● 「なんか、変な動き方だよね、台風」 「ねー。昨日は東北に向かったのに、今日は沖縄の方に向かってるらしいよ?」 「その前には、東京直撃か、とか言われてたのに」 「ねー。変な動き方だよねー」 強風に煽らっれる電車の中、振動に揺られながら、男は唇をかみしめた。 どういうことだ、まるで、俺が向かう先向かう先に。 そりゃ、沖縄に向かってるわけじゃない。 北に向かった台風をやり過ごしたくて南下したら、その動きについてきたってだけだ。 ユウマは確信していた。 台風は、俺を追ってきている!! でも、いったいなぜ? ● 「タイフーンを崩す、なんてなかなかドリームにあふれた話だと思わないか?」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の言葉に、リベリスタは首をかしげた。 「なんだ、今回の任務は、台風にでも挑めっていうのか?」 確認を取るように――伸暁なら言いかねないのだ、台風にいどめ、くらいのことは――向けられた言葉に、伸暁は首を左右にふる。 「少し違う。台風の移動経路に影響を与えるアーティファクトが見つかった」 ここ数日のむちゃくちゃな天気予報を思い浮かべ、数人のリベリスタが納得した表情を浮かべる。 飲み込みが早いと助かるね、などと言いながら、伸暁はうれしそうに笑った。 「アーティファクトは、今までずっと封印されていたんだ。 ずーっと昔、江戸も中頃のリベリスタの手によって、とあるテンプルに、ね。 銅鑼馬網(ドラマア)、というそうだよ。 まるで銅鑼のように天を駆け雨を降らせる馬を絡めとるための網、なんだとさ。 形状は、蜘蛛の形の鉄の置物に見えるね。――蜘蛛は動かないから安心してくれ。 こいつを、学術研究のために持ちだした老学者がいたんだが―― その老人から、荷物をくすねた男がいたのさ。それがさっきのみんなに見せた若者さ」 彼は、人から物を盗むことに罪悪感を持っていないという。 幼い頃からゲーム感覚で万引きを繰り返し、その規模が少しずつ大きくなってきただけなのだとか。 「今回の任務はアーティファクトの回収。 強度は見た目のままだから、取り扱いには充分、ビーケアフルだ。 頼むぜ、アークのヒーローたち」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月24日(土)23:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)がやや残念そうな顔を浮かべていた。 彼女は今回の件について、前もってアークからの根回しして貰えるよう申請していたのだ。 一応出来るだけ検討はしてくれたらしいが、やはり警察機構の殆どが世界の裏側を知らない以上、流石に無理があるとの通達は、乗車直前に受けたところだ。 「まだ本気を出すときじゃない! 頑張らない程度に、楽に、りらーっくす」 そんな言葉の通り肩の力を抜いて、凪沙の肩を叩く『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)だが、しかし視線はしっかりと車内を見回していた。 彼女は探索に役立つ技術の類を持っていない。だからこそ丁寧な探索を心がけているのだ。 「あの子ったらどこにいるのかしらぁん」 友達を探しているように、を心がけてをわざとそんな言葉を呟きつつ、乗客の顔を順に確認しているのは『メタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)。 なるほど、電車内で知り合いを探す乗客は確かに時々見かける存在だ。 お陰で彼女が一人一人の顔を確認しても――面倒そうな顔をされる事はあるのだが――不信がられることは無かった。 「……」 じっくり着実な探し方の二人とは逆に『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)は乗客に疑われない様にさり気なく行動する事に重きを置き、無言で、ゆっくりと人の影やドアの前などの目立たない所を回って進んでいた。 ポケットに入れられた手には携帯電話。もう一方の班への迅速に連絡を行う為だ。 リベリスタ達は2班に別れて行動していた。 