●Amen. 救済を。 救済を。 救済を。 光を纏い、翼を背負い、光輪を頂き、十字を抱き締め。 「――今度ハ私ガ、救済スル番」 ノイズ交じり、波長の合っていないラジオの様な声。 聖女は闇夜を漂う。 救済を。 貴方に救済を。 彼等に救済を。 私に救済を。 救い給え。 ――Amen. ●南無。 「……ホーリーメイガス。 ホーリーメイガスは戦闘力の低さ故に直接戦闘には不向きですが、パーティを組んでの戦闘では最高の存在感を発揮する神聖術師です。 回復・支援系のスキルを全職中最も多彩に取り揃え、その有効性は折り紙つきです。 聖なる力でパーティ全体の戦線維持を一手に担うその存在はまさに欠かす事の出来ない扇の要となるでしょう 書類に書かれた文字を口にして――『リンク・カレイド』真白 ではなく名古屋ですぞ」 書類片手に事務椅子をくるんと回し、リベリスタ達へと向き直ったのは『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)だった。 「ボンジョルノ皆々様、冗談はさておきちゃちゃっと本題に入りますぞ。耳かっぽじってお聴き下さい」 お前が始めたんだろーが、というツッコミをさせる隙も与えず、彼がリベリスタ達に見せた書類には『ノーフェイス:ホーリーメイガスモドキ』という文字とその画像、更にその説明が記載されていた。 「御覧の通り、ホーリーメイガスに酷似した能力を持つノーフェイスが現れましたぞ。その名も『HN』……”ホ”ーリーメイガスモドキ”ノ”ーフェイスの略ですな。」 資料を卓上に、機械の腕を伸ばしたメルクリィがモニターを慣れた手つきで操作する。映し出されたのはシスター服を纏った顔無しマネキンの様な異形――背中には大きな翼が、頭上には輝く輪が。そしてその両手は細身の長い逆十字を抱き締めている。中空に光を纏って漂う姿は不気味でいて、神秘的だった。 「皆々様の中にもホーリーメイガスの方がいらっしゃる筈ですから良く分かるかと思いますが、『HN』は回復支援に特化したヒーラーですぞ。 そうそう、それに『HN』には状態異常系が効きませんぞ。祈りの力でしょうか? 真相は知りませんが。 それともう一つ厄介事が。『HN』は非常~に高い防御値を誇ります。生半可な攻撃じゃ悲しいぐらいに歯が立ちませんぞ。 しかし……更に奇ッ怪な特徴があるのです。なんと『HN』は『他者による回復技』ならばかなりのダメージが入るのですよ。不思議ですね」 つまり、『HN』には正攻法の強力な技で攻めるよりも、ガンガン回復技を掛けた方が良いのだろうか?敵に回復技を掛けるなんて、なんとも不思議で慣れぬ心地だ……。 リベリスタ達が何とも言えぬ表情を浮かべる。それを見渡したメルクリィが薄笑みと共に説明を続けた。 「『HN』の攻撃方法はホーリーメイガスのそれとほぼ一緒です。覇界闘士やデュランダルの様な圧倒的な火力はありませんが、凄まじい回復力を持ち、その手段も豊富です。更に強力な独自技を持っている様ですぞ。 なんでも皆々様の古傷を開いてしまうとか。致命、必殺を伴う場合があります。お気を付け下さいね。 しかし! この後『HN』はこの技を使った後、しばらく自己回復できなくなりますぞ。この時間をうまくチャンスに繋げて下さいね」 言い終わると、一応渡しておきますぞと新たな書類を卓上に置いた。ホーリーメイガスのスキル説明が記載されている――後でしっかり読むとしよう、必要があれば仲間のホーリーメイガスに色々訊いてみるのも良いかもしれない。リベリスタ達は顔をあげてフォーチュナへ意識を向けた。 「次に場所についての説明です、しっかり聴いて下さいね」 リベリスタ達の顔が自分の方を向いた所で、メルクリィが説明を再開した。モニターには寂寞とした広い湿地帯が映し出されている。地面はかなり泥濘んでいる様だ。大小様々な水溜りが散在し、そこに満点の星空が映っている様は何とも神秘的で美しい。そのお陰か、夜なのにかなり明るかった。 