●紅刻館の人達 世間から隔絶されたある地方都市に、その館はあった。 明治の世から続く名家『紅』家。 地元に様々な事業を展開し、住民は足を向けて寝られぬと尊敬と畏怖の眼差しを注いで止まないその家には、両親と3人の姉弟が暮らしていた、仲睦まじく。 そう。 仲睦まじく。 ――嘘ばっかし。 「槲、槲はどこなの?! あなた、またあたくしのドレスをどこぞのアバズレ女にやったでしょ?!」 「うるせぇよ、行き遅れババア。乳も垂れて肌もガサガサ、ドレスが泣くぜ?」 弟・槲(かしわ)と姉・小桜(こざくら)の下劣な言い争いに、ボク、紅・明日葉(くれない・あすは)は、ずれた眼鏡をあげてため息をつく。 「セバス、ボクは自室で食事を取るよ……」 「かしこまりました」 席を立つボクに、2人からの鋭い視線が突き刺さった。 「明日葉、お父様が昨日貴女に電話していたみたいだけれど、どんなお話をしましたの?」 盗聴器かよ。 ボクはそう吐き捨てるだけで、何も答えない。 「ババアも明日姉もどうせ嫁に行くんだからさぁー、会社のことはオレに任せて……」 「アンタみたいなボンクラに紅家が任せられるものですか?!」 本当、五月蠅い。 両親が海外に出て数日、戻るまであと1週間。この狂乱が続くと思うと――心底うんざりだ。 終わってしまえばいいのに、ね。 ボクはポケットの中の薬瓶を握りしめた。 ●ブリーフィングルームにて 「彼らは、運がいいのかもしれないわね」 待つ間暇だったのか、手にした『天元青山殺人事件』と描かれた文庫本を閉じ、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は顔をあげる。 「革醒したからこそ……リベリスタのみんなが介入、出来る」 ――仲の悪い家族がただ殺し合うだけなら、私たちの知ったことではないわ。 そう嘯く小さな娘はいつも通り冷淡寄りのフラットさを身に纏う。 イヴの話によると、近い将来地方名士の子供達と使用人が全て遺体となって発見されるらしい。 「恐らくは……エリューションによる殺し合いに発展した結果ね」 けれどこれらの惨劇は止められるのだという、もちろんリベリスタたる皆の手によって。 「エリューション化のきっかけは、殺人。だから、皆はこの『紅刻館』に赴いて、殺意の芽を摘み……止めて」 館に入り込むのは結構容易い。 流しの芸人を名乗ったり、物々しい身分ならば両親の知り合いだとでもでっち上げればよい。 住人は退屈しているので、裏を取って追い出したりという無粋なことはしない。 住人は自分の金にたかる存在に慣れているので、そんな奴らをからかうのを退屈しのぎにしていたりもする。 だから、 入り込むのは容易いのだ。 「住人のデータは……これ」 【革醒の可能性アリ】 長女:小桜 25歳。第一子として愛情を受け育つも、最近は両親に政略結婚の話ばかりされてうんざりしている。ロマンスに飢えている。 次女:明日葉 17歳。家にしがみつく姉と弟が嫌い。自分は早く家を出たいが、父が彼女の頭の良さに目をつけており自分の会社の後継者にともくろんでいる、シニカル。 長男:槲(かしわ)16歳。跡取りとして甘やかされて育った。異性関係含め素行はよろしくない。女に手を出すのは礼儀と信じる高慢な青年。 【使用人:革醒はしていないが、被害者・協力者の可能性あり】 セバス・陳:古くから紅家に仕える執事。家人には絶対服従、どのような命令でも従う。 滝川・英子:25歳の使用人で料理を取り仕切る。既に他界した両親が住み込みで働いていた。同じ年の小桜へは複雑な感情があるらしい。 【事件に関わりはないが、情報源となりそうな存在】 メイド数名。 「皆がたどり着く頃には、長女の小桜の毒殺未遂で館は、盛り上がってる」 部屋に運ばれたココアに毒が潜まされていた。 誰が混入したのか、不明。 またどうして未遂で終わったのかも、不明。 「そう……もしかしたら、小桜が革醒しかかっている事で毒が効かなかったのかも、しれないし。もしかしたら使用人の誰かが、毒が入っていると知らせたのかも、しれない」 わからない。 