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<Blood Blood>プロセルピナズ・グレナデン


 あの事件以降、神秘を知る界隈の者は少々、忙しい。
 ――だが、世界の多くは、むしろ神秘と無関係な人が大多数なのも事実。
 TVジャックでさえも、そういった人々、つまり民間人だの一般人だのと言われる層から見れば所詮、『縁遠い、別の世界』の事件に過ぎない。
 確かに、TVに映った殺人鬼を恐れ、警戒をする者はいた。
 だがそれさえも、井戸端会議という名のストレス解消の場の中で、話題に上がる程度でしかない。

 トオルはマンションの自室から、階下の声を見下ろして毒づく。
 TVの中の殺人事件なんて、毎日どこかでやってるじゃないか。
 ドラマとあの事件とは、フィクションかノンフィクションかの違いでしかない。
 再放送があったわけでもないのに飽きもせず同じ話題をピーチクパーチクと。
 TVは嫌いだ。欲望に満ちていて。
 女にも金にも、苦労はしてないから、その様が余計に腹立たしい。
 ――金なら遺産で足りている。
 ――女は、怯えていたのが静かになって、段々冷たくなっていく様が最高だ。
 まったく、馬鹿げてる。
 TVで見たあの殺人鬼について、怖いねえ、怖いねえと。
 具体性のない、結論のない話題。
 そんなくだらないものを延々とループさせて。
 まったく冗談じゃない、あいつばっかり。
 ――殺人鬼くらい、ここにも居るっていうのに。


 あの事件以降、フィクサードの起こす事件は急速に増えている。
 触発されたフォロワーたちの仕業だろうね、とは『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の弁。
「今回のもそういう任務だ。
 もっともオポテュニティがあっただけで、サムタイム、イラプトしていたのかも知れないけどね」
 伸暁も増えた仕事に疲れているのだろうか、いつにもまして意味が分からない。
 リベリスタたちは特にツッコミも入れずに資料に目を落とした。
「トオルは、アーティファクトを所持してる。
 プロセルピナズ・グレナデン……死体を強制的に革醒させる、やっかいなモノさ。
 見た目は大人の心臓くらいの大きさの水晶球、硬さもそんなものだね。
 中で赤い液体が揺れる水晶なんてものがあれば、だけど」
 これくらい、と自分の握りこぶしを見せる伸暁。
「目覚めたエリューション・アンデッドは、トオルの忠実な配下として動く。
 ――今のところ、全部で10人ってところか」
 長い睫毛を僅かに伏せて、伸暁はため息を吐く。
「たぶん、追いつけるのは配下の数を増やそうと、土葬の墓地に向かっているころだ。
 丁度葬儀が行われているから――もし間に合わなかったらホラー・ムービーのできあがり。
 神秘が暴かれるのを防いできてくれ、君たちの手で」


 ああ、静かだ。
 あれだけピーチクパーチク騒いでたどこだかの奥方共が、すっかり静かになって転がっている。
 まったくもってあっけない。
 ――女は、怯えていたのが静かになって、段々冷たくなっていく様が最高だ。今みたいに。
 ここにいるオレのことを、誰も報じることはない。
 有名になりたいわけじゃない。

 ――いや、嘘だな。認めよう。
 オレは有名になりたい、あいつみたいに。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月03日(月)22:16
ももんがです。殺人鬼パレードっ!

●成功条件
アーティファクトの回収(破壊は不可)
葬儀の滞りない終了

●プロセルピナズ・グレナデン
死体に触れさせることで、その死体がE・アンデッド化します。
もし割れてしまうと中の液体が地面に染み込み、回収ができなくなってしまいます。
染み込んだ土を死体にかけたら、やっぱりE・アンデッド化しますのでご注意を。
ただし、割れたらどうなるのか、トオルは知りません。

●トオル
ジーニアス/プロアデプト パーフェクトプランを使用します
葬儀の中に参列者の振りをして紛れ込んでいます。
アークが顔写真を入手していますので、誰かわからないということはありません。
世間の話題をかっさらったジャックに嫉妬し、自分も世間の話題になろうとしています。

●部下ゾンビA~J
一体一体はさほど強く有りませんが、かなり丈夫です。
プロセルピナズ・グレナデンを持っている人が下した命令に忠実です。
現在受けている命令は『墓場から死体を掘り返せ』です。

