● ナイフは良い。 すぐに手に入る。 ナイフは良い。 武器としては大きくなく、隠しやすい。 ナイフは良い。 切る、突く、と両方使える。 ナイフは良い。 飛び道具と違い、直接相手を傷つけた時の感触が手に伝わってくる。 ナイフは、すごく良い。 「だけど一個欠点があんだよなー」 タバコの煙を吐き出しながら、黒髪の男が空を仰ぎ見る。 そこには満点の星空。 「えー何? あれだけナイフの素晴らしさを語っておいて」 黒髪の男に、隣の茶髪の男が笑いながら話しかける。 「いやさぁ、ナイフって、直接切る感覚があるのはいいんだけどさ」 「おう」 「なかなかトドメ刺せないじゃん?」 首をこうすぱーんとしたりとか、と黒髪の男は手を首元で横に引きながら言う。 その目はキラキラと輝いていて。 先日見たあの映像を思い出しているのだろう。 「あー、骨切るってけっこー面倒だもんなぁ」 茶髪の男もその光景を思い出し、空を見上げた。 そんな彼らにかかるのは金髪の男と黒髪に赤メッシュを入れた仲間の声。 「おーい、お前らもういいの?」 「やれれるときやっとかねぇと、そろそろコイツ限界なんじゃね?」 2人の言葉が指しているのは、先ほど攫ってきた女のことだろう。 あまりにも静かになったので忘れていた。 ぱっと買ったナイフで脅し、この山奥まで連れてきた。 洋服をナイフで切り刻み逃げられないようにしたのだが、激しく暴れ始めたので片手をナイフで地面へと縫い付けてやった。 最初のうちは泣き喚いていたものの、もう抵抗する気力もないのだろう、今は虚ろに空を見上げるばかりだ。 「うーん……もういいや。 全然興奮しねーもん」 「まぁ、それほど美人ってわけでもないしなー」 「それならジャック様のこと考えてた方がよっぽど興奮するかもな」 ゲラゲラと笑い彼ら4人は女を見る。 「さて、これどーする?」 「まだナイフで首を刎ねるとか高等技術、習得してねぇしなぁ」 ジャックに憧れてナイフを使い始めたばかりの彼らは、まだそんな域に達していない。 無理やり首を切りにいってもいいが、使い慣れないナイフでは、逆にナイフの方が折れる可能性もある。 買ったばかりのナイフは大事にしたかった。 刺し殺すにしても時間がかかるし、その前に出血性ショック死の可能性が高いだろう。 「考えるのめんどくせーし、いつも通りでいいんじゃねぇ?」 がしがしと頭をかきむしり言う金髪の男の言葉に、赤メッシュが賛成する。 「そーすっか」 最近は高くなって勿体ないけど、と言いながら茶髪の男が取り出したのはバケツほどの大きさの缶。 蓋をあけ適当にそこらへんに頬り投げると、その中身を一気に女へとぶちまけた。 「っ!?」 放心していた女はかけられた液体の冷たさと気持ち悪いほどの油の匂いに、びくりと怯え逃げようとするがもう遅い。 すでに全身にガソリンがかかり、その導火線は彼らの元に。 「じゃ、ばいばーい」 にっこりと笑い、黒髪の男が吸い終わったタバコを捨てた。 ● 「……と、言う事件が起きるわ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の口から語られたのは、あまり気持ちの良い話ではなかった。 特に女性は、吐き気がする人もいるのではないかと思うくらいの内容だ。 「彼らの居場所はこの山の中。 夜は毎晩と言っていいほどここで遊んでいるみたい」 それは先ほど語ったようなことだったり、酒を飲んでいるだけだったり、カツアゲの現場としてつかったり……使用方法は様々なようだが、褒められた使用方法ではないだろう。 「女性は仕事の帰宅途中に攫われてここまで連れてこられたみたいね」 人通りの少ない山の麓の道を歩いている最中、無理やり車に押し込められたらしい。 「事件が起こる現場までは麓からだと車で5分……徒歩だと30分くらいかかるかしら。 公共の交通手段としてはバスが一時間に2本。 18時に出るバスが最終みたいね。 待ち伏せをしてもいいし、夜になってから山に入るでも、方法は任せるわ」 彼らを倒してくれれば問題ないと彼女は言う。 「彼ら4人の攻撃方法はナイフや火炎瓶を使って攻撃してくるわ」 ジャックに倣ってナイフを使い始めたばかりなので、扱いはそこまで上手くないらしい。 「まぁ……扱いが上手くないと言ってもナイフはナイフだから、刺さったり切ったりされればもちろん痛いわ」 女性が彼らと出会うのは数日後。 