わからない。 それはあなた達が聞き出して欲しい。 「殺意は至る所に転がっているみたいね。つつけば色々出てくるわ、きっと」 イヴはうさぎポシェットから取り出した文庫本を再び開くと目を落とす。だがすぐに顔をあげて、本当に小さく頬を膨らませた。 「筋書きを決めるのは、存外あなたたちかもね……物語の主役になれるなんて、ちょっと、羨ましい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:一縷野望 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月01日(日)22:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●錯綜 「冗談はよしてくれるかな」 紅家長男・槲は弁護士を名乗る『魔眼』門真 螢衣(BNE001036)を前に声を荒げた。 リビングに陣取る面々が何事かと伺う視線視線視線。 螢衣曰く、さる女性より槲を訴えるとの話あり、示談取り付けに来たのだとか。 背後では『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が腕組み膨れている。 「そんな貧乳しらねぇよッ」 むかっ。 「彼女は当事者ではありません。ただ依頼主様から槲様の不義理の証人として……」 ガタン。 視線集めるように音たて立ち上がったのは、次女・明日葉。 「いいじゃないか、父様に弁護士をたててもらう手間が省けてさ」 「なんだとォ?!」 「止めて頂戴」 車椅子でこめかみを押さえ、長女・小桜が首を振る。 「あたくしがあんな目に遭ったというのに……姉を気遣う事もできませんの?」 ――なんで死なねぇんだよ、アレで。 その声の主は、槲。しかし今はまだ知らんぷり。 「その件についてお聞きしたいのですが」 厳めしい面構えで手帳を開く刑事・『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)の尋問を潰すように、槲は椅子を蹴飛ばした。 「不愉快だ、出かける」 「槲様どちらへ?」 「散歩」 メイド英子にぶっきらぼうに答える玄関に向うと、ローブを着た男性とぶつかった。 「ああ、失礼」 キュン……。 人の肉からは到底発せられない音をたて、紅眼の占い師ラキ・レヴィナ(BNE000216)は槲をじっと凝視する。 「な……なんだよぉ、気持ち悪い」 「いえ」 彼は――革醒していない。 だが。 犯人である可能性は、ある。 「全く、跡継様ともあろう者が」 槲が出て行ったサロンで、明日葉が呆れたように肩を竦めた。 「でも御主人は仰ってましたよ? 槲には任せられない、と」 「愛人風情にお父様がそのような事を話されるわけないでしょッ」 弟妹と変わらぬ年格好で愛人だと転がり込んできた『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)に、小桜は口角泡を飛ばす。 だが皮肉にもその真剣さが戯れ言ではないと物語る。 「成程」 くきくきと鉛筆で頭を掻き、正道は傍らの老執事・セバスに振り返った。 「順を乱すと家が乱れます。そうは思いませんか?」 「乱れませんよ。これが御館様の御意志なれば」 空気のように溶け込んでいた老執事に感情という色が宿るのを正道は見逃さない。 す。 セバスが手をあげると英子が首を竦めるように頭を垂れる。 「はい。食事を整えます」 「お客様が多くいらしてます、粗相のないように」 ●キッチンにて 「はぁ、そりゃあ御主人様も坊ちゃんに呆れるわけだわぁ」 まん丸な目を見開き『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)が感心する。大げさな反応が嬉しくて、メイド達の口はますます滑らかに動く。 曰く。 メイドに片っ端に手をつける槲、孕まされて止めた女も数知れず。 最近は英子といい仲らしい。 いや、あれは弄ばれてるだけだ。 