●廃 死してなお、切り刻まれるのは悪夢だろうか。魂が無いとは言え、その身を砕かれ、裂かれる事は不幸と言えるだろうか。 死は安らかであるべきだ。それは人間の、死を待つ者達の願いなのかも知れない。 死は安らかであるべきだ。彼等が待つのはその先に、静かに大地へ帰る事。 ならば大地に帰れぬ者は? ここは墓場。打ち捨てられた車が並び、帰る事無き主を待つ。 彼等は身体を裂かれる事は無い。砕かれる事も、切り刻まれる事も無い。死に場所としては平穏で、死としては安らかな部類に入るだろう。 けれど、彼等が土へ帰る事は無い。 風と雨、汚れと錆に覆われて、彼等はただただ待ち続けた。 そこに力が生まれたのは、所詮はただの偶然だろう。けれど丁度良いことに、彼等は待ちくたびれていたし、待ち疲れてもいた。 動かない場所は様々で、動かせる場所も様々。しかし彼等の目的は同じだ。 錆で軋む身体をより集め、彼等は満月を背にゆっくりと立ち上がった。 ●サビの巨人 「××市郊外に、エリューション・ゴーレムが発生しました」 巨大な敵影に少しだけときめきつつ、天原和泉(nBNE000024)がそう告げる。今回の敵はエリューション化した無機物、ゴーレムと呼ばれる類だ。 「エリューションと化したのは廃車置場に並んでいた自動車が主のようです。個体数は今のところ不明なのですが……」 和泉の歯切れが悪いのも当然だろう。資料として提出された映像に映ったそれは、車の形をしていない。 「エリューション化したそれらが寄り合わさり、このような形状になったものと見られます」 どこをどうしてこうなったのか、それは巨大な人間の形をしていた。車同士がいくつ合わさろうが、こんな形状にはならないはずだが……それを為すのが革醒による力ということだろうか。 何にせよ、こんなものを放っておくわけにはいかないだろう。 「この巨大ロ……エリューション・ゴーレムはゆっくりと市街地の方へと向かっています。速やかにこのロボの進行を阻止し、破壊してください」 おいこいつ今ロボって言ったぞ。 「健闘を祈ります」 ●付帯資料 ・巨大エリューション・ゴーレム エリューション化した自動車が寄り合わさり、組み合わさってできたゴーレム。人型をしており全長は10m程。フェーズ2部分を中心にフェーズ1、そしてただの無機物板金が肉か鎧のように周りを包んでいる様子。 材質が材質だけに重い。動きは下方向への稼動以外は非常にゆっくりしているが、大きさの分1ストロークが長いので移動範囲、射程範囲はそれなりに広くなるだろう。 板金の鎧による防御力、そしてゴーレムであるゆえの状態異常の効きの悪さが予想される。 理由は不明だが、人里を目指している。 ・戦闘区域 廃車置場となっている平原。廃車地帯からただの野原へ、そしてしばらく行くと民家、市街地と街中に続いている。 民家に至るまでは、夜間の内なら外の人通りは気にしなくても良いだろう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ハニィ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月28日(水)22:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●月夜に立つ巨人 二本の足が大地を踏みしめ、巨体が月夜に聳え立つ。初めて立ったその巨人は、前後左右に何度か揺れたその後に、ゆっくりと足を進め出した。 片足を軸にして体重を支え、もう片方の足を浮かせる。地響きと共に一歩。ここでの細かいバランス取りは、足の裏についているタイヤが受け持った。 もはや車なのか何なのか不明な謎の機構、そして謎の動力。だがそれらに思いを馳せたところで意味は無いだろう。『Voice of All』ネロス・アーヴァイン(BNE002611)はそう考える。重要なのは、コレが人里を目指しているという事実だけだ。 「人に仇なすノイズは必ず排除する」 軽やかに地を蹴り、彼をはじめとする8人は並走を開始した。 夜の廃車置場に光の線が描かれ、懐中電灯の明かりがその巨体を照らし出す。 「よう、ジャジャ馬共」 桐生 武臣(BNE002824)が顔を上へ向け、軽い調子で呼びかける。