●『INAZUMA』 四十人も入れば満席のライブハウス。そこは今まさにクライマックスだった。 ハードロックなギターとドラム。破壊的な歌詞を、喉もつぶれんばかりの声で歌うヴォーカル。荒削りの技術だが、しかしそこが愛されるゆえんというバンド。 最後の曲が終わり、ライブハウスは盛大な拍手に包まれた。 「サンキュー。最後にビックニュースを伝えるぜー」 「なんと俺たち、デビューします!」 ドラムが激しくなる。それよりも大きな声で客が叫んだ。今まで応援してきたバンドが世間に認められるのだ。CDはいつでるの? ラジオは? テレビは? 興奮して矢次に質問する客を両手を広げて制するヴォ-カル。 「落ち着けよ。デビューはデビューでも音楽じゃねぇ」 ? 一瞬の疑問符。そして衝撃が駆け抜けた。神秘的な衝撃が。 「殺人鬼としてデビューするんだぜ!」 落雷。ヴォーカルの声が稲妻となり、ライブハウスの客全てに激しいショックを与える。何千分の一の確率で無事な客も、力いっぱい振り下ろされたギターの一撃で原型がわからぬほどに叩き潰される。 「ジャック、サイコー!」 「俺たちも解放されるぜ!」 血まみれのライブハウスの中、ハードロックの音楽が響いていた。 ●アーク 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はイヤホンを耳にしていた。リズムを取るように足踏みしているが、やがて肩をすくめてイヤホンを外す。 「二十点。ロックの心を解さないパフォーマンス系のバンドだな、これは」 「なにをやってるんだよ」 「ああ、来てたのか。いや、直接依頼には関係ないがフィクサードの資料を確認してただけだ」 どう見ても音楽を聴いていただけのようだが、伸暁が『フォーチュナ』の顔になったので言及を止めた。 「皆も知っていると思うけど、過日ジャック・ザ・リッパーを名乗る覚醒者が派手なパフォーマンスをした。最初のインパクトは大事だね。おかげでそれに当てられたようにフィクサードによる殺人事件がおきている」 モニターが映し出すのは、小さなライブハウス。クライマックスから落雷、ギターの振り降ろしまで音声付で映し出される。 「今回討伐してもらうのはこの三人のフィクサードだ。全員メタルフレーム。ヴォーカルがマグメイガスで、ギターがデュランダル。ドラムがクリミナルスタアだ。 三人はフェイトを得ていたけど特に活動のしていない覚醒者だった。そういう意味ではリベリスタといってもいい。だけどジャックのパフォーマンスで何かが吹っ切れたらしい。集まった客を皆殺し。三十分後に踏み込むであろう警察も虐殺する未来が見えている」 まさにハードだ、伸暁は資料を配りながら言葉を続ける。渡されるのはライブハウスの住所と、チラシ。『INAZUMA』……それがバンド名なのだろう。 「彼ら三人は稲妻をモチーフにしたバンドだ。使うスキルも然り。 ヴォーカルは全体に落雷を落とし、ギターが電撃を伴う一撃を放つ。ドラムは疾風迅雷の連続攻撃を仕掛けてくる。ご丁寧に電撃のシードを持ってると来た。このこだわりは見習いたいものだね」 「ここまで拘っていて、やることが大量殺戮でなければな」 「全くだ。集まってくれた客を殺すなんて、ミュージシャンの風上にも置けない。とっとと退場してもらおう。アンコールはなしだ。 楽屋裏に送る役割はまかせたぜ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●INAZUMA LIVE ライブハウスに続く階段。激しい音楽と、鼻腔をくすぐる匂い。 それは血臭。日常にいる人間には縁遠い匂い。非日常を生きるリベリスタにはよく知る臭い。 階段を駆け下り扉を開けて目に映る光景は。 「ちまみれ。朱い、紅い、華が咲く」 ハンバーガーをもぐもぐと食べながら『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は表現する。床に壁に天井に。