●甘い男 「しかし……あなたも好きですね、ノイエさん」 「Yes! 日本の女性は可愛イし、chocolateは、とても美味シイ。マイドリーム、イズ……サイコーの女性たちと究極のchocolateを食べることデス!!」 半ば呆れたように言った『Ripper's Edge』後宮・シンヤに、片言の日本語で勝手に夢を語って返したのは、『So sweet』ノイエ・カカオール。 背の高い褐色の肌をした青年は、筋肉質ながらしなやかなバネを思わせる美しさで。 分かり易く例えるなら、南米はブラジルのサッカー選手、と言った感じだろうか!? 「それは良かったですね。で、それより準備の方は?」 シンヤが問う。正直、ノイエの語る夢になど興味はないし、忖度するつもりもない。ただ、彼が『伝説』の一端を担えるのか否か、それだけが肝心なのだから。 「ダイジョーブ、ダイジョーブ。ボクには、この子たちがツイテるからネ!」 慈しむような目で足下を見やるノイエ。そこには不定形のスライムのような存在が4つ、ピチャピチャと音を立て絡み合うように戯れていた。 ただし、それが普通のスライムと違うのは濃厚な茶褐色、つまりチョコレートのような色で出来ていること。 「理性の欠片もないモノを飼い慣らすとはね……」 「魔女サンの助力とボクのloveが通ジた成果でーす。あとはボクの夢を叶エルだけ! この子タチがチョコに変えた娘たちを、ボクは美味しく味わってあげるんダ♪」 そして、ウェストポーチからチョコレートを1枚取り出すと、包装を破りパキッと音を立てて齧るノイエ。 「うーん、ヤッパリ美味しい♪ So sweet!」 (……まったく。理解できませんね) ――第一、自分はそこまで爛漫な笑顔はしない、というか出来ないでしょうしね。 そんなことを思いながらも、シンヤはお願いしますとノイエを送り出した。 ●渋いリベリスタ ――そこら中の空気が慌ただしさを醸し出す、アーク本部。 かつての蝮の件以上にピリピリとした空気の中、緊急召集を受け、リベリスタたちがブリーフィングルームに集った。 「お疲れさまです。それでは早速ですが本題に入ります」 前置きの欠片もなく、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、1人1人の表情を窺うように話し始めた。 「場所は東京、渋谷駅前。時間はお昼より少し前。ちょうど、ハチ公付近で待ち合わせする人々がピークを迎える頃です」 いつになく緊張の面持ちで一息つく和泉。 「ハチ公口の改札を出てすぐの路上で、あるフィクサードが凶行に走ることが判明しました」 そう告げると、続いてフィクサードの容姿を語り始める。 「かなりの美形です。南米系の爽やかな雰囲気で、イヤでも人目を惹くタイプと言えます」 ――しかし。 和泉はさらに緊張を滲ませた。 「彼の名はノイエ・カカオール。そして、彼の操るエリューションが4匹ほど。いずれもチョコレート色のスライム状生物です」 ただ、このスライムに触れた生き物は、石化の代わりにチョコレート化する可能性がある……と告げた。 「気をつけてください。そして何より重要なのは……ノイエはそのチョコレートを食べるつもりだと言うことです。つまり……人喰いなんです」 「人喰い? 人を食べるやつの事アルか?」 『迂闊な特攻拳士』李 美楼(nBNE000011)が驚きと共に口を挟んだ。 「はい。それも、普段と変わらない爽やかな顔で」 「アイヤー! トンでもない奴アルな。でもそれなら、そのスライムの攻撃さえ躱せば良いアル! 何とかなるヨ!」 「いいえ。それがそうでもありません。ノイエ自身も、相当な武術の使い手のようなんです」 「そんな変態がスゴ腕アルか!! 」 「残念ながら、性癖と腕前には、相関関係が確立してませんから」 和泉の言は正論だったが、だからと言って美楼が耳を貸すとは限らない……。 「くーっ! 拳を交えてみたいアルよ!」 「それも良いですが、まずは駅前にいる一般の人々への被害を食い止めることを一義に考えてください。既に数人の職員を避難誘導に手配してはいますが、あの辺りの人々が素直に従ってくれるとは思えません」 とは言え事態が事態だ。