●回る『彼女』 回る回る。海上からわずかに浮遊し、その女性は回る。 体を覆うのは最低限の衣装。肌を露出させ、扇を手にくるくる回る。 扇情的な踊りだが、それを見学するものは誰もいない。 なぜなら彼女の周りは秒速30mの強風が荒れ狂っているからだ。立つことすら難しく、降り注ぐ雨が視界を防ぐ。奇跡的に彼女の周りだけ風も雨も存在しない。 彼女はゆっくりと東北東にむけて進んでいく。理由はない。ただ気まぐれに踊り、気まぐれに進む。暴風雨という災害を広げながら。 ●天気予報の時間です 「日本の南に現れた台風は東北東に進路を取り、徐々に勢力を拡大しながら間もなく静岡県に上陸の予定です……というのが『万華鏡』の予報だ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の言葉に、怪訝な顔をするリベリスタたち。アークが誇る運命演算機で天気予報とは何してんだ、コイツ。そんな顔である。 「そんな顔で見るなよ。プリティフェイスが台無しだ。 お前達を呼んだのはこの台風が神秘の産物であることがわかったからだ。風を操るアザーバイド。台風の中心にそいつがいる」 ざわめくリベリスタたち。天災を起こすアザーバイドとなれば、その強さは今までのものとは桁が違う。 伸暁はモニターに天気図を映し出す。そして褐色の肌をした水着同然の服を着た女性の姿。これがアザーバイドなのだろう。だろう、というのはどう見てもこちらの世界の人間にしか見えないからだ。直で見ればフェイトの有無で確実に判断が付くのだろうが。 「元々は熱帯低気圧だったものに水蒸気を加えて積乱雲を作製し、台風並のモノにしたらしい。 わかりやすく言えば、ゼロから台風を作ったのではなく、台風の基をいじって台風にした、と思えばいい。とにかく『彼女』自体の能力は台風を大きくすることだ」 どうやら災害を起こすアザーバイド、というわけではないらしい。ほっとするリベリスタたち。 「おいおい、気を抜くなよ。このままこの台風が上陸すればかなりの被害を巻き起こす。ましてやアザーバイドの能力で上陸しても勢力は衰えないときた。上陸前に叩き潰す必要がある。海上でな」 海上? 台風が近づいているのに船だ出すんですか? 唖然とするリベリスタたちの視線をクールに受け流し、伸暁は言う。 「アザーバイドは三体の風のエリューション・エレメントを連れている。こいつ等は風の刃で攻撃したり、アザーバイドをかばったりする。健気なボウイだと思わないかい? あと戦場となるお前達が乗る船だが、かなり揺れるが計算上は台風下でも耐えれる。『彼女』の近くは台風の目状態で風が収まるから、戦闘には支障がない。きっとな」 計算上は、とか。きっと、とか。不安をあおる言葉をさらりと言い放つ黒猫。 万能の運命演算機でそれくらい予測してくれよ。皆が浮かべた表情は、そんな顔だった。 「ああ、大事なことを忘れてた」 伸暁は指を鳴らし、モニター上のアザーバイドを見た。リベリスタの視線もそちらを向く。 「『彼女』の名前はジェーンだ。情熱的な名前だろう?」 あー、はいはい。皆が浮かべた表情は、そんな顔だった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月21日(水)22:57 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●日本を離れ、嵐の中へ 陸は遠くに。見渡す限りは海ばかり。 吹き荒れる突風は船を揺らし、そして波も下から突き上げるように船に衝撃を加える。 風速はもう秒速二十メートルを超えて、今なお加速中。そんな海に、文字通り嵐の中の小船があった。 台風が近づく中、船を出すのは自殺行為である。如何に身体能力に優れたリベリスタでも無茶にもほどがある。 しかしやらざるを得まい事情がある。その台風が自然のものではなく、異界の存在が関係しているとあらば。 「台風は面倒だな。