それぞれ先頭車両と最後尾車両からシラミ潰しにユウマを探して進む、ローラー作戦なのだ。 そして彼らは最後尾車両から進行方向へと進むA班。 ちなみに、あは~ん、と読むらしい。 『ん~、なんか変な熱源がある……かな』 情報の共は、ハイテレパスによって情報の共有を出来る凪沙が中心になって行われている。 彼女から視認できる限り、4人のリベリスタは声に出した会話をする必要も無く、お互いに近づく必要すらなく情報を共有できる。 また凪沙は更に熱探知の業を操り、目視だけでは確認できない箇所の探査を担っていた。指摘された熱源を確認するべく、窓の外の嵐を見る風を装い背伸びをした牙緑が、手前の乗客で死角になっている奥の座椅子を覗き込む。 『……何か落し物を探して屈んでただけみたいだ。背広のおじさんだし、ユウマじゃないよ』 牙緑からの報告が凪沙に届き、凪沙がそれを即座に残りの2人に伝える。 『個室に入ってるのもユウマじゃないわぁん。 わざわざノックに返事してくれた声からして、幼稚園児位の男の子だものぉん』 少し先行し、トイレの個室を確認をしたステイシーからもそんな報告が届く。 『ええと~。あたしには他にはもう特に見えてないよ』 報告を受けた凪沙がもうこの車両に怪しい人物や熱源は無い事を全員に伝える。 牙緑が携帯でB班へメールし、A班の面々は少しずつタイミングをズラして次の車両へと向かう。 まだ一両目。 探索は始まったばかりなのだ。 ● B班の面々がいるのは2両目の車両。 『先頭車両で発見できなかったことを報告しました。最後尾の車両にも居なかったそうです』 凪沙と同じくハイテレパスを操る『優しき白』雛月 雪菜(BNE002865)が、2両目の扉の前で仲間達にA班からの報告を伝える。 『ざっと見ましたけど、挙動不審な人は今の所見当たりませんね』 先行して車両の逆端まで進んでいた『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)がそう報告する。家出少女をイメージし少し不良っぽい格好をしている彼女は、その服装ゆえに多少無理に急いで進んでも違和感が無いのかほとんど不信がられないようであり――自然と、先陣を切って全体をざっと確認する役割を担っていた。 またそれには『大人役』である雪白 万葉(BNE000195)と距離を置くという意図もある。 「切符を拝見させて頂きたく……」 一方の万葉は一体どうやって調達したのやら、車掌服を着込んで車掌に扮しm怪しまれないよう時折切符の確認を要求している。もっとも、彼が見ているのは切符などではなく男性乗客の手荷物だ。 透視の目を持つ万葉の前では、全ての荷物は筒抜けになる。そうしてカレイドシステムが映し出した窃盗犯の顔ではなく、一足飛びに目的の銅鑼馬網を探しているのだ。 「痴漢も驚くちょーせくしー」 大きな荷物を持っている人物を中心に探している『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は、口の中で呟いている通りそのセクシーさで乗客の目を引いていた。 何せニーソックスに半ばまで包まれたそのしなやかな太ももの上は、パーカー。スカートもズボンも視認出来ない。パーカーの下にあるかもしれないがしかし、ひょっとしたら無いのかもしれない。 それどころか、事前に仲間によって注意され、渋々チャックを上まで上げたから見えていないだけで、上半身を覆っているのもビキニ型の水着だったりする。 なんというか「B班のせくしー担当はルカなの」と豪語するだけはある服装である。 びっくりだね! いいぞもっとやれ。 ただ、そんな彼女が目立っているお陰で他の3人が注視されない効果もあった。 一両目で本物の車掌と遭遇した際、万葉が隅に隠れただけで気付かれずに済んだのは紛れも無く彼女の存在が起こした功績が半分である。ちなみに残りの半分は、その車掌を捕まえ、遥か先の駅への最速乗換えの手順を懇切丁寧に説明してくれるように求め出したどこかのおばあちゃんの功績だ。 こんな台風の中電車に乗って遠出するくらい根性の座ったおばあちゃん。 喋るのにかける時間は通常の人間の3倍のおばあちゃん。 