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エンド・ナイト・ロスト

●二人の世界
 雨上がりの夜、湿気を帯びた空気が周囲を漂う。
 悲しげに聳える、古びた洋館。
 今宵、いつも閉ざされているその門は開け放たれていた。

 奔放に生い茂る草々で荒れかけた庭の真ん中で、一人の少女が踊る。
 腐りかけた手足に、色味の悪い肌から露出した骨――それはアンデッドの姿。
 少女の瞳には、恋人に手を取られ、共に踊る光景が映ったまま。
 部屋のベッドで彼を看取った事も、その骸を自らの手で庭に埋葬した事も、今の彼女は覚えていない。
 けれどふとした瞬間、現実に引き戻されるその時に、心を苦痛が締め付ける。
 彼の姿が風にかき消され、あとに残るのは荒れた景色と暗闇ばかり。
(そうだわ、あの人は私の目の前で――いいえ!違う!)
 彼のいない現実なんて、私は知らない。そう、私は何も見ていない……
 しばしの時間が流れ、現を拒否した瞳の先に、また彼の姿が現れた。
「ああ、やっぱり。貴方はずっと、ここにいるのよね」
 彼女は笑顔を浮かべて、伸べられた手を取る。
 その、繰り返し。
 愛しい人を失った事実を消し去り夢の中で幸せなひと時を過ごしては、やがて逃れられない現実を思い知り、心はそのたび痛みに引き裂かれる。
 それでもアンデッドの歪んだ生は、彼女に終焉を与えてくれない。

 草が踏まれて、かさりと鳴った。それに気付いた彼女は動きを止め、音の鳴る方へ視線を走らせる。
 目が合った。
 明らかな異様を持つ少女の姿に、侵入者たる女は思わず身を強張らせる。
「あ、ああ……、……っ!?」
 小さく風を切る音、次いで聞こえたのは、ごぽりと水の湧き上がる様な音。
 女の言葉は声になる前に、裂かれた喉から血となって溢れ出した。
 それは全く反射的な行動だった。少女の右手がナイフの様に鋭く変形し、女の喉を切り裂いたのだ。
 何も知らない憐れな――少女にとっては無粋な――侵入者は、自分の身に起こった事を理解する前に崩れ落ち、命を散らせた。
「邪魔……しないで」
 二人だけの世界に、他の誰も要らない。
 血染めのスカートの裾を靡かせ、いつ果てるともしれない哀しみも、つかの間の喜びも抱き込んで。
 彼女は踊り続ける……。

●囚われた心を
「そんな光景が視えたの」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は俯き加減に口を開いた。
 虚妄と踊る少女。
 それだけでは決して害を為すようなものではないけれど、他人が彼女の視界に映り込んだ時、アンデッドの少女は、二人の世界に要らない侵入者を排除しようと動く。
 住宅地にひっそりと聳える、陰鬱さを帯びた屋敷は、近隣住人に幽霊屋敷だと囁かれているらしい。
 仕事帰りの女性が偶然屋敷の前を通る時、開かれた門と踊る人影に興味をそそられ、覗き込む。
 そして死人の少女と目が合って……喉を、とイヴは反復する。
 庭には同じくアンデッドである鳥と犬も潜んでおり、侵入者の数が多ければ、その配下達も現れるだろう。
 現在、少女のフェーズは2。
 このままだと彼女は人を襲い続けて、もっと厄介な存在になってしまうかも知れない。
「それに今なら、襲われていた女性がアンデッドに遭遇する前に、倒すことが出来るの」
 だから犠牲者が出る前に。
「お願いできる?」
 イヴは小首を傾げるように、周囲で話を聞くリベリスタ達の顔を眺めた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:紅遥紗羽  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月25日(日)22:44
お初にお目に掛かります、紅遥紗羽と申します。
初シナリオをお届け致します。

■舞台
時間は夜。
庭で唯一開けた場所、周囲にぐるりと石畳が敷かれた噴水の前で、
少女アンデッドが踊っています。
周囲が暗いので、明かりがあった方が良いでしょう。
庭に茂る草は荒れていますが、おおよそ膝下辺りまでの長さなので、
視界を遮るほどではありません。
雨上がりで石畳の上は滑りやすく、庭の土もぬかるんでおり、若干動きづらくなっています。

■敵情報
少女は恋人との思い出の残る屋敷に固執しており、配下達は少女に付き従うので、
逃亡の心配はありません。
3体とも連携を取って行動します。

<少女>
フェーズ2。
黒髪ロング、やや古風なワンピース姿。
生前はなかなかの美少女だったようで、
アンデッドとなった今もその面影を残しています。

手をナイフ状に変形させ斬りつけてきます。
近接、単体攻撃。状態異常:[出血][毒]

