●赤黒殺人論 やっぱり人は殺すに限る。 力に目覚めたその日の直感は決して間違いではなかった。 赤と黒に彩られた世界に包まれ、私は世界に感謝する。 ああ、良かった、あの日家でTVを見ていて本当に良かった。 名前しか知らない自称伝説的殺人鬼さんどうもありがとう。 血の朱さを、命の軽さを、世界の無情さを、秩序の脆さを、教えてくれてありがとう。 何もできなかった私が何かをできる。 何もする気も起きなかった私が何かをしている。 殺す為の事しかしてこなかった私が殺しをしている。 殺しの力は天恵で、殺しの意志は天賦であって、殺しの業は天職でしょう。 本当に、本当に、良かったじゃないですか、血溜まりの中から睨みつけてる父と母。 ロクデナシの娘は立派なヒトデナシへと生まれ変わりました。 私は私であるために、殺しを選び、殺しを行い、殺しの為に殺して殺す。 目覚めた私が選んだ道は朱とグロ。 手にした肉塊も赤と黒。 躊躇する事なくハサミを入れる。 布を断つよりも容易く、命は断たれていく。 元は人であった肉塊が冗談のように量産されていく。 儚き命よ、儚き人よ、サヨナラさよなら左様なら。 悲鳴も、哀願も、怒声も、諦観も、嗚呼、嗚呼、無価値。 只々挟んで只々斬って只々ばらして只々捨てる。 チョキチョキチョキチョキ…… チョキチョキチョキチョキ…… ヒトデナシの私が選んだ道は朱とグロで…… 踏みしめる道は血と肉なのでしょう。 ●定点運命観測防衛論 「例の『放送』以来、殺人事件が異常なまでに増えているわ。一般人からフィクサード、ノーフェイスまで、大勢の人間が己こそが殺人者と言わんばかりに事件が続発しているの。この事件もその中のその一つ」 移動車両の中、車両用モニターの中に映る『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、蒼紅の瞳を僅かに揺らし話を続ける。 「今回の事件は、突然で突発で突飛で……そして、徹底しているわ。予知もギリギリだったから、ごめんなさい。今回は緊急の要件」 モニターが切り替わる。 代わりに写った姿もやはり少女。 中学生位だろうか、黒髪を肩辺りで切り揃えた、世を拗ねたような瞳の少女だ。 「彼女の名前は澤中紅葉。ジーニアス。引きこもりの殺人者候補生。元々『革醒』しながらもリベリスタともフィクサードとも距離を取り、力を蓄えていた中立者。けど、例の事件……ジャック・ザ・リッパーの凶行を視て、本質に『目覚めた』フィクサード」 ジャック・ザ・リッパー。倫敦の霧の殺人鬼。最凶のバロックナイツの使徒。凶行の主。そして、この事件の呼び水的存在。 「これから彼女は家族といったショッピングモールで連続殺人事件を始めるわ。事件の最初の被害者になるのは彼女の父と母」 最初に犯した罪は親殺し。 それにより彼女の凶行は更にエスカレートしていき、最終的にはショッピングモールを血に染めると言う。 「彼女のクラスはナイトクリーク。資質は天性の殺人者。得物はハサミ。このハサミも彼女が修練を繰り返してきた殺しの為の道具。殺傷力は十分以上に存在しているわ」 そして何よりと、言葉を続ける。 「ジャック・ザ・リッパーへ感化した事により『目覚め』た彼女は、親殺しをすることで更なる『飛躍』を見せる可能性もある」 詳しい資料は送っておくと言われたところで、幻想纏いに受信がある。流石に仕事が早い。 「多分、この車が現地に到着するのは彼女が事件を起こす直前になると思う。初動が重要。お願いみんな、彼女を止めて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:築島子子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月03日(月)22:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●殺人鬼未遂少女 移動車内のPCモニターの中で銀髪の青年の嘲笑が響く。 朝のニュース番組を一瞬で血に沈めて、日本を一変させた伝説の朝。 伝説的殺人鬼ジャック・ザ・リッパーを名乗る青年による血の惨劇。 