●センセイ、サヨウナラ♪ ミナサン、サヨウナラ♪ 「先生、おはようございまーす」 「はいおはよー」 「先生おはよーっ!」 「おはよーう」 爽やかな朝。朝の学校。 今日もいつもの朝がやって来た。 良い御天気だ。 校庭では生徒達が朝練に励んでいる。 正門へ登校してきた生徒らが挨拶を交わしながら入って行く。 今日も良い天気だ……教師は生徒らを微笑ましく見守る。 「センセー、オッハヨーごっざーいまーーっす♪」 その真っ正面。 急に現れたのは背の高い謎の男。 「センセセンセセンセ? 見ましたセンセ? スバッとモーニング見ました見ましたー? ジャック見ました? ジャック・ザ・リッパーさん! ね!? パーティですってよセンセ! パーティ!!」 驚いて後ずさる教師にまた一歩近づき顔を覗きこみ、怪人の声は止まない。ニヤニヤ笑っている。周りでは生徒らがざわついている。 何なんだ君は――教師が言う前にはもう、怪人の声。 「パーティ! ラヴハートさんはァ、ジャックさんのパーティに参加なうでーーーっす! そんなこんなで ズバッ!! と、 モ~~~ニーーーーーングっ♪♪♪」 愉快で不愉快な笑い声と共に、空を切る音。 「警察呼びますよ」 そう言った教師の体が縦に真っ二つ。吹き上がる赤、血、ボトボトハラワタ、生徒の絶叫、逃惑い、パニック。 「アハッアハッあははははハァはぁはははあははははハアハアハアきゃっははははーーーー朝ごはんだーーーーーーーーーーーーーーー」 怪人が走り出す。 巨大なメスを手に、襲いかかる。 斬り裂く。 刎ねる。 グチャグチャグチョグチョ! ――そして心臓を奇麗にくり抜くの。 ラヴハートさんはね、トクトク生きてる心臓が、だーいすき なんだァ ♪ 頬ずりして ぺろぺろしてからたべるんだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ●非日常非常識 「ジャック・ザ・リッパーの思想に賛同し、各地で与太者が暴れ始めた――というのは既に御存知かと、思います」 リベリスタへ背を向けて事務椅子に座ったまま『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)はモニターを見詰めている。 モニターには彼が視た『運命』――朝の学校で起きた惨劇。 異様な出で立ちをした殺人鬼が朝の平和な学校に乗り込み、校庭の生徒達を片っ端から殺害して、それから…… 「心臓を、食べる」 言葉と共にメルクリィが事務椅子を回して振り返った。 「サイコキラーのフィクサード『ラヴハート』の討伐。それが今回の皆々様の任務です。 彼はヴァンパイア×ナイトクリーク。偏食家で好きな食べ物は心臓……嘘だと信じたいですがノンフィクションです。 彼やその技については卓上に置いた資料にもまとめてありますが、ちゃんと私の口からも説明させて頂きますぞ。耳かっぽじってお聴き下さい。 彼はスピード&テクニックなトリックスター。回避力も高く、使用スキルはナイトクリーク初級のそれ+独自技二つ。 非戦スキルは『幻想殺し、面接着』です。 ラヴハートの通常攻撃には状態異常『呪い』が伴いますぞ。更に独自技にはMアタックやロストを伴う場合があり、吸血による自己回復技も持つので戦いが長引くにつれて戦況が厳しくなってしまうでしょうな。なんせ血を吸える対象は大量にいますので。攻める事が出来る時に猛攻すべしです。 ――次に彼の武器について説明させていただきますぞ」 御覧下さい、メルクリィが機械の指でモニターを指し示す。 ラヴハートが笑いながら振るっている物。 それは彼の身の丈ほどもある巨大メス。 「アーティファクト『サドクター』。ラヴハートの武器です。 ……これが厄介な能力を持っていましてね、通常攻撃に呪いが付加するだけでなく『サドクター』による傷は『どんな掠り傷でも激痛になる』んですよ。 どれくらいって言ったら――、ま、一般人なら、五、六発以上突っつかれただけで痛くって気絶するでしょうな。 如何に皆々様と言えども、斬られたら痛みで怯んでしまう場合がありますぞ。十分にお気を付け下さい。 ……次に場所についての説明です。宜しいですな」 メルクリィがモニターを操作し画像を展開させた。惨劇の舞台、あの学校だ。 「先ず言っておきます。