超音波の如き高音の歌声で、敵の動きを鈍らせます。
遠距離、範囲攻撃。状態異常:[麻痺]

<配下>
各フェーズ1。
少女が人間だった頃、屋敷で飼っていたペットです。
どちらも主を守ろうと動き、
もし自分達より先に主が倒されても、最後まで戦い続けます。
普段は物陰に潜んでおり、主人の危険を悟ると飛び出して来ます。
なお、この際の不意打ちをまともに受けると、クリティカル率が高まります。

・犬
動きが素早いです。
噛みつきによる近接、単体攻撃。状態異常:[出血]

・鳥
飛び回っている為、近接攻撃を当てるのは困難です。
衝撃波を放つ遠距離、範囲攻撃。
翼を広げ癒しの風を起こす遠距離、味方全体回復、BS回復付き。

■成功条件
少女アンデッド、鳥、犬の討伐


どのアンデッドも悪意は持っていませんが、
人へ危害を加えることとなる為に、倒されるべき存在となりました。
多少後味の悪い結果になるか、或いは心情寄りになるか、
行く末は皆様のプレイング次第です。
それでは、ご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
クロスイージス
ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)
プロアデプト
ウルザ・イース(BNE002218)
ナイトクリーク
瀬川 和希(BNE002243)
デュランダル
神守 零六(BNE002500)
デュランダル
ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)
ナイトクリーク
ジル・サニースカイ(BNE002960)

●夜の始まり
 雨上がりの風は肌寒く、湿潤な空気を帯びてしっとりと、静けさに沈む夜。
 古びた屋敷の周囲へ集う人影がまばらに、幾人か。
 静寂は密かに、緊張をはらんだものへと変化しつつあった。
 そうとは知る由も無いのだろう、荒廃した庭の中で踊る人影を、彼ら――アンデッド討伐の命を受けたリベリスタ達が、半開きの門から垣間見ていた。

「月明かりの下ダンスとは洒落ているが、実際は上品な舞踏会ならぬ血を血で洗う武闘会だから怖いもんだ」
 いかにも重厚そうな大剣を手に、『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610) が口を開く。
 思い出を大事にしたい気持ちを分からないでもないけれど、かと言って人を無差別に殺してしまうのはいただけない。
「へぇ?洒落たこと言うじゃない。さってと、ドリーム突入中のとこお邪魔しまーっす」
 作戦は突入、交戦、勝利!のシンプルプランで突き進む『スカーレットアイの小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960) が、勢いよく門を開け放つ。
 準備した靴のおかげか、足場は良好とはいかないけれど幾分ましだ。
 そのまま歩を進める彼女等に続き、ひそかに伝達処理を高めた『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218) が門の中へと足を踏み入れる。
「やあ、初めまして。アンデッド少女さん」
 ――刹那、ひやりとした視線がリベリスタ達を射抜く。
 それが死人の少女だけのものでないと感じるのは、庭の何処かに潜む、他の殺気が伝わってくるから。

「エリューションっつーのはな、存在だけでも罪なんだよ」と武器を構える『人間魚雷』神守 零六(BNE002500) 。
 ましてや人に危害を加えるなど、尚更。
『ライトバイザー』瀬川 和希(BNE002243) は腰にランプを携え、アンデッドの少女を見据える。
(オレは別に、結末なんてどうだっていいんだ)
 けれど、放っておいて騒ぎになるのも神秘が漏洩するのも避けなくちゃいけない。そう言い聞かせるように。
 スパイク靴を踏みしめて、『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309) は奇襲に備え、さり気なく周囲を警戒する。
(彼女の望みは殺戮ではなく、ただ彼と共に舞いたいだけ……)
 その気持ちは大事にしてあげたくて。
 揺れる真紅のマントに金髪が良く映える。
『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635) は彼女の想いを貴いと。忘れ得ぬ事を大切だと感じる。それ故に今、此処に立っている。
「貴方の大切な人を想う気持ちが人々を、世界を害すと言うのであれば。私達はそれを阻まない訳にはいかないので、ありますよ」
 二刀の剣を振り抜きながら、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644) は思う。
 絆は時として、途轍もなく強い力を発揮し得るものなのだと。
「死後、眠りさえ訪れさせず人間としての在り方を歪めるのは彼女の恋人とて本望ではあるまい……せめて、人間として彼女を眠らせてやろう」
 それぞれ思惑はあれど、目的はひとつ。
 眠れぬ夜の死者達を、確かな眠りに誘う為に。