雷撃やギターの振り下ろしで生まれた赤い何かが広がっていた。 「ファンを殺した馬鹿共なんぞ楽屋裏にも置いとけぬ。店からさっさと追い出して、出禁喰らわすとするのじゃ」 怒りの言葉を口にしながら『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)はぴちゃり、と音を立てながら血溜まりの床を歩く。舞台に立つ三人を見上げた。稲妻を模した服装。派手なメイク。そして――フェイト。 『INAZUMA』……ライブハウスの大量殺人で、今まさにフィクサードに堕ちた覚醒者。 「OH YEAR! やってきたかリベリスタァ! 俺のライトニングヴォイスに痺れてけぇ!」 「お前たちが俺たちのデビューのメイン! 派手に輝くZE!」 ドラムが鳴り響き、ヴォーカルとギターの二人がポーズをとる。 「殺人鬼の物真似等片腹痛い。所詮は傍役と知れ」 青い着流しに下駄を履き、からんからんと床を鳴らしながら『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)は言う。 「何事かに影響を受ける、悪い事では無い。然し此度ばかりは受けてはならない影響を受けたな」 「HA! 伝説のジャック・ザ・リッパーがキてるんだ。乗らなきゃロックじゃねぇ!」 「あんたたちは何のためにバンド組んでたの? ファンを殺すため?」 『統合格闘支援装備 二式 “香車”』をダウンロードし、腕に嵌めながら『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)が問いかける。怒りを静かに秘めながら、しかし瞳に鋭く闘志を燃やし、 「ロックンロールっていうのは自由ってことDA! 客を殺すも生かすも俺たちの自由なのSA。お嬢さん!」 「んー? 自分達の魂を知って欲しくて音楽をやってたんじゃないんでしょうかー? それが殺人鬼になるからオーディエンス皆殺しとか意味わかりませんよ?」 首をかしげながらアゼル ランカード(BNE001806)が問いをかぶせる。身体を動かすたびに、身につけているアクセサリーがジャラジャラと鳴る。 「YOO! 意味なんてねぇ! 理由なんてねぇ! だがあえて答えるならば俺たちが『INAZUMA』だからだぁ! 電撃的な音楽と殺戮をくれてやらぁ!」 「はっ、この俺様を差し置いて電撃だ? かははっ、面白ェ冗談だぜ」 『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)は八重歯をむき出しにして笑った。手にしたナイフを弄びながら『INAZUMA』をみる。一瞥して指を挑発するように自分のほうに倒す。 「このアッシュ・ザ・ライトニング様が居る限り、手前ェらに出番なんざ未来永劫ねェ。 本物ってもんを、身体に教えてやるぜ!」 「キなぁ、リベリスタァ! 俺たちの伝説の幕開けだ!」 ギターがかき鳴らされ、ドラムが派手になる。がなるような大声でヴォーカルが叫ぶ。 リベリスタと『INAZUMA』によるライブが始まる。血と刃と電流のライブが。 ●Gu&Dr 『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)が入り口の施錠をする。しばらくした後でなだれ込んでくる警察の介入を臆させる為だ。 (あれ? なんか引っ掛かると言うか……うーん。でござる) 李 腕鍛(BNE002775)は違和感を感じるが、言葉にはできない。違和感はわからないからこそ違和感なのだ。わかってしまえばそれは核心となってしまう。そして今は違和感を解決できる程、落ち着いた環境ではない。 アゼルが事前に掛けておいた空を飛ぶ加護により、足元の死体を飛び越えてリベリスタはステージの上に立つ。 「力比べと行こうじゃないか」 体内の気を燃焼しながらマリーは自らの剣を構える。先の依頼で受けた傷が痛むが、それを感じさせない余裕。相対するはギターをもつ男。