事件に影響されたかされないのか、その伝説的放送事件の後で殺人事件の件数が鰻昇りに増えた。 当然、フィクサードが起こす事件も増えに増え、今回のようにリベリスタの出動回数も増加するばかり。 今では日本中があの霧の時代の倫敦の様に、姿の見えぬ殺人鬼に怯え萎縮する日常。 日常にすら殺意が溶け込む、先の見えない霧の時代。 殺人鬼の牽制の為に動画データを落とし込んでいるPCのモニターの中で、血煙と共に伝説的殺人鬼が牙を見せて獰猛に叫ぶ。 「――よお、いい朝だな。黄色い猿共!」 「お陰様で、罪姫さんは大忙しよ。パーティー会場が多すぎて困っちゃうわ」 モニターの中のジャック・ザ・リッパーに軽口を叩き、『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)はノートパソコンを操作する。 出来上がったCDを『サマータイム』雪村・有紗(BNE000537)に手渡し、準備はできたわと、罪姫はうっすら笑った。 「いやはや、まったくやれやれだね」 有紗は肩をすくめ、持ち合わせたCDラジカセにセットする。 (これから殺人鬼になる少女。穏やかな世界に引き戻してあげたいけどね……) そう、まだ少女は殺人鬼になってはいない。元の平穏の世界に戻れるのならばそれでいい。それが出来ないのであれば……。 決意を胸に見やる有紗の視線の先には大型ショッピングモール。 事件が起こるのは、間もなくだ。 チョキチョキチョキと裁ち切り音が、チョキチョキチョキと心地好くて、ジョキンと断ち切る感覚が堪らなく私は好きなのでしょう。 それが命であれば、どんな快楽を私に齎してくれるのか……? ショッピングモールは人混みでごった返し、賑やかさと煩わしさと若干の安心感を与えてくれる。 草食動物が群れで集まるように、拭いきれない不安が楽しさのスープで薄まる事を期待するように、人は人の体温を求めて人の多い場所を求める。 どうして、そこに群れを狙う狼がいないと信じることができるのか? 今まで共にいた者が狼であったと疑うことをしないのか? 仲良く寄り添って歩く父と母を見つめ、その相変わらずの仲の良さに頬を緩ませる。 私と父母が仲が悪いわけでもない、今までの顛末に若干の引け目があるが、それもこの際関係ない。 父と母を、私が殺す。私が、無惨に殺す。惨たらしく殺す。訳もなく、理由もなく。 ただ、完全なる殺人鬼になるために、少女・澤中紅葉が殺人鬼少女・澤中紅葉に成る為に。 殺すために生を受け、殺すために力を授かり、殺すために修練をしてきた。 さあ、証明をしよう。私は殺人鬼。赤と黒に魅入られた切り裂き鋏。澤中紅葉だ。 右手と左手、左右にハサミを握る。手にしっくりと馴染むそれは、私の殺意。私の衝動。容易くちょきりと命を裁ち切る、生命の惨華。 ひらりと身を翻し、手にしたハサミを引き、突き出す。 吸い込まれるように父と母を刺し貫く筈であった凶器は、不可解にも空を斬った。 ●境界線上の殺人鬼少女 ショッピングモール入口に猛スピードで横付けになったステップワゴンから、八人のリベリスタが駆け出す。 『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が先頭を切り、人ごみを縫うように駆け抜ける。 目指すは澤中紅葉と呼ばれる殺人鬼になる予定の少女。彼女の凶行を食い止める、それだけを役目とし、ドレスを翻し速度に秀でたリンシードはふわりと人ごみを駆け抜けた。 後に続くは『小さな死を呼ぶ踊り手』リル・リトル・リトル(BNE001146)、『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)、有紗と罪姫も己が役目を果たさんがためにモールを駆ける。 『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)と『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)は、一旦物陰に隠れ、火災報知機のベルを押し、幻想纏いより取り出した小麦粉を宙にぶちまける。