「今回の戦場となる場所はこの湿地帯ですぞ。地面がヌルヌルのドロドロなんで滑りやすいです、転倒にお気を付け下さい。それと何かしら策を考えておいてくださいね。 時間帯は深夜。御覧の通り明るいんで光源は要らないです。人里から大分離れてますし、多分誰も通りかからないと思いますぞ。 広さも結構ありますし、思う存分戦えますな。 ――説明は以上です。それでは皆々様」 メルクリィのクマが酷い機械眼球がリベリスタ達に向けられる。そして一間の後に、ニコヤカな声がブリーフィングルームに響いた。 「頑張って下さいね。くれぐれもお気を付けて! 私はいつも皆々様を応援しとりますぞ。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月01日(土)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●寂寞の夜に 蕭寥とした静けさだけが横たわっている。 湿地帯の水面には満天の星空と満月とが明かに映り、不思議で不気味な美しさが在った。 静まり返っている。 「ノーフェイスの聖者、ですか……種族的に苦手というのも道理ですが、エリューションなら無関係……ですけど……」 茂みの傍にて身を潜めた『熱血クールビューティー』佐々木・悠子(BNE002677)が息を吐く。吸血鬼因子を持つ彼女にとって十字架やそういったモノは嫌悪感を覚える対象でしかない。例えるならば猥褻物とかグロテスクなモノとか、そういったモノを見せ付けられるような不快感と言って良い。 その様子に気付いた『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)が足元にテントを広げつつ気遣う視線を向けたが、悠子は薄く笑んで「大丈夫です」と答えた。 (我慢すればいいレベルです……それに、―気にする暇が、あるかどうか) 溜息を飲み込む。やり難い相手……それは『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)にとっても同じ事であった。状態異常無効に、他者回復以外は防御力が高くて攻撃が通り難い事。まさかパーティのメイン火力が回復役になるとは――視線の先には滑り止めつきブーツとゴーグル装備という完璧に対策をとってきた『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)が皆にクロスジハードを施していた。 「それにしても随分とモドキってやつが居るんだな。 今までの報告書を読む限りモドキシリーズは全員、他のモドキと面識があるみたいなんだろ? なんか、そこに引っかかるな」 謎が謎を呼ぶモドキ達の言動。ディートリッヒは眉根を寄せる。 (ある意味作為的と言って良いような感じだ。例えば、誰かによってモドキシリーズが作られたような……流石にそこまでは考えすぎか) 仮定は仮定でしかない。バスタードソードを握り直した。 緊迫する彼等とは一転、『小さき太陽の騎士』ヴァージニア・ガウェイン(BNE002682)は足元対策に敷いたサーコートの上で勇気凛凛と巨剣「ヨートゥンハイメン」を構える。 「天使様みたいな恰好だからちょっとやり辛いけど、所詮偽物でしょう? インチキ天使め。神様に代わってボクらが退治してあげるよ!」 でも、と思う。HNが回復技で有効なダメージを与えられる事――それに納得がいかないのだ。 (なんかヤだな……それが効果的だって事が分かってても。 癒しの力を傷付ける事に利用するなんて、まるでこのインチキ天使とおんなじだよ。) なんて準備を進める仲間達からは少し離れた位置。七院 凍(BNE003030)は愛馬の和尚と使役式神シノと共に居た。 (純戦依頼に式神使役しかもってないボクが出ていいのだろうか……見れば見るほど、ボクの役たたずっぷりが目に映る。