●『欠片』 私は誰だ? 此処は何処なのだ? 体が痛い。上手く呼吸ができない。取り入れた空気は私の内部を焼くように熱い。まるで毒だ。耐えられない。 周りを確認しようにも自らを確認する為の視覚がない。 自分を確認しようにも自らを確認する為の触覚がない。 千切れた。千切られた。私という存在は分断された。 階層の穴を通る時に理不尽な力によって分断された。 探さなくては。私という存在を探して、戻らなくては。 どこにあるかはわかる。私のことだから確実だ。 だがそこにたどり着くまで、私の肉体は持たない。灼ける様な空気が私を焦がす。 私は防護用に気体状の幕を張る。これで幾分か痛みが和らぐ。 苦しい。寂しい。耐えられない。 早く私という存在を取り戻さなくては。 アザーバイド。異界からこの世界に来た存在。 軟体状のそれはゆっくりと進んでいた。辺りに毒素を振りまきながら……。 ●アーク 「イチハチサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「東城・ユウ、という覚醒者を知っていますか?」 和泉は皆に資料を配布しながら、説明を開始する。 東城・ユウ。九月初頭、アザーバイドを召還した覚醒者。彼は上位階層に穴を空けることに成功し、アザーバイドの召還に成功する。それを為した彼自身とアーティファクトはすでにこの世に存在しない。 そう。アザーバイドの召還に成功したのだ。 「彼が召還に成功したアザーバイド一体。これが討伐対象です」 世界を壊すことを望んだ少年が命を賭して呼び出した異界の存在。リベリスタは皆息を呑む。モニターに映し出されたのは、半透明のゼリー状の存在だ。動くたびにプルプルとその身を震わせ、周囲に白い霧を吐いている。 そしてその霧が周りの植物を腐食させ、見る間にただれていく。植物だけではない。動物もその霧を吸い込み、苦しそうに悶えてそして命を失う。 「トキシン。アークがこのアザーバイドにつけた名称です。 トキシンは辺りに毒を振りまきながら、ゆっくりととある地点に進んでいます」 「とある地点?」 「はい。同時期に発見された別のアザーバイドの元にです」 「まてまてまて。アザーバイドは他にもいるのか?」 「はい。形状が不定形のアザーバイトが同時期に複数発見されました。それらは一箇所に集まるためにゆっくりと移動しています」 モニターに地図が映し出される。地図に複数の光点が映し出され、進行先を示す矢印が映し出された。まるで一箇所に集うように。 「これら複数のアザーバイドは、巨大な一体のアザーバイドの『欠片』で、元に戻る為に一箇所に集まろうとしています」 ざわめくリベリスタ。 「他の『欠片』と融合すると力が増すため、『欠片』毎に各個撃破する作戦となりました」 「つまり他の『欠片』には他のチームが当たるわけか」 頷く和泉。モニターが光点の一つにズームする。山中の川沿い。テントがはれそうなそんなスペース。 「トキシンは川沿いにこのキャンプ場を通ります。幸いにして人はいません。 足場、光源、人通りや周りの被害などを考えれば、此処で迎え撃つのがベストです」 「そこ以外だと、少し辛い戦いになるのか」 「はい。『欠片』は一体ですが、強力な個体です。 辺りに毒を振りまくと同時に、自身の身体も毒の塊です。攻撃を仕掛ければ毒を撒き散らし、手痛い打撃を食うでしょう」 「厄介な相手だな」 「はい。厄介な相手です。でも皆様なら大丈夫と信じています。 皆様お気をつけて」 和泉は一礼して、リベリスタたちを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月27日(火)21:54 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●昂る者と悲しむ者 黄昏時の川沿い。茜射す川原に集まったの八人のリベリスタ。 あるものは戦いを前に昂り、あるものは異界の存在に思いを馳せる。 アザーバイド『トキシン』。とある儀式により呼び出された巨大なアザーバイドの分身。 「しかし、考えてみると……可愛そうですね……」 『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)はもうすぐ来るであろうアザーバイドのことを思う。 