圧巻、と言ったところだろうか、間近で見上げるとその巨大さは嫌でも際立つ。 「ロボとの戦いが現実になるなんて!」 同じものを目にしながら、『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)が歓声を上げた。厳密にはロボではなく、ゴーレムの類なのだが。 「アニメなり、映画でそんな感じのものが昔有りましたか」 気持ちはわからないでもない。『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が納得したように頷く。 一方、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)はその目を凝らし、敵の構造を見通していた。武臣が『ジャジャ馬共』と言ったように、情報によればこれは複数のエリューションの集合体なのだ。その構成が理解できれば良いのだが……。 「まさしく一心同体ってとこか。連中に心が宿るかは知らないが」 車の原型を大きく残している箇所は分かるが、それ以外となると複雑すぎて理解できないと言うのが現実だ。設計図に起こして専門家に見せても、こんなもの理解できるかどうか。 「ねぇコックピットは? コックピットはどこ!?」 勢い込んで影継に尋ねたのは『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)だ。 「……大体見たまんまだ」 実際、車の運転席の原型を残している部分は何箇所か目に付く。影継が呆れ気味にそれらの方を指差すと、終はその目を輝かせた。 「……深夜のドライブってやつだ……行こうぜ?」 大見得を切る武臣と同様に、リベリスタ達はそれぞれに武器を手に取った。 敵とのサイズの差は比べるべくも無いだろう。だが、彼等が臆するはずも無い。 ●巨人の攻略 仲間達がタイミングを計る間に、『1年3組26番』山科・圭介(BNE002774)と共に明菜がオートキュアーを撒いていく。回復手段に乏しい今回のメンバーにとっては貴重な一手だ。 だが、この巨体を相手にそれがどれだけの効果があるかは分からない。踏み出された右足はゆっくりと、おぼつかない様子で前へ進む。だが『ゆっくりとした歩み』と感じるのは対象が人型を取っている故の錯覚だろう。実際の所、その金属の塊は走るリベリスタをそのまま置いていきかねない勢いで動いている。 地鳴りに近い音を立て、前に出た右足にゴーレムの体重が移る。 「今だ!」 それこそが、彼等の待っていたタイミング。距離を取った位置から飛翔した孝平の刃が食い込み、影継の振るった鎚が足首へと突き刺さる。リベリスタ達の集中攻撃に、金属と錆が血肉のように飛び散った。 ようやく敵の存在を認識したのか、ゴーレムが一時歩みを止める。 その間隙を縫い、駆け上がる影が一つ。速さを身上とする『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が面接着を駆使し、ゴーレムの左足に取り付いたのだ。 「遅イナ」 異物を排除しようと身を捩るゴーレムを意にも介さず、リュミエールは左足から腰へ、腰から背中へと駆け上がる。そしてそこから手にしたワイヤーを放り、ゴーレムの首へと引っ掛けた。 「ホラヨー」 垂らされたワイヤーは要するに下からの登坂ルートとなる。 「アフロ! いっきまーす! (>▽<)」 頭に懐中電灯つきのアフロを乗っけた終が早速それに飛びつき、上を目指す。 足元では明菜がバールのようなものを鉄板に打ち込み、力ずくでそれを引き剥がしていた。板金から露出した機械部分に、すぐさま攻撃が集中する。ネロスの斬撃が甲高い金属音を響かせ、圭介のピンポイントが『骨』を抉る。 これだけの打撃を加えてもゴーレムはびくともしない。だが反応が薄いとは言えダメージは蓄積しているはずだ。 そんな中、身を捩っていたゴーレムが身体に沿って腕を振る。人間と同じように見える関節が、人間ではあり得ない角度まで稼動。それはつまり、リュミエールの居る『背中』が死角でも何でもないという事を意味していた。 胸元のゴミを払うような動きが前後逆に展開され、リュミエールがそこから弾き落とされる。同時に彼女のかけたワイヤーも強く揺さぶられ、終とアフロが宙を舞った。 