●傷跡
「誰……何をしに来たの?此処は私とあの人の、大事な場所よ……!」
 叫んだ少女は背まで伸ばされた黒髪に、やや古めかしいチェック柄のワンピース姿。
 生前は端正な顔立ちだったのだろう、今もその面影が残し、首元に揺れるのは、色がくすんで仕舞っているけれど、銀鎖のネックレスだろうか。
 邪魔をしないで、と言うが早いか少女の体が動く。
 異形の腕を構えようとするが、敵の数が多いのを見て取ったのか近付きはせず、その場で歌い始める。
 狂乱の歌を。
「――ッ」
 空気を震わせる超音波の如き音律に、ラインハルトが軍帽を深く嵌め直し、盾を構えて耐える。
 音の波が途絶えた間に、能力による集中を高めていく。

 やがて庭の物陰で動く何者かの気配も、彼等は見逃しはしない。
 闘気を湛えたディートリッヒの研ぎ澄まされた神経が、
「危ないっ!」
 少女に対峙し、前線に立っていたウルザの身を庇い、ぬかるんだ土に足を取られそうになるのを堪え、不意打ちを狙った鳥の衝撃波を真っ向から大剣で受け止めた。
 猛虎の如き瞳が敵を見据え、受けた衝撃を振り払う。
 不意打ちを無効とするディートリッヒの能力により、鳥の目論見は外れた様子。
 ウルザが礼を伝えれば、気にするな、あいつは厄介な奴だから早めに倒さんとな、と返された言葉。
 素直に頷いて、フライエンジェの少年はフワリと浮き上がり、飛行状態に移る。
 狙いは鳥、その翼。暗視で視界も問題無く。
 そして彼の攻撃精度は、飛行や部位攻撃のデメリットを負って尚、高い。
 ガントレットの銃弾は鳥の羽根を穿つ。まだ翼は墜とせないけれど、それも時間の問題のように思われた。

 一方。アンデッタも彼女の集音能力により、暗闇で動く従属の姿を捉えていた。
 潜んでいた敵は2体、うち1体がこちらに、いる。思わず叫ぶ。
「……もう1匹は、そこ!」
 跳び掛かる犬に狙われたのは、先程アンデッドの少女から受けた攻撃で麻痺を防ぎきれなかった和希。
 危ない!そう叫んだ墓守の少女は、彼を庇い、守る。
 クリティカルを回避しながらも、攻撃の手は防ぎきれず、爪に裂かれた腕から流れた血が彼女の包帯を緋色に染めた。
「ごめん、ありがとう。さて、お返しだ……やっちゃるか!」
 体の麻痺がまだ癒えないけれど、攻撃に支障は無いと、アンデッタと犬の間に立った和希は両対の ジャマダハルを操り、破滅のオーラで犬を狙い撃つ。
「アナタは鳥の方をお願いね?」アンデッタを促しながら、ジルは援護の影を纏い、ダガーを犬目掛けて振り下ろす。
 致命傷を狙いながら、着実にダメージを与えていく。


 零六の熱量を込めた一閃が少女を吹き飛ばし、配下から引き離す。
 血を流したままの腕へ広がる痛みに耐える、拓真の双剣が、少女の腕めがけ撃ちこまれ、幾重にも傷を刻む。
 震えた風が静まるよりも早く、続けざまに零六の『Desperado “ Form Bastion ”』が振り下ろされる。
 少女は剣で受けた傷跡に苦痛は見せず、ナイフの如き腕で攻撃を振り払い、奏でる歌声が広くダメージを与えて行く。
 出血に加え麻痺を受け、疎ましくも感じたその時に、後方からラインハルトが齎した柔らかな光が、状態異常を癒し体を軽くしてくれた。
 自陣に体力の回復スキルが無いのがいささか辛い。
 対する少女と犬は何とか飛翔を続ける鳥の癒しを受けて、まだ持ち堪えている。
 戦闘が長引けば、回復手のある敵側が有利か。しかしそれも、鳥を撃ち落とすまで。
「私達はこの世界の防衛機構。世界を壊す想いに、今こそ終焉を」
 ラインハルトが放つ魔力の弾が輝き、鳥を穿つ。
 ――彼のお墓を知らない?
 アンデッタは少女のペット達へ問い掛けながら、鴉の式符で鳥を狙う。答えは返らない。
 空中をあちらこちらへ飛び回られ、狙いが定まらないのを、
「猿の手よ、僕の鴉をもっと速く舞わせて!」
 自らの武器に願いを捧げれば、空を舞う式符の力が増していく。
 翼を広げ羽ばたこうとする鳥の姿を、鴉が射抜いた――怒りも与えて。
 よろめいた鳥の傷跡にディートリッヒの真空刃が傷を重ねる。
 これで相当堪えたはず。
 ウルザの齎す聖なる光が、庭全体を包み込んだ。