……だが自然現象ならまだしも、アザーバイドが関わっているなら話は別だ」 などと『あおいの』司馬 鷲祐(BNE000288)を始め、リベリスタたちは気合を入れて乗船したものの……。 「台風に向けて船を進めるとか冗談じゃ無いわ! 死ぬ、死ぬー!?」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は船に命綱をくくりつけて、柱にしがみつきながら叫んでいた。大きく沈んだかと思うと、真上に強くたたき上げられる。巨大な手が船を直接掴んでシェイクしているような感覚。時々みしみしと船がきしむ音がして、恐怖感がさらに増す。 (揺れる……揺れる……! でも大丈夫。将門さんは大丈夫といってたから……!) 自らの武器でもあり、そして大好きな音楽を奏でるための愛器である龍笛の手入れをしながら、『魔曲の奏者』宮代・紅葉(BNE002726)は振動に耐えていた。表面を磨き、音を調節する。なれた作業が平常心を取り戻していく。 「ハーッハッハッハ!! 嵐の海は大荒れじゃのぅ~♪」 そんな荒れ狂う船の中、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は余裕の態度で船の中を歩いていた。優れたバランス感覚がゆれの中でも平衡を保ち、五感以外の感覚で嵐の流れを予測している。非戦闘スキル大活躍。スキルポイント割り振ってよかったー。そう思える瞬間である。 そして揺れも徐々に収まっていく。台風の中心に近づいている証拠だ。そうなればリベリスタたちにも余裕が生まれる。漸く『悪天候』のレベルまで下がった荒れ具合の中、甲板にたつリベリスタもいる。 「この悪天候でよりにもよって、船の上かよ……」 めんどくせぇ、と頭をかきながら『深闇を歩む者』鷹司・魁斗(BNE001460)がタバコに火をつけて眼帯で覆われていない目で遠くを見る。船が揺れるたびにアクセサリーがジャラジャラと鳴った。フォーチュナが示した方角に、目を凝らせば何か動くものが見える。 「台風だろうが立ちふさがるのなら潰す」 風に飛ばされないように赤い帽子を抑えながら、『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)は遠くを睨む。その剣は敵を打ち砕く為のもの。異界の存在であれ、台風のエネルギー源であれ、倒すのみ。 「異界の踊り子っスか。どんな風に舞うのか、興味あるっスね」 アザーバイドが近づき、その動きが目視できるようになれば『小さな侵食者』 リル・リトル・リトル(BNE001146)はその動きに刮目する。音楽はないが、一定のリズムで回転しながら身体を動かす。その四肢が、指先が、姿勢が、表情が、何かを表現し見る人を魅了する。 リルは動きを観察しながら、アザーバイドの心を探る。相手の言葉はわからないけど、踊り子のリズムは理解できるし、とても楽しそうに踊っていることはなんとなくわかる。悪意なく、しかし災害をもたらすアザーバイド。 「スリーサイズは上から85、57、86と見たのじゃ」 瑠琵は遠目からアザーバイドを見てそんなことを判断する。踊り子の服はよくわかって楽ちんじゃ、とか。あの揺れ具合からして88はない、とかそんなことを呟きながら。 ジェーン――伸暁がつけた名前だが。彼女は船を見つけると興味を得たかのように踊りながら近づいてくる。徐々に収まる風と波。向けられた笑顔は、このまま何もしなければ見逃してくれそうな、そんな友好的な笑み。 しかしリベリスタたちはその笑みに対して幻想纏いから各々の武器をダウンロードし、その手に構える。 ジェーンの笑みは変わらない。ただ踊りのステップが激しくなり、共に連れていたEエレメントがジェーンを守るように動き出す。 「み、皆さん。いきますよ!」 七布施・三千(BNE000346)が聖遺物を握り締め、体内のマナを放出する。重力から解放されたリベリスタが、ふわりと中に浮く。 台風の目の中、リベリスタたちの戦いが始まる。 ●空中戦 「行くぞ」 最初に動いたのは鷲祐だ。持ち前の速度を生かし、空に飛ぶ。