●動画ナンバー:43 再生 やっほー! イヴちゃん元気してる? こっちはねえ、例のと交戦中。 こっちもう、6人やられた。 やー、うかつだったー、まさかねえ。 数が集まりそうだったら一掃しようって作戦だったのは覚えてる? それがさあ、そのうち何個かくっついちゃって。あたしたちの攻撃コピーしてきたのよ。 ――ん、ごめん言い換える。 真似してくる。 顔も、技も、真似てくる。さっきも別行動だったミチルが、あたしの顔真似られて、油断して―― 最後にさ、どういうことなのか、録画しとくよ。 あたしもこのままやられっぱなしってわけにいかないし。ミチルの仇取らなきゃね。 ――こないだ付き合い始めたばっかりだったんだ。 や、内緒にしとくつもりはなかったんだけど、その、機会がなかったっていうか……えへへ。 ――このデータ、ちゃんとイヴちゃんとこに届けばいいな。 ごめんね、約束してたのにさ。コンサート、行けなくなっちゃったね。 ジャンボグレートパフェも……あ、借りてたCD、あたしの家の机の上だからね。 それじゃ、そろそろ行ってくる。 ごめんね。 また会えたらいいね。 ● ノイズの走るモニターを『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はじっと見つめていた。 「今のが、現場に残されてたアクセスファンタズムに、録画されてた」 召喚されたアザーバイドの『欠片』。その形状は、当初ゲル状だったという。 特別小さな『欠片』が数個集まる予定だったその場所で、最初に予知したのは、集合した『欠片』による民間人の殺戮だったという。 「彼女のチームは、民間人の避難に成功した。あとは、アザーバイドの排除だけだった」 そこで、失敗したのだ。 「さっきの映像の解析をした結果だけど、この場所に集まった『欠片』は目の前の相手を真似る」 「ラーニング? それって、ものすごいことじゃ……」 戦慄したリベリスタの前で、イヴは小さく首を振った。 「ラーニングではなくて、鏡写しに近い。目の前のことしか真似られないみたい。 彼女のチームは、最初に一掃しようと全体的に攻撃したせいで、被害が大きくなった。 それに、あくまで真似るだけ。拘束したり、流血・出血の誘発はできるみたいだけど…… たとえば業炎撃を真似てきても、鏡の中の炎は熱くないのと同じ。燃えたりしない。 体につながっている限り操作することができるからだと思うけど、気糸に似たものを射出することはできていたけれど、魔力の矢を真似ることは出来なかった。 現在は各自が『別の欠片』に向かって勝手に動いている状況。 これだけの『欠片』でも、そこそこの強さがある――今、小さい間に、必ず倒してきて。そして」 もう一度再生し始めた録画映像を見つめながら、いつになく静かに、少女はつぶやいた。 「――生きて帰ってきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月23日(金)22:46 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 『ごめんミチル、仇取れそうにないや』 見覚えのある姿、そして声。 それは――ブリーフィングルームで見せられた動画の中の彼女と寸分違わないもの。 だからこそ、リベリスタ達の肌が粟立つ。 血が煮えたぎる。脳幹に憤怒が熱となって意識が白熱する。 それは模倣(コピー)。 恋人を殺され、無念を残し、それでも最期まで戦った女性の鏡写し。 喉の動きすら精妙に真似、聞き取っていた、今際の言葉を垂れ流す。 彼女は――君たちの姿を認めると、にこり、と微笑んだ。 まがい物の笑顔で。 ● まがい物の言葉は『背任者』駒井・淳(BNE002912)の放った式神の鴉に啄ばまれてさえ、止まない。 