宙に舞う小麦粉は空間に拡散し、煙のように舞い上がった。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は持ち寄った輪ゴムの束にライターで火をつけ、放り投げる。ゴムの焼ける嫌な臭いがたちまちに空間に満ち、大きくむせた。 「ごほっ、たまんねぇな。こりゃ……ごほっ」 むせながらもフツは、仲間に続くべく走り始めた。 けたたましくベルが鳴る中、外より風が吹きこんできたのは幸いか。小麦粉は煙のように巻き上げられ、異臭はたちまちモールに広がっていく。 「火事だ! 早く逃げろ!」 「火事だよぅ! 逃げてー!」 牙緑が叫び、アナスタシアが避難を呼び掛けながら、モールを駆ける。 混乱の火種は、実害となる煙と異臭を伴い瞬く間に拡散される。 人々は口々に「火事だ」と叫び、逃げ惑い、客も店員も悲鳴を上げ、慌てた様子で走り出してゆく。 人気が減った通路を走り出す牙緑を見送ると、アナスタシアは意識を凝らし、結界を張る。人の意識を寄せ付けない強固な結界。 これで暫くは火元発覚の時間を稼げるだろう。 アナスタシアは一つ頷くと、紅葉を目指し走り始めた。 紅葉の姿を確認したリンシードは更に速度を早める。 繰り出される二対のハサミの動きすらも緩慢に見える速度で、紅葉と両親の間に強引に割り込む。 ハサミの一つはチェロケースを掠め、一つは深々とリンシードを抉る。 混乱したのは紅葉の方だ、何故、父と母を抉るはずだったハサミが……関係の無い、女の子に? 殺せなかった……殺したかったモノを、コロセナカッタ……! 「……死んだと思いました?」 体を抉るハサミをものともせず、リンシードは虚ろに問う。鮮やかな水色の髪が傾げた首とさらりと流れた。 深く突き刺さった黒のハサミは血に濡れ、ドレスは裂かれた。だがしかし、人形のような少女は何事もなかったかのように、殺人鬼少女と対峙する。 非常ベルが鳴り響き、火事だと人々の叫びが波のように押し寄せる。 逃げ惑う人々の混乱の中にあっても、この一角だけは別世界のような静寂を保っていた。 「もみ……じ? あなた、何を……?」 子を気遣うは親の常。澤中夫妻はごく普通に夫婦をし、ごく普通に子供を授かり、若干のトラブルはあるものの時間が解決してくれると、娘とごく普通に接してきた夫婦だ。 彼らは間違いなく、善き夫であり、善き妻であり、善き父であり、善き母であった。 火事の報せを聞き、まず気遣ったのは娘の安否。 だが、その娘は鋭いハサミを年下の少女に突き立て、血が、血だまりが足元を染めている。 そう、まるで殺人鬼のように……その事実に動くことが出来ない夫妻の耳に、殺人鬼ジャック・ザ・リッパーの笑い声が響いた。 あの日の朝のTV放送のように、平穏を嘲笑い、甘美なる殺戮へと誘う悪魔の嘲りを込めた哄笑が空間に満ちる。 「殺人鬼だ……殺人鬼が来たぞ」 誰かが言った。 「逃げろ! 殺されるぞ!」 あの日以来、ニュースに、新聞に、ネット上に、あらゆる情報ソースに猟奇的殺人者の影が載らなかった事はない。 嗚呼、まさか、まさか、娘が殺人鬼だっただなんて……! 呆然として立ち竦む夫妻の手を引いて、有紗とフツが駆け出す。紅葉から距離をとるように、逃げるように。 「だめ! 逃がさない!」 咄嗟に振り上げたハサミ。練り上げた殺意による束縛の網を放とうとする瞬間にリンシードが体にしがみつき、罪姫が体当たりで阻止をする。 「……させない」 「くすくすくす、どうしたの? そんな瑣末な事より、罪姫さんとダンスを踊りましょう?」 リンシードが凛とした佇まいで立ち、罪姫が蠱惑的に笑う。 『なんスか、さっきから思考がぐちゃぐちゃじゃないっスか。ジャック・ザ・リッパーに惹かれる程度の殺人鬼ってこの程度のものなんスかね?』 『紅葉さんにとっての黒とは何? もう一度よく見せて戴けませんか?』 ガツンと他者の思考を叩きつけられる。 リルが半ば呆れたように言い放ち、沙希が静かに問う。 心を見透かしたような言葉に思考に、体も頭も停止する。 「大体、俺たちが何者か君も薄々わかってるはずだ。馬鹿なことを止めるんだ」 「そうだよぅ! 