「普通に生きていたのに、突然、異世界に落とされて……仲間と合流したい、生きたいだけなのに……」 いくつもの身体に分断され、この世界の空気が肉体にあわず喘いでいる。苦しみながら移動しているその在り様は犠牲者といえなくもない。 (無理やり元の世界から引っ張り込まれたアザーバイドか……) 『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434)はミミの言葉を聞きながら瞑目する。 (哀れと思わなくもないが、世界を護るためだ。存在を許すわけにはいかん……!) トキシンは毒の塊。そして分けられた他の『欠片』が集まれば、その被害は予想ができない。自分の世界に帰るのか、あるいは召還された命令に従いこの世界を破壊するのか。それが断言できない以上、合体を未然に塞ぐのが一番である。 「世界を壊す為に召還されたアザーバイトか。奴自身に世界を壊す気は微塵も無いのだろうな」 『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)は誰にも気付かれないようにため息をつき、腕を組んだ。一方的に召還されてその世界で苦しみ、そしてこちらの都合でその存在を抹殺されようとしている。 しかし哀れとは思うが見逃しはしない。強者と戦う機会があれば、それに挑む。それが美散の目的だ。 「さあここが正念場。これ以上の拡大は許しちゃいけないね」 手足を伸ばしてリラックスしながら『サマータイム』雪村・有紗(BNE000537)は言う。『万華鏡』が見せた映像を思い出し、これ以上の被害を塞ぐ為に剣を構える。しくじれば他の『欠片』と合体するとはいえ、やることはいつもの討伐。必要以上に気負うことはない、と心身ともにリラックスしていく。 「融合によりフェーズが進化するような事態になれば、討伐は困難になる。 必ず此処で叩くぞ」 有紗とは逆に、決意を言葉にし『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は瞳を鋭くする。怨敵、黄咬砂蛇の持っていたナイフの感触を確かめながら、息を整えた。 快の戦術は単純だ。アザーバイドの行動後、可能な限り速く動いて毒を癒す。そのために速く動く必要があった。 だから快はプロテクターを水着にしたのである。黒字のブーメランパンツに緑ライン。秋風が寒い。あと周りの視線もちょっと寒かった。 「へ、変態だー!」 「違う! 違うんだ! 皆の毒を取り除けるよう、戦術上の最適解を模索した結果なんだ!」 「水着を着ていてもオレより硬いとは……筋肉がすでに鎧と化しているのか。恐ろしい男だ、新田快……っ!」 有紗と風斗が緑ブリーフの戦士、ポロリグリーンの格好を見てそれぞれの感想を述べる。 「って、そこ! ポロリグリーンとか言うな!」 「新田先輩、何処にツッコでるんですか?」 地文にである。 そんなよくわからない流れは、鼻腔をツンと刺激するような匂いで中断される。地面を這いずるように移動する半透明の存在。トキシンと名づけられたアザーバイド。 「すごい臭いだね、やっぱり」 この距離でも刺激臭を感じさせるアザーバイドを前にマスクを掛けながら、『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)は言う。マスクなしでも戦闘に支障はないだろうが、気分的には優れない。 凪沙が迫るアザーバイドの能力を探る。心を穏やかにして、五感以外の何かでトキシンを『見』る。そしてわかったことを口にしてみた。 「弱点はなさそうかな? 防御力が低くて動きは遅いけど、すごくしぶとい」 探られたトキシンが動く。毒の霧を出しながら。進行方向に敵意を持つものがいることを察したのだろう。霧が少しずつ濃くなっていく。 リベリスタたちは武器を構え、トキシンと相対する。朱色に染まる川原で、戦いが始まった。 ●世界を守る者 「さぁ、まずは素顔をさらけ出させてあげる!」 携帯電話型アクセス・ファンタズム【黒銀の誇り】から愛銃をダウンロードする『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)。