ありがとう、そしてありがとうおばあちゃん。 ――きっとユウマを見付けるまでは引きとめつけ続けてくれる事だろう。 万葉は内心で名も知らぬ老婆へ感謝を捧げつつ、最後に目を引いた手荷物の透視を完了させた。この車両には無い。そう確信し、雪菜に伝えるべく顔を上げた、その時。 『後ろから3両目でユウマさんが見つかったそうです!』 視線の先、真剣な顔で携帯電話を閉じる雪菜から伝達されたのは、そんな思念だった。 ● 『モラルが欠けてて無賃乗車をしてるような奴、びくびくしてるとバレるから、逆に堂々としてるんじゃないかなって。でも、台風の変な動きを気にしてとても焦ってる』 そう考えて、堂々としていて焦ってる人間を探したら見つけたのだと。 発見者である小梢の(テレパシ-経由の)言葉に、集まったリベリスタ達はなるほどと唸る。 ユウマは平然と出口の脇に立っていたのだ。 流石と言っていいのか、窃盗にも無賃乗車にも慣れているのだろう。出口の脇にたむろしている無関係な乗客を隠れ蓑に車掌の視線をかわし、ドアの窓から台風の様子を落ち着き無く見上げている。 正に小梢の言葉の通りの『堂々としつつかつ焦っている』状態だった。 「ねぇ、アンタも逃げてるんでしょ? アタシも捕まったらヤバイの。ほら、車掌が近くまで来てる!」 唐突にそう声を掛けてきた舞姫に対し、ユウマは先ず怪訝な表情をしたが、一見不良風の少女が指差した先に本当に車掌の姿を見た事で、その表情に焦燥が浮かぶ。 実際にはその車掌は万葉の変装――つまり贋物なのだが、そんな事は彼には分からない。 器用に音も無く前車両からの扉を閉め、車内に静かな声で挨拶と一礼をする彼を前に、小悪党は目の前の不良少女の追及を後回しにしてしまった。 「……ぅえ!?」 何は無くとも先ずはあの車掌の目から隠れなければ。 そう考え遮蔽物として周囲の乗客の状態を確認しようと見回したユウマは、思わず変な声を上げるほど驚き、絶句した。 そりゃあそうだ。気が付けば自分の周囲には不良少女だけでなく…… 色彩こそ地味だがゆったりした服装で、胸の谷間や鎖骨が垣間見える色っぽいお姉さん。 ぼうっとしているが、これまた『ご立派な物』を持っているポニーテールの同世代の女の子。 褐色の肌の太ももが眩しい、フードを被ったパーカー姿の少女。 そして何やら恥かしげに頬を少し染めたおしとやかそうな乙女。 総勢5人の美女美少女の包囲網が完成していたのである。 え、何これ極楽? 冷静な状態なら兎も角、車掌の存在で焦りに焼かれていたユウマの脳みそである。 オーバーヒートを起こすのも無理は無い。多分。 「ちょっときて。いいことしよう、あはーん」 あはーんて。 直球にもほどがある褐色の少女の誘惑に、ユウマの脳が少しだけ冷静さを取り戻す。 が、何時のまにやら大きく開いた胸元を見せ付けるように近づき、見上げ誘惑して来ている不良少女についうっかりドギマギしてまた冷静さを失う。 ポニーテールの子は積極的な誘惑こそしてこないが、何やら怪しい目つきで全身を舐めるように見て来ている。――後になってユウマは、あれは自分の持ち物と隙を狙っていたのだと知るのだが。 挙句色っぽいお姉さんが電車の揺れでバランスを崩し倒れ掛かって来た。手に柔らかい感触。え、なにこれ。思わず握る。え、マシュマロ? 違う、これは…… 「ちょっとぉ、何揉んでるのよぉっ!」 目を釣り上げて怒って来るお姉さんに、それが『触っちゃいけないアレ』だった事を思い知る。 ※尚、アレはアレである。良い子は詳しく聞かないように。 そうこうしている間にも車掌(偽)はゆっくりと、しかし着実に近づいてきている。 焦りと欲望と疑問でもう何が何やら、ユウマの頭はパニック寸前。フットーしそうだよう。 「あ、あの……お、御話があるのですが……少し宜しいでしょうか?」 だから、優しそうで大人しそうな乙女が頑張って意を決したと言った印象の誘いにホイホイ乗ってしまったとして、追い詰められた彼には仕方が無い事だったのだ。 たぶん。 ● そして勿論、即座に後悔する事になったのである。 誘われた先は車内デッキ。狭いその場に先客一人。 結界で人通りを削り、ドアの前に立つ事で乗客の視界とユウマの逃げ道を塞ぐ牙緑だ。 