云々。 (成程、やはり英子が協力者と見て間違いなさそうですね) 鍋をかき混ぜながら『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は耳をそばだてる、すると。 「あなた達、おしゃべりが過ぎますッ」 どこから聞いていたのか英子がヒステリックに眉をつり上げ登場だ。 「食事はもう出来てますよ、英子さん」 地方財閥のメイド風情に遅れは取らぬと、モニカはそのままイニシアティブを奪う。 「後継者に手をつけられて、その割りに随分と大切にされていないようですね。寝てないような眼の下のクマといい、老けて見えますよ」 侮辱に唇を震わせるが、同種の秘め事を泳ぎ切るモニカの風格か、言葉がうまく連ならない。 ――外堀ひとつ、埋まりましたね。 少女の外見に似つかわしくない老獪な笑みで、モニカは別室へ英子を誘った。 ●迷い人二人、実は三人 紅刻館にて晩餐が始まる頃、槲は不機嫌露わに館へと戻って来た。気晴らしに女でもと思ったが粗方手をつけ新鮮味もない。 「チッ、パパに言って新しいメイド……ん?」 槲の耳が聞き慣れぬ女の声を拾う。 「ガス欠、かも」 「ホントにぃ?!」 淡々とした声は白のリボンを結わえた幼い顔立ちの少女から、だが運転席にいることから18は越えているのだろう。 ばたむ。 助手席から降りて髪をかきあげるのは外ハネ髪の女、こちらは年相応で「だるい~」が口癖っぽいゆるゆる系だ。 槲の好みはズバリ後者。遊ぶも捨てるも後腐れ無くて良いからだ。 「どうしたの?」 「あ、ガス欠っちゃって」 「じゃ、うちに来るとイイよ。部屋だけはあるからさァ」 『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が一夜の宿を請う前に、槲は『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)の手を引き歩き出した。 同時刻。 「えっ僕? ただの焙煎えっ」 着流しにチューリップ帽子にボサ髪隠し現われた『ぼんやり焙煎師』土器 朋彦(BNE002029)が、 「そうそう、コーシーだよコーシー!」 お富に引っ張りこまれていた。 「ふーん、豆変わったんだ、前の方が良かったね」 明日葉にレナーテは屈託なく返す。 「香ばしくていけると思うけど」 「明日姉は舌が年寄り臭いんだよ」 槲がふたりきりになりたいと言うので、これ幸いとレナーテは館の案内を請う。 「おっけー、いいよぉ」 下品に笑いながら、槲は給仕をする英子を試すように見る、が。 「……槲様、お代わりは如何ですか?」 モニカを伴う彼女はしれと笑い、槲は面白くなさそうに眉を顰めた。 「腹を割った話が聞きたいのですよ」 正道はカップを差し出しながらセバスの言葉を引きださんと仕掛ける。 「あなたがこの家に忠義篤くいらっしゃるのはよくわかります。だからこそ……」 小桜、明日葉にわざとゆっくり視線を向けて、正道は再びセバスを射るように見る。 「今の状況は看過出来ないのではありませんか?」 「……さて」 平静を保とうとしながら、唇の震えに感情の揺らぎが滲む。゜ 「――」 部屋の端にて気配を消すようにラキは佇む。だがその視線は抜け目なく『登場人物』を撫でた。 レナーテと出て行く槲を、もう一度。 そしてとらと出て行く明日葉と、輪の中で高慢に笑う小桜を。 Whydunit――何故罪は犯されたのか? Howdunit――それはどのようにして? 糸を辿る為、革醒(めざ)めし子羊を、探す。 「我が家は古くは子爵の称号を賜って……」 一角では小桜からの自慢話が続く。 同年代の女性は使用人ばかり、自慢は対等な存在へ行ってこそ楽しめるもの。 「それは、小桜さんはさぞかし引く手あまたなのでしょうね」 柔和な笑みで螢衣が話を仕向ければ、とたんに曇る小桜の貌。 「今来ている縁談だって、家の品格を引き上げたいだけなのが見え見えですわッ」 では、と天乃が口を開く。 