●迷える心
 翼の墜ちる音がした。羽ばたきはもう、聞こえない。
 仲間の死を悟ったか、犬が咆哮する。
 ジルのダガーが黒々しく光り、放たれるのは闇のオーラ。懐中電灯の明かりに照らされる犬の姿目がけて。
 身を抉るが如く、重い一撃を与える。
 ラインハルトの軍刀が、叩きつけるように振り下ろされ、深く傷を抉る。
 和希がジャマダハル『ザイフリート』を操り、死の爆弾を植え付けては傷を増やさせている。
 何度繰り返した攻防か、彼等の服も自らの血に染まりつつあった。
「ハリネズミみたいにしてあげる!」
 少女も巻き込める場所にいる事を確認し、軽やかにステップを踏むジルが、ダガーを乱舞させる。
 出血を伴う切り裂き。
 回復手を失い、2対1の戦いを強いられていた犬の体力は、続く攻撃に耐えられず。
 ギャオウ、と発する鳴き声、それが最後。

 愛鳥に続き、くずおれた忠犬の姿に、思わず少女が嗚呼、と嘆き声を上げる。
「私とあの人との時間を邪魔して、この子達も痛めつけて。なぜ私の大事なものを壊して仕舞うの……?」
 悲痛な声。
 流されまいと、和希の武器を握る手に力が籠もる。
「なぜ?あんたがこうして他人を殺めようとするからだよっ。あんたが好きになったヤツはもういない、死んだんだ。それに……あんたも」
 わからない。
 頭を降る少女の手が変形していく、それはまるで鋭利なナイフ。
 拓真に続き、己の前に立ちふさがる零六の胴を切り裂いて、血を迸らせる。
 大丈夫かと、黒衣の青年が隣へ言葉を掛ける前に、これぐらい何でもねぇ、と声が返った。
「私が私の世界を守ろうとして、何がいけないの?」
 悲しい程に噛み合わない。
「あァ、悲しいか?だが安心しな、すぐに愛し人の所に送ってやるよ。泣いて感謝しても良いんだぜ、ヒャハハハッ!」
 いかにも無粋、と目で語る死人の娘は、悪しざまに罵る零六に蛾眉をひそめ、振り下ろされた刃を受け止める。
「此処にはもう、“彼”は居ないのでありますよ」
 更に盾の少女が訴えかける。
 わからないわ。死人の少女が動揺を見せ、手当たり次第に振り回したナイフの切っ先がラインハルトの肌を裂く。
 痛みにきゅっと唇を噛んで、それでも少女へ語りかける。
 ――貴女の想いは、誰にも恥じる事のない本物だから。

「思い出せ、彼はもう居ない!君は、それを知っているだろう……!」
 剣の一閃と共に拓真が突きつける、その現実を、少女は拒絶する。
 先程庭を包んだ光で、攻撃も回避も精度がかなり鈍らされた彼女は剣戟を避け切れない。
 朽ちた皮膚から血が流れ出て、足元の荒れた雑草を朱の飛沫で染める。
「やめて、もうこれ以上私達の思い出を踏み荒らさないで……!」
 ――思い出?いつから?
 拓真がハッとした表情で目の前のアンデッドを見る。少女の瞳が揺れた、そう思えた。
 その姿に、彼が今しかないと、少女の眼前に或るものを差し出す。
 少女の目が見開かれる。
 それは細い銀鎖のブレスレット。
 皆と集う前、昼間の間に、恋人達の思い出の品を探していたのだ。
 屋敷に立ち入った非礼を詫びて、彼は続ける。
「本当に彼を愛しているというのなら、思い出してやれ!……彼の、君に告げた言葉も愛情も最期も、全てだ……!」