言葉こそないがその表情は明らかに険しく、逃げ道を完璧に『押さえて』いた。 「おうおう、にいちゃん。うちのルカの乳を触っといて、タダですむと思っとるんかのぅ?」 しかも先ほどまで媚態を顔に浮かべ誘惑して来ていた筈の少女が、何時の間にやらサングラスをかけ、別人の様にドスの効いた声で脅しをかけてきている。 その言葉の内容に反射的に先ほどアレを掴んでしまった色っぽい女性の方を見る。がその女性は「違うわよぉん」と手のひらを横に振り、その隣でパーカー少女が「こっちこっち」と挙手していた。 「え、いやそっちの子のは触ってねえってか、寧ろ触りようが無……って違う!」 ノリツッコミで混乱を振り払う。 すっかり囲まれた状態であれば、流石に罠にハメられたことぐらい理解できる。 「……くそっ!」 悪態をつきながら、それでもユウマは諦めない。 それはそうだ。道を塞いでいる牙緑は兎も角、他はみんな女性、もしくは少女。 腕力に物を言わせれば押し通る事は容易いはずだ。 彼はそう考えていた。 ――退かせようと鎖骨の辺りを乱暴に押した雪菜が、ピクリとも動かなかった時まで。 あるいは、驚きの声を上げようとした己の口を横から伸びた舞姫の手が、信じられない腕力で完全に塞いだ時まで。 なんだこいつら、やべぇ。 そう思った。そう気付いた。 それでも、ポケットに画していたナイフを使えば、相手は素手なのだから。 そう思った。だが甘かった。 一般人の振るうナイフなどに本来危険は無い。 だが、修めた古流武術の条件反射と言う奴だろうか。舞姫は思わず回避行動を取った。 手が外れた隙にと、遮二無二に両腕を振り回して走りだし、来た道を逃げ帰ろうとする。 先ほどは巌の様にビクともしなかった筈の雪菜も、何故かスッと横に避け、ユウマを通す。 「……治療も出来ますし、多少なら問題はないかと」 そんな言葉を、新たに入り口に現れたセーラー服姿の少女にかけて。 「どけよお前!ぶち殺すぞ!」 ナイフを振りかざし脅しかけながら突撃する。普通なら悲鳴を上げて逃げるはずだ。普通なら。 だが、その少女は普通ではなかった。 ただのチンピラ見習いであるユウマには知れる筈もない、綺麗な武術の動き。 凪沙の拳は出来うる限りの手加減を心がけつつも、ユウマのアバラを二本、軽くへし折った。 「な、なんなんだよあいつら。なんなんだよ一体……」 次の駅、脇腹から走る激痛に脂汗をダラダラと流しながら、小悪党は必死で出口に向かう。 見覚えのある車掌の横を取りすぎる事になるが、最早そんな事を気にしている余裕も無い。 そもそも盗品は既に先ほどの連中に奪われている。文字通り失うものなど無かった。 無いと思っていた。 「またやったら、今度は二度と出来ないよう腕を落としますよ?」 擦れ違いざまに、その車掌がいやに静かな声で、そう声をかけてくるまでは。 ● 「でも、これから封印するまでは台風はあたしたちを追ってくるんだよね…… しかも、封印できるまで三高平はずっと台風……」 そう呟いたのは、凪沙である。 封印、すぐにできるよね? と確認する彼女に答えるものはいなかった。 誰かが、アーク本部に回収の報告と指示の要求の電話をした。 「……まさか、台風が消えるまで、これを持って北上しろとか言わないですよね?」 そう聞いたのは、舞姫である。 「被害を抑えるために、公共の交通機関は使えないとか言わないですよね?」 駄目押しをしてしまったのも舞姫、本人である。 『なるほど、その手があった』 電話の向こうでそう言った人物については――言及を避ける。 「がっでむ! ああ、やってやるさ。リベリスタの脚力なめんなー!!」 最終的に、ヤケクソの泣き声でそう叫んだのもまた、舞姫、その人である。 ちなみにその時偶然通信を近くで聞いていて『車使えばいいのに』と思いつつ面白そうだから黙って見てた某戦略司令室長がいたとか居なかったとか。 まあ何にせよ。 その後、台風が今までとは一転徹底して順当な順路で北上し消滅したのは、数日後の事である。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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