やりようがない訳でもないだろう。 「多少のパニックや若干名の被害は避けられないでしょう……それでも。できるだけの手は打っていただかないといけません」 和泉と集まったリベリスタたちは渋い表情のまま目を合わせた。やらなきゃいけないことは皆分かっている。ただ……きっと被害はゼロにはできない――その言葉が、とても重く感じられた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:斉藤七海 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●始まりの前 「いいかね、美楼嬢。まずは先行している職員たちと共に、一般人の避難誘導を頼みたい」 「でも、ワタシも戦いたいアルよー」 「わかるよ。でも、守らなきゃ! 正義の味方なんだから」 「無論、避難が完了すれば参戦も構わない……いや、むしろ早く力を貸して貰いたい」 「美楼、テメェに任せる!」 「そうか? なら、仕方ないアルなー。ワタシに任せておくアル!」 「うむ。では任務開始だ」 ――彼らが渋谷に向かう前の、とある光景。 ●渋谷駅前 ~惨劇の始まり~ 「しかし、人の多いところだな……」 渋谷駅はハチ公口の改札前に、リベリスタたちが到着。 『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)は、改札を利用する人々の多さに辟易し、心底うんざり。 結界を張ることで、特にココに目的のない者たちは自然と足が遠のき始めるが、それでもまだ、人間の数はそこらの街とは比較にならないくらい多い。 (人をチョコにして食べる? 本当、ふざけてる……) 『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)は、離れてゆく人々の間を縫って駅前へ。人知れず幻視を用いるや、全身を血塗れに染める。 「あははっ! 血……血が見たいの!」 狂気じみた哄笑。 「危ねぇ!」 その傍にいた少女を、龍治が抱えるようにして羽音から引き離す――こちらも迫真の演技。 「殺人鬼アルっ!」 「逃げろっ、通り魔だ!」 美楼と職員たちが口ぐちに叫び、声と腕で避難を促す。 「まずは落ち着いて交差点を渡りたまえ」 と、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が、拡声器で具体的な指示を付け加えた。センター街改めバスケ通りへ向かえ、と。 軽いパニック。しかし、平和ボケした今の時代、事はそう簡単には運ばない。 携帯で写真に収めようとする者や、スマートフォンでツィートしたり、動画をUPしようとする者まで。 「あなた達も、切られたいの? 綺麗な血、見せてよ!」 「逃げろって言ってんじゃねーか!」 羽音が切っ先を向けた先、野次馬の足許数cmのところに銃を射ち込む龍治。 撃たれた当人は逃げるも、そこから少し離れれば、「発砲キターッ!」などと危機感の欠片もなく叫ぶ声。 「面倒くせぇっ!」 許容量を超え、ついに『悪夢の残滓』ランディ・益母(BNE001403)が鎮圧銃をぶっ放し、野次馬の1人の肩を砕く。 「纏めて片付けちまうか……」 「「「う、うわーっ!! マジだ。他にもヤベーのがいるぞ!」」」 ようやく伝わったのか、野次馬たちも逃げ出す。パニックは伝播し、瞬く間に騒ぎが広がる。 (あとは、美楼と職員たち次第……ってな) だが、そんな中にあっても駅からは次々と人々が。突然の事態に駅員も混乱し、対処も立ち行かない――交通がSTOPし、人が収まるにはまだ少し、時間が掛かりそうだった。 「これ以上は仕方ないか。まあ、奴の『趣味』から言えば、うってつけなんだろうけどな」 「嗚呼、気に入らねぇ!」 被害をゼロにはできない――再び、和泉の声が思い出された。 「ふわぁぁっ。イイ天気ダネ。絶好のchocolate日和?」 幾人もの人々に紛れ、ハチ公口の改札を出てきたのは、褐色の肌をした美青年。爽やかさすら漂うその容姿は、嫌でも人目を惹く。『So sweet』ノイエ・カカオールである。 「むむむ……変な人が来たのですよ」 来栖 奏音(BNE002598)が気付いて指をさす。 