「……、……!そう、私もあの人も、もう……。さっき、感謝と言ったのね。そうね、感謝――してるわ、今」
 少女の心に訴えかけようとする声、憫笑する声、叱咤する声。
 そのいずれもが、対敵した時から娘の耳目を震わせ、心を穿ち、虚妄の障壁を削りながら、徐々に正気を取り戻させていった。
 優しさは心に届いただろう。酷な言葉も現実へ引き戻すには十分だっただろう。
「漸く分かったかい?君の愛しい人はもう、ここには居ないんだよ」
 ウルザの罠が投擲され、少女の身を絡め取る。
「そうだよ、だから一緒になっていいんだ。あんたたちは!」
 やりようの無い思いを湛えて、和希の投げたオーラの弾が少女の体で爆ぜる。
 アンデッドの少女はもう、あからさまに抵抗しようとはしなかった。それは麻痺の為なのか、あるいは彼女の意思だったのか。
 どちらにしても、自然の摂理に抗い生き永らえていたアンデッドの命の灯は、削られ、抉られ、もう僅か残るのみだ。
 ウルザは捕縛の手を緩めはしなかった。いま手を抜いて、何になろう。

 ラインハルトの軍刀が煌めく。
 迷える少女と恋人が、もう一度何処かで出逢えるようにと、願う。
「囚われるのは、終わりにしましょう」
 きっと、彼も待ち草臥れているだろうから。
「そうね……貴方達が、終わらせてくれるのかしら」
 それも悪くないわ。
 彼女の瞳は目礼した後、どこか遠く、一点を見つめていた。
(そこに彼がいるんだね。君にはちゃんと見えているんだね)
 確信はないけれど、アンデッタにはそう感じられた。
 真紅のマントを翻す少女の手で、迷いなく心臓を貫く一刃。血を溢れさせながら、アンデッドの娘が今度こそ、死人へと還っていく。
 終焉さえも受け容れた、そんな少女の瞳は、虚ろから明るさを増した様に思えた。
“ありがとう”と。
 風に流れていく声は、木々のざわめきがそう聞こえたのか、或いは――。


●物語の終端に
「事が済んだんだ。せめて恋人達と一緒に眠らせてやりたい」
「ハッ正気か?こんな敵性エリューション、弔ってやる義理も道理も……」
 メタルフレームの青年の問い掛けには答えず、ただ拓真は金髪の髪を靡かせる少女を目で示した。
 視線の先で瞑目するコーポの長を一瞥し、零六の舌打ちが鳴る。上司の前で仲間と争うほど、組織を理解していない訳では無い。好きにしろ。

 少女が見つめ、手を差し伸べていた場所。
 そこが彼の埋葬された場所ではないかと示す墓守の少女。
 生い茂る雑草をかき分けながら探ってみれば、墓碑を模したのか小さな岩が一つ、そしてささやかな花畑のように白い花が彩る一帯が見つかった。
「きっとこれが、彼氏の兄ちゃんの墓だろうな」
 ディートリッヒが呟く。
 名前は刻まれていない。思い返せば、少女の名も知らなかった。けれど片方だけ綴るよりは、残す名が無くとも二人、揃いの方が良いだろう。
 ランプを傍らに置き、ラインハルトが祈りを捧げる。
 どうか彼女の終端が、幸福な始まりであります様に。そう願うからこそ、全力で戦った。
 少女達の隣にペットのお墓も作ってあげながら、アンデッタが想像を巡らせるのは、生前の少女らの姿。
「見たかったな、彼と彼女の踊り。綺麗だったんだろうな……」
 共に過ごす日々が満ち足りていた分、喪失が齎した心の痛みはひどく少女を苦しめただろう。
 これで、長く辛い虚妄の日々もお終いに。
 今は手に手を取って、何処かで踊っているだろうか。

 お先に失礼っ、とジルは止めてあったスクーターへひらりと飛び乗る。最近新調したばかりだとか。
 風を切って駆けて行く彼女を見送りながら、残るリベリスタ達は夜道を辿り、帰途に着く。
 いつの間にか、ぽたりぽたりと降る水滴が地面を湿らせ始めていた。
 一瞬、少女の涙かとも見紛うたけれど――
「……いや、雨だ」
「本降りになる前に、帰ろう」
 拓真とディートリッヒに促され、次第に降り注ぎ始める雨粒を背に、屋敷を後にする。
 深夜静かに降る雨は、溢れた血も、哀しみでさえも洗い流すように。
 庭に咲く花々へ水の恵みを与え噴水を満たし、街の空気を潤していった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様、お疲れ様でした!
内容によっては敵を倒して終わり、な味気ないシナリオになる可能性もありましたが、
NPCへの呼び掛け、戦闘後のご対応等で、予想以上にストーリーが膨らみました。
お気持ちを添えて頂きありがとうございました。
戦闘ではHP回復無しという状況ではありましたが、早々に鳥を倒せたのが功を奏したと思います。

楽しんで頂ければ幸いです。
ご参加誠にありがとうございました。