なれない空中移動のため攻撃はできないが、それでも先手を打って相手の足止めをすることに意味はある。ここで動いておかないとジェーンに船の上まで突撃されそうな展開を察したからだ。 (それなりに美人だな) 接近し、相手の顔を覗き込んで鷲祐は思う。最も『人に似て綺麗なアザーバイドだな』以上の感覚はもてない。人を模したものと、人そのものに抱く感想の違いか。 「自力で飛ぶのは初めてだな。どれ……」 マリーはなれぬ飛行に戸惑いながらも、ジェーンに接近していく。狙いはEエレメント。大剣を持ちながら宙を舞う。踏ん張る足場がないので重心を保たないと剣に振り回されそうだが、慣れれば大丈夫だろう。 「これが飛行か……面白いな」 魁斗はなれない感覚を楽しんでいた。慣れていないからこそ新鮮なのだ。自らの影を身体にまとわせ、そのまま中に浮く。唇を笑みの形に変えて、ジェーンに向かって地を蹴った。 「さぁ、愉しませて貰おうじゃねーか」 「そうッス。楽しくおどるッス!」 リルは片手を挙げてジェーンのほうに突き出すと、挑戦的な笑みを浮かべる。まだまだ拙い踊りだけど、この世界のダンスを見せてやる。心の中でリズムを刻み、テンションを少しずつあげていく。三度ステップを踏んで四度目で甲板からはなれる。さぁ、一緒に踊るッスよ! 「うう、酷い目にあった……コレというのも全部アンタのせいかっ」 今だ揺れから回復しきっていないのか、頭を抑えながらアンナが叫ぶ。戦闘自体は可能なのか、メガネの奥を光らせる。本来彼女は回復役だけど、他の回復役がいることもあって攻撃にでた。けしてジェーンが憎いわけではなく。 グリモワールが淡く光る。光が衝撃となって広がり、アザーバイドとEエレメントを襲う。一瞬で攻め立て、しかし命を奪わない優しい光。その衝撃で動きが鈍ったエレメントもいる。 北斗七星の意匠を施した銃に弾丸を込めた瑠琵が、狙いをさだめる。銃を扱いなれていない手つきだが、彼女は全く意に介さない。放たれた弾丸はジェーンのはるか上空を通過し――式が解放される。弾丸に封じた憑代を媒介に展開される雨雲。冷たく切り刻むような冷たい雨が、アザーバイドたちを冷やしていく。 ジェーンは風のエレメントに守られてダメージはないが、エレメントは徐々にその勢力を失っていく。ジェーンはそんなエレメントの周りで踊ると、エレメントの風の鋭さが増していく。 「まずは風のエレメントを落としましょう」 わずかに空に浮かんだ紅葉が楽器を構えて魔曲を奏でる。音階が四つの属性を束ね、旋律がそれをエレメントに向かって運ぶ。重なることなき四つの属性は目標に着弾すると互いに反するように弾けた。衝撃で震える紅い竜巻。 紅い竜巻が反撃とばかりにジェーンの周りにいる鷲祐とリルに襲い掛かる。不慣れな飛行。防御もままならない状態で強化された風の刃が二人を襲う。鮮血が舞い、服を赤く染めていく。 「大丈夫。その程度の傷ならボクにでも……」 行動を遅らせていた三千が体内のマナを乗せて言葉を放つ。放たれた言葉は優しい歌となり、リベリスタの傷を癒していく。出血を止めるほどではないが、幾分かの傷はこれで癒えた。 ジェーンの踊りは止まらない。軽やかに舞いながら、彼女はリベリスタたちに笑顔を見せていた。 ●風の踊り子 空中での戦いは普段より大きなダメージの応酬となった。 覚醒者とはいえ元は人間である。そして戦い方のベースも基本的には人の格闘技かそれの派生となる。つまり大地を踏みしめ、身体を支えることが基本になる。空中では自らを安定させる足場がない。当てることも避けることも困難だ。 火力はアーティファクトに依存するが、防御はそうも行かない。相手の攻撃を踏みしめて耐えようにもそれができない。結果、防御は激減することになる。 無論それはアザーバイドであっても変わらない。もとより防具に類するものをもっていないEエレメントもまた、リベリスタの攻撃により激しく傷ついていた。 ジェーンの扇が舞う。生まれた風は触れたものの体力を奪う颶風になる。ジェーンの直線状にいたリベリスタたちは脱力感で武器を落としそうになる。