この学校周囲はアークが封鎖するので皆々さまが戦っている時に『既に学校に居る一般人』以外の一般人がやって来る事はありません、ご安心を。それに、学校から脱出した一般人達の保護も行いますぞ。 サテ。皆々様がラヴハートと戦う事になるのはこの校庭でしょうな。時間帯は朝なので光源の必要なし、広さも十二分。思いっ切り戦えますな。 ……ここからが問題なのですが、この校庭には多数の生徒と教師が数名います。校舎の中にはもっといます。 ラヴハートはおそらく、貴方達よりも無力な一般人を殺し回る事を優先するでしょうな。放っておけば校舎内にも立ち入って、それこそ皆殺しにしてしまいます。 校舎内の一般人達は避難を試みようとしています。この非常口から、別の校門へ。上手く学校の敷地内から脱出して下されば我々アークが保護できるのですが……」 ここで一旦メルクリィが口を噤んだ。間を開けたのち――言い難そうに、重く口を開く。 「二つ。選択肢があります。 まず一つ。『一般人を救出し、ラヴハートとも戦う』。……言いましたよね、私。『戦いが長引くにつれて戦況が厳しくなる、攻める事が出来る時に猛攻すべし』と。 この方法を取れば、おそらく沢山の命が救われる。――ですがラヴハートの討伐は難しくなるでしょう。一般人救助の為に人手を割けば、それだけ戦力が薄まる……皆々様がやられてしまう場合もあるのです。 そしてもう一つの選択肢。言い方が物凄く悪いですが、ご了承下さいね」 かくして彼は告げる。出来れば聞きたくはなかった――非情な選択肢を。 「もう一つ――『一般人を囮にラヴハートを攻める』。 ……おそらくこれが『ラヴハートを倒す』事だけを考えれば、一番の策でしょうな。 彼は兎に角『たくさん殺してたくさん心臓を食べたい』のですから。皆々様なんて二の次三の次なんです。 ………。 ………。 分かります。気持ちは、分かります。言いたい事も分かります。 すみません。……ごめんなさい。」 メルクリィが目を伏せた。奥歯を噛み締める。 しかしそれを吐いた息に押し流すと、真っ直ぐリベリスタ達を見据えた。 「――以上で説明はお終いです。 皆々様……頑張って下さいね。私はいつだって皆々様の味方ですぞ。 くれぐれも、お気を付けて。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●朝日と血みどろ あはっはっははぁはハははハハァハははアはァアハハ 笑っている 聞こえる 悲鳴 逃惑う 切り裂く 殺される ぶちまけて 赤い血溜まりポツポツと 哄笑 絶叫 臓物 異常空間 「ボク達が止めてみせる……!」 目前の人間を救おうとしない勇者なんていない。『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)はゆうしゃのつるぎを握り締め赤い額当てを靡かせて逸散に駆けていた。 目的は『全員無事救出して、ラヴハートを倒す』――『現役受験生』幸村・真歩路(BNE002821)の双眸には決意。ただ救う為、狂人ラヴハートを目指して我武者羅に走る。 「いい歳して偏食なんてみっともない。アークできっちり矯正してあげるわよ!」 生きていればね。なんて呼びかけるのはラヴハートの背中。 想像したくはないが、おそらくは。 俯き背を向けた儘クチャクチャと、片手に何か持って血溜まりの中。 「其処までだラヴハート」 仁義上等。誇りを胸に見得を切り、『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)が怒気を孕めた声を張った。 「姓を古賀、名を源一郎。我が心の臓を喰らいたくばかかって来るが良い!」 布陣と共にヘビーボウを構える。ここで自分達が止めねば良い様にされるのみ――そんな事は絶対に許さない。 「……はーァぃ?」 かくして心臓喰らいの狂人が振り返った。ゆらり……全身を真っ赤にして、口からくり抜いた心臓をぶら下げて。 その手に持つ巨大メスは完全に真っ赤。あちらこちらに斬られた激痛にのたうち回る子供達。 血腥い。誰もの顔に不快さが差す。 「ん~うひひひひひひひラヴハートさんは御食事なうーなのにきゃはひひゃはぁん」 「――騒がしいよ、貴方」 食べかけの臓物をぺろぺろしている不気味なそれに『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)は掌を向けた。 