マスケット銃の中を折ってリボルバーを出し、弾をこめて戻す。流れるように弾丸を込めればそのまま自然に銃口をトキシンに向けた。 一点を貫くように魔力を込めた弾丸は、ゼリー状の身体を易々と貫通する。衝撃で欠けたゼリー状の肉片がミュゼーヌの服に飛び散る。じゅう、と音を立てて肌を焦がした。 「がんばりますのですよ~♪」 歌うように来栖 奏音(BNE002598)が手を合わせて、体内のマナを回転させる。額からおなかを暖かい何かがぐるぐる回るイメージ。声を出すたびに熱が広がり、全身を暖かいものが駆け巡る。 奏音の役割は回復。長期戦になりそうな戦いにおいて、最重要のポジションだ。 「悪いが、長いこと付き合っちゃいられないんでな。最初から全力でいかせてもらうぞ!!」 風斗は剣にオーラを込めてトキシンに向かって突撃する。剣がオーラに反応して、赤く輝いた。オーラにより肉体能力を増強し、Ⅴを描くように剣がトキシンを切り裂く。 トキシンの毒が舞い散る。風斗は肌にそれを受け、火傷に似た熱い痛みを感じた。 「おいで、ゼリー。圧倒的に無慈悲な慈悲を持って、潰してあげる」 有紗は気休め程度にマフラーで口を覆い、一気に踏み込む。茶色のポニーテールが揺れると共にトキシンに近づいて、その勢いのままに剣を横薙ぎに払った。勢いのある一閃がゼリーの身体を削り、トキシンの表面にある毒を吹き飛ばす。 「ここから先は通しはしない」 快はトキシンの真正面に移動し、進路を妨害するように立ち塞がる。他の『欠片』と合流させまいという心意気と、ここにいるメンバーを守るという二重の決意。心臓を隠すように半分身を捻り、マジックディフィンサーを前にする。光が防壁となり、快を包み守っていく。 凪沙が拳を開いて握る。彼女のつけているガントレット『総合格闘支援装備 二式 “香車”』に拳に宿った。ステップを踏みながら風上に移動してトキシンに炎を叩きつける。 「燃やし尽くすよ」 凪沙の見かけでは考えられないほどの豪快なパワーで殴りつけられ、トキシンはぶるぶると震えた。そして引火した炎はゼリーを燃やし、じわじわと溶かしていく。 「戦いらしい戦いは……初めてでしょうか」 思えばアザーバイドにせよエリューションにせよ、明確な敵意をもって迫る存在に相対するのは始めてである。ミミは威圧されそうなほどの相手の意思に足を竦ませる。ゆっくりと呼吸を整えて平静を取り戻し、自らの役割を果たす。有紗に近づいて、印を穿つ。世界にある小さな力を受け入れ、自らを回復する自己回復の印。 度重なる攻撃にトキシンは移動を止める。何かが攻撃を仕掛けているのだ。ならば排除するのみ。体中から白い霧を吐き出す。霧はリベリスタの身体に触れると肌から侵入し、血液を通じて体内を駆け巡る。眩暈に似た感覚と共に、体力が削られていく。 「……っ! なるほど毒の塊とはよく言ったものだ」 行動を遅らせていた美散は鉄槌を両手で振りあげた。体内で発生した雷が武器に伝わり、稲妻をまとった鉄の塊がトキシンに振り下ろされる。重力と雷撃。大きな音と共にゼリーを穿つ。 異界の毒はまだ止まらない。身を震わせながら、毒を振りまいていく。 ●世界を壊す毒 トキシンのもつ毒は三種類。 自身の表面に毒を集め、攻撃してきたものに飛び散らせて肌を焼く強酸系の毒。 そして先ほどの霧状の毒。広範囲に広がるが、その分毒素は薄い。 最後に―― 「うわっ、こっちにきた!」 「まだまだ。この程度では倒れはしない!」 風斗と快が立っている方向に毒の液を飛ばす。放水のように放たれる毒液は、二人のリベリスタの足を止める。猛烈な吐き気と共に鋭い痛みが体を襲う。唯の人間がこれを受ければ即治療が必要な強い毒。覚醒者でも長く放置していいものではない。 並の覚醒者が不意に出会ったのなら、じわりじわりと毒で倒れていただろう。 しかし彼らはアークのリベリスタ。『万華鏡』により未来を知り、毒に対する策を万全と備えていた。 「その流動体の身体に、休む間もなく風穴を穿ち続けてあげましょう」 トキシンが表面に毒を集めれば、ミュゼーヌが集まっている箇所を銃で狙い、吹き飛ばす。何度も何度も。ゼリー状の身体が爆ぜて、削られていく。