●土葬の墓地
墓地の裏に森があり、トオルの部下たちはそこから侵入しようとしています。

●葬儀
ある企業の社葬のようです。数も規模も大きく、今の時点で中止を求めることは難しいでしょう。
リベリスタたちがトオルの行動を阻止しない限り、数十体のゾンビが葬儀に乱入した上、死んだ社長がゾンビとなって参列者を殺したというニュースが報道されることでしょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
メアリ・ラングストン(BNE000075)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
ナイトクリーク
リゼット・ヴェルレーヌ(BNE001787)
マグメイガス
蘇芳 縁(BNE001942)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
ナイトクリーク
★MVP
譲葉 桜(BNE002312)
インヤンマスター
土森 美峰(BNE002404)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
■サポート参加者 2人■
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
プロアデプト
ロマネ・エレギナ(BNE002717)


「すいませーん、そこの人ー少し宜しいですかー?」
 若い少女の声に呼ばれたスタッフの男は、少し怪訝そうに振り返った。
 その目が、愛嬌のある少女の目とあった途端にトロンと虚ろに沈む。
 少女――『きまぐれキャット』譲葉 桜(BNE002312)がただ一人受付に戻らず、葬儀会場に残ったのにはこの為だ。
「あの人、どうも名前を書かずに葬儀に紛れ込んでるみたいです。
 これは良くないですよね、お葬式に冷やかし何て」
 魔眼の力により催眠状態に陥れた相手に、少し離れた位置にいるトオルをこっそり指し示してヒソヒソと囁きかける桜。
「直ちに呼び出して、名前を書いて貰うのが良いと思うですよーっ」
 そう締めくくられた暗示に、男は少し緩慢な動きで頷き返した。
「……名前を書かずに……紛れ込んでる……。……名前を…………書いて、貰う……」
 スタッフの男は少し呆けた声で反復すると近くにいた警備員に声をかける。
 警備員は男の様子に少し怪訝な顔をしたが、わざわざスタッフの態度に文句を言うことはない。
 頷き、連れ立ってそろそろとトオルに向かって歩き出した。
 その様子を見届けた桜は会心の笑みを浮かべ、次の仕込をするべく受付に向かった。
「死者の群に遭遇したそうです」
 アクセスファンタズムの通信機能を使っていた『Pohorony』ロマネ・エレギナ(BNE002717)が顔を上げ、仲間達にそう囁く。
 社葬ともなれば人も多く、雑談をしているグループも少なくない。彼らもまた葬列にふさわしい服を用意していたため、紛れるのは容易だった。別班からの連絡を受けた時、葬儀場の参列者に紛れていたリベリスタ達もちょうどフィクサードの捕捉に成功した頃だった。
「あれが件のフィクサードか?」
 写真資料と見比べながら、『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が確認する。
 視線の先、トオルと言う名のフィクサードは随分とリラックスした様子で葬儀を見回していた。
 何かを警戒していると言うより、ただ単に暇をしていると言った風情。
 社葬ゆえに義務やしがらみで来ている者も多い葬儀場でも、ともすれば鼻歌を歌いだしそうな様子の彼は一際浮いていた。
「たとえこれが『行事』としての式典だったとしても、あんな奴の欲望に穢させる訳にはいかないな」
 口の中で唸り、そう宣言した『錆びた銃』雑賀 龍治(BNE002797)は言葉とは裏腹に踵を返し、仲間と共に受付に向かう。
 疾風も仲間達よりの耳打ちを受けて頷き、足並みを揃えてその場から離れた。
 今は未だ、その時ではない。

(こいつ、明らかにおかしい。けど、『俺と同じ』でも無いな……)
 声をかけてきたスタッフと警備員を前に、トオルは内心で首を捻る。
「だからぁ、名前はちゃんと書いてるっつってんだろうが」
 苛々とそう言い返すたび、警備の男の困り顔はあからさまになっていく。
 だが、スタッフの、それも責任者と思しき男は、どこか茫洋とした表情のまま納得しない。
 貴方は名前を書いていない、ちゃんと書け。その一点張りに、面倒を押して少し考えなおす。
 トオルにはエリューションに関する深い知識はない。だが、この世界に不思議な力がある事は自分の身、そして遺産のひとつとして受け継いだ『プロセルピナズ・グレナデン』を通じて知っている。
 そして『自分と同じ力を持つものは、直接見れば分かる』事も、ついさっき体験していた。
 リベリスタ達がトオルを発見した際に周囲の参列者に不審がられることを避けた結果、身を隠す事にまで注意をはらうことは難しかった。そのために、トオルもまた見ていたのだ。
 リベリスタ達を。その中に息づくエリューションの力を。
 多くの人目がある中で無理に接触したいとは思わなかったが、感じ取った『力』には確信がある。
 そうか。……そうか。つまり、あいつらが。
 フィクサードの口の端が、笑みの形に釣り上がる。
 受付で待つ。そういう意味だと、彼は理解したのだ。
 ――思い出すのはTVの中、ジャック・ザ・リッパーの演説。
『リベリスタ何ぞにビビる必要はねぇ!』