「マナーなら、とやかく言われる筋合いはないね」 刹那、彼を中心に暗闇がすっかり辺りを覆い隠した。 ラヴハートを、リベリスタ達を囲む戦場の構築――振り返ってその様を見た『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は前を向きつつ仲間達の健闘を祈った。仲間達に施した守護結界が役立ってくれる事を思い、仲間を信じ、校舎内へと。避難できてない生徒や教師達を救う為に、一人でも多く守る為に、彼はひた走る。 「気味が悪い奴ですね。同族だとは思いたくないですが……しょうがないですね」 とりあえず今は避難を優先しないと。同じく視界の隅でそれを捉えた『ぜんまい仕掛けの盾』ヘクス・ピヨン(BNE002689)は視線を戻す。そこには『鉄腕ガキ大将』鯨塚 モヨタ(BNE000872)が超直観と熱感知によって逃げ遅れたり怯えて隠れてる者を捜していた。 (一人に一つだけ、いのちの中心の心臓ばっか狙って喰っちまうなんて) なんておっかない奴。なんとしてもやっつけねばならない――しかしその前に一般人を。 「……!」 そして見付けた。倉庫の裏、八人ばかりで集まり隠れている集団を。 それは女の子達。蹲って震えて、泣いて怯えて。 「ヒッ!」 モヨタとヘクスの姿を見るなりビクリと震える。モヨタは彼女らを落ち着かせる為にゆっくりと、落ち着いた口調で話しかけた。 「大丈夫、オイラ達は味方だ! みんな落ち着いて、避難訓練を思い出せ! おさない・かけない・しゃべらないの『おかし』だ!」 少女達が顔を見合わせる。早くこっちに、とモヨタの指示に従って震える足で立ち上がる。 「他に隠れてる子たちは?」 「あっち……トイレに、逃げてったの、私、見たわ」 「よしオイラに任せとけ!」 モヨタは頷き彼女らの誘導を開始する。ヘクスもサポートに回るが、最中に二人は顔を見合わせた。 校庭中で悲鳴を上げている生徒達。どんな掠り傷だろうが激痛となる凶器に斬られて苦しんでいる人々。まだ生きている人々。 「任せていいか?」 「構いません。人運びぐらいならヘクスにも出来ますし」 そうして各々で行動を開始する。校庭から救助可能の人々を避難させる為に。 「ほら、速く、逃げなさい!」 誘導されている少女がこっちを見た――『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)が闇の外で声を張る。 「アタシは避難しなくていいのよ――正義の味方だから」 ウィンク一つ。走り出した彼女らを後目に久嶺は闇を睨みつけた。 「なんでコイツはこんなに歪んじゃったのかしらね?曲がりなりにも同じヒトだったとは思えないわ」 まぁ、いい。こいつを倒して姉がのんびり暮らせる平和を取り戻すのみ。 「暗闇の中で何もできないまま悶え苦しむといいわ!」 暗視によって捉えたそれへライフルを向けた。 銃声。 ●血みどろブラック 息を弾ませ、フツは校舎内を奔走していた。 熱源と嗅覚を頼りに辿り着いたのは屋上前。 下に降りると襲われる、とでも思ったのか。数人のグループが屋上への階段を上ろうとしていた。そんな彼らへフツは出来る限りの柔和な声で話しかける。 「驚かせてしまってすみません。私は通りがかりの僧侶。 既に皆さん避難しているようです。落ち着いて避難してください」 連絡によると避難は順調に行っている上、ラヴハートを抑える事にも成功している。避難させるなら今の内だ。 避難って言っても、と下へ向かう事に躊躇いを見せる生徒らにフツは柔らかく笑いかけつつそっと手を差し出す。 「凶悪犯は今、公安が抑えているそうです。……さぁ、今の内に」 生徒らが顔を見合わせた。頷いた。フツは早足で寄って来る生徒らを誘導する為に歩き出し、仲間や学校外に居るアーク職員へ連絡を。 避難は順調。 戦闘は不調。 救助の為に人数を割いた為か。特に前衛陣の体は傷だらけ、全身を苛む激痛に眩暈がする。 回復が追いつかない。 精神力もじわじわと削られている。 サドクターの呪いが状態異常からの回復を阻む。 痛い。痛い。体が痛い。苦しい。吐きそうだ。 自らの危機に光は発光を止め、キリエもそれによって闇の世界を解除していた。 誰もが傷を負っている。状態異常に蝕まれている。