共に自ら稲妻をまとい、自らを傷つけながら武器を振るう。 バジィ! 雷と雷がぶつかり合い、派手な火花が飛び散った。 「タイマンかい、LADY? 悪いが勝負は見えてるZE!」 ギタリストはタフネスに自信がある。マリーの実力を侮るつもりはないが、それでも自分の勝利は見えていた。だからといって降参を進める気はない。むしろそのセリフで恐れる様をみたかったのだ。 しかし―― 「だからどうした?」 臆することなくマリーは言葉を返す。マリーの役目はギタリストの足止め。仲間が他のメンバーを倒すまで、耐えれればいい。 「あんたの相手はあたしだよ」 凪沙がドラムのほうに向かって飛ぶ。真正面に立つとガントレッドをガードの形に構えて、ステップを踏む。 「…………」 ドラマーの男は無言でスティックを振り回し、凪沙を殴打した。小刻みだが素早い動き。防御に回ってなお衝撃が腕に響く。 「すごく速いね」 凪沙は打たれながら相手の目を見る。防御を解けば相手の情報を読み取ることもできるだろうが、その余裕は今はない。情報か防御か? どちらを優先するかといえば、防御である。 「でも、あたしが持久戦に持ち込むから。あんたの手数は封じ込めるから」 ならその防壁をぶっ潰す。そう表現するようにスティックを振り上げ、凪沙に振り下ろした。 ●Vo マリーと凪沙が二人を抑えている間に、他のリベリスタたちはヴォーカルのほうに迫っていた。 本来後衛であるマグメイガスのヴォーカルは、前衛に立つ二人がブロックされている為に孤立しており、リベリスタたちもブロックされることなくヴォーカルに攻撃を加えることができた。 「かっははは、よォ手前ェら。雷帝様のお通りだ。ちゃっちい豆電球は横に退きなァッ!」 自らのギアを最速に上げて、アッシュが二本のナイフを手に疾駆する。右のナイフが振るわれたと思えば次は左。体重移動と速度で何度も何度も振るわれる刃。止まることない刃の嵐。 「よお、羊のねーちゃん。手前ェもなかなか速ェな。良いぜ、速度合わせろ。最速で――倒し切る!」 「最速の力、みせてあげる」 そしてその嵐はルカルカを加えてさらに加速する。ルカルカが武器を手にヴォーカルに迫った。トン、と軽く床を蹴って宙に浮き、翼の加護を生かして横に飛びながらヴォーカルを穿つ。右から、左から、後ろから、前から。 二重の乱舞。速度をそのまま武器にするソードミラージュの戦い方。ヴォーカルの目には二人の姿を正確に捉えることはできずにいた。 「ルカの速さにかなわないなんてつまらないこといわないでね」 「HIGH BEAT!? だがおれのヴォイスからは逃れられねぇ!」 ヴォーカルはマイクを片手にしてシャウトする。声が電化し、ライブハウス全体を駆け巡る。リベリスタたちは雷に打たれ、痺れる肉体に身体を震わせながら武器を構えなおす。 「いい一撃でござるが、所詮その程度でござるよ」 唯一人まとわりつく稲妻を払うように腕を払う腕鍛。そのままヴォーカルに迫り、腕を振り上げる。手にした爪はヴォーカルの肩を裂いた。赤い血が床に落ちる。 「BLOOD! 俺の血、血、血ぃぃぃぃぃぃ!」 「汝らを信じてくれた者を血まみれにして喜び、自らの血で狂うか。小物め。 殺人鬼に声は要るまい。潰してやろう」 源一郎はヴォーカルの喉を狙い、一射する。狙うのは一瞬。思考を最大限に動かし、無限の時間を作る。思考による時間で命中するイメージを繰り返す。後はイメージどおりに打つだけだ。 狙いは外さない。気がつけば、ヴォーカルは喉の部分を押さえて荒い呼吸をしていた。 「回復はお任せなのですよー」 源一郎の後ろで守ってもらうようにアゼルが立つ。自らの体内に駆け巡るマナを言葉に乗せて、歌を歌った。『INAZUMA』の曲とは違い、優しく響く癒しの歌。それが電荷に震えるリベリスタたちの傷を癒していく。 「テ……! ガッ!」 ノドを抑えながらヴォーカルが何かを口にする。喉笛を潰されて声は出ないが、それでも稲妻を繰り出すことに影響はない。歌手生命は絶たれたが、殺人鬼としてはまだ活動できる。 