そしてそれを待っていたかのように他のリベリスタたちは攻撃を始める。 「皆さん……毒を払いますね」 「有難う、ミミさん。俺も毒を払うよ」 放たれた毒はミミと快が神々しい光を放ち、打ち払う。二重の癒しの光が、リベリスタたちの体内から毒を払う。 無論、回復に人手を回した分だけ火力は落ちる。闘いは自然と長期戦になった。 「回復なのです♪」 奏音は体内のマナを言葉に乗せて、戦場に響かせる。音は耳からそして肌から身体に入り、乗せられたマナがリベリスタたちの傷を癒していく。トキシンの攻撃や、毒で受けたダメージは消して軽くない。が、その痛みを忘れさせるほどの優しい歌と、声。それが心身ともにリベリスタたちを癒していく。 「耐えてくれよ、しぶとくな!」 美散が稲妻を鉄槌の乗せて持ち上げる。彼の望みは強敵との戦い。簡単につぶれてしまうような弱いアザーバイドでは意味がないのだ。このアザーバイドは、しぶとく耐えていた。硬くはない。スピードもない。だけど唯、体力はあった。そういう意味では、美散の期待通りのアザーバイドであるといえる。 「お前の命とオレの命、どちらが先に尽きるか勝負といこうかっ!!」 風斗は毒への防御を考えない。否、毒への防御は皆仲間に任せてある。自分はそれを信じ、一心不乱に剣を振るうのみ。背中を任せる仲間がいるからこその全力。故に自分の役割は決まっている。命を懸ける勝負なのに、剣筋に迷いはない。 「一つ合体したらもう手に負えなくなっちゃうんだろうね」 凪沙は炎の拳でトキシンを殴りながら、そんなことを言う。重心を崩さないようにすり足で動いて、ワンツーフック。皆の攻撃で削れ荒れていくトキシン。しかし合体すればどうなるか。フォーチュナと『万華鏡』を持ってしても、その規模と発生しうる悲劇までは予想できなかった。 いや、そんなことはさせない。そんな悲劇は予知する必要がない。息を整えリベリスタたちはトキシンを睨んだ。 「だったら合体させないまでさ。一気に行くよ!」 有紗はトキシンが表面に毒を集めるたびに、それを払うようにバスタードソードを振るう。踏み込みと同時に振るう剣が風を起こし、集まった毒を吹き飛ばしていく。相手の体制を崩し、次につなげる。地味に見えて、重要なチームワークの一つ。 トキシンが単体で複数の毒をばら撒くのに対し、リベリスタたちは八人で一つの生命のように連携している。 凪沙、風斗、美散が攻め立て、快が攻撃を受け止める。ミュゼーヌと有紗が攻撃を加えながら毒の一つを封じ、ミミと奏音が毒と受けた傷を癒していく。退くことなく、アザーバイドを追い詰めていく。 「うう……少し、眠いですぅ……」 持久戦となれば体力勝負になる。耐久力に劣る奏音が倒れそうになれば、 「まだおねむには早いよ。もう少しがんばって」 快が後衛まで移動して毒の霧から奏音を守る。オーラで形成した不可視の鎧が淡く光り、異界の毒を受け止める。庇い続ける限りダメージを受け、それ以外何もできなくなるが構わない。彼女は回復の要。倒させるわけにはいかない。防御の誉、ここにあり。 戦略上のベストとはいえ、前線の防御役が抜けたことは大きい。毒霧の回復がミミのみになったのも含め、ダメージの蓄積が加速する。 じわじわと追い込まれる戦況。まるで毒のようにリベリスタの精神を焦らしていく。 ●サバイバル 「ごめん、少し下がるよ」 前線で炎の拳を振るっていた凪沙が毒に耐え切れず後ろに下がる。咳き込みながらその場で跳躍し、空中で足を払った。横薙ぎの回し蹴り。高速の回し蹴りは真空状態を生み、カマイタチを発生させた。風の刃がアザーバイドを切り裂く。 「さすがに、毒の霧は払えないか」 凪沙はあわよくば周りの霧を払えるのではと思ったのだが、カマイタチは鋭い空気の刃。霧を吹き飛ばすような風とは、さすがに質が違う。 「そろそろ、きついか……!」 雷を身にまとい、自らを雷で焦がしながら攻撃を続けてきた美散にも限界が訪れる。彼もトキシンから距離を取り、奏音からの回復を待つ。トキシンの体力の底が見えないため、無理をしない。 「貴方も、訳も分からずこの世界に堕とされて……その点は同情するわ。 悪意も感じられないし、ただ身を守りたいだけなのでしょう」 マスケットを一度中で折り、リボルバーを取り出す。