すぐに準備して出発すれば、女性が襲われることはない。 リベリスタたちの手で、彼らを倒して来てほしい。 そう言って、彼女は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:りん | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 先程まで辺りを淡く照らしていた夕日が沈むと、辺りは急に暗さを増す。 麓の村にはそれでもぽつりぽつりと街灯があったものだが、さすがにこの山の中にはそんなものは整備されていないらしい。 日が沈めば、後は闇が浸食するだけ。 昼との温度差に身震いしつつ、リベリスタたちは例の空き地付近へとやってきていた。 中途半端な広さの敷地はアスファルトで塗り固められており、隅にはドラム缶や土管などが置かれていた。 何かを作る予定だったのは確かなのだろうが、金銭的問題かそれとも何か違う理由かはわからないが……それの工事は中止され、そして中途半端なこの空間はフィクサードたちのたまり場として機能をしていた。 今の時刻は19時を過ぎたくらいだろうか、まだ例の4人の姿はない。 その間にと、リベリスタの8人は周囲の様子を観察する。 空き地はそこそこの広さで、遮蔽物も時にない。 戦うには問題はないだろう。 そんな空き地を見回し、廬原 碧衣(BNE002820)はある場所で足を止めた。 「いつもここに車を停めているんだな」 そう言う碧衣が立っている場所は、不自然に落ち葉が少ない。 空き地でも木々の近くに面したそこに落ち葉がないのは、恐らくそういった理由だろう。 『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)がその付近の茂みを覗き込むと、そこには投げ捨てられたゴミたち。 ゴミは新しい物から古い物まであり、頻繁にここに出入りしていることが窺える。 そして。 「これ……」 同じく空き地を観察していた『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)が指さした先には、不自然な色をしたアスファルト。 『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)が持つ懐中電灯の光りの中に浮かび上がったのは黒いような、こげ茶色のようなそんな、色。 ―いつも通りでいいんじゃねぇ?― イヴから聞いた話の中に出てきた、男の一言が蘇る。 俯くルアの肩に『青眼の花守』ジース・ホワイト(BNE002417)が優しく手を置いた。 「……許せへん」 ぐっと拳を握りしめ、『イエローシグナル』依代 椿(BNE000728)が呟いた。 その視線は今照らし出されている場所ではなく、空き地全体を見渡していて。 よく見ると焼け焦げの後はこの場所だけではなく、いくつかの箇所に散らばっている。 一体、何人がこの場所で命を落としたのだろう。 「次の事件は数日後、でしたね……」 「ああ……」 『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の言葉に『まめつぶヴァンプ』レン・カークランド(BNE002194)が頷く。 命をおもちゃのように扱うやつらを、許しはしない。 彼らの耳に微かだがエンジンの音が聞こえて来た。 おそらく彼らがやって来たのだろう。 8人は予め決めていた場所へと身を隠し、それぞれの準備を始めた。 空き地に車のヘッドライトの光が入り込む。 「覚悟する暇すらも与えず、制裁してくれるわ……!!」 改造したエンジンの音に紛れ、レイラインは彼らへの怒りを声に乗せた。 ● 車のエンジン音が止むと、4人の男がそれぞれのドアから姿を現す。 「うわ、思ったよりさみーなぁ」 「そりゃ秋だからなぁ」 そんな会話を交わしながら、彼らは車に鍵をかけることもせず土管の方へと歩き出す。 彼らの手にはコンビニの袋とランプ型の懐中電灯。 おそらくいつもそこに座って会話をしたりしているのだろう。 その姿は本当にただの若者で。 だが彼らはすでに何人もの人を殺しているのだ。 リベリスタたちは慎重に攻撃の期を窺った。 (「予想通りだな」) 多少のズレはあるものの、碧衣が予想した通りの場所に彼らは車を停めていた。 