傷口の激しい痛みに意識が霞む。 ラヴハートが一般人の方に行かぬよう抑えられている事が不幸中の幸いか。 「こんなところで倒れるわけには……いかない!!」 剣を地に突いて、血を滴らせ、発光を止めた光は運命を消費して立ち上がる。倒れても立ち上がり最後まで戦い続ける。それが勇者なのだから――双眸の闘士は消え失せない。ブレイクフィアーを放つ。 「生憎、寝てる暇なんてないのよ……!」 真歩路もフェイトによって踏み止まる。口元の血を拳で拭う。 脳を焼く苦痛に歯を食い縛るキリエは彼女達へ天使の息を飛ばした。 「にゃはひひぃ~~」 笑うラヴハートが一歩後退する。くるくる回すサドクターに付いているのは蛍光塗料、カラーボールはサドクターに割られてしまったのだ。舌打ち――キリエは掌を狂人に向け、その脚目掛けてピンポイントを放つ。 (ジャックが何だって?) キャハハ、笑って躱される。ならばと集中する。 「己が心の臓を貫かれる様を味わうが良い!」 「これで決めるっ シュート!」 源一郎のバウンティショット、久嶺のヘッドショットキル。 シャドウサーヴァントで防御されるも狂人に命中、大口開けて哄笑哄笑哄笑。 (命は、この世界を照らす輝きだ) 破滅を予告する道化のカードが久嶺を射抜く。 「速い動きだが、足を止められればそう上手くは行くまい!」 応戦に源一郎は重弩を放つ。矢が掠めて血が噴き出してもそれは笑う。そのまま立ち向かう光と真歩路へ踊るようなステップを踏みつつサドクターを振り回した。 激しい打ち合い。互いに猛攻。 (人の世で明るい夜があるのが何故だか、考えたことがないか?) 「飢え乾いたまま、死ねばいい!」 好きにはさせない。キリエのピンポイントがラヴハートの片足に直撃した。よろめく。 そこへ光が、真歩路が躍り掛かる! 「勇者は、負けないのです!」 「あなたが最期に覚えるのは、喉を焼く胃酸の味と満たされない飢餓感がお似合よ!」 光り輝く勇者の剣が狂人を圧倒し、真歩路のナイアガラバックスタブが決まる。 「逃がさないわよ!」 久嶺もバウンティショットを放つ。ラヴハートの体から赤がまた奔る。倒れる。 「…… ね、」 広がる赤の中、大の字。 ブツブツ、ニヤつき、舌で唇を舐め上げて。 「ししし死んでしまえ。え。しまえ、えぇ死ぃんでしまェええええっ♪」 滑る様に起き上がりつつ狂気の歌声。鼓膜を掻き毟る不愉快音程。 「!!」 リベリスタの底を突きかけていた精神力がゴッソリ削られてしまう。 呪縛、体が動かない。 「その気持ち悪い歌、」 即刻中止なさい――言いかけた久嶺の翼から力が無くなり、地に落ちる。目を見開いたまま力尽きる。口元から一筋の、赤。 「く、」 キリエの手からスローイングダガーが零れ落ちた。落ちた刃にポタリポタリ、血が落ちて伝う。 「名乗りを上げた以上、易々と倒れる訳には参らん。我が矜持に賭けても」 それでも退かない。真歩路は返り血の拳を握り締め、フェイトで立ち上がった源一郎は血に揺らぐ視界で照準を合わせる。光もキリエも武器を構えた。 絶対に負けない。逃さない。 「はぁッ!!」 光と真歩路が一気に間合いを詰める。あと少し、ラヴハートとて相当ダメージが溜まっている筈だ。 振り下ろす剣、打ち出す拳。狂人の防御を突破して切り裂き打ち据え、反撃しようと振り上げた狂人の手をキリエのダガーと源一郎の射撃が阻害した。 (……動きが鈍くなってきてる) ゆううしゃのつるぎを正眼に構えた光は思う。後衛陣が足に集中攻撃をしてくれたお陰か、狂人の動きは確かに鈍ってきていた。 光と真歩路が目配せし合う。源一郎もキリエも次の一撃の為に気を研ぎ澄ませた。 あと少し。 あと少し! 「チクショウめぇ~……」 ここで初めてラヴハートの表情から余裕が消えた。と、大きく一歩跳び下がる。 「させるかァッ!!」 真歩路が拳を唸らせ猛然と飛び掛かる。温存しておいた精神力を用いて、一気に間合いを詰めるやその腹に無頼の拳を叩き込む。 果たしてその時であった――真歩路の顔にラヴハートが苦悶の顔を寄せたのは。 べちゃ。ぐちゃぐちゃ。 視界が赤。 吐き気を催す酷い悪臭。 「…… ッ!」 死の瞬間。心を抉る様な惨劇、恐怖、絶望。 真歩路の顔面と上半身を赤い吐瀉物に染まって、よろめいて―― 踏み止まる。 目を逸らさない。 どんな絶望も恐怖も、背負ってみせる。 彼女の瞳は揺るがない。