●山奥に潜む恐怖 ある時、キノコは思った。 動物の様に自ら動き、自分が快適な土地に移動したいと。 その日からキノコは静かに観察を始めた。 森に居る動物達は足を、或いは羽を持っている。 動物達の餌になる虫達も同様だ。 あんな足が欲しい。あんな羽が欲しい。 キノコは静かに願い続けていた。 そして、唐突に変化が訪れた。 自分を増やす事で仮初ながら足を手に入れた。 動き回ってさらに動物達を観察し、敵を殺す方法を覚えた。 覚えた事で直ぐに身体が変化して敵を殺す為の方法が実践できた。 敵を殺すと残った肉に胞子を振りかけた。 すると見る見る内に自分が増えた。 どういう訳か、爆発してしまう自分も居るが些細な事だ。 楽しい。 物を覚える事は、敵を殺す事はとても楽しい。 そして何より、自分が増えるのがとてもとても楽しい。 キノコは考えた。考えて楽しいと思う事をもっとしようと思った。 そして思いついた。 ニンゲンと言う動物は数が多い。きっと、沢山殺せるだろう。 その日から、山にキノコで出来た動物の様な物が徘徊するようになった。 ●ブリーフィング 「お疲れ様です。新しい仕事です」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を出迎えたのはどこかの軍隊式と思われる敬礼のまま微動だにしない『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)だ。 「今回は、ちょっと早いですが茸狩りに行ってもらいます」 モニターに移るのはシルエットこそは動物や人、鳥だが身体にびっしりと茸を貼り付けた異形。何処と無くはるか昔のSF小説を思い出す。 「仮称としてファンガスと名づけました。死体を苗床として、また茸そのものが集合して動き出した存在です」 茸狩り。 確かに名称としてはあっては居るが、意味が大分違うような…… 「猿型が20、鳥型が5、人型が3体。合計28体が群れています。毒性の胞子を撒き散らす程度ですが、精度の低い情報で申し訳ないのですが自爆する固体も居様です。見た目では区別が付きません。数が多い点と会わせて非常に厄介です」 和泉は可能な限りモニターを見ないようにしている。確かに、人の形をしたキノコの集合体はグロテスクだ。 「エリューションを討伐すれば胞子自体が消滅すると言う事が解っていますので、討伐が完了すれば再発生は食い止められます。危険な任務ですが、宜しくお願いします」 びしっと再度敬礼し、彼女はリベリスタ達を見送る。 さあ、仕事の時間だ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:久保石心斎 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月27日(火)21:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●結界の中の死地 蕩けそうな程に甘い香りがする。 どんなに腕の良いパティシエでも作る事は出来ない、甘い甘い香りがリベリスタ達の鼻腔に潜り込む。 それは魂の腐臭。 いや、意思を持つ植物に魂と言う物があるのならば、と言う仮定の上でだが。 『下策士』門真 螢衣(BNE001036) の進言で風上からファンガス達に近づいたリベリスタ達を出迎えたのは、そんな甘い香りだった。 ファンガスが放つ芳香は、その残酷な性質に似合わない程に良い物である。まぁ、甘いもの が苦手な者には辛いだろうが。 ファンガスの動きは緩慢だ。ゆらゆらと揺れるように甘い芳香を撒き散らしながら山を下っている。 町にでも辿り付けば、街一つをキノコに変える程度には繁殖力は高い。 「接触する」 強結界を張った『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が呟き目を閉じた。 植物に対する共感能力を使ったのだ。雷音の脳裏に28体のファンガス達の意思が流れ込んでくる。 それは酷く原始的な欲求の塊だった。 増えたいと言う繁殖欲。これは解る。 だがそれ以上に殺したいと言う殺戮欲求が強い。 生き物を殺したい、殺して増えたい。その歪んだ意思が一種の集合精神となっているのだ。 「敵意、の塊、しかたない」 目を開いて呟く。 雷音はその集合精神を敵意と評す。 確かに、自分以外の生き物を全て敵に回す意識は敵意と言うのに相応しい。 強結界の効果が現れたのか、周囲から動物の気配も消えた。頃合だろう。 「……おん・きりきり・ばさら・ばさり・ぶりつ・まんだまんだ・うんぱった……」 螢衣の真言と共に作り出された守護結界を身に纏い、前衛を勤める『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763) が集中し己の反応速度と肉体の硬化を施す。 