笑い合える未来の要因があるなら、アタシ達はあきらめないからねぃ」 駆けつけた牙緑が、アナスタシアが、包囲に加わる。 まだ彼女、澤中紅葉は誰も殺していない。 過剰とも言える殺意を周囲に発散しているが、誰も死んではいない。まだ、殺人鬼ではない。 ならば止められる。日常への道はある。そう信じてやまない言葉だ。 (ああ、成程……) 周囲を見渡し、澤中紅葉は理解する。 この状況、このシチュエーション。知り得るはずもない情報を把握し、凶行を未然に止めるだけの為にこれだけの騒動を巻き起こす存在。 (正義の味方って本当にいるのね) ああ、呆れた。ならば、私は殺人鬼として相対しなければいけない。そう、私は殺人鬼少女、澤中紅葉。未遂でも、未満でも構わない。 「良いわ、来なさい、正義の味方。貴方達を倒して、親を倒して、全ての人間を打ち倒して、私は殺人鬼としての伝説になる!」 ●少女・澤中紅葉 避難場所となっている駐車場の一角に、フツと有紗は澤中夫妻と共にいた。 失意の中の澤中夫妻に紅葉の話題に触れるのは酷だろうか? だがしかし、聞かなければいけないことも存在するのも確かであった。 「不躾な質問だとは思いますが、お子さんがあんな刃物を持つに至る理由が、何かあるのじゃないですか?」 フツは気遣い、言葉を選びつつも問いかける。 夫妻は顔を見合わせ、静かに語る。 「……刃物や殺人に対する強い憧れはなかったと思いますが……ですが、3年前に真っ青な顔で帰ってきて以来、部屋に篭もりがちになってしまって……」 そこまで続けて夫妻はお互いに視線を交わし合う。 家の事情を外に漏らすのははばかれる。だが、娘、紅葉に降りかかった問題を解決する助けになれば幸い。 そんな優しい気遣いが感じられる遣り取りだ。 3年前、おそらく澤中紅葉が革醒した時期なのだろう。 「夫と話し合った結果、見守っていようと、娘が話す事の出来ない事情ならば話すことが出来るようになるまで待っていようと……」 ああ、わかった。 有紗は理解する。若干ずれてはいるがこの人達は良い人なのだろう。娘の事を一生懸命に考えた結果の末にこの騒動だ。 (なんだかムカついてきたなぁ) 有紗はよし、と頷きモールへと踏み出す。 「おう、行くかい?」 「うん、何としても一発殴って、頭下げさせないと気が済まないね」 夫妻は顔を見合わせて、目の前にいる若者達の不思議なやり取りを見守っている。 「信用してくれるとは思えませんが、アナタ達の為、そして…あの子の為にも、ここは私達に任せて待っていて下さい。お願いします」 真摯に頭を下げ、フツと共に有紗も駆け出す。 あの優しい両親の為に、何としてもあの馬鹿娘の暴走を引き止めよう。 ショッピングモールが血煙に煙る。 間違いなく、澤中紅葉は強力なナイトクリークであった。 3年間、燻る殺意を研ぎ澄ませた技の数々は、リベリスタを強かに傷つける。 日本のハサミより放たれる殺意の黒も鮮血の赤も打ち倒すには至らず、数で勝るリベリスタは紅葉を包囲し、押さえ付けんとする。 お互いの様子を伺うような、攻防のやり取りが幾度か為され、この戦場の殺意も殺気もあまりに薄い。 そもそも、この戦いに関して言えば、リンシード以外の誰にも被害を及ぼしていない紅葉の捕縛を目的としたリベリスタ、最初からペースを狂わされ身を焦がすような殺意の狂熱の行き場を失ってしまった紅葉。 血を血で洗う闘争と扱うには、余りにも軽い。 だがそれでも、お互いに落とし所が無いが為に、血を流す。武器を振るう。 「俺には、君の目標がわからない。殺しの楽しさとかそういうのもわからない」 牙緑が虎的獠牙剣を力に任せて振るい紅葉に肉薄する。わからないなりに、精一杯の言葉を紡ぐ。わからないならば、わかり合おうとすればいいのだ。 ハサミを巧みに操り力を受け流す紅葉。 「友達や好きな人と話したり、遊んだりするほうが楽しいからな。かわいいのに、彼氏とかいなかったのか? 友達とか彼氏とか、いろんな人と遊んで、もっと笑えば良かったじゃないか!」 振りかぶって大上段、牙緑の一撃全てを受け流す事も出来ず、血飛沫が舞う。 傷による痛痒もないかの様に、紅葉は笑う。心に浮かんだ悲しみを浮かべたかのような笑顔を。 