散開もしくは包囲陣形を取っていれば被害はもう少し抑えられただろうか。思いはするが、いまさら陣形を整える余裕はない。 「本当、鬱陶しいな」 魁斗はジェーンをかばう風のエリューションの一体を倒し、そう呟いた。三体いる風のEエレメントのどれかが必ずジェーンをかばっているのだ。、鬱陶しいことこの上ない。前衛全員を疲弊させている原因は間違いなく複数攻撃を持っているジェーンなのだ。早く倒さないと、前衛のダメージは積み重なっていくばかりだ。 「追い込むぞ」 マリーはオーラを高め身体能力を上げる。パワーではなくスピードを優先して上げ、連続で風のエリューションに剣を叩き込む。ジェーンを庇い続けたエリューションがその色を失い、空気に溶けて得る。 「今ならいけるか」 鷲祐は跳躍してジェーンの真上を位置取り、落下するように降下して二本のナイフでジェーンを裂く。跳躍から攻撃までコンマ五秒。自然で、かつ高速な動き。あまりの動きに苦痛に顔をゆがめるジェーン。しかし踊りは止まらない。 「リルの踊りも見てほしいッス」 黒いオーラをを立体化し、踊るように身を捻らせながらリルがアザーバイドに迫る。踊るように空中で回転すれば、それにあわせてオーラも回転する。その回転、まさに風車。遠心力を乗せた一撃が、アザーバイドの頭部を打つ。脳に相当する部分に衝撃を与えたのか、その動きが少しだけ止まる。 お返しにとばかりにジェーンが扇を振りかざして風を呼び、残った一体のエリューション・エレメントが鷲祐を切り裂いた。 「あわわわ。回復が間に合いません……っ」 「わかった。私も回復に回るわ」 「うむ、わらわも出るぞ」 ジェーンの持つ本来の火力もあるが、空中戦は防御を捨てた戦いになる。三千一人の回復ではとても追いつかない。神聖な光を放ってエリューションを攻撃していたアンナが回復の歌を奏で、瑠琵が船を蹴って空を飛び、魁斗の傷口に符を張る。 紅葉が魔曲を奏で、エリューション・エレメントに魔力を叩き込む。赤、緑、青、橙の四色が爆ぜて歪んだ風を空気に戻す。その空気もジェーンの起こす上昇気流に乗って消えた。 「さあ、前奏は終わりです……これからが本番。わたくしの演奏、お聴きになって下さい」 紅葉がジェーンを見上げて言う。それに応じるようにジェーンは微笑み、踊り始めた。 ●踊りの終局 ジェーンが踊るたびに血が舞う。彼女の起こす風が、リベリスタたちを傷つける。 最初に力尽きたのは、神秘に対抗する力の薄いリルだった。ジェーンの風を受けて意識を失い、 「まだまだッス!」 途切れそうなリズムを運命を削ってつなぎとめる。異界の踊り子と踊れる機会なんてめったにない。こんなところで力尽きるなんてもったいない。その心意気がリルの踊りを止めずにいた。 「さて……」 マリーは大剣を構え、オーラを雷に変換する。湿度の高い空気と電気が反応していつもより大きな音が起きた。稲妻を帯びた一撃がジェーンを襲う。大上段から振り下ろす一撃はまさに落雷。唯一直線に突っ込む動きは、まさに迅雷。 「台風を止めるぞ」 制御できない電力がマリー自身の肉体を傷つける。しかしそれ以上のダメージをジェーンに与えていた。 「迷惑だ。回って遊びたいならもっと上の次元でやれ」 鷲祐は左右のナイフを繰り出しながら、ジェーンに悪態をついた。ジェーンが移動するだけで天災を広げることになる。ジェーンの遊びで誰かが死ぬのは寝覚めが悪い。 アザーバイドに悪意があるかどうかはわからない。なぜ最下層のチャンネルにこのアザーバイドが現れたのかもわからない。そんな事情は知ったことではない。いえることは唯一つ。 「もう一度言う。遊びは他所でやれ」 鷲祐の最大の武器は速度。相手より先に動き、機転を制してその速度のままナイフを振るう。拙速を尊ぶ。シンプルゆえに崩れない戦術。それは今回もまた崩れずにジェーンを押している。 「――手の中の小人。輪となって踊れ」 紅葉の体内のマナが手のひらに集まり、奏でる旋律が渦を巻いて四つのマナを束ねていく。優しい旋律と、激しい一撃。踊り子でもありアザーバイドでもあるジェーンに響いたのは果たしてどちらか? 