だがそれもリベリスタを廃してからだ。 ヴォーカルの前に集まっているリベリスタの数は三人。そして源一郎の弓もこちらを狙っている。 (SHIT! こういうときに前に立って俺を守るのがお前等だろうがぁ……!) ヴォーカルの視線はギターとドラムの方を向く。 ●リベリスタ 瑠琵が凪沙とマリーの間を往復しながら符で二人の治療を施す。電撃による火傷、ギターの打撲による痣、ドラムのスティックによる裂傷。ドラムとギタリストを抑えている二人の身体からこれが消えることはない。 瑠琵は余裕があれば攻撃も仕掛けたかったのだが、むしろもう一人自分がほしいほどに手が回っていない。こちらの回復量を上回る打撃が連続でやってくるのだ。アゼルの回復を含めても、まだ足りない。 「これで最後DA!」 稲光をまとったギターがマリーの腹部に叩き込まれる。重い一撃。華奢なマリーは押しつぶされるように背中から倒れる。 「頭を潰させてもらうぜ、LADY!」 トドメとばかりに振り上げたギターは、とっさに振るわれた剣で弾き飛ばされる。驚くギタリスト。剣は予想しなかったところからきたのだ。後ろからの不意討ちでもない。横からの乱入でもない。 真正面。倒したはずのマリーが剣を振るったのだ。 「この帽子はお気に入りだ。汚させるわけにはいかない」 父の形見の帽子を押さえながら、マリーは立ち上がる。まだ勝負はついていないと言外に語りながら。 「ハッ、フェイト燃やしても無駄無駄! またやられるっだけDA!」 「かも知れないな。だがそんなことに興味はない」 「なにぃ!?」 「今の興味はお前が敵で、どちらが最後に立っていられるかだ」 「だったらなお無意味だ! 俺の体力はまだまだ余裕が――」 「あるんだろうな。だったら負けん気で勝負する他無いわけだ」 帯電する電力が身体を焦がす。それが自らの肉体を削ると知っても止める気はない。例えリスキーでも最速で敵を倒す為の手段だからだ。 すこし離れた場所で凪沙がドラマーと戦っている。もっとも凪沙は防戦による足止めで、ドラマーは全くダメージを受けていない。 振るわれるスティックをガントレットで受ける。身体を回すように反転し凪沙にスティックを振るうも、その手首をブロックされて攻撃を防がれる。つかず離れず相手の攻撃を避けたり受けたりしながら、仲間がヴォーカルを倒してくれるのを待つ。 しかし凪沙の防御にも限度がある。三回に一回の頻度で攻撃を受け、少しずつダメージが蓄積していく。そしてついに、体力がそこを突き膝をついた。 ドラマーは勝利を示すようにその場でターンして、そのままトドメとばかりにスティックを振り下ろす。 感触はなかった。横にとんだ凪沙が不敵な顔で起き上がる。 「ファイト・トゥ・ジ・エンド。ラウンド・ツー・ファイト、だよ」 ドラマーはあい変わらず言葉を発しない。ただファイティングポーズをとって、それに応じた。 ●決着 稲妻が戦場を駆け巡る。ヴォーカルの放つ雷撃がライブハウス内のリベリスタたちを襲った。 「攻撃の鋭さは認めるぜ、直撃すりゃ俺様ですらやべェ。 だが遅いぜ。遅い遅い遅い遅い遅い! 百年遅ェーッ!!」 稲妻の網を避けながら、アッシュはヴォーカルにナイフを振るう。二重のナイフがヴォーカルの肌を切り裂いた。ぐらりと揺れる体。その表情には戦闘開始時にあった見下すような態度はなく、闇の中でおびえる獲物のような恐怖の顔。 (MONSTAR!? 来るな、来るな、来るなぁー!) 「これでとどめでござるよ」 腕鍛が放った炎の拳が、恐怖に歪むヴォーカルの顔を吹き飛ばす。突き出された拳はまっすぐに。そしてその拳に押されるように背中から倒れ、ヴォーカルは動かなくなる。 「だせぇZE! もう少し耐えろってーんDA!」 「もはや仲間意識もなし。性根までフィクサードになったか」 ギタリストが倒れたヴォーカルを見下し、源一郎がそれに応じてギタリストを睨む。 「弱いやつはつまらねぇんだYO! 伝説の殺人鬼に追いつくなら、強くなくっちゃNA!」 