碧衣はそこから一番近い茂みに身を隠している。 男たちから死角になるような位置でヘビーボウを構えると、しっかりと狙いを定める。 この暗闇の中、失敗してしまえば彼らを逃すことになりかねない。 ぴたりと狙いを定めると、碧衣はタイヤに向かって矢を放った。 パン! 車のタイヤがパンクする派手な音が空き地に響き、男たちは一斉に車の方を振り返る。 振り返った彼らの目に映ったのは、ジョンの放つ聖なる光。 その光を背に、レイラインが黒髪の男、ルアが茶髪の男、レンが金髪の男、そしてジースが赤メッシュの男へと走り出していた。 黒髪の男の体にレイラインの爪が傷を作っていく。 突然の攻撃に防御を取れなかった黒髪の男はなす術もなく切り刻まれたが、まだ倒れるほどの傷ではない。 「てめぇら、俺らが誰だかわかってんだろうな!!」 そう言い放ち腰のナイフを引き抜くと、その切っ先をレイラインに向ける。 恐らくこの辺りでは有名な悪、なのだろう。 威張り腐った黒髪の言葉に、レイラインは冷たい視線を送る。 「『自慢高慢馬鹿のうち』……こやつらにピッタリな諺じゃな」 「―やぁッ!」 ルアのNemophilaでの攻撃が茶髪の男の体に傷をつけていく。 青い花がルアの動きに合わせて暗闇に踊る。 「んだよその攻撃は? なめてんのか!?」 傷を負いながらも致命傷にはならなかった茶髪の男は、ナイフを取り出しルアへ向かい振り上げた。 「あぅっ! ――痛っ……うぅ!」 防ごうとしたルアだがその行動は一瞬遅く、茶髪の男のナイフがルアの腕を数か所切り刻んでいった。 レンの放つ気糸が、金髪の男を締め上げる。 「その頭の悪そうな金髪、脳みそから毛先までカスカスなんだろ?」 「ざけんな! てめーマジ殺す!」 わかりやすい挑発に乗り、金髪の男がレンを睨み返した。 絡みついた気糸を振りほどきナイフを振り回すものの、それはレンの持つ2本のナイフに阻まれた。 驚愕する金髪の男にレンは微笑み、愛用のナイフを構えた。 「粋がった子供のようなナイフの使い方もまるでなってないな。 俺がナイフの使い方を、教えてやろう。 授業料は、お前の命だ」 赤メッシュの男に向かったのはジース。 「うらぁああ!!!」 思い切り振り回されたGazaniaは赤メッシュの男の肩に食い込み、血しぶきを上げる。 「いってぇな!」 だが赤メッシュの男も黙ってやられはせず、下から上へとジースを切り上げるようにナイフを引き抜いた。 「っ!」 まともに切られてはいないもののナイフはジースの腹を掠り、赤い縦の線が刻まれる。 にやりとわらう赤メッシュに、投げかけられたのはジルの声と、スローイングダガー。 「あたしの抜き打ち、見切れるかしら!?」 手の軌跡が目で追えるか……と思った瞬間には、そのダガーは赤メッシュの脇腹へ深々と突き刺さっていた。 腹を押さえて一度下がろうとする赤メッシュに、椿の放った毒の弾丸がめり込んだ。 「逃がさへんよ?」 ゆっくりと倒れる赤メッシュを後目に、彼らは次の標的へと狙いを定める。 「料理も戦いも手際よ手際」 ジルの呟きは、どさりという重たい音にかき消された。 ● 赤メッシュの男を早々に倒した彼らは、戦いを有利に進めていた。 前衛がそれぞれ1人ずつにつき、後衛がバラバラな場所から攻撃をしかけることで火炎瓶という攻撃方法を使いにくくしている。 惜しむらくは、突入のタイミングの解釈が各々で違っていたということだろう。 タイヤのパンクする音で男たちが振り返らなければ、無防備な背中から攻撃をしかけられ、そして麻痺をさせられた可能性は高い。 だが、すでに戦闘は開始されてしまっている。 自由に動ける男たちを相手に、リベリスタたちは逃がさないよう細心の注意を払いつつ、戦いを展開していた。 「大丈夫か? まだ行けるよな?」 優しく頭をなでると同時に、ジースはルアの傷を癒していく。 ジースの問いに笑顔で頷くとルアは再び茶髪と対峙する。 「ナイフはこう使うのよ!」 彼女はキッと茶髪の男を睨み付けるとNemophilaを下から上へと振りぬいた。 心臓を目がけて振り下ろされたナイフを、レイラインは体を捻じり避けようと試みる。 ナイフは心臓を外れたものの、彼女の横腹を抉り流れた血が下半身を赤く染めていく。 (「無理はせぬ……まだ大丈夫じゃ」) 傷の具合を確認していたレイラインに届いたのはジョンの声。 