その瞬間、ギアをトップに上げた『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)が無言で走る。 (甘いモンは嫌いじゃないが……ちょっとシャレになってねぇだろ) 「ただで済むと思うな……!」 告げた瞬間、一気に 斬魔刀・紅魔を振り下ろす。高速の斬撃。 「きゃあぁぁぁっ!!」 「わっ! アブないヨ!」 驚いて叫ぶ一般女性の横で、言葉と裏腹に流麗な体捌きを見せるノイエ。が、それでも涼の繰り出す刃すべてを躱し切ることは出来なかった。 「……痛いナー。でも一方的はヨクないヨ!」 その言葉に呼ばれるように足許の地面が隆起。チョコレート色の不定形生物が姿を見せ、涼と、横の女性の脚を掴んだ。 !! 驚いたのはほんの一瞬。瞬く間に2人の身体がチョコと化す。 「ウーン、女の子ダケで良かったんだケド……」 と、そのまま齧りつこうとするノイエ。 「待ちなさい! サイコーの女がここにいるわよ、ノイエ・カカオール!」 凶行を止めるべく、『存在しない月』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)が叫ぶ。でも、ノイエは躊躇わない。 チョコと化した涼をハグ。そのまま刀を持つ側の二の腕を噛み契った! 「貴方の様な人……絶対に許しません。絶対に止めてみせる!」 怒りに少しだけ声を震わせて、『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)が一気に距離を詰める。地面を踏み込んで頭上から蹴りを落とし、雪崩の如き圧倒的な力でノイエを地面に叩きつけた。 ――順調な滑り出しと言えた。 ●I love chocolate 「イイ脚してるネ」 倒れたまま、自身を蹴倒した脚を撫でるノイエ。慧架が思わず飛び退くと、ぴょんと、事も無げに跳ね起きる。 「痛かったケド、可愛い女の子ダシ、serviceしておくヨ」 ぱっぱっと埃でも払うかのように。 「おいっ、ノイエだったか? 最高に気に入らねーよ、テメェ」 「……その甘い夢、打ち砕いてあげる」 ランディと羽音、2人の気が爆発的に増大してゆく。 が、そんな2人の後方から、チョコレート色に染まった地面が隆起。 「奇遇だネ。ボクも男ハ趣味じゃナイ……」 羽音をチョコにするつもりだったのだろう。しかし、そのchocolate slimeよりも少しだけ早く、龍治の銃が火を吹いた。 「こっそり近付けばばれない、とでも思ったか? 甘いな」 弾けるチョコレート。しかし倒れた訳じゃなく再び地面に同化する所。 「そうはさせないわ。それに……狙うんなら、私はどう? 手当たり次第なんてスマートじゃないでしょ。いい男が台無しよ?」 ウーニャが道化のカードを投じて追い打ちを掛けながら、同時にノイエに向けて挑発。 その間にウラジミールの全身は光のオーラに包まれ、奏音は詠唱により魔力が増大してゆくのを感じていた。 「貴方の様な人に覇界闘士は相応しくありません!」 こんな相手が同じ覇界闘士だなんて。 慧架は湧き上がる怒りを胸に、もう一度決めてみせようと、踏み込む脚に力を集中。 「さっき、あたしを狙ったよね!?」 羽音は身を翻すと後方でぺたんこになって地面に擬態するchocolate slimeに、風切刃を突き立てる。そして体内のオーラを変換した力で思いっきり放電。バチバチッという激しい音と共に、slimeの躯が弾け飛ぶ。後に残ったのは、溶けるを通り越した、焦げたチョコのような残骸……。 しかしノイエは、だから何、とても言いたげな風に薄笑いを浮かべ、後ろにさがるや涼と共にチョコにした女性の指先をポキッ! 容易く叩き折って、自らの口に運んだ。 「ん~、美味シイ。So sweet!」 「っざけんな! コラ!!」 怒りが頂点に達するランディ。涼と慧架の脇を抜け、怒りに任せて深山之黒兜を振りきる。吹き飛び、数mも後退するノイエ。 「美楼!」 「アイヨー」 呼ぶ声に走って来た美楼が、指を折られた女性を担ぎ上げ、更には未だ改札付近をうろつく一般人たちに、とっとと逃げるアルよと告げながら駆け抜ける。 