「さあ、俺を呼び出したのは一体なんのためだ?」
 受付の近くで、トオルは両手を広げながら、近くにいた疾風に向き直る。
 その手にはアーティファクトはなく――スーツの右ポケットが、いくらか膨らんでいる。
 葬儀は既に始まっており、受付も人の往来が落ち着きはじめていたが、しかしまだ人目はある。
 制服姿のエリス・トワイニング(BNE002382)が周囲にさっと視線を走らせ、疾風の服の裾を引く。
 葬儀を滞りなく終わらせることもまた、任務のうちなのだ。
「……戦闘は どこか 連れ出してから」
「なに言ってんだ、お嬢ちゃん? 今がチャンスだぜ?
 どうせこいつにも何かしてんだろ、さっきの奴と同じ顔してるもんな」
 エリスの声を聞きつけたトオルが受付の女性を指差して笑う。
 指差された女性は茫洋とした表情で同じ事を繰り返し呟いている。
「私達は……何も見てない……何も、気付かない……おかしな事何て、起こらない……」
 桜の暗示が効いているのだ。彼女はこの騒ぎを何ひとつ気にかけないだろう。葬儀場のスタッフが何もなかったと断言できる程度で済めば、誰が見ていてもそれは参列者同士の揉め事とできるはずだ。
 だが、肝心のトオルに油断が無い。
 それは傲慢が故に。
 自分の実力を彼は誇大に――そして、結果として正確に評価していたのだ。
 だから目の前のリベリスタが戦力の全てだとは思わず、それ故に周囲への警戒を怠っておらず。

 ――しかし、この程度の相手に負けるはずがないという慢心もあった。

 一条の糸が奔りトオルの脚を貫く。
「がっ、なあ!?」
 トオルが苦痛の声をあげ、己の脚を貫いたそれの出所を睨む。
 角から顔を見せているのは、式場内で徹底的にトオルに見られない位置を、死角を心がけていた龍治とロマネの二人だ。黒いベールで顔を隠したロマネの指先から気糸が伸びている。それはひたすら意識を集中させ、文字通り針の糸を通すレベルまで己が脳を酷使した彼女の、渾身と細心の一撃。
「ふざけるな!」
 気糸を通して植え付けられた『怒り』に冷静な思考を奪われたトオルがいきり立ち、右ポケットからナイフを取り出すと猛然とロマネに向かい駆け出した。
 対するロマネは即座に踵を返し、龍治と共に逃走する。
「ナイス!」
 快哉を上げてかけ出した桜に、疾風とエリスが続く。


「桜ちゃんいっきまーす!」
 肩の力の抜けた掛け声とは裏腹に、を持ってトオルを襲う。
「チッ、邪魔だ死ねよ」
 桜が精密な的確さで投げたナイフが太ももに突き刺さり、走る痛みにトオルは舌打ちしてナイフを横薙ぎにする。彼が斬りかかったのは距離のある彼女ではなく、自分の前に立ち塞がる疾風だ。
 疾風は攻防自在を成す構えを取っており、その身のこなしは正に流れる水の如く滑らか。
 だが、トオルはその動き全てに完全に先んじた。ナイフ一本で次々と動きを封じ、逃げ道を塞ぐ。最後には一歩も動けない状態にまで追い詰められた疾風の腹部に、凶刃が深々と突き立てられる。
「全部読めてるんだよ。これくらいの事、俺だって出来る」
 得意絶頂と言う風情のトオルの声に滲む、対抗意識。
 TVの向こうに見た、伝説の殺人鬼への憧憬。
 
