 重久の体が捻られる。右へと大きく踏み込んだステップが、イスカリオテを、そして莉那を巻いて左へと流れる。逆足からの真逆の流れから、切り上げ。斜めに斬り下ろし。殺意はゆっくりとした動きから暴風へと移っていく。予兆も無く前提もなく、たった一歩から始まる舞踏を受け止めるのは、至難。 本来なら対応に動くだろうぐるぐだが、次月が掲げた腕に充填される光の波長を見て取れば、それを放置などできようはずもない。次々と突き刺さる連撃が今度こそ次月を昏倒させたのを見て、その行く手に舌打ちを禁じ得なかった。 「な――」 光の到達点は、セリオ。その視界を白く塗りつぶした十字の光は、残像を強く焼き付けて彼の意思を混乱せしめた。怒りをぶつけようにも、対象は既に倒れており。一瞬の視野の乱れで、重久の影を捉える隙も無く。 「難儀よの、道化よの。もう、儂らに抗う暇も力もないだけだと言うに」 舞踏の終わりを測ったように、イスカリオテが呪力に縛り付けられる。その一瞬で十分だった。その一瞬が全てだった。莉那にはもう立つ術は無い。影に隠れた重久を追う術はない。何もかも諦めたように、呵々と哂う光葉と動かない次月を捕縛することが、今の彼らに出来る精一杯だった。セリオが再び視野を広げても――そこにはもう、誰もいない影しか残されては居なかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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