が、それを見送っている間に、ノイエに代わってslimeがランディを襲う。 抵抗する間もなく全身がチョコレートと化してゆく。更にはもう1匹、こちらは駆け抜けたばかりの美楼を追って。 そのslimeを止めるべく、ウーニャと龍治も走る。一方、ウラジミールは全身を包む加護を皆に分け与えるが如く、神々しき光を放つ。災厄を打ち祓い給え、と。 復活の涼とランディ。しかし、同時に美楼の担いだ女性もまた……。 激痛。そして聞こえる嗚咽、慟哭――流れ落ちる血が、彼と彼女らの全てを物語っていた。 (奏音が助けないと……) 天使のような歌声で、痛みは和らぐけれど……。 「ホラ! アノ娘の涙、キミ達のせいダヨ。チョコのままナラ、痛くナカッタのに……」 自らの性癖は棚に上げ、笑顔を見せるノイエ。爽やかだったそれは、まるで嘲っているかのように見えた。 「女の子が好き? つーか、単に自分の好きにしたいだけだろう?」 舐めきった態度、そしてチョコと化して齧られたことへの怒り、更にはこれ以上の被害は自分自身が許容できないが故に刀を振るう涼。 許し難い『悪』。いや、既に善悪といった概念の外にいるかのような純然たるフィクサード。自らの欲望にのみ忠実な……。 そんな中、ようやく駅も封鎖し、周囲の一般人も疎らに。離れた所までは知らないが、一見すると余計な被害は少なくなりそうで。ゆえに戦いは一層の激しさを伴なう。 刃から雷が弾け、銃が火を吹き、太刀が瞬断。 だが、その反撃とばかりにチョコと化す面々。ウラジミールが速やかに癒すも、傷は蓄積。ウーニャと奏音は癒しに忙殺。 (やっぱりアノ光がジャマだネ……) ウラジミールの背後から、4体目、最後のslimeが姿を見せ、彼の背中を包み込む。 「くっ……」 しかし、ウラジミールがチョコと化すことはなかった。彼の前では、すべての呪いは無に帰すのだから。 「今度こそ! 決めてみせます」 集中を重ねた末の慧架の大雪崩落。再び、蹴り落とす格好でノイエに脚を叩き込む。確かな手応え。 (今度は効いたでしょうか……) 「さすがに痛いネ。なら、ボクも本気を見せヨウカ」 倒れたままだったノイエが、慧架を乗せたまま起き上がり、地面を蹴る。初撃の涼をも上回る速さで、次々に拳と蹴りを周囲の面々に叩き込む。 ――壱式迅雷。未だ、リベリスタたちには開眼した者無き覇界闘士の技の1つ。慧架なら、いずれは身につけるかも知れないけれど。 さらに悪い事には、慧架と奏音の2人がslimeに襲われてチョコ化。 辛うじてランディがウーニャを庇い、負傷を肩代わりすることで事なきを得る。 「理解できるとは言わぬ。だが……罪は贖わねばならぬ」 ウラジミールのブレイクフィアー。またしても、ノイエが嫌悪する光が辺りを照らす。しかし……それでチョコ化を脱したのは慧架1人。 やむなくリベリスタたちが攻勢に転じるも、やはりそれぞれに傷付いた身では詰め切れない。そんな中、ノイエがチョコと化したままの奏音を襲う。 身を挺して止めようとする涼。しかし紙一重のところで躱され、身体を抱き寄せられる奏音。「チョット……物足りないカナ。先が楽しみデハあるケド……今を美味シク味わってアゲルよ」 そしてその肩にガブッと歯を立てる――奥底に僅かに残った意識が、静かに消え去った。 「やっぱり、このslimeたちだけは片付けないと……ね」 羽音が、再び自らを厭わぬギガクラッシュ。chocolate slimeに雷の力をぶつけると、続いて龍治が銃を射ち込む。弾け飛ぶチョコレート――slime2体目の最期だった。 「私が回復役に回るから!」 ウーニャの手から癒しの符が飛ぶ。 が、それで癒すことができるのは、たった1人。それでも、戦いは辞められない……。 傷付いても、チョコになっても、癒し、立ち上がり……何度でも攻勢を掛ける。 「こんな奴には負けたくないし、負けられないんだ……!」 涼の渾身の斬撃が連続で決まる。 さすがに、ノイエにも多少はダメージが溜まっている筈……。血に塗れながらも、その笑みが絶えることはなく、動きも決して鈍ってはいない。 慧架は距離を取って鋭い蹴撃から衝撃波を放つも、ノイエには当たらない。更に悪い事には再びslimeに囚われ、チョコレートにされてしまう。