落下制御の出来るリュミエールはもとより、そう高くまで至っていなかった終もダメージ自体は軽微だ。 しかし。 「……ちょっと皆、上見てー」 それに最初に気付いた明奈が、強張った声で警句を飛ばす。 高く高く振り上げられた拳は、身長差も相まって遥か遠くに見えた。そして、急速に降ってきたそれは、めいめいの方向に飛び退いたリベリスタ達の後ろに着弾する。 それは爆発音に似ていた。文字通り地面が穿たれ、人間一人を巻き込むには十分な大きさのクレーターが出来上がる。 最初からわかってはいたことだが、浮かびかけた「押し切れるか」という甘い期待はその一撃で吹き飛んだ。 ●力比べ 再度踏み出された一歩が、リベリスタ達の間を抜ける。 だが、まだだ。ゴーレムの進路は変わっていない。今でこそ周りは廃車が並ぶ程度だが、進む先には民家が、そして市街地がある。 もう一度面接着で取り付き、リュミエールがさらにワイヤーをかける。本数が増え、互いに絡むそれらは他の者にとって良い足場になるだろう。 「ワタシ、作るより壊す方が得意なんだよねー」 ワイヤーをもとに這い上がった明菜が、板金の目立つ箇所にバールを打ち込む。やる事は下に居たときと同じ、引き剥がして丸裸にするのだ。元はボンネットだった金属板が剥がれ、錆だらけのそれが下に落ちる。 降ってきたそれを避けながら終が巨体の正面に回り、ゴーレムの気を引くように攻撃。振り払うよりも目の前の敵を押し潰す事を優先したか、ゴーレムはそれに釣られたようだ。 「俺の太刀は、鋼を裂いて唸る刃金……」 その間に、跳躍したネロスがゴーレムの身体に着地し、明菜が剥き出しにした脚部に刃の痕を刻みつける。 「この金切り音が、お前らへの弔いの哀歌だ」 返す刀でもう一太刀。さらにはメガクラッシュで脛のパーツを吹っ飛ばしていた影継と、バールを手にした武臣が内側へと攻撃を叩き込む。 揺らぐ右足は度重なる攻撃についに限界を迎え、崩壊を始めた。 元々危うかったバランスを完全に崩し、ゴーレムが両手をついて地面に倒れる。バラバラと崩れる細かなパーツが下にいたリベリスタ達を襲い、彼等にその場を飛び退かせた。 他の部分ならいざ知らず、脚部を失ったのははっきり言って致命的だ。うずくまるような姿勢を取ったゴーレムは、失った部位の『代替』を開始した。 「変形? 変形するの!?」 終の言葉を肯定するように、軋んだ音を立てて金属が蠢く。それは変形と言うような派手さは無い、どこか不思議な光景だった。流動的に金属部品が動き、絡み合いながら全体の形を変えていく。構造変化に従い剥がれ落ちた錆が、赤い風となって舞い上がる。 機械屋が見たら卒倒するか感動にむせび泣きそうな絵だが、リベリスタ達はそこまで悠長ではない。 これを絶好の機会とし、孝平の幻影を纏った刃が躍る。移動中の部品を斬撃が削り取り、同様に始まった集中攻撃がダメージを蓄積させていく。 「元が金属なら、電気も流れやすいだろ!」 電撃を伴う影継の鎚は、内部に残っていた燃料に引火したのか小規模な爆発を生じさせた。 しかしそれでもなお、揺らぎながらも巨体は姿を取り戻す。サイズダウンしながらも、それは確かに人の形をしていた。 再度立ち上がったゴーレムは組成変化で不要となった錆塗れの部品を振り落とす。廃財の雨が連続攻撃を加えていた者達を打ちつけるが……上に居る者達にそれは絶好の隙となる。リュミエールとネロスはなおも攻撃を続け、ゴーレムの上体を傾がせた。 バランスを取るように両足を動かし、ゴーレムは取り付いた彼等を払い落とすべく動く。だがリュミエールも二の轍を踏むような事はしない。面接着と落下制御で縦横無尽に動き回るリュミエールに撹乱され、ゴーレムの腕はただただ空を切った。 しかし、崩れたバランスと次の一歩が、足元で戦うリベリスタ達の顔色を変える。 ゴーレムが目指す先に変化は無い。だが微妙にズレた進行方向は、近くまで迫っていた民家を直撃するコースに変わってしまった。 足の甲に乗った影継が移動中のそれにギガクラッシュを打ち込むが、それでどうにかなる様子は無い。 「人里には絶対に行かせない!」 さらに走りこんだ明菜がバールを地に沿うように振るう。 「大人しくクズ鉄に戻りやがれっ!」 破裂音と共にゴーレムの足のタイヤが弾け、姿勢制御に狂いを生ませる。 そして続く武臣は、踏み出される足の前に立った。 