●朱色の魔女 その噂を聞いたのがいつだったかは、もう思い出せない。でも恐らく当時の私は、気にも留めていなかったはずだ。 それが、受験に失敗して彼氏にフラれ、何もかもがうまくいかなくなり……気がつくと立っていたのは噂に聞いた、あの場所。 『あら、いらっしゃい……あなたも、願いを叶えに来たのね?』 出迎えたのは真っ黒なドレスを身に纏った、声からして恐らくは女の人。頭を覆った同じく真っ黒なフードのせいで口元しか見えなかったけれど、鮮やかな赤に彩られた唇は色っぽくて、動く度に目で追ってしまった。 周囲には私を取り囲むように、数え切れないほどのかがり火が並んでいる。薪の爆ぜる音。どこからともなく響く、叫ぶような唸るような声。火の熱にあてられたせいか、頭がくらくらする。でも、時折鳴る鈴の音で一気に意識が呼び戻される。 『さ、輪に入って……』 そんな状態がどれだけ続いたか、耳元で囁くようにあの女の人の声がした。 言われるがままに、側にいた名も知らない誰かと手を繋いで輪を作る。多分、周りの人はみんな女性だったと思う。 『さあ、祈りなさい。貴女達の思いが強ければ強いほど、願いは輝きを増します……』 その声は静かに、深く頭に染み渡ってゆく。そして私は瞼を閉じて、祈る。 成績がよくなりますように。 素敵な彼氏ができますように。 うまく生きられますように。 そうして、どれぐらいの時間が過ぎただろう。 ――暖かい。 そう感じて瞼を開けると、すぐそばに赤い炎が見えた。けれど何故か怖くはない。 そして、それが自分から出ているものだと気付いた時には何もかもが炎に包まれていた。 『……貴女の願いは届きましたよ』 最後に、そんな声が聞こえたような気がした。 崩れ落ちる黒い塊。 無残な姿になった彼女達のそばで佇む黒衣の女の頬を、涙のように一筋の血が伝う。 一陣の風にあおられたフードから覗く、本来眼があるべき場所には、燃え盛る炎の塊があった。 ●願いを喰らうモノ アーク本部のブリーフィングルームに幾人かの姿があった。彼らはリベリスタと呼ばれる、特別な力を持つ者達である。 「集まったか。それじゃ、始めよう」 青白い光を放つスクリーンに背を向けていた褐色肌の男が静かに言葉を紡ぎ始める。逆光で表情はうかがえないが、リベリスタ達を見るその力強い双眸が彼もまた特別な存在であることを証明している。 彼の名は『駆ける黒猫』将門伸暁(ID:nBNE000006)。今だけでなく過去を、さらには未来をも視る力を持つフォーチュナと呼ばれる者の1人である。 「さて、今回君達に打ち倒してもらいたいのは、朱色の魔女、だ」 聞き慣れない単語に怪訝な表情を見せるリベリスタ達をよそに、スクリーンに次々とウインドウが展開され、詳細が表示されていく。 最近、女子学生の間に“朱色の魔女”という都市伝説が広まっているらしい。曰く、その魔女に頼めばどんな願い事でも叶えてくれるという。 「とはいえ、そんな都合のいい話は無いのが世の常だ。魔女の正体はフェーズ2のエリューション・フォース。 人の願いを喰らう化け物だよ」 魔女が住まうのは、とある都市の郊外にある森。そこには戦時中、防空壕として使用されていた地下室がある。そこを根城に、件の魔女は噂を聞きつけてやってきた一般人を儀式と称して襲っているらしい。 「地下室内部はかなりの空間があるから、戦闘に困ることはない。さて、次は魔女の能力についてだ」 新たなウインドウがスクリーン上に表示される。 魔女の攻撃手段は自らの血液を飛ばす遠距離攻撃。また、接近戦においては相手の血液を吸収する攻撃手段も持っている。 前者には燃焼効果が、後者には体力回復効果が付加されており、長期戦になると危険だろう。 「次に、配下の能力」 伸暁のフィンガースナップが小気味良い音をたてると、スクリーン上のウインドウがすぐさま切り替わる。 魔女に使役される配下は、犠牲となった女性達の亡骸。動きは緩慢で攻撃には魔女と同じく燃焼効果があるものの、近距離で掴みかかるだけの単純なものだ。 