ラヴハートの顔面を掴むや、思い切り投げ飛ばした。 その先には駆け付けたモヨタとヘクスが。 「同じもんばっか食ってたら栄養偏るって母ちゃんに言われなかったか? オイラは心臓まで機械だから、喰おうとしたってきっと歯が立たないぜ!」 爆砕戦気を纏ったモヨタがバスタードソードを構えて飛び掛かる。 豪打、ハードブレイクはラヴハートの影従者ごと強烈に攻撃した。 「ぬぐぅ……!」 素早く起き上がったラヴハートはダンシングリッパーを繰り出す。すぐにヘクスが割って入り鉄鍍の盾扉で文字通りの楯となった。 しかし、狂人の攻撃は少し掠っただけでも、激痛。 「こんなの、あの時噛み砕かれた痛さに比べりゃ大したことないぜ……!」 ヘクスが鉄鍍の盾扉で押し遣ったラヴハートを睨み、モヨタは剣を構える。集中――脳裏に過ぎるのは覚醒した時、あの瞬間、あの牙。 「ぐぎーーー!!」 刹那、ラヴハートがヘクスへライアークラウンを放った。が、道化のカードは敢え無く砕け散る。誘導を終えて駆け付けたフツの守護結界。 「待たせたな! 大丈夫か?」 「……今のはヘクスでも防げました」 そりゃ悪い、フツは苦笑を浮かべるもすぐに表情を引き締め、傷だらけで奮闘してくれていた仲間達を傷癒術で癒しにかかった。 その間はモヨタとヘクスが狂人を喰い止める。 傷が癒えてゆく。 仲間も揃った。 リベリスタは凛然と立ち塞がる。 「……反撃開始、なのですっ!」 覚悟――ゆうしゃのつるぎを日光に輝かせ、突き付ける。 フィクサードに逃げ場は無い。 ――振り上げたメスはもう、刃が砕けていた。 「趣味の悪い代物よ、だがもう二度と使わせぬ」 サドクターを砕いた重弩を放ち終えた源一郎が再度照準を合わせた。 直後。リベリスタ達は鬨を上げて躍り掛かって―― ――漸く、朝の校庭に静けさが戻った。 ●サイレントモーニング 静かな校庭。 血溜まりに倒れた狂人。 静かな風が吹き抜ける。 「……勝った、……?」 そろりと武器を下ろして真歩路が呟く。傍の光と目を合わせる。 「私たち……、勝ったのです、護ったのですよ!」 光は感極まって真歩路の手を取って喜んだ。真歩路もまた掴んだ勝利に心の底から喜んでやったぁとはしゃぐ。目に少しだけ涙を滲ませて。 やったやったとはしゃぐ二人、そこにモヨタも加わって更に大はしゃぎ。全身で勝利の喜びを噛み締めた。 それを遠巻きに、ヘクスは大きく溜息。腕組みをしたその足元には……倒れた久嶺が。 「……ほら、」 倒れたまま薄く眼を開け、久嶺が手を伸ばす。にへらと緩く笑う。 「いつものやるわよ」 「……ハイタッチ? 出来るわけないでしょう」 「何恥ずかしがってるのよ、ハイ、タ~ッチ」 「……。」 ヤレヤレ。仕方が無いのでヘクスはしゃがみこみ、その手と自分の手を合わせ――そのまま抱き締めた。ぎゅっと、思いっ切り。 「なに急に抱きついて、そんなに嬉し……いだだだ、痛い痛い! ちょっアタシ怪我人なんですけどォオ!」 「死ね」 なんて、返事代わりに毒吐いてみたり。微笑ましい光景にフツと源一郎は顔を合わせ、薄く笑った。 「お疲れさん」 「うむ」 こっちもハイタッチ。 死者はすでに命を落としてしまっていた者のみ、ごく少数。 負傷者の数も僅か。 リベリスタの尽力によって、すでに絶命していた者を除く全ての一般人が避難に成功した。 もしリベリスタが一般人に対し何も行わなかったら――きっと学校中に死体が転がっていただろう。 もしリベリスタ達がラヴハートを仕留め損ねていたら――きっと惨劇が増えていただろう。 護ったのだ。多くの命を。多くの笑顔を。 「任務完了、っと……」 AFによるアークからの連絡を読んでホッとしたキリエはすぐに返信を送った。 その返信に待機していたアークの皆が歓声を上げたのは――言うまでも無い。 見上げる空は何処までも明るい。 しかしいつまでも明るい気持ちでいられない。ジャック・ザ・リッパーによる事件はまだまだ解決していないのだから。 それでも、今ぐらい。 この勝利を、喜びを、仲間と共に噛み締めたっていいだろう。 顔を上げれば仲間がいる。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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