義弘と共に前衛を勤める『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)が地形確認の為に覗いていた双眼鏡を懐にしまい込むと十字の加護を付与していく。 「食の邪魔をする存在は消えてなくなるといいわ!」 『ソードミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329) の言葉と共に、リベリスタ達はキノコの群れに突撃した。 ●猛毒の園 「合わせてください……3、2、1、GO!」 胞子対策にレインコートを隙無く着込んだ『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が先制の閃光を放つ。 最前衛の位置に居た猿型と人型の一体、空中に飛び出した鳥型を聖なる光で包み込み一時的に動きを止める。 しかし動けなくなった猿型が味方や山の木々を蹴って飛びかかる。 「猿とキジと人ですか、まるで猛毒のキノコ桃太郎ですね」 それを陣形の中側に控えた『シャーマニックプリンセス』緋袴 雅(BNE001966)が握る軽機関銃の魔弾が叩き落す。 それでも猿型は近づいてくる。ゾンビの様な動きながら妙なすばしっこさを見て嫌悪の眼差しを浮かべながら義弘がメイスに力を一杯に込めて吹き飛ばし、智夫が放つ聖なる閃光がそれを支援する。 「くそ、痛みがねぇのか足が止まんねぇ!」 義弘の一言は弱音では無い。 一時的なショックで動きが止まっても数に物を言わせ動きの止まっていない固体達が前に出る。 その固体達も腕や足を殴り斬り飛ばされ、或いは打ち抜かれてもそれらしい形が少しでも残っていれば這いずり、或いはより動きを遅くしながら突き進んでくるのだ。 先ほどの言葉はその注意喚起なのだ。 「來來、氷雨 キノコが寒さに弱いとよいのだが」 雷音が鳥型の頭を抑えるべく呪術の雨を降らせる。雨粒が氷の弾丸に変じ後衛に突撃してくる鳥型を打ち抜く。巻き込まれた猿型も数多いがファンガスは気にしていない様だ。 小さく唸った雷音の目前を普通よりも一回り大きい烏が横切り、今まさに雷音を襲おうとしていた鳥型を貫く。 螢衣の放った式だ。どうやら残心が過ぎたらしい。雷音は自分を戒めると戦場に視線を移す。 同時に、目を焼きそうな電光が猿達を黒こげにするのが見えた。 ソラの魔術だろう。彼女の美味しいキノコが食べたいのに!と言う怒りと欲望が電撃に変わり次々と猿と人を巻き込んで行く。 黒こげだがまだ動けそうな固体を『テクノパティシエ』如月・達哉(BNE001662) が止めを刺してゆく。 急所と言う部分は解らないが、キノコ同士の結合が緩めば細かい狙いの攻撃でも破壊できる。 達也の放つ気の糸はそうやってキノコ達をし止めるのだ。 「鳥が一体抜けたよ」 動きを先読みして居ながら前に出てきた人型を切り結んでいた義弘と次の雷を放つ為の準備をしていたソラに変わり、智夫が叫ぶ。 雷音の放った氷雨の呪術を凌いだ鳥型が後衛を狙って飛び出したのだ。 「神の刃を持って打ち払やん、斬り裂けっ!」 それを雅が迎撃する。全身のエネルギーを集中した銃把が飛び出した鳥型を叩き落した。死体の確認をせず振りぬいた銃を引き戻し、新たな猿型に向けて機関銃弾を連射する。 うっそりと、鳥型の死体は笑った様に見えたのに気づいたのは人知を超えた直観力を持つ義弘とソラの二人。 「そいつ!」 「自爆型固体!」 二人が言い放った直後、それは爆発した。 ファンガスの体表の白いキノコとは違いその胞子は紫色をしている。それを急激に燃焼させ、衝撃波を伴い撒き散らし殺傷する。 自爆型と呼んでいる見た目では変わらない形のファンガスが持つ特殊能力だ。 リベリスタの陣形の中心近くで爆発したその威力は、陣形を形成している全ての人物を叩き潰さんと襲い掛かる。 殆ど不意打ち、いや並外れた直観力を持つ二人だけは気づいてはいたがそれでも防御は間に合わない。 大きな打撃を受けながら、それでもリベリスタ達は倒れ付す事は無かった。 後衛の術師でも超人とも言える耐久度と防御力を持っているのだ。何より、ファンガスの爆発の威力は一般人はともかく、リベリスタならば駆け出しでも耐え切れる。 もっとも、何発も喰らえば別だが。 だが。 この爆発には猛毒の胞子が含まれている。爆発では駄目でも毒でじわじわと締め付けてくるのだ。 「甘い香りが嫌になりますね。おん・ころころせんだり・まとげいに・そわか……」 螢衣がファンガスの自爆でさらに濃密になった甘い香りに悪態を付きながら真言を唱える。 呪を込めた符を爆風の被害が最も大きかったレイチェルに張りつければ、淡い光が自爆で負ったダメージを多少なりとも癒した。 「ありがとうございます。残り13体、順調ですからもう一分張りです」 ふら付きながらもどうにか倒れこまずに居たレイチェルの言葉に螢衣は頷きを返す。 敵はほぼ半減、自爆型の固体が残り何体かは解らないがそれでも確実に数を減らしている。 「戦いが終わったら、僕が混ぜご飯を作ってやるよ。マツタケ入りでな!」 朗々と祝福の聖歌を謳い上げてから達也が宣言する。 