「汝らが目指した道は、殺人鬼に影響される程度の物であったか!」 源一郎は怒っていた。問いかけに意味はない。きっと満足いく答えは返ってこないだろう。だが問わずに入られなかった。 伸暁は低い評価を出したが、それでもついてきてくれる人がいたのだ。それなりに努力はしたはずなのだ。それが殺人鬼に感化され道を踏み外す。嘆かわしいことこの上ない。 「既に罪を重ねた汝らに残された道等、償いきれぬ贖罪か死のみ。生き延びたとしても、汝らに再び音楽を行う道は皆無と知れ」 静かに。だけど重く怒りを込めて放たれた矢は、ギタリストの手指に刺さる。殺人鬼にギターは似合わないと言わんばかりに鋭い一撃。 「ようやくこっちも治せますー」 アゼルが放つ柔らかな光。それはヴォーカルによって与えられた稲妻を振り払う勇気ある癒し。心の奥底から力を奮い立たせる意思を示せるやわらかい光。感電していた肉体はその痺れがなくなった。 「ルカこういう音楽ってわからないけど、あなた達の、騒音ね」 耳をぴるぴる動かしながら、ルカルカがギタリストに迫る。深く沈みこみ、立ち上がるような動きで武器を振るう。スピードの乗った一撃が、ギタリストを殴打した。一瞬意識が空白になる。 「INAZUMAは今日を持って解散、おぬしら全員引退じゃ!」 瑠琵は北斗七星の意匠を施した銃に符の力を込めて、ドラマーに向けて撃った。引き金を引いた時に飛び出す呪術は鴉。黒く羽ばたくカラスはドラマーを貫き、その意識を瑠琵に向ける。 「一人で倒せると思ったのだがな」 元々はヴォーカルにガードさせないためのタイマン作戦だったのだが、マリーはすでに目的を忘れていた。唯一心不乱に剣を振るい、ギタリストに振り下ろす。剣の軌跡にそって雷の残滓が生まれ、その残滓が消える頃にはギタリストは崩れ落ちていた。 「かははっ、歌い手のいねェバンドじゃデビューも出来ねェなァ!」 ナイフを手にアッシュがドラマーに迫る。その動き、疾風迅雷。左右に小刻みに動いて翻弄したかと思うと、そのスピードを殺すことなく刃を振るい駆け巡った。 「俺様はアッシュ。雷帝アッシュ・ザ・ライトニング! 本物の雷光(ライトニング)死ぬまで覚えときやがれ!」 圧倒的な速度によって刻まれるその一撃。稲妻に打たれたかのように立ち尽くしていたドラマーは、白目をむいてライブハウスの床に倒れた。 ●日常へ アゼルはファンの中に生存者がいるかもしれないと言う希望をもって、客席を探ってみた。残念なことに生存者は一人もいなかった。 「……よくよく考えたら拙者たちここに居たらまずいんじゃないでござろうか? 拙者それがずっと気になってたんでござるよ」 「そうだな。即座に撤退だ」 腕鍛が扉のほうを見て言い、源一郎が同意する。『万華鏡』の予知では時間がたてば警察がやってくる。幸いにしてまだなだれ込んでは来ないが、この状況を見られれば殺人犯は自分たちになるだろう。 「む。では撤退じゃな」 瑠琵は『INAZUMA』のメンバーを拘束して、立ち上がる。トドメを刺す気はない。もちろん許す気もない。アークで収容し、罪を償ってもらうのだ。 リベリスタたちは『INAZUMA』を背負い、ライブハウスを後にする。間一髪、リベリスタがアークの車に乗り込んだあたりでパトカーと交差した。赤いランプの車から降りた制服が、ライブハウスになだれ込んでいく。 『ライブハウスの惨劇! バンドは消息不明!』……こういう記事が新聞をにぎわすだろう。そして他の殺人事件にまぎれて消える。事件はこうして忘れられていくのだ。 「ジャック・ザ・リッパーか……」 誰かが呟く。殺人鬼たちが横行するようになった原因を。覚醒者を殺人鬼に変える闇のカリスマを。 いずれ相対する時がくる。それを感じながらリベリスタたちは帰路についた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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