「お待たせ致しました、レイライン様」 声と共に放たれた神秘の気糸は、彼女と対峙していた黒髪の男を絡め取る。 「ぐ……! 離せ!!」 ジョンの気糸暴れようとする黒髪を押さえつけるように締め上げ、その動きを奪っていく。 さらに集中を高めようとしていたレイラインは即座に行動を切り替え、黒髪の男へと猫のような爪を振り下ろしていた。 黒髪の男の叫び声が辺りに響く。 その叫びに応えるのは椿の冷めた声。 「命乞いでもしてみるか? ……まぁ、したところで許さへんけどな」 椿の放つ冷たい雨がが男たちに降り注いだ。 冷たい雨の攻撃で黒髪の男が倒れると同時に、他の2人の男の体には氷が張りついていた。 金髪の男は再度、レンに向けてナイフを振るう。 今度はレンも完璧に捌くことはできずにその体にいくつかの赤い線が浮かぶものの、まだまだ余裕の表情だ。 レンから距離を取った金髪へ、碧衣の放った矢が突き刺さる。 「ぐぅ……!」 苦痛に顔を歪める金髪に、碧衣は冷たく言い放つ。 「やられる側がどんなものか一度味わうといい」 その言葉に、金髪の顔が恐怖に歪んだ。 今まで、こんなにも傷をつけられたことはなかった。 いつも自分は狩る側だったのだ。 そんな彼へ、冷たい雨が降り注ぐ。 その冷たい雨にばたりと倒れる黒髪の友人。 その姿が視界の端に映り……。 金髪の男はレンたちに背を向け、走り出した。 その背中にレンの放つ気糸が巻き付き、金髪の男の自由を奪っていく。 何がなんでも絶対に逃がさない。 「お前達に明日はない。 精々あの世で今までした悪行の数々を、悔いるんだな」 それだけのことを、彼らはしてきていた。 金髪の男に、レンのナイフが振り下ろされた。 傷つきそして倒れていく仲間たちを見て、ルアと対峙していた茶髪の男の顔には恐怖が広がっていた。 徐々に後ずさっていく茶髪の男の足に、ジルのスローイングダガーが飛んでいく。 「逃がすかってのよ!」 ジルの手を離れたスローイングダガーは深々と男の足に突き刺さり、その動きを鈍らせる。 茶髪の男の傷ついた体に降り注ぐのは、冷たい雨。 それを浴びた瞬間、茶髪の男は弾かれたように茂みの方へと駆け出していた。 男の背に向かい碧衣が気糸を伸ばすが、それは男の動きを数秒遅らせただけで足止めするとまではいかず。 ルアはすかさず男へ向かって駆け出した。 「逃がさない! 私からは誰も逃げれないの!」 回り込むように立ちはだかるルア。 男は傷の具合から見て、体力はほぼ残っていない。 その手をNemophilaを振り下ろせば、確実に終わるのだ。 だが。 「………っ」 眼の端に涙が浮かぶ。 トドメを戸惑ったその瞬間。 茶髪の男と目が合い……ルアの腹部に熱い塊が刺しこまれた。 スローモーションのようなそれは、一瞬の出来事で。 膝をつくルアからナイフを抜き取ると、茶髪の男は再び逃走を再開していた。 「ルア! 下がれ! 俺が殺る!!」 ジースが茶髪の背中に向けて、思い切りGazaniaを振り下ろす。 「俺がこの手でぶっつぶしてやるよ!!!」 茶髪の男の体が、アスファルトへと叩きつけられ、幾度かバウンドする。 ジースの体から輝くオーラが消える頃、茶髪の男の動きは完全に止まっていた。 ● 「ほい、お仕事完了っと。 帰って寝ましょ」 ふぅ、と息をつきジルが言う。 「そうですね。 怪我をされている方もいますし、こちらまで車を回してまいりますね」 その言葉にジョンは頷くと、男たちにバレないよう、この空き地より少し先に止めてある車を取りに向かった。 けが人の手当てを終え、会話が途切れると、辺りは急に静けさに包まれた。 人里から離れた場所なのだ。 この静けさこそが、正しい姿なのだろう。 「……この場でこいつらに殺された人らも居るんよな……」 アスファルトの焼け跡を見つめながら、椿がぽそりと呟く。 この場所に無理やり連れてこられ、そして無残にも命を奪われ……どれだけ無念だったことだろう。 椿はそっと目を閉じ、黙祷する。 (「……エゴやけどな」) 殺された人たちが安らかに眠れるように……そう祈りながら、彼らはその場を後にしたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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