申し訳無い気持ちでいっぱいで仲間達とコミュニケーション取れないよ……まぁボク、コミュ障なんだけど) それにこの式神も戦闘で消えてしまったら。凍の気持ちは暗い。そんな彼に和尚に乗った式神が話しかける。 「こーる、聞こえるかー? こーるは近接攻撃しか持たない。近づかないと戦闘できないぞ! 範囲だろうが単体だろうが、こーるは2回以上攻撃をまともにくらうのはまずい、一撃でも受けたら20m移動で戦闘範囲外に出ろ。範囲外でもとらが全体回復持ちだからその範囲に入っておけば回復受けられるぞ。攻撃スキルはブラックジャックにでもしておけ。 こーるは、弱いからせめて倒されたりして皆に迷惑掛けない様に、頑張れーっ!」 「う、うるさいなっ! 気分滅入るから余計な一言を入れ―― ……!」 凍が目を見開く。 上空。 緩やかに降下してくる光。 翼を広げたそれは――HN。 「別に天使であろうとしたわけでもないだろうし、堕天使であろうとも思ったわけでもないでしょうけれどノーフェイスになってしまったのなら相入れることは出来ないわ。 ……倒させてもらうわね」 HNを見上げた『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が妖艶に笑みながら荊棘姫を構えた。 「効果が薄いといったところで全くの無敵というわけじゃないでしょう? 見下ろしているんじゃないわよ。頭が高いわ」 その挑発にHNはノイズ交じりの声で一言呟いた。「救済ヲ」と。 「救済だなんておこがましい事。救うのは神、救われるの人、人の心。君は神か天使にでもなったつもり?」 震える手で痛悔機密の為の通過儀礼を構える『不幸自慢』オリガ・エレギン(BNE002764)が真剣な眼差しでHNを見据える。 ――救いたいのだろうか。救われたいのだろうか。 「き、君に神の慈悲があらん事を。神の与えもうた運命が、来世では恩寵となりますように」 詠唱。魔力構築。魔法陣展開。 放たれるマジックミサイルと共に戦闘が始まった。 ●救済 かくして無慈悲な光がオリガの魔法弾ごとリベリスタを焼き払う。彼らを業火で苛む。 「救済ヲ」 HNが再び呟く。業火に顔を顰めながらも前衛に布陣した智夫は――にっこりと笑った。 「救済したいっていう想いは間違いじゃないと思う。だけど、救済スルっていうのは……多分正しくないよ。救えるのは自分の心だけじゃないかな。 助けた事に感謝してくれる人がいるから……救いがあるんだと思うよ?」 刹那に放つ退邪の光。それは仲間を苛む火炎を打ち払うと共にHNの体も激しく焼いた。 「こんばんは、HNのお姉さん♪ お姉さん達は、いつも逃げようとはしないね? 自信があるからってわけじゃあ、ない気がするよ」 体内の魔力を活性化させたとらが仲間と共に散開布陣しつつ話しかける。HNは悠子のハイアンドロウに平然としながらとらへパーツの無い顔をゆっくり向けた。 「貴方達ガ、必要ナノデスカラ」 たった一言。同時に放たれるマジックアローを詠唱しながら回避したとらは天使の息でHNを包んだ。やはり一般的な攻撃より回復技の方が圧倒的に効いている。 それでも――回復技を持たない自分は攻撃あるのみだ。命を燃やすように戦気を纏ったディートリッヒは中空のHNを睨み、無慈悲な光に焼かれても尚己が一撃に集中と闘気と全身のエネルギーを重ねてゆく。 その一方、先の神気閃光によって指示してくれる式神を失った上、『適当に動く』と考えていた凍はいざとなって何をしていいのか分からず困惑していた。その隙をHNに突かれ、マジックアローに貫かれて力尽きてしまった。 「行くよ悠子さん!」 「はい、斬風さん!」 声を掛け合って二人のナイトクリークが飛び出して行く。対策を取って来たので泥に足を取られる事は無い。 HNは本当に堅く、幾ら攻撃しても僅かながら怯む程度だ。その上、飛行高度を上げられてしまえば手出しが出来なくなる。 ――ならば、行動の邪魔をしてやるのみ。 夜闇に糸が煌めいた。 