配下の総数は二体で、魔女を守るように立ち塞がっている。ただし魔女自身は配下に別段思い入れはないらしく、平気で自分の盾として使うこともあるようだ。 「ま、情報はこれくらいか」 伸暁の操作でスクリーン上のウインドウが次々と消え、淡泊なデスクトップ画面だけが残る。 「後は君達次第。良い結果を待ってるぜ」 伸暁は素っ気なくそう言うと、踵を返して部屋を後にしようとして、 「……ああ。一つだけ、忘れていた」 振り返ることなくぽつりと、呟くように言葉を紡ぐ。 ――あんな胸クソ悪いモノを見せつけられたのは久しぶりだ。徹底的に、やってくれ。 集まったリベリスタ達が力強く頷いたのは、言うまでもない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:力水 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月25日(月)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●招かれざる訪問者 夜闇に黒く染まった森の中、歩みを進める八人のリベリスタ達の前に粗末な建屋が姿を現していた。恐らくはこれが地下への入口なのだろう。 「地下……ですか、いかにもな魔女さんの居城……ですね……」 『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)が足を踏み入れた建屋の中には、奈落へ誘うように地下への螺旋階段が口を開けている。その不気味さに怯えたような表情を見せていた遠子だったが、小さく発せられた依頼内容の復唱が彼女を変容させる。 「敵エリューション・フォース『朱色の魔女』の撃破――」 「ええ、もう悲劇は起こさせません」 力強く応える『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が心に浮かべたのは、人を守る為に作られたはずの場所で起こった悲劇とその因果。罠や不意打ちを警戒し、慎重に歩を進めていく。 「噂に縋った結果がこれか……自業自得と言えば、それまでなんだろうがな」 しかし放置しておくことも出来ん、と冷静な面持ちで『深闇に舞う白き梟翼』天城・櫻霞(BNE000469)が呟くと、 「ですが、幸せになりたいと願うのは死ななければならない程の罪なのでしょうか」 犠牲者に対して哀悼の意を示すかのように黒い着物を身に纏った『鯨の破片』岩佐 五助(BNE001062)が疑問を呈する。しかし彼女の中にはすでに確固たる思いがある。それは否であると。そして、魔女の打倒こそがそれを証明する手段であると。 そんな五助の思いを感じ取ったのか、『絶対零度の舞姫』アイカ・セルシウス(BNE001503)が鋭く言い放つ。 「エリューションであるなら戦う、そして倒すだけよ。正直どんな奴だろうが興味ないわ」 そうでしょ? と、その切れ長の目が仲間に視線を送り、機械化された足が戦いを求めるように古びた階段を力強く踏み締める。 「人の願いを喰らうモノ……何てーか」 「えげつないねぇ……ま、やる事とすれば、その狂気を止めるだけ、だろうかね」 スゲー胸糞悪いモノも居たモンですね、と『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)は胸の内を表現するように尻尾を動かし、『居場所無き根無し草』レナード・カーマイン(BNE002226)の方はといえば、普段通り冷静に状況を見ているようだ。 そして、各々の思いを抱きつつ進む一行の先に光が見え始める。 歩みを進める『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)の心に刻まれているのは肉親を失った理不尽な運命に対する憤り。 「それだけを道標に生きてきたんだ。他人事じゃねえ」 階段が終わる。そしてその先にあるのは、燃え上がる無数の篝火に照らされた儀式場といくつもの黒い塊。