慣れた手つきでミュゼーヌはリボルバーに弾丸を込める。 「でもね。貴方という存在は、決してこの世界には受け入れられないの」 トキシンにとってこの世界が毒であるように、この世界にとってトキシンの存在は毒。相容れるはずのない異物同士。自らを守るため。シンプルゆえに覆せない戦う理由。 「元に戻りたいという貴方の願いは……聞き届けられないわ!」 ミュゼーヌは弾丸を撃つ。撃つ。撃つ。心を冷たくし、絶対の拒絶を込めて。引き金を引く。 弾丸の衝撃に苛まれながら、トキシンが毒を吐き出す。トキシンに接近戦を仕掛けていた風斗と有紗が毒を浴び、膝をつく。耐久力に優れる風斗はまだ大丈夫だが、有紗は耐え切れずに倒れそうになる。視界が暗転し――運命を燃やす。 「残念、異界の子! ここは私達のホーム、運命は地元に微笑むものだよ!」 有紗は息を絶え絶えにしながらにこりと微笑む。体内の毒も微笑んだ運命と一緒に消え去った。さぁ、正々堂々容赦なく、この世界に堕ちた事を後悔して貰おう。剣を杖に立ち上がり、トキシンの身体を切り裂く。 「さぁ、戦いを続けよう。互いの生存権を賭けてな!」 前線に戻れるだけの体力を回復した美散が鉄槌を肩に抱えてやってくる。稲妻を加えた一撃が、トキシンの身体を大きく削り取った。 「命尽きるまで、一度でも多く剣を振るう……それがオレの役割だ!」 猛毒に犯された風斗が、その身体を震わせながら剣を構える。常に全力。オーラを込めた剣が赤く光り、風斗自身もオーラに包まれていた。 何千何万回と繰り返してきた剣を振るう動作。深く踏み込み、力強く振るう。不器用な風斗が手に入れた努力という名の技。それがトキシンを両断し、その生命を切り裂いた。 ●終戦 「さようなら。不幸と毒に塗れたアナタ」 武器を幻想纏いに戻し、有紗が言う。トキシンの境遇は確かに不幸だ。しかし見逃せる相手だったかといわれると、それは違う。 (こちらは終了。他のところはうまくいってるのかしら) ミュゼーヌは言葉なく他の戦場の成功と底で戦っているリベリスタの無事を祈る。応援に駆けつけようにも物理的に遠く、また疲弊も激しい。 「皆さんお疲れ様なのです」 奏音が傷ついて地面にへたり込んでいるリベリスタを癒す。暖かい声とマナの循環が、トキシンに受けた傷と毒で削られた体力を回復していく。大丈夫、と笑顔で答えれる程度にはなった。立って動くのは少しだるいが、無理というわけではない。 「……本気?」 「はい。……『トキシン』をいただきます」 そんな中、ミミは砕け散ったトキシンの一部を前に手を合わせる。いただきます、というのは食べるという意味だ。トキシンの殆どは砕けてこの世界の空気に消えていった。残っているのはほんの一部分のみ。それを手にする。 「いやいやいやいや。アザーバイドですよ! 毒の塊ですよ!」 「多少の毒性はR・ストマックで緩和できるでしょうし……。 なにより、彼らだって生きたかった筈です……し……。奪った命をこのまま捨て置くにするわけにはいきませんから……」 弱気な口調だが、内に秘めた決意は固い。トキシンに対する同情からか、瞳に涙を浮かべながらしかし目を離さない。他のリベリスタたちもそれに気圧されたのか、心配しながらも止めるようなことはしなかった。 ぱくっ。 ゼリー状の物質を噛み砕き、嚥下する。味はなかった。ただ口腔に広がる痺れるような刺激。お腹に満ちていくアザーバイドの残滓。それはミミの消化器官で溶かされ、血液を通じて骨に細胞に満ちていく。一個体が生命の源となっていく。 「……あぅ」 そしてミミは気を失って地面に倒れた。 「「「ミミー!」」」 「R・ストマックは栄養にできるだけで、毒素を抜けるわけじゃないからなぁ。 ましてやトキシンは異界の毒の塊。吸収される栄養は毒でもあるわけか」 「冷静に分析してる場合じゃないわよ。救急車っ!」 「アークの皆さーん! ヘールプ!」 待機していたアークスタッフを含めて、てんやわんやの大騒ぎとなった。 ――アーク。ブリーフィングルーム。 モニターに映し出された地図。複数ある光点の一つに『討伐』のマークが入る。 残る『欠片』は―― |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|