「だけれど、きっと、友達も、彼氏も、全員、殺したくなってしまう。殺してしまう」 それ故に、人と会わない様にしてきたのだ。過ぎたる殺意が人を傷つけないように。 「……私からも、いいですか?」 リンシードが訥々と説得に加わり始める。 その間にももちろん戦闘は進んでいる、リルが漆黒のオーラを叩き込み、紅葉の放つ黒い殺意をアナスタシアの脚撃が吹き散らす。 傷は沙希が瞬く間に癒して回る。 「私は、人を殺すのは楽しいです……その点では貴方と仲間かもしれません……?」 慣れない説得。思考を纏めるために、一旦言葉は止まる。 「あ、仲間は、違います。私は……それ以上に人の温かさを知りました」 手にした剣を振るうことを一旦止め、リンシードはきっと紅葉を見つめる。 「貴方は、両親に、引きこもりやらせて貰っていながら、一度も感じなったんですか?」 本当はわかっているでしょう? と、言わんばかりの視線が紅葉に注がれる。 言葉が、詰まった。 「澤中紅葉!」 怒声一喝。駆けてくる有紗は怒りも露に紅葉に詰め寄り、大剣を振るう。 二本のハサミを交差させて受け止める。舞い飛ぶ火花。膠着する剣とハサミ。 「両親の事を思って自分を卑下するならば! なんで両親をこれ以上悲しませるのさ! 自分をこれ以上貶めて、両親が喜ぶわけないでしょう!」 叩きつける言葉とは裏腹に、力を込めて押し込んでくる剣。 有紗の怒りを込めた優しさは、額面以上に優しくない。 「両親はアナタの事を心配していた! 家族のことをお互い思い合って、穏やかに生きるってのが家族ってものでしょ!」 決まれとばかりに振り抜く大剣。床を滑るように押し出された紅葉に覆い被さるように、アナスタシアが飛びかかってくる。 「あのね、子は親の宝、親は子の宝って言うよねぃ? 三人とも無事じゃないと、幸せにはなれないんだよぅ?だからさっ」 日に焼けた愛嬌のある美貌がきりりと引き締まる。 ああ、もう、何だってこの人達は……。 潤んできた瞳を悟らせないように慌てて反らす。 「ふふっ、最早cynicalなんて言ってられませんね……とても人間的で魅力的な殺人鬼少女さん、貴女にヒトデナシなんて似合いません。一緒に参りませんか?」 模倣の術を得ている沙希は紅葉の些細な心境の変化を知る。 黒のハサミより紡がれる殺意の波は、当初より強制力がかなり薄れてきている。 模倣するにも完全なる形も分からぬ程度にまで、弱ってきているのだ。心が、殺意が。棘が抜かれるように、情に絆されるようではいよいよもって殺人鬼失格だ。 「自分を見失ってしまわれたならば、我らが箱舟に参りませんか?」 天賦の活かす道もそこにあるでしょうと、沙希が笑う。 「いいっスね、それも」 同調したのは意外にもリルであった。 終始、彼女を糾弾していた口調を随分柔らかくし、紅葉に傍らに立つ。 傍らに転がる二本のハサミ、鮮血の赤と殺意の黒、その二本を大事に布に包み込む。 「元の鞘には戻れないかもしれないっスけど、リベリスタとしてその殺意に方向性を持たせれば、まだ戻れるっス……ひとりぼっちは寂しいっスからね」 ああ、もう、この人たちはっ! 「何よ、もう、このお人好し達の群れは! もうやだ恥ずかしくて死んじゃいたい!」 涙混じりに叫んだ紅葉の眼前に、降り下ろされる一本の刃。 「はいこれで、死んじゃった。殺人鬼少女澤中紅葉退治ももうお仕舞い」 きょとんと見上げる紅葉に、貴方を殺せなかったのは残念だけれど罪姫さんは優しいのよ、と冗談交じりにそう言うと罪姫は剣を幻想纏いに収納する。 「これにて一件落着ってな。紅葉の家族の絆まで守れたみたいだしよ、俺は満足だぜ」 やたら爽やかにフツが言い、リベリスタは撤収する。 とある街のショッピングモール。 その日の午後に起きた火事騒動は悪質な悪戯だと言うことで終結した。 とある未来軸では大量殺戮事件があった事も、とある親子の絆を守る戦いがあった事は、余人の知るところでは無い事である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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