HNの片方の翼を悠子の気糸、もう片方を糾華のワイヤーが絡め取る。 しかし一瞬、羽ばたかれる事で断ち切られてしまった。 「くッ……!」 舌打ち。そのままHNが取り囲むリベリスタ達へ独善の福音を響かせた。 怪我を負う事は無い。が、体が固まって動けない。HNが更に攻撃を重ねようとしている。 かくして煌めくのは逸早く立ち直ったヴァージニアのブレイクフィアーだった。HNを怯ませると共に味方の呪縛を払拭する。 「智夫くん!」 「うん」 呪縛が解除されるや智夫ととらは目配せし合った。同時に詠唱を開始する――その間はオリガがHNの前へ注意を引き付ける様に、跳ねた泥で顔を汚しながらも魔法陣を展開させた。 いつも少しおどおどしていて自分に自信は大体無い。が、信仰に関する事は真面目だ。怖いが臆さず、逃げたいが退かず。魔法陣は輝きを増してゆく。 「独善では誰も救えない、君の力は強いが、それじゃ誰も救えないよ」 放つマジックミサイル。HNが放ったマジックアローと交差してその翼に直撃した。自分もまた胸を射抜かれ血潮を走らせ膝を突くも――倒れない。惜しみ無くフェイトを消費して自分が力尽きる運命を変える。 その間にも糾華や悠子がマジックアローに射抜かれようともHNを攻撃し、ヴァージニアは付け羽根で飛べる振りをして逆翼の加護を誘発させようと試みて行動を妨害する。お陰で智夫ととらは安心して詠唱を続ける事が出来た。 二人で声を紡ぐ。 「我らが声に応え、歌を奏でよ。至上の福音を為せ……」 清らかなる存在へ一縷の願いを。 癒しの祝詞を。 不屈の決意を。 「――聖なる奇跡を!」 かくして奏でられる奇跡の福音。 戦場を包む神秘の二重奏は仲間達を悉く癒し、治し、力を与える。 そしてHNを強烈に痛めつける。 (何だか本当に変な感じ……) 未だ嘗て見た事の無い光景に悠子は眉根を寄せるも紅死連を構えた。 「……!」 HNはまるで嫌な音を聞かされているかの様に身を縮めて耳を塞いでいる ディートリッヒはその隙を見過ごさなかった。 「これで、どうだぁあああああああ!!」 集中に集中を重ねた一撃。 全エネルギーを込めた剣で渾身の一閃を叩き付ける! 「グ、」 吹き飛ばされたHNは翼を広げて体勢を立て直した。ボロボロの体を見渡して――詠唱を始める。 「させるか!」 ヴァージニアが咄嗟に天使の息で攻撃するも、HNは自らを癒しの竜巻に包みこんで回復してしまった。 その回復力に誰もが渋面を浮かべる。 「……それが何? 自慢?」 皮肉たっぷりに糾華は吐き捨てるなり荊棘姫の流麗な刃を煌めかせて跳躍する。回復されたのならまたダメージを叩き込めばいい。それだけだ。 (効果が見込めないという前提だけれど、これだけ足掻けば一つくらい効果が見込めるモノがあるでしょ?) 諦める訳にはいかないのだ。その手に死の爆弾を作り出す。叩き込む。炸裂、反動の痛みと共に湿地帯へ着陸するも――やはりマトモにダメージが入っていない。HNが放った光に焼かれながら舌打ちをした。 厄介な全体攻撃だ。仲間の回復、敵への攻撃を兼ねて智夫がブレイクフィアーを試みる。そんな彼を狙ってHNが魔法陣を展開させた、瞬間! 「貴方の相手は私です!」 裂帛の声と共にHNの背後から叩き付けられる悠子のブラックジャック。破滅的な黒いオーラによる重い一撃は納得のいくダメージを与える事こそ出来ないが、その衝撃でHNの狙いをぶれさせた。 放たれたマジックアローは智夫の頬を掠める。焼けつく痛みと頬を伝う滑った感触、それでも怯む事無く彼は邪気を退ける聖光を放った。 オリガはHNの死角からマジックミサイルを放ち、ディートリッヒもたっぷり集中を重ねたのチニメガクラッシュを放つ。注意を向ける為、妨害の為。攻撃の要は回復担当達なのだ。 「……――」 猛攻を受けて徐々に傷が目立ってきた最中、HNが何やらブツブツと祈りはじめた。 糾華は直感する。自分達には無い技だと――注意を呼び掛けるべく仲間達へ振り返った刹那。 「――救済ヲ。」 