そして、 『貴方達の願いを聞かせて?』 訪れた者達を吟味するように微笑を浮かべた、朱色の魔女。 「叶えたい夢、果たしたい願い。それらを喰う事で力を得たってんなら、ああ上等だぜ理解した」 ――てめえをブッ倒す。てめえは、俺の、敵だ。 魔女の問いに応えるように、この場に集った全員の願いを代弁するかのように、凍夜が吼えた。 ●序 魔女が後退すると同時に、地面に転がっていた黒い塊がぎこちなく起き上がる。かろうじて人の形を保っているそれは、犠牲者の成れの果て。アンデッドと化したそれは魔女の傀儡であり、呻くような声をあげながらリベリスタ達の進攻を阻まんと動き始める。 変わり果てたその姿に顔をしかめるも、レナードはアンデッドの一体へと銃口を向ける。 「は~いはい、アンデッドちゃん、うちのお仲間に御触り禁止よん?」 乾いた破裂音が地下室に響き渡る。放たれた弾丸は吸い込まれるようにアンデッドの腹部を穿つ。その衝撃にアンデッドの動きが一瞬止まるも、すでに痛みすら感じられないのか、暗くくぼんだ目をレナードに向けると再びその歩みを再開させようとする。 しかし、その一瞬の隙を戦いに身を置く者が逃すはずもない。唯々がアンデッドとの距離を一息で詰めると、獲物に喰らい付く狼のように全身から気で編まれた糸を放ち、敵を絡め取る。 「最早ココはイーちゃんさんの領域、逃がさねーですよ?」 全身を覆い隠すほどに絡みついた糸はアンデッドの身体を引き裂かんとばかりに締め付け、その自由を奪う。 「って、イヤ、まだ来たばっかですけどね、うむ」 自分の言葉にツッコミを入れる余裕すら見せる唯々。しかし、その眼は確実に次の標的を探している。 「今はまだ楽しめないわね……。ま、やる事をやるだけよ」 攻撃の流れを止めぬように動いたのはアイカ。すらりと伸びる足から繰り出される蹴撃が真空の刃を生みだし、まだ無傷のアンデッドへと抉り込むように傷を負わせる。傷からは赤みを帯びた血が止めどなく滴り落ち、身体を血で染めつつ地面に赤い水溜まりを作る。 順調に連携が進み、エリューション達へ傷を負わせていく。しかし倒すべき敵にはまだ届いていない。魔女は最奥で微笑みを浮かべたまま静かに佇んでいる。 そして、最初に気付いたのは後衛に位置していたシエル。魔女の腕がゆっくりと持ち上がったのを見逃さなかった。 「魔女が動きます……どうかご注意を……!」 伝達の声が響き、リベリスタ達はその狙う先へ注意を向ける。そして妖艶なその指先が向いた先は、 「私……!?」 伝達を行ったシエル本人だった。身長が低いとはいえ、後衛で宙に留まるその姿は、敵からは否が応にも目につく。 魔女の指先が赤く染まり、血液が意志を持ったかのように溢れ出す。そしてそれは指先で歪な氷柱の形を成していく。 ――シエルの背に緊張が走る。 その時、回避行動に専念しようと身構えた彼女の隣を横切った影があった。二振りの剣を帯び、壁を蹴り天井を駆けるその姿。 戦闘開始後、気配を遮断して身を潜め、魔女の行動を観察し、攻撃の兆候と同時に突撃を計画していた凍夜だった。突然の襲撃者に思わず身構えた魔女の肩を、上空から飛来した彼の持つ小太刀が切り裂いていく。 「余所見すんなよ、あんま油断してっと次は首を飛ばすぜ」 すれ違い様に投げつけられた挑発。鮮やかな赤に彩られた唇を噛み締め、魔女はその標的を凍夜へと変更する。 「いいぜ、来な!」 凍夜のその言葉に応じるように放たれる呪われた血。その向かう先は一見出鱈目のようにも見えたが、 「ちっ……やってくれる!」 壁を蹴り、凍夜が離脱しようとしたその先。凍夜が魔女の先を取ったように魔女もまた凍夜の経路を先読みし、攻撃の射線をそちらに向けていた。飛来した血柱が着弾と共に融解、発火し、炎は凍夜の身体を徐々に蝕む。 その結果を得た魔女の口元が再び微笑の形に歪む。だが、リベリスタ達の攻撃は魔女を打倒するまで途絶えることはない。 「報い、その身で受けて頂きます」 蝶を模した飾り付けがされた簪から取り出した鉄槌を手に、魔女へと迫るのは五助。 