「今回みたいな事件があれば、縁談も取りやめになるかもしれない、ね」 「それは……」 「小桜様、そろそろお休みください」 す。 正道の追求を躱すように、そして小桜を守るように、 「お体に触ります」 忠臣は背を押した。 その、刹那。 がしゃーーーーん! 「わぁぁ、すっすみません!」 「きゃあ、そのツボはぁぁ!」 焙煎師が『いい仕事』をした。 「何事ですか! 騒々しい!」 席を立ち入り乱れる家人と入れ替わるように現われたのは、お富とモニカの手引きで既に屋敷に入っていた探偵と助手。 こそこそと。 一部除いたものの、闖入者達は頭をつき合わし今までの情報を交換する……。 ●舞台裏 「明日葉と小桜がエリューションだな」 ラキは端的に言い切った。 探偵助手の『ぐーたらダメ教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)も、こくこく頷く。ラキと同じくエネミースキャンで洗ったのだ。 「それで、みんなは誰が犯人だと思っているわけ?」 探偵たるもの場を支配する定説を覆してこそと『ナーサリィ・テイル』斬風 糾華(BNE000390)は、まず皆の推理を聞こうとする。 ちなみに彼女は『一番疑われているであろう明日葉は犯人ではない!』が、推理の核となっている。裏付け情報は助手のソラ先生を使って収集済み。 「明日葉さんと小桜さんは、子供の頃は仲が良かったらしい」 殺そうとするわけない、と。 「そう、ね。小桜毒殺未遂は、小桜の狂言、だと思う」 様々な話を投げかけた中、これが一番ゆらいだと天乃。 「毒は本物だったようだ、そして毒を入れたのは」 「槲……英子が誑かされて入れたのかと思ったのですけれど」 あれ程『尋問』したのに吐かなかったと、モニカは肩を竦める。 それには舞姫が持ってきた『催眠術入門』の本が、路を拓く。 「催眠状態であれば、滝川さんが憶えていないのも道理ですね」 螢衣は後で『魔眼』で試してみると結んだ。 「死ななかったのは、革醒していたから、か」 ハッカパイプをぺこぽん咥え、糾華は天を仰ぎ沈思黙考。これぞ探偵の特権である。 「つまり犯人は槲、動機は財産の独占ってとこか? 革醒してねぇ奴が黒幕ってのも皮肉な話だぜ」 「やっぱり、そうね」 そうは言っておく、安楽椅子探偵として。 でも内心は、明日葉に罪をなすりつける奴がいなくて拍子抜けな糾華。これは槲が犯人じゃない!(ばーん)に持っていった方が推理ショウらしい、か? 「……」 綺麗に纏まりつつある流れが気にくわないのは正道だ。 誰かがこの自体を俯瞰しながら操っている、そんな気がしてならないのだ。 ●殺され役のモブ? 「小桜さんや明日葉さんが羨ましいかも」 館を案内されて、レナーテはうっとり呟く。 「はん、嫁にいって親父の人脈強固にするのがお仕事さ、それよりさーあー」 肩に回される手を払い、 「あら、じゃあ『ロマンスに餓えてらっしゃる』んじゃないの? 女は恋に恋するものよ」 言っててお尻がかゆいとか思いつつ、要所に「小桜の狂言」をちりばめ槲を誘導する。 「あるある、絶対あるってばー! 日記帳」 「オバハンのくせして乙女趣味だかんなぁ」 くくっと笑う槲、彼は彼でレナーテを利用してやろうという腹だった、即ち。 (こいつ、小桜姉疑ってるみてぇだし、丁度イイや――) 今度こそしっかり殺した時に、自殺に見せかける片棒担がせちまえ。 ●星空の下 「お嬢様なのに「ボク」なんて言って、うんと勉強したのは、二番目の女の子で両親からの関心も薄かったせい?」 「! なんだ……愛人さんか」 ツボが割れた喧噪から離れ、一人中庭に佇んでいた明日葉。 とらが少女を追ったのは、彼女が消えそうだったから――この世界から。 「いや、キミは愛人じゃないね。だってアイツの好みは、巨乳だもん」 くくっ。 壁にもたれ笑う少女は天を仰ぎぼそりと言った。 「だから、ボクの母親は手をつけられて、ボクを生んだ際に運悪く命を落としましたとさ」 けらり。 渇いた笑いをたてくるり、芝居がかった仕草でまわると。 「だから――」 「セバスがいる」 とらの声を断ち切るように、少女は笑った。 