その意味すら理解できていない癖に。 『ちくしょう。死にたくないなあ……イヴち』 「黙れよ」 がおんっ。 小さな声、一瞬の早撃ち。 銃弾が正確にその喉を撃ち抜き、銃声と共にようやくその『不愉快な音』を遮る。 「……覚悟しやがれコピー野郎! 猿真似如きが追っつかねぇ技で、ぶっ潰す!」 手甲のアタッチメントから硝煙を上げた、『男たちのバンカーバスター』関 狄龍(BNE002760)の、怒鳴るというよりも吠えた、声。 「真似るのは厄介だけどきっちりと仇とらせてもらうよ! ここが貴様の終着だっ!」 速度に最適化した全身の状態を確かめるように『素兎』天月・光(BNE000490)が、人参の様な形状の大剣を突きつけて、叫ぶ。 「どんなにコピーしてもそんなの紛い物にすぎません!」 「人の物を使って、強くなれるなら……全く苦労しないわよねぇ……?」 流水の如き構えを取った『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)、運命を引き寄せる程の誇りを胸に見栄を切った『銀猫危機一髪』桐咲 翠華(BNE002743)が、口々に否定を唱える。 危険を感じたのだろうか。 アザーバイドは喉の穴からヒュルヒュルと空気を漏らし――呼吸のための器官ではないらしく、音を真似られないことを不思議がって、確認しているらしかった――周囲を見回す。 だが、その瞳が見つけたのは慧架同様の構えを取った浅倉 貴志(BNE002656)と、脳の伝達処理を格段に高い集中領域に引き上げた廬原 碧衣(BNE002820)だ。 駄目押しとばかりに、その額にショットガンの榴弾がいくつもの穴を穿つ。 遮蔽物には事欠かないこの戦場の中の何処かに身を潜めた『チープクォート』ジェイド・I・キタムラ(BNE000838)の精密射撃だ。 『───────────────!!』 知能の低いアザーバイドにも、状況が掴めたのだろう。 ぐにゃりと黒い泥のように姿が歪み、もう一度先ほどまでと同じ姿を取ろうとしたのだろうか、盾に横にと無理やり引き伸ばされたような姿を取り、やがて諦めたのか、再び黒い泥となる。 口腔にも似た大穴がぐばりと開き、そこから空気をびりびりと振るわせる『何か』が響いた。 それはおそらく、ヒトの可聴域から外れた雄叫び。 それはこれより始まる激戦の開始の合図となった。 ● 「や ら れ た~。ばたり。な~んて、嘘うさ!」 おどけた様な物言いとは裏腹に、立ち上がった光の姿は満身創痍。 それもその筈、彼女は運命を燃やして無理矢理己の身を持たせたのだ。 おどけたような物言いで自己を再び奮い立たせた光は再び巨大な人参の形をした剣を構えなおし、己と同じ姿をしたソレに突撃する。 戦いの間、アザーバイドは主に光の姿を真似ていた。 理由は単純。 真似る事の出来た攻撃方法の中で、彼女のそれが一番威力が高いからだ。 この『欠片』は確かに知能が低い。 だが、己が身で受けた技のどれが最も強力かを測る程度の事は出来た様だった。 「これで、打ち止めです……!」 光が傷ついた身体を鞭打って放つ幻惑の人参、そして慧架の蹴り放ったかまいたちにが、まがい物 の『光』を斬りつけ、封縛を成す呪印が幾重にも囲む。 だが、呪印は贋物の動きを一瞬絡めとっただけで、人参の一振りで壊されてしまった。 「……ちっ、封じ切れんか」 上位世界には面白い連中が居るものだと、淳は口には出さず心の中でだけ皮肉を呟く。 アザーバイドのコピーは、能力までは再現しない様だった。 ――しかし、それは断じて喜ばしい事では無い。 ザーバイドの腕力は、この場にいるリベリスタの誰よりも強力だったのだから。 それこそ、先行のリベリスタ達を返り討ちにしてのけた程度には。 