黒い肌から出血し、毒に侵食された証である痣を払う術はジェーンにはない。 それでも彼女は回る。おそらく命尽きるまで。その扇がリルのほうを向く。 「チッ、手間かけさせんじゃねーよっ!」 立ち上がったばかりのリルを魁斗が庇う。ジェーンの起こした風は魁斗の体力を削る。意識を失った魁斗がふわり、と羽根のようにゆっくりと甲板のほうに落下していく。 「魁斗さんっ!」 「バーカ。心配してる暇があったら一発イけ! あと少しだ!」 その指摘は正しいのだろう。ジェーンの表情は変わらないが、そのステップは戦闘開始時に比べて確かに鈍っていた。 「しかしはた迷惑なアザーバイドじゃのぅ。 ――そりゃ、こっちじゃ」 瑠琵は手にした『天元・七星公主』のリボルバーを外し、弾丸を入れる。弾丸そのものは符術に使う道具。弾丸が44口径という規格外の銃口から撃ち出されれば、陰陽の術式に則り一匹の鴉になってジェーンを穿つ。扇の矛先が、瑠琵のほうをむいた。 「半月早く現れてたら福利厚生が中止になるところだったのじゃ」 瑠琵は体力は低いが、神秘に抗する術は現在の前衛の中では一番高い。彼女にジェーンの意識がむいたことは、戦略上有利になった。ジェーンの攻撃が瑠琵に向いている隙に、体勢を立て直せるからだ。 「今のうちにみんなを癒します……っ」 「そうね。あと少しよ」 三千とアンナが自らの体内に存在するマナを放出する。目に見えないマナの旋律は、リベリスタの身体に深く染み入りその傷を癒していく。完全回復には遠いが、それでもジェーンの攻撃を凌ぐには充分な活力だ。 「踊って踊って、踊り子らしく、死ぬまで一緒に踊り抜いてみせるっス。 ――Let's Dancing!」 リルが一緒に踊るようにジェーンの周りで回転し、回転にあわせるように動いた黒のオーラでジェーンを殴打する。ジェーンのステップが小刻みになり、そして止まる。そのまま彼女は重力に逆らうことなく海に落下していった。 ●台風情報をお送りします。 「皆さん、大丈夫ですかっ」 三千が降りてきたリベリスタの傷具合を確認する。かなり傷が深い人もいるが、まだ治療できる範囲だ。安堵のため息をつく。 「だから大したことねーって言ってるだろうが」 魁斗の傷もたいした怪我ではない。悪態をつきながらも、しかし身体を動かすと危ないのは自分でもわかっている。甲板の上で扉に背を預けながら、紫煙を吹かしていた。 リルは海に落ちたジェーンを回収する。ジェーンの装備を回収し、異界の踊りを再現する為に。一緒に踊ったあのリズムは、身にしみて覚えている。最も風を起こすことはできそうにないが。 胸と腰を最低限しか覆っていない踊り子の衣装。男であるリルがこれを切るとどうなるのだろうか? いやしかしリルの見た目はかわいい少女。いけるのか……? そんなことを誰かが思ったとか思わなかったとか。 紅葉は空を見上げる。ジェーンが倒れた後は晴れ渡る空―― 「台風まで育ったモノは神秘でも何でもないのじゃよなぁ」 瑠琵は少しずつ強くなる雨風をかんじながら呟く。 秋葉の視界には晴れ渡る空なんてなく、どんよりとした雲が広がっていた。 「え? ちょっと待って、冗談でしょう……?」 「……まぁ、台風を活性化していたジェーンは倒した。いずれ勢力を失い低気圧に戻るだろう。 いずれは」 アンナが顔を青くし、鷲祐が諦めたように船室に戻る。 少しずつ勢力を弱めているが、しかし台風は台風である。その中心に浮かぶ船一つ。 「計算上、船は無事なようだが。不測の事態ということもあろう」 「やめてよっ。不安をあおるようなこと言わないでっ!」 「覚悟を決めて嵐に再突入なのじゃー♪」 そして荒れ始める海。揺れ始める船。 リベリスタたちの帰路は、激しいものとなったことだけを記して置く。 『台風情報です。 台風○○号は進路を東北東に進みながら急速に勢力を弱め、明日の朝には温帯性低気圧に変わる見込みです。中心の気圧は……』 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|