「ボク、顔は似てるんだってさ……セバスの死んだ娘に、ね」 とてもとても、哀しげに。 ●IT'S SHOWTIME! 「……槲君は、小桜さんの狂言自殺を知ってたって事なんだよね。だってさ、あんなにあっさり日記を見つけられるわけないし」 小桜の日記には『婚約者とあわせられる日取りを鑑みて、いつ狂言自殺を実行するか記されていた』と、レナーテは嘯いた。 解決編である。 客間に全員集めてやる、アレである。 「アタシ見たの! 槲の部屋にこんなものがッ」 「催眠術入門って、どういうことさ?」 舞姫が意気揚々と出した本に、明日葉がしれっと問い掛ける。 ……わかってて、やっているのだ。 「全ては彼女が教えてくれましたよ」 パチン! 螢衣が指を鳴らすと、なんと! 英子が豊満な胸の隙間から小さな薬瓶を出し、カップに粉薬を注いだではないか! 「最初から毒が入っていれば、小桜さんが部屋で無害な物を入れても毒入りなわけですよ」 誰もが槲を犯人と認識し糾弾しようとした、その時。 「槲さん、確かにあなたは姉を殺そうとした、でも!」 ぴっ。 糾華はひとさし指を立てるとチチッっと振って続ける。 「その行動は『誰かに操作されたモノ』だったのです」 正道が顔をあげる。 視線の向う先は、セバス。 「槲さんの心を蝕み殺人に駆り立てた、真の黒幕はこの中にいる!」 ! !! !!! 登場人物全ての上に「!」がついて、カッと眼を見開く感じのシーンが挟まり。 「そう、犯人は」 「――やはり、セバスさんだったのですね」 歩み出た正道は、俯き唇を震わせる老執事の前に立ち手を取った。 「古今東西後継者を変えた事で内紛に陥り滅んだ家は少なくありません。あなたは紅家がそうなる事が耐えられなかった」 「ええ…………本来の跡継は、長子の小桜様に他なりません。しかし御館様は何をトチ狂ったか、槲様に変えられた」 老人は拳を握り蕩々と続ける。 自分が如何に小桜を主として慈しみ育てたか。そんな彼女をドコの馬の骨とも知れぬ男に嫁に出す惨さに耐えられなかった、と。 黒幕は革醒者ではなかった! ではいつ戦いを仕掛けようか? 彼らが別の意味で緊張を高めた、刹那。 「いいのかな? このままだとお爺ちゃんが犯人扱いだよ?」 とらは真っ直ぐに明日葉を見て、言った。 瞬間、明日葉を中心に、不の力場が膨れあがり小桜を道連れに――爆ぜた。 ●日常への帰路 フェイズ1、だが力の使い方を一切心得ていない革醒者2人、12人に掛れば赤子の腕をひねるようなもの。 真っ赤な絨毯の上、気絶する小桜。 腰を抜かし白目を剥いて倒れる槲。 そして――。 むくり。 半身を起こすと明日葉は抱えた感情の塊を吐き出す。 「どうして、殺してくれなかったのさ……」 生まれながらに母殺しを背負わしただらしない父を、父そっくりの弟を、虚栄心の塊の姉を、全てを闇に落としてやりたかった。 子供が殺し合ったとあれば、父の社会的地位は屍同然。 狂言毒殺などという悲劇のヒロインを演じたい姉など、本当に死ねばいい。 弟は姉『ふたり』を殺した殺人鬼として、一生後ろ指をさされ生きればいい。 「ボクは、ボクは死にたかったのに……死にたかったのにッ」 泣きわめく明日葉を……孫を前に物言えぬ老執事に、正道は犯人扱いの非礼を詫びた。 彼はゆうるり首を振ると苦笑混じりにこう返す。 「いえ……むしろわたくしは、鬼ヶ島様の推理通りに事が運べばと祈っておりましたので」 そう。 感情を抑え込んでいる素振りは全て、自分を黒幕と思わせる為。 「上手くはいかないものですね」 「でも」 とらは、皺だらけで骨張った手を引き明日葉の背に当てる。 「誰も死ななかったよ」 誰も死ななかった物語。 そう。 老獪なる執事の企み『孫を確実に世継ぎに添える』は潰えた。 でもだからこそこれは――取り返しのつく物語。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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