単純に、強い。『欠片』でこれなのだ。淳が内心舌を巻くのも道理。 加えて。 「わわわっ! 一種の油断が命とり!?」 光がしゃがみこむ事でギリギリ銃弾を回避する。 銃弾。それはアザーバイドの攻撃ではない。 「ここまでそっくりだと……本人に当ててしまっても、仕方がないわよね?」 危うく仲間を撃ち抜きかけた翠華が、肩をすくめてアッサリと弁明して見せた。 光もまた特に悪態をつく事も無くそのままアザーバイドに向けて構えを取り直す。 反応が薄いのも当然だ。――何せこれが初めてではない。 野外公園の中でも、広場から少し外れた場所。 木々が林立し、遮蔽物の多い戦場である。 目まぐるしく立ち会う、同じ姿をした敵と、味方。 そのどちらが本物かを判断する事は、距離のある後衛には困難だった。 カラーボールを見分けに使うと言う案もあったが、急ぎだった為か結局誰も準備して来ていない。 声かけ確認だけでは間に合わない状況もしばしばである。 まして翠華は一度、もう面倒だからと確認せず左にいる者を狙うことすらした。 その際の連撃の傷は光の背に未だ残っている。 「大丈夫ですか!?」 先のやり取りで合図が不要になった貴志が斬風脚を放ちつつ、光を気遣う。 彼は後方から、敵が真似られない様子の斬風脚に専念している。 後方に居るのは、貴志だけではない。 光を除くリベリスタたちは全て後方に位置し、完全な光のワントップの陣形を維持していた。 それは光への信頼故でもあるが――明らかにもう、限界だ。貴志の額に汗が滲む。 「山!」 「本!」 それでも光は退かず、狄龍の確認の合言葉に即座に叫び返す。 「良い根性だ! 愛してるぜ、ベイベー!」 バウンティショットの連弾がアザーバイドを撃ち抜き続け、射線を通しやすい方向に誘導する。 「補充だ、慧架!」 叫んだ碧衣が慧架と意識を同調させる。 先ほど打ち止めを宣言した慧架の身体に、エリューションの力が見る間に充填された。 状況は厳しいが、未だ余裕がある。一人矢表に立ち続ける光を除いては。 『ここが貴様の終着だっ!』 悪趣味な冗談の様に、光の言葉で、光の姿を真似たアザーバイドが、光に最期を宣言する。 剣を突きつけ、先ほど己を斬り刻んだ幻影剣をそのまま返す気なのだ。 立ち上がってからも一人で攻撃を受け続けている光に、アザーバイドの怪力で振るわれる武技に今一度耐える余力など――絶望的なものだ。 生きて帰ってきて、と。出立時、イヴに言われた言葉が、願いが皆の脳裏を過ぎる。 「――当たり前だ、クソ、ふざけんな! 誰一人殺させはしねえんだよ!」 ジェイドの咆哮。 機械の体の人間もどきと、自嘲を込めた『偽物』の意を名前に込めた男が、まがい物に激昂する。 銃弾がこれ以上なく正確にアザーバイドの額を撃ち抜く。 『欠片』の姿が傾く。そうして揺らめく様に崩れ、 『や ら れ た~。ばたり。な~んて、嘘うさ!』 再び『光』の姿を取り直し、本物の光を袈裟懸けに斬り下ろした。 リベリスタ達が息を呑んだ中、紙の様に力なく光の体が倒れる。 「やりやがったなクソ野郎! 許して貰えると思うなよ!」 動揺が走る中、唯一前衛に光を欠いた場合を想定していた狄龍が『光』の眼前に立つ。 撃つは銃弾ではなく、覚悟と眼光。 真似しえぬ力にアザーバイドは仰け反り、他の者の遠距離攻撃が追い討ちをかける。 ――戦線は、辛うじて継続している。 だが、それも。 『愛してるぜ、ベイベー!』 技を模倣できないが故に狄龍の姿形と声、そして腕の手甲を真似たアザーバイドの十指が、狄龍自身を何度も引き裂き、その意識を刈り取るまでの事。 この期に及び前に立つ者は決まっていない。否、誰も想定していない。 故に作戦と陣形は完全に瓦解した。後に続くはただ、泥仕合。 ● 予定になかった形とはいえ、前衛に立つ事も覚悟していた貴志がガントレットに火炎を纏わせ、アザーバイドを殴りつけ、同じ形の拳を叩き付けられる。焔こそ見てくれだけなものの、その威力は純粋に重く、打ち合いの最中の技のみを真似る『貴志』に対し、防御の構えは間に合わない。 「力なき正義は無意味、だから僕は力を欲する。 だからこそ――この正義なき暴力を、認めることなどできないのです!」 倒れても、尚運命を燃やして立ち上がった貴志は四撃を打ちつけ耐え凌ぎ、五撃目に力尽きた。 次に模倣されたのは碧衣の放っていた、絡めとる気糸――トラップネストだ。 「自身をまじまじと見る事はあまり無いが……なかなか可愛いじゃないか」 勝気に軽口を返して見せた碧衣は、しかし耐久には欠ける。 『なかなか可愛いじゃないか』 形だけを真似たが故に麻痺や毒を持たず、しかし『威力を持たない』特性をも真似なかった気糸の紛い物に切り刻まれた彼女は、それでも運命を燃やし己が力尽きるまでの時間を稼ぐことに費やし、何度かはアザーバイドの動きを封じて見せた。 身動きの取れぬ『碧衣』に、これを契機と見た慧架は一気に間合いを詰めてアザーバイドを激しい雪崩の如く地に叩き付ける。 強力な技にアザーバイドは嬉しそうな表情を模倣する。碧衣が倒れた後、気糸を振り払ったアザーバイドはその技を真似たいと考えたのだろう。執拗に狙われ続けた慧架は、流水の如き構えを取り直しつつ斬りつける真空を蹴りつけながらの応戦を通すが、最後には殴り倒され、立ち上がれなくなった。 「……チ。ざまあねえな」 ジェイドが自嘲気味に吐き棄てる。 淳も、言葉こそ発しないものの、準備していた符術を封縛の物に変える。 「アナタに、この技を真似する事が出来るかしら?」 既にそれが出来ない事を承知の上で翠華が軽口をたたき、借り物の投げナイフを構え直す。 残る三人。共に、本来前に立つ戦略の者ではない。 だが敵を見れば、誰を模倣しようか悩んでいるのだろうかその全身を歪めながら――たまに、黒い泥を地に落としている。 ――自分たち8人だけではない。その前に交戦した8人の与えたダメージもまた、この『欠片』には蓄積しているのだ。 おそらくは、後一歩。もう一押し。 「不条理、理不尽、んなもん山程転がってるこの世界だけどよ」 搾り出すように吐かれたジェイドの言葉に、アザーバイドがそちらを見る。 その顔の目の前に、銃口。 銃声がし、呪印が展開され、神風のナイフが煌く。 肉を振るう鈍い音がそれを押し返す。 やがてナイフが落ち、呪印が消え、銃声が止む。 肉の音は、もうしない。 「それでも、手が届く程度の世界は守らせろよ」 ――じゃなきゃ、死んだ奴らに申し訳が立たねえじゃねえか。 怒ったように。或いは疲れたように言葉を続けた男は、粉々に千切れたアザーバイドの破片、その黒い泥全てが動かなくなっている事を確認し、次いで仲間達の胸が未だ上下している事を見て回る。 アークに撃退の報告を入れ、救助を要請した後。 バタンと倒れた。 その衝撃で意識を取り戻した狄龍が、しかし動かない体を持て余しつつ、ニヤリと笑う。 音はしない。 もうあの、小癪なまがい物は、誰の模倣もしない。できない。 ――正義の味方は大変だよなァ。 昔の俺みたいなヤクザ者は、手前の業で手前が死ぬだけだからいいけどさ。 ……やだねぇ、付き合い始めたばっかりだってさ。 とりとめもないことを思い、誰も聞く者もない言葉を呟いた。 「ゴッドスピード、先輩さんがた。安心して逝きやがれ。 アンタらの道行きはきっと悪いモンじゃねぇぜ」 8人、+8人。 16人のリベリスタ達の力があって尚、首の皮一枚の勝利だった。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|