 状況は拮抗していた。
 リベリスタたちは怒りに正気を失ったトオルを首尾よく屋外に誘き出すことに成功し、式場から充分な距離を取った、人目につかない場所で戦いの火蓋を切った。
 作戦は上々。だが、描いた通りに進んでもなお、油断は禁物。
「種子島の威力、教えてやるよ」
 龍治の銃弾が美しいまでに正確な弾道を描きトオルの頭部に直撃する。
 真っ当な人間なら即死するだろうその衝撃に、しかし若き殺人鬼は頭を倒れない。
 自惚れるだけはある実力。世間の影に隠れて繰り返した小さな悪事や、10を越えるゾンビの材料を『作った』経験は、自己顕示欲が強いだけの少年を一端のフィクサードへと塗り替えていた。
 だが、だからと言って黙って負けるリベリスタでもない。
「お前に死者の眠りを妨げさせはしない!」
 腹部の傷にエリスの治療を受けた疾風もまた倒れることなくその拳に激しい焔を纏わせ、殺人鬼に真正面から殴りかかる。その衝撃に、トオルは思わずごふりと息を吐いた。
 呼吸を整えながら相変わらず足元を狙うロマネの気糸を蹴り逸らし、トオルは不機嫌そうに顔を歪めて周囲を見渡した。
「よそ見するとは余裕だねー!」
 その隙を逃す桜ではない。投げナイフを脇腹に受け、トオルの眉間の皺がいよいよ深くなる。

 見れば分かるが、トオルは不機嫌だった。
 己の力に絶対の自信を持つ彼は、数で負けていようとリベリスタ達に負ける気は無い。
 だがこのまま戦えば自分がある程度以上の傷を受けてしまう事は理解していた。
 ――今でも既に充分幾つもの傷を受けてしまっている。
 TVの向こうの『奴』を思い出す。ジャックは明確なカリスマとしてそこにいた。
 傷つけた相手を次の瞬間には呼吸するように殺しているに違いない、純粋な殺意の塊。
 今も増え続ける己の傷を、リベリスタが相手だからと弁明した所でただ自分の力量が足らないことを証明するように思えた。
 今更かもしれない。しかしこれ以上の傷を受ければ彼我の差はもっと深くなる。
 それに何より、この場にまんまと誘き出されたことが腹立たしい。
 挑発するつもりで、挑発された。
 思惑通りに動かされた。
(許せない……!)

 圧倒するのは自分でなければいけない。
 操るのも踊らせるのも自分だ。
 そうでなくては奴には届かない。
 自分の凄さを証明できない。
 奴に近づけない。
 だから。

「だからお前、邪魔なんだよ」

 無造作に目の前の右腕を掴む。
 疾風が振り払おうと力を篭めるより一瞬速く、肩に手刀を入れ、力を霧散させる。
 左手が振り下ろそうとするモーニングスターの棘にナイフの先を掛け、そのバランスを崩す。
 不利を察して跳び退こうと重心を乗せた右足を払う。
 トオルには、疾風の動きはもはや完全に解析済みだった。
 次の一瞬には疾風の胸にナイフが突き立てられる。
 一人で前衛を担っていた疾風は、攻撃のほぼ全てを引き受けており――その消耗は、激しい。
「くそ……!」
 それでも疾風はトオルの右ポケット、死者を冒涜するアーティファクトへと手を伸ばす。
 だが、そこまでだ。
 限界を迎えた体がどさりと重い音を立てて倒れ臥す。
「よくも……!」
 リベリスタ達がいきり立つ。
 銃弾が、魔弾が、気糸が、ナイフがトオルに殺到する。
「ははっ、怒れ怒れ! 俺が許せないだろう!?」
 全ては避けきれず、浅くない傷を受けながらもトオルは嘲笑う。
 ――そして突然、背を向けて走り出した。
「!?」
 後衛ばかりが残ったリベリスタ達には、とっさにそれを止める事が出来ない。
「ははは! 捕まえれるかリベリスタ!?」
「俺は良いから行け! 奴を逃がしちゃ駄目だ……!」
 嘲笑いながら走るフィクサードに歯噛みして、深手の身に鞭打ち疾風が叫ぶ。
 搾り出すようなその声に押され、リベリスタ達はトオルを追い走り出した。