「そっちにいったらコースアウトだぜ……?」 ブロック。いくら人外の力を得たリベリスタとは言え、この巨体との力比べなど無茶な話だ。 武臣の身を挺した行動は、歩みを少し遅らせる程度の効果しかない。だが積み重ねられた彼等の行動は、結果的に巨体がデッドラインを割ることを阻止するに至った。 ●小人の勝利 足元の状況を他所に、攻撃を加えつつも終は圭介に手伝われつつも上へと向かっていた。勿論目指すものは頂点。男ならば当然の事だ。 多分。 何にせよその努力はついに実る事となる。 登頂成功! そして目指すコックピットもとい運転席もその場所にあった。ここで終がやる事、いや尋ねるべき事は一つしかなかった。 「あなたと合体s……じゃなくて、オレを君の操縦士にしてくれない(>▽<)?」 ……。 「え? やっぱダメ?」 高く高く振り上げられた拳を目にし、終が首を傾げる。やっぱりダメらしい。予想通りと言えば予想通りの回答を受け、終は何故か満面の笑みで頭部から飛び降りた。 振り下ろされる超重量の一撃。重力任せのそれは着弾まで瞬く間も無かった。 「失礼しましたー☆」 それは集合体であるが故の『事故』。間一髪で宙を舞う終の後ろで、ゴーレムは自らの拳を以って頭部を叩き潰していた。 ……自分で自分を殴るなど間抜けもいいところだ。しかしあのゴーレムは複数のエリューションの集合体。部位別に個体が違うのが災いしたか―― 影継のそんな分析は、付近にいた武臣の言葉で遮られる。 「おい、倒れるぞ!?」 「マジかよ……!」 頭上から降り注ぐ巨大な金属部品。喰らったらただでは済まなそうなそれから慌てて、というか命懸けで走るリベリスタ達。 落下し、地面に突き刺さる車が一段落した後、ゴーレムの巨体が地響き立てて横たわった。 ●彼等の目的 盛大な土煙が一段落し、錆混じりの風が吹く。 「旅に病んで 夢は枯野を かけめぐる」 ぶちまけられた廃材の山と化したエリューション・ゴーレムの間を歩きつつ、孝平が呟く。 最早動く部分は無いようだ。自らへの鉄槌の衝撃と、地面への衝撃で各部位ともに力尽きたか。 「彼らは朽ちてもなお走ることを求めたのでしょうか」 事態はこれで解決。犠牲者も無く街はおそらく救われた。……だが、このエリューションの目的が分からない。 「このロボもどきさんは何を望んで人里を目指したんだろね?」 人里で何がしたかったのか。どうなっていたのか。見回りを終えた終は、疑問符を浮かべつつ形の残っていたシートに腰を落ち着ける。天井も窓も扉も無い。オープンカーにしても少々やりすぎだ。 「走り足りなかったんだろうさ」 終が腰掛けたのは助手席側。運転席側には先客が居た。ハンドルに手を置き体を休めていたのは、先程まで思い切り身体を張っていた武臣だ。そんな彼の言葉を受け、明菜が車体を軽く小突く。 「んー、リサイクルとかしたら浮かばれるかな、こいつら」 リサイクル業者が丁度良いだろうか。もしくはアークお抱えの研究室なら、何らかの処理を思いつくかも知れない。そんな事を考えつつ、彼女は携帯を手に取った。 「随分スリリングなドライブだったがよ……悪かなかった」 ダッシュボードを軽く撫で、埃っぽいシートにもたれこんだ武臣がタバコを取り出す。 カチリ、と。軽い音が車内に響いた。音の出所を探った終は、右下方向にそれを見つける。 「……シガーライター?」 エリューションとして死した今、動力など最早ないはず。けれど引き抜いたそれは、しっかりと赤い熱を湛えていた。 「……ああ」 「そーいうこと?」 まだ走れる。まだ動ける。棄てられた彼等のそうした意思は、乗る人間が居て初めて意味を持つ。 きっと、焦がれていたのだろう。人を模して、人の居場所を目指すほどに。 「……生まれ変わったらよ、今度はもう少し安全運転でドライブしようぜ」 紫煙がゆっくりと立ち上る。天井のあるべき場所を抜けて、夜空に向かって伸びたそれは、秋の緩やかな風に吹かれて散った。 後に残るのは、明菜の明るい声色。 「――だから和泉から宣伝しといてよ、今なら生きの良い車の部品があるって!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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