そして羽音もまた……。 「食べテあげタイけど……そうも言ってられナイみたいダシネー」 先ほどと同様、壱式迅雷が炸裂。ランディとウラジミールは互いに視線を合わせると、自然と女性たちの目の前に立ち、自らの身体を張って庇う。 「女好きは結構な事だが、誠意が足りねぇぜ」 しかし、代わりにいずれも膝をつき、それでもなお立ち上がる。 「チョコのようにほろ苦いなどとは、言っておれぬのだよ!」 代わって龍治が銃を放ち、ウーニャはなおも治癒に専念。 ――このままでは回復も運任せ。庇い続けるにしても、やがては限界が訪れる。 ●歪曲運命黙示録? 「んな事は分かってんだよ! でもな、女は大事にするもんだろ?」 ランディが裡なる自分に応える。……生憎、俺は大事に出来なかったがな、と。 「だから……男が女傷つけてんじゃねぇぞ。クソ野郎が!」 勝つために、圧倒的な力を望む。 そしてチョコと化したままの羽音も、自由にならぬ身の奥底で同じことを望む。 (ここでノイエが倒せるのなら……それで多くの人が助かるのなら、あたしは……) (あたしはどうなってもいい。力なき人々を守れなくて、何が正義の味方なの!) 更にはウラジミールも、大上段から神聖なる力を鉄槌の如くslimeへと落とし、鈍い音と共に弾けさせると、強き意思を以て願う。 「たとえ……運命を曲げてでも貫かねば成らぬ決意がある! 今こそ、傷ついた者たちの回復を!」と。 だが、いつだって天は気まぐれ、そして非情。 いくら望もうとも、願いを掛けようとも、彼らの願いに応える声はない。 「自力で決めろ、ってことか。俺たちはまだ……力を出し切っちゃいない、って事かよ!」 刀を手に自虐的な笑みを浮かべる涼。ここは無理の為所か、と。 「私が、全霊を以てサポートするわ!」 ウーニャの声に後押しされるように、涼がslimeの攻撃を躱して神速の斬撃を繰り出す。同時に慧架も。 「私も……いつまでも、このままじゃ居られません!!」 自らの精神力でチョコ化の呪いを打ち破る。 ●LOVE LOVE LOVE! 既にノイエはイケメンも形無し。だが、slimeもあと1匹残っており、彼自身も覇界闘士としての力も失われてはいない。それなのに、まだ……。 ノイエの前に立つ慧架。これで決めて見せる、と。 あと少しで終わる……そう信じて。 「ノー! ボクの大切なchocolate……」 ノイエは悲しげな表情を作りながらも、まだ羽音がチョコのままであることに気付く。 「アイシテル……ボクのloveをキミに!」 彼の全身が、凄まじい熱を放出し始める。LOVE LOVE LOVE! と叫びながら。 攻撃の手を止め、用意してあったクーラーボックスに手を伸ばす慧架。同様にウラジミールはペットボトルを掴んで、中の水を振り撒いた。 激しい放射熱が、周囲を包む。再び膝をつく者たち。そして運悪く避難誘導に掛からず近付いてしまった人々も斃れ……羽音も全身が溶けそうになる。 (運命の変化を願った……報い? でも、こんなことじゃ、負けられない!) 脳裡をそんな想いが駆け抜けてゆく。それでも彼女の無事を信じ、支える仲間がいる。少しでも届く熱を妨げようと、彼女の前に立つ者がいるが故に、持ち堪えた。 「全然タノしくナカったナ……デモ次こそ必ズ、君タチを味わってアゲる!」 身を翻したノイエが脱兎の如く駆け出す。 「待てよ!」 龍治の1$シュート。弾丸がノイエの背を貫いた。 「逃がさねー!」 涼がたった1人、後を追う。だが、その前に立ち塞がったchocolate slime。それを相手に斬撃を繰り出している間に、ノイエの姿を見失ってしまう。 痛み分け。今の彼らにはこれが限界だった。 それでも、不可抗力以外の余計な犠牲者は出さずに済んだ。とは言え、そんなのは慰めにもなりやしない。悔しさを胸に倒れた仲間を連れ、撤収。 ――都市の真ん中で起こった凄絶なる事件。その後処理をアークに任せて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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