温度の無い、無慈悲な祈り。 「…… ッ!」 真っ赤に染まりきるのは視界。意識。 今まで追ってきた傷が蘇る。それは体の傷であり、心の傷。 対策として散開していたので喰らったのは糾華、智夫、オリガの三人だけだったのが不幸中の幸いか。 「うぐ、ッ――」 嫌な思い出が心を掻き毟る。精神を抉る。 体中を激痛が襲う。至る所から血が噴き出し、肉と骨が軋む。 戦闘経験の多い糾華と智夫が崩れ落ち、血溜まりの中に沈黙した。 一方のオリガは身体より精神の傷が酷い。 沢山の結婚式で祝福をしてきたが、悉く離婚されたり碌でもない結果になっている為に教会を追い出された事。やる事なすこと大体不運と不幸、神を信じる自分自身が傷のようなものだった。 その場に蹲ってひたすら震えている。ごめんなさいごめんなさいと呟いて。 ――だが、今こそが好機。 現在HNは回復が出来ない。攻め落とすなら今しかないのだ。 悠子、ディートリッヒが飛び掛かって徹底的に攻撃して動きを妨害し、とらとヴァージニアは天使を息でHNを包む。 少しずつだが勝利が見えてきた――糾華と智夫もフェイトによって立ち上がるや闘志を瞳に攻撃を再開する。声を掛け合い、連携して確実にダメージを叩き込んでゆく。ダメージを受けても攻撃を兼ねた福音が仲間達を包む。 そしてHNの高度が少し落ちてきているのにヴァージニアは気が付いた。そう思うなり大きく跳躍し、神秘の紋様を刀身に纏った聖剣を大上段に振りかぶる! 「やっぱり癒しの力で戦うなんてヘンだし……アナタにはこっちの方がお似合いだよ!」 叩き込むのは魔落の鉄槌、神聖な一撃はHNを怯ませる。更に智夫が符による癒しの力でHNを攻撃し、体中に罅が入ったそれをとらの緑眼が真っ直ぐに捉えた。 祈りの詠唱。 清らかなる存在からの祝福。 微風は聖女を包み――破壊する。 HNを包む光が消えた。 ●救い給え 「お姉さんは人に命の暗闇を見せて、だから『死』は救いだと、そういう事を言いたいの? それが『救い』だと、誰がお姉さんに教えましたか?」 藪の中に砕けかけた体を横たえたHNの傍にゆっくり着地したとらが訊ねる。念の為と武器を構える仲間達を傍らにパーツの無い顔を見詰める。 「……」 HNは答えない。構わず続ける。 「お姉さんは、今までのモドキさん達とは違うね。あなたはフライエンジェ? メタルフレーム? それとも両方? 名前はなんていうの? ないの? それとも忘れたの?」 「……私ハ、人間……デシタ。人間デシタ。何モ思 イ出セ マセン。私ハ、誰……? 誰ダッタノデショウ。 モウ、何モ、分カラ ナクナッテ、シマイマシ タ。随分ト 経チマシタ」 顔の無いそれに顔があったらどんな表情を浮かべていたのだろうか。分からないが、それはとらを――そしてリベリスタ達をゆっくり見渡した。 ピシリ。と、その顔に入った亀裂が大きくなる。 「幸福を望むのは罪ではないよ。だから罰なら、いらないよ」 とらが呟く。HNはその声に…… 笑った。 薄く、僅かに。 ゆっくり、とらへ手を伸ばし、その頬を柔らかく撫でて。 「ありがとうね。」 それは優しい女性の声だった。 満足気で、少し申し訳なさそうな。 直後にHNが砂人形の様に砕け散る。 ――静寂。 「多分、だけど……本当の聖者って、救済するとか言わないんじゃないかなぁ?」 風の彼方、広がる夜空を見上げて智夫が誰とはなしに呟く。答える者はいないけれど――瞼を閉じて、黙祷の様に僅か俯いた。 静かで冷たい夜の風が吹き抜けて、全てを有耶無耶に吹き散らしてゆく。 その風に長い白髪を靡かせて糾華は小さく呟いた。 「さよなら天使さん。――ゴメンとは言わないわ。」 やがて訪れる静寂の下、そこには誰もいなくなる。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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