対して、魔女は先程の傷口を庇いながら身をよじるようにして回避を試みるが、 「吹っ飛べっ!」 渾身の力が込められた鉄槌の一閃が、魔女の退路を断つように横薙ぎの回転を持って振り抜かれる。 『……!』 威力は回避行動によって半減されたものの、その衝撃は魔女の胸部を穿ち、リベリスタ達のいる方向へ数m吹き飛ばすまでに至った。思わず膝を付き、吐血する魔女。その血液は地に落ちると同時に燃え上がり、彼女の足元を仄暗く照らす。 「何故貴女は、他人の願いを食べるのですか?」 鉄槌を携え、五助は問う。しかし返答はなく、ただ篝火の薪が小さく音をたてただけ。 「……やはり、納得のいく返答は貰えませんか。ならば」 五助は再び鉄槌を構える。 応じるように魔女も血を拭い、立ち上がる。炎を宿したその瞳が、黒衣の下からでもわかるほど赤く燃え上がった。 ●破 戦いはさらに激しさを増し、篝火が映し出す影は刻々とその姿を変化させる。 「死者なんか寄り添わせて趣味悪いったらありゃしないわねん」 レナードの銃剣が火を噴く。魔女はそれをなんなく回避するが、 「双海ちゃん、そっち行ったわよん♪」 「了解ですよ!」 先程の射撃は魔女を誘導させるためのもの。魔女が動いた先には唯々が待ち構え、アンデッドもろとも切り裂かんとステップを刻み、黒糸を構える。 だが魔女は近くにいたアンデッドを引き寄せると、唯々に向かって突き飛ばした。 「わ、っととっ……!?」 「唯々っ!」 後衛からの蹴撃でアンデッドの牽制にあたっていたアイカの声が飛ぶも、思わぬ行動に体勢を崩す唯々。そこへ凍夜が再び魔女へ多角攻撃による奇襲を仕掛ける。 しかし今度こそ魔女はその奇襲を完全に回避した。地面に激突しないように足を踏ん張り衝撃をこらえ、土煙をたてつつも舞い戻り凍夜は気配を遮断する。 「回復の祈りは止まらないし……意地でも止めません……」 シエルの生み出した微風が凍夜を包み込む。体内の魔力を活性化し、全身に循環させているシエルの回復は、身体を蝕む炎を消すことは叶わないものの彼が受けた傷を完全に癒した。 「意外とやりますね、うむ」 魔女に押しつけられたアンデッドを蹴り飛ばし、唯々は身体を起こす。 だがそのままアンデッドを攻撃しようとしたその時、土煙の中から白い腕が伸び、唯々の二の腕を鷲掴みにした。 「あぐっ!?」 服と皮膚を突き破り、その指先が肉に食い込んでくる。自分を吸い取られる感覚に反射的に腕を振り払い、腕の伸びてきた方向へ素早く向き直るとそこには、微笑を浮かべたまま左手を血で赤く染めた魔女の姿があった。 唯々はすぐさま反撃に移ろうとするが、背後から制止するように彼女の肩を掴んだ手によってその行動は阻害される。魔女に気を取られ、アンデッドの存在を失念していたのだ。 徐々に肩にかかる手に力が入っていく。死者の身体とはいえ、その力は楽観視できない。唯々の額に脂汗が滲む。 だが、その手にそれ以上力が入ることはなかった。不思議に思い振り返った唯々が見たものはアンデッドの腕に絡みつく幾本もの――いや、それはすでに全身を絡め取り、その自由を完全に支配していた。 それは蜘蛛の罠にかかった獲物のようでもあり。 「……やらせない」 冷静でありながらも力強い声。極限まで集中力を高めた遠子の気糸がさらにアンデッドを締め上げ、その毒が体力を奪っていく。 そして獲物を捕らえたその罠は、二度目の死を宣告する処刑台へと姿を変える。まるで見えない巨大な手に握り潰されるかのようにその身体が無残に圧縮され、 「撃破、完了」 淡々と戦況を復唱する遠子の声と共に呆気なく四散した。 「やるな……俺も負けてはいられないか」 遠子と同じく、集中力を高次まで向上させた櫻霞が気糸による精密射撃で魔女の太股を正確に撃ち貫く。 「精々耐えてみせろ」 弱点を貫かれ、苦悶の声をあげる魔女。リベリスタ達の狙いにはまだ気付かない。 「さ~さ、おいちゃんのビッグな魔法をバーンっていっくよ~ん♪ 前にいる子達はちょっち離れてちょうだいねん」 一ヵ所に敵を纏め、そこに範囲攻撃を撃ち込む。