「合わせるですよ!」
 タロットカードを指に挟んだ『イノセントローズ』リゼット・ヴェルレーヌ(BNE001787)が優雅な舞の様に軽やかで美しいステップを踏み、周囲のゾンビを粘土細工の様にすぱりと切り付ける。
「一気にいくよっ!」
 リゼットの言葉に頷いた『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が、お気に入りの自動拳銃とリボルバーを両手でそれぞれ握りしめ大量の銃弾を墓地にばら撒く。蜂の襲撃の如き凶弾の雨はその場に居るゾンビのほとんどに穴を穿ち、リゼットを囲んでいた3体の内の2体がどうと倒れ臥して動かなくなった。
 ゾンビ達は丈夫な上に痛みを感じる素振りも見せず動く。
 だが連携を取って攻撃を重ねれば、倒せないということはなかった。
 当然、10体と言う物量の脅威は否定できない。いなしきれなかった爪や歯で傷を受けることもあったが『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)が墓地に組んだ守護の結界に守られ、傷は概ね浅い。
「ヒャッハ-! 治りたい奴はいるかー!」
 そしてそれ以上の傷には、メアリ・ラングストン(BNE000075)が振り撒く癒しの微風と福音が届く。
 何処となくトゲ付き鎧でも着ていそうな掛け声の彼女だが、体内で循環させた魔力を使った癒しは裏腹に優しく、たちどころに仲間達の傷が治癒される。
「死人と戦うのは気がひけますが……仕方がありませんね」
 少し苦く呟いた『極彩』蘇芳 縁(BNE001942)が矢をつがえずにヘビーボウガンを構えた。
 矢の代わりに、狙いをつけた地点から滲み出す様に召喚された魔炎が炸裂する。
「死者の眠りはやすらかで、心地よいものでなければなりません。
 ――火葬がお望みでしたら、焼いてさしあげましょう」
 仲間と森へのとばっちりを警戒し、ゾンビのみに当たる様慎重に位置を選ばれた爆発は、危なげなく2体のゾンビだけを飲み込む。
「洋酒を吹きかけて燃え上がらせるんじゃファイヤー!」
「そんなことしたら周囲に延焼してしまいます!」
 ――何故か洋酒を取り出して盛り上がるメアリを、縁が慌てて押し留めたのは横において。
 刃と銃弾、そして魔炎を受けてなお立ち続け爛れた手を伸ばす死者達に、唐突な雨が降り注ぐ。
「ひのふの……よし、全員揃ってるみてぇだな。
 眠った死者を起こして暴れさせるなんてロクでもねえな。おきちまった奴は寝かせてやる――」
 勿論ただの雨ではない。はぐれている者がいないかと戦いながらゾンビ達の総数を数えていた美峰の打った術式、氷結の呪雨だ。
 巫女の周囲に展開された剣の群にその道力を強化された雨粒はゾンビ達の身体を凍り付かせて行く。
「墓掘りを続けようともしねえし、後はぶっ飛ばすだけだな」
 安心した様に言う彼女の言葉通り、ゾンビ達はリベリスタ達が現れた時点から完全に墓暴きを中断して生者の排除を優先している。それは目撃者に邪魔される可能性を嫌ったトオルの、こっそり組み込んでいた指示によるものだったが――この場にいる者には知る由もない。
 守りと治癒、そして対多数に適した力を揃えたリベリスタの手によってこちらは順調である。
「とっととろくでもない神様のところにでも帰れです!」
 リゼットのタロットカードは、掘り込まれた繊細な絵図とは裏腹に剃刀を超える鋭さを誇る。
 一閃を受けたゾンビの首がズルリとずれ、落ちた。
 それでもまだ動く首なしのゾンビとその後ろに見切れていた一回り小柄なゾンビを、素早く狙いをつけた虎美の銃から放たれた2発の光弾が狙いあやまたずに撃ち抜く。
「射撃はクールに行かないと、ね」
 会心の笑みを浮かべる少女の後ろではメアリが癒しの福音を呼び、仲間達の傷を癒している。
 傷を治療されるリベリスタ達とは逆に、アンデッド達には美峰の呪雨がダメ押しをかけた。
 最後に残った一体が――せめて一人でも道連れにと思ったのだろうか。リゼットを狙う。
 その肉を食い千切ろうと開けた大口の前に、縁の魔術が組み上がった。
 四色の魔光が飲み込まれるようにゾンビを蹂躙した後に残っていたのは、動くことのない死体。
「弱っちくて助かったですよ。お陰で吸血せずにすんだです」
 全ての死者が沈黙した事を確認し、連絡を入れるべく携帯電話を弄りながらリゼットが呟いた。
「……あまり気がすすみませんでしたしね」
 縁が同意する。ふたりとも、どこか神妙で、しかし心底ほっとした顔である。
「別に構わんかったぞよ。妾の愛は博愛であるがゆえにのう~」
 メアリは反対に涼しい顔だ。同じヴァンパイアでもその様は三者三様。
「何ですって、トオルのアホがこっちに!?」
 そこでにわかに通話の繋がったリゼットがそんな声をあげた。
 虎美が即座にホルスターに手を沿え、縁が弦の巻き上げの為ボウガンを地に突き立てる。
 他のものも思い思いに動き出し、リベリスタ達は戦闘後の弛緩した空気を瞬時に切り替えた。