食事と言う解り易いご褒美を置く事で、萎えかけた戦意を維持する。 その言葉と傷を癒された事により、キノコ料理を期待していた何人かは目を輝かせた。 食欲と言うのは人間と生き物の端的な欲求であり、満たされるのは誰しも幸福なのだ。それは異種族になってしまっても変わらない。 「アフロになりそうになった恨みをぶつけてやるわ!!」 マツタケ効果と、自爆によって髪型をアフロにされかけた怒りを込めてソラがバチバチと音を立てる電撃を開放した。 怒りの効果か、放った本人でさえ驚く程に強力な雷がソラの指先から放たれる。 その雷は音を超えてファンガス達を打ち据える。 比較的耐久度に優れる人型を巻き込みながら、猿型と鳥型を炭の塊へと変えた。 「さっきので毒が回った奴が居るな……」 「じゃあ、僕が抑えるから義弘さん、宜しく」 前衛二人の短いやりとりが響く。 智夫が防御用の短剣とグリモアールと言う若干不思議な取り合わせの武器を振るい義弘に向かってくる猿型を押し止める。 その間に義弘が一度目を閉じ、再び力を込めて見開くとその全身から聖なる光を放ちリベリスタの身体を蝕もうとする害毒を消し去った。 「あと残りは9匹、油断はしないようにしよう」 雷音の呟きが呪を込めた雨と共に降ってくる。先ほどのソラの雷がごっそりと数を減らした相手を容赦無くグロテスクな氷像に変えてゆく。 その呪雨に打たれ、凍り付き砕け散る事でファンガスはその数をさらに減らした。 「では早々に決着をつけましょう」 弾倉を交換し流れる様な動作で雅が銃弾をばら撒きながら答える。半身を凍りつかせたファンガスに弾丸が叩き込まれ凍っていない部分ごと粉々に打ち砕く。 「うっし! 一気に仕留める!!」 大量の猿型を抜かせない為に、その身に攻撃を受け続けてきた義弘が叫ぶ。 その言葉に頷くとソラの雷が次々とファンガスを黒コゲに変えてゆき、雷音と螢衣が作り出した式の鴉が猛毒のキノコの苗床をその名槍に匹敵する嘴で穿ち貫く。 雅の持つ機関銃が吐き出す鉛の暴力が最期の鳥型の胴体を打ち抜けば、溜まらずに上昇した所をレイチェルの気糸が頭を貫き勢いを反転させ、心臓に当たる部分を穿つ。 最期の足掻きなのか、後衛に向けて突進する猿型を義弘が握るメイスが渾身の力を込めて横殴りに猿型の胴体を叩き飛ばし、智夫の手の中にある本がまた別の猿型の頭部を強烈に打ち据え吹き飛ばす。 「これで終わりだ! エクスプロージョンを使うぞ!! 総員、退避準備!!」 達哉の叫びと共にリベリスタは爆風の影響範囲から離脱する。 それを見届け、達也の脳が発する思考の奔流が猿型と最期に残った人型の中心地点に流し込まれる。 その思考の奔流は物理法則を捻じ曲げ、打ち砕き爆発と言う現象を引き起こす。 圧倒的な思考は敵を打ち砕けるか? 本来ならば無理だろう。だがしかし、リベリスタにはそれだけの力がある。 思考の爆裂は異界の力を受けて歪み、変質したキノコの群れを完膚無きまでに吹き飛ばしたのだ。 ●キノコ狩り終了 ファンガスが砕け散った後は、まるでそれが存在しないかの様にその残骸は塵と消えた。 戦場を包んでいた甘い香りも本来の木や水、土の香りを乗せた秋風に流され消える。 調査通りに結果に、戦いで疲れ果てたリベリスタ達は武器を収める。 「やれやれ、胞子は消えましたけどなんだか落ち着きませんね。早く帰ってシャワーを浴びたいですよ。」 レインコートのフードを降ろし、メガネのズレを直しながらレイチェルが呟く。 胞子対策をとった彼女や螢衣は戦闘と言う激しい運動による発汗で、寧ろ暑苦しい。 「そうですね。さっぱりして達也さんの混ぜご飯を頂きましょう」 マスクを外しながら螢衣が頷く。 「美味しいキノコ、絶対たべるんだ!」 ぐぐっ、と拳を握りこんで力説するソラはこの後のキノコご飯が待ちきれない。 「じゃ、早い所本部に戻ろうぜ」 「その前に手当てをしてからですね」 此方は前衛を勤めた智夫と義弘。良く見れば細かい傷がそれこそ数え切れない程についている。 数が多い分、防御や回避が間に合わない攻撃も多かったのだ。 もっとも重症になる程に良い一撃を貰わなかったのは、流石防御に秀でたクロスイージスか。 「達也さんの料理、うちも手伝いますよ」 「じゃあ今の内に献立考えとくか」 雅と達也はそれぞれ料理が得意なのもあってか献立作りを始めている。 帰りに食材の調達をして買えると言う前提で、キノコご飯を主軸に何が必要か話し合っている様だ。 そうこう言っている内に手当てが終わり、帰路につく。 今回も無事仕事が終わった。 「たくさんのきのこさんを退治しました。皆さんが守ってくれてボクは無事です。きのこさんと、ちょっとだけ仲良くできたらよかったのに」 メールを打っていた雷音は送信ボタンを押すと、慌てて仲間達の後を追うのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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