その狙いを今成就せんとレナードが銃剣を振りかざす。 魔女の眼前に赤い輝きを放つ小さな光球が舞い降りる。彼女がその正体に気付いたのは、光球が一瞬にして膨れあがり、配下もろとも自分を飲み込んだ後。召喚された魔炎は小さな太陽のように輝きを放った後、炸裂する。 「もういっちょ、いくわよん♪」 再びレナードが魔炎を召喚し、止めとばかりに敵を焼き払う。 そして音の反響と陽炎を残して炎が消え失せるも――そこにある影は二つ。 アンデッドはすでに虫の息となっているが、魔女の方は炎による侵蝕も受けているものの未だ健在。だが、確実に手傷を追わせたのも事実だ。 「イーちゃんさんのダンスは少しばかり刺激的なのですよ?」 唯々が陽炎をかき乱すように接近し、手にした黒糸で今度こそ魔女とアンデッドを切り裂いていく。 続けてアイカが体内で無尽蔵に精製されるエネルギーをその身に宿し、魔女へ急接近する。魔女は再び配下を盾にしようと手を伸ばすが、そこにいたのは唯々の攻撃によりすでに事切れた、ただの屍。 「逃がしはしないわ……そこで凍りなさい」 圧倒的な冷気を纏った拳が、魔女の横腹に抉り込むように穿たれる。そしてそこを起点として魔力を持った氷がその身体を覆い尽くしていく。その手応えに思わず笑みをこぼすアイカの背後からはさらに凍夜の攻撃が飛び、傷を負わせていく。 魔女もこのままやられるつもりは毛頭無く、魔氷を砕き割るとシエルに向かって腕を伸ばし、呪われた血を放つ。 「こいつ、まだ……!」 シエルが回避したことを確認すると、櫻霞は伸ばされたその腕に研ぎ澄まされた気糸を撃ち込む。痛みと怒りを綯い交ぜにしたような叫び声を上げ、炎を宿した瞳が櫻霞へと向く。 「こっちに来い。徹底的に潰してやる」 怒気を露わにして、魔女が櫻霞へ迫る。五助とレナードが攻撃を行うがその勢いは止まらない。 そして腕を醜く変貌させ、櫻霞の胸に突き立てようと魔女が左腕を振り上げたその瞬間、櫻霞が二歩、後ろに下がった。 その空いた空間に飛び込んできたのは、獣の因子を宿した少女。 「アンタが願いを喰らうってーなら」 手にした黒糸で左腕を絡め取り、無残に切り裂く。続けざまに右腕、左足を切断すると、 「今度はイーちゃんさんが喰らってやるだけなのですよ、その存在を」 バランスを崩した魔女の胴体を絡め取り、一気に引き裂いた。一寸の間を置いて、赤い血が噴き上がる。 「逆に喰われる立場はどーだったですか?」 唯々の問いに返事はない。魔女はただ宙を見つめ、唇を動かす。それが何を言わんとしていたのかを知る術はもう無い。体中から止めどなく流れる血は地に落ちるたびに燃え上がり、いつしか炎は魔女の全身を覆うまでに大きくなる。 そして。 爆発音と共に魔女の身体が小さく爆ぜた。後には、何も残らない。 ●急 静寂が戻る。 「……えっと、お疲れ様です……」 任務完了を宣言した遠子が普段の口調と表情に戻る。 戦いの後、レナードが作った犠牲者を弔うための簡単な墓に各々が祈りを捧げていた。 「……苦しんだ上で何かに縋りたくなる気持ちは分かるが、その結果がこれか……無念だろうな」 墓を前にして、レナードの言葉が静かに響く。 「次は誰かに縋らなくても、幸せでいられるといいですね……」 五助がそれに応えると、そっと目を伏せた。 「女性は呪い事に頼りたがる傾向にあるって言うけど、こういうのを見るとその気も失せるわね」 アイカが溜息をつきつつ独りごちる。その隣で櫻霞は無言のまま、幻想纏いに薙刀を収納する。墓に目をやると、ただ一言、呟いた。 「運が悪かったな、次はもう少しまともな世界に生まれてこい」 ――この世界は人智を越えた希望と絶望に満ちあふれている。 その行く先は未だ見えない。 なぜならば、彼らの戦いはまだ、始まったばかりなのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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