 トオルが革醒したのはプロアデプトの力だ。
 跳ね上がった解析力、最善手の解法を組み上げる力。彼の強い自惚れはそこにも起因している。
 その万能感と超越感は『自分には何でも出来るのだ』と言う思い込みを少年に与えた。
 加えて、彼には知識が無かった。
 エリューションの事、リベリスタとフィクサードの事。何も知らぬまま一人で悪事を重ねていた。
 ゆえに彼はカレイドシステムはおろかアークの、否、フォーチュナの存在すら知らない。
 だから、夢にも思わなかったのだ。
 自分の立てた犯行の絵図が『リベリスタ達』に筒抜けだなどと。
「畜生!畜生!どうなってやがる!」
 リベリスタ達か、運命か。
 自分でも分からない何かを罵るトオルのナイフが、彼に素早さで勝る桜を追い詰める。
 トオルの実力は高く、5人のリベリスタを相手に勝てると自惚れれるだけの事はあった。
 回避行動の全てに先回りをされた桜が成す術も無く首元を裂かれ、ぐらりとよろめく。
 しかし桜は運命を燃やして踏み止まった。
 トオルの表情が更に歪む。それは焦燥、恐怖、憤怒、絶望。
 ――当然だ。トオルは今、9人のリベリスタに囲まれ戦っているのだから。

 先に墓堀りをさせていたゾンビ達と合流するはずだった。
 ゾンビ達に戦わせている間に、掘り返された死体達をアーティファクトで次々と『起こして』物量で圧倒し、自分に歯向かった事を存分に後悔させてやるつもりだった。
 自分を挑発し誘き出したリベリスタ達を今度は自分が挑発し、死地に誘い込み、圧殺する。
 そうする事で、傷つけられたプライドと面目を保つつもりだったのだ。
 だが、待っていたのは下僕達の残骸と、新たなリベリスタ達。
 棺はおろか墓地さえも一つとして暴かれておらず、新たな下僕を作る事が出来ない。

「……さーて、トオル。死ぬよりも辛い目に遭う覚悟は、出来てますですよねー?」
 リゼットが花の様に可憐に笑いかけてきた。
 にーっこりと。手に持つタロットカードにべっとりとトオル自身の血糊がついていなければ、トオルも思わず笑い返したかも知れないような笑顔で。
 思わず後ずさりしたトオルに、龍治の銃が狙いをつける。
 アーティファクトが入ったポケット周辺を避けて腹部を狙う銃弾。
 それを身を捻る事で避ければ、今度は虎美の銃弾とロマネの気糸が両脚の先をそれぞれ撃ち抜く。
「足元がお留守だよっ!」

「手段も動機も、ジャックの流れに乗ろうとした時点で、貴方もただの便乗者なのですよ」
 有名になろうだなんておこがましい。
 そんな痛烈な否定の言葉に、己の足を見下ろしていたトオルが顔を上げる。
 見えたのは縁の厳しい顔と四色の魔光。
 立て続けに襲うそれらを必死に避け、殆ど転げる様に逃げ出そうとしたフィクサードは、しかし投げナイフを太ももに受けて倒れる。
 エリスとメアリの治療は、先ほどトオルが桜に与えた傷をほぼ完全に癒していた。
 どれだけ状況を解析しても、思考を組み立てても、この窮地を脱する手段が見つからない。
「ちくしょおおお!」
 普段は静謐である筈の墓地に、愚かな殺人鬼の怨嗟の叫びが響き。
 程なくして、消えた。

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした、成功です。
自分で言うのも何ですが、このアーティファクトの名前はすごく、噛みそうです。

MVPは、魔眼を使う相手を効果的に絞った譲葉さんに。
人数がこれ以上でも以下でも、上手く機能しなくなる可能性がありました。お見事です。